福島市西部の先達山で稼働するメガソーラーをめぐり、事業者と鋭く対峙する市民団体「先達山を注視する会」(松谷基和代表。以下、先注会と略)が、住民対応に問題があったとして事業者を訴えた訴訟の第1回口答弁論が11月13日に福島地裁で開かれた。その後行われた先注会の報告会で、弁護士から裁判の見通しと、地質学の専門家から工事の問題点に関する解説があった。
専門家が盛土・切土工事のリスクに警鐘
先達山のメガーラーは9月30日から商業運転を開始しているが、先注会などが再三求めている景観の悪化や太陽光パネルの光害(強烈な光の反射)への対策は現在も行われていない。
林地開発の許可を出した県は「森林法に基づいて必要な対応をする」と言い、福島市も「景観が回復するまで事業者からの事業完了届は受理しない」などと述べているが〝後の祭り〟。事業者からすると、商業運転さえ始まってしまえばこっちのものだ。行政が「きちんと対応しなければ許可を取り消す」と厳しい態度をとらなければ、事業者は従おうとしない。要するに、商業運転開始は事業者に舐められた結果であることを県と市は自覚すべきだ。
その事業者は商業運転開始2カ月前の7月下旬から雲隠れしている。それまで先注会の対話会に臨んできたAmp社から、松谷氏らに「今後はAC7合同会社(以下、AC7社と略)が住民対応に当たる」というメールが届いて以降は、担当者が誰かも分からないAC7社とメールでしかやりとりできない状況が続いている。「商業運転の開始が決まったから、住民対応はもうしない」という態度がミエミエなのだ。
そもそも、AC7社はメガソーラーの保有だけを目的とした特殊目的会社で、従業員はいない。代わりに実務を担っていたのがAmp社だったが、松谷氏いわく「両社は一体。表向きはAC7社を名乗り、裏でAmp社がメール対応を続けているだけだ」。こうした状況を松谷氏はジブリの映画『千と千尋の神隠し』に登場する自我の無いキャラクターになぞらえて「カオナシ対応」と呼んでいる。
商業運転は開始されたが、その裏では先注会がAmp社を訴えた民事訴訟が進んでいる。訴状(8月27日付)によると、原告は市民団体としての「先達山を注視する会」、共同代表の松谷基和氏と松浦陽一氏。被告はAmp社(マルティン・シュタイン代表取締役)。訴えの内容は概ね以下の通り。
▽今年5月に行われたメガソーラーの現地視察で、松谷氏はAmp社に参加者の名前と居住地域が書かれた名簿を提出し「個人情報は行政に知らせないでほしい」と要請。Amp社は「行政に報告するのは日時と参加人数のみ」と約束した。ところが、Amp社は現地視察が行われたその日のうちに、県(県北農林事務所)の担当者に一部氏名や現地で行われたやりとりの内容を報告。その結果、松谷氏と松浦氏は「メガソーラーに異議を唱える人」と行政に認識されるようになった(これらは松谷氏が県に情報開示請求し、公開された公文書によって判明した)。
▽Amp社の長谷部剛・法務部長が、松谷氏のAmp社に対する言動を「名誉毀損に当たる」として「法的措置を含めた対応を検討中」と告げた結果、松谷氏は心理的負担と体調不良に襲われ、その後の先注会での活動が制限された。
こうした出来事による精神的損害と失われた名誉を回復させるための慰謝料として、被告のAmp社に対し①松谷氏に30万円、②松浦氏に10万円、③先注会に20万円、計60万円の損害賠償を求めている。
第1回口答弁論は11月13日に福島地裁で開かれた。Amp社側は誰も出廷せず、事前に提出された答弁書の確認のみが行われた。その後、市民センターで行われた先注会の第8回報告会で、原告の代理人を務める森の風法律事務所(東京都中央区)の花澤俊之弁護士(福島市出身)から今後の見通しについて説明があった。

「答弁書を見ると、県に参加者名を報告したことについては『名前を出さないとは約束していない』『県から聞かれたので答えただけ』と書かれていました。また、法的措置を検討中と告げたことについては『松谷氏とのメールでのやりとりで不誠実な対応をされ、このまま放置すれば大変なことになると考えた』と答えていました」(花澤弁護士)
弁論では、裁判長から次回について「法的な論点を整理するため傍聴人を入れずに協議したい」という提案があった。しかし、花澤弁護士は「市民の関心が高い問題なので、全てのプロセスをオープンにしてほしい」と要望。松谷氏も「法廷でのやりとりを通して市民は様々な情報や知識が得られる」と傍聴の継続を希望し、第2回(来年1月22日14時から)も傍聴人を入れて開廷されることが決まった。
「裁判長と10分くらいやりとりしたでしょうか。訴訟進行をめぐりここまでモメるケースは珍しい。裁判長にはけしからんと思われたかもしれないが、この問題は非公開(傍聴人を入れない)の場で話を進めるべきではありません」(同)
下流域に甚大な被害の恐れ
続いて説明に立ったのは、水文地質学が専門の柴崎直明・福島大学共生システム理工学類教授だ。柴崎教授は5月の現地視察に参加し、専門的視点から盛土・切土工事の問題点を指摘するなど先注会の技術アドバイザーを務めている。
「初めて現地を視察した時の印象は『なぜ、こんなに山を削って谷を埋めたのか』というものです。その疑問が、先達山メガソーラーに対する私の問題意識になっています」(柴崎教授)
柴崎教授はこの間、Amp社にどういう考えで山を削ったのか何度か尋ねているが、まともな回答は寄せられていない。そこで柴崎教授は、国土地理院が公表している数値標高データを使って、元の山が造成工事によってどれくらい削られたのかを立体的に表す作業を試みた。誰が見てもイメージしやすいよう、太陽光パネルが設置されている場所を可視化するのが狙いだ。

柴崎教授は、細かい作業の末にようやく完成した現地の立体画像を披露した。デコボコしていた元の山が大きく削られ、深い谷も埋められていることが素人目にも理解できる画像だった。
「これを見た時、『やっぱり非常識な工事だ』と思いました。こんなに大規模に盛土や切土をするなんて、とんでもないことです」(同)
静岡県熱海市で2021年に発生した盛土崩壊による大規模土石流災害を受け、盛土規制法が施行されたが、柴崎教授によると、先達山の現場は「法律上、許されない盛土・切土が行われている」という。
「事業者は『盛土は最大40㍍』としていましたが、正確な断面図に基づくデータを示していない。そこで私が調査したところ、最大で49㍍の盛土が行われていたことが分かりました。切土も最大で47㍍でした。それだけの高さの土を盛ったり削ったりしているわけだから、雨の降り方によっては下流域に甚大な被害が出るリスクがあることを認識しておくべきです」(同)
地元紙は訴訟のことも盛土・切土のことも詳報していない。先達山で何が起きているのかを知りたい福島市民は、先注会の報告会に出席して学ぶべきだ。次回(第9回)報告会は12月12日18時半から市民センターで行われる。

























