【相馬市】立谷秀清市長インタビュー(2024.12)

【相馬市】立谷秀清市長インタビュー(2024.12)

経歴

たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大医学部卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務めた。

 ――近年は、二度にわたる福島県沖地震をはじめ、災害が相次いでいます。

 「2021年、2022年と二度にわたる福島県沖地震に見舞われたほか、2019年には水害がありました。私は東日本大震災の経験から、最低でも30億円の財政調整基金を残しておかなければならないと思っています。というのは、災害が起きたら被災者救済のためにさまざまな支援を行いますが、国から補助金が措置されるまでには時間がかかるので、被災者の早急な支援を実施するため、まずは自前の財源で、被災者を救済しなければならない。東日本大震災のときは、早急な被災者救済に約21億円が必要となりました。行政というのは住民が不幸になったとき、どれだけそのカバーができるかが重要です。それは災害に限らず、新型コロナ感染症の流行もそうでした。そういう意味では、この数年は我々の行政能力が試された時期だったと思います。それをどう評価するかはなかなか難しいですし、自己評価するものでもないと思います。

 福島県沖地震から2年半が経ち、住居を失った人は、それぞれアパートに入ったり、震災のときに整備した住宅に入ったりして生活をしています。ですが、今後の自身の人生を考えたとき、なかなか大変な人もいると思います。それを全部捉えることはできませんし、行政でできることには限界もあります。そのような中で、その時にどのような施策に力を入れなければならないのか判断しながら行政を進めていくしかないと思っています。

 一方、産業面においては、グループ補助金が適用になり、国の補助が受けられます。本来、補助率は2分の1ですが、今回の地震は東日本大震災の余震という位置付けで、4分の3の補助が受けられます。これは非常にありがたい制度ですが、4分の1は自分で負担しなければならない。それを経営者の方々がどこまで覚悟を決めてやるかという判断になります」

市長会長は貴重な経験

 ――今年6月に全国市長会会長の任期を終えられました。

 「6年間の在職期間でいろいろなシステムを作りました。災害に対する各県・各地方間の応援体制、各地方整備局長と市長のホットライン、弁護士の無料法律相談体制などです。

 一方で、この6年間には新型コロナ感染症もありましたし、いろいろなことがありましたが、我々基礎自治体というのは『地方政府』なんですね。これは私が会長就任当時からずっと言ってきたことなんですけど、地方政府であることを自覚する、そのための地方政府論をずっと訴えてきました。かつては、県(都道府県)は国の指示を待ち、市町村は県の指示を待っていればいいというような雰囲気がありましたが、いまは違います。自分たちで考えて、自分たちで努力して、自分たちが国などに働きかけて財源を含めた支援措置を獲得する、そういうところは若干変えられたかなと思っています。

 いまは顧問の立場になり、意思決定の場には立ち会っていますが、国への要請などで首相官邸に行くことはなくなりました。会長としての在任期間は、全国の市長たちに助けてもらいながら、職務をこなし、私自身にとっても、非常にいい経験になりました」

 ――閉校した玉野小学校の施設活用のため、事業者提案型の公募を行い、㈱CTIアセンドと包括的連携協定を結びました。

 「CTIアセンドではグレーンウイスキーといって、トウモロコシを原料にして蒸留するウイスキーを生産しています。すでに貯蔵が始まっており、それを2、3年、タルに入れて寝かせ、そうすることでウイスキー独特の香りが出てきます。2、3年後に飲むのが楽しみですね。地元貢献の点では、玉野地区の人が一番期待したのは雇用だと思いますが、ほとんど自動化されていますから、現状ではさほどではありません。ただ、今後規模が大きくなってきたときに、その期待は出てくると思います。一方で、休耕田でトウモロコシを作り、それを原料として収めることができます。ですから、玉野地区はトウモロコシの栽培地として、これから勢いが増していくと思っています。また、ウイスキーは生産地の地名がブランド名に使用されることも多く、『玉野』というブランドが確立することを期待しています」

 ――今後の重点課題について。

 「やはり最大の課題は人口減少です。この問題は子育て支援で防げるとか、そういう問題ではないと考えています。この問題の根本は東京への一極集中にあり、相馬市だけではなく、地方全体の問題であろうと考えています。相馬市の高校を卒業した子どもたちの多くは、相馬市を離れ、それはやむを得ない面があると思います。相馬市を出て、一番行く先が多いのは仙台市です。問題はさらにその後で、相馬市から仙台市に行った後、東京に行く人が多いんです。統計の取り方によって違いはありますが、東京に人口流出させている最大の都市が仙台市だというデータもあるくらいです。ちなみに、その統計だと2位は札幌市で、若者たちが相馬市のようなまちから仙台市や札幌市に行き、そこから東京に行くという現象です。その結果として、東京一極集中になっているということができると思います。

 人口減少の問題に対して、例えば移住者を増やすというのが1つの方法としてあります。ただ、それでは限界があり、やはり定住(流出させない)ということが重要になってきます。東日本大震災以降、『復興ってなんだろう』と、私もずいぶん悩みました。船をなくした漁師が別な職業に就いて、家族を養えるかどうか、人生の再設計を描けるかどうかなんだと思います。それと同じように考えたときに、移住者が相馬市で生活していけるかどうか。そのことを政策的に実現するには、私としては企業誘致しかないのではないかと考えます。企業を誘致して、仕事のために相馬市に来て定住するという人を増やすことが、今私が考えるベストの方法だと考えます。そう思って、この間、さまざまなことに取り組んできました。とはいえ、地方には若い女性が働く場所が圧倒的に少ない。例えば、東京ではネイルサロンで働いていたり、トリマーとして働いている人たちがいます。どんなに腕が良くても、相馬市でネイルサロンやトリマーでは生活するのは簡単ではありません。結局、東京に行かざるを得なくなるわけです。若い女性がいなくなると、地方での婚姻率が減少し、人口減少につながるという悪循環です。ですから、若い女性を含め、様々な方が働く場所を地方にもっと作らなければなりません。これは国策としても考えてほしいと思います」

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