【福島商工会議所】渡邊博美会頭インタビュー(2024.12)

【福島商工会議所】渡邊博美会頭インタビュー(2024.12)

経歴

わたなべ・ひろみ 1946年生まれ。福島大経済学部卒。福島ヤクルト販売会長。福島商工会議所副会頭を経て、2013年11月、同会頭に就任。現在4期目。

 福島市のJR福島駅東口で進められている再開発計画が難航し、西口でもイトーヨーカドー福島店が閉店するなど中心市街地の空洞化が深刻になっている。中小企業は人手不足や賃上げ、物価高への対応に苦慮している状況だが、市経済の舵取り役でもある福島商工会議所ではどのように支援しているのか。渡邊博美会頭に話を聞いた。

他の商工団体と連携しながら地方都市の課題に対応していく。

 ――中小企業にとって人手不足や後継者問題は深刻な問題です。会員事業所の状況はいかがでしょうか。

 「会員事業所を対象としたアンケート調査を実施したところ、どの事業所も深刻な人手不足であるという結果でした。①即戦力になる人材の確保が難しい、②従業員が高齢化している、③若手従業員が定着しないといった現状があり、物流業界からは『資格や免許など条件に見合った人材からの応募がない』という嘆きも聞かれます。物価高に加えて、最低賃金が上がったことで、人員を増やしたくても増やせないという事情もあるようです。会員事業所に意見を聞く機会を増やしていきたいと思いますし、事業承継については、税制や補助金の申請方法など職員が親身になってアドバイスし、伴走型支援で応援していきます」

 ――政府は民間企業に賃上げを要求していますが、中小企業はなかなか対応できない現実があります。

 「10月に、福島県の最低賃金は900円から55円アップしました。それでも隣県と比べ低いので、今後はさらに上がっていく見通しです。安い賃金では人手が集まらないので、各事業所とも何とか対応しており、当会議所の調査によると、8割がベースアップや賞与アップを実施したり今後予定しています。

 問題は賃上げに対応できていない事業所が2割もあることで、『業績が思わしくないので賃上げする余裕がない』、『事業の先行きに不安がある』などの理由を挙げています。これは大きな問題だと捉えています。

 こうした状況を解決するためには、政治の力が必要になります。当会議所では中小企業への支援策や復興支援、国道整備、災害発生時の対応など、地域が抱える課題の解決のため、県選出国会議員に橋渡しをお願いしながら、国に対する要望活動を続けています。新政権には中小企業が抱える課題の改善につながる政策の実現を期待しており、引き続き要望活動を継続していきます」

 ――会員事業所は物価高の中で価格転嫁をできているのでしょうか。

 「当会議所の調査によると、『原価や経費、人件費などをすべて価格転嫁できている』と回答したのは回答した事業者のわずか6・5%で、約20%は『価格転嫁が全くできていない』と回答しています。物価高・燃料高で経費が増大し、収益を圧迫している様子がうかがえます。

 大規模企業の仕事を請け負っている事業所は他事業所に切り替えられるのを恐れて強く言えないだろうし、消費者の理解を得て商品価格を値上げするのもなかなか難しい。取引先との取引適正化を図る『パートナーシップ構築宣言』を導入する動きが全国的に進んでいるので、今後改善されていくことを期待しています」

時代に合わせた再開発を

 ――福島駅東口再開発の一環で計画されているビルが建築資材高騰などにより計画見直しを余儀なくされ、開業が2029年度にずれ込む見通しとなりました。

 「当初は再開発ビルのキーテナントとして都市型ホテルや大型商業施設の誘致を目指していましたが、実現しませんでした。それだけ中心市街地の集客力が落ちているということでしょう。実際、商業施設がある郊外の方がにぎわっている印象です。

 今後は中心市街地でも商業施設にこだわらず、教育、医療、介護など市民生活の充実を重視したまちづくりを進めてもいいと思います。『かつての華やかだった駅前を再現したい』というのは現実を無視した乱暴な主張で、全国の地方都市を参考にしながら、いまの時代に合わせた再開発を進めるべきです。

 公共棟に大規模コンベンション施設が入居するので、地元としても利用促進を図るため、当会議所、もしくは第三セクターの㈱福島まちづくりセンターが地元で数百人規模のイベント・会議・会食を実施する際の窓口を担えないか検討しています。同社が運営しているMAXふくしま(旧さくら野百貨店福島店)は映画館のほか、さまざまな店舗、無料で利用できる勉強スペースなどがあることから、幅広い年代でにぎわっており、県外から来る人も多いのでヒントになりそうです。法人を新設するのも一つの手だと思います。

 福島駅西口のイトーヨーカドー福島店跡の利活用も課題となっていますが、そもそも駅東西の一体感が希薄だったので、その点は改善の余地があると感じています。東西を行き来する際は地下歩道を利用するしかありませんでしたが、11月上旬から1カ月間、福島駅構内在来線コンコースを無料で通行できる社会実験が実施されました。手続きなしで気軽に行き来できる環境が整備されることを期待しています」

 ――夏の福島わらじまつりでは有料席が大幅に増やされましたが、空席が目立ちました。実行委員会には会議所も参加していますが、どのように総括していますか。

 「観光客や障害を抱える方でも快適かつ安全にお祭りを楽しめるように有料席を増やしたのですが、1日目は金曜日ということもあって来場者は地元の方が中心で、かなり空席が目立ちました。そのほか、一番高額の席が流し踊りの終着点に設けられたため、踊り手が歩いて移動する光景ばかり見ることになったり、1日目と2日目で参加団体に偏りがあるなど、いろいろ配慮が足りなかったところが多く、いずれも大きな反省点と捉えています。

 例えば有料席利用者にオリジナルのわらじグッズを贈呈することでプレミアム感を演出できるし、来場時間によって有料席の販売価格を割り引きするサービスなども実現可能だと思います。入り込み数は昨年を上回る約30万人となりましたが、そのことに満足せず、改良を続けていく必要があると感じています」

 ――今後の抱負を。

 「今後大きな課題となるのは人口減少です。商工会議所は県内に10会議所、東北地方に45会議所、全国に515会議所あり、ネットワークが形成されています。震災・原発事故直後は全国から支援をいただき力になりました。こうしたつながりに加え、県内商工会とも連携しながら、地方都市を取り巻くさまざまな課題に対応していきたいです。

 また、福島市民が一丸となって応援などに参加できるスポーツ選手やチーム、イベントがあれば積極的に盛り上げていきたいです。当会議所が中心となってイベントを行うことも検討していきます」

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