【南会津町】渡部正義町長インタビュー(2024.7月)

【南会津町】渡部正義町長インタビュー(2024.7月)
わたなべ・まさよし 1958年7月生まれ。県立田島高校卒。旧田島町役場入庁後、総合政策課長、総務課長などを歴任。南会津町副町長を経て2022年4月の町長選で初当選を果たした。

 ――急速な円安や原油・資材高騰による物価高が地域経済に影を落としています。

 「物価高は特に所得の少ない世帯への影響が大きく、そのような世帯に対する経済支援を行っています。農業が重要産業である当町からすると、農業資材や肥料の高騰への対応をどのようにするのかを状況を見ながら検討を進めます。今後、農業関係者の意向を踏まえて必要な対策を講じます。町内には自動車部品工場が多く製造業も盛んです。資材高騰の影響は大きく、町担当課職員が事業者に定期的に聞き取りをしながら情勢を把握しています」

 ――子育て・医療・福祉政策の充実、結婚支援対策、若年層の定住対策についてうかがいます。

 「人口減少と若年女性の流出が深刻です。Uターン、Iターン者の定住には、生業となる農業林業が軌道に乗るように制度資金等を使いながら支援しています。特に『南郷トマト』を軸にした営農支援は着実に成果を上げ、非常に底堅いものがあります。

 近年は地元の高校を卒業した後、町外の大学や専門学校などに進む方が多いです。町としてできるのは、地元にどのような企業があり、どのような魅力があるのかを伝えることです。近隣自治体とタイアップして、高校生を対象とした合同就職面接会、合同企業説明会を行っています。

 産業創出については、昨年、福島県がドローンの積雪寒冷実証実験地に当町を選びました。浜通りを拠点に進む『イノベーション・コースト構想』の一環です。

 南会津地方は豪雪地帯です。高速道路からは離れており、交通の便が良いとは言い難く、企業立地についてはハンディキャップを負っています。しかし、研究開発地としてならハンディがプラスに変わる場合もあります。南相馬市にあるロボットテストフィールドは沿岸部のため、冬季の厳しい環境に耐えるドローンを開発する実験には向きません。こうして当町の田島地域にある中学校と舘岩地域にある小学校の跡地が寒冷地用ドローンの実験地になりました。

 ドローンは生活を支えるツールで、特に山間地で威力を発揮します。消防防災面では、行方不明者を捜索したり災害の被害状況を俯瞰できます。農業では、農薬の空中散布や奥まった農地の確認などで効率化を支えます。ドローンの実証実験地選定を機に、製造関連企業を当町に誘致したいと考えています。県と連携を密にし、形になるよう目指しています。

 就任後、結婚支援には力を入れてきました。お見合いイベントに加え、町単独で多種多様な出会いを提供しています。昨年、出会いの場を広げようと『ソトコン』『アロマ婚』『スノーボード恋活』を始めました。多様化する結婚の形態を、支援者にも理解してもらうセミナーも行っています。結婚希望者に行うセミナーでは、自分磨きや好感度アップの講座、メイクアップや会話力アップの講座を用意しています。

 昨年度には、結婚サポート企業制度をつくりました。町内に所在する企業や団体に独身社員の交流を支援する場を設けていただきたい思いからです。企業等と町が一体になって、結婚希望者の仲を取り持っていきます。登録団体が28団体あり、枠組みはできましたので、今後はどのように連携していくかが課題です。

 今年度から、新婚生活事業交付金を始めました。新婚者に現金5万円を交付します。第一には、新たな生活を応援する意味合いがあります。付随して、交付件数が増えれば、町の結婚支援に関するこれまでの取り組みに一定の成果があったと分かりやすい指標になります。あまり増えなければ、施策を検証して、改善につなげる必要があります。

 0~2歳児の保育料は半額助成の制度を始めました。非常に好評です。さらに、これまで分かれていた母子保健と子育て支援の窓口をまとめて、『こども家庭センター』として今年度立ち上げました。妊産婦から思春期の子どもまで、発達段階に合わせてワンストップで対応します。出産前からの支援が必要な特定妊婦、ヤングケアラーといった全ての方に寄り添っていく体制を整えました。保健師、心理士などの専門スタッフが一元的に対応します。町村の取り組みとしては先進的だと評価されています」

 ――関係人口の創出についてどのような取り組みを進めていきますか。

 「スポーツ合宿で関係人口を増やそうと考えています。千葉県船橋市のスポーツ強豪校である市立船橋高校と協定を結んでいます。当町では、以前から埼玉栄高校の駅伝部が合宿をしており、これが下地になりました。企業向けの合宿も呼び込みます。
企業研修はこれまで企業内での座学がメインでしたが、チームで課題解決に取り組む体験型研修が近年のトレンドです。町では『チーム・ビルディング・ツーリズム』と銘打ち、需要を取り込んでいきます。

 『星空誘客』にも力を入れています。住民向けに星空観望会を定期的に開き、自然豊かな町の魅力を再発見してもらっています。星空に詳しくなった住民にガイドになっていただき、宿泊で当町にいらっしゃった方々に解説してほしいと期待しています。このような付加価値の付いたサービスを提供し、宿泊を伴う誘客につなげたいです」

 ――その他の重点事業についてうかがいます。

 「2026年に予定されている八十里越道路の開通が、人の行き来の増加につながると期待しています。同道路は、国道289号を改良し、只見町から新潟県三条市に抜けるルートです。新潟県からのアクセスが良くなると、来訪者が滞在できる町の受け皿が必要になってきます。南郷地域の『道の駅きらら289』を大規模改修する実施設計の予算を今年度の当初予算に計上しています。また、田島地域の中心市街地におけるインバウンド客を見越して、デジタルマップや多言語による情報発信に対応していきます。

 今年度、県指定天然記念物『古町の大イチョウ』がある旧伊南小学校校庭を、約1億1000万円を投じて公園に整備します。伊南地域では、イベントを開く際に広い場所が少なく、トイレが不足しているといった問題がありました。大イチョウを守りつつ、シンボル的な場所に住民が集い、他地域から来訪される方が憩える拠点にしたいです。

 医療体制の整備は喫緊の課題です。伊南地域の開業医が3月で閉業しました。町では、通院していた住民を、南郷地域の開業医や舘岩地域の診療所に送迎しています。いずれは、デマンド交通を含めて地域の公共交通体制を整備し、高齢者の医療、買い物をサポートしていきます」

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