本誌昨年1月号に、「交通事故多発交差点マップを検証 県内ワーストは会津若松市『北柳原交差点』」という記事を掲載した。一般社団法人・日本損害保険協会が毎年公表している「全国交通事故多発交差点マップ」(2021年版)を基に、県内の事故多発交差点の問題点などを追跡取材したもの。9月13日に、その最新版(2023年版)が公表されたので、それを基に事故多発交差点の状況を追った。
ワーストは須賀川市大黒町交差点

一般社団法人・日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」は、交差点・交差点付近での交通事故防止・軽減を目的に、各都道府県の地方紙(記者)の協力を得て毎年作成されている。同マップでは、都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載され、事故のケースや交差点の特徴、予防策などが紹介されている。
その最新版(2023年版)が9月13日に公表された。マップとともに掲載されたリポートによると、福島県全体の人身事故件数、死傷者数の推移は別表の通り。人身事故の発生件数、死傷者数は年々減少傾向にあったが、昨年は前年比で微増となった。
福島県内の交通事故状況の推移
人身事故件数 | 死傷者数 | |
2023年 | 2913件 | 3458人 |
2022年 | 2702件 | 3179人 |
2021年 | 2997件 | 3495人 |
2020年 | 3266件 | 3914人 |
2019年 | 3919件 | 4744人 |
一方で、昨年の人身事故2913件のうち、1721件(59・1%)が交差点とその付近で発生している。こうして見ても、やはり交差点とその付近はより注意が必要であることが分かっていただけよう。
2023年版でワーストだった交差点はどこか――という本題に入る前に前回取材時、すなわち2021年版でワーストだった地点について触れておきたい。
2021年版でワーストだったのは、会津若松市一箕町の「北柳原交差点」。国道49号と国道118号が交差するところだ。
もっとも、北柳原交差点とその付近で起きた人身事故は5件だったから、ワースト2の4件と比べて突出して多いわけではない。
ちなみに、ワースト2は、同市の「郷之原交差点」、いわき市常磐の「下船尾交差点」、同市小名浜の「御代坂交差点」、郡山市横塚の「横塚三丁目交差点」、喜多方市一本木上の「塗物町交差点」、福島市渡利の「渡利弁天山交差点」、同市仲間町の「仲間町交差点」の計7カ所。
「北柳原交差点」は、国道49号と国道118号が交差し、朝夕を中心に交通量が多い。国道49号の会津坂下方面から猪苗代方面に向かうと同交差点付近が下り坂になっており、右折レーンが2車線ある、といった特徴がある。
「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートでは、交差点の特徴として、「国道同士が交わる交差点であり、東西に延びる国道は東側に向け下り坂、南北に延びる国道は交差点を頂上にそれぞれ下り坂になっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」と記されていた。
事故の種別は重傷事故が1件、軽傷事故が4件、事故類型は右折直進が2件、追突、右折時、出会い頭がそれぞれ1件となっている。
実際の事故のケースは「信号無視により、右折車両と衝突した」、「対向車が来るのをよく確認せずに右折したことにより、対向車と衝突した」と書かれており、予防策としては「交通法規を遵守し、信号をよく確認して運転する」、「交差点を通行する際は、対向車がいないかよく確認し、速度を控えて運転する」と指摘されていた。
ただ、この北柳原交差点は、同マップの2022年版、2023年版ではワースト5入りを免れている。さらに、2023年度に道路管理者の国土交通省と地元警察署や交通安全協会などで安全対策について協議し、今年度中に区画線の明確化などを実施する予定とのことだから、同マップによる指摘・啓発の意味はあったと言えよう。
須賀川市大黒町交差点で6件

そんなことを踏まえつつ、2023年版を見ていきたい。ワースト1は須賀川市の「大黒町交差点」で6件だった。前回取り上げた会津若松市の北柳原交差点同様、びっくりするほど多いわけではない。
同交差点は国道4号(片側2車線)と、県道古殿須賀川線(交差点西側が2車線、東側が1車線)が交差する地点。国道4号の鏡石方面から郡山方面に向かう下り線は、同交差点を過ぎてすぐ急な下り坂になっている。同様に、県道古殿須賀川線も、東から西に向かって下り勾配になっている。同交差点の東側は警察署や市役所があり、しばらく東に行くと、須賀川牡丹園へとつながる。一方、西側は須賀川インターチェンジへと続く道路で、国道4号、県道古殿須賀川線ともに、右折、左折するクルマが多い。加えて、交通量が多く、平日の朝夕を中心に、恒常的に渋滞が発生している。
交差点から直線距離で100㍍ほどのところに須賀川第一小学校があるが、市によると「地下歩道が整備されているため、児童が登下校で交差点を横断することはない」という。その点の安全性は確保されていると言える。
同交差点、その付近で起きた事故事例はいずれも軽傷事故で、対人事故が1件。これは横断中のことだった。残りの5件は車両同士の事故で、すべて追突事故だった。
同マップには同交差点における事故の主な要因とその予防策として、次のように記されている。
事故要因▽事故要因は、安全不確認、動静不注視、前方不注意、ブレーキ操作不適となっています。
予防策▽片側2車線の道路が交わる大きな交差点で交通量も多いことから、運転に集中し、交差点を右左折する際には、進行先の横断歩道を横断中の自転車や歩行者に十分注意して、通行する必要があります。
ある市民はこう話す。
「あそこ(大黒町交差点)が県内ワーストなんですか? 正直、あの交差点が危ないという認識はないですね。ただ、交通量が多く、国道・県道のどちらから交差点に入るにしても、右折、左折するクルマも多いので、必然的に事故が多くなるということなんでしょう」
須賀川警察署に見解を求めると、「交通量が多いということに尽きると思います。ただ、県内で最も事故が発生しているということですから、対策を検討していきたいと思います」とのことだった。
同交差点で発生したのはいずれも軽傷事故で、そのほとんどが追突事故だったことを考えると、交通量が多い中、「不注意で〝コツン〟とやってしまった」というケースが多いものと思われる。
例えば、昨年1月に郡山市大平町の交差点で起きた事故や、今年2月に鏡石駅前で起きた事故のように、重大かつ悲惨なケースだと、社会的に注目が集まり、「早急に何らかの対策を」と叫ばれる。
なお、郡山市大平町の事故は、軽乗用車と乗用車が出合い頭に衝突し、軽乗用車が横転・炎上して、乗っていた家族4人が死亡する事故だった(本誌昨年2月号に関連記事掲載)。鏡石町の事故は交差点ではないが、駅前のロータリーで19歳の大学生2人が軽乗用車にはねられ、男子大学生が死亡、もう1人が大けがをした事故。軽自動車を運転していたのは72歳の女性だった(本誌6月号に関連記事掲載)。
このように重大かつ悲惨な事故だと、「再度、大きな事故が起きる前に対策を講じるべき」ということになる。しかし、件数は多くても軽傷事故しか起きていない地点では、前出の市民が話したように、「あそこってそんなに事故が多いの?」という認識しかなく、なかなか「早急に対策を」とはなりにくいのだろう。とはいえ、前述した会津若松市の北柳原交差点と同様、今回の指摘がきっかけで対策が講じられることを願いたいし、実際、須賀川警察署ではそうした見解を示した。
もう一つの事故多発交差点

ところで、須賀川市には大黒町交差点のほか、もう1つワースト5に入った交差点がある。それが仲の町交差点で、5位タイ、事故発生件数は4件だった。
同交差点は国道4号と国道118号を結ぶ東部環状線にあり、それほど大きな交差点ではない。同交差点の東側にはイオンタウンがあり、西側にはパチンコ店がある。同交差点は国道4号方面に向かう場合、国道118号方面に向かう場合のいずれも右折禁止となっている。
同マップでは詳細な事故情報は記されていないが、ある市民がこう解説してくれた。
「あの交差点はどちら側から来ても右折禁止で、交差点に入る前や信号機のところにその表示があります。ただ、それを知ってか知らずか、右折してしまうクルマを時々見かけます。それで、危ないと思うことが何度かありました。だから、あそこは事故が多い、というのは分かる気がします。そのため、たまに警察が見張っていたりします」
この道路は片側2車線で、右折禁止を知っている人が右側を走行していたら、前方に右折車がいるかもしれないとは考えないだろうから、スピードを緩めずに交差点付近に入るだろう。そんな状況で、禁止されている右折をしようとスピードを緩めるクルマが前方にいたら確かに危険だ。あるいは、右折禁止を知らずに交差点に入り、右折しようとしたものの、直前で右折禁止を知り、一瞬戸惑った中で直進するクルマがいたらこれも危険だ。
実際、前出の市民はここで述べたような危ないと思う場面に遭遇したことがあるというから、そうした点での注意喚起が必要になろう。
須賀川署管内の事故は増加傾向
須賀川警察署、須賀川地区交通安全協会、須賀川地区安全運転管理者協会、安全運転管理須賀川事業主会が発行している「交通白書 すかがわ」(2023年版、今年3月発行)によると、2023年の須賀川警察署管内(須賀川市、鏡石町、天栄村)の交通事故は162件で、死傷者は189人、うち死者が3人だった(別表参照)。
須賀川警察署管内の交通事故発生状況
事故件数 | 死傷者数 | |
2023年 | 162件 | 189人(3人) |
2022年 | 138件 | 154人(3人) |
2021年 | 127件 | 148人(4人) |
2020年 | 106件 | 114人(7人) |
2019年 | 129件 | 159人(3人) |
10年ほど前と比べると、発生件数、死傷者数ともに大きく減少しているが、死者数はほぼ横ばい。また、この5年で見ると増加傾向にある。今回取り上げた交通事故多発交差点に限らず、広い範囲での事故防止策が求められる。
交通事故多発交差点の問題は、例えば、見通しが悪いなど道路の形状に問題がある場合は道路管理者(一桁・二桁国道なら国交省、三桁国道や県道なら県、市道なら市)、違反が多く、それに伴う事故が発生していれば違反を取り締まる警察、不注意による事故が多ければ交通安全協会というように、関係組織間での協力が不可欠だ。
加えて、ドライバーに求められることも多い。地方で生活していたら、どうしてもクルマへの依存度は高くなる。ただ、ハンドルを握るということは、それ相応の責任が生じる。そのことをしっかりと自覚し、交通ルールを守ることはもちろん、無理のない運転を心がけることが、事故防止の重要な要素となろう。