おの・えいじゅう 1954年10月生まれ。慶應義塾大商学部卒。オノエー㈱社長。いわき商工会議所副会頭を経て2011年5月から現職。現在5期目。
コロナ禍以降、企業を取り巻く大きく様変わりしている。加えて、近年は原材料・燃料費高騰や人手不足などの問題も併発しており、地方経済を取り巻く環境は厳しい。そんな中、地域経済のかじ取り役である商工会議所では各種課題にどう向き合っているのか。いわき商工会議所の小野栄重会頭にインタビューした。
他業種の企業・団体と協力し、相乗効果を生み出す。
――人手不足や後継者問題が深刻化しています。
「全国的な例に漏れず、いわき管内でも人手不足が顕在化しており、特に2024年問題に直面している運送業や建設業、労働集約型の介護・看護といった福祉関連事業で深刻化しています。当然そうした状況を打開すべく、それぞれの企業単位の取り組みもさることながら、商工会議所も支援をしていますが、労働条件の改善に迫られています。特に10月からは最低賃金の引き上げもあり、十分に原資を確保できない中で賃上げをしなければいけないジレンマ、さらにはワークライフバランスや魅力ある職場づくりといった様々な課題を中小企業・小規模事業者が抱えており、早急に対策を講じていかなければならないと考えています」
――会員事業所は物価高の中、価格転嫁は出来ているのでしょうか。
「関係各所の通達や働きかけにより価格転嫁の重要性が周知されているとは思いますが、中小企業・小規模事業者が多数以上を占めている会議所の会員事業所では達成されていないのが現状です。もちろん、この問題も見過ごすわけにはいきませんし、日商や県連組織とも連携して、それぞれの企業の交渉力アップを目指し、価格転嫁しやすい環境づくりに現在取り組んでいるところです」
――JRいわき駅前の並木通り再開発事業が間もなく完成します。
「個人的に再開発事業に期待しているのは、駅前も含めて平地区中心市街地の居住人口を増やす起爆剤になり得るという点です。小名浜地区には復興のシンボルとしてイオンモール小名浜がオープンし、商業振興を図るなど市内各地で様々な取り組みが進められていますが、平地区はまちの機能集積、都市の魅力につながっていく居住人口を限りなく増やしていくことが先決と考えており、特に今回の再開発事業の目玉である並木の杜シティには市内最高層のタワーマンションが建ち、全216戸が完売するなど、大変な人気を見せています。こうしたマンションに住まわれる方々の街なかでの消費活動が期待でき、地元への経済効果も大きいので、エリアの居住人口増加と相まって経済効果をもたらすと見ています。逆に言えば、そうした方々を受け止めるだけのまちの機能や魅力が無ければ飽きられてしまいますし、ある意味では試されているとも言えます。ですから、そうした再開発を契機に居住する方々に満足頂けるようなテナント構成、商店街の内容の充実を図っていきます」
創業者支援に注力
――会議所では創業者支援や中小・小規模事業者の販路拡大支援などに取り組んでいます。
「これは企業支援だけでなく、老若男女問わずチャレンジ精神を持って経営革新していくという意識付けでもあります。特にコロナ禍以降は経営環境も大きく変わり、どんな経営者でもこうした意識改革をしていかなければ取り残されてしまいます。中でも創業者支援は現在2つのプロジェクトが進行しており、一つは『いわき創業チャレンジプロジェクト』という当会議所の経営シン化委員会が担当している事業で、U・Iターンを含む地域での起業・創業を促進するために、金融機関や商工団体が連携して取り組む創業チャレンジ支援です。内容は、創業して間もない、もしくは創業予定の経営者の方々にプレゼン形式でビジネスプランを発表してもらい、優秀なプランには事業を支える資金を授与し、産学官でのバックアップと会議所の伴走型支援によって事業を成功へと導こうというものです。全部で11社が参加し、受賞以外のプランにも支援を続けていき、いずれの事業も成功へと導いていきたいと考えています。また、いわき創業スクールという事業者の心構えや事業計画の策定など、創業に関わるノウハウを学ぶための講座も実施しています。1カ月に7回の講座を開講し、約30名が受講、創業という同じ目標を持った仲間たちとモチベーションを高め合い、刺激し合いながら、会議所と連携して取り組む、創業に向けた準備のための場として役立ててもらっています。販路開拓としては、国・県の補助金を最大限利活用し、経営指導員を中心とした伴走型支援を行っています。以前から実施している販路商談会や各地の商工会議所と連携した物産展イベントに参加するなど、対外的な事業にも取り組んでいます」
――今後の抱負。
「震災直後に56歳で会頭に就任以降『世界に誇れる復興モデル都市』を掲げて、これまでブレずに取り組んできたことは自分にとってもかけがえのない経験・実績であると捉えています。特にコロナ禍以降は、常識や既成概念を変革していかなければならず、競争から協業の時代へと変遷しつつあると言えます。一企業だけが生き残ろうとするのではなく、業界を超えて協業化を図り、それによって業界・地域全体を盛り上げていく発想が重要となってきます。折しも2050年までに脱炭素社会を目指す方針が政府から発表されており、全国各地でカーボンニュートラルを宣言する自治体が増えてきました。そうした大きな枠組みの中でどのような協業体制を取れるかが最重要で、例えば産業界と森林組合、または漁連といった具合に、業界の垣根を超えて協力することで新しい発想が生まれてくるものと見ています。いわき市の面積の7割を森林が占めており、森林組合と連携協力することで、伐採された木材とそれを加工する事業者との橋渡しを会議所が担い、さらにいわき産の木材を使用したいという大手企業と取引促進を図り、伐採した山林には植林するという形で好循環を生み出すような1つのモデルを検討していきます。漁業にしても、後継者問題や二酸化炭素を吸収する藻場の整備・保全などの課題を、会議所のネットワークを活用した企業とのマッチングで上手く解決していくことができると思いますし、これまで垣根のあった企業や団体と協力することで相乗効果が生まれ、いわきの経済振興とともに会員企業も増えていくことが期待されます。私が取り組みたいと考えているJ―クレジット制度を、森林組合のグリーンクレジット、漁連のブルークレジットと共に検討していきたいと考えています。脱炭素と一口に言っても様々な取り組みがあり、企業の状況に適した形でクレジットを購入することで二酸化炭素排出量をゼロにできるような発想を会議所でリードしていきたいところです」