5月22日付の福島民報に次のような記事が掲載された。
《ラジオ福島は21日、取締役会を開き、代表取締役社長に横山貴一専務取締役経営戦略本部長営業・放送担当(63)を昇任する役員人事を内定した。6月18日の株主総会、取締役会で決定する》
新社長となる横山氏は東邦銀行出身で人事部長、東邦情報システム社長、常務取締役営業本部長などを歴任。定年退職後の昨年、ラジオ福島に専務として入社し、そこから1年で社長に昇任した(表1参照)。
表1 ラジオ福島の新役員構成
横山 貴一 | 代表取締役社長 |
経営戦略本部長・営業本部長 | |
紺野 弘高 | 取締役経営戦略本部副本部長 |
兼営業本部副本部長兼営業局長 | |
佐藤 尚樹 | 取締役経営戦略本部副本部長 |
兼営業本部副本部長兼郡山総支社長 | |
中尾 富安 | 取締役(福島民報社専務取締役) |
日下部 達 | 取締役(東北電力執行役員福島支店長) |
齊藤 信宏 | 取締役(毎日新聞社執行役員) |
渡辺 義信 | 取締役(県議) |
松本 良市 | 監査役(前専務取締役営業本部長) |
立川 剛人 | 監査役(毎日新聞社執行役員) |
ラジオ福島は1953年、福島民報社が県内の企業、団体、一般公募株主に参加を呼びかけ発足した。出資比率は表2の通り。なおフクコー・アドは福島交通グループの広告会社。
表2 ラジオ福島の出資比率
福島民報社 | 24.2 |
毎日新聞社 | 20.6 |
福島県 | 12.5 |
フクコー・アド | 4 |
東邦銀行 | 3.2 |
東北電力 | 2.8 |
郡山市 | 1.8 |
JA福島中央会 | 1.3 |
いわき市 | 1.3 |
常磐興産 | 1.2 |
常陽銀行 | 1.2 |
福島信用金庫 | 1.2 |
初代社長は福島民報社の飛島定城氏で、福島交通グループを率いた小針暦二氏の時代も含め、社長は基本的に筆頭株主の福島民報社から派遣されていた。株主とは言え、東邦銀行出身の役員が社長に就くのは異例と言える。なお現社長である花見政行氏(福島民報社出身)は退任して相談役に就任する予定だという。
異例の人事の理由について、ラジオ福島、福島民報社に取材を申し込んだが断られた。業界関係者の間では、厳しい経営状況を立て直す目的があるのではないか、という見立てがもっぱらだ。
民間信用調査機関によると、同社の売上高と当期純損益は表3の通り。
表3 ラジオ福島の売上高と当期純損益
2018年 | 11億2300万円 | ▲4253万円 |
2019年 | 11億0000万円 | ▲4514万円 |
2020年 | 10億4500万円 | ▲4244万円 |
2021年 | 8億0100万円 | 479万円 |
2022年 | 7億6500万円 | ▲5808万円 |
2023年 | 8億0100万円 | 137万円 |
※▲はマイナス
近年のラジオ離れ、コロナ禍の影響による広告収入減が売上減に直結した。加えて打撃となったのはFM補完中継局の整備費用だ。全国のAMラジオ局では、難聴地域が多く設備の維持・更新の負担が大きいAM放送からFM放送への転換を進めている。そのための設備投資費が経費を圧迫し、23年3月期は多少持ち直したが、厳しい状況が続いていることは違いない。
ただ、新聞社が出資する放送局のトップに元銀行マンが就くのはあまり例がないようで、業界関係者は今後の動向を注視している。昨年横山氏の主導で〝聖域なき経費削減〟の取り組みが始まって以降、社員が複数退職したという話も聞こえており、あらゆる意味で新社長の経営手腕に注目が集まる。