【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。

丸峰庵の民事再生手続きは未だ不透明

 民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。

丸峰観光ホテルを運営する㈱丸峰観光ホテル(星保洋社長)と、丸峰黒糖まんじゅうの製造・販売や飲食店経営などを行う関連会社㈱丸峰庵(同)が地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは今年2月28日。負債総額は2022年3月期末時点で、同ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円に上った。

 本誌は4月号で民事再生を阻む諸課題を指摘。さらに5月号では元従業員の証言をもとに星氏の杜撰な経営を明らかにしたが、債権者、元従業員、同業者らが揃って疑問を呈していたのは、星氏が「自主再建を目指し、状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する」との再生方針を示したことだった。

 債権者らは「自主再建ができるなら多額の負債を抱えることはなかったし、民事再生に頼らなくても済んだはず」と呆れた。大方の意見は、スポンサーを見つけ、星社長は退任し、新しい経営者のもとで再生を目指すべきというものだった。

 丸峰観光ホテルは民事再生法の適用申請後も営業を続けていた。芦ノ牧温泉で働く人によると「黒字にはなっていないだろうが、週末を中心に宿泊客はそれなりにいますよ」。

 記者も夏休み中の月曜日の朝、チェックアウトの時間に合わせて駐車場をのぞいてみたが、満車とまではいかないまでも首都圏ナンバーの車が多く止まっていた。

 「ただ、従業員が次々と辞めていて、どこも人手不足ということもあり、他の温泉街の旅館が『ウチに来てくれそうな人はいないか』と熱心にリクルートしていました」(同)

 再生の行方が見えてこない中、市内では「大手リゾートホテルが関心を示しているようだ」とのウワサも聞かれたが、7月25日、会津乗合自動車(通称・会津バス)が会見を開き、スポンサーとして支援することを正式に表明した。

 会津乗合自動車㈱(会津若松市、佐藤俊材社長)は会津地方一円で路線・高速・貸切バスやタクシーを運行している。直近5年間の決算は別表①の通りで、コロナ禍により赤字が続いていたが、昨期は黒字に回復した。

表① 会津乗合自動車の業績

売上高当期純利益
2018年23億9900万円1300万円
2019年23億8200万円▲1400万円
2020年16億6700万円▲2億7300万円
2021年14億4700万円▲5000万円
2022年17億5000万円4500万円
※決算期は9月。▲は赤字。

 会津乗合自動車は東日本最大級の公共交通事業を展開する「みちのりグループ」の傘下にある。㈱みちのりホールディングス(東京都千代田区、松本順社長)を頂点に、会津乗合自動車のほか岩手県北バス、福島交通、関東自動車、茨城交通、湘南モノレール、佐渡汽船、みちのりトラベルジャパンで構成され、それぞれの会社もバス以外に旅行、整備、保険などのグループを形成。みちのりホールディングスは親会社として各社に100%出資(佐渡汽船のみ86%出資)している。同グループ全体の従業員数は5300人余、バスは2400台余に上る。

 会津乗合自動車のプレスリリースによると、同社とみちのりホールディングスが丸峰観光ホテルのスポンサーに指名され、7月14日に基本合意書が締結された。正式なスポンサー契約は8月末に交わされる予定。

 会津乗合自動車は民事再生計画の成立を前提に、星保洋氏が保有する全株式を無償で取得・消却したうえで第三者割当の方法により募集株式の全てを同社に割り当て、同社が全額払い込む100%減増資スキームで出資を行う。丸峰観光ホテルの新社長には佐藤氏が就き、同ホテルはみちのりグループの傘下に入る。

 「バス会社がホテルを経営?」と思われる人もいるかもしれないが、会津乗合自動車が明かしている支援方針は興味深い。

 会津乗合自動車は観光を基幹産業とする会津地方でバスとタクシーを走らせるだけでなく、旅行事業、人材派遣事業、売店事業を展開している。丸峰観光ホテルがある芦ノ牧地区にも路線バスを走らせている。これらの経営資源を生かし、ホテルと地元観光地との周遊ルートや旅行商品をつくり、交通と宿泊との連携や着地型商品の開発につなげ、バスとホテルがウィンウィンの関係になる仕組みを生み出そうとしている。

 前出・芦ノ牧温泉で働く人も、こんな期待を寄せる。

 「芦ノ牧は市の中心部から遠く離れ、公共交通は会津鉄道があるが、最寄りの芦ノ牧温泉駅から温泉街までは4㌔もある。高齢者やインバウンドの旅行客が増えているのに、訪れる手段がマイカーかレンタカーしかないのは厳しいが、会津バスが芦ノ牧の弱点である脆弱な交通をカバーしてくれれば、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館にとっても有り難いはず」

 期待の背景にあるのは、それだけではない。

 「会津バスが芦ノ牧全体を気にかけてくれていることが有り難い。実際、佐藤社長と話をしたら『全体が良くならないと自分の所も良くならない』と言っていましたからね。もし『自分のバスとホテルさえ良ければいい』という考え方なら、温泉街は会津バスがスポンサーになったことを歓迎しなかったと思います。大手の〇〇や××(※実名を挙げていたが伏せる)だったら地元と交わろうとせず、周囲と釣り合いの取れない料金設定にして客を囲い込む『自分さえ良ければいい経営』をしていたのではないか」(同)

 とはいえ、観光地とホテルをバスでつなぐのはいいとして、会津乗合自動車はホテル経営のノウハウを持ち合わせていない。そこで登場するのが、前述・みちのりグループの傘下にある岩手県北バスの関連会社㈱みちのりホテルズ(岩手県盛岡市、松本順社長)だ。

 同社は岩手県内で「つなぎ温泉・四季亭」(22室)と「浄土ヶ浜パークホテル」(75室)を経営し、新潟県佐渡市にある同グループの「SADO二ツ亀ビューホテル」(20室)も受託運営している。別表②の決算を見ると、コロナ禍でも一定の売り上げと利益を計上しているが、岩手県北バスが観光地とホテルをバスでつないでいることが安定した宿泊客確保につながっているという。

表② みちのりホテルズの業績

売上高当期純利益
2018年2億1800万円130万円
2019年2億3400万円1200万円
2020年2億3700万円1700万円
2021年2億3000万円1500万円
2022年2億3000万円――
※決算期は3月。―は不明。

 このノウハウが丸峰観光ホテルにも導入される。株式は会津乗合自動車が100%所有するが、運営はみちのりホテルズに委託され、支配人も同社から派遣される。

「地元の企業が守るべき」

スポンサーに名乗りを上げた会津乗合自動車
スポンサーに名乗りを上げた会津乗合自動車

 おおよその支援方針は理解できたが、筆者はさらに詳細に迫ろうと会津乗合自動車に取材を申し込んだ。すると、丸峰観光ホテルと正式なスポンサー契約を交わす直前に佐藤俊材社長が取材に応じてくれた。

 最初に、支援を決めた理由を佐藤社長はこう説明した。

 「弊社はバス会社ですが、目的もなくバスに乗る人はいません。人は目的地がないとバスに乗らないし、目的地が活性化しないとバス会社も活性化しません。そうした中で観光会津を代表する温泉街の旅館がなくなれば、弊社にとってもダメージになります。丸峰さんには再建を果たしてほしいと思っていましたが、同時に、他社に任せていては難しいのではないかと考えるようになり、直接支援することを決めました」(以下、断りがない限りコメントは佐藤社長)

 丸峰観光ホテルのメーンバンクで最大債権者の会津商工信用組合からも、仮に全国チェーンのホテルがスポンサーになった場合、コストが重視され、地元企業との取引が打ち切られたり、同ホテルから「会津らしさ」が薄まってしまう懸念が示されたという。

 「ならば、地元の企業が地元の人たちと協力し、地元のホテルを守っていくべきだと思ったことも支援を決めた理由の一つです」

 会津乗合自動車ではデューデリジェンス(投資対象となる企業の価値やリスクを調査すること)を行った後、7月に行われたスポンサー選定入札に臨み、スポンサー候補に指名されたという。ちなみに、選定入札には他社も参加したようだが「どこだったのか、何社いたのかは分かりません」とのこと。

 佐藤社長の根底にあるのは「自分の所さえ良ければいい、というやり方では会社は良くならない」との考え方だ。

 「芦ノ牧温泉全体を活性化していかないとダメだと思うんです。そのためには大川荘さん、観光協会、旅館協同組合などと連携し、行政にも廃旅館の解体を進めてもらうなど、関係する人たちみんなで知恵を出し合うことが大切になる」

 そうやって芦ノ牧温泉を変えていけば、訪れたいと思う人が増え、バスの乗客も増え、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館も宿泊客が増える好循環が生まれる、と。

丸峰庵は支援の対象外

丸峰庵
丸峰庵

 「幸い、私たちにはノウハウがある」と佐藤社長は自信を見せる。

 「丸峰観光ホテルの運営を委託するみちのりホテルズは、岩手県と新潟県佐渡市の旅館運営で優れた実績を上げ、その成果は決算にも表れています。そこに、みちのりグループの強みを加えれば、経営再建は十分可能と見ています」

 みちのりグループの強みとは、傘下にある他のバス会社との連携だ。とりわけ関東自動車(栃木県宇都宮市)、茨城交通(茨城県水戸市)とは芦ノ牧温泉が両県と2~3時間の距離しか離れていない「小旅行圏内」に位置するため、魅力的な旅行商品を開発すればグループ力で集客につなげることが見込めるという。

 「さらに、みちのりグループにはインバウンドをターゲットにしたみちのりトラベルジャパンという会社もあり、閑散期の冬には雪を目当てにしたタイや台湾からの旅行客を呼び込むことも視野に入っています」

 今後のスケジュールは8月末に正式にスポンサー契約を交わした後、債権者集会に臨み、再生計画が承認されれば前述した100%減増資スキームで出資を行う(※今号発売時には余程のトラブルがない限り実行されていると思われる)。

 「出資が完了したら、10、11月の観光シーズンに間に合わせるべく、すぐに施設の改修に着手します。従業員は引き続き雇用します。新聞には80人とありましたが、実際はそこまではいません。債権者への対応は承認された再生計画に従って粛々と進めます。債権者との取引も継続していく考えです」

 気になるのは、会津乗合自動車が株式を100%所有し、社長が佐藤氏に代わった後、星保洋氏の立場はどうなるのかということだ。

 「星氏は丸峰観光ホテルとは無関係になるので、役員からも退いていただきます」
 ただし、と佐藤社長は続ける。

 「弊社がスポンサーになったのは丸峰観光ホテルだけで、丸峰庵は支援の対象ではありません」

 なんと会津乗合自動車は、丸峰庵の民事再生計画には一切関与していないというのだ。佐藤社長によるとスポンサー選定入札では両社セットでの支援を申し入れたが「丸峰庵は弊社が示した条件では考え方が合わないとなったようです」。

 丸峰庵は丸峰黒糖まんじゅうを製造・販売しているが、それをホテルで取り扱うかは他の土産品同様、今後の話し合いで決めるという。

 丸峰観光ホテルの再生にメドがついたのは喜ばしいことだが、丸峰庵の民事再生手続きがどうなるかは未だに不透明なわけ。今後のポイントは債権者集会における債権者の判断と、星氏の会社への関わり方だが、丸峰庵の登記簿謄本(8月24日現在)を見ると社長は星氏のままだった。

※民事再生申請代理人のDEPT弁護士法人(大阪市)に丸峰庵の民事再生手続きの現状について問い合わせたが、「担当者が不在」と言われ、締め切りまでに返答を得られなかった。



佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
ゼビオ「本社移転」の波紋
丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

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