【葛尾村】篠木弘村長インタビュー

【葛尾村】篠木弘村長インタビュー

経歴

しのぎ・ひろし 1951年生まれ。旧県立双葉経営伝習農場卒。葛尾村議、JA福島さくら代表理事復興対策本部長などを経て2016年10月の村長選で初当選。今年10月の村長選で無投票により3選を果たした。

 ――10月の村長選では無投票で3選を果たしました。

 「当初は2期で一区切りにしようと考え、後援会と話し合っていました。ただ、意見がまとまらず、村長選に向けた考えを議会で表明するタイミングもあったので、あらためて村政運営に取り組む決意を固め直し、3期目を迎えるに至りました。

 国の方では、復興予算の規模縮小を検討しているようです。復興が順調に進んでいる原発被災自治体もあると思いますが、本村に関しては帰還困難区域に指定されていた野行地区のうち、特定復興再生拠点区域となっていた区域への避難指示が解除され、ようやく復興に向けた動きが始まったところです。

 水稲やそばの作付けも再開し、村独自の補助金を設けるなどして支援していますが、同地区内の生活圏の除染がすべて終わったわけではありません。こうした現状を国にしっかり訴えていくことが、3期目に取り組むべき仕事だと考えています」

 ――野行地区では、風力発電所が整備される予定となっています。施設概要について。

 「風力発電所は民間企業2社が計画しているものです。発電設備の総数は21基で、来年3月に発電が始まる予定です。約17・5㌶の整備予定地は帰還困難区域内に位置し、発電開始後のメンテナンスを円滑に進めるために、住民の帰還を伴わずに避難指示を解除する国のスキームを活用します。説明会を開いて地区住民に意見を聞いたところ、賛同を得られたので、来春解除に向けて申請しているところです」

 ――県道50号浪江三春線の小出谷工区ではトンネルを含むバイパス工事が進められています。同工区も一部帰還困難区域内に位置していますが、進捗状況は。

 「直線で4㌔ほどの区間ですが、高低差が200㍍ほどあり、交通の難所となっているので、村では数十年前から改良を要望していました。このたび復興道路に準ずる道路として位置づけられ、バイパス工事が行われることが決定し、現在はのり面の掘削工事が始まっています。すでに入札は終わっており、工事完了まで約3年かかる見通しです。県内で初となる〝一抜け方式〟(複数の入札がある際、落札者を決定する順位をあらかじめ定め、先に落札者となった事業者の入札を無効にすること)を導入しており、受注機会の確保、工事の早期完成などの効果が期待されます。引き続き県や浪江町と調整しながら工事を見守っていきます。

 野行地区では減容化施設が整備されたのに加え、他市町村の災害廃棄物受け入れに伴い稼働期間を3年間延長しました。県道50号トンネル工事の残土処理も受け入れていただきます。いろいろご負担をかけることについて、地区住民の皆さんに繰り返しご説明・話し合いの場を設けてご理解いただいてきた経緯があり、本当にありがたいと感じています」


注目企業を村内に誘致

 ――企業誘致に注力しています。

 「産業団地を2カ所造成し、さまざまな企業が進出しています。中でも注目されているのが、バナメイエビの陸上養殖に挑む㈱HANERU葛尾の取り組みです。複数企業の出資により設立された企業で、国内最大級のバナメイエビの養殖施設を建設し養殖を行っています。県の補助金などを活用し、規模を拡大しているところで、来春から本格的に販売を開始する方針です。同社の松延紀至社長は元甲子園球児で、横浜市で少年野球チームの監督を務めていたこともあって、昨年から村内で『HANERUカップ少年野球大会』を開催しています。今年は県内外12チーム、約200人の選手が参加し、始球式の投手は復興支援のために来村していたドミニカ共和国のロバート・ミキイ・タカタ・ピメンテル駐日特命全権大使が務めました。選手やロバート大使のほか、付き添い・応援で同行した保護者ら約300人が交流し、特に県内の子どもたちには貴重な経験になったと思います。

 このほか、AIを活用した音声合成・画像認識など、デジタル分野の受託開発事業やビジネスソリューション事業を手掛ける㈱オレンダワールドが、村内に高度DX人材育成データセンターを建設します。スーパーコンピューターが100台設置される予定で、来月着工となります。10月には葛尾村の復興創生に寄与する地域社会の発展と将来を担う高度なIT人材を育成する狙いから、本村と同社、福島大地域未来デザインセンターが連携協定を結びました。会津大や東北大など他大学の学生にも研修の場として活用してほしいと考えています。学生や若いエンジニアの方々に来ていただくことで村の活性化につながることを期待しています」

 ――その他の重点事業について。

 「この間、農畜産業の再開を最大の目標に掲げ、大規模酪農施設、和牛の肥育素牛生産施設を整備し、水稲の作付けも再開することができました。今後の課題は農業担い手の確保ですが、村内では地区で新たな生産組合を立ち上げたり、個人が法人を立ち上げるなど、若者が農業法人に就職する形で新規就農するケースが見られています。農業分野に従事している地域おこし協力隊の若者もいるので、それらの農業従事者に対する支援を今後も重点的に進めていきたいと考えています。

 働き手の確保は誘致企業においても課題となっています。村民は1239人ですが、現在の村の居住者は468人で、震災・原発事故当時の村民の帰還率は25%です(11月1日現在)。村内進出企業などで働くためなどの理由で震災・原発事故後に転入してきた方が156人おり、そうした方を増やすために集合住宅を整備しているのですが、すぐ満室になってしまいます。

 背景には震災後、空き家が解体され、住宅戸数が減ったのに加え、避難生活を経て村内世帯数が増えた事情があるようなので、今後も集合住宅を継続して整備していく考えです。地域おこし協力隊の方にも3年間の任期終了後に定住していただきたいですね。

 このほか、中学校卒業まで1人当たり月2万円の助成金を支給するなど、村独自の子育て世帯支援策も打ち出しています。葛尾小学校の全校児童数は震災・原発事故直後の倍以上となる16人まで増えました。親の負担をできるだけ減らし、安心して子育てできる環境作りを続けてきたことが実を結んだと考えています」

 ――今後の抱負を。

 「復興予算を確保して着実に復興事業を進めていきたいと考えています。ただ、公共施設を造ることに関してはその後ランニングコストがかかることも踏まえ慎重に検討していきます。将来に課題を残さないように復興を進めていくのが、4年間の私の責務だと考えています」

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