本誌9月号に「鏡石町の水道料金が22年後に全国最高!? フジテレビ『ホンマでっか!?TV』に翻弄された関係者」という記事を掲載した。今年4月に、会計監査法人の「EY Japan」と、一般財団法人「水の安全保障戦略機構」事務局が「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024年版)」という調査・研究報告を公表した。それによると、22年後に鏡石町の水道料金が全国一高くなる、との調査・研究結果が示されていたため、その背景を取材したものだ。その後、この問題は9月議会の一般質問でも取り上げられた。
木賊町長は「丁寧な説明が必要」と答弁

会計監査法人の「EY Japan」と、一般財団法人「水の安全保障戦略機構」事務局が実施した「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024年版)」調査・研究は、全国の自治体(水道事業体)で現在の水道サービスを維持していく際、2046年までに想定される水道料金改定率を、最新の公表統計データを基に自治体(事業体)別に整理したもの。
同報告書によると、水道料金の値上げが必要な自治体(事業体)は全体の96%に上り、平均48%の値上げ率になるという。
一方で、自治体(事業体)別の推計値も示されており、それによると、鏡石町の2046年度の料金予測値は20立方㍍当たり2万5837円で、全国最高額だった。要するに、同調査・研究によると、2046年度に鏡石町の水道料金は全国一高くなると予測されたのだ。
なぜ、そのような推計になったのか。鏡石町上下水道課に問い合わせたところ、おおむね次のような説明だった。
○同町では1965年から使っていた旭町浄水場が老朽化していたため、2019年度から2022年度までの4年間の事業として、新たに鏡石浄水場を整備した。事業費は約30億円で、均すと年間約7・5億円の事業費増になる。
○同調査・研究は、2019年度から2021年度の水道統計を試算材料にしており、その期間は同町が浄水場を整備していた期間と重なる。
○そのため、年間7・5億円の事業費増が今後も続く、という想定に基づく試算になっている。
こうしたことから、いまのサービスを維持するためには、2046年度までに20立方㍍当たり2万5837円という全国最高額にしなければならない、といった試算がなされたというのだ。
町上下水道課の担当者は「この先、全国平均並みの値上げが必要になる可能性はあっても、『2046年度までに20立方㍍当たり2万5837円になる』ということは絶対にあり得ません」と断言していた。
本誌はこうした説明を受け、事情を把握したわけだが、その後、さらに動きがあった。本誌が確認したところ、同調査・研究に基づく報道で、「2046年度に鏡石町の水道料金が全国一高くなる」ということが明記されていたのは、東京新聞(6月27日付)のみだった。普段、県内(鏡石町)で東京新聞を読んでいる人はほとんどいないと思われる。そのため、騒ぎにはならなかった。
ただ、本誌が同町を取材したのは8月7日午前だったが、ちょうどその日の夜21時から放送のフジテレビ『ホンマでっか!?TV』で、パネラーの1人が同調査・研究報告に基づき、「福島県鏡石町の水道料金は2046年度までに20立方㍍当たり2万5837円の全国最高額になる」旨のコメントをしたのだ。東京新聞で報じられた際は騒ぎにならなくてもテレビとなると話は別。
町上下水道課によると、「その翌日以降、10件に満たない程度ですが、心配した町民の方から問い合わせがあり、以前、『政経東北』さんに説明したのと同様のことを伝えて、理解していただきました」という。
そのほか、ある議員もこう証言していた。
「私はテレビ番組を見ていなかったですが、複数町民から『ホンマでっか!?TVで鏡石町の水道料金が全国一高くなると言っていたが、本当なのか』といった問い合わせがありました」
こうしてテレビの影響で騒ぎが拡大したわけ。
議会でのやり取り

同町9月議会では吉田孝司議員がこの件について一般質問を行い、町の見解を問うた。
木賊正男町長は次のように答弁した。
「私は当日の放送(ホンマでっか!?TV)は見ていません。ただ、翌日、そのような話を聞き大変驚きました。今回の放送はデータ企業の資料(『人口減少時代の水道料金はどうなるのか?』)に基づいて仮説を立てて20年後を予想したものと承知していますが、仮説ですから、それに対してコメントをすることはありません。放送をご覧になった町民の皆さんには驚きと不安があったと思われますが、問い合わせがあった際には丁寧に説明していく必要があると認識しています。なお、これまで寄せられた問い合わせは10件程度と聞いています。また、放送された番組の中で、最後に『番組に登場する情報・見解はあくまでも一説であり、その真偽については確定しているものではない』ということですので、(これ以上、町としてどうこうする考えがないことを)ご理解いただきたい」
吉田議員は「町はしっかりと説明していくとのことだが、それをお願いすると同時に、今後はこの一般質問を聞いた議員や、私自身も町民から聞かれた際は、しっかりと説明していきたい」旨を述べて、別の質問に移った。
この一般質問が行われたのは9月6日で、本誌9月号発売の翌日だったが、町執行部の中には本誌記事をコピーして、内部資料としてファイリングしている職員もいた。
「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024年版)」の調査・研究で、22年後に鏡石町の水道料金が全国一高くなるとされた理由は、本誌記事を読んでもらえれば分かるし、同記事の最後には「『ホンマでっか!?TV』に翻弄された格好だ」と書いたが、思わぬ方向に波紋が広がっていると言えよう。