「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

 かつて雨後の筍のごとく各地につくられた場外ギャンブル施設が今、青息吐息にある。インターネット投票への移行が年々進んでいたところに新型コロナが追い打ちをかけ、場外施設に足を運ぶ人が急速に減っている。客離れが進めば売上が減るのは言うまでもないが、公営競技自体はネット投票に支えられ好調。場外施設は時代の大きな変化により、役割を失いつつある。(佐藤仁)

県民の〝賭け金〟は少なくとも年100億円超

県民の〝賭け金〟は少なくとも年100億円超

 県内には福島市に福島競馬場、西郷村に場外馬券売場のウインズ新白河、いわき市にいわき平競輪場、郡山市に同競輪郡山場外車券売場がある。このほか場外車券売場として福島市にサテライト福島、二本松市にサテライトあだたら、喜多方市にサテライト会津、南相馬市にクラップかしま、場外馬券売場として磐梯町にオープス磐梯、場外舟券売場として玉川村にボートピア玉川がある。サテライト福島では車券だけでなく舟券と馬券も発売している。

 かつては飯舘村にニュートラックいいたてという場外馬券売場もあったが、震災・原発事故で閉鎖。また実現はしなかったが、猪苗代町、会津美里町では舟券、白河市では舟券とオートレースの場外施設計画が浮上したこともあった。今から20年以上前の出来事だ。

 そうした乱立模様を本誌は「ギャンブル王国ふくしま」と表して報じてきたが、それら場外施設は今どうなっているのか。まずは県内に本場があるウインズ新白河といわき平競輪郡山場外から見ていきたい。

 ウインズ新白河は平成10年10月に東北地方初のJRA場外施設として西郷村にオープンした。

 JRAは本場の年間売上と入場者数は公表しているが、ウインズの数値は公表していない。念のためJRA広報にも問い合わせたが「答えられない」とのことだった。

 では、福島競馬場の売上と入場者数はどうなっているのか。表①を見ると、売上は横ばいから令和に入って増加。令和3年が落ち込んだのは2月に起きた福島県沖地震で施設が損傷し、開催が3回から2回に減ったことが原因だが、もし3回開催されていたら単純計算で1400億円を超えていたとみられる。一方、入場者数は23万人前後で推移していたのが令和2年以降激減。新型コロナで無観客や入場制限せざるを得なかったことが響いた。

表① 福島競馬場の売上と入場者数の推移

H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4
売  上(円)1186億1216億1138億1203億1228億1210億1289億1331億960億1453億
入場者数(人)24.2万26.6万23.3万23.6万23.0万24.1万23.6万0.6万3.3万12.0万
※開催数は通常年3回だが、平成26年は4回、令和3年は2回だった   

 これを見て気付くのは、新型コロナで入場者数が減ったのに売上は伸びていることだ。背景にはインターネット投票の急速な拡大がある。

 図①はJRAの売得金の推移だ。平成9年はJRAにとってピークの売上4兆円を記録したが、この時、売上に最も寄与したのはウインズ等の2兆0827億円で、電話・インターネット投票は9273億円だった。その後、ネット投票の割合が増え、新型コロナが発生した令和2年に急増すると、4年は売上3兆2700億円の8割超に当たる2兆8000億円を占めるまでになった。対するウインズは3054億円と1割にも満たない。

図①  JRAの売得金の推移

図①  JRAの売得金の推移
 https://www.jra.go.jp/company/about/financial/pdf/houkoku04.pdf
23ページ目

 場外施設はネット投票とは無関係で、足を運んだ客が馬券を買わなければ売上に結び付かない。そう考えると、ウインズ新白河が好調とは考えにくく、売上、入場者数とも減少傾向にあると見ていい。

 場外施設の売上を探るヒントに設置自治体に納める協力費がある。公営競技の施行者(自治体等)は、施設の売上に応じて施設が置かれている自治体に環境整備費などの名目で協力費を支払っている。金額は設置時に「年間売上の何%」と決められ、相場は0・5~1%。つまり協力費が1%なら、100倍すれば施設の売上が弾き出せる。売上は「地元住民から吸い上げた金」とも言い変えられる。

 協力費についてはもう少し説明が必要だ。例えば〇〇場外施設でA競馬、B競馬、C競馬の馬券を発売しているとする。施設における各競馬の年間売上はA競馬1000万円、B競馬1200万円、C競馬1500万円、施設がある自治体への協力費が1%とするとA競馬10万円、B競馬12万円、C競馬15万円。これを各競馬の施行者が自治体に納め、その合計(37万円)が施設から支払われた協力費と解釈されるわけ。

 ただしJRAには何%といった相場がなく、要綱にある計算手法に基づいて算出される。なお要綱は非公表のため、計算手法は不明。

 福島競馬場は福島市に「競馬場周辺環境整備寄付金」という名称で毎年2億数千万円納めている。同寄付金は一般財源に入り、競馬場周辺などの環境整備費に充てられている。ウインズ新白河も西郷村に「JRA環境整備寄付金」という名称で毎年2300万円前後納めている。

本場の売上は全体の1%

いわき平競輪郡山場外(郡山市)
いわき平競輪郡山場外(郡山市)

 いわき平競輪郡山場外の歴史は古い。設置されたのは平競輪場の開設から9カ月後の昭和26年11月。現在のJR郡山駅東口に新築移転したのは昭和58年。その後、マルチビジョンや特別観覧席が設置され、平成18年にリニューアルして今に至る。

 いわき市公営競技事務所によると郡山場外の年間売上と入場者数は表②の通り。どちらも平成25年度をピークに減っているが、入場者数は令和3年度以降、新型コロナの影響から若干持ち直している。

 これを本場のいわき平競輪場と対比すると、福島競馬場とウインズ新白河の関係とよく似ていることが分かる。同じく表②を見ると、売上が減少している郡山場外とは逆に、本場の売上は平成28年度を底に回復しているのだ。令和4年度は平成28年度の倍の売上を記録した。

表② いわき平競輪場と郡山場外の売上と入場者数の推移

H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4
いわき売  上(円)191億152億158億147億207億203億152億218億244億289億
入場者数(人)9.7万7.9万9.0万8.1万10.6万7.8万11.5万8.1万7.6万11.9万
郡 山売  上(円)4.2億3.1億3.1億2.4億2.4億2.4億1.8億1.5億1.6億1.4億
入場者数(人)3.9万3.2万3.4万2.9万2.9万2.8万1.9万1.7万1.8万1.9万
※郡山場外の入場者数は本場開催時のもの


 本場の売上が増えた要因はJRAと同じくネット投票の急拡大にある。図②は競輪施行者全体の売上額を示したものだが、2兆円近い売上があった平成3年度はネット投票の割合は1割にも満たず本場が8割を占めた。それが令和4年度には真逆になり、売上1兆0908億円のうち8割がネット投票で8551億円、本場はたった1%の148億円にとどまっている。

図2 競輪施行者全体の売上額の推移

図2 競輪施行者全体の売上額の推移
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/sharyo_kyogi/pdf/018_01_00.pdf 2ページ目

 ならば、ネット投票の恩恵にあずかれない郡山場外は今後どうなるのか。いわき平競輪場は売上から毎年4億円前後をいわき市に納めているのに対し、郡山場外(施行者のいわき市)が郡山市に納めている「郡山場外車券売場周辺環境整備負担金」は平成29年度2260万円から毎年度減り続け、令和4年度1030万円に落ち込んでいる。

 郡山市財政課によると、同負担金は平成28年度まで定率制で2000万円納められていたが、いわき市と協議し29年度から「郡山場外における前々年度の売上の0・7%」に変更された。理由は売上が減る中で定率制の維持が困難になったため。ただ「最も多い時で7000万円とか4000万円の時代もあった」(郡山市財政課)というから、郡山場外のかつての好調と現在の凋落が見て取れる。

 他の場外車券売場の現状も見ていこう。サテライト福島は平成18年4月にオープンした。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売。1日最大3場の車券が買える。開催スケジュールを見ると休館日はなく、毎日どこかの車券が発売されている。

 施設の設置者は㈱サテライト福島(福島市瀬上町)。

 10月某日の午後、施設をのぞいてみると、220ある観覧席に対し客は30人くらいしかいない。高齢者ばかりで、若者は皆無。

訪れる客は高齢者ばかり

サテライト福島
サテライト福島

 サテライト福島が扱っているのは車券だけではない。同施設は3階建てで、1階で車券、2階で舟券、3階で馬券が発売されている。

 2階は平成23年に舟券売場に改装してオープンした。ボートレース桐生をメーンに各地の舟券を発売。1日最大8場もの舟券が買える。開催スケジュールを見ると、こちらも休館日はゼロ。

 観覧席は100席あるが、客は30人くらいで高齢者ばかりだった。

 3階は平成26年に馬券売場に改装してオープンした。南関東公営競馬(大井、船橋、浦和、川崎競馬)、盛岡競馬の全競走と各地の一部馬券を発売。JRAのレースがある土日は休館している。

 施設の設置者は㈱ニュートラックかみのやま(山形県上山市)。

 観覧席は190席あるが客は40人くらいでこちらも高齢者が中心。

 サテライト福島の売上(推計)は表③の通り。今回の取材で車券を発売する施設は売上の0・5%、馬券を発売する施設は同1%、舟券を発売する施設は同0・5~1
%を協力費として地元自治体に納めていることが分かった。各施設は売上や入場者数を明かしていないが、各自治体は毎年度、施設(競技の施行者)から協力費がいくら納められているか公表している。

 例えば、サテライト福島からは令和4年度、車券分として310万円(納入者はいわき平競輪の施行者のいわき市など)、舟券分として440万円(納入者はボートレース桐生の施行者の群馬県みどり市など)、馬券分として500万円(納入者は特別区競馬組合など)、計1250万円が福島市に「寄付金」という名目で納められた。これをもとに推計すると、同施設の同年度の売上は19億8000万円となる。福島市民を中心に、これほどの巨費がギャンブルに吸い上げられているのかと思うと暗澹たる気持ちになる。10年間の売上合計は275億5000万円。

 平成18年6月にオープンしたサテライトあだたらは、いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。日中からナイターまで連日休みなく開館しているのはサテライト福島と同じだ。

 施設の設置者は㈲本陣(茨城県八千代町)。

 サテライトあだたら(施行者のいわき市など)から二本松市に納められている「環境整備費」は平成25年度1100万円、令和4年度530万円。協力費は売上の0・5%。これをもとに推計した売上は表③の通り。平成25年度は22億円、令和4年度は10億6000万円、10年間の合計161億円。10年経って売上が半減しており、経営はかなり厳しいのではないか。

表③ 県内場外施設の売上の推移(推計) (円)

H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4
サテライト福島27.0億35.1億36.4億33.4億29.8億25.9億22.5億19.2億23.4億19.8億
サテライトあだたら22.0億22.0億21.6億19.6億17.0億13.4億12.6億10.8億11.4億10.6億
サテライト会津14.4億13.6億13.4億11.8億11.2億10.6億9.8億8.2億9.2億8.6億
クラップかしま19.6億23.4億22.6億22.8億19.0億17.6億15.4億12.4億9.0億7.8億
オープス磐梯7.9億6.9億6.9億5.8億5.2億5.9億4.4億2.8億3.4億3.6億
ボートピア玉川29.9億29.7億29.7億31.4億29.1億28.9億28.2億28.0億29.5億25.4億
※車券を発売しているサテライト福島、あだたら、会津、クラップかしま、馬券を発売しているオープス磐梯は「売上の0.5%」を施設が置かれている自治体に協力費として納めている。
※舟券を発売しているボートピア玉川は「売上の1%」を施設が置かれている玉川村に納めている。
※サテライト福島では車券のほか馬券と舟券も発売。馬券分として「売上の1%」、舟券分として「同0.5%」を福島市に納めている。

 サテライト会津のオープンは平成6年10月。新潟県弥彦村の弥彦競輪をメーンに各地の車券を発売している。通常は1日2場、月に数日あるナイター開催時は3場の車券が買える。休館は月に1、2日。

サテライト会津(喜多方市)
サテライト会津(喜多方市)

 施設の設置者は㈱メイスイ(いわき市)だったが、現在の管理者は㈱サテライト会津(喜多方市)。

 10月某日、施設を訪れると、1階の460ある観覧席に対し客は60人超、2階の特別観覧席はゼロ。椅子とテーブルには書きかけのマークカードや新聞が散乱していた。
 サテライト会津はその立地から山形方面の来客も見込まれていたが、駐車場に止まっていた車六十数台を確認すると、ほとんどが会津ナンバー(そのうち3分の1が軽トラ)。山形ナンバーは2台しかなかった。

 サテライト会津(施行者の弥彦村など)から喜多方市に納められている「周辺環境整備及び周辺対策に関する交付金」は平成25年度720万円、令和4年度430万円。協力費が減っているということは売上も減っているわけで(表③参照)、入場者数も「令和3年度は6万7000人、4年度は6万1000人と聞いている」(喜多方市財政課)というから、年300日稼働として1日二百数十人にとどまっている模様。10年間の売上合計110億8000万円。

 最後はクラップかしま(旧サテライトかしま)。オープンは平成10年10月。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。休館日はなく1日最大6場の車券が買える。

 施設の設置者はエヌエヌオー情報企画㈱(いわき市)だったが、平成19年に花月園観光㈱(神奈川県横浜市)に所有権が移った。震災・原発事故後は2年間休止していたが、25年6月に再開。令和3年7月からは㈱チャリ・ロト(東京都品川区)に運営が代わり、施設名も今のクラップかしまに変更された。

 クラップかしま(施行者のいわき市など)から南相馬市鹿島区に納められている「周辺環境整備費」は平成26年度1170万円、令和4年度390万円。令和に入ってからは激減している。背景には新型コロナで客足が途絶えたことと、新しい購入システムであるチャリロトの導入でキャッシュレス化が進み、現金志向の高齢者が敬遠したことがある。令和3、4年の福島県沖地震で建物が損傷したことも影響した。
 南相馬市鹿島区地域振興課によると協力費は当初売上の1%だったが、平成20年に0・8%、21年に0・7%、22年に0・5%に引き下げられた。これをもとに売上を推計すると、平成25年度19億6000万円、令和4年度7億8000万円。10年間の合計169億6000万円。一方、1日の入場者数は当初700人。その後、次第に減っていき現在180人前後。

売上絶好調の公営競技

オープス磐梯(磐梯町)
オープス磐梯(磐梯町)

 残る二つの場外施設は関係する競技の現状も交えて紹介したい。

 オープス磐梯は新潟県競馬組合の場外馬券売場として平成12年12月にオープンしたが、14年に新潟県競馬が廃止され、その後は南関東公営競馬の馬券を発売している。

 施設を所有するのはマルト不動産㈱(会津若松市)、同社から管理を任されているのは㈱オープス磐梯(磐梯町)、運営は特別区競馬組合(大井競馬を主催する特別地方公共団体)が100%出資する㈱ティーシーケイサービス(東京都品川区)。

 オープス磐梯(施行者の特別区競馬組合など)から磐梯町に納められている「販売交付金」は平成25年度780万円、令和4年度360万円。協力費は売上の1%なので、これをもとに売上を推計すると平成25年度7億8000万円から令和4年度3億6000万円に半減している(表③参照)。10年間の合計52億8000万円。

 このように場外施設は非常に苦戦しているが、実は地方競馬は今、過去最高の経営状況にある。令和4年度は地方競馬にとって初の売上1兆円超えを記録した。

 興味深いのは、平成3年度に1500万人だった入場者数が年を追うごとに減り、新型コロナが拡大した令和2年度には74万人まで落ち込んだにもかかわらず、売上は平成23年度以降伸びていることだ。原因は前述しているように、ネット投票の急拡大にある。令和4年度の売上1兆0704億円のうち、ネット投票は9割に当たる9621億円を占めた。これに対し、場外施設は1割にも満たない817億円。オープス磐梯が苦戦するのは当然だ。

 ボートピア玉川はボートレース浜名湖の舟券をメーンに発売する場外施設として平成10年10月にオープンした。地元住民によると「舟券を買うだけでなく、施設が綺麗で食堂も安いので、高齢女性の憩いの場になっている」というから他の場外施設とは少し趣きが異なるようだ。

 施設の設置者は㈱エム・ビー玉川(群馬県高崎市)だったが、平成16年に浜名湖競艇企業団に売却。エム・ビー玉川は同年9月に解散した。

 ボートピア玉川(施行者の浜名湖競艇企業団など)から玉川村に納められている「環境整備協力費」は平成25年度2990万円、令和4年度2540万円。他の場外施設より高額で推移している。協力費は売上の1%なので、これをもとに推計すると売上も毎年30億円前後で安定していることが分かる(表③参照)。10年間の売上合計290億円。

 公営競技の売上が近年好調なのは前述したが、ボートレースは特に好調だ。一般社団法人全国モーターボート競走施行者協議会によると、売上は平成22年度に8434億円で底を打った後、翌年度から回復。令和3年度は2兆3900億円、4年度は2兆4100億円を記録した。地方競馬は1兆円超えで過去最高と書いたが、ボートレースはその2倍も売り上げている。

 背景には、やはりネット投票の急拡大が影響している。令和4年度は全体の8割に当たる1兆8800億円がネット投票による売上だった。

 ボートピア玉川は他の場外施設と違って好調をキープしているが、ネット投票の割合がさらに増えた時、売上にどのような変化が表れるのか注視する必要がある。

地元住民から吸い上げた金

地元住民から吸い上げた金

 設置当時、地域振興に寄与すると盛んに言われた場外施設だが、例えば雇用の面では設置業者のほとんどが「地元から100以上雇う」などと説明していた。しかし今回の取材で各施設をのぞいてみると、インフォメーション窓口に1、2人、食堂に1、2人、警備員3、4人、清掃員2、3人という具合。発売機や払戻機は自動だから人は不要。いわき平競輪場(郡山場外も含む)は65人を直接雇用し、警備や清掃などを地元業者に委託して計100人の雇用につなげ、福島競馬場もレースがある週末に多くの雇用を生み出しているが、場外施設が期待された雇用に寄与しているようには見えない。

 協力費も設置当初は5000万~1億円などと言われていたが、現状は数百万円。これでどんな地域振興ができるというのか。本場近くの学校や場外施設周辺の道路が協力費によって綺麗になった事実はあるが、そもそも地元住民から吸い上げた金が回り回って自治体の財源になっていること自体、地域振興とは言い難い。かえってギャンブル依存症の人を増やした可能性があることを考えると、金額でははかれないマイナスの影響をもたらしたのではないか。内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局が令和元年9月に公表した資料によると「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合は平成29年度全国調査で成人の0・8%(70万人)と推計されている。政府はギャンブル等依存症対策基本法を施行するなど対策に乗り出しているが、本場や場外施設にギャンブル依存症の相談ポスターが貼られているのは違和感を覚える。

 場外施設の売上は「地元住民から吸い上げた金」と前述したが、ここまで取り上げた施設(ネット投票が含まれる福島競馬場、いわき平競輪場、売上不明のウインズ新白河は除く)の過去10年の売上合計は1080億6000万円。地域振興という名のもとに、少なくとも福島市の今年度一般計当初予算(1147億円)に匹敵する金がギャンブルに消えたことは異様と言うべきだろう。

 しょせんギャンブルは、胴元が儲かる仕組みになっている。公営競技のいわゆる寺銭(施行者が賭ける者に配分せず自ら取得する割合=控除率)は25%。払戻率は75%。

 窓口や発売機で買うのが当たり前だった時代から、ネット投票の拡大により場外施設の役割は終わりに近付いている。今、施設を訪れている客はネットに疎い高齢者ばかり。10年後、この高齢者たちが来なくなったら施設はガランとしているはずだ。

役割終えた場外施設

役割終えた場外施設

 実際、全国では場外施設の閉鎖が相次いでいる。北海道白糠町のボートピア釧路は開業から5年後の平成11年6月に18億円の赤字を抱えて閉鎖。千葉県習志野市のボートピア習志野は新型コロナの影響で令和2年7月に閉鎖された。新潟県妙高市のサテライト妙高と宮城県大和町のサテライト大和も来年3月末で閉鎖することが決まった。

 ボートピア釧路は見通しの甘さが引き金になったが、あとの3施設は新型コロナとネット投票による低迷が原因。年間売上は10億円未満だったようだ。県内の施設も状況は同じ。

 こうした中、宮城県仙台市には新しい時代に入ったことを感じさせる施設がある。JRAが昨年11月にオープンした全国初の馬券を発売しない施設「ヴィエスタ」だ。若いライト層をターゲットにレースのライブ映像や過去の名馬・名レース、競馬関連情報などを大型ワイドスクリーンで放映。収容人数75人で、無料のエリアや有料のラウンジ席がある。馬券は発売していないがスマホは持ち込めるので、映像を見ながらネット投票することは可能。JRAは「競馬の魅力を感じてもらうための施設。ネット投票は想定していない」と言うが、そんなはずはないだろう。

 ちなみにパチンコ業界は、ピーク時30兆円と言われた市場規模が2022年は14・6兆円と半減。内訳はパチンコ8・8兆円、パチスロ5・8兆円。ホールの売上が下がり、コロナ禍で閉店・廃業が相次いだだけでなく、有名メーカーの経営も立ち行かなくなっている。

 昭和後半から平成にかけて公営競技の売上を支えたのは場外施設だった。本場の入場者が減る中、それをカバーするため施行者は各地に施設をつくった。中には強引なやり方で設置しようとして地元住民とトラブルに発展したケースもあり、大阪、名古屋、高松、新橋、沖縄では工事差し止め訴訟が起こされた。

 それから30年余。場外施設は今、往時の勢いを失っている。閉鎖へと向かうのは避けられないだろう。

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

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