たご・えいじ 1955年生まれ。いわき市出身。東京農業大学卒。2013年にいわき市森林組合長就任。21年5月から県森林組合連合会代表理事会長を務める。
森林所有者にもう一度、山に目を向けていただけるよう尽力していく
――県産木材の流通状況は。
「原発事故を受けて福島県の森林を再生させる目的から、森林組合系統が一体となり、間伐等の森林整備とその実施に必要な放射性物質対策を一体的に行う『ふくしま森林再生事業』に平成25年度から取り組んできました。
原発事故前の森林整備面積は年間約1万2000㌶ありましたが、原発事故後は6000㌶ほどに半減しました。そうした中、針葉樹は高レベルの汚染地域を除いて樹皮以外の木材を調べた結果、汚染は確認されず、国から出荷制限は出なかったものの、風評などの影響で価格が暴落しました。いまは一定程度価格は戻りましたが、岩手県とともに全国2大生産拠点に位置付けられていたシイタケ原木は未だに出荷できない状況が続いています。
震災前の状況には戻り切っていない面もありますが、林業を生業としている個人・企業は原発事故があっても厳しい規制を受けることなく、年々生産量を戻してきました。広い県土と豊かな森林資源のおかげで、現在は原発事故前を超える素材生産量に戻すことができました。その背景には、林業事業体など関係者の努力もさることながら、終戦後に植林された人工林が充実してきたことが挙げられます。そこに『ふくしま森林再生事業』も重なって、それなりのボリュームの木材が流通ルートに乗ったのだと思います」
――各地で施設も充実しつつあると聞いています。
「田村森林組合では製材工場の規模拡大を進めており、いわき四倉中核工業団地では住友林業を中心とした企業による大型の国産スギ加工工場の建設が始まっています。こうした受け皿が整ってくれば、林業事業体も安定供給に一層努めようとする意識が高まるので、業界全体に良い循環が生まれると期待しています」
――昨年行った「福島県2050年カーボンニュートラルに向けた決意表明」について。
「カーボンニュートラルは排出削減も重要ですが、私個人としては林業事業体という特性上、二酸化炭素の吸収源として健康的な森林資源の整備に取り組むことが重要であり、求められている役割でもあると認識しています。昨年8月に開催した森林組合長会議において、我々森林組合系統が一致団結し適正な森林の整備・管理を通じて森林吸収源対策に取り組むことを確認し、決意表明しました」
――今後注力したい事業は。
「戦後に植林された人工林は、充実してきた一方で高齢木も増えているのが実情です。二酸化炭素の吸収能力は若い木より年をとった木の方が劣ります。収穫期を迎えた森林を伐採し、そこに少花粉や無花粉の苗木を植えて森林資源の循環利用を進めていきたいと思います」
――最後に抱負を。
「材価低迷などにより森林所有者の『山離れ』が深刻です。しかし今後、先程申し上げた田村市やいわき市の製材工場や飯舘村のバイオマス発電所など受け皿が充実すれば、材価が上がり山の資産価値も上がります。川上―川中―川下のつながりを構築し、森林所有者にもう一度、山に目を向けていただけるよう尽力してまいりたいと考えています」