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  • 苦戦する福島県内3市の駅前再開発事業

    苦戦する福島県内3市の駅前再開発事業

     県内の駅前再開発事業が苦戦している。福島、いわき、郡山の3市で進められている事業が、いずれも着工延期や工期延長に直面。主な原因は資材価格の高騰だが、無事に完成したとしても施設の先行きを不安視する人は少なくない。新型コロナウイルスやウクライナ戦争など不安定な情勢下で完成・オープンを目指す難しさに、関係者は苛まれている。(佐藤仁) 資材高騰で建設費が増大  地元紙に興味深い記事が立て続けに載った。 「JR福島駅東口 再開発ビル1年先送り 着工、完成 建設費高騰で」(福島民報5月31日付) 「JRいわき駅前の並木通り再開発事業 資材高騰、工期延長 組合総会で計画変更承認」(同6月1日付) 「郡山複合ビル 完成ずれ込み 25年11月に」(福島民友6月1日付) 現在、福島、いわき、郡山の各駅前では再開発事業が進められているが、その全てで着工延期や工期延長になることが分かったのだ。 福島駅前では駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、分譲マンション(13階建て)、駐車場(7階建て)などを建設する「福島駅東口地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は福島駅東口地区市街地再開発組合。 いわき駅前では国道399号(通称・並木通り)の北側1・1㌶に商業・業務棟(4階建て)、分譲マンション(21階建て)、駐車場(5階建て)などを建設する「いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者はいわき駅並木通り地区市街地再開発組合。 郡山駅前では駅前一丁目の0・35㌶に分譲マンションや医療施設(健診・透析センター)などが入るビル(21階建て)を建設する「郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は寿泉堂綜合病院を運営する公益財団法人湯浅報恩会など。 三つの事業が直面する課題。それは資材価格の高騰だ。当初予定より建設費が膨らみ、計画を見直さざるを得なくなった。地元紙報道によると、福島は361億円から2割以上増、いわきは115億円から130億円、郡山は87億円から97億円に増える見通しというから、施工者にとっては重い負担増だ。 資材価格が高騰している原因は、大きく①ウッドショック、②アイアンショック、③ウクライナ戦争、④物流価格上昇、⑤円安の五つとされる(詳細は別掲参照)。 ウッドショック新型コロナでリモートワークが増え、アメリカや中国で住宅建築需要が急拡大。木材不足が起こり価格が高騰した。アイアンショック同じく、アメリカや中国の住宅需要急拡大により、鉄の主原料である鉄鉱石が不足し価格が高騰した。ウクライナ戦争これまで資源大国であるロシアから木材チップ、丸太、単板などの建築資材を輸入してきたが、同国に対する経済制裁で他国から輸入しなければならなくなり、輸入価格が上昇した。物流価格上昇新型コロナの巣ごもり需要で物流が活発になり、コンテナ不足が発生。それが建築資材の運送にも波及し、物流価格上昇が資材価格に跳ね返った。円  安日本は建築資材の多くを輸入に頼っているため、円安になればなるほど資材価格に跳ね返る。  内閣府が昨年12月に発表した資料「建設資材価格の高騰と公共投資への影響について」によると、2020年第4四半期を「100」とした場合、22年第3四半期の建築用資材価格は「126・3」、土木用資材価格は「118・0」。わずか2年で1・2倍前後に増加しており、三つの事業の建設費の増加割合(1・1~1・2倍)とも合致する。 資材価格の高騰は現在も続いており、一時の極端な円安が和らいだ以外は、ウッドショックもアイアンショックも解消の見通しはない。ウクライナ戦争が終わらないうちは、ロシアへの経済制裁も解除されない。いわゆる「2024年問題」に直面する物流も、ますますコスト上昇が避けられない。資材価格の高騰がいつまで続くかは予測不能で、建設業界からは「あと数年は耐える必要がある」と覚悟の声が漏れる。 こうした中で三つの事業は今後どうなっていくのか。現場を訪ね、最新事情に迫った。 福島駅前 解体工事が進む福島駅東口の再開発事業 厳しい福島市の財政  看板が外された複数の建物には緑色のネットが被せられている。人の出入りがない空っぽの建物が並ぶ光景は、もともと人通りが少なかった駅前を一層寂しく感じさせる。 今、福島駅東口から続く駅前通りでは旧ホテル、旧百貨店、旧商店の解体工事が行われている。進ちょくは予定より遅れているが、下水道、ガス、電気などインフラ設備の撤去に時間を要したためという。アスベストの除去はほぼ完了し、解体工事は7月以降本格化。当初予定では終了は来年1月中旬だったが、今年度末までに完了させ、新築工事開始時に建築確認申請を行う見通し。 更地後は物販、飲食、公共施設、ホテルが入るビルや分譲マンションなどが建設される予定だ。ところが福島市議会6月定例会の開会日(5月30日)に、木幡浩市長が突然、 「当初計画より2割以上の増額が見込まれ、工事費縮減のため再開発組合と共に機能品質を維持しながら使用資材を変更したり、施設計画を再調整している。併せて国庫補助など財源確保も再検討している。これらの作業により、着工は2023年度から24年度にずれ込み、オープンは当初予定の26年度から27年度になる見通しです」 と、着工・オープンが1年延期されることを明言したのだ。 施工者は福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、市はビル3、4階に整備される「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を同組合から買い取る一方、補助金を支出することになっている。 同組合設立時の2021年7月に発表された計画では、総事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で、市の補助金支出は54億5000万円になる。 ところが昨年5月に議員に配られた資料には、総事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円と書かれていた。主な理由は延べ床面積が若干増えたことと、資材価格の高騰だった。 市の補助金支出が60億円に増える見通しとなる中、市の負担はこれだけに留まらない。 市は拠点施設が入る3、4階を保留床として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし、前述・議員に配られた資料では190億円に増えていた。市はこのほか備品購入費も負担するが、その金額は開館前に決定されるため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 補助金支出と合わせると市の負担は250億円以上に上るが、資材価格の高騰で建設費が更に増える見通しとなり、計画の見直しを迫られた結果、着工・オープンを1年延期せざるを得なくなったのだ。 元市幹部職員は現状を次のように推察する。 「延期期間を1年とした根拠はないと思う。1年で資材価格の高騰が落ち着くとは考えにくい。市と再開発組合は、この1年であらゆる削減策を検討するのでしょう。事業規模が小さいと削る個所はほとんどないが、事業規模が大きいと削減や変更が可能な個所は結構ある。ただ、それでも大幅な事業費削減にはつながらないと思いますが」 元幹部が懸念するのは、市が昨年9月に発表した「中間財政収支の見通し(2023~27年度)」で、市債残高が毎年増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されていることだ。市も見通しの中で「26年度には財政調整基金と減債基金の残高がなくなり、財源不足を埋められなくなる」「26年度以降の財源を確保できない」という危機を予測している。 「市の借金が急激に増える中、市は今後、地方卸売市場、図書館、消防本部、あぶくまクリーンセンター焼却工場、学校給食センターなどの整備・再編を控えている。市役所本庁舎の隣では70億円かけて(仮称)市民センターの建設も進められている。これらは『カネがなくてもやらなければならない事業』なので、駅前の拠点施設が滞ってしまうと、順番待ちしている事業がどんどん後ろ倒しになっていくのです」 ある元議員も 「既に解体工事が進んでいる以上、『カネがないから中止する』とはならないだろうが、あまりに市の負担が増えすぎると、計画に賛成した議会からも反対の声が出かねない」 と指摘する。 実際、木幡市長の説明を受けて6月15日に開かれた市議会全員協議会では、出席した議員から「どこかの段階で計画をやめることも今後の選択肢として出てくるのか」という質問が出ていた。 「施設が無事完成したとしても、その後は赤字にならないように運営していかなければならない。経済情勢が不透明な中、稼働率やランニングコストを考えると『このまま整備して大丈夫なのか』と議員が不安視するのは当然です」(元議員) 市は「計画の中止は想定していない」としており、資材や工法を変えるなどして事業費を削減するほか、新たな国の補助金を活用して財源確保を目指す方針を示している。 バンケット機能は整備困難  施行者の再開発組合ではどのような見直しを進めているのか。加藤眞司理事長は次のように話す。 「在来工法から別の工法に変えたり、特注品から既製品に変えたり、資材や設備を見直すなど、あらゆる部分を総点検して削れる個所は徹底的に削る努力をしています。例えば電線一つにしても、銅の価格が高騰しているので、使う長さを短くすればコストを抑えられます。市でも拠点施設に使う電線を最短距離で通すなどの検討をしています」 建設費が2割以上増えるなら、単純に10階建てから8階建てに減らせば2割減になる。しかし、加藤理事長は「面積を変更する考えは一切ない」と言う。 「再三検討した結果、今の面積に落ち着いた。それをいじってしまえば、計画を根本から変えなければならなくなります」(同) こうした中で気になるのは、拠点施設以外の商業フロア(1、2階)やホテル(8~12階)などの入居見通しだ。 「商業フロアの1階は地元商店の入居が予定されています。2階は飲食店を予定していますが、福島駅前からは飲食チェーンが軒並み撤退しており、テナントが入るか難しい状況です。場合によってはドラッグストアなど、別の選択肢も見据える必要があるかもしれません」 「ホテルは全国的に需要が戻っています。ただ、どこも従業員不足に悩まされており、今後の人材確保が心配されます」 ホテルと言えば、拠点施設ではさまざまな国際会議の開催を予定しているため、バンケット(宴会・晩餐会)機能の必要性が一貫して指摘されてきた。しかし、バンケット機能を有するホテルは誘致できず、木幡市長も6月定例会で、建設費高騰による家賃引き上げで参入を希望する事業者が見つからないとして「バンケット機能の整備は難しい」と明かしている。 市内では、福島駅西口のザ・セレクトン福島が昨年6月に宴会業務を廃止し、上町の結婚式場クーラクーリアンテ(旧サンパレス福島)も来年3月に閉館するなど、バンケット機能を著しく欠いている状況だ。木幡市長は地元経済界と連携して駅周辺でのバンケット機能確保を目指しつつ、ビルにバンケット機能への転用が図れる仕掛けを準備していることを説明したが、実現性が不透明な以上、一部議員が提案するケータリング(食事の提供サービス)機能も代替案に加えるべきではないか。 「市とは事業費削減だけでなく、完成後の使い勝手をいかに良くするかや、ランニングコストをいかに抑えるかについても繰り返し議論しています。それらを踏まえ、組合として今年度中に新たな計画を確定させたい考えです」(加藤理事長) 前出・元市幹部職員は 「一番よくないのは、見直した結果、施設全体が中途半端になることです。市民から『これなら、つくらない方がよかった』と言われるような施設ではマズイ。つくる以上は稼働率が高く、市民にとって使い勝手が良く、地域にお金が落ちて、税収も上がる好循環を生み出さなければ意味がない」 と指摘するが、着工・オープンの1年延期で市と同組合はどこまで課題をクリアできるのか。現状は、膨らみ続ける事業費をいかに抑え、家賃が上がっても耐えられるテナントをどうやって見つけるか、苦心している印象が強い。目の前のこと(着工)と併せて将来のこと(オープン後)も意識しなければ、市民から歓迎される施設にはならない。 いわき駅前 遅れを取り戻そうと工事が進むいわき駅並木通りの再開発事業 想定外の発掘調査に直面  いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業は2021年8月に既存建物の解体工事に着手し、22年1月から新築工事が始まった。完成は商業・業務棟(63PLAZA)が今年夏、分譲マンション(ミッドタワーいわき)が来年4月を予定していたが、資材価格の高騰などで建設費が膨らみ、資金調達の交渉に時間を要した結果、それぞれ8カ月程度後ろ倒しになるという。 いわき駅前は、駅自体が新しくなり、今年1月には駅と直結するホテル「B4T」や商業施設「エスパルいわき」がオープン。同駅前再開発ビル「ラトブ」では6月に商業スペースが刷新され、2021年2月に閉店した「イトーヨーカ堂平店」跡地にも商業施設の整備が計画されるなど、にわかに活気付いている。 しかし、投資が集中する割に人通りは思ったほど増えていない。参考までに、いわき駅の1日平均乗車数は2001年が8000人、10年が6000人、21年が4200人。20年前と比べて半減している。 駅周辺で商売する人によると 「いったん閉店すると、ずっと空き店舗のままです。収益が少なく、それでいて家賃負担が重いため、若い出店希望者も駅前は及び腰になるそうです。『行政が家賃を補填してくれないと(駅前出店は)無理』という声をよく耳にします」 そうした中で事業が進む同再開発事業に対しては 「施設完成後、商業フロアはきちんと埋まるのか。ラトブは苦戦しており、エスパルいわきも未だにフルオープンはしておらず、シャッターが閉まったままのフロアがかなりある。仮に商業フロアが埋まったとしても、建設費が高ければ、その分家賃も高くなるので、かなりシビアな収支計画を迫られる。人通りが増えない中、店ばかり増えて商売が成り立つのかどうか」(同) 施行者のいわき駅並木通り地区市街地再開発組合で特定業務代理者を務める熊谷組の加藤亮部長(再開発プランナー)はこう話す。 「事業費を削り、新たに使える補助金を探し出す一方、収入を増やすメドがついたので、4月に開いた同組合の総会で事業計画の変更を承認していただきました。その事業計画を今後県に認可してもらい、早期の完成を目指していきます」 加藤部長によると、工期が延長された理由は資材価格の高騰もさることながら、建設現場で磐城平城などの遺構が発見され、発掘調査に予想以上の時間と費用を要したためという。商業・業務棟と分譲マンションのエリアは2022年度に調査を終えたが、駐車場と区画道路のエリアは現在も調査が続いているという。 「発掘調査にかかる費用は、個人施工の場合は補助金が出るが、組合施工の場合は組合が自己負担しなければなりません。さらに発掘調査に時間がかかれば、その分だけ工期が後ろ倒しになり、機器のリース代なども増えていく。同組合内からは、発掘調査によって生じた負担を組合が負わなければならないことに異論が出ましたが、最終的には理解していただきました」(同) 思わぬ形で工期延長を迫られた同事業が、新たな事業計画のもとで予定通り完成するのか、注目される。 郡山駅前 郡山駅前一丁目第二地区再開発事業の建設地。写真奥に見える一番高い建物が寿泉堂病院と分譲マンションが入る複合ビル 「削れる部分は削る」  郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業の敷地には、もともと旧寿泉堂綜合病院が建っていた。 2011年に現在の寿泉堂綜合病院と分譲マンション「シティタワー郡山」が入る複合ビルが完成後(郡山駅前一丁目第一地区市街地再開発事業)、旧寿泉堂綜合病院は直ちに解体され、第二地区の再開発事業は即始まる予定だった。しかし、リーマン・ショックや震災・原発事故が相次いで発生し、当時のディベロッパーが撤退したため、同事業は当面休止されることとなった。 その後、2018年に野村不動産が新たなディベロッパーに名乗りを上げ、20年に同事業の施行者である湯浅報恩会などと協定を締結した。 当初計画では、着工は2022年11月だったが、資材価格の高騰などにより延期。7カ月遅れの今年6月2日に安全祈願祭が行われた。 そのため、完成は当初計画の2025年初頭から同年11月にずれ込む見通し。湯浅報恩会の広報担当者は次のように説明する。 「削れる部分はとにかく削ろう、と。デザインも凝ったものにすると費用がかかるので、すっきりした形に見直しました。立体駐車場も見直しをかけました。最終的に事業費は当初予定の87億円から97億円に増えましたが、見直し段階では97億円より多かったので何とか切り詰めた格好です。同事業は国、県、市の補助金を活用するので、施行者の都合で事業をこれ以上先送りできない事情があります。工期は10カ月程伸びますが、計画通り完成を目指し、駅前再開発に寄与していきたい」 実際の工事は、早ければ今号が店頭に並ぶころには始まっているかもしれない。 地方でも好調なマンション  ところで、三つの事業ではいずれも分譲マンションが建設される。駅前に建設されるマンションは、運転免許を返納するなど移動手段を持たない高齢者を中心に「買い物や通院に便利」として人気が高い。一方、マンション需要は首都圏や近畿圏、福岡などでは高止まりしているというデータが存在するが、地方のマンション需要が分かるデータはなかなか見つからない。 それでなくても三つの事業は、資材価格の高騰という厳しい状況に見舞われ、建設される商業関連施設もテナントが入るかどうか心配されている。建設費が高ければ、その分家賃も高くなるが、それはマンションの販売価格にも当てはまるはず。果たして、三つの事業で建設される分譲マンションは、どのような販売見通しになっているのか。 福島と郡山の事業で分譲マンションを手掛ける野村不動産ホールディングスに尋ねると、 「当社が昨年度と今年度にマンションを分譲した宇都宮市、高崎市、水戸市などの販売は堅調です。福島と郡山の事業も、駅への近さや生活利便性の高さなどは特にお客様から評価いただけると考えています」(広報報担当者) いわきの事業で分譲マンションを建設するフージャースコーポレーションにも問い合わせたところ、 「現在、東北地方で販売中の当社物件は比較的好調です。実際、ミッドタワーいわきは販売戸数206戸のうち160戸が成約となり、成約率は78%です。(資材価格の高騰などで)完成は遅れますが、販売に影響はありません」(事業推進部) 新型コロナやウクライナ戦争など不透明な経済情勢の中でも、マンション販売は地方も好調に推移しているようだ。苦戦ばかりが叫ばれる駅前再開発事業にあって、明るい材料と言えそうだ。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長 スナック調査シリーズ

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

    【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

    【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

    事業を停止したオール・セインツウェディング  JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が突然閉鎖した。本誌に情報が入ったのは6月9日。市内のある式場幹部がこう教えてくれた。 「オール・セインツで結婚式を予定していたカップルが『式場と連絡が取れなくなった。どうすればいいのか』と相談してきたのです」 オール・セインツは英国式チャペルとゲストハウス型パーティー会場で構成されている。チャペルには英国で実際に使われていたステンドグラス、パイプオルガン、長椅子、説教台があり、司式者も認定証のある牧師に依頼するなど、本物志向の結婚式を提供していた。式会場は30~190人まで収容可能な3タイプを揃えていた。 ネットで検索すると、昨年度まで3年連続で「口コミランキング福島県総合1位」を獲得しており、人気の式場だったことが分かる。 6月10日、現地を訪ねると、チャペルに通じる門など全ての出入口が閉ざされていた。門やドアには次のような紙が貼られていた。 《オール・セインツは、令和5年6月8日をもって、法的整理準備のために事業を停止いたしました。債権者の皆様にはご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません》 本誌に情報が入った前日に事業を停止していたわけ。 式場周辺を見て回ると、付属施設のドアが1個所開いているのを見つけた。「ごめんください」と声をかけると、中から大柄な男性が汗だくで出てきた。オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(会津若松市)だった。 「私の一存でどこまで話していいのか判断がつかないので、取材は遠慮したい」(山口弁護士) 施設内で何をしていたのか尋ねると「電気が止まる前に食材の整理をしていた」と言う。代理人がそこまでするのかと更に問うと「いろいろあって……」と言葉を濁した。 近所のホテル従業員の話。 「オール・セインツを通して宿泊予約をされていたお客様から『式場と連絡が取れない』と聞かされ、見に行くと事業停止の張り紙がありました。直近で5、6組の宿泊予約が入っていたのですが、全てキャンセルでしょうね」 結婚式の予定が見通せなくなったカップルは少なくないようだ。 ㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11)は2003年7月設立。資本金1000万円。代表取締役の黒﨑正壽氏は79歳、札幌市在住だが、出身は福島県という。直近5年間の売り上げ(決算期9月)は2018年2億4000万円、19年2億4000万円、20年1億8000万円、21年1億5000万円、22年1億円。新型コロナの影響で苦戦していた様子がうかがえる。 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の管理運営を行う㈱TAKUSO(住所はいずれも郡山市駅前一丁目11―7)がある。両社の事務所も訪ねてみたが留守だった。 オール・セインツの土地と建物は小野町の土木工事・産廃処理会社が所有している。同社にも事情を聞いてみたが、社長から「当社が事業用地および事業用建物として賃貸しているのは事実です。賃借人弁護士から事業停止の通知が届き、驚いています。それ以上のことは多くの方が関係していることもあり、個人情報保護の観点からコメントは差し控えたい」というメールが寄せられ、詳しいことは分からなかった。 債権者の中には結婚式を予定していたカップルも含まれる。ネットの投稿などを見ると、オール・セインツは招待客1人当たり4万5000円かかるようなので、50人招待すると225万円の見積もりになる。事業を停止すると分かっていてカップルから前金を受け取っていたとすれば、悪質と言うほかない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

  • うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

    うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

     本誌3月号に、うすい百貨店(郡山市)から「ルイ・ヴィトン」が撤退するウワサがある、と書いた。 それから2カ月経った先月、ヴィトンは公式ホームページで「うすい店は8月31日で営業を終了することとなりました」と発表。ネット通販が全盛の昨今、地方都市に店舗を構えるのは得策ではない、という経営判断が働いたとみられる。 問題は撤退後の空きスペースをどうするかだが、3月号取材時は「後継テナントが見当たらず、憩いのスペースにする案が浮上している」との話だった。百貨店に憩いのスペースは相応しくない。この間の検討で具体案は練られたのか、うすいの公式発表が待たれる。 あわせて読みたい 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂 2023年3月号

  • 【いわき駅前】22時に消える賑わい

    【いわき駅前】22時に消える賑わい

     新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。かつての日常に戻りつつある中、店での飲食は動向が大きく変わった。客の重視は「飲む」から「食べる」に変化。職場の宴会は減り、あっても1次会のみ。酒の提供がメインで接待を伴うスナックは2次会以降を当てにしているため、客数減による淘汰が進む。第3弾となる夜の街調査は、いわき市を巡った。 客足戻ってもスナックに波及せず  本誌はこれまで郡山市と福島市にあるスナックの数を、電話帳を基にコロナ前と後で比較してきた。電話や訪問で営業状況を確認し、ママやマスターに聞き取り調査を重ねた。 第3回となる今回は、経済規模が県内2番目のいわき市(表1参照)の夜の街を調べた。新型コロナが5類に引き下げとなって初めての土曜日(5月13日)夜に、本誌記者2人がJRいわき駅前(平地区)の店を訪問し、店主から聞き取った。 表1 県内の経済規模上位5市 市町村内総生産県全体の構成比郡山市1兆3635億円17.10%いわき市1兆3577億円17.00%福島市1兆1466億円14.40%会津若松市4553億円5.70%南相馬市3307億円4.10%出典:2019年度『福島県市町村民経済計算』 一1000万円以下切り捨て  現地調査の前に店の増減を電話帳から把握する。新型コロナ感染拡大前の2019年11月時点と感染拡大後の21年10月時点の電話帳(NTT発行『タウンページいわき市版』)で掲載数を比較した。 2021年時点で20軒以上ある業種を挙げる。業種は店からの申告に基づき重複がある。多い順に次の通り(カッコ内は減少率)。 スナック 273店→221店(19・0%) 飲食店 201店→180店(10・4%) 居酒屋 168店→148店(11・9%) 食堂 83店→68店(18・0%) すし店(回転ずし除く) 69店→64店(7・2%) レストラン(ファミレス除く) 72店→62店(13・8%) ラーメン店 67店→62店(7・4%) 喫茶店 61店→54店(11・4%) 焼肉・ホルモン料理店 38店→37店(2・6%) 中華料理店 38店→37店(2・6%) バー・クラブ 48店→36店(25・0%) 焼鳥店 34店→33店(2・9%) うどん・そば店 30店→28店(6・6%) 日本料理店 28店→25店(10・7%) ファミレス 25店→24店(4・0%) カフェ 23店→21店(8・6%) 減少数・率ともに大きいのはスナックだった。53店が電話帳から消え、1店が新規掲載。差し引き52店減少した。もともとの店舗数はスナックや居酒屋に比べれば少ないが、減少率が最も大きかったのはバー・クラブの25・0%。12店が電話帳から消え、新規掲載はなかった。 酒と接待の場を提供するスナックやバー・クラブの減少が著しいのは郡山・福島両市も同じだ。 郡山市 スナック 202店→159店(減少率21・2%)。消滅48店、新規掲載5店 バー・クラブ 45店→42店(減少率6・6%)。消滅5店、新規掲載2店 福島市 スナック 194店→145店(減少率25・2%)。消滅50店、新規掲載1店 バー・クラブ 42店→35店(減少率16・6%)。消滅7店、新規掲載なし スナックの数はコロナ前も後も3市の中でいわき市が最も多い。にもかかわらず減少率は19%と他2市と比べて2~5㌽低い。理由は飲食店街が分散していることが考えられる。スナックが10店舗以上ある地区は表2の通り。市内最大規模の飲食店街は平・田町でスナック約120店舗がひしめく。平地区のスナックの減少率は21%で、郡山・福島とあまり変わらない。減少幅の小さい小名浜や植田など周辺地区が平の減少率を緩和している形だ。 表2 いわき市のスナックの店数 2019年2021年減少率平地区15212021%小名浜地区453717%植田地区423419%常磐地区151220%出典:NTT『タウンページ』の掲載数より 「回復とは言えない」  平・白銀町でバー「QUEEN」を経営するマスター加藤功さん(65)=平飲食業会・社交部会部会長=は、叔母から店を引き継いで計63年続けている。 「客の入りは回復しているとは言い難いですね。土曜日でも空席がある。ライブを開催し、大物ミュージシャンを呼んでもチケットは完売になりませんでした。みんな出不精になったのかな」(加藤さん) コロナ禍で閉店する店が増えたことについては、 「跡継ぎがいないというかねてからの問題があります。コロナ禍が閉店に踏み切るきっかけになった。私の店も後継者はいません。酒を提供する店でも料理がメインのところは回復力が強い。純粋にお酒を愉しんだり、女性が接待する店はまだまだ厳しい」(同) 別のバーの男性オーナーAさんは 「うちは仲間内で楽しむ雰囲気の店です。美味しいものを味わってもらうというより、1人3000円くらいでサンドイッチなど軽食を用意し、腹いっぱいになって帰ってもらう。昔は公務員が多く来ていたが、コロナ以降は全然ですね」    平競輪場が近いこともあり、店内には競輪のグッズが飾ってあった。 「今は送別会をやる選手もいません。余裕がないんでしょうね。お客さんも店も一緒です。やめちゃった店は多分、コロナ禍の間に運営資金を4、500万円くらい借りてあっぷあっぷになったんじゃないか。俺もいつやめてもおかしくない。あと1年、あと1年とマイナスの状況で続けてきた。貯金はみんな食いつぶしたよ」(同) ただ、公務員や地域行事の打ち上げが戻ってきたことで、感染の収束を感じるとも話す。 「ようやく4月から警察関係の人たちが飲み歩き始めた。いい兆しです。だが、うちはPTAや保護者会などの団体さんが動き出さないと経営は厳しい。コロナ前は野球、サッカー、学校行事などが終わった後は打ち上げがお決まりでした。消防団もお得意さんですね。年間行事が決まっているので、安定した集客が見込めます」(同) パートで本業を支える  筆者は別の店主から「昼間にパートに出て本業(スナック)を支えている店もあった」と聞いた。 あるスナックのベテランママBさんも「他人事ではない」と話す。 「店を閉めるには借金を清算しなくてはなりません。でも、この年になったら働き口がないので店を続けるしかない。お客さんの数はコロナ前の水準には戻らないけど、常連さんが来てくれるのでかろうじてやっていけます」 前出のマスター加藤さんは、コロナ後の客の飲み方に明らかな変化を感じているという。 「大型連休中はお客さんがコロナ前の7割程度まで戻った。ただし、1次会だけで終わるケースが多い。帰りの運転代行のピークは20~21時の間です」 5月13日の土曜日、本誌記者2人は19時を待ち、電話帳から消えたスナックやバー・クラブを訪ね開店状況を調べた(結果は別表参照)。20~21時の間は平・田町の路地を団体客が通り、客引きが2次会の場所を紹介しようと賑わっていた。だが21時を過ぎると客足は減り、客引きの方が多くなった。女性従業員がペアになり、いわき駅方面に向かう男性客を呼び止めるが、人の流れが止まる気配はなかった。 電話帳から消えたいわき市平のスナック、バー・クラブ ○…5月13日(土)に営業確認 ×…営業未確認 地区店名最後の所在地または移転先営業状況田町スナックMajo新田町ビル〇桐子×cantina×COOL田町MKビル×Sweethomeミヨンビル〇LOVERINGミヨンビル→泉に移転集約〇スナック・汐第2紫ビル×スナック美穂志賀ビル×チェンマイ×歩楽里×スナック僕×Boroルネサンスビル×サムライサンスマイルビル2〇ラソ(Lazo)アマーレビル→田町鈴建ビル〇ビージェイオセーボ(BJOSEBO)サンスマイルビル1×スナックむげん梅の湯ビル×DREAM移転の情報×WITH二葉館ビル〇くおん田町ビル〇夕凪×きなこ寺田ビル×スナック・杏第3紫ビル×Materia×スナックパルティール2×パブスナックキャットハウス×ROAD鳥海ビル〇カマ騒ぎ×BAR BLUE〇Berry・Berryタマチビレッジ×二町目上海新天地紅小路ビル×スナックきよみ×スナック北京城ひかりビル×スナック戀(れん)×白銀アジエンス×クイーン〇酒処さかもと×五町目プラス・ワン移転の情報×パークサイド××…所在地が空欄の店は移転先の情報を得られなかった。  22時を過ぎると「お兄さん、マッサージいかがですか」と片言で誘ってくる女性が増えてきた。前出のベテランママBさんによると、中国人グループが組織的に行っているという。 土曜の夜でも22時には客が引けてしまう。スナックやバー・クラブにとっては本来、この時間帯からが勝負だが、そもそも2次会の客が減っているので、賑わう店とそうでない店の二極化が進んでいる。 期待が薄い駅前再開発 いわき駅並木通りの再開発事業  業界として打つ手はあるのか。 「徐々に暑くなり、街中でのイベントが再開されれば人通りは多くなります。それを飲食店街にどう呼び込むか。今夏、いわき駅前では七夕まつり、小名浜では花火大会がコロナ前の規模で開催されます。昨年末には、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格を祝うパレードも同駅前でありました。いわきFCに関してはイベントが始まったばかりということもあり、飲食店街の賑わいにどうつなげるか手探りです」(前出・加藤さん) いわき駅前は再開発でホテルやマンションの建設が進む。今後、宿泊しながら飲食する人は増えることが予想され、飲食店街にとっては好材料になるのではないか。 ただ、各店主に話を向けると「そうなればいいですね」「そんなに関係ないな」と、あまり期待していない様子だった。 田町で店の営業状況を調べていると、客引きの女性従業員から「どの店もいつ潰れてもおかしくない。もっといいように書いてくださいよ」と注文を受けた。 正直、プラスの材料を探すのは難しい。早く調査を終わらせようと、女性従業員にリストに載っている店が今もやっているか尋ねた。 「その店は昨年9、10月ころにはなくなったよ。ママが『売り上げがないから疲れちゃった』って。ママが亡くなって閉めた店もあります」 本誌がリストに載せた店は、消えた店の方が多かった。 「私らは最後までやるつもりですよ。それこそ死ぬまでね」 と女性従業員。覚悟を決めた人の言葉だった。 あわせて読みたい 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査 コロナで3割減った郡山のスナック

  • 土湯温泉「向瀧」新経営者が明かす〝勝算〟

     2021年2月の福島県沖地震で損壊した福島市・土湯温泉の「ホテル向瀧」が新ホテルを建設する。前身の「向瀧」から数えて創業100年になる同ホテルは、20年8月に経営者が代わり再スタートを切った。厳しい経済状況の中、コロナ禍の影響を大きく受けたホテル業界に進出し、新施設まで建設する経営者とはどのような人物なのか。(佐藤仁) 巨額借入で高級ホテルを建設 ホテル向瀧の建設予定地  新型コロナの感染拡大でここ数年、閑散としていた土湯温泉。だが、今年の大型連休は違った。 「どの旅館・ホテルも5月5日くらいまで満館でした。様相は明らかに変わったと思います」(土湯温泉観光協会の職員) 職員によると、今年は例年より暖かくなるのが早かったこともあってか、3月ごろから目に見えて人出が増えていたという。 国の全国旅行支援に加え、新型コロナが徐々に落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが2類相当から5類に引き下げられた。行動制限があった昨年までと違い、今年の大型連休はどの観光地も大勢の人で賑わいをみせた。 そうした中、土湯温泉では今、新しいホテルの建設が始まろうとしている。筆者が現地を訪ねた5月9日にはまだ着工していなかったが、今号が店頭に並ぶころには資機材が運び込まれ、作業員や重機の動く様子が見られるはずだ。 4月13日付の地元紙には、現地で行われた地鎮祭を報じる記事が掲載された。以下は福島民報より。 《福島市の土湯温泉ホテル向瀧の地鎮祭は12日、現地で行われ、関係者が工事の安全を祈願した。2021(令和3)年2月の本県沖地震で被災したため建て替える。2024年3月末の完成、同年の大型連休前の開業を目指す。 新ホテルは2022年にオープン予定だったが、世界的な資材不足の影響などで開業計画と建物の設計変更を余儀なくされた。新設計は鉄骨造り5階建て、延べ床面積は2071平方㍍。客室は9部屋で、全室に源泉かけ流しの露天風呂を完備する。向瀧グループが運営する。 式には約20人が出席した。神事を行い、向瀧グループホテル向瀧・ワールドサポート代表の菅藤真利さんがくわ入れした》 現地に立つ看板によると「ホテル向瀧」は当初、敷地面積2730平方㍍、建築面積720平方㍍、延べ面積3520平方㍍、7階建て、高さ33㍍だったが、民報の記事中にある「設計変更」で実際の建物はこれより一回り小さくなる模様。設計は㈲フォルム設計(福島市)、施工は金田建設㈱(郡山市)が請け負う。 ホテル向瀧は、もともと「向瀧」という名称で営業していた。法人の㈱向瀧旅館は1923年創業、61年法人化の老舗だが、2011年の東日本大震災で建物が大規模半壊、1年8カ月にわたり休館したことに加え、原発事故の風評被害で経営危機に陥った。その後、インバウンドで福島空港のチャーター便が増加すると、タイからの観光客受け入れルートを確立。ところが、回復しつつあった矢先に新型コロナに見舞われ、外国人観光客は途絶えた。 向瀧旅館の佐久間智啓社長は、震災被害は国のグループ補助金を活用したり、金融機関の協力を得るなどして乗り越えた。だが、新型コロナに襲われると、収束時期が不透明で売り上げ回復も見通せないとして、更に借金を重ねる気力を持てなかった。コロナ前に起きた令和元年東日本台風による被害と消費税増税も、佐久間社長の再建への気持ちを萎えさせた。 向瀧旅館の業績 売上高当期純利益2015年4億円――2016年4億8900万円▲100万円2017年4億5900万円2900万円2018年4億6800万円1600万円2019年4億6500万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  今から3年前、向瀧は「2020年3月31日から5月1日までの間、休館と致します」とホームページ等で発表すると、5月2日以降も営業を再開しなかった。 そんな向瀧に転機が訪れたのは同年8月。福島市のワールドサポート合同会社が経営を引き継ぎ、「ホテル向瀧」と名称を変えて営業を再開させたのだ。 法人登記簿によると、ワールドサポートは2015年設立。資本金10万円。代表社員は菅藤真利氏。主な事業目的は①ホテル事業、②レストラン事業、③輸出入貿易業、輸入商品の販売並びに仲介業、④電子製品の製造、販売および輸出入並びに仲介業、⑤企業の海外事業進出に関するコンサルタント業、⑥機器校正メンテナンス業、⑦測定器の研究、開発、製造および販売――等々、多岐に渡る。 ワールドサポートの業績 売上高当期純利益2018年400万円――2019年700万円4万円2020年2700万円▲1400万円2021年1億0600万円――2022年2000万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  創業100年の老舗旅館を、設立10年にも満たない会社が引き継いだのは興味深い。ワールドサポートとはどんな会社で、代表の菅藤氏とは何者なのか。 好調な中国のレストラン イラストはイメージ  菅藤氏はホテル業や運送業、保険業などに携わった後、中国で起業したが、その直後に東日本大震災が起こり、2011年9月、福島市内に放射線測定器を扱う会社を興した。だが、同社が県から委託されて設置したモニタリングポストに不具合が生じたとして、県は契約を解除。一方、別会社が菅藤氏の会社から測定器を納入し、県生活環境部が行う入札に参加を申し込んだところ、測定器が規定を満たしていないとして入札に参加できなかったが、県保健福祉部が行った入札では問題ないとして落札できた。そのため、この会社と菅藤氏は「測定器の性能に問題はなかった」と県の第三者委員会に苦情を申し立てた経緯があった。 その後、菅藤氏は測定器の会社を辞め、親族と共に中国・大連市に出店した日本食レストラン(3店)の経営に専念。このころ、父親を代表社員とするワールドサポートを設立し、レストラン経営に対するコンサルタント料として同社に年数百万円を支払っていた。 2019年にはワールドサポートでも飲食店経営に乗り出し、福島市内に洋食店を出店した。ところが翌年、新型コロナが発生し、洋食店はオープン数カ月で休業を余儀なくされた。ただ、中国の日本食レストランはコロナ禍でも100人近い従業員を雇うなど、黒字経営で推移していたようだ。 菅藤氏の知人はこう話す。 「菅藤氏の日本食レストランは中国のハイクラス層をターゲットにしており、新型コロナの影響に左右されることなく着実に売り上げを上げていました。あるきっかけで店を訪れたモンゴル大使館の関係者は『とても素晴らしい店だ』と気に入り、菅藤氏に『同じタイプのレストランをモンゴルに出したいので手伝ってほしい』と依頼。菅藤氏はコンサルとして出店に協力しています」 ワールドサポートに「向瀧の経営を引き継がないか」という話が持ち込まれたのは洋食店が休業に入るころだった。もともとホテル経営に関心を持っていた菅藤氏に、前出・向瀧旅館の佐久間社長と代理人弁護士が打診した。 この知人によると、法人(ワールドサポート)としてはホテル経営の実績はなかったが、菅藤氏は元ホテルマンで、休業していた洋食店の従業員にも元ホテルマンが多く、個々にホテル経営のノウハウを持ち合わせていたという。実際、同社がホテル向瀧として2020年8月から営業を再開させた際、総支配人に据えたのは、2019年に閉館したホテル辰巳屋で支配人・社長を務めた佐久間真一氏だった。 本誌は3年前、ワールドサポートに経営が切り替わるタイミングでホテル幹部を取材したが、向瀧旅館から引き継ぐ条件として▽負債は佐久間社長が負う、▽不動産に付いている金融機関の担保も佐久間社長の責任で外す、▽身綺麗になった後、運営会社を向瀧旅館からワールドサポートに切り替える、▽それまではワールドサポートが向瀧旅館から不動産を賃借して運営する――等々がまとまったため、営業を再開したことを明かしてくれた。 ワールドサポートは向瀧旅館の従業員を再雇用することにもこだわった。現場を知る人が一人でも多い方が再開後の運営はスムーズだし、コロナ禍で景気が冷え込む中では、従業員にとっても失業を回避できるのはありがたい。希望する従業員は全員再雇用した。ただし早期再建を図るため、給料は再雇用前よりカットすることで納得してもらった。従業員に給料カットを強いる以上は、役員報酬も大幅カットした。 また、休業していた洋食店は撤退を決め、新たにホテル向瀧のラウンジに入居させて再スタートを切った。 不動産登記簿を見ると、向瀧旅館の佐久間社長はワールドサポートとの約束を着実に履行した形跡がうかがえる。 ホテル向瀧の土地建物には別掲の担保が設定されていたが(債務者は全て向瀧旅館)、これらは2021年3月末までに解除された。 根抵当権1980年12月設定極度額6000万円、根抵当権者・福島信金根抵当権1990年5月設定極度額13億円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億5000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・福島信金抵当権1994年6月設定債権額3億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権1998年3月設定債権額1億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権2013年9月設定債権額8100万円、抵当権者・福島県産業振興センター※上記担保は2021年3月末までに全て解除されている。  同年6月、向瀧旅館は商号を㈱MT企画に変更。3カ月後の同年9月1日、5億6800万円の負債を抱え、福島地裁から破産手続き開始決定を受けた。同社はワールドサポートから家賃収入を得ていたが、全ての担保が解除されたと同時に土地建物をワールドサポートに売却した。 20億円の借り入れ  この時点でMT企画・佐久間社長はホテル向瀧とは一切関係がなくなったが、その後も「何らかのつながりがあるのではないか」と見る向きがあったのか、ワールドサポートでは同ホテルのHPで次のような注意喚起を行っていた。 《ホテル向瀧は、株式会社向瀧旅館・土湯温泉向瀧旅館および株式会社MT企画とは一切関係ありませんので、ご注意下さいますようお願いいたします》 そんなワールドサポートも順風な経営とはいかなかった。土地建物が自社名義になる直前の2021年2月に福島県沖地震が発生。震災に続きホテルは大規模半壊し、休館せざるを得なかった。 菅藤氏は建て替えを決断し、金策に奔走した。その結果、2022年3月に三井住友銀行をアレンジャー兼エージェント、福島銀行、足利銀行、商工中金を参加者とする20億3500万円のシンジケートローンが締結された。だが、冒頭・民報の記事にもあるように、世界的な資材不足の影響で計画・設計の変更を迫られるなどスムーズな建て替えとはいかなかった。 ちなみに、かつての向瀧は10階建て、延べ床面積1万0600平方㍍、客室は71室あった。これに対し、新ホテルは5階建て、延べ床面積2070平方㍍、客室は9室なので、団体客は意識せず、コロナ禍で進んだ個人・少人数の旅行客を受け入れようという狙いが見て取れる。 ホテル向瀧が休館―解体―新築となる一方で、菅藤氏は同ホテルから徒歩5分の場所にあった保養施設の改修にも乗り出していた。 閉館から年月が経っていた「旧キヤノン土湯荘」を2021年6月、ワールドサポートの関連会社㈱WIC(福島市、2021年設立、資本金400万円、菅藤江未社長)が取得すると、改修工事を施し、今年3月から「向瀧別館 瀧の音」という名称で営業を始めた。土地建物はWIC名義だが、運営はワールドサポートが行っている。 3月にオープンした瀧の音  ここまでワールドサポートと菅藤氏について触れたが、巨額の売り上げを上げているわけでもなく、洋食店も始まった直後に新型コロナで休業し、ホテル経営も実績がない。そんな同社(菅藤氏)が、なぜ20億円ものシンジケートローンを組むことができたのか、なぜホテル向瀧だけでなく別館まで手を広げることができたのか、正直ナゾが多い。 事実、他の温泉地の旅館・ホテルからは「バックに有力スポンサーが付いているのではないか」「中国資本が入っているのではないか」という憶測も聞こえてくる。 実際はどうなのか、菅藤氏に直接会って話を聞いた。 菅藤氏が描く戦略 イラストはイメージ  向瀧旅館から経営を引き継ぎ、2020年8月に営業許可を受けた菅藤氏は、71室あった客室を15室だけ稼働させ、限られた経営資源を集中投下した。 「まず『旅館』から『ホテル』にしたことで、仲居さんが不要になります。かつての向瀧を知るお客さんからは『部屋まで荷物を運んでくれないのか』『お茶を出してくれないのか』と言われましたが『ホテルに変わったので、そういうサービスはしていません』と。そうやって、まずは労働力・人件費を細部に渡りカットしていきました」(菅藤氏、以下断わりがない限り同) 休業していた洋食店をホテル内に入居させたことも奏功した。 「もともと腕利きの料理人を複数抱えていたので、ホテルの夕食は和食かフレンチをチョイスできる仕組みにしました。そうすることで、例えば夫婦で泊まった場合、旦那さんは和食で日本酒、奥さんはフレンチでワインが楽しめると同時に、翌日は逆のチョイスをしてみようと連泊してくださるお客さんが増えていきました」 連泊すると、宿泊客は部屋の掃除を遠慮するケースが多い。そうなるとリネンを交換する必要もなく、その分、経費は浮くことになる。 「旅館では当たり前の布団を敷くサービスも廃止し、お客さんに敷いてもらうようにして、代わりに1000円キャッシュバックのサービスを行いました。その結果、1000円がお土産代などに回る好循環につながりました」 従業員は十数人なので、15部屋が満室になったとしても満足なサービスを提供できる。そうやって今までかかっていた経費を抑えつつ、限られた人数で一定の稼働率を維持したことで、営業再開当初から単月の売り上げは二千数百万円、利益は数百万円を上げることに成功した。 ところが前述した通り、2021年2月の福島県沖地震で建物は大規模半壊。休館―解体を余儀なくされた中、菅藤氏が頭を悩ませたのは従業員の雇用維持だった。 考えたのは、新ホテルの開設準備室として使っていた前出・旧キヤノン土湯荘をホテルとして再生させ、新ホテルがオープンするまで従業員に働いてもらうことだった。 「もともと保養所だったので、風呂とトイレは各部屋になく、フロアごとに設置されていました。ここをリニューアルすれば、学生の合宿に使い勝手が良い施設になるのではと考え、リーズナブルな料金設定にして営業を始めました」 建物は2021年に続き22年3月の福島県沖地震でダメージを受けていたため、リニューアルは簡単ではなかったが、今年3月に瀧の音としてオープン以降は従業員の雇用の場になると共に、新たな宿泊層を呼び込むきっかけにもなった。 「今年の大型連休は、県内外の中学・高校生に大会の宿舎として利用していただきました。ダンススクールの子どもたちの合宿もあり、4連泊と長期宿泊もみられました。客室は9室と少ないので、サービスが滞る心配もありません」 今後は各部屋にユニットバスとトイレを設置し、使い勝手の向上を図る予定だという。 新型コロナが収束していない中、2軒目の経営に乗り出すとは驚きだが、気になるのは、新ホテルを建設し、徒歩5分のエリアに別館もオープンさせて足の引っ張り合いにならないのかということだ。 「新ホテルはインバウンドや首都圏のお客さんをターゲットに、瀧の音とは全く異なる料金プランを設定する予定です。稼働率も25%程度を想定しています」 要するに、新ホテルは高級路線を打ち出し、別館とは住み分けを図る狙いだ。今後、別館のリニューアル(ユニットバスとトイレの設置)を行うのは、今まで向瀧を訪れていた地元の人たちが高級ホテルに宿泊するとは考えにくいため、合宿以外の地元利用につなげたい考えがあるのだろう。 それにしても驚くのは25%という稼働率の低さだ。旅館・ホテルは稼働率60~70%が損益分岐点と聞くが、25%で黒字に持っていくことは可能なのか。 「例えば客室が100室あって稼働率25%では、空きが75室になるので赤字です。だが、新ホテルは9室なので25%ということは2部屋稼働させればいい。大きな旅館・ホテルは、春秋の観光シーズンや夏休みは一定の入り込みが見込めるが、シーズンオフは企画を立てたり、料金を下げても稼働率を維持するのは容易ではない。しかし、お客さんのターゲットを明確に絞り、全体で9室しかなければ、観光シーズンか否かに左右されず一定の稼働率を維持できると考えています。ましてや最初から25%と低く設定し、それで黒字になるなら、ハードルは決して高くないと思います」 新ホテルに明確なコンセプトを持たせつつ、別館は学生や地元客の利用を意識するという菅藤氏のしたたかな戦略が見て取れる。 「ホテル管理システムも、スマホで予約や決済が可能な最新のものを導入しようと準備を進めています。削る部分は削るが、かける部分はかけるというのも菅藤氏の戦略なのでしょう」(前出・菅藤氏の知人) 見えない信用力  それでも記者が「厳しい経済状況の中、高級路線のホテルは需要があるのか」と意地悪い質問をすると、菅藤氏はこう断言した。 「あります。首都圏では某有名ホテルチェーンで1泊数万円でも連日予約が埋まっているし、有名観光地では1泊1食付きで数十万~100万円の旅館・ホテルの人気が高い。地方の温泉地でも知恵を絞り、魅力的なサービスを打ち出せば外国人旅行者や首都圏の富裕層に関心を持ってもらえると思います」 このように戦略の一端が見えた一方、やはり気になるのは金策だ。三井住友銀行によるシンジケートローンは前述したが、失礼ながら事業実績に乏しいワールドサポートに巨額融資を受ける信用があるようには見えない。その点を菅藤氏に率直に尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「最初、地元金融機関に融資を申し込んだところ、事業計画を吟味することなく『当行は静観します』と断られました。その後、紆余曲折があり三井住友銀行さんに行き着いたが、同行は事業計画をしっかり評価してくれました。同行はグループ会社でホテル経営をしており、五つ星ホテルもあるから、ホテル向瀧のコンセプトにも理解を示してくれたのだと思います。『婚礼はやらない方がいい』など具体的なアドバイスもしてくれました」 とはいえ、事業計画がいくら立派でも、信用面はどうやって評価してもらったのか。 「中国の日本食レストランはオープン9年になるが、その業績と資産価値を高く評価してもらいました。三井住友銀行さんに現地法人があったことが、正確な評価につながったのでしょう。融資を断られた地元金融機関は現地法人もなければ支店・営業所もないので、(日本食レストランを)評価しようがなかったのかもしれません」 記者が「バックに有力スポンサーがいるとか、中国資本が入っていると見る向きもあるが」とさらに突っ込んで聞くと、菅藤氏はきっぱりと言い切った。 「仮に有力スポンサーが付いていたとしても、ワールドサポートと実際の資本関係がなければ銀行は信用力が上がったとは見なさない。しかし登記簿謄本を見てお分かりのように、当社は資本金10万円の会社ですから、スポンサーとの資本関係はありません。中国資本についても同様です」 スポンサー説や中国資本説はあくまでウワサに過ぎないようだ。 これについては前出・菅藤氏の知人もこう補足する。 「菅藤氏の周囲には数人のブレーンがいて、これまでも彼らと知恵を出し合いながら事業を進めてきた。ホテル経営に当たっても資金づくりが注目されているが、私が感心したのは様々な補助金を駆使していることです。一口に補助金と言うが、実は省庁ごとに細かい補助金がいくつもあり、その中から自分の事業に使えるものを探すのは簡単ではない。それを、菅藤氏はブレーンと適宜見つけ出しては本館・別館の改修に充てていたのです」 地方の温泉旅館で富裕層を狙う戦略が奏功するのか、急速な事業拡大は行き詰まりも早いのではないか、巨額融資を受けられた別の理由があるのではないか――等々、お節介な心配は挙げれば尽きないが、今後、ワールドサポート・菅藤氏のお手並みを拝見したい。 「別の仕掛け」も検討!?  ワールドサポートでは向瀧旅館と取り引きしていた仕入れ先から引き続き食材等を調達しているが、当初は現金払いを求められたという。向瀧旅館が再三休館し、最後は破産したわけだから、ワールドサポートも信用面を疑われるのは仕方がなかった。だが、再開当初から経営が軌道に乗り、シンジケートローンが決まると「月末締めの翌月払い」に変更されたという。同社が仕入れ先から信用を得られた瞬間だった。 「向瀧旅館(MT企画)が破産したことで、仕入れ先の債権(買掛金など)がどのように処理されたのかは分かりません。当社としては仕入れ先に迷惑をかけず、地元企業にお金が回るようホテルを経営していくだけです」(菅藤氏) その点で言うと、もし地元金融機関から融資を受けられれば施工は福島市の建設会社に依頼する予定だったが、融資を断られたため、三井住友銀行の紹介で接点ができた前述・金田建設に依頼した。菅藤氏は「今後も可能な限り地元企業にお金が回るようにしたい」と話している。 建設中の新ホテルは来年3月末に完成し、大型連休前のオープンを目指しているが、災害時には避難所として利用できるよう福島市と協定を締結している。瀧の音をオープンさせた狙いの一つ「地元貢献」を新ホテルでも果たしつつ、 「菅藤氏は更に『別の仕掛け』も考えており、これが成功すれば低迷する各地の温泉地を再生させるモデルケースになるのでは」(前出・菅藤氏の知人) というから、本誌の取材には明かしていない構想が菅藤氏の念頭にはあるのだろう。 昨年創業100年を迎えたホテル向瀧がどのように生まれ変わり、菅藤氏が描く「仕掛け」が土湯温泉全体にどのような影響をもたらすのか、注目点は尽きない。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦

  • 【キリンビール】仙台工場が操業100周年

    【キリンビール】仙台工場が操業100周年

     キリンビール㈱東北統括本部(宮城県仙台市、鶴本久也本部長)は6月27日、仙台工場操業開始100周年を記念して「キリン一番搾り 仙台工場 100周年 デザイン缶」を数量限定で発売した。販売エリアは東北6県の青森県・秋田県・岩手県・宮城県・山形県・福島県。 同商品のデザインは「東北のお客様への感謝と、これからも東北6県のお客様においしさを届け続けていくための思いを込めた」限定パッケージとなっている。(写真)  また同商品の発売にあわせて、東北の流通企業と同社による共同企画「キリンビール仙台工場100周年『100年のご愛飲に感謝』キャンペーン」を7月30日(日)まで実施している。対象店舗で「一番搾り」を合計2000円(税込み)以上購入したレシート(複数枚可)を1口として応募できる。賞品はA賞、B賞、Wチャンス賞の3つで、合計500名に当たる。  A賞(抽選で50組100名)は『仙台工場特別招待券』で、レストラン「キリンビアポート仙台」の食事券(1人3000円分)、「キリンファクトリーショップ」の土産品券(1人2000円分)がもらえる。 B賞(抽選で各県50名様ずつ300名)は『東北6県各県名産品』で、以下の賞品のいずれかがもらえる。 ①青森県=「青森産ほたて(冷凍)」、②秋田県=「三浦米太郎商店【鰰寿し】」、③岩手県=「黄金海宝漬」、④宮城県=「仙台牛バラカルビ」、⑤山形県=「山形牛カタ焼き肉用」、⑥福島県=「福島牛モモ・バラ・肩焼肉用」。 Wチャンス賞(A賞とB賞にはずれた方の中から抽選で100名)は「キリン一番搾り生ビール」350㍉㍑6缶セットがもらえる。 県内の対象店舗は以下の通り。 ウエルシア薬局、カワチ薬品、共立社、コープふくしま、生協宅配、フレスコ、マルト、やまや、ヨークベニマル、リオン・ドール。 同社の大類充敬南東北支店長は次のようにコメントした。 大類充敬南東北支店長  「福島県の皆さんに飲んでいただいているキリンビールは、仙台工場でつくられているものなんです。皆さんにご愛飲いただいたおかげで工場が操業100年を迎えることができました。次の100年も、ビールをはじめさまざまな商品を発売させていただき、引き続き東北の皆さんにご愛飲いただければ幸いです。 また工場見学もご好評いただいておりますので、是非お越しいただければと思います」 キリングループは自然と人を見つめるものづくりで「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献していく考えだ。 キャンペーンに応募する キリンのホームページ

  • 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

    【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

     5月号で南相馬市の医療・介護業界を振り回すブローカー・吉田豊氏についてリポートしたところ、同氏が運営に携わった施設の元スタッフや同氏をよく知る人物から「被害者が何人もいる」と情報提供があった。公的機関は被害者救済に及び腰だ。 被害報告多数も公的機関は及び腰 桜並木クリニック  吉田豊氏は青森県出身。今年4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。衆院議員などの秘書を務め、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。医師を招いてクリニックを開設、その一部を母体として医療法人グループを立ち上げ、吉田氏が実質的なオーナーを務めていた。  その後、青森県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。当時の報道によると、有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、さまざまな企業に医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、いずれもずさんな計画で、集まった医師・スタッフは賃金未払いにより次々と退職。施設運営は行き詰まり、協力した企業が損失を押し付けられている状況だ。 現時点で分かっているトラブルは以下のようなもの。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続いた結果、契約解除となり、建物から退去させられた。現在は地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  〇スタッフを集めるため、ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜いた。だが、賃金未払いとブラックな職場環境に耐えかねて、相次いで退職していった。 〇その後、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」、「桜並木クリニック」を地元企業の支援で立ち上げたが、こちらも退職者が後を絶たない。 〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、それを担保に支援者から融資を受け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)建設計画を進めた。また、市内企業に話を持ち掛けて、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 5月号記事では、事実確認のため複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じてもらえなかった。そのため、関係者の意向を踏まえて具体的な企業名・施設名を伏せて報じた。南相馬市の医療・介護業界では「関わってはいけないヒト」と言われている。 だが、藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所に出入りしており、紳士的かつ気さくで話もうまいので、「初対面だと社会的地位が高い人に見えてしまう」(吉田氏の言動を間近で見て来た人物)。 ちなみに5月号発売後、東京・永田町にある議員会館の藤丸衆院議員の事務所に確認したところ、女性スタッフが次のように説明した。 「吉田豊さんには毎回パーティー券を買っていただいていますが、今年3月のパーティーには来ていただけませんでした。事務所に連絡をいただけるのはほとんどが福岡の支持者ですが、吉田さんは東北の訛りで話してくるので強く印象に残っているし、『(藤丸衆院議員と)どういう接点があるのだろう』と不思議に思っていました。カレンダーを送ってほしいと頼まれ、その送付先が福島県のクリニックだったので、医療関係者だと思っていました」 藤丸衆院議員と個人的に親しい間柄であれば、当然スタッフもそのことを共有しているはず。それほど深い関係ではないと見るべきだろう。 吉田氏は「(藤丸衆院議員が秘書を務めていた)古賀誠元衆院議員とも親交がある」と話していたとも聞いたので、古賀氏の事務所に確認したが、秘書は「申し訳ないですが全く聞いたことがありません」と回答した。細いつながりを大きくして吹聴していた可能性が高い。 本人の反論も聞きたいと思い、裁判所で閲覧した訴状の住所宛てに配達証明で質問書を送付したが、不在続きのため地元郵便局で保管され、そのまま返って来た。 不確定な部分が多かったが、新たな〝被害者〟を出さないようにと記事にしたところ、5月号発売後、吉田氏のことを知る業界関係者や元スタッフから相次いで連絡があり、トラブルの詳細と吉田氏の人物像が見えてきた。 職員への賃金未払いが横行 相馬労働基準監督署  新たに分かったのは、賃金未払いとなったスタッフが相当数いること。というのも、吉田氏に直接支払いを要望してものらりくらりと逃げられ、相馬労働基準監督署も親身に相談に乗ってくれないからだ。 「過去には立ち入り調査が入って、是正勧告が出された事例もあったが、しょせんは罰則などがない〝行政指導〟。その場だけ取り繕ってごまかされてしまいました。また、退職した人が相談しても『さかのぼって支払いを要求するのは難しい』とされて積極的に動いてもらえませんでした」(ある元スタッフ) 現時点で吉田氏が運営に携わっている施設は前出の「憩いの森」、「桜並木クリニック」の2施設と、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」。榎本氏は同クリニックにも頻繁に出入りしている吉田氏の〝参謀〟的存在で、吉田氏は現在、この薬局の2階で生活している。 憩いの森  吉田氏関連の会社はこれまで確認されているだけで4社ある。いずれも南相馬市本社。法人登記簿によると、概要は以下の通り。 ①ライフサポート 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2020年12月25日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ 事業目的=訪問介護、訪問看護、高齢者向け賃貸住宅など ②スマイルホーム 原町区本陣前二丁目22―3 設立=2021年2月19日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司 事業目的=賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供など ③フォレストフーズ 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月25日 資本金=100万円 代表取締役=馬場伸次 事業目的=不動産の企画・運営・管理、フランチャイズビジネスの企画・管理、自動車での送迎・配達サービス、人材派遣サービスなど ④ヴェール 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月6日 資本金=100万円 代表取締役=佐藤寿司 事業目的=不動産の賃貸借・仲介、ビル・共同住宅・寮の経営、公園・観光施設などの管理運営、総合リース業、日用雑貨・介護用品販売など 4社のうち2社の代表取締役を務める浜野氏は吉田氏のパートナー的存在とされる女性。二丁目53―7は「憩いの森」の住所、二丁目22―3は同施設近くの土地の一角に建てられたユニットハウス。 吉田氏を直撃 吉田豊氏  こうして見ると吉田氏本人の名前は見当たらないが、これこそが吉田氏の得意とする手口だという。 「吉田氏は代表者など表に名前が出る所に出たがらず、スタッフに経営責任者を任せて裏で指示を出す。これだと書類上の経営責任者はスタッフになり、公的機関が指揮系統やお金の流れを把握しづらくなります。実際、ここに名前が挙がっている代表取締役にも、賃金未払いを訴えて退職した職員が含まれています」(前出・元スタッフ) もっとも、複数の関係者の話を統合すると、書類上で名前を出していなくても決定権を持っているのは吉田氏であり、実際、スタッフからは「オーナー」と呼ばれている。 前出・南相馬ホームクリニックが運営していたころは、敷地内に設けられた小さなユニットハウスが「事務所」となっており、職員は退勤時に必ず顔を出してあいさつする決まりとなっていた。 そこでは毎日17時ぐらいから酒盛りが始まる。吉田氏は素性がよく分からない飲み仲間を呼び寄せ、お気に入りの正職員が顔を出すと、一緒に酒を飲むように勧めた。患者がいようがおかまいなしで、酔った状態で待合室に顔を出し、ソファーに横になることもあった。翌朝、ビールの空き缶や総菜のごみを片付けるのは職員の仕事。オーナーでなければ、こんな振る舞いは許されまい。 ちなみに、南相馬ホームクリニック閉院後、吉田氏の居場所だったユニットハウスはスマイルホームの〝社屋〟として再利用されている。 何より驚いたのは、吉田氏に数百万円単位の金を貸している元スタッフが何人もいるという事実だ。 一例を挙げると、関連会社を統合した組合組織を立ち上げ、理事に就いたスタッフに対し、「出資金が不足している」、「役員に就かせたのだから個人的に協力してくれないか」などの理屈を付けてそれぞれ数百万円の金を出させたという。借用書は残っており、それぞれ返済を求めているが、吉田氏は応じていない。 客観的に見ると吉田氏が信用に値する人物とは到底思えないが「役員として、できる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる。組合組織を立ち上げることになったのも補助金目当てだったとみられ、現在組合として活動している気配は見えない。 同市内で医療・介護業界に従事し、元スタッフとも交流がある人物は吉田氏の性格をこう述べる。 「新しく入ってくる人には手厚い待遇で迎えるが、吉田氏に意見を述べる人や内情を詳しく知った古株は徹底的に冷遇する。職員間対立も煽るようになり、ついには賃金未払いが発生し、支払いを求めると逆ギレされる。そこで初めてどういう人物だったかを思い知らされるのです」 こうした声を当の吉田氏はどのように受け止めるのか。5月下旬、オレンジファーマシーから路上に出て来た吉田氏を直撃した。 ――医療・介護施設をめぐるトラブルが多く、当初の約束通りに金を支払ってもらっていない企業などもあるようだが。 「そういうところはない」 ――南相馬ホームクリニックでは未払い分の賃貸料の支払いを求める裁判を地元企業から起こされている。 「先方がクリニックをやりたいということで、私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方。そもそも係争中なのでそういう部分だけで誤解して書かないでほしい」 ――係争中と言うが、地裁相馬支部で確認したところ、訴状に対する答弁書は見当たらなかった。 「契約している東京のサダヒロという弁護士が対応している」 ――弁護士の連絡先は。 「あることないこと言われているので、いまさら私の方から答えることは何もない」 ――個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる。 「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 ――賃金未払いを訴える声が多い。実質的なオーナーとして責任を取るべきではないか。 「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」 吉田氏はあくまで「自分は被害者」というスタンスを貫き、賃金未払いに関しても「助言している立場に過ぎないので、各施設の責任者に話してほしい」と述べた。しかし前述の通り、実質的なオーナーであることは間違いない。呆れた言い逃れであり、責任を持って賃金未払いや借入金返済に対応する必要がある。 なお、南相馬ホームクリニックの裁判は、東京の弁護士に任せているとの回答だったが、福島地裁相馬支部にあらためて確認したところ、「吉田豊氏を原告とした裁判の訴状は確認できない」とのことだった。 「ここは本当に法治国家なのか」 オレンジファーマシー  結局、本誌の直撃取材を受けた吉田氏は「この後用事があるので」と言って、桜並木クリニックの中に入っていった。本誌5月号では桜並木クリニックを訪問したときの様子を、名前を伏せてこう紹介している。 《中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初からかかわっているが、ちょっと分からない」と話した》 このとき、対応したのは「エノモト」と名乗る男性。後から確認したところ、オレンジファーマシーの管理薬剤師を務める榎本雄一氏だった。吉田氏の親戚に当たる人物が平然とうそを付いていたことになる。外部にすらこういう対応なのだから、スタッフへの対応は推して知るべし。 これ以外にも、本誌には▼同クリニックは医師会に入っていない、▼同クリニックの診察時間はその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている、▼スタッフが定着せず、パート・アルバイトで対応している、▼過去には青森県の人物から借金返済を求める電話が毎日のように来ていた、▼業者に対しても代金未払いが発生している、▼同市石神地区で何か始めようとしている――などの情報が寄せられた。 県相双保健福祉事務所、労働基準監督署などの公的機関には、これらの情報を伝えたが、いずれも反応は鈍く、他人事に捉えているように感じられた。 元スタッフの一人は「賃金未払いや借金踏み倒しで泣き寝入りしている人が多いのに、どの公的機関も見て見ぬふり。市議などに相談したが大きな動きにはつながらなかった。ここは本当に法治国家なのか、と疑いたくなりますよ」と嘆いた。 こうした実態は広く知られるべきであり、企業経営者、医療・介護従事者は被害に遭わないように吉田氏の動向を注視しながら、それぞれが〝自衛〟していく必要がある。 政経東北【2023年7月号】で【第3弾】『吉田豊』南相馬市ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆きを詳報します! 政経東北【2023年7月号】 あわせて読みたい 【第1弾】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家【吉田豊】

  • 郡山【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】市が関係6社を提訴

    【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】郡山市が関係6社を提訴

    (2022年6月号)  2020年7月に郡山市島2丁目で起きた飲食店爆発事故をめぐり、市は2021年12月、店舗運営会社やフランチャイズ本部などの6社を相手取り、現場周辺の市道清掃や災害見舞金支給に要した費用など約600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。2022年4月22日には第1回口頭弁論が開かれ、6社はいずれも請求棄却を求めて争う姿勢を示したという。今後、裁判での審理が本格化していくが、あらためて事故原因と裁判に至った経過についてリポートする。 被害住民に「賠償の先例」をつくる狙いも 事故現場。現在はドラッグストアになっている。 爆発事故現場の地図  爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところにある。この爆発事故により、死者1人、重傷者2人、軽傷者17人、当該建物全壊のほか、付近の民家や事業所などにも多数の被害が出た。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。 当時の報道によると、警察の調べで、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたとみられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに何らかの原因で引火した可能性が高いという。 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。 それによると、以下のようなことが分かったという。 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。 こうした調査を経て、経済産業省は、一般社団法人・全国LPガス協会などに注意喚起を促す要請文を出している。 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かり、管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月2日、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 ただ、それ以降は捜査機関の動きは報じられていない。 責任の所在が曖昧 爆発事故の被害を受けた近くの事業所から事故現場に向かって撮影した写真  以上が事故の経緯だが、この件をめぐり、郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円など。 あわせて読みたい 福島県郡山市の飲食店で爆発事故、親会社コロワイドの株価が下落 Bloomberg   4月22日には1回目の口頭弁論が行われ、被告6社はいずれも請求棄却を求める答弁書を提出したという。 それからほどなく、本誌は、運営会社の高島屋商店、フランチャイズ本部のレインズインターナショナルにコメントを求めたところ、レインズインターナショナルのみ期日までに回答があった。 それによると、「事故が発生したことは大変遺憾であり、事故原因・責任の所在に関わらず、ご迷惑をお掛けした近隣の皆様には申し訳ないと考えております」とのこと。そのうえで、郡山市の提訴についてはこう反論した。 ①フランチャイザーの監督義務違反(民法709条)という点において、そもそもフランチャイザーがフランチャイジーを監督する義務はフランチャイズ契約にも規定がなく、また、店舗の内装造作工事・ガス管の設置方法に関して、当社から一切の指示をしていません。 ②使用者責任(民法715条)に基づく法的責任については、使用者責任は両者間において「使用者」・「被用者」の関係にあることが必要で、フランチャイザーとフランチャイジーは独立の主体として事業活動を行うものであることから、主張に無理があると考えており、これらの主張に対して遺憾に思います。 ③ただし、被害に遭われた方に対しては、当社の法的責任の如何に拘らず、基金による補償金の支払いを本件訴訟と併行しながら継続しています。なお、現在はお怪我をされた方の継続的な医療費の支払いがメインであり、これらの方に対し、基金として最後まで対応していきます。 次回裁判は6月28日に開かれ、争点整理手続きを経て争点などが洗い出され、以降は本格的な審理に入っていくことになろう。その中で、同社以外の被告がどのような主張なのかが明らかにされていく。 市によると、裁判に至る前、6社と協議をしてきたという。2021年2月19日、6社に対して、損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。3月29日までに、2社からは「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社からは「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答があった。 これを受け、関係各所と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対し、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。2021年9月、6社に協議解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こした。 ここまでの経過を振り返ると、警察が運営会社社長、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検したように、責任の所在が明らかにされていないことが話をややこしくしている。 市と関係6社との協議でも、一部から「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」との回答があったように、責任の所在が明らかにされれば、損害賠償に応じる可能性もあろう。 もちろん、刑事事件と市が損害賠償を求めた民事裁判は別物だが、今後、刑事裁判が行われ、責任の所在が明らかになってから、損害賠償請求することもできた。 いま訴訟を起こした理由 郡山市役所  なぜ、このタイミングで市は損害賠償請求訴訟を起こしたのか。 市によると、1つは民法724条に、不法行為の賠償請求権の消滅時効は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき」とあること。   今回のケースでは、損害を受けたのは明らかだが、前述のように「加害者」はハッキリしているようで、実は明確でない。そのため、消滅時効の起算は始まっていないと考えられるが、「ひょっとしたら、消滅時効の起算が始まっているとみなされる可能性もある」と、代理人弁護士からアドバイスされたのだという。 もし、そうだとしたら、もう少しで事故発生から2年が経ち、どの時点が起算点になるかは不明だが、仮に事故発生直後とすると時効が1年余に迫っていることになる。もっとも、市の場合は、話し合い(協議)の中で、明確に損害賠償を求める意思を示しているため、それには当てはまらないと考えられるが。 もう1つは、こんな理由だ。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」(市総務法務課) 品川萬里・郡山市長  主にこうした2つの理由から、このタイミングで損害賠償請求訴訟を起こしたわけ。 爆発事故で被害を受けた住民に話を聞くと、次のように述べた。 「賠償は進んでいません。近く、弁護士に相談しようと思っています。すでに、いくつか裁判が始まっているとも聞いているので、そこに合流させてもらうことも視野に入れています。いずれにしても、泣き寝入りせず、納得のいく賠償を求めていきたい」 関係各社は、市との協議で「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」といった姿勢だったから、近隣住民や事業者に対しても同様の対応だろう。 そういった意味では、今後、刑事裁判や、市が起こした民事裁判でどのような判断が下されるかが大きな注目ポイントになりそうだ。 あわせて読みたい 刑事・民事で追及続く【郡山】「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」

  • 【二本松市】行政連絡員の「委託料」を検証【高額?適正?】

    【二本松市】行政連絡員の「委託料」を検証【高額?適正?】

    (2022年8月号)  二本松市の行政連絡員の委託料が高過ぎる――そんな投書が本誌編集部に寄せられた。〝相場〟は判然としないが、実際どうなのか。 手渡し支給は改めるべき 二本松市役所  《私自身3~4万位かと思っておりましたが、遥か想像を絶する金額にただただ驚いておりますが、本当に今のままでよろしいのでしょうか疑問です》(原文のまま) 6月下旬、本誌編集部に届いた葉書にはそんな一文が書かれていた。 「政経東北愛読者」を名乗る人物は、葉書の中で二本松市の行政連絡員に支払われている委託料を問題視していた。同市議会3月定例会で石井馨議員が委託料に関する質問をしており「詳細は石井議員に問い合わせてほしい」とある。 問題提起した石井馨前市議  ただ、2期務めた石井氏は2022年6月5日投票の市議選に立候補せず、議員を引退していた。石井氏に連絡すると 「私はもう議員じゃないし、次の就職先も決まったので取材は遠慮したい。でも、あの委託料は問題あると思うよ」 と話す。詳細は同市議会のホームページで公開されている会議録を見てほしいというので確認すると、石井氏は3月4日の一般質問で次のような質問をしていた。 ①行政連絡員の委託料は均等割プラス世帯割となっているが、規定通り支給されているのか。 ②委託料の額が近隣自治体と比べて高いと思われるが、市はどう認識しているのか。それを是正する考えはあるのか。 ③委託料は行政連絡員に現金による一括支給となっているが、公金の支出という点を考慮すれば口座振り込みに変更すべきだ。 行政連絡員とは「市民と市政を結ぶ連絡調整役」(市生活環境課の資料より)で、行政区長が兼務しているケースがほとんどだという。市内には行政区が354あるので、行政連絡員も同人数いることになる。 行政連絡員の主な職務は▽市民との連絡に関すること、▽広報紙や市政に関する周知文書の配布、▽市が行う各種調査や加入募集事項の取りまとめ、▽その他市長が特に必要と認めること。任期は1年で再任は妨げないとしており、職務に対しては市が「委託料」を支払っている。支払い方法は安達・岩代・東和地区の行政連絡員には年1回一括、二本松地区の行政連絡員には年2回(7、2月)に分けて支払われている。 葉書の差出人は、この委託料が高過ぎると指摘しているわけだが、実際どうなのか。市生活環境課の伊藤雅弘課長に話を聞いた。 「委託料は、行政連絡員に一律4万円を支払い(均等割)、そこに世帯数に応じた金額(世帯割)を加算しています」 世帯割は7段階に設定され、①10世帯以下は2400円、②11~20世帯は1750円、③21~50世帯は1550円、④51~100世帯は1400円、⑤101~300世帯は1390円、⑥301~500世帯は1380円、⑦500世帯以上は1370円。 これだけでは分かりづらいので具体例を示そう。例えば8世帯の行政連絡員には(均等割4万円)+(2400円×8世帯)=5万9200円の委託料が支払われている。これが15世帯の行政連絡員になると(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×5世帯)=7万2750円という具合に、世帯数が多くなるにつれて委託料も高くなる積み上げ方式で算定される。 ちなみに350世帯の行政連絡員の場合は(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×10世帯)+(1550円×30世帯)+(1400円×50世帯)+(1390円×200世帯)+(1380円×50世帯)=54万5000円の委託料が支払われている。 委託料は、合併前の4市町でも均等割と世帯割を用いて算定していた経緯があり(ただし二本松と安達では委託料、岩代と東和では報酬という名称だった)、現在の算定方法も二本松・東北達地方合併協議会で複数回にわたって議論し、決定した。 同合併協議会の資料にも次のような記述がある。 《委託料については、現行の二本松市の例により新市に引き継ぎ、合併前の市町単位に算定して一括配分し、それぞれの住民自治組織等と調整して業務内容に応じて受託者等へ交付する》 前出・石井氏の3月定例会での一般質問によると、2021年度、委託料を最も多くもらっている行政連絡員は141万円。さらに80・60・50万円台は7人、40・30万円台は5人、20万円台は20人以上に上ったという。平均では12万7000円とも指摘している。 これだけ聞くと「年間141万円ももらっている行政連絡員がいるのか」と思ってしまうが、それは誤解だ。正確には、141万円の委託料が行政連絡員を通じて行政区に支払われ、その中から行政連絡員への報酬が支払われているのだ。ただし実際の報酬がいくらかは「その行政区の決算書を見なければ分からない」(前出・伊藤課長)。要するに行政連絡員は、行政区を代表して市から委託料を受け取っている(預かっている)に過ぎないのだ。 「支払っているのはあくまで委託料であり、報酬ではありません。行政連絡員の報酬額は各行政区で話し合って決めており、合併前の旧市町時代から踏襲している行政区もあるでしょうから、そこに市が『報酬はいくらにしろ』と口を挟むことはしていません」(伊藤課長) こうなると、行政区によっては常識的な額が支払われているケースもあれば、法外な額が支払われている可能性も出てくるが、そこは各行政区が開いている総会で、委託料がきちんと執行されているか、不正が行われていないかを当該住民が監視するしかなさそうだ。 「ただ、2005年に合併して以降、委託料が不正に使われているとか、行政連絡員に法外な報酬が支払われているといった苦情が市民から寄せられたことはありません。市としては委託料が適切に執行され、報酬も常識的な額が支払われているものと認識しています」(同) 求められる住民の監視  ちなみに、市が行政区の世帯数を200世帯と仮定し、県内12市と県北管内3町1村を比較したところ、二本松市の委託料は33万7000円で、同市より高額なのは2市、同額は1村、低額は10市3町という結果だった。同市の委託料は高額の部類に入るが、だからと言って行政連絡員の報酬も高額かどうかは分からないので、葉書の差出人が言うような「同市の委託料が高過ぎる」とは断定しづらい。 しかし、支払い方法には大いに問題がある。同市は行政連絡員一人ひとりに現金で直接手渡ししているのだ。令和の時代に極めて珍しい光景と言えるが、委託料が公金であることを踏まえれば、石井氏が指摘するように口座振り込みが行われてしかるべきだろう。さらに言うと、行政連絡員の個人口座に振り込めば、着服や私的流用の恐れもゼロではないので、行政区の口座に振り込むことを徹底すべきだ。 「委託料の手渡しについては、今後改善に向けて検討していきたいと思います」(同) 行政連絡員が法外な報酬をもらっているわけではないことが、お分かりいただけただろうか。かと言って正確な報酬がいくらかは、行政区ごとに異なるため判然としない。委託料の源資が公金である以上、報酬については市に報告し、非常識な額が支払われている場合は市が指導してもいいように思われる。もちろん、当該住民が総会等を通じて監視することも求められる。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • 郡山商工会議所からも距離を置く!?ゼビオ

     5月号のトップ記事でゼビオの本社移転を取り上げている。グループの中核子会社であるゼビオは栃木県宇都宮市に本社を移してしまうが、実は、持ち株会社のゼビオホールディングス(HD、諸橋友良社長)も郡山市から距離を置くような素振りを見せている。 同社は長年、郡山商工会議所の常議員だったが、今年1月に突然辞めている。昨年11月に改選されたばかりだったので、同会議所は慰留に努めたものの翻意せず議員に〝降格〟した。すると同社は、3月には「議員も辞めたい」と申し入れ、同27日に辞任届を提出した。 議員を辞めると単なる会員になるが、経済人の間からは「ゼビオ元社長の諸橋廷蔵氏(故人)は副会頭まで務めたのに、短期間のうちに常議員から会員に〝降格〟というのは非常に残念だしショック」という声が漏れていた。 そうした中で、辞任届を出した翌日にゼビオが宇都宮への本社移転を発表したことも、経済人たちのショックに輪をかけた。「ゼビオグループが郡山から離れて行く予兆ではないか」と見る向きさえあった。 ゼビオの郡山本社  「ゼビオの本社移転発表時、諸橋社長は『引き続きゼビオHD等の本社を郡山に残すことで地元との関係強化を図りたい』と言っていたが、会議所の常議員、議員を辞めたら発言との整合性が取れなくなる」(ある経済人) なぜ、ゼビオHDは同会議所から距離を置こうとしているのか。ゼビオコーポレートの田村健志氏(コーポレート室長)に尋ねると、次のように説明した。 「会議所の常議員、議員として微力を尽くしてきたが、常議員、議員であることの有無が地元との関係強化につながるものとは考えていませんし、会員は継続します。郡山・宇都宮・東京の3拠点体制のバランスを取りつつ、地元との関係強化を図って参ります」 説明になっているような、いないような気もするが、特に故・諸橋廷蔵氏と付き合いのあったベテラン経済人たちは、同グループが郡山と縁遠くなりつつある状況に、寂しさと隔世の感を覚えている。 あわせて読みたい ゼビオ「本社移転」の波紋 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

  • 事務所移転に揺れる【会津若松地方森林組合】

    事務所移転に揺れる【会津若松地方森林組合】

     会津若松地方森林組合の事務所移転をめぐり、土地取得費用が当初の予定より膨れ上がり、一部役員が執行部に不信感を抱いている。同組合の内部で一体何が起きているのか。 土地費用〝倍増〟に内部から疑問の声 会津若松地方森林組合の事務所  会津若松地方森林組合(会津若松市城前、島田正義組合長)は、会津地方の民有林所有者によって組織されている協同組合だ。組合員の経営相談や森林管理、森林施業の受託、資材の共同購入、林産物の共同販売、資金の融資を担う。 対象区域は会津若松市、猪苗代町、磐梯町、会津坂下町、湯川村、柳津町、会津美里町、三島町、金山町、昭和村の1市7町2村。昨年3月末時点での組合員数は6369人(正組合員6144人、準組合員225人)。役員は組合長のほか理事13人、監事3人。職員29人。 過疎化による林業就業者の減少や高齢化、木材価格の低迷で採算性が低下していることが慢性的な課題となっている。そうした中で同組合が直面する「もう一つの課題」が、事務所移転だという。 昨年5月の総代会で配布された資料には次のように書かれている。 《森林組合事務所は平成23年に発生した東日本大震災の影響を受けた状況の中、築50年を超え老朽化が進んでおります。これらを踏まえて新たな事務所移転について調査・審議することを目的とした事務所移転検討委員会を設置し、進めております》 島田組合長は就任時から移転を〝公約〟として掲げ、この間会津美里町、会津坂下町などの候補地を視察してきた。だが、定款で会津若松市内への設置が謳われていることなどから、本格的に決まるまでには至らなかったという。 複数の関係者によると、そうした中で助け舟を出したのが、組合員でもある会津若松市の不動産業者だった。会津若松市河東町にある約3000平方㍍の土地を移転候補地として提案。所有者はマルト不動産などで、不動産業者が仲介役となってまとめるという。同組合としてもこの案を歓迎し、約6000万円で購入する方針が理事会で決議された。 ようやく長年の問題が解決に向けて前進したと思われたが、その後、事態は暗転する。 不動産業者は「約3000平方㍍では足りないのではないか。買い増してほしい」、「少しばかり残っても他に売れないので、すべて土地を買ってほしい」と、進入路を含めた約5700平方㍍を1億1500万円で購入するよう島田組合長らに打診してきた。島田組合長らは理事会で、それを受け入れる方針であると一方的に報告したという。 複数の役員から一連の経緯を漏れ聞いたという総代の男性は次のように説明する。 「理事会で決めた予算がいきなり倍の金額に膨れ上がったので、一部役員が『なぜ一方的に方針を決めるのか。もう少し慎重に検討すべきだ』と反発しているのです。残った土地を買わされた格好なのに、値引きもしてもらっていないため、不動産業者としっかり交渉せず、言い値をそのまま受け入れた疑いも持たれている。事情を知って反発している総代もいると聞いています」 役員らによると、もともと事務所移転費用は建物建設費も含めて3億円はかかると見込まれていたという。年間収益規模5~6億円の同組合にとっては一大事業となる。そのため、歴代組合長は剰余金を貯めることに努めながら慎重に検討を進めてきた経緯がある。 複数の関係者に確認したところ、「3月29日の理事会で購入金額を決議した。5月26日の総代会で承認されたらそのまま契約する流れになっている」という。疑問を抱いている理事は少数派で、理事会でそのまま決議されたようだ。 「理事の多くは日和見主義で、執行部に批判的なことを言わない。何も聞かされていない総代らも『理事会で決めたことなら』と追認すると思われるが、看過できない問題だと思うし、この間の経緯について島田組合長が説明責任を果たすべきだと思いますよ」(前出・総代) 注目される総代会の行方 会津若松市河東町の移転候補地  移転候補地とされる土地は同市河東町のJR磐越西線広田駅のそばに位置し、パチンコ店・ダイエー河東店が隣接している。進入路には砂利が敷かれ、資材、土砂が置かれていた。正式契約後にあらためて整備し直すものと思われる。 前出・組合員によると、機械を置く倉庫などは数カ所に設置されているとのこと。総代会などは別の会場で行われるので、一般の組合員が事務所を利用する機会は少ないようだ。そう考えると、広い敷地は不要のように思える。駐車場は広く取れそうだが、建物を2階建てにすればスペースを確保できるし、パチンコ店の駐車場の一部を借りる手もありそう。執行部はそこまで議論したうえで土地取得を決めたのだろうか。 島田組合長宛てに質問を送ったところ、文書で回答が寄せられた。一問一答形式で紹介する。(表記など一部リライトしている)。 ――事務所移転を検討している理由は。 「当組合の建物は築50年を迎え、建物全体が老朽化しており、耐震の問題等もあり、事務所移転を検討したところです」 ――移転候補地が決定した経緯は。 「当管内の中心的な市町村で探したが見つからず、会津若松市は市街化区域や市街化調整区域があり、事務所建設が制限されている中で河東の土地が希望する候補地として見つかり進めてきたところです」 ――土地取得費用が当初予定から倍増したため、疑問に思う役員・総代もいるようだが。 「移転計画の詳細を固めていく中で、将来に向け、さまざまな条件を積み重ねた結果であり、理事会において正式に承認されております。理事会で承認されてから総代会に提案するため、疑問に思う総代の方がいらっしゃることについて考えたこともありませんでした」 「移転計画の詳細を固めていく中で、将来に向け、さまざまな条件を積み重ねた結果」としているが、具体的にはどういう考えで不動産会社からの提案を受け入れたのか、いま一つ見えない。一方の不動産会社にも取材を申し込んだが、タイミングが合わず、入稿期限までに話を聞くことはできなかった。 「以前から一部理事が組織内の問題点を指摘しており、ガバナンス強化に乗り出さない執行部を批判してきた。今回の件は、そうした対立構図や同組合の体質を象徴する事例とも言えそうです」(同組合の内情に詳しい事情通) 今年は3年に1度の役員改選期でもある。総代会に質問が出され、活発な議論が展開されるのか、シャンシャンと議決されて終わっていくのか、注目が集まる。

  • 【2024年問題】サービス低下が必至の物流業界

    【2024年問題】サービス低下が必至の物流業界

     トラックドライバーの労働時間が法律で短くなることで、これまで通り荷物を運べなくなる「2024年問題」が迫っている。製造業が盛んな福島県は、製品や部品を長距離トラックで県外に夜通し運べなくなる可能性がある。運送業は即日運送をやめるか、人手確保のため価格転嫁に踏み切らざるを得ない。製造業、小売りなどからなる荷主やその先の消費者にとっては打撃だが、物流現場に負担を強いてきたことを顧みて、歩み寄る曲がり角に来ている。(小池 航) 下請け会社・トラック運転手 現場から嘆きの声 夜に福島トラックステーションを発つトレーラー  4月下旬の金曜夜8時、東北道・福島飯坂IC(福島市)南側にある福島トラックステーションから、普通乗用車を積んだトレーラートラックが発進した。福島市近辺で集荷された荷物は、国道13号を北上して同インターから高速に乗り、夜通し遠方へと運ばれていく。 3、4月は年度末、新年度に当たるため人・モノの流れが1年を通して最も多く、物流業界は繁忙期だ。大型連休前は納期が早まるため、忙しさは続く。物流業界は慢性的な人手不足のため、その負担は荷物の仕分けやドライバーたち現場にのしかかる。 いわゆる「2024年問題」は、「トラックドライバーの労働時間が短くなることにより、これまで通り荷物を運べなくなる問題」⑴だ。約4億㌧の輸送能力が不足すると試算されている。なぜドライバーの労働時間が短くなるのか。 「働き方改革関連法で2019年に導入された時間外労働の上限規制が自動車の運転業務にも適用されます。長距離輸送はドライバーの長時間労働で成り立ってきました。運送業は上限規制との乖離が激しいため、業者に周知し、徐々に是正していく必要がありました。そのための猶予期間が5年間で、24年4月から新たな規制が適用になります」(県北地方の運送会社社長) 働き方改革関連法により2019年4月から、大企業に原則として時間外労働を月45時間、年360時間とする上限規制が導入された。ただし特別な事情があり、労使が合意した場合に限り年720時間となる。中小企業には20年4月に導入された。違反した事業者には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される。 ちなみに運送業に代表される自動車運転業務以外にも建設業、医師、沖縄・鹿児島両県の製糖業が猶予を受けた。中でも運送業は、特別な事情があり、労使が合意した場合に時間外労働の上限を年960時間とする別基準が設けられた。2019、20年に導入された企業より240時間も長い。 『物流危機は終わらない』(2018年、岩波新書)の著書がある立教大経済学部教授の首藤若菜氏は、自動車運転業務に特別に認められた年960時間の上限規制について、・ひと月あたりにならすと月80時間・厚労省が過労死などをもたらす過重労働の判断として「時間外労働が2カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月あたりおおむね80時間」を超える という二つの点を挙げ、 「トラックドライバーにも5年遅れて上限規制が適用されるが、その基準は一般の労働者よりも240時間も長く、いわゆる過労死ラインとほぼ重なる」と指摘している⑵。 時間外労働の上限規制に伴い、ドライバーの拘束時間などを細かく定めた「改善基準告示」も改正された(表)。ここでいう拘束時間とは、始業から終業までの休憩を含んだ時間。 トラックの改善基準告示現行改正後1年の拘束時間3516時間原則:3300時間最大:3400時間1カ月の拘束時間原則:293時間原則:284時間最大:320時間最大:310時間1日の拘束時間原則:13時間原則:13時間最大:16時間最大:15時間1日の休息期間継続8時間継続11時間を基本とし、9時間加減※それぞれの項目に例外規定や努力義務規定がある。  前出の運送会社社長は、改善基準の改正は「厚労省がお茶を濁した印象」と語る。 「1カ月の拘束時間(原則)を見てください。9時間しか減っていない。ひと月の労働日を20日としてならしたら、減ったのは30分程度です。1日の拘束時間(原則)は変化なし。1年の拘束時間も216時間減ですが、1カ月に換算すると減ったのは18時間に過ぎません。業界としては思ったよりも減らなかった印象です」(同) 1年の拘束時間が2800~3000時間になると「現状の働き方では荷物は運べず、お手上げ」だという。 「物流は経済の血液」と言われる。厚労省は物流業界にも働き方改革を導入し、他業界との整合性を図らなければならない一方、法整備をきっかけに物流に大きな影響が出ることは控えたい。どのように血液を巡らせ続けるか、働き方改革と経済維持のはざまで頭を悩ませているのだろう。 ただ、代わり映えのしない改善基準でも、運送会社社長はある程度は有効と考える。 「2024年4月からは改善基準に違反した事業者への業務停止や運行停止などの行政処分が厳罰化されます。コンプライアンス順守が厳しくなる世の中、業者にとっては一度行政処分を食らえばイメージが悪化し、取引にも影響しかねません。残業時間の上限規制と併せて、厳罰化したことで実効性が伴うのではないでしょうか」 定着しない若手 郡山IC近くのトラックターミナル  これで物流業界の労働条件を改善する法整備は一応整った。だが人手不足に見舞われているのは、労働条件が悪いからだけではない。それに見合う給料が得られないことが原因だ。若手が敬遠し、トラックドライバーの男性労働者の平均年齢は44・1歳となっている(厚労省『賃金構造基本調査』2021年版)。 バブル景気に沸き、輸送需要が伸びていた時代は「3Kだが稼げる」と他業種からの転職者も多かった。この世代は定年を迎えるが、若手が入職しないため、いまだにドライバーや仕分け作業などの現場で中心的役割を果たしている。郡山市の60代男性ドライバーもその1人。 「30歳の頃、家族を養わなくてはならないと、稼げる仕事を探していたらトラックドライバーにたどり着いた。手取りで月給は25~35万円。稼げる時は70万円は行ったよ。もっといい給料を求めて移籍もした」 当時は郡山と大阪の定期路線が毎日出ていた。日中から夕方にかけて物流拠点に集荷された物資が方面ごとに仕分けされる。運ぶ物資は多彩だ。身近な物では酒などの飲料品や米、菓子。工場で使う材料やそこでできた部品も多い。 ドライバーの本業は運転だが、実際は積み込みまでしなければならない。手積みの場合は2~3時間はかかる。これがかなりの重労働で、労働災害も運転中より積み込み時の方が多い。 荷物を運搬用の荷台(パレット)に載せてフォークリフトで積む方法もある。積み込みは20~30分に短縮され、普及も進む。ただし、かさばる物はパレットの分だけ積載量が減るため向かない。他に、荷主が荷物をパレットに載せた状態で用意しなければならない点、荷物を降ろした後はパレットを回収して荷主に返さなければならず、その分、復路の荷物を運べない点で、ドライバーの負担軽減にはつながっていない。 積み込みを終え、ようやくトラックを出せるのは夜8時ごろ。大阪へは朝5時ごろに着く。トイレ以外は降りなかった。弁当はダッシュボードに置き、箸を使い、片手でハンドルを握りながら食べた。 「酒がないと眠れない」  仕事はきついが規制は緩かった。多く積んで早く遠方に届けるのが絶対で、会社も労働時間についてはとやかく言わない。時には我が子を助手席にこっそり乗せ、行先で遊ばせた。煩わしい人間関係がないため、同業者には独りが好きな人が多いように思う。ただし、 「長距離ドライバーは家に帰ってから寝る前に酒を飲む人が多い。深夜から明け方に働いているから、仕事を終えても眠れないんだ。寝付くために酒量が増えたな」(同) 退職を控え「そろそろ年金がもらえる」と話していた60代の同僚が、間もなく亡くなった。心筋梗塞と聞いた。「あの人どうなったんだろう」と昔の仕事仲間が気になって知り合いに聞くと、「とっくに病気で死んだよ」と返ってくることもあった。 2021年度の脳・心臓疾患の労災支給決定件数は全産業で172件だが、うち56件が道路貨物運送業。同労災の約3分の1を占める。 全日本トラック協会の調査によると、自動車運転業務の時間外労働上限である年960時間を超えて働くドライバーが「いる」と答えた事業者は51・1%に上るという。長時間労働が当たり前であることと無関係ではないだろう。 男性は、今はドライバーを退き、物流拠点で管理業務を担う。ただ、肉体労働は変わらずあるし、責任ばかりが増えたとぼやく。 トラックドライバーだけでなく、仕分けをする物流拠点でも人手不足は深刻だ。体感として、これまで10人でこなしていた仕事を3人でやらなければならなくなった。約3倍の時間がかかるので、当然終わらない。キリがないので退勤し、別の人に引き継ぐか後日再開することになる。生鮮食品のように悪くならない物資であれば、荷主が指定する日から最大で3~4日遅れることがある。もっとも、こうした状況は2024年問題が迫る以前からあったという。 人手不足は労働時間の割に賃金が低いことが原因だが、ここに至った背景には何があるのか。 「どこかの運送会社が運賃を下げたら別のところも下げる。待っていたのは、現場に無理をさせる価格競争だった。物流危機が迫っているのは自分で自分の首を絞めた結果だと思う」(同) 物流業界は次のように地位低下をたどってきた。 1990年の規制緩和で新規のトラック運送業者が増加(25年で約4万社から約6万2000社と1・5倍増)→バブル崩壊による「失われた20年」で輸送需要が低迷→減っていく荷物を増えていく事業者が取り合う。 運送業者数は、2008年以降は6万台で横ばいになっている。  トラック運送業は総経費の約半分を人件費が占める。運賃水準の低迷は人件費圧縮に直結し、荷主獲得競争の激化はトラック業界の荷主に対する相対的な立場の低下を招いた。結果、「他業種と比べて労働時間が2割長く、年間賃金が2割低い」現状に陥った⑶。 交渉に立てない下請け  トラック運送業界は荷主に対して物言えぬ立場にあるが、業界内にも元請け、下請けの多重構造がある。言うまでもなく、下請けは最も弱い立場に置かれる。 同業界は約6万2000社の99%以上を中小零細企業が占めており、保有車両10台以下が約5割、11~20台が2割、21~30台が約1割。ピラミッドの上に立つ元請け企業が仕事を受注し、それを下請け企業に委託し、さらに孫請け企業に委託するケースも少なくない。車両500台以上を保有する大手も、受けた仕事の9割以上は「協力企業」と呼ぶ下請けに委託している⑷。元請けにとっては閑散期と繁忙期に業務を調整しやすいようにしておき、固定費を増やさずに配送網を広げる狙いがある。 そうなれば、しわ寄せが来るのは下請けだ。 前出・社長の運送会社は中小企業のため、下請けに入ることも少なくないという。 「実際に運賃を払ってくれる荷主と交渉できないのが痛い。実際の運送を担う業者は、十分な運賃が得られないとドライバーを雇うことができない。しかし、元請けや上位の下請けは、少額でもマージンを取れればいいと業界全体のことは考えていない」 前出の男性ドライバーは老舗会社に勤務するため、末端の下請けほど過酷ではない。だが、苦境は手に取るように分かるという。 「大企業は足元を見るからね。元請けからできもしない仕事を回されたとしても、下請けは取らざるを得ない」 運送は本来、帰りの荷物を確保できるよう算段を付けて出発する。新規参入が厳しく制限されていた時代、運賃は運送側に有利で、帰りの荷台を空にしても元は取れたが、運賃が下振れする現在では帰りの荷物がないと赤字になる。収益は1人のドライバーがいかに多くの荷物を運ぶかにかかってくる。 次は一例だ。ある下請けのドライバーは「明日中に東京までこの荷物を運べ」と言われた。東京に荷物を下ろすと、所属企業から「帰りの荷物を見つけるから」と一報。帰着地の郡山に運ぶ荷物が見つかればいいが、もし大阪行きの荷物しかなければ、それを積んで西へと向かわされる。大阪から次の行き先は運ぶ荷物次第だ。「荷物を運ばせてください」と運送業者を回り、半額の運賃で請け負うことになる。 「このままでは一つの運送会社が潰れるだけではなく、物流業界、ひいては日本経済が立ち行かなくなってしまうことを理解してほしい」と前出の運送会社社長は力を込める。 この社長の会社では、上限規制適用以降は、遠方に荷物を運ぶ場合はドライバーを休ませ、それまで1日要していたところを2日かけるように余裕を持たせるという。 「入社希望者が全くいない以上、複数人のドライバーで中継して労働時間を抑える方法は取れません」 一方で2024年問題が注目されているのを機に、取引先には運賃値上げを交渉しようと考えている。 「社会の関心が高まっている今をチャンスと捉えなければなりません。労働時間が制限された後、物流が回るかどうかは、やってみないと分からない。来年が恐ろしいと同時に、業界の好転に期待が持てる楽しみな年でもあります」(同) 価格転嫁は荷主である小売り、製造業を通して消費者に負担が求められる可能性もある。筆者、読者を含め消費者はその背景に目を向け、業界の多重構造が適正なのか考える必要があるだろう。  脚注 ⑴首藤若菜「『2024年問題』とは何か 物流の曲がり角」(『世界』2023年5月号、岩波書店) ⑵前掲書 ⑶金澤匡晃「問題の本質は何か、物流に何が起きるのか」(『月刊ロジスティクス・ビジネス』2022年3月号、ライノス・パブリケーションズ) ⑷石橋忠子「間近に迫る『運べない』『届かない』の現実」(『激流』2023年3月号、国際商業出版) あわせて読みたい 一人親方潰しの消費税インボイス

  • 田村市の〝いわくつき産業団地〟が完売

    田村市の「いわくつき産業団地」が完売

     道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が田村市常葉町に整備中の東部産業団地(仮称)に進出する。3月31日、同社の西田義則社長と白石高司市長が基本協定を締結した。 《民間企業として国内初の大型舗装実験走路を備えた研究施設を建設する。2023年度に着工し、24年度中の運用開始を目指す》《実験走路は1周約1・0㌔の楕円状で、トレーラーを自動運転させ、開発中のコンクリートやアスファルト舗装の耐久性などを調べる。トレーラーを監理する管理棟や車両の点検・整備を行うトラックヤードなども設ける》(福島民友4月1日付より) 大成ロテックは同団地の二つある区画のうちA区画(約14・3㌶)に進出。残るB区画(約9・1㌶)には昨年10月、電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)が進出することが発表されているため、同団地はこれで完売したことになる。 「これほど巨大な団地を、あんな辺ぴな場所につくって売れるのかと内心ヒヤヒヤしていました」 と話すのは市役所関係者だ。 同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、設置場所については当初から疑問視する向きが多くあった。 すなわち、同団地は田村市常葉町山根地区の国道288号沿いにあるが、①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならない、という二つの大きな労力が要る場所だったのだ。 なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉町が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉町は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。 また設置場所だけでなく、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことなども、同団地が歓迎されない要因になっていた。 こうした疑惑を抱えた同団地の区画販売を、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した前出・白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から販売に苦労するのではないかという見方が浮上していた。 幸い、市の熱心な営業活動でヒメジ理化と大成ロテックの進出が決まり、これらの不安は一掃された形。とはいえ、解決しなければならない課題はまだ残っているのだという。 「想定外の巨岩が地中に埋まっていて工事に時間がかかっている。岩は家1軒分よりも大きくて硬く、動かすのは不可能なため、壊して運び出すことになるようです」(前出・市役所関係者) 敷地内に残された巨岩  実際、現地に行くと、国道288号からすぐ見える場所に、2階建ての住宅より大きな岩がむき出しで横たわっているのが分かる。これほどの巨岩を処理するのは確かに容易ではなさそう。 ただ、市商工課によると「残る作業は舗装の一部や調整池の整備などで、これらを進めながら進出企業も必要な工事に着手する予定です」(担当者)と、巨岩の処理を行っても両社の操業スケジュールに影響は出ないとしている。 疑惑にさいなまれた同団地の正常な稼働が待たれる。 あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

  • 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

    福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

    (2022年8月号)  JR福島駅と言えば、東口で進められている駅前再開発事業が思い浮かぶが、経済界を中心に東西エリアの一体化に向けた協議が行われていることはあまり知られていない。その一体化に伴って必要になるのが、同駅の連続立体交差だ。連続立体交差は巨額の費用と長い年月を要し、実現は簡単ではないが、災害時に西口から東口(あるいはその逆)への避難ルートがほとんどない現状を踏まえると「市民の命を守るため、実現に向け真剣に検討すべき」という声がある。 実現目指す地元経済界との間に〝隙間風〟 https://www.youtube.com/watch?v=hCXjFyJGVqE 福島駅前再開発へ ビル解体に向けた地鎮祭 賑わい創出の新たなランドマークの全容とは<福島県> (22/07/04 19:35)  2022年7月4日、福島駅東口の駅前再開発事業で、既存の建物を取り壊す解体安全祈願祭が現地で行われた。祈願祭には市や商工関係者など約50人が出席。福島駅東口地区市街地再開発組合の加藤真司理事長、ふくしま未来研究会の佐藤勝三代表理事、木幡浩市長らが玉串をささげた。加藤理事長は「安全最優先で工事を進める」、木幡市長は「完成後は官民一体で中心市街地の賑わい創出に取り組みたい」と挨拶した。  施工者である同組合のホームページによると《福島駅東口地区市街地再開発事業は再々開発事業で、昭和46年~48年度に市街地再開発事業(辰巳屋ビル・平和ビル)により実施された地区にその周辺の低・未利用地等を含めた地区を対象として、都市機能の更新と高次都市機能の集積を図るため建物の建替え等を再び実施する事業です。本事業は民間が行う商業、業務、宿泊等に加え、公益施設(大ホール、イベント・展示ホール)機能の複合化により、商業や街なか居住等の都市機能の充実、賑わいの創出、交流人口の拡大などを図り》とある。 計画では、敷地面積1・4㌶に商業、交流・集客施設、オフィス、ホテルからなる12階建ての複合棟、7階建ての駐車場棟、13階建ての分譲マンションを建設。総事業費は492億円で、このうち国・県・市が244億円を補助し、市はさらに公共スペースを190億円で買い取る。7月末から解体工事に入り、2023年度から新築工事に着手、26年度のオープンを目指している。 この間、本誌でも度々取り上げてきた駅前再開発事業がいよいよ本格始動したわけだが、これとは別に同駅周辺の再開発を模索する動きがあることはあまり知られていない。 「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織がある。設立は2021年3月、会長は福島商工会議所の渡邊博美会頭、会員数は91の事業所・団体に上る。同協議会の規約によると、目的は《福島市のより良い都市形成と福島駅周辺の円滑な交通体系の根幹となる福島駅周辺関係整備の早期実現に協力し、もって地域経済の発展並びに中心市街地の活性化を図る》。 同駅周辺を整備し活性化を図るというのだから、前述・駅前再開発事業と目的は変わらない。違うのは、目的ではなく手段。同協議会が念頭に置いているのは、同駅の連続立体交差だ。 連続立体交差とは、鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業だ。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の国庫補助(補助率10分の5・5)として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ、事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。  全国連続立体交差事業促進協議会のホームページによると、東京都内や大阪府など都市部での実績が目立つが、前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会が参考にするのはJR新潟駅だ。 新潟駅の連続立体交差は1992年に新潟県と新潟市が共同調査を開始し、2005年に同駅周辺整備計画が都市計画決定。翌年、同駅付近連続立体交差事業として国から認可を受け、正式スタートを切った。 事業主体は当初県だったが、2007年に新潟市が政令市に移行したことに伴い市に移管。以降、着々と工事が進められ、18年度には同駅高架駅第1期開業および新幹線と在来線の同一乗り換えホームが完成。2022年6月には在来線高架化が完了し、同月5日に全線高架化記念式典が行われた。06年の事業スタートから16年かかったが、関連工事は現在も続いており、駅舎内の商業施設は24年度、駅周辺整備は25年度の完了を目指している。 事業費は1500億円、周辺整備も含めると1750億円で、このうち市が400億円を負担しているというから、連続立体交差が一大プロジェクトであることがご理解いただけるだろう。 少ない東西の避難ルート 「連続立体交差」待望論が浮上する福島駅(東口) 福島駅西口  新潟駅に視察に行ったという福島商議所の事務局担当者も 「新幹線と在来線が同じレベルにあり、乗り換えがスムーズにできるほか、1階にバスターミナルやタクシープールが整備されるなど、雨や雪を凌げるのは雪国にとって便利なつくりだと感じました。市街地が線路に分断されず、一体感が醸成されている点も魅力でした」 と、連続立体交差がもたらす効果を実感したという。 「高架化による踏切渋滞の解消というと首都圏の駅や線路を思い浮かべますが、長野新幹線の開通に合わせて長野・富山・金沢の各駅でも連続立体交差が行われているので、地方でも実績は十分あります」(同) 実際、連続立体交差によりどんな効果が見込まれるのか。新潟市の資料によると①踏切2カ所の除去により遮断時間が2~3時間解消し、一時停止の損失時間も3~5時間解消、②新幹線と在来線の乗り換え移動時間が最大4・6分短縮し、計16㍍の上下移動も解消、③鉄道横断区間の移動時間が半分に短縮し、消防署からの5分間の到達圏域が12%拡大、④鉄道とバスの乗り換え移動時間が平均1・8分短縮、⑤同市の二酸化炭素排出量とガソリン使用量が大きく削減、⑥駅周辺で多くの民間ビルの建設や建て替えが進み、人口増と雇用創出が期待される――等々。 費用と年月はかかるが、その分の見返りも大きいことが分かる。ではこれを福島駅に置き換えるとどんな効果が考えられるのか。市内の経済人はこのように語る。 「基本的には新潟駅と同様の効果が見込まれますが、福島駅の場合は東西をつなぐ平和通りのあづま陸橋と県道庭坂福島線の陸橋(西町跨線橋)が築50年を迎え、架け替えの必要があります。この二つを多額の費用をかけて架け替えるなら、併せて同駅も高架化した方が費用対効果は高いと思われます」 線路によって遠く分断された東西口が一体化すれば、駅周辺の光景が劇的に変化するのは間違いないが、この経済人によると、連続立体交差は経済面だけでなく、防災面からも重要な役割を果たすという。 「福島駅周辺は東西を行き来するルートが少ない。同駅の地下には東西自由通路があるが狭く、東口の出入口は駅ビル(エスパル福島)内にあって分かりづらい。県外の人は出入口が見つからず、わざわざ入場券を買って改札口から行き来しなければならないのかと勘違いする人も多い。飯坂線の曽根田踏切は〝開かずの踏切〟として有名で、遮断機が上がると歩行者も自転車も車も一斉に渡り出すので非常に危険。同駅周辺にはアンダーパスもあるが、大雨時には冠水のリスクがある。2019年に福島市で東北絆まつりを開催した時、アンダーパスを封鎖し、来場者にはあづま陸橋と西町跨線橋を通って東西を行き来してもらったが『他にルートはないのか』と大ひんしゅくを買った経緯もあります」(同) こうした中で経済人が問題視するのが、同市のハザードマップだ。「吾妻山火山防災マップ」(2019年改訂版)を見ると、冬に大噴火が発生し融雪による火山泥流が押し寄せると、同駅西口の仁井田、八木田、須川町、方木田地区は浸水2㍍以上、笹木野、森合地区は同50㌢未満に達すると表示されているのだ。同じ西口の野田町や三河台地区は浸水を免れるため西口にも避難できる地域はあるが、いざ火山泥流が迫ってきたら遠くに(線路を跨いで東口側に)逃げようという心理が働くのが自然だろう。 「しかし、浸水するということは東西自由通路やアンダーパスは通れない可能性が高い。そうなると、駅周辺の人たちは曽根田踏切、あづま陸橋、西町跨線橋しか避難ルートがないわけです」(同) もし災害が発生し、何千もの人がこの限られた避難ルートに一斉に押し寄せたら、大パニックになることは容易に想像できる。 これは火山に限らず、大雨の場合でも同駅南側には荒川が流れていることから東西口どちらも50㌢から最大5㍍の浸水リスクがあり、東西自由通路やアンダーパスは水没の恐れがある。災害が頻発する昨今、東西の避難ルートが極めて少ないことは駅周辺に暮らす市民にとって不安要素となっているのだ。 「火山泥流や大雨は、現在の福島駅をも水没させる恐れがある。そうなれば交通や物流にも多大な影響が及ぶことになる。すなわち連続立体交差は、そういったリスクの解消にも役立つのです」(同) 二階氏から知事に指示 二階俊博前幹事長(自民党HPより) 内堀雅雄知事  前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会は設立から1年5カ月しか経っていないが、この間、活発な活動を展開している。同会発足前の2018年11月には、福島商議所中小企業振興委員会で新潟駅を視察。21年10月には一般市民や高校生を対象に東西の往来に関するアンケート調査を実施。2022年に入ってからは、1月に木幡浩市長に同駅連続立体交差の推進を陳情、3月に専門家を招いた講演会や福島商議所女性会を対象とした研修会を開催、4月には自民党国土強靭化推進本部と地方創生実行統合本部を訪ね、同駅連続立体交差に関する要望書を提出した。7月末には総会も開催予定だ。 地元経済界の事情通によると、同協議会が4月に自民党本部を訪ねた際にはサプライズも起きたという。 「同協議会の渡邊会長が国土強靭化推進本部長の二階俊博前幹事長に要望書を手渡すと、二階氏はおもむろに電話をかけ出した。驚いたことに電話の相手は内堀雅雄知事で、二階氏が内堀知事に『福島から地元の方々が連続立体交差の要望でお見えになっているので対応してほしい』と言うと、内堀知事は『分かりました』と応じたというのです。さらにそこには二階氏の側近で、地方創生実行統合本部長の林幹雄元経済産業大臣も同席していて、林氏も県幹部に電話し『すぐに計画を練って国に上げるように』と指示したそうだ」 自民党の中枢から内堀知事や県幹部に直接指示する光景を目の当たりにして、同協議会は実現に強い手ごたえを感じたはずだ。 事情通によると、2020年12月に福島市で平沢勝栄衆院議員(福島高卒)の復興大臣就任祝賀会を開いた際、平沢氏から同商議所幹部たちに「福島駅の連続立体交差を検討してはどうか」との誘いがあったという。ちょうど同商議所内で検討を始めたころで、平沢氏に全く相談していないタイミングでそのような打診を受けたため、真剣に検討するきっかけになったようだ。ちなみに、平沢氏は二階派所属。 誤解されては困るが、連続立体交差は有力国会議員がこぞって後押ししているからやろう、ということではない。同協議会が市民や高校生に行ったアンケートでは「鉄道が高架化した下を車や歩行者が自由に通行できるようになったらどう思うか」という質問に、市民の53%が「非常に良い」、32%が「良い」と回答、高校生も「非常に良い」25%、「良い」52%という結果が得られている。また自由記述欄も、費用負担への心配や駅前の魅力向上につながるのか疑問視する声が散見されたが、多くは歓迎の意見で占められていた。市民のニーズの高さも、実現に向けた原動力になっている。 とはいえ同協議会が自民党本部を訪ねてから3カ月以上経つが、駅前再開発事業の解体安全祈願祭は行われたものの、連続立体交差をめぐる具体的な動きは何一つ見られない。 「検討の予定はない」 【木幡浩】福島市長  前出・事情通によると、原因は木幡市長の消極姿勢にあるという。 「木幡市長は駅前再開発事業に専念したい考えで、連続立体交差には関心を示していません。2022年1月、同協議会が木幡市長に陳情した際も素っ気ない態度だったそうで、温厚で知られる渡邊会長が『ああいう態度は政治家としていかがなものか』と不快感を示したとか。木幡市長からは『一応検討します』という言葉さえなかったようです」 こうした状況を受け、同協議会関係者の間ではこんな見立てが浮上している。 「二階氏と林氏から内堀知事に指示があったものの、地元自治体の意向は無視できない。そこで、内堀知事が木幡市長に打診すると『駅前再開発事業に専念したい』と言われたため『地元市長にそう言われたら、県は手出しできない』と静観する構えになったようだ」 それを二人が話し合った場が、内堀知事が新型コロナウイルスに感染した「5月16日、福島市内での4人の会食」(地元紙報道)とのウワサまで出ている。ただ、確かに木幡市長も同時期、濃厚接触者になっているが、そのきっかけは「5月17日、福島市内での4人の会食」(同)と1日遅いのだ。 報道通りなら二人は異なる会食に参加していたことになるが、「福島市内」「4人」と状況が一致していたため「感染対策が行われた別々の会食に参加していたはずなのに、同時に感染者と濃厚接触者になるのは不自然だ」として「実際は同じ会食に参加していたのではないか」という説まで囁かれている。 「木幡市長は1984年に東大経済学部卒―自治省入省、内堀知事は86年に東大経済学部卒―自治省入省と、二人は全く同じルートを辿った先輩・後輩の間柄なのです。だから、木幡市長がノーと言えば内堀知事は逆らえない」(前出・事情通) そうなると、今度は内堀知事に直接電話をかけた二階氏の立つ瀬がない。このまま動きがなければ「オレの顔を潰す気か」と二階氏が激怒するのは必至。二階氏に「分かりました」と返事はしたものの、先輩の木幡市長から了承が得られない〝板挟み状態〟に、内堀知事は肝を冷やしているかもしれない。 同市都市計画課に同駅の連続立体交差を検討する考えがあるか尋ねると、担当者は次のように答えた。 「商工会議所を中心に設立された福島駅東西エリア一体化推進協議会で連続立体交差に関する協議を進めていることは承知しており、東西エリアの一体化が重要であることも認識しています。ただ、実現には費用と時間がかかり、市では公共施設の再編に向け駅前再開発事業に注力しているのが現状で、連続立体交差の具体的な検討は行っていません」 木幡市長にも連続立体交差への見解を聞くため取材を申し込んだところ、文書(7月22日付)で次のような回答が寄せられた。   ×  ×  ×  × ――福島駅の連続立体交差を検討する考えはあるか。 「2018年に策定した『風格ある県都を目指すまちづくり構想』では、公会堂や市民会館、消防本部など耐震性の不足する建物を再編統合も図りながら整備するとともに、その一環で整備するコンベンション施設は中心市街地活性化のため、駅前の再開発ビルに統合することとしました。これ以外の事業は中長期的課題とされ、整備コストなどの課題を踏まえ調査研究を続けるとしています。なお、福島駅連続立体交差事業はこの構想に含まれていません。 他都市の事例を参考にすると、連続立体交差事業はこれら以上の膨大な事業費(千数百億円規模)を要するうえに、20~30年の長期に及ぶ事業期間、JR各線と私鉄2線との複雑な軌道形状、既存のあづま陸橋や西町跨線橋の取り扱いなど課題が多いことから、市としては慎重な対応が必要と考えています。現時点で連続立体交差を検討していく予定はありません」 ――2022年1月、「福島駅東西エリア一体化推進協議会」が陳情を行った際、木幡市長の反応は鈍かったとのことですが。 「ご指摘の協議会から陳情を受けたことはありませんが、考え方は前述の通りです」 ――連続立体交差を行わないとするなら、吾妻山噴火など災害時における西口から東口への避難ルートはどのように確保していく考えか。 「災害時の各地域の避難ルートは2019年9月公表の『火山活動が活発化した場合の避難計画』の中に避難対象地域の主な避難ルートや指定避難所が示されています。地震などで東口と西口をつなぐあづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保し、迅速に市民への周知を図ります」 ――木幡市長が新型コロナの濃厚積極者になったのは、内堀知事と会食しながら連続立体交差に関する話し合いをしていたことがきっかけと聞いたが、事実か。 「すでに公表しているように、私が濃厚接触者となった会食は5月17日に行いました。『内堀知事と会食しながら連続立体交差について協議した』ということはありません」   ×  ×  ×  × やはり内堀知事との会食は否定したが、同協議会からの陳情を受けていないとか、避難ルートの確保に向けた施策がないなど、要領を得ない回答が目立った印象だ。  前出・市内の経済人は連続立体交差に無関心な木幡市長にこんな苦言を呈した。 「駅前再開発事業に専念したい気持ちは分かるが、市民の命を守る観点から言うと、連続立体交差を検討すらしない姿勢は疑問だ。そもそも火山泥流や水害で駅周辺に被害が及べば、駅前再開発事業にも多大な影響が及ぶ。492億円もの事業費を投じて東口だけを整備するなら、国の補助金を活用して西口も含めた駅一帯を整備した方が効果的だ。こうした提案をすると、県や市は口を揃えて『金がない』と言うが、金がないからやらないのではなく『面倒くさいからやりたくない』という風にしか見えない」 連続立体交差の実現は簡単ではないが、「市民の命を守る」ことを考えた時、木幡市長の「あづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保する」という発言は場当たり的で不安だ。 駅前再開発事業をめぐっては、ホテルや商業施設の詳細が明らかにならず、市が運営するホールに対しても「このつくりで大丈夫か」と心配する声が少なくない。既に走り出している計画を大きく変更するのは現実的ではないかもしれないが、連続立体交差を望む経済界と溝ができたまま建設―開業へと進む状況は、一大プロジェクトの姿として残念と言わなければならない。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 裏磐梯グランデコ経営譲渡の余波

    裏磐梯グランデコ経営譲渡の余波

     本誌昨年5月号に「裏磐梯グランデコ『身売り』の背景」という記事を掲載した。北塩原村の「グランデコスノーリゾート」、「裏磐梯グランデコ東急ホテル」を所有する東急不動産は、昨年4月までに両施設を譲渡する方針を決めた。その際、同社に「譲渡先はどこになるのか」と問い合わせたところ、「非公表ですが、日本国内でもスキー場等、事業展開している法人です。当社も過去に取引があり、信頼できる法人です」との回答だった。 【中国系企業】イデラ社が不動産の管理、ザ・コートがスキー場、ホテルの経営  ただ、本誌取材で「イデラキャピタルマネジメント(以下「イデラ社」と略)という会社が引き継ぐ」との情報を得たため、記事では新会社がどんな会社なのかをリポートした。イデラ社は中国の巨大複合企業「復星集団(フォースン・グループ)」の傘下で、役員は親会社(復星集団)の関係者と思われる中国人名が多い。同社が不動産の管理を行い、スキー場、ホテルの経営は、同社の100%子会社「The Court(ザ・コート)」が担う。  昨年7月1日付で東急不動産からイデラ社に施設が譲渡されたが、今年3月末までは東急不動産(実際の運営はグループ会社の東急リゾーツ&ステイ)が運営した。東急不動産がスキー場のラストシーズンの営業をしながら、新会社に引き継ぎをした格好。ちなみに同スキー場は、例年は4月も営業していたが、今年は3月末でクローズした。4月からは正式にイデラ社、ザ・コートの管理・運営体制になった。 そんな中、地元の観光業者から「東急リゾーツ&ステイ完全撤退のタイミングでリストラが始まっている」との情報が寄せられた。 以前、東急不動産に「譲渡後の地元採用の従業員の扱いはどうなるのか」と問い合わせたところ、同社からは「譲渡後も2023年3月まで今までと変わらず、当社グループにて運営を致します。その後に関しては、雇用が維持されるよう譲渡先とも協議し、努めてまいります」との回答だった。 地元住民も「地元採用の従業員は、希望者は新会社で引き続き雇用してもらえるようですし、運営会社が変わっても、地元にとってはそれほど影響はないと思います」と語っていた。しかし、実際は雇用が維持されない、といった情報が寄せられたのである。 ある関係者に確認したところ、従業員の入れ替わりがあるのはどうやら間違いなさそう。 「季節雇用のアルバイトについては、来シーズンも雇ってもらえると思うが、東急リゾーツ&ステイの正社員は、同社のほかの施設への異動辞令が出ているようだ。だから、『リストラ』というのはちょっと違うと思うが、異動する人もいれば、異動がイヤで辞める人もいる」 東急不動産に問い合わせたところ「人事のことですので詳細は控えますが、こちらに残られる方もおれば、新運営会社に移られることを希望する方もおられます。以前お伝えした方針は特に変わっておりません」とのこと。 一方、新会社(現地の責任者)にも問い合わせたが、コメントは得られていない。 そのほか、地元住民の中には、「新会社は中国国内の富裕層を誘客することが考えられ、今後、スタッフの中国人化が進むことも想定される。村内にそのコミュニティー(中国人ムラ)ができるのではないか」と懸念する声もある。 同村はバブル期にリゾート開発目的で「胡散臭い人」や「詐欺師まがいの人」が多数入ってきた。そんな過去もあって「よそ者」への警戒心が強い。だからこそ、そういう懸念の声が出てくるのだろうが、ひとまずは新会社がどういった経営をしていくのかを見守りたい。 譲渡後の新ホテル「EN RESORT Grandeco Hotel」は7月1日(土)グランドオープン 「EN RESORT Grandeco Hotel」のホームページ グランデコ・マウンテンリゾートのホームページ https://www.youtube.com/watch?v=xQM7piYeE9o EN RESORT Grandeco - SUMMER https://www.youtube.com/watch?v=4gTZKlo7oC4 EN RESORT Grandeco - FALL グランデコ・スノーリゾートのホームページ https://www.youtube.com/watch?v=s2D7boerQC8 EN RESORT Grandeco - WINTER あわせて読みたい 裏磐梯グランデコ「身売り」の背景 (2022年5月号) グランデコ売却先は本誌既報通りの「中国系企業」 (2023年1月号)

  • ゼビオ「本社移転」の波紋

    ゼビオ「本社移転」の波紋

     スポーツ用品販売大手ゼビオホールディングス(HD、郡山市、諸橋友良社長)は3月28日、中核子会社ゼビオの本社を郡山市から栃木県宇都宮市に移すと発表した。寝耳に水の決定に、地元経済界は雇用や税収などに与える影響を懸念するが、同市はノーコメントで平静を装う。本社移転を決めた背景には、品川萬里市長に対する同社の不信感があったとされるが、真相はどうなのか。(佐藤 仁) 信頼関係を築けなかった品川市長 品川萬里市長  郡山から宇都宮への本社移転が発表されたゼビオは、持ち株会社ゼビオHDが持つ「六つの中核子会社」のうちの1社だ。 別図にゼビオグループの構成を示す。スポーツ用品・用具・衣料を中心とした一般小売事業をメーンにスポーツマーケティング事業、商品開発事業、クレジットカード事業、ウェブサイト運営事業などを国内外で展開。連結企業数は33社に上る。  かつてはゼビオが旧東証一部上場会社だったが、2015年から純粋持ち株会社体制に移行。同社はスポーツ事業部門継承を目的に、会社分割で現在の経営体制に移行した。 法人登記簿によると、ゼビオ(郡山市朝日三丁目7―35)は1952年設立。資本金1億円。役員は代表取締役・諸橋友良、取締役・中村考昭、木庭寛史、石塚晃一、監査役・加藤則宏、菅野仁、向谷地正一の各氏。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。 「子会社の一つが移るだけ」「HDや管理部門のゼビオコーポレートなどは引き続き郡山にとどまる」などと楽観してはいけない。ゼビオHDはグループ全体で約900店舗を展開するが、ゼビオは「スーパースポーツゼビオ」「ゼビオスポーツエクスプレス」などの店名で約550店舗を運営。別表の決算を見ても分かるように、HDの売り上げの半分以上を占める。地元・郡山に与える影響は小さくない。 ゼビオHDの連結業績売上高経常利益2018年2345億9500万円113億8900万円2019年2316億2900万円67億2500万円2020年2253億1200万円58億4200万円2021年2024億3800万円43億4200万円2022年2232億8200万円78億5100万円※決算期は3月 ゼビオの業績売上高当期純利益2018年1457億6600万円54億1000万円2019年1380億2400万円21億7600万円2020年1291億7600万円19億5300万円2021年1124億6900万円12億8700万円2022年1282億1900万円6億2000万円※決算期は3月  郡山商工会議所の滝田康雄会頭に感想を求めると、次のようなコメントが返ってきた。 郡山商工会議所の滝田康雄会頭  「雇用や税収など多方面に影響が出るのではないか。他社の企業戦略に外野が口を挟むことは控えるが、とにかく残念だ。他方、普段からコミュニケーションを密にしていれば結果は違ったものになっていたかもしれず、そこは会議所も行政も反省すべきだと思う」 雇用の面では、純粋に雇用の場が少なくなり、転勤等による人材の流出が起きることが考えられる。 税収の面では、市に入る市民税、固定資産税、国民健康保険税、事業所税、都市計画税などが減る。その額は「ゼビオの申告書を見ないと分からないが、億単位になることは言うまでもない」(ある税理士)。 3月29日付の地元紙によると、本社移転は今年から来年にかけて完了させ、将来的には数百人規模で移る見通し。移転候補地には2014年に取得したJR宇都宮駅西口の土地(約1万平方㍍)が挙がっている。 それにしても、数ある都市の中からなぜ宇都宮だったのか。 ゼビオは2011年3月の震災・原発事故で国内外の企業との商談に支障が出たため、会津若松市にサテライトオフィスを構えた。しかし交通の便などの問題があり、同年5月に宇都宮駅近くに再移転した。 その後、同所も手狭になり、2013年12月に宇都宮市内のコジマ社屋に再移転。商品を買い付ける購買部門を置き、100人以上の体制を敷いた。マスコミは当時、「本社機能の一部移転」と報じた。 ただ、それから8年経った2021年7月、宇都宮オフィスは閉所。コロナ禍でウェブ会議などが急速に普及したことで同オフィスの役割は薄れ、もとの郡山本社と東京オフィスの体制に戻っていた。 このように、震災・原発事故を機にゼビオとの深い接点が生まれた宇都宮。しかし、それだけの理由で同社が40年以上本社を置く郡山から離れる決断をするとは思えない。 ある事情通は 「本社移転の背景には、ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった事情がある」  と指摘する。郡山では実現の見込みがない、とはどういう意味か。 農業試験場跡地に強い関心 脳神経疾患研究所が落札した旧農業試験場跡地  本社移転が発表された3月28日、ゼビオは宇都宮市と連携協定を締結。締結式では諸橋友良社長と佐藤栄一市長が固い握手を交わした。  ゼビオは同日付のプレスリリースで、宇都宮市と連携協定を締結した理由をこう説明している。  《宇都宮市は社会環境の変化に対応した「未来都市うつのみや」の実現に向け、効果的・効率的な行政サービスの提供に加え、多様な担い手が、それぞれの力や価値を最大限に発揮し合うことで、人口減少社会においても総合的に市民生活を支えることのできる公共的サービス基盤の確立を目指しています》《今回、宇都宮市の積極的な企業誘致・官民連携の取り組み方針を受け、ゼビオホールディングス株式会社の中核子会社であるゼビオ株式会社の本社及び必要機能の移転を宇都宮市に行っていく事などを通じて、産学官の協働・共創のもとスポーツが持つ多面的な価値をまちづくりに活かし、スポーツを通じた全世代のウェルビーイングの向上によって新たなビジネスモデルの創出を目指すこととなりました》  宇都宮市は産学官連携により2030年ごろのまちの姿として、ネットワーク型コンパクトシティを土台に地域共生社会(社会)、地域経済循環社会(経済)、脱炭素社会(環境)の「三つの社会」が人づくりの取り組みやデジタル技術の活用によって発展していく「スーパースマートシティ」の実現を目指している。  この取り組みがゼビオの目指す新たなビジネスモデルと合致したわけだが、単純な疑問として浮かぶのは、同社はこれから宇都宮でやろうとしていることを郡山で進める考えはなかったのか、ということだ。  実は、過去に進めようとしたフシがある。場所は、郡山市富田町の旧農業試験場跡地だ。  同跡地は県有地だが、郡山市が市街化調整区域に指定していたため、県の独断では開発できない場所だった。そこで、県は「市有地にしてはどうか」と同市に売却を持ちかけるも断られ、同市も「市有地と交換してほしい」と県に提案するも話がまとまらなかった経緯がある。  震災・原発事故後は敷地内に大規模な仮設住宅がつくられ、多くの避難者が避難生活を送った。しかし、避難者の退去後に仮設住宅は取り壊され、再び更地になっていた。  そんな場所に早くから関心を示していたのがゼビオだった。2010年ごろには同跡地だけでなく周辺の土地も使って、トレーニングセンターやグラウンド、研究施設などを備えた一体的なスポーツ施設を整備する構想が漏れ伝わった。  開発が進む気配がないまま年月を重ねていた同跡地に、ようやく動きがみられたのは2年前。総合南東北病院を運営する一般財団法人脳神経疾患研究所(郡山市、渡辺一夫理事長)が同跡地に移転・新築し、2024年4月に新病院を開業する方針が地元紙で報じられたのだ。  ただ、同跡地の入札は今後行われる予定なのに、既に落札者が決まっているかのような報道は多くの人に違和感を抱かせた。自民党県連の佐藤憲保県議(7期)が裏でサポートしているとのウワサも囁かれた(※佐藤県議は本誌の取材に「一切関与していない」と否定している)。 トップ同士のソリが合わず  その後、県が条件付き一般競争入札を行ったのは、報道から1年以上経った昨年11月。落札したのは脳神経疾患研究所を中心とする共同事業体だったため、デキレースという声が上がるのも無理はなかった。  ちなみに、県が設定した最低落札価格は39億4000万円、脳神経疾患研究所の落札額は倍の74億7600万円だが、この入札には他にも参加者がいた。ゼビオHDだ。  ゼビオHDは同跡地に、スポーツとリハビリを組み合わせた施設整備を考えていたとされる。しかし具体的な計画内容は、入札参加に当たり同社が県に提出した企画案を情報開示請求で確認したものの、すべて黒塗り(非開示)で分からなかった。入札額は51億5000万円で、脳神経疾患研究所の落札額より20億円以上安かった。  関心を持ち続けていた場所が他者の手に渡り、ゼビオHDは悔しさをにじませていたとされる。本誌はある経済人と市役所関係者からこんな話を聞いている。  「入札後、ゼビオの諸橋社長は主要な政財界人に、郡山市の後押しが一切なかったことに落胆と怒りの心境を打ち明けていたそうです。品川萬里市長に対しても強い不満を述べていたそうだ」(ある経済人)  「昨年12月、諸橋社長は市役所で品川市長と面談しているが、その時のやりとりが辛辣で互いに悪い印象を持ったそうです」(市役所関係者)  諸橋社長が「郡山市の後押し」を口にしたのはワケがある。入札からちょうど1年前の2021年11月、同市は郡山市医師会とともに、同跡地の早期売却を求める要望書を県に提出している。地元医師会と歩調を合わせたら、同市が脳神経疾患研究所を後押ししたと見られてもやむを得ない。実際、諸橋社長はそう受け止めたから「市が入札参加者の一方を応援するのはフェアじゃない」と不満に思ったのではないか。  ゼビオの本社移転を報じた福島民友(3月29日付)の記事にも《スポーツ振興などを巡って行政側と折り合いがつかない部分があったと指摘する声もあり、「事業を展開する上でより環境の整った宇都宮市を選択したのでは」とみる関係者もいる》などと書かれている。  つまり、前出・事情通が「ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった」と語っていたのは、落札できなかった同跡地での取り組みを指している。  「郡山市が非協力的で、品川市長ともソリが合わないとなれば『協力的な宇都宮でやるからもう結構』となるのは理解できる」(同)  そんな「見切りをつけられた」格好の品川市長は、ゼビオの本社移転に「企業の経営判断についてコメントすることは差し控える」との談話を公表しているが、これが市民や職員から「まるで他人事」と不評を買っている。ただ、このような冷淡なコメントが品川市長と諸橋社長の関係を物語っていると言われれば、なるほど合点がいく。 「後出しジャンケン」 ゼビオコーポレートが市に提案した開成山地区体育施設のイメージパース  ここまでゼビオを擁護するようなトーンで書いてきたが、批判的な意見も当然ある。とりわけ「それはあんまりだ」と言われているのが、開成山地区体育施設整備事業だ。  郡山市は、市営の宝来屋郡山総合体育館、HRS開成山陸上競技場、ヨーク開成山スタジアム、開成山弓道場(総面積15・6㌶)をPFI方式で改修する。PFIは民間事業者の資金やノウハウを生かして公共施設を整備・運営する制度。昨年、委託先となる事業者を公募型プロポーザル方式で募集し、ゼビオコーポレート(郡山市)を代表企業とするグループと陰山建設(同)のグループから応募があった。  郡山市は学識経験者ら6人を委員とする「開成山体育施設PFI事業者等選定審議会」を設置。審査を重ねた結果、昨年12月22日、ゼビオコーポレートのグループを優先交渉権者に決めた。同社から示された指定管理料を含む提案事業費は97億7800万円だった。  同グループは同審議会に示した企画案に基づき、今年度から来年度にかけて各施設の整備を進め、2025年度から順次供用開始する予定。  本誌は各施設がどのように整備されるのか、ゼビオコーポレートの企画案を情報開示請求で確認したが、9割以上が黒塗り(非開示)で分からなかった。  郡山市は今年3月6日、市議会3月定例会の審議・議決を経て、ゼビオグループがPFI事業を受託するため新たに設立した開成山クロスフィールド郡山(郡山市)と正式契約を交わした。指定管理も含む契約期間は2033年3月までの10年間。  それから約3週間後、突然、ゼビオの本社移転が発表されたから、市議会や経済界には不満の声が渦巻いている。  「正確に言えば、ゼビオは開成山体育施設整備事業とは無関係です。同事業を受託したのはゼビオコーポレートであり、契約相手は開成山クロスフィールド郡山です。しかし、今後10年間にわたる施設整備と管理運営は『ゼビオ』の看板を背負って行われる。市民はこの事業に携わる会社の正式名称までは分かっていない。分かっているのは『ゼビオ』ということだけ」(ある経済人)  この経済人によると、市議会や経済界の間では「市の一大プロジェクトを取っておいて、ここから出て行くなんてあんまりだ」「正式契約を交わしてから本社移転を発表するのは後出しジャンケン」「地元の大きな仕事は地元企業にやらせるべき。郡山を去る企業は相応しくない」等々、批判めいた意見が出ているという。  ゼビオからすると「当社は無関係で、受託したのは別会社」となるだろうが、同じ「ゼビオ」の看板を背負っている以上、市民が正確に理解するのは難しい。心情的には「それはあんまりだ」と思う方が自然だ。  そうした市民の心情に輪をかけているのが、事業に携わる地元企業の度合いだ。プロポーザルに参加した2グループに市内企業がどれくらい参加していたかを比較すると、優先交渉権者となったゼビオコーポレートのグループは、構成員4社のうち1社、協力企業5社のうち1社が市内企業だった。これに対し次点者だった陰山建設のグループは、構成員7社のうち4社、協力企業19社のうち15社が市内企業。後者の方が地元企業を意識的に参加させようとしていたことは明白だった。  だから尚更「地元企業の参加が少ない『ゼビオ』が受託した挙げ句、宇都宮に本社を移され、郡山は踏んだり蹴ったり」「品川市長はお人好しにも程がある」と批判の声が鳴り止まないのだ。 釈然としない空気 志翔会会長の大城宏之議員(5期)  加えて市議会3月定例会では、志翔会会長の大城宏之議員(5期)が代表質問で「事業者選定は総合評価としながら、次点者は企画提案力では(ゼビオを)上回っていたのに、価格が高かったため落選の憂き目に遭った」「優先交渉権者となったグループの構成員には(郡山総合体育館をホームとする地元プロバスケットボールチームの)運営会社が入っているが、公平性や利害関係の観点から、内閣府やスポーツ庁が示す指針に触れないのか」と指摘。市文化スポーツ部長が「優先交渉権者は審議会が基準に則って決定した」「グループの構成員に問題はない」と答弁する一幕もあった。  確かに採点結果を見ると、技術提案の審査ではゼビオコーポレートグループ520・93点、陰山建設グループ528・69点で後者が7・76点上回った。ところが価格審査ではゼビオグループが97億7800万円で300点、陰山グループが101億2000万円で289・86点と前者が10・14点上回り、合計点でゼビオグループが勝利しているのだ。  また、ゼビオグループの側に地元プロバスケの運営会社が参加していることも、他地域の体育施設に関するPFI事業では、利害関係が生じる恐れのあるスポーツチームは受託者から除外され、スポーツ庁の指針などでも行政のパートナーとして協力するのが望ましいとされていることから「一方のグループへの関与が深過ぎる」との指摘があった。  こうした状況を大城議員は「問題なかったのか」と再確認したわけだが、本誌は審査に不正があったとは思っていない。大城議員もそうは考えていないだろう。ただ地元企業が多く参加するグループが、企画提案力では優れていたのに価格で負けた挙げ句、有権交渉権者になった「ゼビオ」が正式契約直後に本社移転を発表したので、釈然としない空気になっているのは事実だ。  次点者のグループに参加した地元企業に取材を申し込んだところ、唯一、1人の方が匿名を条件に「もし審査の過程で『ゼビオ』の本社移転が分かっていたら、地元企業優遇の観点から結果は違っていたかもしれない。そう思うと複雑な気持ちだ」とだけ話してくれた。  旧農業試験場跡地の入札で辛酸を舐めたと思ったら、開成山体育施設整備事業のプロポーザルでは槍玉に挙げられたゼビオ。大きな事業に関われば嫌でも注目されるし、賛成・応援してもらうこともあれば反対・批判されることもある。そんな渦中に、同社は今まさにいる。  ゼビオの本社移転について取材を申し込むと、ゼビオコーポレートの田村健志氏(コーポレート室長)が応じてくれた。以下、紙面と口頭でのやりとりを織り交ぜながら記す。    ×  ×  ×  ×  ――本社移転のスケジュールは。  「現時点で移転日は決まっていないが、今後、場所や規模を含め、社員の就労環境に配慮しながら具体的な移転作業に着手する予定です」  ――社員の移転規模は。  「ゼビオは社員約700人、パート・アルバイト約3300人です。ゼビオグループ全体では社員約2600人、パート・アルバイト約5400人です。宇都宮に移転するのはあくまでゼビオであり、ゼビオコーポレートやゼビオカードなど郡山本社に勤務するグループ会社社員の雇用は守る考えです。ゼビオについても全員の異動ではなく、地域に根ざしている社員の雇用を守りながら経営していきます」  ――数ある都市の中から宇都宮を選んだ理由は。  「震災以降、宇都宮市をはじめ約70の自治体からお誘いを受けた。私たちゼビオグループは未来に向けた会社経営を行っていくに際し、自治体を含めた産学官の連携が必須と考えている。そうした中で今年2月に話し合いが始まり、当グループの取り組みについて宇都宮市が快く引き受けてくださったことから本社移転を決断した」  ――ゼビオにとって宇都宮は魅力的な都市だった、と。  「人口減少や少子高齢化などかつてない社会構造の変化を迎えている中、まちづくりとスポーツを連動させ、地域の子どもから高齢者まで誰もが夢や希望の叶う『スーパースマートシティ』の実現に向け、宇都宮市が円滑な対話姿勢を持っていたことは非常に魅力的でした」  ――逆に言うと、郡山ではスポーツを通じたまちづくりはできない? 「先に述べた通りです」 逃した魚は大きい 郡山市朝日にあるゼビオ本社  ――ゼビオHDは旧農業試験場跡地の入札に参加したが次点でした。ここで行いたかった事業を宇都宮で実現する考えはあるのか。  「同跡地でも同様に産学官連携によるスポーツを通じたまちづくりを構想していました。正直、同跡地で実現したい思いはありました。ただゼビオHDは上場会社なので、適正価格で入札に臨むしかなかった。民間企業はスピード感が求められるので、宇都宮市からのお声がけを生かすことにしました」  ――同跡地をめぐって行政とはこの間、どんなやりとりを?  「郡山市には私たちの考え・思いを定期的に伝えてきた。県とは、知事とお会いすることは叶わなかったが、副知事には私たちの考え・思いを話しています」  ――ゼビオグループは開成山体育施設の整備と管理運営を、郡山市から10年間にわたり受託したが、同事業の正式契約後にゼビオの本社移転が発表されたため、市議会や市役所内からは「後出しジャンケン」と批判的な声が上がっている。  「これは私見になるが『後出しジャンケン』ということは、本来、公平・公正に行われるはずの入札が、ゼビオが郡山市に本社を置いていれば何らかの配慮や忖度が働いた可能性があったと受け取ることもできるが、いかがでしょうか」    ×  ×  ×  ×  ゼビオの宇都宮への本社移転は、将来を見据えた企業戦略の一環だったことが分かる。また、移転先のソフト・ハードを含めた環境と、パートナーとなる自治体との信頼関係を重視した様子もうかがえる。  これは裏を返せば、ゼビオにとって郡山市は▽子どもの部活動や高齢者の健康づくりにも関わるスポーツを通じたまちづくりへの考えが希薄で、▽環境(旧農業試験場跡地)を用意することもなく、▽品川市長も理解に乏しかったため信頼関係が築けなかった――と捉えることができるのではないか。  「釣った魚に餌をやらない」ではないが、地元を代表する企業とのコミュニケーションを疎かにしてきた結果、「逃がした魚は大きかった」と後悔しているのが、郡山市・品川市長の今の姿と言える。 あわせて読みたい 南東北病院「移転」にゼビオが横やり 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

  • 【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲【山形屋商店】

    【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲

     震災・原発事故、コロナ禍、2年連続で発生した福島県沖地震により、相馬市の企業は深刻なダメージを受けている。そうした中、被災しながらも高品質な商品づくりに努め、全国最高賞を受賞した醤油醸造業者がある。(志賀) 災害乗り越えて全国最高賞受賞 山形屋商店  醤油メーカーの業界団体・日本醤油協会では毎年、全国の醤油を種類別に評価する「全国醤油品評会」を開催している。この品評会で昨年9月末、相馬市の醸造業者・合資会社山形屋商店の商品が、最高賞の「農林水産大臣賞」を受賞した。  同社が一気に脚光を浴びるようになったのは、今回受賞した醤油が、県内ではあまり知られていない淡口醤油だったためだ。穏やかな味わいで、食材の持ち味を引き出すため、精進料理、京料理、懐石料理などに使われる。ただ、味や香りを加える濃口醤油と比べると評価しづらい面があり、過去6年間、淡口醤油から最高賞は出ていなかった。加えて北海道・東北地方では淡口醤油を使う食文化が極端に少なく、過去に淡口醤油で最高賞を受賞した県内醸造業者は一つもなかった。 同社が出品した「ヤマブンうすくち醤油」は食欲をそそる豊かな香り、美しい色と艶、まろやかな甘みと旨み、後味の良い風味と、バランスが優れている点が高く評価されたという。見事、醤油の世界で〝白河の関越え〟を果たした格好だ。 同社は過去、主力商品の濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」でも4度にわたり最高賞を受賞しており、県内最多の受賞歴を誇る醸造業者となった。 「品評会に出品するのは全国展開している大手・中堅メーカーで、うちみたいな零細の醸造業者には縁がない世界だと思っていました」 こう笑うのは同社代表社員で5代目店主の渡辺和夫さん(53)だ。 最高賞を受賞した「ヤマブンうすくち醤油」を掲げる渡辺和夫さん  同社は1863(文久3)年創業で、米麹、味噌、醤油などを扱ってきた。もともと大東銀行の行員だった渡辺さんは、2001年に婿入りしたのを機に同社に入社。義理の父である先代店主・正雄さんのもとで、10年にわたり修行を積んでいた。そうした中で遭遇したのが2011年の震災・原発事故だ。 ガラス瓶に詰められた出荷前の醤油1500本がすべて落下し、タンクの中身もこぼれて、床は黒く染まった。翌日以降片付けに追われ、工場は配管の組み直しを余儀なくされた。原発事故発生直後には従業員を避難させ、家族だけが残って工場内を片付けしながら、店を訪れた人に食べ物などを分けた。 1カ月後、避難先から従業員が戻って来たのに合わせて生産・販売を再開したが、放射能汚染を心配する声は大きく、地元旅館や料理店との取引は一時ストップとなった。しばらくすると「ヤマブンの醤油じゃないと料理の味が決まらない」と取引が復活したが、県外企業との取引はそのまま消滅した。 2012年には、福島第一原発敷地内の配管から汚染水12㌧が海洋に漏れていたことが発覚。福島県産品への不安が一気に高まった。さらに同年には先代店主・正雄さんが亡くなり、渡辺さんが5代目店主となった。普通なら次の一手をどう打つべきか迷いそうなところだが、渡辺さんはひたすら商品の品質向上に向けた取り組みに挑戦した。 「二本松市の福島県醤油醸造協同組合から『いまこそ品質向上に取り組むべき。勉強会を開いて品評会で最高賞を目指しましょう』とお声がけいただき、震災・原発事故から半年後の2011年10月26日、勉強会(福島県醤油出品評価会)に参加しました。勉強会のモデルになったのは県清酒組合が立ち上げた『県酒造アカデミー』です。県ハイテクプラザ研究員の指導のもと、酒蔵のレベルアップ、知識・技術の共有に成功し、『全国新酒鑑評会』で多くの金賞を受賞するようになりました(その後、都道府県別金賞受賞数で史上初の9回連続日本一を達成)。それを参考に、醤油業界でも醸造業者、同組合、ハイテクプラザの3者によるレベルアップを図ったのです」 勉強会で製造方法を研究 福島県醤油醸造協同組合 勉強会の様子(同組合提供)  勉強会に集まったのは18業者の経営者・役員・技術者など。渡辺さん同様、比較的若い世代が多かった。品評会で上位に入った醤油を集め、商品の原材料を比較しながら、利き味(色・香りの確認)をした。ハイテクプラザの主任研究員が成分を分析・数値化し、それを基に上位入賞醤油の色、香り、味、風味などについて仲間とともに議論を交わした。 本来、醤油蔵にとって醤油の製造方法は〝門外不出〟。同業者同士の情報交換などもってのほかだが、県内では醸造業者が古くから連携してきた経緯があった。 醤油の工程は以下の5つに分けられる。 ①原料処理(蒸した大豆と、炒って粉砕した小麦に、麹菌を植え付ける) ②麹造り(温度や湿度を変えながら麹菌を育て、醤油麹をつくる) ③諸味造り(食塩水を加えた「諸味」をつくり、半年かけて発酵させる) ④圧搾(熟成した諸味を搾り、醤油の元となる「生揚げ」をつくる) ⑤火入れ(生揚げに熱を加えて発酵を止め、醤油の色・味・香り・風味を決める) 実は、県内の醤油醸造業者ではこの5工程のすべてをやっているわけではない。①~④までを醸造業者の共同出資で設立された福島県醤油醸造協同組合が一手に担い、でき上がった生揚げを配送し、各業者は醤油づくりの生命線である⑤火入れに集中できる体制となっているのだ。 資本投下が大きく技術力が求められる生揚げの製造を1カ所で行うことで、各業者の負担を減らし、品質向上にもつなげる狙いがある(一方で、すべての工程を自社内で行っている県内醸造業者もある)。 同組合は1964(昭和39)年に設立されたが、福島県で最初に始まったこの仕組みは「生産協業化方式」と呼ばれ、その後、各地に広まっていった。 こうした経緯があったからこそ、震災・原発事故という危機に直面した際、自然と一致団結する機運が高まったのかもしれない。 同組合の工場長で、勉強会の呼びかけ人である紅林孝幸さん(52、農学博士)は「震災・原発事故直後、県内の多数の酒蔵が全国新酒鑑評会で金賞を取っているのを見て感銘を受けました。危機に直面しているいまこそ醤油業界も一つになり、チャンピオンを目指していかなければならないと考え、組合員に勉強会開催を呼びかけました」と振り返る。 紅林孝幸さん  勉強会は品評会直前の5月と直後の10月下旬の年2回、定期的に開催されるようになった。渡辺さんは参加するうちに「福島県の醤油が日本一の安心安全な品質であることを示したい」と考えるようになり、勉強会で学んだ成果を持ち帰っては、伝統の製法に生かす方法を模索した。 地道な取り組みが実を結び、2013年の品評会に出品した濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」は最高賞に選ばれた。同商品は以後14、16、17年にわたり、農林水産大臣賞を獲得した。 こうして高い評価を得た同社の醤油だが、その後前述の通り、ハードルが高い淡口醤油で品評会に挑戦することになった。なぜあえて評価されにくい商品を出品したのか。 その理由を渡辺さんは「昨年3月16日に発生した福島県沖地震がきっかけだった」と明かす。 福島県沖地震で相馬市は震度6強の揺れに見舞われ、多くの企業や住宅が被害を受けた。今年2月時点での公費解体の申請数は1162棟。公共施設の復旧事業は現在も進められている。同社の醸造工場も全壊判定となり、醤油を製造する機械や配管が損傷した。一昨年2月の地震で被害を受け、復旧工事中だっただけに渡辺さんのショックは大きかった。 一時は廃業も覚悟したが、このときも地元飲食店などから「ヤマブンの醤油がなくなると困る。続けてほしい」と温かい言葉をかけられた。勇気づけられた渡辺さんは、雨漏りなどの応急処置を自分たちで行い、「納品を遅れさせてはならない」と復旧作業に全力を注いだ。 4月26日、機械や配管が復旧し、ようやく製造を再開できた。最初に火入れしたのは、そのときたまたま在庫が少なかった淡口醤油だった。 香りとうまみをより引き出すため、普段より火入れの温度を1・3度高く設定した。自信作だったが、地震直後だっただけに、品質の高い醤油ができているか不安だった。そこに、品評会への出品案内が届いた。せっかくなら、品評会の審査員36人全員の評価を聞きたいと考えた。 事前に同組合の紅林さんに相談して利き味をお願いしたところ、「とても良い」と太鼓判を押された。それならばと出品したところ、9月30日の授賞式で最高賞受賞が発表された。 レベルの高さを証明  渡辺さんは、受賞は「チーム福島」の力であることを強調する。 「醸造業者、醸造組合、県ハイテクプラザの『チーム福島』で品質向上に取り組んできた結果だと捉えています。福島県の醤油が日本酒に負けないぐらい高いレベルであることを証明できたのが何よりうれしい。受賞を重ね、いまも続く風評被害の払拭につながっていくことを期待しています」 実は、昨年の品評会では、県醤油醸造協同組合が製造する「香味しょうゆ」も「こいくちしょうゆ」部門で農林水産大臣賞を受賞した。 同組合では、各醸造業者に代わって、難易度が高かったり組合員の負担が大きい商品を製造してきたが、今回受賞した商品は新たに開発した商品だった。 というのも、前出・紅林さんは、渡辺さんら醸造業者関係者とともに勉強会を続ける中でおいしい醤油づくりに関する〝仮説〟を立てていた。 「これまで品評会で上位に入った醤油の傾向を見ていると、『減塩志向が強まっており、マイルドでまろやかな味わいが受け入れられやすい』、『香りが長持ちする醤油が高く評価される』といった法則性が見えてきた。これらを実現した醤油を作れば品評会で上位に入るのではないかと考えました」 醸造業者にはそれぞれの伝統があるので、いきなり製法を変えるわけにはいかない。そこで、仮説を実証する意味で、これまでのテイストを変えた濃口醤油の新商品を製造し、品評会に出品したところ、山形屋商店と並んで「日本一の醤油」の評価をもらった。 品評会授賞式と併せて行われたトークショーでは、一般社団法人日本たまごかけごはん研究所の上野貴史代表理事が「最高賞受賞5商品のうち、『香味しょうゆ』が一番卵かけごはんに合う」と評価したほど。震災・原発事故直後から続けてきた勉強会の方向性が間違っていないことを証明する形となった。 商品のレベルの高さを証明した山形屋商店は、醤油の魅力を広める活動にも積極的に取り組んでいる。 最近では、福島・宮城両県の港町の醸造蔵7社と宮城学院女子大(宮城県仙台市)による共同企画「港町のしょうゆ屋」プロジェクトに参加した。マグロやイカ、ヒラメなど港町でよく食べられている海産物に合う醤油を開発し、共通ボトルで販売するというもので、同大現代ビジネス学部の石原慎士教授が呼びかけて3月11日に販売が開始となった。 同プロジェクトの代表を務める渡辺さんはプロジェクトの狙いを「港町によって水揚げされる海産物の種類は違うし、醸造業者は地元の食文化に合わせて味を変えている。魚食文化を支える〝地醤油〟にスポットライトを当て商品化しようというものです」と話す。 いわきのメヒカリは濃厚なだし醤油、マグロは木桶で作った本格的な丸大豆醤油、イカはさっぱりした昆布醤油で味わう。同社は「『ヒラメ』に合ううまさを引き出すしょうゆ」として前出の「ヤマブンうすくち醤油」を提案した。「ヒラメは白身魚でさっぱりして歯ごたえがある。繊細な旨味と甘味を淡口醤油が引き出してくれます」(渡辺さん)。 こうして聞くと、港町の食堂で提供される「刺身定食」、「煮魚定食」は、その場所ごとに違う味が楽しめるメニューということが分かる。 もっと言えば、全国には1100もの醤油醸造業者があり、作られる醤油にはそれぞれ特徴がある。料理本のレシピなどに「醤油大さじ1杯」などと書いてあっても、使う醤油が異なれば料理の仕上がりは全く違うかもしれない。そういう意味で醤油は奥深い調味料であり、日本の食文化を象徴する存在といえよう。 海洋放出への懸念  頻繁に地震被害を受ける中で、新たな社屋建設計画はあるのか尋ねると、渡辺さんは「福島県沖地震と同じ規模の地震が再び発生するとも報道されていますが、コロナ禍ということもあって、現在の場所に数千万円かけて新しい工場を建てる考えも余裕もありません。直しながらやれるだけやっていこうと腹をくくっています」と答えた。 「県内の醤油出荷量はいまも震災前の半分に落ち込んでいます。他県でこうした動きは確認されていないので、やはり風評被害の影響ということでしょう。だからこそ、高品質な醤油をつくり続け、少しでも多くの人に届けていきたいと考えています」 そのうえで心配なのが、ALPS処理水の海洋放出の行方だという。 「福島第一原発の敷地内からALPS処理水が海洋放出されれば、うちのような港町の醤油醸造業者はさらに打撃を受ける。福島県の漁業者はこれまで試験操業を余儀なくされ、水揚げ量は震災前の2割程度に過ぎない。少しずつ魚価が上がってきており、ようやく本格操業というタイミングで海洋放出が行われれば回復基調が落ち込むでしょう。漁業者の立場に寄り添うということであれば、(海洋放出ではなく)別の方法を検討すべきではないかと思います」 政府・東電は今春から今夏にかけて海洋放出を実施する方針を示し、着々と準備を進めているが、浜通りの魚食文化を支える水産業の〝関係者〟から、こうした声が上がっていることを認識すべきだ。 災害で幾度も苦境に立たされながら、その都度立ち上がり、港町の食文化を支え続けている山形屋商店。今後も「チーム福島」での醤油づくを継続し〝醸造王国ふくしま〟の存在を示し続ける。渡辺さんの挑戦は始まったばかりだ。 農林水産大臣賞を受賞したヤマブンの本醸造特選醤油を購入する

  • 丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚【会津若松市】

    【芦ノ牧温泉】丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

     先月号に「丸峰観光ホテル『民事再生』を阻む諸課題」という記事を掲載したところ、それを読んだ元従業員たちが、在職中に目撃した星保洋社長の杜撰な経営を明かしてくれた。元従業員たちは「あんな社長のもとでは自主再建なんて絶対無理」と断言する。 スポンサー不在の民事再生に憤る元従業員 再建を目指す丸峰観光ホテル  会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵が福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは2月26日。負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 両社の経営状態が分かる資料は少ないが、東京商工リサーチ発行『東商信用録福島県版』に別表の決算が載っていた。もっとも、その数値もコロナ禍前のものだから、現在は更に厳しい売り上げ・損益になっているのは間違いない。 丸峰観光ホテルの業績売上高利益2012年15億4700万円1億1000万円2013年14億3100万円14万円2014年14億9400万円190万円2015年8億8500万円980万円2016年9億7300万円5200万円 丸峰庵の業績売上高利益2013年4億0800万円16万円2014年5億0700万円▲1800万円※決算期は両社とも3月。▲は赤字。  両社の社長を務める星保洋氏は、3月に開いた債権者説明会で自主再建を目指す方針を明らかにした。債権者が注目していたスポンサーについては「今後の状況によっては(スポンサーから)支援を受けることも検討する」と説明。スポンサー不在で再建を進めようとする星社長のやり方に、多くの債権者が首を傾げていた。 先代社長で女将の星弘子氏(保洋氏の母、故人)にかつて世話になったという元従業員はこう話す。 「丸峰観光ホテルは最盛期、土日のみで年13億円を売り上げていた。あの施設規模だと損益分岐点は10億円。しかし、稼働率は震災・原発事故や新型コロナもあり低調で、現在は少しずつ回復しているとしても2022年3月期決算は売上高5億円台、最終赤字2億円超というから、スポンサー不在で再建できるとは思えない。それでも自主再建を目指すというなら、トップが代わらないと無理でしょう」 このように、社長交代の必要性を指摘する元従業員だが、 「ただ、私は丸峰を辞めてからだいぶ経つので、現社長の経営手腕はウワサで聞くことはあっても、実際に見たわけではない」(同) ならば、会社が傾いていく経過を間近で見ていた元従業員は、星社長の経営手腕をどう評価するのか。 ここからは、先月号の記事を読んで「ぜひ星社長の真の姿を知ってほしい。そして、この人のもとでは自主再建は絶対無理ということを分かってほしい」と情報を寄せてくれたAさんとBさんの証言を紹介する。ちなみに、ふたりの性別、在職時の勤務先、退職日等々を書いてしまうと、誰が話しているのか特定される恐れがあるため、ここでは触れないことをご了承いただきたい。 まず驚かされたのが星社長の金銭感覚だ。少ない月で20~30万円、多い月には100万円以上の個人的支出を「これ、処理しておいて」と経理に回していたという。 一体何に浪費していたのか、その一部は後述するが、 「要するに、会社の財布を自分の財布のように使っていた」(Aさん) そのくせ、取引先への支払いは後回しにすることが多く、口うるさい取引先には10日遅れ、物分かりがいい取引先には1、2カ月遅れで支払うこともザラだった。 「そういうことをしておいて、自分はレクサスを乗り回し、飲み屋に出入りしていた。取引先はそんな星社長の姿を見て『贅沢する余裕があるならオレたちに払えよ!』といつも怒っていた」(Bさん) ふたりによると、星社長は滞っている支払いをめぐり、どこを優先するかを決める会議まで開いていたというから呆れるしかない。 「こういう無駄な会議が、本来やるべき業務の妨げになっていることを星社長は分かっていない」(同) 従業員に対しても、会社のために立て替え払いをしても数百円、1000円の精算にさえ応じないケチっぷりだった。 AさんとBさんが口を揃えて言うのは「本業に注力していれば傾くことはなかった」ということだ。本業とは、言うまでもなく丸峰観光ホテルを指す。ならば経営悪化の要因は丸峰庵が手掛ける「丸峰黒糖まんじゅう」にあったということか。 「黒糖まんじゅうは、利益は薄かったかもしれないが現金収入として会社に入っていたし、お土産として需要があったという点では本業とリンクしていたと思う」(Aさん) 問題は、丸峰庵が行っていた飲食店経営にあった。 前出・かつての従業員によると、そもそも飲食店経営に乗り出したのは星弘子氏が健在のころ、保洋氏の妻が姑との関係に悩み、夫婦で一時期、会津若松市から郡山市に引っ越したことがきっかけという。保洋氏からすると、妻のことを思って弘子氏と距離を置く一方、ホテル経営で実績を上げる母を見返すため、別事業で成果を出したい思惑もあったのかもしれない。 報道等によると、飲食店経営は2006年ごろから参入し、もともとは「丸峰観光ホテルの外食事業」としてスタート。しかし、2014年にホテル経営に注力するため、まんじゅう製造・販売事業と併せて丸峰庵に移管した。 現在、丸峰庵が経営しているのはJR郡山駅のエキナカに並んでいる蕎麦店と中華料理店、同駅前に立地するダイワロイネットホテルの飲食テナント(1階)に入っている、エキナカよりグレードの高い蕎麦店。 「それ以外に郡山駅西口の陣屋では居酒屋とバーを経営している。大町にもかつて居酒屋を出したことがある」(Aさん) そのほか東京都内にも飲食店を構えたことがあったが「3年程前に撤退し、今は都内にはない」(同)。 店を出すのが「趣味」 丸峰庵  これらの飲食店が繁盛し、グループ全体の売り上げを押し上げていればよかったが、現実は本業の足を引っ張るお荷物になっていたという。 「駅前は人が来ないのに家賃が高い。そんな場所に、会社にとって中心的な店を三つも出している時点で厳しい。都内から撤退したのは正解でしたが」(同) そんな甘い出店戦略もさることながら、従業員の目には星社長の経営感覚も違和感だらけに映った。 「ちゃんとリサーチして出店しているのかな、と思うことばかりだった。例えば、大町の立地条件が悪い場所に『知り合いから紹介された』と中華料理店を出したが、案の定、客が入らず閉店した。すると、今度は同じ場所でしゃぶしゃぶ店をやると言い出し、店内を改装してオープンしたが、こちらも数カ月で閉店してしまった」(Bさん) さらに問題なのは、▽閉店後に完全撤退するのではなく「また店を出すかもしれない」と無駄な家賃を支払い続けた、▽出店に当たり他店から料理人等を引き抜いてきたのに、すぐに閉店させたことで行き場を失わせた、▽店が営業中、経営が厳しいと理解しているのに対策を練らない――等々、先を見据えている様子が一切見られないことだった。 「要するに、星社長にとっては店を出すことが目的なので、オープンしたら途端に興味を失うのです。もし店を出すことが手段なら、客を増やすにはどうしたらいいか真剣に考えるはず。しかし、星社長は『今月は〇〇円の赤字です』と報告を受けても全く焦らないし悩まない」(同) 星社長にとっては、店を出すことが「趣味」なのかもしれない。そうなると、飲食店事業で儲けようという考えは出てこないだろう。 「出店に当たっては、厨房機器等をネット通販で勝手に買い、会社に払わせていた。普通はリースやまとめ買いで揃えると思うが、与信が通らないから個人で揃えるしかなかったのでしょう」(同) 前述・会社に支払わせていた個人的支出の一部は、ネット通販で購入した厨房機器等とみられる。 AさんとBさんは「もし飲食店経営をするなら計画的に出店し、店舗数を絞ればグループ全体に寄与したのではないか」とも話す。ところが現状は、星社長による無計画な出店が足を引っ張り、従業員の間に軋轢を起こしていたと指摘する。 「ホテルやまんじゅう製造・販売に関わる従業員は『儲からない飲食店のおかげでオレたちが稼いだ利益が食われている』と不満に思っていた。飲食店経営に関わる従業員はそれをよく理解していたが、出店が趣味の星社長は意に介さないし、忠告する幹部社員もいない」(Bさん) 「かつては苦言を呈する幹部社員もいたが、星社長が聞く耳を持たないため嫌気を差して辞めていった。今いる幹部社員は星社長のイエスマンばかり」(Aさん) 星弘子氏が健在のころは強いブレーキ役を果たしていたが、2019年に弘子氏が亡くなったのを境にタガが外れ、本業から飲食店経営への資金流出が起こっていた可能性も考えられる。 こうした状況を招いた経営者が民事再生法の適用を申請し、スポンサー不在のまま自主再建を目指すと言い出したから、AさんとBさんは既に退職した立場だが「債権者に失礼だし、従業員も気の毒」として、星社長の真の姿を伝えるべきと決心したという。ふたりとも「そういう経営者のもとで自主再建を目指そうなんてとんでもない」と憤りが収まらなかったわけ。 AさんとBさんは、最後にこのように語った。 「SNSで『大好きなホテルなので残念』『再建できるよう応援しています』とのコメントを見かけたが、それは従業員がお客さんに真摯な接客をしたから言われているのであって、星社長を応援しているわけではないことを理解してほしい。私たちは、スポンサーがつくなどして新しい経営者のもとで再建を目指すなら応援するが、星社長が主導する再建は賛成できない」 難しい自主再建 渓谷美の宿 川音(HPより)  丸峰観光ホテルは現在も予約を受け付けるなど、傍目には平時と変わらない営業を続けているという。しかし、三つある施設のうち「渓谷美の宿 川音」は古代檜の湯が工事中で男女ともに営業停止。「レストランあいづ五桜」も設備メンテナンスのため休業している。どちらも再開日は未定だ。 このほか二つの施設「丸峰本館」「離れ山翠」のうち、本館も休館中との話もあり、営業しているのは離れ山翠だけとみられる。客が入らないのに巨大な施設を稼働させても経費の無駄なので、経営資源を集中させるという意味では正解と言える。 ただ、本誌には4月中旬に起きた出来事として「その日は給料日だったが振り込まれず、従業員がホテルに詰めかける騒動があった」「給料は支払われたが、3月は手渡し、4月は振り込みだったらしい」との話も寄せられており、これが事実なら星社長は当面の資金繰りに窮していることが考えられる。 今後注目されるのは、これから債権者に示されることになる再生計画の中身だ。以下は『民事再生申立ての実務』(東京弁護士会倒産法部編、ぎょうせい発行)に基づいて書き進める。 民事再生申し立てに当たり、再生債務者(丸峰観光ホテルと丸峰庵)は裁判所や監督委員から、申し立て前1年間の資金繰り実績表と、申し立て後半年間の資金繰り予定表の提出を求められる。資金繰りができなければ再生計画の策定・認可を待つことなく事業停止に追い込まれるため、再生債務者にとって資金繰り対策は極めて重要になる。 再生債務者は「申し立てによる相殺」や「申し立て前の差し押さえ」といった難を逃れて確保できた資金をもとに資金計画を立てる。ここで重要なのは、入金・出金の確度を高めることができるかどうかだ。関係者に協力を仰ぎ、既発生の売掛金・未収金・貸付金などの回収を進め、将来発生する売掛金の入金見込みを立てると同時に、支払い条件を一定のルールに基づき決定し、支出の見込みも立てる。併せて棚卸や無担保資産の早期処分を適宜行う。 問題は、星社長がこのような資金繰りのメドをつけられるかどうかだが、前述した個人的支出、取引先への支払い遅延、給料遅配、さらに飲食店事業をめぐっては家賃滞納のウワサも囁かれる中、取引先・債権者から資金繰りの理解と協力が得られるかは疑問だ。 メーンバンクの会津商工信組も、民事再生申し立て前に「思うように再建が進まない」と嘆いていたというし、前出・AさんとBさんも「星社長は他人の意見を聞かない」というから、自主再建が見込める資金計画が立てられるとは考えにくい。 だからこそ、スポンサーの存在が重要になるのだ。スポンサーがつけば信用が補完され、再生債務者の事業価値の毀損(信用不安・資金不足による取引先との取引中止、従業員の退職、顧客離れなど)が最小限に抑えられる。スポンサーによる確実な事業再生が見込まれ、申し立ての前後からスポンサーの人的・資金的協力も得られる。 スポンサー不在の違和感  全国を見渡しても、鳥取県・皆生温泉の老舗旅館「白扇」は負債16億円を抱えて4月7日に民事再生法の適用を申請したが、同日付で地元の食肉加工会社がスポンサーにつくことが発表された。昨年3月に負債11億円で同法適用を申請した山梨県・湯村温泉の「湯村ホテル」も、スポンサー候補を探すプレパッケージ型民事再生に取り組み、半年後に事業譲渡した。2021年8月に同法適用を申請した北海道・丸駒温泉の「丸駒温泉旅館」は、全国で地域ファンドを運用する企業がスポンサーとなって再建が図られた。負債は8億3000万円だった。 ここに挙げた事例より負債額が格段に多い丸峰観光ホテル・丸峰庵がスポンサー不在というのは、やはり違和感がある。今後は3月の債権者説明会で言及がなかったスポンサーを見つけることが、今夏にも債権者に示されるであろう再生計画案の成否を握るのではないか。 ちなみに再生計画案を実行に移せるかどうかは、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。 本誌は民事再生の申請代理人を務めるDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士を通じて、星社長に取材を申し込んだ。具体的に15の質問項目を示して回答を待ったが、両者からは期限までに何の返事もなかった。 この稿の主人公は丸峰観光ホテルだったが、星社長のような経営者は他にもいるはずで、そこにコロナ禍が重なり、青息吐息のホテル・旅館は少なくないと思われる。杜撰な経営を改めなければ早晩、手痛いしっぺ返しに遭うことを経営者は肝に銘じるべきだ。 最後に余談になるが、4月中旬、本誌編集部に会津商工信組と取り引きがあるとする匿名事業者から「今回の民事再生で信組の損失がどれくらいになるか心配」「役員が責任を取って辞める話が出ている」「これを機に新体制のもとで以前のような活気ある組織に戻ってほしい」などと綴られた投書が届いた。組合員は丸峰観光ホテル・丸峰庵の再生の行方と同時に、メーンバンクの同信組が今後どうなるのかについても強い関心を向けている。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

  • 客足回復が鈍い福島市「夜の街」

    客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

     5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる。飲食業界は度重なる「自粛」要請で打撃を受けたが、業界はコロナ禍からの出口の気配を感じ、「客足は感染拡大前の7~8割に戻りつつある」と関係者。一方、2次会以降の客を相手にするスナックは閉店・移転が相次ぎ、テナントの半数が去ったビルもある。福島市では主な宴会は県職員頼みのため、郡山市に比べ客足の回復が鈍く、夜の街への波及は限定的だ。 公務員頼みで郡山・いわきの後塵 飲食店が並ぶ福島市街地  福島市は県庁所在地で国の出先機関も多い「公務員の街」だ。市内のある飲食店主Aは「県職員が宴会をしないと商売が成り立たない」と話す。民間企業は、取引先に県関係の占める割合が多いため、宴会の解禁も県職員に合わせているという。 「東邦銀行も福島信用金庫も宴会を大々的に開いて大丈夫か県庁の様子を伺っているそうです。民間なら気にせず飲みに行けるかというとそうでもなく、行員に対する『監視の目』も県職員に向けられるのと同じくらい厳しい。ある店では地元金融機関の幹部が店で飲んでいたのを客が見つけて本店に『通報』し、幹部たちが飲みに行けなくなったという話を聞きました」(店主A) 福島市の夜の街は、県職員をはじめとする公務員の宴会が頼りだ。福島、伊達、郡山、いわきの4市で飲食店向けの酒卸店を経営する㈱追分(福島市)の追分拓哉会長(76)は街の弱みを次のように指摘する。 「福島、郡山、いわきの売り上げを比較すると、福島の飲食店の回復が最も弱いことが見えてきた」 2019年度『福島県市町村民経済計算』によると、経済規模を表す市町村内総生産は県内で多い順に郡山市が1兆3635億円(県内計の構成比17・1%)、いわき市が1兆3577億円(同17・0%)、福島市が1兆1466億円(同14・4%)。経済規模が大きいほど飲食店に卸す酒の売り上げも多くなると考えると、3位の福島市が他2市より少なくなるのは自然だ。だが追分会長によると、同市は売上高が他2市より少ないだけでなく、回復も遅いという。 「3市の酒売上高は、2019年は郡山、いわき、福島の順でした。各市の今年2月の売り上げは、19年2月と比べると郡山90%、いわき83%、福島76%に回復しています。郡山はコロナ前の水準まで戻ったが、福島はまだ4分の3です。しかも、コロナ禍で売上高が最も減少したのは福島でした。私は福島が行政都市であり、かつ他2市と比べて若者の割合が少ないことが要因とみています。県職員(行政関係者)が夜の街に出ないと、飲食店は悲惨な状態になります」(追分会長) 飲食業の再生の動きが鈍いのは、度重なる感染拡大に息切れしたことも要因だ。 「福島では昨年10月に到来した第8波で閉めた店が多く、駅前の大規模店も撤退しました。3、4月の歓送迎会シーズンで持ち直した現状を見ると、もう少し続けていればと思いますが、それはあくまで結果論です。これ以上ない経営努力を続けていたところに電気代の値上げが直撃し、体力が尽きてしまった。水道光熱費だけで10~20万円と賃料と同じ額に達する店もありました」 そうした中でも、コロナ禍を乗り切った飲食店には「三つの共通点」があるという。 「一つ目は『飲む』から『食べる』へのシフトです。スナックやバーが減り、代わりに小料理屋、イタリアン、焼き鳥屋が増えました」 「二つ目が『大』から『小』への移向です。宴会がなくなりました。あったとしても仲間内の小規模なものです。売りだった広い客席は大規模店には仇となりました。健闘しているのは、区分けして小規模宴会を呼び込んだ店です」 最後は「老」から「若」への変化。 「老舗が減りましたね。後継者がいない高齢の経営者が、コロナを機に見切りを付けたからです」 一方、これをチャンスと見てコロナ前では店を出すことなど考えられなかった駅前の一等地に若手経営者が出店する動きがあるという。経営者たちが見据えるのは、福島駅東口の再開発だ。 「4月から再開発エリアに建つ古い建物の本格的な取り壊しが始まりました。3年間の工事で市外・県外から500~1000人の作業員が動員されます。福島市役所の新庁舎(仮称・市民センター)建設も拍車をかけるでしょう。市内に建設業のミニバブルが訪れる中、ホテルや飲食店の需要は高まるとみられるが、老舗の飲食店が減っているので受け皿は十分にない。そのタイミングでお客さんを満足させる店を出すことができれば、不動の地位を獲得できると思います」 追分のグループ会社である不動産業㈱マーケッティングセンター(福島市)では毎年、市内の飲食店を同社従業員が訪問して開店・閉店状況を記録し、「マップレポート」にまとめてきた。最新調査は2019年12月~20年10月に行った。同レポートによると、開店は41店、閉店は106店。飲食店街全体としては、感染拡大前の837店から65店減り、772店となった。減少率は7・7%で、1988年に調査を開始して以降最大の減少幅だった。 「特に閉店が多かったのはスナック・バーです。48店が閉店し、全閉店数の44%を占めました」 もっとも、スナック・バーは開店数も業種別で最も多い。同レポートによると、11カ月の間に22店が開店し、全開店数の54%を占めた。酒とカラオケを備えれば営業できるため参入が容易で、もともと入れ替わりが盛んな業種と言えるだろう。 25%減ったスナック  マーケッティングセンターほどの正確性は保証できないが、本誌は夜の飲食店数をコロナ前後で比較した。1月号では郡山市のスナック・バーの閉店数を電話帳から推計。忘年会シーズンの昨年12月にスナックのママに電話をして客の入り具合を聞き取った。 電話帳から消えたと言って必ずしも閉店を意味するわけではない。もともと固定電話を契約していない店もあるだろう。ただし「昔から営業していた店が移転を機に契約を更新しなかったり、経費削減のために解約したりするケースはある」と前出の飲食店主Aは話す。今まで続けていたことをやめるという点で、固定電話の契約解除は、店に何らかの変化があったことを示す。 コロナ前の2019年と感染拡大後の2021年の情報を載せた電話帳(NTT作成「タウンページ」)を比較したところ、福島市の掲載店舗数は次のように減少した。 スナック 194店→145店(新規掲載1店、消滅50店) 差し引き49店が減った。減少数をコロナ前の店舗数で割った減少率は25・2%。 バー・クラブ 42店→35店(新規掲載なし、消滅7店) 減少率は16・6%。 果たしてスナック、バー・クラブの減少率は他の業種と比べ高いのか低いのか。夜の街に関わる他の業種の増減を調べた。2021年時点で20店舗以上残っている業種を記す。電話帳に掲載されている業種は店側が複数申告できるため、重複があることを断っておく(カッコ内は減少率)。 飲食店 208店→178店(14・4%) 居酒屋 143店→118店(17・4%) 食堂 75店→69店(8・0%) ラーメン店 63店→60店(5・0%) うどん・そば店 63店→55店(12・6%)  レストラン(ファミレス除く) 50店→42店(16・0%)  すし店(回転ずし除く) 39店→38店(2・5%) 中華・中国料理店 33店→31店(6・0%) 焼肉・ホルモン料理店 29店→24店(17・2%) 焼鳥店 25店→23店(8・0%)  日本料理店 23店→22店(4・3%) 酒を提供する居酒屋の減少率は17・4%と高水準だが、スナックは前記の通り、それを上回る25・2%だ。マーケティングセンターの2020年調査では、スナック48店が閉店した。照らし合わせると、電話帳から消えたスナックには閉店した店が含まれていることが推測できる。 筆者は電話帳から消えたスナックを訪ね、営業状況や移転先を確認した。結果は一覧表にまとめた。深夜食堂に業種転換した店、コロナ前に広げた支店を「選択と集中」させて危機を乗り越えた店、賃料の低いビルに引っ越し再起を図る店など、形を変えて生き残っている店も少なくない。 電話帳から消えた福島市街地のスナック ○…営業確認、×…営業未確認、※…ビル以外の店舗 陣場町 第10佐勝ビルスナッククローバー〇SECOND彩スナック彩に集約ハリカ〇レイヴァン(LaVan)✕ペガサス30ビル花音✕スナッククレスト(CREST)✕スナックトモト✕プラスαkana✕ハーモニー✕ボルサリーノスナックARINOS✕ファンタジー〇ポート99ラーイ(Raai)✕第5寿ビルジョーカー✕アイランド〇※モア・グレース✕※ 置賜町 エース7ビル韓国スナックローズハウス✕CuteCute✕トリコロール✕フィリピーナ✕ジャガービルトイ・トイ・トイ(toi・toi・toi)✕マノン✕鈴✕ピア21ビルK・桂✕ラパン✕ミナモトビルシャルム✕都ビル仮面舞踏会✕清水第1ビルマドンナ✕第5清水ビルラウンジラグナ✕ 栄町 イーストハウスあづま会館志桜里✕スナック楓店名キッチンkaedeで「食」に業種転換花むら✕第2あづまソシアルビルショーパブパライソ✕せらみ✕ムーチャークーチャー〇ユートピアビルスナックみつわ✕わがまま天使✕※ 万世町 パセオビルカトレア✕萌木✕ 新町 クラフトビルぼんと✕ゆー(YOU)✕金源ビルザ・シャトル✕スナック星(ぴょる)✕※凛〇※ 大町 コロールビルのりちゃんあっちゃん(ai)×エスケープ(SK-P)×※  電話帳に載っていないスナックもそこそこある。ただ、書き入れ時の金曜夜9時でも営業している様子がなく、移転先をたどれない店が多かった。あるビルの閉ざされた一室は、かつてはフィリピン人女性がもてなすショーパブだったのだろう。「福島県知事の緊急事態宣言の要請により当店は暫くの間休業とさせていただきます」と書かれた紙がドアに張られ、扉の隙間には開封されていない郵便物が挟まっていた。 「やめたくない」  ビル入口にあるテナントを示す看板は点灯しているのに、どこの階にも店が見当たらない事態も何度も遭遇した。あるベテランママの話。 「看板を総取っ換えしなきゃならないから、余程のことがないとオーナーは交換しない。一つの階が丸ごと空いているビルもあるわ」 飲食店主Bも言う。 「存在しない店の看板は覆い隠せばいいが、オーナーは敢えてそうはしません。テナントもしてほしくないでしょう。人けがないビルと明かすことになるからです」 テナントの空きは、スナック業界の深刻さも表している。 「手狭ですが家賃が安い新参者向けのビルがあります。入口にある看板は20軒くらいついていて全部埋まっているように見えるが、各階に行くと数軒しか営業していない。新しく店を始める人がいないんでしょうね」(店主B) 閉店する際も「後腐れなく」とはいかない。前出のベテランママがため息をつく。 「せいせいした気持ちで店をやめる人なんて誰もいませんよ。出入りしているカラオケ業者から聞いた話です。カラオケ代を3カ月分滞納した店があり、取り立てに行った。払えない以上は、目ぼしい財産を処分し、返済に充てて店を閉めなければならない。そこのママは『やめたくない』と泣いたそうです。しかし、そのカラオケ業者も雇われの身なので淡々と請求するしかなかったそうです」 大抵は連帯保証人となっている配偶者や恋人、親きょうだいが返済するという。 2021、22年に起きた2度の大地震は、コロナにあえぐスナックにとって泣きっ面に蜂だった。酒瓶やグラスがたくさん割れた。あるビルでは、オーナーとテナントが補償でもめ、納得しない人は移転するか、これを機に廃業したという。テナントの半数近くに及んだ。 福島市内のビルの多くは30~40年前のバブル期に建てられた。初期から入居しているテナントは、家賃は契約時のままで、コロナで赤字になってもなかなか引き下げてもらえなかった。コロナ禍ではどこのビルも空室が増え、オーナーは家賃を下げて新規入居者を募集。余力のあるスナックはより良い条件のビルに移転したという。 ベテランママは引退を見据える年齢に差しかかっている。苦境でも店を続ける理由は何か。 「コロナが収束するまではやめたくない。閉店した店はどこもふっと消えて、周りは『コロナで閉めた』とウワサする。それぞれ事情があってやめたのに、時代に負けたみたいで嫌だ。私にとっては、誰もがマスクを外して気兼ねなく話せるようになったらコロナ収束ですね。最後はなじみのお客さんを迎え、惜しまれながら去りたい」 ベテランママの願いはかなうか。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く

  • 苦戦する福島県内3市の駅前再開発事業

     県内の駅前再開発事業が苦戦している。福島、いわき、郡山の3市で進められている事業が、いずれも着工延期や工期延長に直面。主な原因は資材価格の高騰だが、無事に完成したとしても施設の先行きを不安視する人は少なくない。新型コロナウイルスやウクライナ戦争など不安定な情勢下で完成・オープンを目指す難しさに、関係者は苛まれている。(佐藤仁) 資材高騰で建設費が増大  地元紙に興味深い記事が立て続けに載った。 「JR福島駅東口 再開発ビル1年先送り 着工、完成 建設費高騰で」(福島民報5月31日付) 「JRいわき駅前の並木通り再開発事業 資材高騰、工期延長 組合総会で計画変更承認」(同6月1日付) 「郡山複合ビル 完成ずれ込み 25年11月に」(福島民友6月1日付) 現在、福島、いわき、郡山の各駅前では再開発事業が進められているが、その全てで着工延期や工期延長になることが分かったのだ。 福島駅前では駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、分譲マンション(13階建て)、駐車場(7階建て)などを建設する「福島駅東口地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は福島駅東口地区市街地再開発組合。 いわき駅前では国道399号(通称・並木通り)の北側1・1㌶に商業・業務棟(4階建て)、分譲マンション(21階建て)、駐車場(5階建て)などを建設する「いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者はいわき駅並木通り地区市街地再開発組合。 郡山駅前では駅前一丁目の0・35㌶に分譲マンションや医療施設(健診・透析センター)などが入るビル(21階建て)を建設する「郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は寿泉堂綜合病院を運営する公益財団法人湯浅報恩会など。 三つの事業が直面する課題。それは資材価格の高騰だ。当初予定より建設費が膨らみ、計画を見直さざるを得なくなった。地元紙報道によると、福島は361億円から2割以上増、いわきは115億円から130億円、郡山は87億円から97億円に増える見通しというから、施工者にとっては重い負担増だ。 資材価格が高騰している原因は、大きく①ウッドショック、②アイアンショック、③ウクライナ戦争、④物流価格上昇、⑤円安の五つとされる(詳細は別掲参照)。 ウッドショック新型コロナでリモートワークが増え、アメリカや中国で住宅建築需要が急拡大。木材不足が起こり価格が高騰した。アイアンショック同じく、アメリカや中国の住宅需要急拡大により、鉄の主原料である鉄鉱石が不足し価格が高騰した。ウクライナ戦争これまで資源大国であるロシアから木材チップ、丸太、単板などの建築資材を輸入してきたが、同国に対する経済制裁で他国から輸入しなければならなくなり、輸入価格が上昇した。物流価格上昇新型コロナの巣ごもり需要で物流が活発になり、コンテナ不足が発生。それが建築資材の運送にも波及し、物流価格上昇が資材価格に跳ね返った。円  安日本は建築資材の多くを輸入に頼っているため、円安になればなるほど資材価格に跳ね返る。  内閣府が昨年12月に発表した資料「建設資材価格の高騰と公共投資への影響について」によると、2020年第4四半期を「100」とした場合、22年第3四半期の建築用資材価格は「126・3」、土木用資材価格は「118・0」。わずか2年で1・2倍前後に増加しており、三つの事業の建設費の増加割合(1・1~1・2倍)とも合致する。 資材価格の高騰は現在も続いており、一時の極端な円安が和らいだ以外は、ウッドショックもアイアンショックも解消の見通しはない。ウクライナ戦争が終わらないうちは、ロシアへの経済制裁も解除されない。いわゆる「2024年問題」に直面する物流も、ますますコスト上昇が避けられない。資材価格の高騰がいつまで続くかは予測不能で、建設業界からは「あと数年は耐える必要がある」と覚悟の声が漏れる。 こうした中で三つの事業は今後どうなっていくのか。現場を訪ね、最新事情に迫った。 福島駅前 解体工事が進む福島駅東口の再開発事業 厳しい福島市の財政  看板が外された複数の建物には緑色のネットが被せられている。人の出入りがない空っぽの建物が並ぶ光景は、もともと人通りが少なかった駅前を一層寂しく感じさせる。 今、福島駅東口から続く駅前通りでは旧ホテル、旧百貨店、旧商店の解体工事が行われている。進ちょくは予定より遅れているが、下水道、ガス、電気などインフラ設備の撤去に時間を要したためという。アスベストの除去はほぼ完了し、解体工事は7月以降本格化。当初予定では終了は来年1月中旬だったが、今年度末までに完了させ、新築工事開始時に建築確認申請を行う見通し。 更地後は物販、飲食、公共施設、ホテルが入るビルや分譲マンションなどが建設される予定だ。ところが福島市議会6月定例会の開会日(5月30日)に、木幡浩市長が突然、 「当初計画より2割以上の増額が見込まれ、工事費縮減のため再開発組合と共に機能品質を維持しながら使用資材を変更したり、施設計画を再調整している。併せて国庫補助など財源確保も再検討している。これらの作業により、着工は2023年度から24年度にずれ込み、オープンは当初予定の26年度から27年度になる見通しです」 と、着工・オープンが1年延期されることを明言したのだ。 施工者は福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、市はビル3、4階に整備される「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を同組合から買い取る一方、補助金を支出することになっている。 同組合設立時の2021年7月に発表された計画では、総事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で、市の補助金支出は54億5000万円になる。 ところが昨年5月に議員に配られた資料には、総事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円と書かれていた。主な理由は延べ床面積が若干増えたことと、資材価格の高騰だった。 市の補助金支出が60億円に増える見通しとなる中、市の負担はこれだけに留まらない。 市は拠点施設が入る3、4階を保留床として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし、前述・議員に配られた資料では190億円に増えていた。市はこのほか備品購入費も負担するが、その金額は開館前に決定されるため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 補助金支出と合わせると市の負担は250億円以上に上るが、資材価格の高騰で建設費が更に増える見通しとなり、計画の見直しを迫られた結果、着工・オープンを1年延期せざるを得なくなったのだ。 元市幹部職員は現状を次のように推察する。 「延期期間を1年とした根拠はないと思う。1年で資材価格の高騰が落ち着くとは考えにくい。市と再開発組合は、この1年であらゆる削減策を検討するのでしょう。事業規模が小さいと削る個所はほとんどないが、事業規模が大きいと削減や変更が可能な個所は結構ある。ただ、それでも大幅な事業費削減にはつながらないと思いますが」 元幹部が懸念するのは、市が昨年9月に発表した「中間財政収支の見通し(2023~27年度)」で、市債残高が毎年増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されていることだ。市も見通しの中で「26年度には財政調整基金と減債基金の残高がなくなり、財源不足を埋められなくなる」「26年度以降の財源を確保できない」という危機を予測している。 「市の借金が急激に増える中、市は今後、地方卸売市場、図書館、消防本部、あぶくまクリーンセンター焼却工場、学校給食センターなどの整備・再編を控えている。市役所本庁舎の隣では70億円かけて(仮称)市民センターの建設も進められている。これらは『カネがなくてもやらなければならない事業』なので、駅前の拠点施設が滞ってしまうと、順番待ちしている事業がどんどん後ろ倒しになっていくのです」 ある元議員も 「既に解体工事が進んでいる以上、『カネがないから中止する』とはならないだろうが、あまりに市の負担が増えすぎると、計画に賛成した議会からも反対の声が出かねない」 と指摘する。 実際、木幡市長の説明を受けて6月15日に開かれた市議会全員協議会では、出席した議員から「どこかの段階で計画をやめることも今後の選択肢として出てくるのか」という質問が出ていた。 「施設が無事完成したとしても、その後は赤字にならないように運営していかなければならない。経済情勢が不透明な中、稼働率やランニングコストを考えると『このまま整備して大丈夫なのか』と議員が不安視するのは当然です」(元議員) 市は「計画の中止は想定していない」としており、資材や工法を変えるなどして事業費を削減するほか、新たな国の補助金を活用して財源確保を目指す方針を示している。 バンケット機能は整備困難  施行者の再開発組合ではどのような見直しを進めているのか。加藤眞司理事長は次のように話す。 「在来工法から別の工法に変えたり、特注品から既製品に変えたり、資材や設備を見直すなど、あらゆる部分を総点検して削れる個所は徹底的に削る努力をしています。例えば電線一つにしても、銅の価格が高騰しているので、使う長さを短くすればコストを抑えられます。市でも拠点施設に使う電線を最短距離で通すなどの検討をしています」 建設費が2割以上増えるなら、単純に10階建てから8階建てに減らせば2割減になる。しかし、加藤理事長は「面積を変更する考えは一切ない」と言う。 「再三検討した結果、今の面積に落ち着いた。それをいじってしまえば、計画を根本から変えなければならなくなります」(同) こうした中で気になるのは、拠点施設以外の商業フロア(1、2階)やホテル(8~12階)などの入居見通しだ。 「商業フロアの1階は地元商店の入居が予定されています。2階は飲食店を予定していますが、福島駅前からは飲食チェーンが軒並み撤退しており、テナントが入るか難しい状況です。場合によってはドラッグストアなど、別の選択肢も見据える必要があるかもしれません」 「ホテルは全国的に需要が戻っています。ただ、どこも従業員不足に悩まされており、今後の人材確保が心配されます」 ホテルと言えば、拠点施設ではさまざまな国際会議の開催を予定しているため、バンケット(宴会・晩餐会)機能の必要性が一貫して指摘されてきた。しかし、バンケット機能を有するホテルは誘致できず、木幡市長も6月定例会で、建設費高騰による家賃引き上げで参入を希望する事業者が見つからないとして「バンケット機能の整備は難しい」と明かしている。 市内では、福島駅西口のザ・セレクトン福島が昨年6月に宴会業務を廃止し、上町の結婚式場クーラクーリアンテ(旧サンパレス福島)も来年3月に閉館するなど、バンケット機能を著しく欠いている状況だ。木幡市長は地元経済界と連携して駅周辺でのバンケット機能確保を目指しつつ、ビルにバンケット機能への転用が図れる仕掛けを準備していることを説明したが、実現性が不透明な以上、一部議員が提案するケータリング(食事の提供サービス)機能も代替案に加えるべきではないか。 「市とは事業費削減だけでなく、完成後の使い勝手をいかに良くするかや、ランニングコストをいかに抑えるかについても繰り返し議論しています。それらを踏まえ、組合として今年度中に新たな計画を確定させたい考えです」(加藤理事長) 前出・元市幹部職員は 「一番よくないのは、見直した結果、施設全体が中途半端になることです。市民から『これなら、つくらない方がよかった』と言われるような施設ではマズイ。つくる以上は稼働率が高く、市民にとって使い勝手が良く、地域にお金が落ちて、税収も上がる好循環を生み出さなければ意味がない」 と指摘するが、着工・オープンの1年延期で市と同組合はどこまで課題をクリアできるのか。現状は、膨らみ続ける事業費をいかに抑え、家賃が上がっても耐えられるテナントをどうやって見つけるか、苦心している印象が強い。目の前のこと(着工)と併せて将来のこと(オープン後)も意識しなければ、市民から歓迎される施設にはならない。 いわき駅前 遅れを取り戻そうと工事が進むいわき駅並木通りの再開発事業 想定外の発掘調査に直面  いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業は2021年8月に既存建物の解体工事に着手し、22年1月から新築工事が始まった。完成は商業・業務棟(63PLAZA)が今年夏、分譲マンション(ミッドタワーいわき)が来年4月を予定していたが、資材価格の高騰などで建設費が膨らみ、資金調達の交渉に時間を要した結果、それぞれ8カ月程度後ろ倒しになるという。 いわき駅前は、駅自体が新しくなり、今年1月には駅と直結するホテル「B4T」や商業施設「エスパルいわき」がオープン。同駅前再開発ビル「ラトブ」では6月に商業スペースが刷新され、2021年2月に閉店した「イトーヨーカ堂平店」跡地にも商業施設の整備が計画されるなど、にわかに活気付いている。 しかし、投資が集中する割に人通りは思ったほど増えていない。参考までに、いわき駅の1日平均乗車数は2001年が8000人、10年が6000人、21年が4200人。20年前と比べて半減している。 駅周辺で商売する人によると 「いったん閉店すると、ずっと空き店舗のままです。収益が少なく、それでいて家賃負担が重いため、若い出店希望者も駅前は及び腰になるそうです。『行政が家賃を補填してくれないと(駅前出店は)無理』という声をよく耳にします」 そうした中で事業が進む同再開発事業に対しては 「施設完成後、商業フロアはきちんと埋まるのか。ラトブは苦戦しており、エスパルいわきも未だにフルオープンはしておらず、シャッターが閉まったままのフロアがかなりある。仮に商業フロアが埋まったとしても、建設費が高ければ、その分家賃も高くなるので、かなりシビアな収支計画を迫られる。人通りが増えない中、店ばかり増えて商売が成り立つのかどうか」(同) 施行者のいわき駅並木通り地区市街地再開発組合で特定業務代理者を務める熊谷組の加藤亮部長(再開発プランナー)はこう話す。 「事業費を削り、新たに使える補助金を探し出す一方、収入を増やすメドがついたので、4月に開いた同組合の総会で事業計画の変更を承認していただきました。その事業計画を今後県に認可してもらい、早期の完成を目指していきます」 加藤部長によると、工期が延長された理由は資材価格の高騰もさることながら、建設現場で磐城平城などの遺構が発見され、発掘調査に予想以上の時間と費用を要したためという。商業・業務棟と分譲マンションのエリアは2022年度に調査を終えたが、駐車場と区画道路のエリアは現在も調査が続いているという。 「発掘調査にかかる費用は、個人施工の場合は補助金が出るが、組合施工の場合は組合が自己負担しなければなりません。さらに発掘調査に時間がかかれば、その分だけ工期が後ろ倒しになり、機器のリース代なども増えていく。同組合内からは、発掘調査によって生じた負担を組合が負わなければならないことに異論が出ましたが、最終的には理解していただきました」(同) 思わぬ形で工期延長を迫られた同事業が、新たな事業計画のもとで予定通り完成するのか、注目される。 郡山駅前 郡山駅前一丁目第二地区再開発事業の建設地。写真奥に見える一番高い建物が寿泉堂病院と分譲マンションが入る複合ビル 「削れる部分は削る」  郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業の敷地には、もともと旧寿泉堂綜合病院が建っていた。 2011年に現在の寿泉堂綜合病院と分譲マンション「シティタワー郡山」が入る複合ビルが完成後(郡山駅前一丁目第一地区市街地再開発事業)、旧寿泉堂綜合病院は直ちに解体され、第二地区の再開発事業は即始まる予定だった。しかし、リーマン・ショックや震災・原発事故が相次いで発生し、当時のディベロッパーが撤退したため、同事業は当面休止されることとなった。 その後、2018年に野村不動産が新たなディベロッパーに名乗りを上げ、20年に同事業の施行者である湯浅報恩会などと協定を締結した。 当初計画では、着工は2022年11月だったが、資材価格の高騰などにより延期。7カ月遅れの今年6月2日に安全祈願祭が行われた。 そのため、完成は当初計画の2025年初頭から同年11月にずれ込む見通し。湯浅報恩会の広報担当者は次のように説明する。 「削れる部分はとにかく削ろう、と。デザインも凝ったものにすると費用がかかるので、すっきりした形に見直しました。立体駐車場も見直しをかけました。最終的に事業費は当初予定の87億円から97億円に増えましたが、見直し段階では97億円より多かったので何とか切り詰めた格好です。同事業は国、県、市の補助金を活用するので、施行者の都合で事業をこれ以上先送りできない事情があります。工期は10カ月程伸びますが、計画通り完成を目指し、駅前再開発に寄与していきたい」 実際の工事は、早ければ今号が店頭に並ぶころには始まっているかもしれない。 地方でも好調なマンション  ところで、三つの事業ではいずれも分譲マンションが建設される。駅前に建設されるマンションは、運転免許を返納するなど移動手段を持たない高齢者を中心に「買い物や通院に便利」として人気が高い。一方、マンション需要は首都圏や近畿圏、福岡などでは高止まりしているというデータが存在するが、地方のマンション需要が分かるデータはなかなか見つからない。 それでなくても三つの事業は、資材価格の高騰という厳しい状況に見舞われ、建設される商業関連施設もテナントが入るかどうか心配されている。建設費が高ければ、その分家賃も高くなるが、それはマンションの販売価格にも当てはまるはず。果たして、三つの事業で建設される分譲マンションは、どのような販売見通しになっているのか。 福島と郡山の事業で分譲マンションを手掛ける野村不動産ホールディングスに尋ねると、 「当社が昨年度と今年度にマンションを分譲した宇都宮市、高崎市、水戸市などの販売は堅調です。福島と郡山の事業も、駅への近さや生活利便性の高さなどは特にお客様から評価いただけると考えています」(広報報担当者) いわきの事業で分譲マンションを建設するフージャースコーポレーションにも問い合わせたところ、 「現在、東北地方で販売中の当社物件は比較的好調です。実際、ミッドタワーいわきは販売戸数206戸のうち160戸が成約となり、成約率は78%です。(資材価格の高騰などで)完成は遅れますが、販売に影響はありません」(事業推進部) 新型コロナやウクライナ戦争など不透明な経済情勢の中でも、マンション販売は地方も好調に推移しているようだ。苦戦ばかりが叫ばれる駅前再開発事業にあって、明るい材料と言えそうだ。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長 スナック調査シリーズ

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

    事業を停止したオール・セインツウェディング  JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が突然閉鎖した。本誌に情報が入ったのは6月9日。市内のある式場幹部がこう教えてくれた。 「オール・セインツで結婚式を予定していたカップルが『式場と連絡が取れなくなった。どうすればいいのか』と相談してきたのです」 オール・セインツは英国式チャペルとゲストハウス型パーティー会場で構成されている。チャペルには英国で実際に使われていたステンドグラス、パイプオルガン、長椅子、説教台があり、司式者も認定証のある牧師に依頼するなど、本物志向の結婚式を提供していた。式会場は30~190人まで収容可能な3タイプを揃えていた。 ネットで検索すると、昨年度まで3年連続で「口コミランキング福島県総合1位」を獲得しており、人気の式場だったことが分かる。 6月10日、現地を訪ねると、チャペルに通じる門など全ての出入口が閉ざされていた。門やドアには次のような紙が貼られていた。 《オール・セインツは、令和5年6月8日をもって、法的整理準備のために事業を停止いたしました。債権者の皆様にはご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません》 本誌に情報が入った前日に事業を停止していたわけ。 式場周辺を見て回ると、付属施設のドアが1個所開いているのを見つけた。「ごめんください」と声をかけると、中から大柄な男性が汗だくで出てきた。オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(会津若松市)だった。 「私の一存でどこまで話していいのか判断がつかないので、取材は遠慮したい」(山口弁護士) 施設内で何をしていたのか尋ねると「電気が止まる前に食材の整理をしていた」と言う。代理人がそこまでするのかと更に問うと「いろいろあって……」と言葉を濁した。 近所のホテル従業員の話。 「オール・セインツを通して宿泊予約をされていたお客様から『式場と連絡が取れない』と聞かされ、見に行くと事業停止の張り紙がありました。直近で5、6組の宿泊予約が入っていたのですが、全てキャンセルでしょうね」 結婚式の予定が見通せなくなったカップルは少なくないようだ。 ㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11)は2003年7月設立。資本金1000万円。代表取締役の黒﨑正壽氏は79歳、札幌市在住だが、出身は福島県という。直近5年間の売り上げ(決算期9月)は2018年2億4000万円、19年2億4000万円、20年1億8000万円、21年1億5000万円、22年1億円。新型コロナの影響で苦戦していた様子がうかがえる。 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の管理運営を行う㈱TAKUSO(住所はいずれも郡山市駅前一丁目11―7)がある。両社の事務所も訪ねてみたが留守だった。 オール・セインツの土地と建物は小野町の土木工事・産廃処理会社が所有している。同社にも事情を聞いてみたが、社長から「当社が事業用地および事業用建物として賃貸しているのは事実です。賃借人弁護士から事業停止の通知が届き、驚いています。それ以上のことは多くの方が関係していることもあり、個人情報保護の観点からコメントは差し控えたい」というメールが寄せられ、詳しいことは分からなかった。 債権者の中には結婚式を予定していたカップルも含まれる。ネットの投稿などを見ると、オール・セインツは招待客1人当たり4万5000円かかるようなので、50人招待すると225万円の見積もりになる。事業を停止すると分かっていてカップルから前金を受け取っていたとすれば、悪質と言うほかない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

  • うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

     本誌3月号に、うすい百貨店(郡山市)から「ルイ・ヴィトン」が撤退するウワサがある、と書いた。 それから2カ月経った先月、ヴィトンは公式ホームページで「うすい店は8月31日で営業を終了することとなりました」と発表。ネット通販が全盛の昨今、地方都市に店舗を構えるのは得策ではない、という経営判断が働いたとみられる。 問題は撤退後の空きスペースをどうするかだが、3月号取材時は「後継テナントが見当たらず、憩いのスペースにする案が浮上している」との話だった。百貨店に憩いのスペースは相応しくない。この間の検討で具体案は練られたのか、うすいの公式発表が待たれる。 あわせて読みたい 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂 2023年3月号

  • 【いわき駅前】22時に消える賑わい

     新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。かつての日常に戻りつつある中、店での飲食は動向が大きく変わった。客の重視は「飲む」から「食べる」に変化。職場の宴会は減り、あっても1次会のみ。酒の提供がメインで接待を伴うスナックは2次会以降を当てにしているため、客数減による淘汰が進む。第3弾となる夜の街調査は、いわき市を巡った。 客足戻ってもスナックに波及せず  本誌はこれまで郡山市と福島市にあるスナックの数を、電話帳を基にコロナ前と後で比較してきた。電話や訪問で営業状況を確認し、ママやマスターに聞き取り調査を重ねた。 第3回となる今回は、経済規模が県内2番目のいわき市(表1参照)の夜の街を調べた。新型コロナが5類に引き下げとなって初めての土曜日(5月13日)夜に、本誌記者2人がJRいわき駅前(平地区)の店を訪問し、店主から聞き取った。 表1 県内の経済規模上位5市 市町村内総生産県全体の構成比郡山市1兆3635億円17.10%いわき市1兆3577億円17.00%福島市1兆1466億円14.40%会津若松市4553億円5.70%南相馬市3307億円4.10%出典:2019年度『福島県市町村民経済計算』 一1000万円以下切り捨て  現地調査の前に店の増減を電話帳から把握する。新型コロナ感染拡大前の2019年11月時点と感染拡大後の21年10月時点の電話帳(NTT発行『タウンページいわき市版』)で掲載数を比較した。 2021年時点で20軒以上ある業種を挙げる。業種は店からの申告に基づき重複がある。多い順に次の通り(カッコ内は減少率)。 スナック 273店→221店(19・0%) 飲食店 201店→180店(10・4%) 居酒屋 168店→148店(11・9%) 食堂 83店→68店(18・0%) すし店(回転ずし除く) 69店→64店(7・2%) レストラン(ファミレス除く) 72店→62店(13・8%) ラーメン店 67店→62店(7・4%) 喫茶店 61店→54店(11・4%) 焼肉・ホルモン料理店 38店→37店(2・6%) 中華料理店 38店→37店(2・6%) バー・クラブ 48店→36店(25・0%) 焼鳥店 34店→33店(2・9%) うどん・そば店 30店→28店(6・6%) 日本料理店 28店→25店(10・7%) ファミレス 25店→24店(4・0%) カフェ 23店→21店(8・6%) 減少数・率ともに大きいのはスナックだった。53店が電話帳から消え、1店が新規掲載。差し引き52店減少した。もともとの店舗数はスナックや居酒屋に比べれば少ないが、減少率が最も大きかったのはバー・クラブの25・0%。12店が電話帳から消え、新規掲載はなかった。 酒と接待の場を提供するスナックやバー・クラブの減少が著しいのは郡山・福島両市も同じだ。 郡山市 スナック 202店→159店(減少率21・2%)。消滅48店、新規掲載5店 バー・クラブ 45店→42店(減少率6・6%)。消滅5店、新規掲載2店 福島市 スナック 194店→145店(減少率25・2%)。消滅50店、新規掲載1店 バー・クラブ 42店→35店(減少率16・6%)。消滅7店、新規掲載なし スナックの数はコロナ前も後も3市の中でいわき市が最も多い。にもかかわらず減少率は19%と他2市と比べて2~5㌽低い。理由は飲食店街が分散していることが考えられる。スナックが10店舗以上ある地区は表2の通り。市内最大規模の飲食店街は平・田町でスナック約120店舗がひしめく。平地区のスナックの減少率は21%で、郡山・福島とあまり変わらない。減少幅の小さい小名浜や植田など周辺地区が平の減少率を緩和している形だ。 表2 いわき市のスナックの店数 2019年2021年減少率平地区15212021%小名浜地区453717%植田地区423419%常磐地区151220%出典:NTT『タウンページ』の掲載数より 「回復とは言えない」  平・白銀町でバー「QUEEN」を経営するマスター加藤功さん(65)=平飲食業会・社交部会部会長=は、叔母から店を引き継いで計63年続けている。 「客の入りは回復しているとは言い難いですね。土曜日でも空席がある。ライブを開催し、大物ミュージシャンを呼んでもチケットは完売になりませんでした。みんな出不精になったのかな」(加藤さん) コロナ禍で閉店する店が増えたことについては、 「跡継ぎがいないというかねてからの問題があります。コロナ禍が閉店に踏み切るきっかけになった。私の店も後継者はいません。酒を提供する店でも料理がメインのところは回復力が強い。純粋にお酒を愉しんだり、女性が接待する店はまだまだ厳しい」(同) 別のバーの男性オーナーAさんは 「うちは仲間内で楽しむ雰囲気の店です。美味しいものを味わってもらうというより、1人3000円くらいでサンドイッチなど軽食を用意し、腹いっぱいになって帰ってもらう。昔は公務員が多く来ていたが、コロナ以降は全然ですね」    平競輪場が近いこともあり、店内には競輪のグッズが飾ってあった。 「今は送別会をやる選手もいません。余裕がないんでしょうね。お客さんも店も一緒です。やめちゃった店は多分、コロナ禍の間に運営資金を4、500万円くらい借りてあっぷあっぷになったんじゃないか。俺もいつやめてもおかしくない。あと1年、あと1年とマイナスの状況で続けてきた。貯金はみんな食いつぶしたよ」(同) ただ、公務員や地域行事の打ち上げが戻ってきたことで、感染の収束を感じるとも話す。 「ようやく4月から警察関係の人たちが飲み歩き始めた。いい兆しです。だが、うちはPTAや保護者会などの団体さんが動き出さないと経営は厳しい。コロナ前は野球、サッカー、学校行事などが終わった後は打ち上げがお決まりでした。消防団もお得意さんですね。年間行事が決まっているので、安定した集客が見込めます」(同) パートで本業を支える  筆者は別の店主から「昼間にパートに出て本業(スナック)を支えている店もあった」と聞いた。 あるスナックのベテランママBさんも「他人事ではない」と話す。 「店を閉めるには借金を清算しなくてはなりません。でも、この年になったら働き口がないので店を続けるしかない。お客さんの数はコロナ前の水準には戻らないけど、常連さんが来てくれるのでかろうじてやっていけます」 前出のマスター加藤さんは、コロナ後の客の飲み方に明らかな変化を感じているという。 「大型連休中はお客さんがコロナ前の7割程度まで戻った。ただし、1次会だけで終わるケースが多い。帰りの運転代行のピークは20~21時の間です」 5月13日の土曜日、本誌記者2人は19時を待ち、電話帳から消えたスナックやバー・クラブを訪ね開店状況を調べた(結果は別表参照)。20~21時の間は平・田町の路地を団体客が通り、客引きが2次会の場所を紹介しようと賑わっていた。だが21時を過ぎると客足は減り、客引きの方が多くなった。女性従業員がペアになり、いわき駅方面に向かう男性客を呼び止めるが、人の流れが止まる気配はなかった。 電話帳から消えたいわき市平のスナック、バー・クラブ ○…5月13日(土)に営業確認 ×…営業未確認 地区店名最後の所在地または移転先営業状況田町スナックMajo新田町ビル〇桐子×cantina×COOL田町MKビル×Sweethomeミヨンビル〇LOVERINGミヨンビル→泉に移転集約〇スナック・汐第2紫ビル×スナック美穂志賀ビル×チェンマイ×歩楽里×スナック僕×Boroルネサンスビル×サムライサンスマイルビル2〇ラソ(Lazo)アマーレビル→田町鈴建ビル〇ビージェイオセーボ(BJOSEBO)サンスマイルビル1×スナックむげん梅の湯ビル×DREAM移転の情報×WITH二葉館ビル〇くおん田町ビル〇夕凪×きなこ寺田ビル×スナック・杏第3紫ビル×Materia×スナックパルティール2×パブスナックキャットハウス×ROAD鳥海ビル〇カマ騒ぎ×BAR BLUE〇Berry・Berryタマチビレッジ×二町目上海新天地紅小路ビル×スナックきよみ×スナック北京城ひかりビル×スナック戀(れん)×白銀アジエンス×クイーン〇酒処さかもと×五町目プラス・ワン移転の情報×パークサイド××…所在地が空欄の店は移転先の情報を得られなかった。  22時を過ぎると「お兄さん、マッサージいかがですか」と片言で誘ってくる女性が増えてきた。前出のベテランママBさんによると、中国人グループが組織的に行っているという。 土曜の夜でも22時には客が引けてしまう。スナックやバー・クラブにとっては本来、この時間帯からが勝負だが、そもそも2次会の客が減っているので、賑わう店とそうでない店の二極化が進んでいる。 期待が薄い駅前再開発 いわき駅並木通りの再開発事業  業界として打つ手はあるのか。 「徐々に暑くなり、街中でのイベントが再開されれば人通りは多くなります。それを飲食店街にどう呼び込むか。今夏、いわき駅前では七夕まつり、小名浜では花火大会がコロナ前の規模で開催されます。昨年末には、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格を祝うパレードも同駅前でありました。いわきFCに関してはイベントが始まったばかりということもあり、飲食店街の賑わいにどうつなげるか手探りです」(前出・加藤さん) いわき駅前は再開発でホテルやマンションの建設が進む。今後、宿泊しながら飲食する人は増えることが予想され、飲食店街にとっては好材料になるのではないか。 ただ、各店主に話を向けると「そうなればいいですね」「そんなに関係ないな」と、あまり期待していない様子だった。 田町で店の営業状況を調べていると、客引きの女性従業員から「どの店もいつ潰れてもおかしくない。もっといいように書いてくださいよ」と注文を受けた。 正直、プラスの材料を探すのは難しい。早く調査を終わらせようと、女性従業員にリストに載っている店が今もやっているか尋ねた。 「その店は昨年9、10月ころにはなくなったよ。ママが『売り上げがないから疲れちゃった』って。ママが亡くなって閉めた店もあります」 本誌がリストに載せた店は、消えた店の方が多かった。 「私らは最後までやるつもりですよ。それこそ死ぬまでね」 と女性従業員。覚悟を決めた人の言葉だった。 あわせて読みたい 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査 コロナで3割減った郡山のスナック

  • 土湯温泉「向瀧」新経営者が明かす〝勝算〟

     2021年2月の福島県沖地震で損壊した福島市・土湯温泉の「ホテル向瀧」が新ホテルを建設する。前身の「向瀧」から数えて創業100年になる同ホテルは、20年8月に経営者が代わり再スタートを切った。厳しい経済状況の中、コロナ禍の影響を大きく受けたホテル業界に進出し、新施設まで建設する経営者とはどのような人物なのか。(佐藤仁) 巨額借入で高級ホテルを建設 ホテル向瀧の建設予定地  新型コロナの感染拡大でここ数年、閑散としていた土湯温泉。だが、今年の大型連休は違った。 「どの旅館・ホテルも5月5日くらいまで満館でした。様相は明らかに変わったと思います」(土湯温泉観光協会の職員) 職員によると、今年は例年より暖かくなるのが早かったこともあってか、3月ごろから目に見えて人出が増えていたという。 国の全国旅行支援に加え、新型コロナが徐々に落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが2類相当から5類に引き下げられた。行動制限があった昨年までと違い、今年の大型連休はどの観光地も大勢の人で賑わいをみせた。 そうした中、土湯温泉では今、新しいホテルの建設が始まろうとしている。筆者が現地を訪ねた5月9日にはまだ着工していなかったが、今号が店頭に並ぶころには資機材が運び込まれ、作業員や重機の動く様子が見られるはずだ。 4月13日付の地元紙には、現地で行われた地鎮祭を報じる記事が掲載された。以下は福島民報より。 《福島市の土湯温泉ホテル向瀧の地鎮祭は12日、現地で行われ、関係者が工事の安全を祈願した。2021(令和3)年2月の本県沖地震で被災したため建て替える。2024年3月末の完成、同年の大型連休前の開業を目指す。 新ホテルは2022年にオープン予定だったが、世界的な資材不足の影響などで開業計画と建物の設計変更を余儀なくされた。新設計は鉄骨造り5階建て、延べ床面積は2071平方㍍。客室は9部屋で、全室に源泉かけ流しの露天風呂を完備する。向瀧グループが運営する。 式には約20人が出席した。神事を行い、向瀧グループホテル向瀧・ワールドサポート代表の菅藤真利さんがくわ入れした》 現地に立つ看板によると「ホテル向瀧」は当初、敷地面積2730平方㍍、建築面積720平方㍍、延べ面積3520平方㍍、7階建て、高さ33㍍だったが、民報の記事中にある「設計変更」で実際の建物はこれより一回り小さくなる模様。設計は㈲フォルム設計(福島市)、施工は金田建設㈱(郡山市)が請け負う。 ホテル向瀧は、もともと「向瀧」という名称で営業していた。法人の㈱向瀧旅館は1923年創業、61年法人化の老舗だが、2011年の東日本大震災で建物が大規模半壊、1年8カ月にわたり休館したことに加え、原発事故の風評被害で経営危機に陥った。その後、インバウンドで福島空港のチャーター便が増加すると、タイからの観光客受け入れルートを確立。ところが、回復しつつあった矢先に新型コロナに見舞われ、外国人観光客は途絶えた。 向瀧旅館の佐久間智啓社長は、震災被害は国のグループ補助金を活用したり、金融機関の協力を得るなどして乗り越えた。だが、新型コロナに襲われると、収束時期が不透明で売り上げ回復も見通せないとして、更に借金を重ねる気力を持てなかった。コロナ前に起きた令和元年東日本台風による被害と消費税増税も、佐久間社長の再建への気持ちを萎えさせた。 向瀧旅館の業績 売上高当期純利益2015年4億円――2016年4億8900万円▲100万円2017年4億5900万円2900万円2018年4億6800万円1600万円2019年4億6500万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  今から3年前、向瀧は「2020年3月31日から5月1日までの間、休館と致します」とホームページ等で発表すると、5月2日以降も営業を再開しなかった。 そんな向瀧に転機が訪れたのは同年8月。福島市のワールドサポート合同会社が経営を引き継ぎ、「ホテル向瀧」と名称を変えて営業を再開させたのだ。 法人登記簿によると、ワールドサポートは2015年設立。資本金10万円。代表社員は菅藤真利氏。主な事業目的は①ホテル事業、②レストラン事業、③輸出入貿易業、輸入商品の販売並びに仲介業、④電子製品の製造、販売および輸出入並びに仲介業、⑤企業の海外事業進出に関するコンサルタント業、⑥機器校正メンテナンス業、⑦測定器の研究、開発、製造および販売――等々、多岐に渡る。 ワールドサポートの業績 売上高当期純利益2018年400万円――2019年700万円4万円2020年2700万円▲1400万円2021年1億0600万円――2022年2000万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  創業100年の老舗旅館を、設立10年にも満たない会社が引き継いだのは興味深い。ワールドサポートとはどんな会社で、代表の菅藤氏とは何者なのか。 好調な中国のレストラン イラストはイメージ  菅藤氏はホテル業や運送業、保険業などに携わった後、中国で起業したが、その直後に東日本大震災が起こり、2011年9月、福島市内に放射線測定器を扱う会社を興した。だが、同社が県から委託されて設置したモニタリングポストに不具合が生じたとして、県は契約を解除。一方、別会社が菅藤氏の会社から測定器を納入し、県生活環境部が行う入札に参加を申し込んだところ、測定器が規定を満たしていないとして入札に参加できなかったが、県保健福祉部が行った入札では問題ないとして落札できた。そのため、この会社と菅藤氏は「測定器の性能に問題はなかった」と県の第三者委員会に苦情を申し立てた経緯があった。 その後、菅藤氏は測定器の会社を辞め、親族と共に中国・大連市に出店した日本食レストラン(3店)の経営に専念。このころ、父親を代表社員とするワールドサポートを設立し、レストラン経営に対するコンサルタント料として同社に年数百万円を支払っていた。 2019年にはワールドサポートでも飲食店経営に乗り出し、福島市内に洋食店を出店した。ところが翌年、新型コロナが発生し、洋食店はオープン数カ月で休業を余儀なくされた。ただ、中国の日本食レストランはコロナ禍でも100人近い従業員を雇うなど、黒字経営で推移していたようだ。 菅藤氏の知人はこう話す。 「菅藤氏の日本食レストランは中国のハイクラス層をターゲットにしており、新型コロナの影響に左右されることなく着実に売り上げを上げていました。あるきっかけで店を訪れたモンゴル大使館の関係者は『とても素晴らしい店だ』と気に入り、菅藤氏に『同じタイプのレストランをモンゴルに出したいので手伝ってほしい』と依頼。菅藤氏はコンサルとして出店に協力しています」 ワールドサポートに「向瀧の経営を引き継がないか」という話が持ち込まれたのは洋食店が休業に入るころだった。もともとホテル経営に関心を持っていた菅藤氏に、前出・向瀧旅館の佐久間社長と代理人弁護士が打診した。 この知人によると、法人(ワールドサポート)としてはホテル経営の実績はなかったが、菅藤氏は元ホテルマンで、休業していた洋食店の従業員にも元ホテルマンが多く、個々にホテル経営のノウハウを持ち合わせていたという。実際、同社がホテル向瀧として2020年8月から営業を再開させた際、総支配人に据えたのは、2019年に閉館したホテル辰巳屋で支配人・社長を務めた佐久間真一氏だった。 本誌は3年前、ワールドサポートに経営が切り替わるタイミングでホテル幹部を取材したが、向瀧旅館から引き継ぐ条件として▽負債は佐久間社長が負う、▽不動産に付いている金融機関の担保も佐久間社長の責任で外す、▽身綺麗になった後、運営会社を向瀧旅館からワールドサポートに切り替える、▽それまではワールドサポートが向瀧旅館から不動産を賃借して運営する――等々がまとまったため、営業を再開したことを明かしてくれた。 ワールドサポートは向瀧旅館の従業員を再雇用することにもこだわった。現場を知る人が一人でも多い方が再開後の運営はスムーズだし、コロナ禍で景気が冷え込む中では、従業員にとっても失業を回避できるのはありがたい。希望する従業員は全員再雇用した。ただし早期再建を図るため、給料は再雇用前よりカットすることで納得してもらった。従業員に給料カットを強いる以上は、役員報酬も大幅カットした。 また、休業していた洋食店は撤退を決め、新たにホテル向瀧のラウンジに入居させて再スタートを切った。 不動産登記簿を見ると、向瀧旅館の佐久間社長はワールドサポートとの約束を着実に履行した形跡がうかがえる。 ホテル向瀧の土地建物には別掲の担保が設定されていたが(債務者は全て向瀧旅館)、これらは2021年3月末までに解除された。 根抵当権1980年12月設定極度額6000万円、根抵当権者・福島信金根抵当権1990年5月設定極度額13億円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億5000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・福島信金抵当権1994年6月設定債権額3億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権1998年3月設定債権額1億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権2013年9月設定債権額8100万円、抵当権者・福島県産業振興センター※上記担保は2021年3月末までに全て解除されている。  同年6月、向瀧旅館は商号を㈱MT企画に変更。3カ月後の同年9月1日、5億6800万円の負債を抱え、福島地裁から破産手続き開始決定を受けた。同社はワールドサポートから家賃収入を得ていたが、全ての担保が解除されたと同時に土地建物をワールドサポートに売却した。 20億円の借り入れ  この時点でMT企画・佐久間社長はホテル向瀧とは一切関係がなくなったが、その後も「何らかのつながりがあるのではないか」と見る向きがあったのか、ワールドサポートでは同ホテルのHPで次のような注意喚起を行っていた。 《ホテル向瀧は、株式会社向瀧旅館・土湯温泉向瀧旅館および株式会社MT企画とは一切関係ありませんので、ご注意下さいますようお願いいたします》 そんなワールドサポートも順風な経営とはいかなかった。土地建物が自社名義になる直前の2021年2月に福島県沖地震が発生。震災に続きホテルは大規模半壊し、休館せざるを得なかった。 菅藤氏は建て替えを決断し、金策に奔走した。その結果、2022年3月に三井住友銀行をアレンジャー兼エージェント、福島銀行、足利銀行、商工中金を参加者とする20億3500万円のシンジケートローンが締結された。だが、冒頭・民報の記事にもあるように、世界的な資材不足の影響で計画・設計の変更を迫られるなどスムーズな建て替えとはいかなかった。 ちなみに、かつての向瀧は10階建て、延べ床面積1万0600平方㍍、客室は71室あった。これに対し、新ホテルは5階建て、延べ床面積2070平方㍍、客室は9室なので、団体客は意識せず、コロナ禍で進んだ個人・少人数の旅行客を受け入れようという狙いが見て取れる。 ホテル向瀧が休館―解体―新築となる一方で、菅藤氏は同ホテルから徒歩5分の場所にあった保養施設の改修にも乗り出していた。 閉館から年月が経っていた「旧キヤノン土湯荘」を2021年6月、ワールドサポートの関連会社㈱WIC(福島市、2021年設立、資本金400万円、菅藤江未社長)が取得すると、改修工事を施し、今年3月から「向瀧別館 瀧の音」という名称で営業を始めた。土地建物はWIC名義だが、運営はワールドサポートが行っている。 3月にオープンした瀧の音  ここまでワールドサポートと菅藤氏について触れたが、巨額の売り上げを上げているわけでもなく、洋食店も始まった直後に新型コロナで休業し、ホテル経営も実績がない。そんな同社(菅藤氏)が、なぜ20億円ものシンジケートローンを組むことができたのか、なぜホテル向瀧だけでなく別館まで手を広げることができたのか、正直ナゾが多い。 事実、他の温泉地の旅館・ホテルからは「バックに有力スポンサーが付いているのではないか」「中国資本が入っているのではないか」という憶測も聞こえてくる。 実際はどうなのか、菅藤氏に直接会って話を聞いた。 菅藤氏が描く戦略 イラストはイメージ  向瀧旅館から経営を引き継ぎ、2020年8月に営業許可を受けた菅藤氏は、71室あった客室を15室だけ稼働させ、限られた経営資源を集中投下した。 「まず『旅館』から『ホテル』にしたことで、仲居さんが不要になります。かつての向瀧を知るお客さんからは『部屋まで荷物を運んでくれないのか』『お茶を出してくれないのか』と言われましたが『ホテルに変わったので、そういうサービスはしていません』と。そうやって、まずは労働力・人件費を細部に渡りカットしていきました」(菅藤氏、以下断わりがない限り同) 休業していた洋食店をホテル内に入居させたことも奏功した。 「もともと腕利きの料理人を複数抱えていたので、ホテルの夕食は和食かフレンチをチョイスできる仕組みにしました。そうすることで、例えば夫婦で泊まった場合、旦那さんは和食で日本酒、奥さんはフレンチでワインが楽しめると同時に、翌日は逆のチョイスをしてみようと連泊してくださるお客さんが増えていきました」 連泊すると、宿泊客は部屋の掃除を遠慮するケースが多い。そうなるとリネンを交換する必要もなく、その分、経費は浮くことになる。 「旅館では当たり前の布団を敷くサービスも廃止し、お客さんに敷いてもらうようにして、代わりに1000円キャッシュバックのサービスを行いました。その結果、1000円がお土産代などに回る好循環につながりました」 従業員は十数人なので、15部屋が満室になったとしても満足なサービスを提供できる。そうやって今までかかっていた経費を抑えつつ、限られた人数で一定の稼働率を維持したことで、営業再開当初から単月の売り上げは二千数百万円、利益は数百万円を上げることに成功した。 ところが前述した通り、2021年2月の福島県沖地震で建物は大規模半壊。休館―解体を余儀なくされた中、菅藤氏が頭を悩ませたのは従業員の雇用維持だった。 考えたのは、新ホテルの開設準備室として使っていた前出・旧キヤノン土湯荘をホテルとして再生させ、新ホテルがオープンするまで従業員に働いてもらうことだった。 「もともと保養所だったので、風呂とトイレは各部屋になく、フロアごとに設置されていました。ここをリニューアルすれば、学生の合宿に使い勝手が良い施設になるのではと考え、リーズナブルな料金設定にして営業を始めました」 建物は2021年に続き22年3月の福島県沖地震でダメージを受けていたため、リニューアルは簡単ではなかったが、今年3月に瀧の音としてオープン以降は従業員の雇用の場になると共に、新たな宿泊層を呼び込むきっかけにもなった。 「今年の大型連休は、県内外の中学・高校生に大会の宿舎として利用していただきました。ダンススクールの子どもたちの合宿もあり、4連泊と長期宿泊もみられました。客室は9室と少ないので、サービスが滞る心配もありません」 今後は各部屋にユニットバスとトイレを設置し、使い勝手の向上を図る予定だという。 新型コロナが収束していない中、2軒目の経営に乗り出すとは驚きだが、気になるのは、新ホテルを建設し、徒歩5分のエリアに別館もオープンさせて足の引っ張り合いにならないのかということだ。 「新ホテルはインバウンドや首都圏のお客さんをターゲットに、瀧の音とは全く異なる料金プランを設定する予定です。稼働率も25%程度を想定しています」 要するに、新ホテルは高級路線を打ち出し、別館とは住み分けを図る狙いだ。今後、別館のリニューアル(ユニットバスとトイレの設置)を行うのは、今まで向瀧を訪れていた地元の人たちが高級ホテルに宿泊するとは考えにくいため、合宿以外の地元利用につなげたい考えがあるのだろう。 それにしても驚くのは25%という稼働率の低さだ。旅館・ホテルは稼働率60~70%が損益分岐点と聞くが、25%で黒字に持っていくことは可能なのか。 「例えば客室が100室あって稼働率25%では、空きが75室になるので赤字です。だが、新ホテルは9室なので25%ということは2部屋稼働させればいい。大きな旅館・ホテルは、春秋の観光シーズンや夏休みは一定の入り込みが見込めるが、シーズンオフは企画を立てたり、料金を下げても稼働率を維持するのは容易ではない。しかし、お客さんのターゲットを明確に絞り、全体で9室しかなければ、観光シーズンか否かに左右されず一定の稼働率を維持できると考えています。ましてや最初から25%と低く設定し、それで黒字になるなら、ハードルは決して高くないと思います」 新ホテルに明確なコンセプトを持たせつつ、別館は学生や地元客の利用を意識するという菅藤氏のしたたかな戦略が見て取れる。 「ホテル管理システムも、スマホで予約や決済が可能な最新のものを導入しようと準備を進めています。削る部分は削るが、かける部分はかけるというのも菅藤氏の戦略なのでしょう」(前出・菅藤氏の知人) 見えない信用力  それでも記者が「厳しい経済状況の中、高級路線のホテルは需要があるのか」と意地悪い質問をすると、菅藤氏はこう断言した。 「あります。首都圏では某有名ホテルチェーンで1泊数万円でも連日予約が埋まっているし、有名観光地では1泊1食付きで数十万~100万円の旅館・ホテルの人気が高い。地方の温泉地でも知恵を絞り、魅力的なサービスを打ち出せば外国人旅行者や首都圏の富裕層に関心を持ってもらえると思います」 このように戦略の一端が見えた一方、やはり気になるのは金策だ。三井住友銀行によるシンジケートローンは前述したが、失礼ながら事業実績に乏しいワールドサポートに巨額融資を受ける信用があるようには見えない。その点を菅藤氏に率直に尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「最初、地元金融機関に融資を申し込んだところ、事業計画を吟味することなく『当行は静観します』と断られました。その後、紆余曲折があり三井住友銀行さんに行き着いたが、同行は事業計画をしっかり評価してくれました。同行はグループ会社でホテル経営をしており、五つ星ホテルもあるから、ホテル向瀧のコンセプトにも理解を示してくれたのだと思います。『婚礼はやらない方がいい』など具体的なアドバイスもしてくれました」 とはいえ、事業計画がいくら立派でも、信用面はどうやって評価してもらったのか。 「中国の日本食レストランはオープン9年になるが、その業績と資産価値を高く評価してもらいました。三井住友銀行さんに現地法人があったことが、正確な評価につながったのでしょう。融資を断られた地元金融機関は現地法人もなければ支店・営業所もないので、(日本食レストランを)評価しようがなかったのかもしれません」 記者が「バックに有力スポンサーがいるとか、中国資本が入っていると見る向きもあるが」とさらに突っ込んで聞くと、菅藤氏はきっぱりと言い切った。 「仮に有力スポンサーが付いていたとしても、ワールドサポートと実際の資本関係がなければ銀行は信用力が上がったとは見なさない。しかし登記簿謄本を見てお分かりのように、当社は資本金10万円の会社ですから、スポンサーとの資本関係はありません。中国資本についても同様です」 スポンサー説や中国資本説はあくまでウワサに過ぎないようだ。 これについては前出・菅藤氏の知人もこう補足する。 「菅藤氏の周囲には数人のブレーンがいて、これまでも彼らと知恵を出し合いながら事業を進めてきた。ホテル経営に当たっても資金づくりが注目されているが、私が感心したのは様々な補助金を駆使していることです。一口に補助金と言うが、実は省庁ごとに細かい補助金がいくつもあり、その中から自分の事業に使えるものを探すのは簡単ではない。それを、菅藤氏はブレーンと適宜見つけ出しては本館・別館の改修に充てていたのです」 地方の温泉旅館で富裕層を狙う戦略が奏功するのか、急速な事業拡大は行き詰まりも早いのではないか、巨額融資を受けられた別の理由があるのではないか――等々、お節介な心配は挙げれば尽きないが、今後、ワールドサポート・菅藤氏のお手並みを拝見したい。 「別の仕掛け」も検討!?  ワールドサポートでは向瀧旅館と取り引きしていた仕入れ先から引き続き食材等を調達しているが、当初は現金払いを求められたという。向瀧旅館が再三休館し、最後は破産したわけだから、ワールドサポートも信用面を疑われるのは仕方がなかった。だが、再開当初から経営が軌道に乗り、シンジケートローンが決まると「月末締めの翌月払い」に変更されたという。同社が仕入れ先から信用を得られた瞬間だった。 「向瀧旅館(MT企画)が破産したことで、仕入れ先の債権(買掛金など)がどのように処理されたのかは分かりません。当社としては仕入れ先に迷惑をかけず、地元企業にお金が回るようホテルを経営していくだけです」(菅藤氏) その点で言うと、もし地元金融機関から融資を受けられれば施工は福島市の建設会社に依頼する予定だったが、融資を断られたため、三井住友銀行の紹介で接点ができた前述・金田建設に依頼した。菅藤氏は「今後も可能な限り地元企業にお金が回るようにしたい」と話している。 建設中の新ホテルは来年3月末に完成し、大型連休前のオープンを目指しているが、災害時には避難所として利用できるよう福島市と協定を締結している。瀧の音をオープンさせた狙いの一つ「地元貢献」を新ホテルでも果たしつつ、 「菅藤氏は更に『別の仕掛け』も考えており、これが成功すれば低迷する各地の温泉地を再生させるモデルケースになるのでは」(前出・菅藤氏の知人) というから、本誌の取材には明かしていない構想が菅藤氏の念頭にはあるのだろう。 昨年創業100年を迎えたホテル向瀧がどのように生まれ変わり、菅藤氏が描く「仕掛け」が土湯温泉全体にどのような影響をもたらすのか、注目点は尽きない。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦

  • 【キリンビール】仙台工場が操業100周年

     キリンビール㈱東北統括本部(宮城県仙台市、鶴本久也本部長)は6月27日、仙台工場操業開始100周年を記念して「キリン一番搾り 仙台工場 100周年 デザイン缶」を数量限定で発売した。販売エリアは東北6県の青森県・秋田県・岩手県・宮城県・山形県・福島県。 同商品のデザインは「東北のお客様への感謝と、これからも東北6県のお客様においしさを届け続けていくための思いを込めた」限定パッケージとなっている。(写真)  また同商品の発売にあわせて、東北の流通企業と同社による共同企画「キリンビール仙台工場100周年『100年のご愛飲に感謝』キャンペーン」を7月30日(日)まで実施している。対象店舗で「一番搾り」を合計2000円(税込み)以上購入したレシート(複数枚可)を1口として応募できる。賞品はA賞、B賞、Wチャンス賞の3つで、合計500名に当たる。  A賞(抽選で50組100名)は『仙台工場特別招待券』で、レストラン「キリンビアポート仙台」の食事券(1人3000円分)、「キリンファクトリーショップ」の土産品券(1人2000円分)がもらえる。 B賞(抽選で各県50名様ずつ300名)は『東北6県各県名産品』で、以下の賞品のいずれかがもらえる。 ①青森県=「青森産ほたて(冷凍)」、②秋田県=「三浦米太郎商店【鰰寿し】」、③岩手県=「黄金海宝漬」、④宮城県=「仙台牛バラカルビ」、⑤山形県=「山形牛カタ焼き肉用」、⑥福島県=「福島牛モモ・バラ・肩焼肉用」。 Wチャンス賞(A賞とB賞にはずれた方の中から抽選で100名)は「キリン一番搾り生ビール」350㍉㍑6缶セットがもらえる。 県内の対象店舗は以下の通り。 ウエルシア薬局、カワチ薬品、共立社、コープふくしま、生協宅配、フレスコ、マルト、やまや、ヨークベニマル、リオン・ドール。 同社の大類充敬南東北支店長は次のようにコメントした。 大類充敬南東北支店長  「福島県の皆さんに飲んでいただいているキリンビールは、仙台工場でつくられているものなんです。皆さんにご愛飲いただいたおかげで工場が操業100年を迎えることができました。次の100年も、ビールをはじめさまざまな商品を発売させていただき、引き続き東北の皆さんにご愛飲いただければ幸いです。 また工場見学もご好評いただいておりますので、是非お越しいただければと思います」 キリングループは自然と人を見つめるものづくりで「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献していく考えだ。 キャンペーンに応募する キリンのホームページ

  • 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

     5月号で南相馬市の医療・介護業界を振り回すブローカー・吉田豊氏についてリポートしたところ、同氏が運営に携わった施設の元スタッフや同氏をよく知る人物から「被害者が何人もいる」と情報提供があった。公的機関は被害者救済に及び腰だ。 被害報告多数も公的機関は及び腰 桜並木クリニック  吉田豊氏は青森県出身。今年4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。衆院議員などの秘書を務め、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。医師を招いてクリニックを開設、その一部を母体として医療法人グループを立ち上げ、吉田氏が実質的なオーナーを務めていた。  その後、青森県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。当時の報道によると、有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、さまざまな企業に医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、いずれもずさんな計画で、集まった医師・スタッフは賃金未払いにより次々と退職。施設運営は行き詰まり、協力した企業が損失を押し付けられている状況だ。 現時点で分かっているトラブルは以下のようなもの。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続いた結果、契約解除となり、建物から退去させられた。現在は地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  〇スタッフを集めるため、ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜いた。だが、賃金未払いとブラックな職場環境に耐えかねて、相次いで退職していった。 〇その後、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」、「桜並木クリニック」を地元企業の支援で立ち上げたが、こちらも退職者が後を絶たない。 〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、それを担保に支援者から融資を受け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)建設計画を進めた。また、市内企業に話を持ち掛けて、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 5月号記事では、事実確認のため複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じてもらえなかった。そのため、関係者の意向を踏まえて具体的な企業名・施設名を伏せて報じた。南相馬市の医療・介護業界では「関わってはいけないヒト」と言われている。 だが、藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所に出入りしており、紳士的かつ気さくで話もうまいので、「初対面だと社会的地位が高い人に見えてしまう」(吉田氏の言動を間近で見て来た人物)。 ちなみに5月号発売後、東京・永田町にある議員会館の藤丸衆院議員の事務所に確認したところ、女性スタッフが次のように説明した。 「吉田豊さんには毎回パーティー券を買っていただいていますが、今年3月のパーティーには来ていただけませんでした。事務所に連絡をいただけるのはほとんどが福岡の支持者ですが、吉田さんは東北の訛りで話してくるので強く印象に残っているし、『(藤丸衆院議員と)どういう接点があるのだろう』と不思議に思っていました。カレンダーを送ってほしいと頼まれ、その送付先が福島県のクリニックだったので、医療関係者だと思っていました」 藤丸衆院議員と個人的に親しい間柄であれば、当然スタッフもそのことを共有しているはず。それほど深い関係ではないと見るべきだろう。 吉田氏は「(藤丸衆院議員が秘書を務めていた)古賀誠元衆院議員とも親交がある」と話していたとも聞いたので、古賀氏の事務所に確認したが、秘書は「申し訳ないですが全く聞いたことがありません」と回答した。細いつながりを大きくして吹聴していた可能性が高い。 本人の反論も聞きたいと思い、裁判所で閲覧した訴状の住所宛てに配達証明で質問書を送付したが、不在続きのため地元郵便局で保管され、そのまま返って来た。 不確定な部分が多かったが、新たな〝被害者〟を出さないようにと記事にしたところ、5月号発売後、吉田氏のことを知る業界関係者や元スタッフから相次いで連絡があり、トラブルの詳細と吉田氏の人物像が見えてきた。 職員への賃金未払いが横行 相馬労働基準監督署  新たに分かったのは、賃金未払いとなったスタッフが相当数いること。というのも、吉田氏に直接支払いを要望してものらりくらりと逃げられ、相馬労働基準監督署も親身に相談に乗ってくれないからだ。 「過去には立ち入り調査が入って、是正勧告が出された事例もあったが、しょせんは罰則などがない〝行政指導〟。その場だけ取り繕ってごまかされてしまいました。また、退職した人が相談しても『さかのぼって支払いを要求するのは難しい』とされて積極的に動いてもらえませんでした」(ある元スタッフ) 現時点で吉田氏が運営に携わっている施設は前出の「憩いの森」、「桜並木クリニック」の2施設と、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」。榎本氏は同クリニックにも頻繁に出入りしている吉田氏の〝参謀〟的存在で、吉田氏は現在、この薬局の2階で生活している。 憩いの森  吉田氏関連の会社はこれまで確認されているだけで4社ある。いずれも南相馬市本社。法人登記簿によると、概要は以下の通り。 ①ライフサポート 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2020年12月25日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ 事業目的=訪問介護、訪問看護、高齢者向け賃貸住宅など ②スマイルホーム 原町区本陣前二丁目22―3 設立=2021年2月19日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司 事業目的=賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供など ③フォレストフーズ 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月25日 資本金=100万円 代表取締役=馬場伸次 事業目的=不動産の企画・運営・管理、フランチャイズビジネスの企画・管理、自動車での送迎・配達サービス、人材派遣サービスなど ④ヴェール 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月6日 資本金=100万円 代表取締役=佐藤寿司 事業目的=不動産の賃貸借・仲介、ビル・共同住宅・寮の経営、公園・観光施設などの管理運営、総合リース業、日用雑貨・介護用品販売など 4社のうち2社の代表取締役を務める浜野氏は吉田氏のパートナー的存在とされる女性。二丁目53―7は「憩いの森」の住所、二丁目22―3は同施設近くの土地の一角に建てられたユニットハウス。 吉田氏を直撃 吉田豊氏  こうして見ると吉田氏本人の名前は見当たらないが、これこそが吉田氏の得意とする手口だという。 「吉田氏は代表者など表に名前が出る所に出たがらず、スタッフに経営責任者を任せて裏で指示を出す。これだと書類上の経営責任者はスタッフになり、公的機関が指揮系統やお金の流れを把握しづらくなります。実際、ここに名前が挙がっている代表取締役にも、賃金未払いを訴えて退職した職員が含まれています」(前出・元スタッフ) もっとも、複数の関係者の話を統合すると、書類上で名前を出していなくても決定権を持っているのは吉田氏であり、実際、スタッフからは「オーナー」と呼ばれている。 前出・南相馬ホームクリニックが運営していたころは、敷地内に設けられた小さなユニットハウスが「事務所」となっており、職員は退勤時に必ず顔を出してあいさつする決まりとなっていた。 そこでは毎日17時ぐらいから酒盛りが始まる。吉田氏は素性がよく分からない飲み仲間を呼び寄せ、お気に入りの正職員が顔を出すと、一緒に酒を飲むように勧めた。患者がいようがおかまいなしで、酔った状態で待合室に顔を出し、ソファーに横になることもあった。翌朝、ビールの空き缶や総菜のごみを片付けるのは職員の仕事。オーナーでなければ、こんな振る舞いは許されまい。 ちなみに、南相馬ホームクリニック閉院後、吉田氏の居場所だったユニットハウスはスマイルホームの〝社屋〟として再利用されている。 何より驚いたのは、吉田氏に数百万円単位の金を貸している元スタッフが何人もいるという事実だ。 一例を挙げると、関連会社を統合した組合組織を立ち上げ、理事に就いたスタッフに対し、「出資金が不足している」、「役員に就かせたのだから個人的に協力してくれないか」などの理屈を付けてそれぞれ数百万円の金を出させたという。借用書は残っており、それぞれ返済を求めているが、吉田氏は応じていない。 客観的に見ると吉田氏が信用に値する人物とは到底思えないが「役員として、できる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる。組合組織を立ち上げることになったのも補助金目当てだったとみられ、現在組合として活動している気配は見えない。 同市内で医療・介護業界に従事し、元スタッフとも交流がある人物は吉田氏の性格をこう述べる。 「新しく入ってくる人には手厚い待遇で迎えるが、吉田氏に意見を述べる人や内情を詳しく知った古株は徹底的に冷遇する。職員間対立も煽るようになり、ついには賃金未払いが発生し、支払いを求めると逆ギレされる。そこで初めてどういう人物だったかを思い知らされるのです」 こうした声を当の吉田氏はどのように受け止めるのか。5月下旬、オレンジファーマシーから路上に出て来た吉田氏を直撃した。 ――医療・介護施設をめぐるトラブルが多く、当初の約束通りに金を支払ってもらっていない企業などもあるようだが。 「そういうところはない」 ――南相馬ホームクリニックでは未払い分の賃貸料の支払いを求める裁判を地元企業から起こされている。 「先方がクリニックをやりたいということで、私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方。そもそも係争中なのでそういう部分だけで誤解して書かないでほしい」 ――係争中と言うが、地裁相馬支部で確認したところ、訴状に対する答弁書は見当たらなかった。 「契約している東京のサダヒロという弁護士が対応している」 ――弁護士の連絡先は。 「あることないこと言われているので、いまさら私の方から答えることは何もない」 ――個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる。 「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 ――賃金未払いを訴える声が多い。実質的なオーナーとして責任を取るべきではないか。 「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」 吉田氏はあくまで「自分は被害者」というスタンスを貫き、賃金未払いに関しても「助言している立場に過ぎないので、各施設の責任者に話してほしい」と述べた。しかし前述の通り、実質的なオーナーであることは間違いない。呆れた言い逃れであり、責任を持って賃金未払いや借入金返済に対応する必要がある。 なお、南相馬ホームクリニックの裁判は、東京の弁護士に任せているとの回答だったが、福島地裁相馬支部にあらためて確認したところ、「吉田豊氏を原告とした裁判の訴状は確認できない」とのことだった。 「ここは本当に法治国家なのか」 オレンジファーマシー  結局、本誌の直撃取材を受けた吉田氏は「この後用事があるので」と言って、桜並木クリニックの中に入っていった。本誌5月号では桜並木クリニックを訪問したときの様子を、名前を伏せてこう紹介している。 《中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初からかかわっているが、ちょっと分からない」と話した》 このとき、対応したのは「エノモト」と名乗る男性。後から確認したところ、オレンジファーマシーの管理薬剤師を務める榎本雄一氏だった。吉田氏の親戚に当たる人物が平然とうそを付いていたことになる。外部にすらこういう対応なのだから、スタッフへの対応は推して知るべし。 これ以外にも、本誌には▼同クリニックは医師会に入っていない、▼同クリニックの診察時間はその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている、▼スタッフが定着せず、パート・アルバイトで対応している、▼過去には青森県の人物から借金返済を求める電話が毎日のように来ていた、▼業者に対しても代金未払いが発生している、▼同市石神地区で何か始めようとしている――などの情報が寄せられた。 県相双保健福祉事務所、労働基準監督署などの公的機関には、これらの情報を伝えたが、いずれも反応は鈍く、他人事に捉えているように感じられた。 元スタッフの一人は「賃金未払いや借金踏み倒しで泣き寝入りしている人が多いのに、どの公的機関も見て見ぬふり。市議などに相談したが大きな動きにはつながらなかった。ここは本当に法治国家なのか、と疑いたくなりますよ」と嘆いた。 こうした実態は広く知られるべきであり、企業経営者、医療・介護従事者は被害に遭わないように吉田氏の動向を注視しながら、それぞれが〝自衛〟していく必要がある。 政経東北【2023年7月号】で【第3弾】『吉田豊』南相馬市ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆きを詳報します! 政経東北【2023年7月号】 あわせて読みたい 【第1弾】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家【吉田豊】

  • 【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】郡山市が関係6社を提訴

    (2022年6月号)  2020年7月に郡山市島2丁目で起きた飲食店爆発事故をめぐり、市は2021年12月、店舗運営会社やフランチャイズ本部などの6社を相手取り、現場周辺の市道清掃や災害見舞金支給に要した費用など約600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。2022年4月22日には第1回口頭弁論が開かれ、6社はいずれも請求棄却を求めて争う姿勢を示したという。今後、裁判での審理が本格化していくが、あらためて事故原因と裁判に至った経過についてリポートする。 被害住民に「賠償の先例」をつくる狙いも 事故現場。現在はドラッグストアになっている。 爆発事故現場の地図  爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところにある。この爆発事故により、死者1人、重傷者2人、軽傷者17人、当該建物全壊のほか、付近の民家や事業所などにも多数の被害が出た。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。 当時の報道によると、警察の調べで、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたとみられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに何らかの原因で引火した可能性が高いという。 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。 それによると、以下のようなことが分かったという。 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。 こうした調査を経て、経済産業省は、一般社団法人・全国LPガス協会などに注意喚起を促す要請文を出している。 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かり、管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月2日、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 ただ、それ以降は捜査機関の動きは報じられていない。 責任の所在が曖昧 爆発事故の被害を受けた近くの事業所から事故現場に向かって撮影した写真  以上が事故の経緯だが、この件をめぐり、郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円など。 あわせて読みたい 福島県郡山市の飲食店で爆発事故、親会社コロワイドの株価が下落 Bloomberg   4月22日には1回目の口頭弁論が行われ、被告6社はいずれも請求棄却を求める答弁書を提出したという。 それからほどなく、本誌は、運営会社の高島屋商店、フランチャイズ本部のレインズインターナショナルにコメントを求めたところ、レインズインターナショナルのみ期日までに回答があった。 それによると、「事故が発生したことは大変遺憾であり、事故原因・責任の所在に関わらず、ご迷惑をお掛けした近隣の皆様には申し訳ないと考えております」とのこと。そのうえで、郡山市の提訴についてはこう反論した。 ①フランチャイザーの監督義務違反(民法709条)という点において、そもそもフランチャイザーがフランチャイジーを監督する義務はフランチャイズ契約にも規定がなく、また、店舗の内装造作工事・ガス管の設置方法に関して、当社から一切の指示をしていません。 ②使用者責任(民法715条)に基づく法的責任については、使用者責任は両者間において「使用者」・「被用者」の関係にあることが必要で、フランチャイザーとフランチャイジーは独立の主体として事業活動を行うものであることから、主張に無理があると考えており、これらの主張に対して遺憾に思います。 ③ただし、被害に遭われた方に対しては、当社の法的責任の如何に拘らず、基金による補償金の支払いを本件訴訟と併行しながら継続しています。なお、現在はお怪我をされた方の継続的な医療費の支払いがメインであり、これらの方に対し、基金として最後まで対応していきます。 次回裁判は6月28日に開かれ、争点整理手続きを経て争点などが洗い出され、以降は本格的な審理に入っていくことになろう。その中で、同社以外の被告がどのような主張なのかが明らかにされていく。 市によると、裁判に至る前、6社と協議をしてきたという。2021年2月19日、6社に対して、損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。3月29日までに、2社からは「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社からは「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答があった。 これを受け、関係各所と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対し、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。2021年9月、6社に協議解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こした。 ここまでの経過を振り返ると、警察が運営会社社長、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検したように、責任の所在が明らかにされていないことが話をややこしくしている。 市と関係6社との協議でも、一部から「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」との回答があったように、責任の所在が明らかにされれば、損害賠償に応じる可能性もあろう。 もちろん、刑事事件と市が損害賠償を求めた民事裁判は別物だが、今後、刑事裁判が行われ、責任の所在が明らかになってから、損害賠償請求することもできた。 いま訴訟を起こした理由 郡山市役所  なぜ、このタイミングで市は損害賠償請求訴訟を起こしたのか。 市によると、1つは民法724条に、不法行為の賠償請求権の消滅時効は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき」とあること。   今回のケースでは、損害を受けたのは明らかだが、前述のように「加害者」はハッキリしているようで、実は明確でない。そのため、消滅時効の起算は始まっていないと考えられるが、「ひょっとしたら、消滅時効の起算が始まっているとみなされる可能性もある」と、代理人弁護士からアドバイスされたのだという。 もし、そうだとしたら、もう少しで事故発生から2年が経ち、どの時点が起算点になるかは不明だが、仮に事故発生直後とすると時効が1年余に迫っていることになる。もっとも、市の場合は、話し合い(協議)の中で、明確に損害賠償を求める意思を示しているため、それには当てはまらないと考えられるが。 もう1つは、こんな理由だ。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」(市総務法務課) 品川萬里・郡山市長  主にこうした2つの理由から、このタイミングで損害賠償請求訴訟を起こしたわけ。 爆発事故で被害を受けた住民に話を聞くと、次のように述べた。 「賠償は進んでいません。近く、弁護士に相談しようと思っています。すでに、いくつか裁判が始まっているとも聞いているので、そこに合流させてもらうことも視野に入れています。いずれにしても、泣き寝入りせず、納得のいく賠償を求めていきたい」 関係各社は、市との協議で「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」といった姿勢だったから、近隣住民や事業者に対しても同様の対応だろう。 そういった意味では、今後、刑事裁判や、市が起こした民事裁判でどのような判断が下されるかが大きな注目ポイントになりそうだ。 あわせて読みたい 刑事・民事で追及続く【郡山】「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」

  • 【二本松市】行政連絡員の「委託料」を検証【高額?適正?】

    (2022年8月号)  二本松市の行政連絡員の委託料が高過ぎる――そんな投書が本誌編集部に寄せられた。〝相場〟は判然としないが、実際どうなのか。 手渡し支給は改めるべき 二本松市役所  《私自身3~4万位かと思っておりましたが、遥か想像を絶する金額にただただ驚いておりますが、本当に今のままでよろしいのでしょうか疑問です》(原文のまま) 6月下旬、本誌編集部に届いた葉書にはそんな一文が書かれていた。 「政経東北愛読者」を名乗る人物は、葉書の中で二本松市の行政連絡員に支払われている委託料を問題視していた。同市議会3月定例会で石井馨議員が委託料に関する質問をしており「詳細は石井議員に問い合わせてほしい」とある。 問題提起した石井馨前市議  ただ、2期務めた石井氏は2022年6月5日投票の市議選に立候補せず、議員を引退していた。石井氏に連絡すると 「私はもう議員じゃないし、次の就職先も決まったので取材は遠慮したい。でも、あの委託料は問題あると思うよ」 と話す。詳細は同市議会のホームページで公開されている会議録を見てほしいというので確認すると、石井氏は3月4日の一般質問で次のような質問をしていた。 ①行政連絡員の委託料は均等割プラス世帯割となっているが、規定通り支給されているのか。 ②委託料の額が近隣自治体と比べて高いと思われるが、市はどう認識しているのか。それを是正する考えはあるのか。 ③委託料は行政連絡員に現金による一括支給となっているが、公金の支出という点を考慮すれば口座振り込みに変更すべきだ。 行政連絡員とは「市民と市政を結ぶ連絡調整役」(市生活環境課の資料より)で、行政区長が兼務しているケースがほとんどだという。市内には行政区が354あるので、行政連絡員も同人数いることになる。 行政連絡員の主な職務は▽市民との連絡に関すること、▽広報紙や市政に関する周知文書の配布、▽市が行う各種調査や加入募集事項の取りまとめ、▽その他市長が特に必要と認めること。任期は1年で再任は妨げないとしており、職務に対しては市が「委託料」を支払っている。支払い方法は安達・岩代・東和地区の行政連絡員には年1回一括、二本松地区の行政連絡員には年2回(7、2月)に分けて支払われている。 葉書の差出人は、この委託料が高過ぎると指摘しているわけだが、実際どうなのか。市生活環境課の伊藤雅弘課長に話を聞いた。 「委託料は、行政連絡員に一律4万円を支払い(均等割)、そこに世帯数に応じた金額(世帯割)を加算しています」 世帯割は7段階に設定され、①10世帯以下は2400円、②11~20世帯は1750円、③21~50世帯は1550円、④51~100世帯は1400円、⑤101~300世帯は1390円、⑥301~500世帯は1380円、⑦500世帯以上は1370円。 これだけでは分かりづらいので具体例を示そう。例えば8世帯の行政連絡員には(均等割4万円)+(2400円×8世帯)=5万9200円の委託料が支払われている。これが15世帯の行政連絡員になると(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×5世帯)=7万2750円という具合に、世帯数が多くなるにつれて委託料も高くなる積み上げ方式で算定される。 ちなみに350世帯の行政連絡員の場合は(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×10世帯)+(1550円×30世帯)+(1400円×50世帯)+(1390円×200世帯)+(1380円×50世帯)=54万5000円の委託料が支払われている。 委託料は、合併前の4市町でも均等割と世帯割を用いて算定していた経緯があり(ただし二本松と安達では委託料、岩代と東和では報酬という名称だった)、現在の算定方法も二本松・東北達地方合併協議会で複数回にわたって議論し、決定した。 同合併協議会の資料にも次のような記述がある。 《委託料については、現行の二本松市の例により新市に引き継ぎ、合併前の市町単位に算定して一括配分し、それぞれの住民自治組織等と調整して業務内容に応じて受託者等へ交付する》 前出・石井氏の3月定例会での一般質問によると、2021年度、委託料を最も多くもらっている行政連絡員は141万円。さらに80・60・50万円台は7人、40・30万円台は5人、20万円台は20人以上に上ったという。平均では12万7000円とも指摘している。 これだけ聞くと「年間141万円ももらっている行政連絡員がいるのか」と思ってしまうが、それは誤解だ。正確には、141万円の委託料が行政連絡員を通じて行政区に支払われ、その中から行政連絡員への報酬が支払われているのだ。ただし実際の報酬がいくらかは「その行政区の決算書を見なければ分からない」(前出・伊藤課長)。要するに行政連絡員は、行政区を代表して市から委託料を受け取っている(預かっている)に過ぎないのだ。 「支払っているのはあくまで委託料であり、報酬ではありません。行政連絡員の報酬額は各行政区で話し合って決めており、合併前の旧市町時代から踏襲している行政区もあるでしょうから、そこに市が『報酬はいくらにしろ』と口を挟むことはしていません」(伊藤課長) こうなると、行政区によっては常識的な額が支払われているケースもあれば、法外な額が支払われている可能性も出てくるが、そこは各行政区が開いている総会で、委託料がきちんと執行されているか、不正が行われていないかを当該住民が監視するしかなさそうだ。 「ただ、2005年に合併して以降、委託料が不正に使われているとか、行政連絡員に法外な報酬が支払われているといった苦情が市民から寄せられたことはありません。市としては委託料が適切に執行され、報酬も常識的な額が支払われているものと認識しています」(同) 求められる住民の監視  ちなみに、市が行政区の世帯数を200世帯と仮定し、県内12市と県北管内3町1村を比較したところ、二本松市の委託料は33万7000円で、同市より高額なのは2市、同額は1村、低額は10市3町という結果だった。同市の委託料は高額の部類に入るが、だからと言って行政連絡員の報酬も高額かどうかは分からないので、葉書の差出人が言うような「同市の委託料が高過ぎる」とは断定しづらい。 しかし、支払い方法には大いに問題がある。同市は行政連絡員一人ひとりに現金で直接手渡ししているのだ。令和の時代に極めて珍しい光景と言えるが、委託料が公金であることを踏まえれば、石井氏が指摘するように口座振り込みが行われてしかるべきだろう。さらに言うと、行政連絡員の個人口座に振り込めば、着服や私的流用の恐れもゼロではないので、行政区の口座に振り込むことを徹底すべきだ。 「委託料の手渡しについては、今後改善に向けて検討していきたいと思います」(同) 行政連絡員が法外な報酬をもらっているわけではないことが、お分かりいただけただろうか。かと言って正確な報酬がいくらかは、行政区ごとに異なるため判然としない。委託料の源資が公金である以上、報酬については市に報告し、非常識な額が支払われている場合は市が指導してもいいように思われる。もちろん、当該住民が総会等を通じて監視することも求められる。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • 郡山商工会議所からも距離を置く!?ゼビオ

     5月号のトップ記事でゼビオの本社移転を取り上げている。グループの中核子会社であるゼビオは栃木県宇都宮市に本社を移してしまうが、実は、持ち株会社のゼビオホールディングス(HD、諸橋友良社長)も郡山市から距離を置くような素振りを見せている。 同社は長年、郡山商工会議所の常議員だったが、今年1月に突然辞めている。昨年11月に改選されたばかりだったので、同会議所は慰留に努めたものの翻意せず議員に〝降格〟した。すると同社は、3月には「議員も辞めたい」と申し入れ、同27日に辞任届を提出した。 議員を辞めると単なる会員になるが、経済人の間からは「ゼビオ元社長の諸橋廷蔵氏(故人)は副会頭まで務めたのに、短期間のうちに常議員から会員に〝降格〟というのは非常に残念だしショック」という声が漏れていた。 そうした中で、辞任届を出した翌日にゼビオが宇都宮への本社移転を発表したことも、経済人たちのショックに輪をかけた。「ゼビオグループが郡山から離れて行く予兆ではないか」と見る向きさえあった。 ゼビオの郡山本社  「ゼビオの本社移転発表時、諸橋社長は『引き続きゼビオHD等の本社を郡山に残すことで地元との関係強化を図りたい』と言っていたが、会議所の常議員、議員を辞めたら発言との整合性が取れなくなる」(ある経済人) なぜ、ゼビオHDは同会議所から距離を置こうとしているのか。ゼビオコーポレートの田村健志氏(コーポレート室長)に尋ねると、次のように説明した。 「会議所の常議員、議員として微力を尽くしてきたが、常議員、議員であることの有無が地元との関係強化につながるものとは考えていませんし、会員は継続します。郡山・宇都宮・東京の3拠点体制のバランスを取りつつ、地元との関係強化を図って参ります」 説明になっているような、いないような気もするが、特に故・諸橋廷蔵氏と付き合いのあったベテラン経済人たちは、同グループが郡山と縁遠くなりつつある状況に、寂しさと隔世の感を覚えている。 あわせて読みたい ゼビオ「本社移転」の波紋 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

  • 事務所移転に揺れる【会津若松地方森林組合】

     会津若松地方森林組合の事務所移転をめぐり、土地取得費用が当初の予定より膨れ上がり、一部役員が執行部に不信感を抱いている。同組合の内部で一体何が起きているのか。 土地費用〝倍増〟に内部から疑問の声 会津若松地方森林組合の事務所  会津若松地方森林組合(会津若松市城前、島田正義組合長)は、会津地方の民有林所有者によって組織されている協同組合だ。組合員の経営相談や森林管理、森林施業の受託、資材の共同購入、林産物の共同販売、資金の融資を担う。 対象区域は会津若松市、猪苗代町、磐梯町、会津坂下町、湯川村、柳津町、会津美里町、三島町、金山町、昭和村の1市7町2村。昨年3月末時点での組合員数は6369人(正組合員6144人、準組合員225人)。役員は組合長のほか理事13人、監事3人。職員29人。 過疎化による林業就業者の減少や高齢化、木材価格の低迷で採算性が低下していることが慢性的な課題となっている。そうした中で同組合が直面する「もう一つの課題」が、事務所移転だという。 昨年5月の総代会で配布された資料には次のように書かれている。 《森林組合事務所は平成23年に発生した東日本大震災の影響を受けた状況の中、築50年を超え老朽化が進んでおります。これらを踏まえて新たな事務所移転について調査・審議することを目的とした事務所移転検討委員会を設置し、進めております》 島田組合長は就任時から移転を〝公約〟として掲げ、この間会津美里町、会津坂下町などの候補地を視察してきた。だが、定款で会津若松市内への設置が謳われていることなどから、本格的に決まるまでには至らなかったという。 複数の関係者によると、そうした中で助け舟を出したのが、組合員でもある会津若松市の不動産業者だった。会津若松市河東町にある約3000平方㍍の土地を移転候補地として提案。所有者はマルト不動産などで、不動産業者が仲介役となってまとめるという。同組合としてもこの案を歓迎し、約6000万円で購入する方針が理事会で決議された。 ようやく長年の問題が解決に向けて前進したと思われたが、その後、事態は暗転する。 不動産業者は「約3000平方㍍では足りないのではないか。買い増してほしい」、「少しばかり残っても他に売れないので、すべて土地を買ってほしい」と、進入路を含めた約5700平方㍍を1億1500万円で購入するよう島田組合長らに打診してきた。島田組合長らは理事会で、それを受け入れる方針であると一方的に報告したという。 複数の役員から一連の経緯を漏れ聞いたという総代の男性は次のように説明する。 「理事会で決めた予算がいきなり倍の金額に膨れ上がったので、一部役員が『なぜ一方的に方針を決めるのか。もう少し慎重に検討すべきだ』と反発しているのです。残った土地を買わされた格好なのに、値引きもしてもらっていないため、不動産業者としっかり交渉せず、言い値をそのまま受け入れた疑いも持たれている。事情を知って反発している総代もいると聞いています」 役員らによると、もともと事務所移転費用は建物建設費も含めて3億円はかかると見込まれていたという。年間収益規模5~6億円の同組合にとっては一大事業となる。そのため、歴代組合長は剰余金を貯めることに努めながら慎重に検討を進めてきた経緯がある。 複数の関係者に確認したところ、「3月29日の理事会で購入金額を決議した。5月26日の総代会で承認されたらそのまま契約する流れになっている」という。疑問を抱いている理事は少数派で、理事会でそのまま決議されたようだ。 「理事の多くは日和見主義で、執行部に批判的なことを言わない。何も聞かされていない総代らも『理事会で決めたことなら』と追認すると思われるが、看過できない問題だと思うし、この間の経緯について島田組合長が説明責任を果たすべきだと思いますよ」(前出・総代) 注目される総代会の行方 会津若松市河東町の移転候補地  移転候補地とされる土地は同市河東町のJR磐越西線広田駅のそばに位置し、パチンコ店・ダイエー河東店が隣接している。進入路には砂利が敷かれ、資材、土砂が置かれていた。正式契約後にあらためて整備し直すものと思われる。 前出・組合員によると、機械を置く倉庫などは数カ所に設置されているとのこと。総代会などは別の会場で行われるので、一般の組合員が事務所を利用する機会は少ないようだ。そう考えると、広い敷地は不要のように思える。駐車場は広く取れそうだが、建物を2階建てにすればスペースを確保できるし、パチンコ店の駐車場の一部を借りる手もありそう。執行部はそこまで議論したうえで土地取得を決めたのだろうか。 島田組合長宛てに質問を送ったところ、文書で回答が寄せられた。一問一答形式で紹介する。(表記など一部リライトしている)。 ――事務所移転を検討している理由は。 「当組合の建物は築50年を迎え、建物全体が老朽化しており、耐震の問題等もあり、事務所移転を検討したところです」 ――移転候補地が決定した経緯は。 「当管内の中心的な市町村で探したが見つからず、会津若松市は市街化区域や市街化調整区域があり、事務所建設が制限されている中で河東の土地が希望する候補地として見つかり進めてきたところです」 ――土地取得費用が当初予定から倍増したため、疑問に思う役員・総代もいるようだが。 「移転計画の詳細を固めていく中で、将来に向け、さまざまな条件を積み重ねた結果であり、理事会において正式に承認されております。理事会で承認されてから総代会に提案するため、疑問に思う総代の方がいらっしゃることについて考えたこともありませんでした」 「移転計画の詳細を固めていく中で、将来に向け、さまざまな条件を積み重ねた結果」としているが、具体的にはどういう考えで不動産会社からの提案を受け入れたのか、いま一つ見えない。一方の不動産会社にも取材を申し込んだが、タイミングが合わず、入稿期限までに話を聞くことはできなかった。 「以前から一部理事が組織内の問題点を指摘しており、ガバナンス強化に乗り出さない執行部を批判してきた。今回の件は、そうした対立構図や同組合の体質を象徴する事例とも言えそうです」(同組合の内情に詳しい事情通) 今年は3年に1度の役員改選期でもある。総代会に質問が出され、活発な議論が展開されるのか、シャンシャンと議決されて終わっていくのか、注目が集まる。

  • 【2024年問題】サービス低下が必至の物流業界

     トラックドライバーの労働時間が法律で短くなることで、これまで通り荷物を運べなくなる「2024年問題」が迫っている。製造業が盛んな福島県は、製品や部品を長距離トラックで県外に夜通し運べなくなる可能性がある。運送業は即日運送をやめるか、人手確保のため価格転嫁に踏み切らざるを得ない。製造業、小売りなどからなる荷主やその先の消費者にとっては打撃だが、物流現場に負担を強いてきたことを顧みて、歩み寄る曲がり角に来ている。(小池 航) 下請け会社・トラック運転手 現場から嘆きの声 夜に福島トラックステーションを発つトレーラー  4月下旬の金曜夜8時、東北道・福島飯坂IC(福島市)南側にある福島トラックステーションから、普通乗用車を積んだトレーラートラックが発進した。福島市近辺で集荷された荷物は、国道13号を北上して同インターから高速に乗り、夜通し遠方へと運ばれていく。 3、4月は年度末、新年度に当たるため人・モノの流れが1年を通して最も多く、物流業界は繁忙期だ。大型連休前は納期が早まるため、忙しさは続く。物流業界は慢性的な人手不足のため、その負担は荷物の仕分けやドライバーたち現場にのしかかる。 いわゆる「2024年問題」は、「トラックドライバーの労働時間が短くなることにより、これまで通り荷物を運べなくなる問題」⑴だ。約4億㌧の輸送能力が不足すると試算されている。なぜドライバーの労働時間が短くなるのか。 「働き方改革関連法で2019年に導入された時間外労働の上限規制が自動車の運転業務にも適用されます。長距離輸送はドライバーの長時間労働で成り立ってきました。運送業は上限規制との乖離が激しいため、業者に周知し、徐々に是正していく必要がありました。そのための猶予期間が5年間で、24年4月から新たな規制が適用になります」(県北地方の運送会社社長) 働き方改革関連法により2019年4月から、大企業に原則として時間外労働を月45時間、年360時間とする上限規制が導入された。ただし特別な事情があり、労使が合意した場合に限り年720時間となる。中小企業には20年4月に導入された。違反した事業者には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される。 ちなみに運送業に代表される自動車運転業務以外にも建設業、医師、沖縄・鹿児島両県の製糖業が猶予を受けた。中でも運送業は、特別な事情があり、労使が合意した場合に時間外労働の上限を年960時間とする別基準が設けられた。2019、20年に導入された企業より240時間も長い。 『物流危機は終わらない』(2018年、岩波新書)の著書がある立教大経済学部教授の首藤若菜氏は、自動車運転業務に特別に認められた年960時間の上限規制について、・ひと月あたりにならすと月80時間・厚労省が過労死などをもたらす過重労働の判断として「時間外労働が2カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月あたりおおむね80時間」を超える という二つの点を挙げ、 「トラックドライバーにも5年遅れて上限規制が適用されるが、その基準は一般の労働者よりも240時間も長く、いわゆる過労死ラインとほぼ重なる」と指摘している⑵。 時間外労働の上限規制に伴い、ドライバーの拘束時間などを細かく定めた「改善基準告示」も改正された(表)。ここでいう拘束時間とは、始業から終業までの休憩を含んだ時間。 トラックの改善基準告示現行改正後1年の拘束時間3516時間原則:3300時間最大:3400時間1カ月の拘束時間原則:293時間原則:284時間最大:320時間最大:310時間1日の拘束時間原則:13時間原則:13時間最大:16時間最大:15時間1日の休息期間継続8時間継続11時間を基本とし、9時間加減※それぞれの項目に例外規定や努力義務規定がある。  前出の運送会社社長は、改善基準の改正は「厚労省がお茶を濁した印象」と語る。 「1カ月の拘束時間(原則)を見てください。9時間しか減っていない。ひと月の労働日を20日としてならしたら、減ったのは30分程度です。1日の拘束時間(原則)は変化なし。1年の拘束時間も216時間減ですが、1カ月に換算すると減ったのは18時間に過ぎません。業界としては思ったよりも減らなかった印象です」(同) 1年の拘束時間が2800~3000時間になると「現状の働き方では荷物は運べず、お手上げ」だという。 「物流は経済の血液」と言われる。厚労省は物流業界にも働き方改革を導入し、他業界との整合性を図らなければならない一方、法整備をきっかけに物流に大きな影響が出ることは控えたい。どのように血液を巡らせ続けるか、働き方改革と経済維持のはざまで頭を悩ませているのだろう。 ただ、代わり映えのしない改善基準でも、運送会社社長はある程度は有効と考える。 「2024年4月からは改善基準に違反した事業者への業務停止や運行停止などの行政処分が厳罰化されます。コンプライアンス順守が厳しくなる世の中、業者にとっては一度行政処分を食らえばイメージが悪化し、取引にも影響しかねません。残業時間の上限規制と併せて、厳罰化したことで実効性が伴うのではないでしょうか」 定着しない若手 郡山IC近くのトラックターミナル  これで物流業界の労働条件を改善する法整備は一応整った。だが人手不足に見舞われているのは、労働条件が悪いからだけではない。それに見合う給料が得られないことが原因だ。若手が敬遠し、トラックドライバーの男性労働者の平均年齢は44・1歳となっている(厚労省『賃金構造基本調査』2021年版)。 バブル景気に沸き、輸送需要が伸びていた時代は「3Kだが稼げる」と他業種からの転職者も多かった。この世代は定年を迎えるが、若手が入職しないため、いまだにドライバーや仕分け作業などの現場で中心的役割を果たしている。郡山市の60代男性ドライバーもその1人。 「30歳の頃、家族を養わなくてはならないと、稼げる仕事を探していたらトラックドライバーにたどり着いた。手取りで月給は25~35万円。稼げる時は70万円は行ったよ。もっといい給料を求めて移籍もした」 当時は郡山と大阪の定期路線が毎日出ていた。日中から夕方にかけて物流拠点に集荷された物資が方面ごとに仕分けされる。運ぶ物資は多彩だ。身近な物では酒などの飲料品や米、菓子。工場で使う材料やそこでできた部品も多い。 ドライバーの本業は運転だが、実際は積み込みまでしなければならない。手積みの場合は2~3時間はかかる。これがかなりの重労働で、労働災害も運転中より積み込み時の方が多い。 荷物を運搬用の荷台(パレット)に載せてフォークリフトで積む方法もある。積み込みは20~30分に短縮され、普及も進む。ただし、かさばる物はパレットの分だけ積載量が減るため向かない。他に、荷主が荷物をパレットに載せた状態で用意しなければならない点、荷物を降ろした後はパレットを回収して荷主に返さなければならず、その分、復路の荷物を運べない点で、ドライバーの負担軽減にはつながっていない。 積み込みを終え、ようやくトラックを出せるのは夜8時ごろ。大阪へは朝5時ごろに着く。トイレ以外は降りなかった。弁当はダッシュボードに置き、箸を使い、片手でハンドルを握りながら食べた。 「酒がないと眠れない」  仕事はきついが規制は緩かった。多く積んで早く遠方に届けるのが絶対で、会社も労働時間についてはとやかく言わない。時には我が子を助手席にこっそり乗せ、行先で遊ばせた。煩わしい人間関係がないため、同業者には独りが好きな人が多いように思う。ただし、 「長距離ドライバーは家に帰ってから寝る前に酒を飲む人が多い。深夜から明け方に働いているから、仕事を終えても眠れないんだ。寝付くために酒量が増えたな」(同) 退職を控え「そろそろ年金がもらえる」と話していた60代の同僚が、間もなく亡くなった。心筋梗塞と聞いた。「あの人どうなったんだろう」と昔の仕事仲間が気になって知り合いに聞くと、「とっくに病気で死んだよ」と返ってくることもあった。 2021年度の脳・心臓疾患の労災支給決定件数は全産業で172件だが、うち56件が道路貨物運送業。同労災の約3分の1を占める。 全日本トラック協会の調査によると、自動車運転業務の時間外労働上限である年960時間を超えて働くドライバーが「いる」と答えた事業者は51・1%に上るという。長時間労働が当たり前であることと無関係ではないだろう。 男性は、今はドライバーを退き、物流拠点で管理業務を担う。ただ、肉体労働は変わらずあるし、責任ばかりが増えたとぼやく。 トラックドライバーだけでなく、仕分けをする物流拠点でも人手不足は深刻だ。体感として、これまで10人でこなしていた仕事を3人でやらなければならなくなった。約3倍の時間がかかるので、当然終わらない。キリがないので退勤し、別の人に引き継ぐか後日再開することになる。生鮮食品のように悪くならない物資であれば、荷主が指定する日から最大で3~4日遅れることがある。もっとも、こうした状況は2024年問題が迫る以前からあったという。 人手不足は労働時間の割に賃金が低いことが原因だが、ここに至った背景には何があるのか。 「どこかの運送会社が運賃を下げたら別のところも下げる。待っていたのは、現場に無理をさせる価格競争だった。物流危機が迫っているのは自分で自分の首を絞めた結果だと思う」(同) 物流業界は次のように地位低下をたどってきた。 1990年の規制緩和で新規のトラック運送業者が増加(25年で約4万社から約6万2000社と1・5倍増)→バブル崩壊による「失われた20年」で輸送需要が低迷→減っていく荷物を増えていく事業者が取り合う。 運送業者数は、2008年以降は6万台で横ばいになっている。  トラック運送業は総経費の約半分を人件費が占める。運賃水準の低迷は人件費圧縮に直結し、荷主獲得競争の激化はトラック業界の荷主に対する相対的な立場の低下を招いた。結果、「他業種と比べて労働時間が2割長く、年間賃金が2割低い」現状に陥った⑶。 交渉に立てない下請け  トラック運送業界は荷主に対して物言えぬ立場にあるが、業界内にも元請け、下請けの多重構造がある。言うまでもなく、下請けは最も弱い立場に置かれる。 同業界は約6万2000社の99%以上を中小零細企業が占めており、保有車両10台以下が約5割、11~20台が2割、21~30台が約1割。ピラミッドの上に立つ元請け企業が仕事を受注し、それを下請け企業に委託し、さらに孫請け企業に委託するケースも少なくない。車両500台以上を保有する大手も、受けた仕事の9割以上は「協力企業」と呼ぶ下請けに委託している⑷。元請けにとっては閑散期と繁忙期に業務を調整しやすいようにしておき、固定費を増やさずに配送網を広げる狙いがある。 そうなれば、しわ寄せが来るのは下請けだ。 前出・社長の運送会社は中小企業のため、下請けに入ることも少なくないという。 「実際に運賃を払ってくれる荷主と交渉できないのが痛い。実際の運送を担う業者は、十分な運賃が得られないとドライバーを雇うことができない。しかし、元請けや上位の下請けは、少額でもマージンを取れればいいと業界全体のことは考えていない」 前出の男性ドライバーは老舗会社に勤務するため、末端の下請けほど過酷ではない。だが、苦境は手に取るように分かるという。 「大企業は足元を見るからね。元請けからできもしない仕事を回されたとしても、下請けは取らざるを得ない」 運送は本来、帰りの荷物を確保できるよう算段を付けて出発する。新規参入が厳しく制限されていた時代、運賃は運送側に有利で、帰りの荷台を空にしても元は取れたが、運賃が下振れする現在では帰りの荷物がないと赤字になる。収益は1人のドライバーがいかに多くの荷物を運ぶかにかかってくる。 次は一例だ。ある下請けのドライバーは「明日中に東京までこの荷物を運べ」と言われた。東京に荷物を下ろすと、所属企業から「帰りの荷物を見つけるから」と一報。帰着地の郡山に運ぶ荷物が見つかればいいが、もし大阪行きの荷物しかなければ、それを積んで西へと向かわされる。大阪から次の行き先は運ぶ荷物次第だ。「荷物を運ばせてください」と運送業者を回り、半額の運賃で請け負うことになる。 「このままでは一つの運送会社が潰れるだけではなく、物流業界、ひいては日本経済が立ち行かなくなってしまうことを理解してほしい」と前出の運送会社社長は力を込める。 この社長の会社では、上限規制適用以降は、遠方に荷物を運ぶ場合はドライバーを休ませ、それまで1日要していたところを2日かけるように余裕を持たせるという。 「入社希望者が全くいない以上、複数人のドライバーで中継して労働時間を抑える方法は取れません」 一方で2024年問題が注目されているのを機に、取引先には運賃値上げを交渉しようと考えている。 「社会の関心が高まっている今をチャンスと捉えなければなりません。労働時間が制限された後、物流が回るかどうかは、やってみないと分からない。来年が恐ろしいと同時に、業界の好転に期待が持てる楽しみな年でもあります」(同) 価格転嫁は荷主である小売り、製造業を通して消費者に負担が求められる可能性もある。筆者、読者を含め消費者はその背景に目を向け、業界の多重構造が適正なのか考える必要があるだろう。  脚注 ⑴首藤若菜「『2024年問題』とは何か 物流の曲がり角」(『世界』2023年5月号、岩波書店) ⑵前掲書 ⑶金澤匡晃「問題の本質は何か、物流に何が起きるのか」(『月刊ロジスティクス・ビジネス』2022年3月号、ライノス・パブリケーションズ) ⑷石橋忠子「間近に迫る『運べない』『届かない』の現実」(『激流』2023年3月号、国際商業出版) あわせて読みたい 一人親方潰しの消費税インボイス

  • 田村市の「いわくつき産業団地」が完売

     道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が田村市常葉町に整備中の東部産業団地(仮称)に進出する。3月31日、同社の西田義則社長と白石高司市長が基本協定を締結した。 《民間企業として国内初の大型舗装実験走路を備えた研究施設を建設する。2023年度に着工し、24年度中の運用開始を目指す》《実験走路は1周約1・0㌔の楕円状で、トレーラーを自動運転させ、開発中のコンクリートやアスファルト舗装の耐久性などを調べる。トレーラーを監理する管理棟や車両の点検・整備を行うトラックヤードなども設ける》(福島民友4月1日付より) 大成ロテックは同団地の二つある区画のうちA区画(約14・3㌶)に進出。残るB区画(約9・1㌶)には昨年10月、電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)が進出することが発表されているため、同団地はこれで完売したことになる。 「これほど巨大な団地を、あんな辺ぴな場所につくって売れるのかと内心ヒヤヒヤしていました」 と話すのは市役所関係者だ。 同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、設置場所については当初から疑問視する向きが多くあった。 すなわち、同団地は田村市常葉町山根地区の国道288号沿いにあるが、①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならない、という二つの大きな労力が要る場所だったのだ。 なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉町が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉町は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。 また設置場所だけでなく、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことなども、同団地が歓迎されない要因になっていた。 こうした疑惑を抱えた同団地の区画販売を、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した前出・白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から販売に苦労するのではないかという見方が浮上していた。 幸い、市の熱心な営業活動でヒメジ理化と大成ロテックの進出が決まり、これらの不安は一掃された形。とはいえ、解決しなければならない課題はまだ残っているのだという。 「想定外の巨岩が地中に埋まっていて工事に時間がかかっている。岩は家1軒分よりも大きくて硬く、動かすのは不可能なため、壊して運び出すことになるようです」(前出・市役所関係者) 敷地内に残された巨岩  実際、現地に行くと、国道288号からすぐ見える場所に、2階建ての住宅より大きな岩がむき出しで横たわっているのが分かる。これほどの巨岩を処理するのは確かに容易ではなさそう。 ただ、市商工課によると「残る作業は舗装の一部や調整池の整備などで、これらを進めながら進出企業も必要な工事に着手する予定です」(担当者)と、巨岩の処理を行っても両社の操業スケジュールに影響は出ないとしている。 疑惑にさいなまれた同団地の正常な稼働が待たれる。 あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

  • 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

    (2022年8月号)  JR福島駅と言えば、東口で進められている駅前再開発事業が思い浮かぶが、経済界を中心に東西エリアの一体化に向けた協議が行われていることはあまり知られていない。その一体化に伴って必要になるのが、同駅の連続立体交差だ。連続立体交差は巨額の費用と長い年月を要し、実現は簡単ではないが、災害時に西口から東口(あるいはその逆)への避難ルートがほとんどない現状を踏まえると「市民の命を守るため、実現に向け真剣に検討すべき」という声がある。 実現目指す地元経済界との間に〝隙間風〟 https://www.youtube.com/watch?v=hCXjFyJGVqE 福島駅前再開発へ ビル解体に向けた地鎮祭 賑わい創出の新たなランドマークの全容とは<福島県> (22/07/04 19:35)  2022年7月4日、福島駅東口の駅前再開発事業で、既存の建物を取り壊す解体安全祈願祭が現地で行われた。祈願祭には市や商工関係者など約50人が出席。福島駅東口地区市街地再開発組合の加藤真司理事長、ふくしま未来研究会の佐藤勝三代表理事、木幡浩市長らが玉串をささげた。加藤理事長は「安全最優先で工事を進める」、木幡市長は「完成後は官民一体で中心市街地の賑わい創出に取り組みたい」と挨拶した。  施工者である同組合のホームページによると《福島駅東口地区市街地再開発事業は再々開発事業で、昭和46年~48年度に市街地再開発事業(辰巳屋ビル・平和ビル)により実施された地区にその周辺の低・未利用地等を含めた地区を対象として、都市機能の更新と高次都市機能の集積を図るため建物の建替え等を再び実施する事業です。本事業は民間が行う商業、業務、宿泊等に加え、公益施設(大ホール、イベント・展示ホール)機能の複合化により、商業や街なか居住等の都市機能の充実、賑わいの創出、交流人口の拡大などを図り》とある。 計画では、敷地面積1・4㌶に商業、交流・集客施設、オフィス、ホテルからなる12階建ての複合棟、7階建ての駐車場棟、13階建ての分譲マンションを建設。総事業費は492億円で、このうち国・県・市が244億円を補助し、市はさらに公共スペースを190億円で買い取る。7月末から解体工事に入り、2023年度から新築工事に着手、26年度のオープンを目指している。 この間、本誌でも度々取り上げてきた駅前再開発事業がいよいよ本格始動したわけだが、これとは別に同駅周辺の再開発を模索する動きがあることはあまり知られていない。 「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織がある。設立は2021年3月、会長は福島商工会議所の渡邊博美会頭、会員数は91の事業所・団体に上る。同協議会の規約によると、目的は《福島市のより良い都市形成と福島駅周辺の円滑な交通体系の根幹となる福島駅周辺関係整備の早期実現に協力し、もって地域経済の発展並びに中心市街地の活性化を図る》。 同駅周辺を整備し活性化を図るというのだから、前述・駅前再開発事業と目的は変わらない。違うのは、目的ではなく手段。同協議会が念頭に置いているのは、同駅の連続立体交差だ。 連続立体交差とは、鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業だ。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の国庫補助(補助率10分の5・5)として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ、事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。  全国連続立体交差事業促進協議会のホームページによると、東京都内や大阪府など都市部での実績が目立つが、前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会が参考にするのはJR新潟駅だ。 新潟駅の連続立体交差は1992年に新潟県と新潟市が共同調査を開始し、2005年に同駅周辺整備計画が都市計画決定。翌年、同駅付近連続立体交差事業として国から認可を受け、正式スタートを切った。 事業主体は当初県だったが、2007年に新潟市が政令市に移行したことに伴い市に移管。以降、着々と工事が進められ、18年度には同駅高架駅第1期開業および新幹線と在来線の同一乗り換えホームが完成。2022年6月には在来線高架化が完了し、同月5日に全線高架化記念式典が行われた。06年の事業スタートから16年かかったが、関連工事は現在も続いており、駅舎内の商業施設は24年度、駅周辺整備は25年度の完了を目指している。 事業費は1500億円、周辺整備も含めると1750億円で、このうち市が400億円を負担しているというから、連続立体交差が一大プロジェクトであることがご理解いただけるだろう。 少ない東西の避難ルート 「連続立体交差」待望論が浮上する福島駅(東口) 福島駅西口  新潟駅に視察に行ったという福島商議所の事務局担当者も 「新幹線と在来線が同じレベルにあり、乗り換えがスムーズにできるほか、1階にバスターミナルやタクシープールが整備されるなど、雨や雪を凌げるのは雪国にとって便利なつくりだと感じました。市街地が線路に分断されず、一体感が醸成されている点も魅力でした」 と、連続立体交差がもたらす効果を実感したという。 「高架化による踏切渋滞の解消というと首都圏の駅や線路を思い浮かべますが、長野新幹線の開通に合わせて長野・富山・金沢の各駅でも連続立体交差が行われているので、地方でも実績は十分あります」(同) 実際、連続立体交差によりどんな効果が見込まれるのか。新潟市の資料によると①踏切2カ所の除去により遮断時間が2~3時間解消し、一時停止の損失時間も3~5時間解消、②新幹線と在来線の乗り換え移動時間が最大4・6分短縮し、計16㍍の上下移動も解消、③鉄道横断区間の移動時間が半分に短縮し、消防署からの5分間の到達圏域が12%拡大、④鉄道とバスの乗り換え移動時間が平均1・8分短縮、⑤同市の二酸化炭素排出量とガソリン使用量が大きく削減、⑥駅周辺で多くの民間ビルの建設や建て替えが進み、人口増と雇用創出が期待される――等々。 費用と年月はかかるが、その分の見返りも大きいことが分かる。ではこれを福島駅に置き換えるとどんな効果が考えられるのか。市内の経済人はこのように語る。 「基本的には新潟駅と同様の効果が見込まれますが、福島駅の場合は東西をつなぐ平和通りのあづま陸橋と県道庭坂福島線の陸橋(西町跨線橋)が築50年を迎え、架け替えの必要があります。この二つを多額の費用をかけて架け替えるなら、併せて同駅も高架化した方が費用対効果は高いと思われます」 線路によって遠く分断された東西口が一体化すれば、駅周辺の光景が劇的に変化するのは間違いないが、この経済人によると、連続立体交差は経済面だけでなく、防災面からも重要な役割を果たすという。 「福島駅周辺は東西を行き来するルートが少ない。同駅の地下には東西自由通路があるが狭く、東口の出入口は駅ビル(エスパル福島)内にあって分かりづらい。県外の人は出入口が見つからず、わざわざ入場券を買って改札口から行き来しなければならないのかと勘違いする人も多い。飯坂線の曽根田踏切は〝開かずの踏切〟として有名で、遮断機が上がると歩行者も自転車も車も一斉に渡り出すので非常に危険。同駅周辺にはアンダーパスもあるが、大雨時には冠水のリスクがある。2019年に福島市で東北絆まつりを開催した時、アンダーパスを封鎖し、来場者にはあづま陸橋と西町跨線橋を通って東西を行き来してもらったが『他にルートはないのか』と大ひんしゅくを買った経緯もあります」(同) こうした中で経済人が問題視するのが、同市のハザードマップだ。「吾妻山火山防災マップ」(2019年改訂版)を見ると、冬に大噴火が発生し融雪による火山泥流が押し寄せると、同駅西口の仁井田、八木田、須川町、方木田地区は浸水2㍍以上、笹木野、森合地区は同50㌢未満に達すると表示されているのだ。同じ西口の野田町や三河台地区は浸水を免れるため西口にも避難できる地域はあるが、いざ火山泥流が迫ってきたら遠くに(線路を跨いで東口側に)逃げようという心理が働くのが自然だろう。 「しかし、浸水するということは東西自由通路やアンダーパスは通れない可能性が高い。そうなると、駅周辺の人たちは曽根田踏切、あづま陸橋、西町跨線橋しか避難ルートがないわけです」(同) もし災害が発生し、何千もの人がこの限られた避難ルートに一斉に押し寄せたら、大パニックになることは容易に想像できる。 これは火山に限らず、大雨の場合でも同駅南側には荒川が流れていることから東西口どちらも50㌢から最大5㍍の浸水リスクがあり、東西自由通路やアンダーパスは水没の恐れがある。災害が頻発する昨今、東西の避難ルートが極めて少ないことは駅周辺に暮らす市民にとって不安要素となっているのだ。 「火山泥流や大雨は、現在の福島駅をも水没させる恐れがある。そうなれば交通や物流にも多大な影響が及ぶことになる。すなわち連続立体交差は、そういったリスクの解消にも役立つのです」(同) 二階氏から知事に指示 二階俊博前幹事長(自民党HPより) 内堀雅雄知事  前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会は設立から1年5カ月しか経っていないが、この間、活発な活動を展開している。同会発足前の2018年11月には、福島商議所中小企業振興委員会で新潟駅を視察。21年10月には一般市民や高校生を対象に東西の往来に関するアンケート調査を実施。2022年に入ってからは、1月に木幡浩市長に同駅連続立体交差の推進を陳情、3月に専門家を招いた講演会や福島商議所女性会を対象とした研修会を開催、4月には自民党国土強靭化推進本部と地方創生実行統合本部を訪ね、同駅連続立体交差に関する要望書を提出した。7月末には総会も開催予定だ。 地元経済界の事情通によると、同協議会が4月に自民党本部を訪ねた際にはサプライズも起きたという。 「同協議会の渡邊会長が国土強靭化推進本部長の二階俊博前幹事長に要望書を手渡すと、二階氏はおもむろに電話をかけ出した。驚いたことに電話の相手は内堀雅雄知事で、二階氏が内堀知事に『福島から地元の方々が連続立体交差の要望でお見えになっているので対応してほしい』と言うと、内堀知事は『分かりました』と応じたというのです。さらにそこには二階氏の側近で、地方創生実行統合本部長の林幹雄元経済産業大臣も同席していて、林氏も県幹部に電話し『すぐに計画を練って国に上げるように』と指示したそうだ」 自民党の中枢から内堀知事や県幹部に直接指示する光景を目の当たりにして、同協議会は実現に強い手ごたえを感じたはずだ。 事情通によると、2020年12月に福島市で平沢勝栄衆院議員(福島高卒)の復興大臣就任祝賀会を開いた際、平沢氏から同商議所幹部たちに「福島駅の連続立体交差を検討してはどうか」との誘いがあったという。ちょうど同商議所内で検討を始めたころで、平沢氏に全く相談していないタイミングでそのような打診を受けたため、真剣に検討するきっかけになったようだ。ちなみに、平沢氏は二階派所属。 誤解されては困るが、連続立体交差は有力国会議員がこぞって後押ししているからやろう、ということではない。同協議会が市民や高校生に行ったアンケートでは「鉄道が高架化した下を車や歩行者が自由に通行できるようになったらどう思うか」という質問に、市民の53%が「非常に良い」、32%が「良い」と回答、高校生も「非常に良い」25%、「良い」52%という結果が得られている。また自由記述欄も、費用負担への心配や駅前の魅力向上につながるのか疑問視する声が散見されたが、多くは歓迎の意見で占められていた。市民のニーズの高さも、実現に向けた原動力になっている。 とはいえ同協議会が自民党本部を訪ねてから3カ月以上経つが、駅前再開発事業の解体安全祈願祭は行われたものの、連続立体交差をめぐる具体的な動きは何一つ見られない。 「検討の予定はない」 【木幡浩】福島市長  前出・事情通によると、原因は木幡市長の消極姿勢にあるという。 「木幡市長は駅前再開発事業に専念したい考えで、連続立体交差には関心を示していません。2022年1月、同協議会が木幡市長に陳情した際も素っ気ない態度だったそうで、温厚で知られる渡邊会長が『ああいう態度は政治家としていかがなものか』と不快感を示したとか。木幡市長からは『一応検討します』という言葉さえなかったようです」 こうした状況を受け、同協議会関係者の間ではこんな見立てが浮上している。 「二階氏と林氏から内堀知事に指示があったものの、地元自治体の意向は無視できない。そこで、内堀知事が木幡市長に打診すると『駅前再開発事業に専念したい』と言われたため『地元市長にそう言われたら、県は手出しできない』と静観する構えになったようだ」 それを二人が話し合った場が、内堀知事が新型コロナウイルスに感染した「5月16日、福島市内での4人の会食」(地元紙報道)とのウワサまで出ている。ただ、確かに木幡市長も同時期、濃厚接触者になっているが、そのきっかけは「5月17日、福島市内での4人の会食」(同)と1日遅いのだ。 報道通りなら二人は異なる会食に参加していたことになるが、「福島市内」「4人」と状況が一致していたため「感染対策が行われた別々の会食に参加していたはずなのに、同時に感染者と濃厚接触者になるのは不自然だ」として「実際は同じ会食に参加していたのではないか」という説まで囁かれている。 「木幡市長は1984年に東大経済学部卒―自治省入省、内堀知事は86年に東大経済学部卒―自治省入省と、二人は全く同じルートを辿った先輩・後輩の間柄なのです。だから、木幡市長がノーと言えば内堀知事は逆らえない」(前出・事情通) そうなると、今度は内堀知事に直接電話をかけた二階氏の立つ瀬がない。このまま動きがなければ「オレの顔を潰す気か」と二階氏が激怒するのは必至。二階氏に「分かりました」と返事はしたものの、先輩の木幡市長から了承が得られない〝板挟み状態〟に、内堀知事は肝を冷やしているかもしれない。 同市都市計画課に同駅の連続立体交差を検討する考えがあるか尋ねると、担当者は次のように答えた。 「商工会議所を中心に設立された福島駅東西エリア一体化推進協議会で連続立体交差に関する協議を進めていることは承知しており、東西エリアの一体化が重要であることも認識しています。ただ、実現には費用と時間がかかり、市では公共施設の再編に向け駅前再開発事業に注力しているのが現状で、連続立体交差の具体的な検討は行っていません」 木幡市長にも連続立体交差への見解を聞くため取材を申し込んだところ、文書(7月22日付)で次のような回答が寄せられた。   ×  ×  ×  × ――福島駅の連続立体交差を検討する考えはあるか。 「2018年に策定した『風格ある県都を目指すまちづくり構想』では、公会堂や市民会館、消防本部など耐震性の不足する建物を再編統合も図りながら整備するとともに、その一環で整備するコンベンション施設は中心市街地活性化のため、駅前の再開発ビルに統合することとしました。これ以外の事業は中長期的課題とされ、整備コストなどの課題を踏まえ調査研究を続けるとしています。なお、福島駅連続立体交差事業はこの構想に含まれていません。 他都市の事例を参考にすると、連続立体交差事業はこれら以上の膨大な事業費(千数百億円規模)を要するうえに、20~30年の長期に及ぶ事業期間、JR各線と私鉄2線との複雑な軌道形状、既存のあづま陸橋や西町跨線橋の取り扱いなど課題が多いことから、市としては慎重な対応が必要と考えています。現時点で連続立体交差を検討していく予定はありません」 ――2022年1月、「福島駅東西エリア一体化推進協議会」が陳情を行った際、木幡市長の反応は鈍かったとのことですが。 「ご指摘の協議会から陳情を受けたことはありませんが、考え方は前述の通りです」 ――連続立体交差を行わないとするなら、吾妻山噴火など災害時における西口から東口への避難ルートはどのように確保していく考えか。 「災害時の各地域の避難ルートは2019年9月公表の『火山活動が活発化した場合の避難計画』の中に避難対象地域の主な避難ルートや指定避難所が示されています。地震などで東口と西口をつなぐあづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保し、迅速に市民への周知を図ります」 ――木幡市長が新型コロナの濃厚積極者になったのは、内堀知事と会食しながら連続立体交差に関する話し合いをしていたことがきっかけと聞いたが、事実か。 「すでに公表しているように、私が濃厚接触者となった会食は5月17日に行いました。『内堀知事と会食しながら連続立体交差について協議した』ということはありません」   ×  ×  ×  × やはり内堀知事との会食は否定したが、同協議会からの陳情を受けていないとか、避難ルートの確保に向けた施策がないなど、要領を得ない回答が目立った印象だ。  前出・市内の経済人は連続立体交差に無関心な木幡市長にこんな苦言を呈した。 「駅前再開発事業に専念したい気持ちは分かるが、市民の命を守る観点から言うと、連続立体交差を検討すらしない姿勢は疑問だ。そもそも火山泥流や水害で駅周辺に被害が及べば、駅前再開発事業にも多大な影響が及ぶ。492億円もの事業費を投じて東口だけを整備するなら、国の補助金を活用して西口も含めた駅一帯を整備した方が効果的だ。こうした提案をすると、県や市は口を揃えて『金がない』と言うが、金がないからやらないのではなく『面倒くさいからやりたくない』という風にしか見えない」 連続立体交差の実現は簡単ではないが、「市民の命を守る」ことを考えた時、木幡市長の「あづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保する」という発言は場当たり的で不安だ。 駅前再開発事業をめぐっては、ホテルや商業施設の詳細が明らかにならず、市が運営するホールに対しても「このつくりで大丈夫か」と心配する声が少なくない。既に走り出している計画を大きく変更するのは現実的ではないかもしれないが、連続立体交差を望む経済界と溝ができたまま建設―開業へと進む状況は、一大プロジェクトの姿として残念と言わなければならない。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 裏磐梯グランデコ経営譲渡の余波

     本誌昨年5月号に「裏磐梯グランデコ『身売り』の背景」という記事を掲載した。北塩原村の「グランデコスノーリゾート」、「裏磐梯グランデコ東急ホテル」を所有する東急不動産は、昨年4月までに両施設を譲渡する方針を決めた。その際、同社に「譲渡先はどこになるのか」と問い合わせたところ、「非公表ですが、日本国内でもスキー場等、事業展開している法人です。当社も過去に取引があり、信頼できる法人です」との回答だった。 【中国系企業】イデラ社が不動産の管理、ザ・コートがスキー場、ホテルの経営  ただ、本誌取材で「イデラキャピタルマネジメント(以下「イデラ社」と略)という会社が引き継ぐ」との情報を得たため、記事では新会社がどんな会社なのかをリポートした。イデラ社は中国の巨大複合企業「復星集団(フォースン・グループ)」の傘下で、役員は親会社(復星集団)の関係者と思われる中国人名が多い。同社が不動産の管理を行い、スキー場、ホテルの経営は、同社の100%子会社「The Court(ザ・コート)」が担う。  昨年7月1日付で東急不動産からイデラ社に施設が譲渡されたが、今年3月末までは東急不動産(実際の運営はグループ会社の東急リゾーツ&ステイ)が運営した。東急不動産がスキー場のラストシーズンの営業をしながら、新会社に引き継ぎをした格好。ちなみに同スキー場は、例年は4月も営業していたが、今年は3月末でクローズした。4月からは正式にイデラ社、ザ・コートの管理・運営体制になった。 そんな中、地元の観光業者から「東急リゾーツ&ステイ完全撤退のタイミングでリストラが始まっている」との情報が寄せられた。 以前、東急不動産に「譲渡後の地元採用の従業員の扱いはどうなるのか」と問い合わせたところ、同社からは「譲渡後も2023年3月まで今までと変わらず、当社グループにて運営を致します。その後に関しては、雇用が維持されるよう譲渡先とも協議し、努めてまいります」との回答だった。 地元住民も「地元採用の従業員は、希望者は新会社で引き続き雇用してもらえるようですし、運営会社が変わっても、地元にとってはそれほど影響はないと思います」と語っていた。しかし、実際は雇用が維持されない、といった情報が寄せられたのである。 ある関係者に確認したところ、従業員の入れ替わりがあるのはどうやら間違いなさそう。 「季節雇用のアルバイトについては、来シーズンも雇ってもらえると思うが、東急リゾーツ&ステイの正社員は、同社のほかの施設への異動辞令が出ているようだ。だから、『リストラ』というのはちょっと違うと思うが、異動する人もいれば、異動がイヤで辞める人もいる」 東急不動産に問い合わせたところ「人事のことですので詳細は控えますが、こちらに残られる方もおれば、新運営会社に移られることを希望する方もおられます。以前お伝えした方針は特に変わっておりません」とのこと。 一方、新会社(現地の責任者)にも問い合わせたが、コメントは得られていない。 そのほか、地元住民の中には、「新会社は中国国内の富裕層を誘客することが考えられ、今後、スタッフの中国人化が進むことも想定される。村内にそのコミュニティー(中国人ムラ)ができるのではないか」と懸念する声もある。 同村はバブル期にリゾート開発目的で「胡散臭い人」や「詐欺師まがいの人」が多数入ってきた。そんな過去もあって「よそ者」への警戒心が強い。だからこそ、そういう懸念の声が出てくるのだろうが、ひとまずは新会社がどういった経営をしていくのかを見守りたい。 譲渡後の新ホテル「EN RESORT Grandeco Hotel」は7月1日(土)グランドオープン 「EN RESORT Grandeco Hotel」のホームページ グランデコ・マウンテンリゾートのホームページ https://www.youtube.com/watch?v=xQM7piYeE9o EN RESORT Grandeco - SUMMER https://www.youtube.com/watch?v=4gTZKlo7oC4 EN RESORT Grandeco - FALL グランデコ・スノーリゾートのホームページ https://www.youtube.com/watch?v=s2D7boerQC8 EN RESORT Grandeco - WINTER あわせて読みたい 裏磐梯グランデコ「身売り」の背景 (2022年5月号) グランデコ売却先は本誌既報通りの「中国系企業」 (2023年1月号)

  • ゼビオ「本社移転」の波紋

     スポーツ用品販売大手ゼビオホールディングス(HD、郡山市、諸橋友良社長)は3月28日、中核子会社ゼビオの本社を郡山市から栃木県宇都宮市に移すと発表した。寝耳に水の決定に、地元経済界は雇用や税収などに与える影響を懸念するが、同市はノーコメントで平静を装う。本社移転を決めた背景には、品川萬里市長に対する同社の不信感があったとされるが、真相はどうなのか。(佐藤 仁) 信頼関係を築けなかった品川市長 品川萬里市長  郡山から宇都宮への本社移転が発表されたゼビオは、持ち株会社ゼビオHDが持つ「六つの中核子会社」のうちの1社だ。 別図にゼビオグループの構成を示す。スポーツ用品・用具・衣料を中心とした一般小売事業をメーンにスポーツマーケティング事業、商品開発事業、クレジットカード事業、ウェブサイト運営事業などを国内外で展開。連結企業数は33社に上る。  かつてはゼビオが旧東証一部上場会社だったが、2015年から純粋持ち株会社体制に移行。同社はスポーツ事業部門継承を目的に、会社分割で現在の経営体制に移行した。 法人登記簿によると、ゼビオ(郡山市朝日三丁目7―35)は1952年設立。資本金1億円。役員は代表取締役・諸橋友良、取締役・中村考昭、木庭寛史、石塚晃一、監査役・加藤則宏、菅野仁、向谷地正一の各氏。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。 「子会社の一つが移るだけ」「HDや管理部門のゼビオコーポレートなどは引き続き郡山にとどまる」などと楽観してはいけない。ゼビオHDはグループ全体で約900店舗を展開するが、ゼビオは「スーパースポーツゼビオ」「ゼビオスポーツエクスプレス」などの店名で約550店舗を運営。別表の決算を見ても分かるように、HDの売り上げの半分以上を占める。地元・郡山に与える影響は小さくない。 ゼビオHDの連結業績売上高経常利益2018年2345億9500万円113億8900万円2019年2316億2900万円67億2500万円2020年2253億1200万円58億4200万円2021年2024億3800万円43億4200万円2022年2232億8200万円78億5100万円※決算期は3月 ゼビオの業績売上高当期純利益2018年1457億6600万円54億1000万円2019年1380億2400万円21億7600万円2020年1291億7600万円19億5300万円2021年1124億6900万円12億8700万円2022年1282億1900万円6億2000万円※決算期は3月  郡山商工会議所の滝田康雄会頭に感想を求めると、次のようなコメントが返ってきた。 郡山商工会議所の滝田康雄会頭  「雇用や税収など多方面に影響が出るのではないか。他社の企業戦略に外野が口を挟むことは控えるが、とにかく残念だ。他方、普段からコミュニケーションを密にしていれば結果は違ったものになっていたかもしれず、そこは会議所も行政も反省すべきだと思う」 雇用の面では、純粋に雇用の場が少なくなり、転勤等による人材の流出が起きることが考えられる。 税収の面では、市に入る市民税、固定資産税、国民健康保険税、事業所税、都市計画税などが減る。その額は「ゼビオの申告書を見ないと分からないが、億単位になることは言うまでもない」(ある税理士)。 3月29日付の地元紙によると、本社移転は今年から来年にかけて完了させ、将来的には数百人規模で移る見通し。移転候補地には2014年に取得したJR宇都宮駅西口の土地(約1万平方㍍)が挙がっている。 それにしても、数ある都市の中からなぜ宇都宮だったのか。 ゼビオは2011年3月の震災・原発事故で国内外の企業との商談に支障が出たため、会津若松市にサテライトオフィスを構えた。しかし交通の便などの問題があり、同年5月に宇都宮駅近くに再移転した。 その後、同所も手狭になり、2013年12月に宇都宮市内のコジマ社屋に再移転。商品を買い付ける購買部門を置き、100人以上の体制を敷いた。マスコミは当時、「本社機能の一部移転」と報じた。 ただ、それから8年経った2021年7月、宇都宮オフィスは閉所。コロナ禍でウェブ会議などが急速に普及したことで同オフィスの役割は薄れ、もとの郡山本社と東京オフィスの体制に戻っていた。 このように、震災・原発事故を機にゼビオとの深い接点が生まれた宇都宮。しかし、それだけの理由で同社が40年以上本社を置く郡山から離れる決断をするとは思えない。 ある事情通は 「本社移転の背景には、ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった事情がある」  と指摘する。郡山では実現の見込みがない、とはどういう意味か。 農業試験場跡地に強い関心 脳神経疾患研究所が落札した旧農業試験場跡地  本社移転が発表された3月28日、ゼビオは宇都宮市と連携協定を締結。締結式では諸橋友良社長と佐藤栄一市長が固い握手を交わした。  ゼビオは同日付のプレスリリースで、宇都宮市と連携協定を締結した理由をこう説明している。  《宇都宮市は社会環境の変化に対応した「未来都市うつのみや」の実現に向け、効果的・効率的な行政サービスの提供に加え、多様な担い手が、それぞれの力や価値を最大限に発揮し合うことで、人口減少社会においても総合的に市民生活を支えることのできる公共的サービス基盤の確立を目指しています》《今回、宇都宮市の積極的な企業誘致・官民連携の取り組み方針を受け、ゼビオホールディングス株式会社の中核子会社であるゼビオ株式会社の本社及び必要機能の移転を宇都宮市に行っていく事などを通じて、産学官の協働・共創のもとスポーツが持つ多面的な価値をまちづくりに活かし、スポーツを通じた全世代のウェルビーイングの向上によって新たなビジネスモデルの創出を目指すこととなりました》  宇都宮市は産学官連携により2030年ごろのまちの姿として、ネットワーク型コンパクトシティを土台に地域共生社会(社会)、地域経済循環社会(経済)、脱炭素社会(環境)の「三つの社会」が人づくりの取り組みやデジタル技術の活用によって発展していく「スーパースマートシティ」の実現を目指している。  この取り組みがゼビオの目指す新たなビジネスモデルと合致したわけだが、単純な疑問として浮かぶのは、同社はこれから宇都宮でやろうとしていることを郡山で進める考えはなかったのか、ということだ。  実は、過去に進めようとしたフシがある。場所は、郡山市富田町の旧農業試験場跡地だ。  同跡地は県有地だが、郡山市が市街化調整区域に指定していたため、県の独断では開発できない場所だった。そこで、県は「市有地にしてはどうか」と同市に売却を持ちかけるも断られ、同市も「市有地と交換してほしい」と県に提案するも話がまとまらなかった経緯がある。  震災・原発事故後は敷地内に大規模な仮設住宅がつくられ、多くの避難者が避難生活を送った。しかし、避難者の退去後に仮設住宅は取り壊され、再び更地になっていた。  そんな場所に早くから関心を示していたのがゼビオだった。2010年ごろには同跡地だけでなく周辺の土地も使って、トレーニングセンターやグラウンド、研究施設などを備えた一体的なスポーツ施設を整備する構想が漏れ伝わった。  開発が進む気配がないまま年月を重ねていた同跡地に、ようやく動きがみられたのは2年前。総合南東北病院を運営する一般財団法人脳神経疾患研究所(郡山市、渡辺一夫理事長)が同跡地に移転・新築し、2024年4月に新病院を開業する方針が地元紙で報じられたのだ。  ただ、同跡地の入札は今後行われる予定なのに、既に落札者が決まっているかのような報道は多くの人に違和感を抱かせた。自民党県連の佐藤憲保県議(7期)が裏でサポートしているとのウワサも囁かれた(※佐藤県議は本誌の取材に「一切関与していない」と否定している)。 トップ同士のソリが合わず  その後、県が条件付き一般競争入札を行ったのは、報道から1年以上経った昨年11月。落札したのは脳神経疾患研究所を中心とする共同事業体だったため、デキレースという声が上がるのも無理はなかった。  ちなみに、県が設定した最低落札価格は39億4000万円、脳神経疾患研究所の落札額は倍の74億7600万円だが、この入札には他にも参加者がいた。ゼビオHDだ。  ゼビオHDは同跡地に、スポーツとリハビリを組み合わせた施設整備を考えていたとされる。しかし具体的な計画内容は、入札参加に当たり同社が県に提出した企画案を情報開示請求で確認したものの、すべて黒塗り(非開示)で分からなかった。入札額は51億5000万円で、脳神経疾患研究所の落札額より20億円以上安かった。  関心を持ち続けていた場所が他者の手に渡り、ゼビオHDは悔しさをにじませていたとされる。本誌はある経済人と市役所関係者からこんな話を聞いている。  「入札後、ゼビオの諸橋社長は主要な政財界人に、郡山市の後押しが一切なかったことに落胆と怒りの心境を打ち明けていたそうです。品川萬里市長に対しても強い不満を述べていたそうだ」(ある経済人)  「昨年12月、諸橋社長は市役所で品川市長と面談しているが、その時のやりとりが辛辣で互いに悪い印象を持ったそうです」(市役所関係者)  諸橋社長が「郡山市の後押し」を口にしたのはワケがある。入札からちょうど1年前の2021年11月、同市は郡山市医師会とともに、同跡地の早期売却を求める要望書を県に提出している。地元医師会と歩調を合わせたら、同市が脳神経疾患研究所を後押ししたと見られてもやむを得ない。実際、諸橋社長はそう受け止めたから「市が入札参加者の一方を応援するのはフェアじゃない」と不満に思ったのではないか。  ゼビオの本社移転を報じた福島民友(3月29日付)の記事にも《スポーツ振興などを巡って行政側と折り合いがつかない部分があったと指摘する声もあり、「事業を展開する上でより環境の整った宇都宮市を選択したのでは」とみる関係者もいる》などと書かれている。  つまり、前出・事情通が「ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった」と語っていたのは、落札できなかった同跡地での取り組みを指している。  「郡山市が非協力的で、品川市長ともソリが合わないとなれば『協力的な宇都宮でやるからもう結構』となるのは理解できる」(同)  そんな「見切りをつけられた」格好の品川市長は、ゼビオの本社移転に「企業の経営判断についてコメントすることは差し控える」との談話を公表しているが、これが市民や職員から「まるで他人事」と不評を買っている。ただ、このような冷淡なコメントが品川市長と諸橋社長の関係を物語っていると言われれば、なるほど合点がいく。 「後出しジャンケン」 ゼビオコーポレートが市に提案した開成山地区体育施設のイメージパース  ここまでゼビオを擁護するようなトーンで書いてきたが、批判的な意見も当然ある。とりわけ「それはあんまりだ」と言われているのが、開成山地区体育施設整備事業だ。  郡山市は、市営の宝来屋郡山総合体育館、HRS開成山陸上競技場、ヨーク開成山スタジアム、開成山弓道場(総面積15・6㌶)をPFI方式で改修する。PFIは民間事業者の資金やノウハウを生かして公共施設を整備・運営する制度。昨年、委託先となる事業者を公募型プロポーザル方式で募集し、ゼビオコーポレート(郡山市)を代表企業とするグループと陰山建設(同)のグループから応募があった。  郡山市は学識経験者ら6人を委員とする「開成山体育施設PFI事業者等選定審議会」を設置。審査を重ねた結果、昨年12月22日、ゼビオコーポレートのグループを優先交渉権者に決めた。同社から示された指定管理料を含む提案事業費は97億7800万円だった。  同グループは同審議会に示した企画案に基づき、今年度から来年度にかけて各施設の整備を進め、2025年度から順次供用開始する予定。  本誌は各施設がどのように整備されるのか、ゼビオコーポレートの企画案を情報開示請求で確認したが、9割以上が黒塗り(非開示)で分からなかった。  郡山市は今年3月6日、市議会3月定例会の審議・議決を経て、ゼビオグループがPFI事業を受託するため新たに設立した開成山クロスフィールド郡山(郡山市)と正式契約を交わした。指定管理も含む契約期間は2033年3月までの10年間。  それから約3週間後、突然、ゼビオの本社移転が発表されたから、市議会や経済界には不満の声が渦巻いている。  「正確に言えば、ゼビオは開成山体育施設整備事業とは無関係です。同事業を受託したのはゼビオコーポレートであり、契約相手は開成山クロスフィールド郡山です。しかし、今後10年間にわたる施設整備と管理運営は『ゼビオ』の看板を背負って行われる。市民はこの事業に携わる会社の正式名称までは分かっていない。分かっているのは『ゼビオ』ということだけ」(ある経済人)  この経済人によると、市議会や経済界の間では「市の一大プロジェクトを取っておいて、ここから出て行くなんてあんまりだ」「正式契約を交わしてから本社移転を発表するのは後出しジャンケン」「地元の大きな仕事は地元企業にやらせるべき。郡山を去る企業は相応しくない」等々、批判めいた意見が出ているという。  ゼビオからすると「当社は無関係で、受託したのは別会社」となるだろうが、同じ「ゼビオ」の看板を背負っている以上、市民が正確に理解するのは難しい。心情的には「それはあんまりだ」と思う方が自然だ。  そうした市民の心情に輪をかけているのが、事業に携わる地元企業の度合いだ。プロポーザルに参加した2グループに市内企業がどれくらい参加していたかを比較すると、優先交渉権者となったゼビオコーポレートのグループは、構成員4社のうち1社、協力企業5社のうち1社が市内企業だった。これに対し次点者だった陰山建設のグループは、構成員7社のうち4社、協力企業19社のうち15社が市内企業。後者の方が地元企業を意識的に参加させようとしていたことは明白だった。  だから尚更「地元企業の参加が少ない『ゼビオ』が受託した挙げ句、宇都宮に本社を移され、郡山は踏んだり蹴ったり」「品川市長はお人好しにも程がある」と批判の声が鳴り止まないのだ。 釈然としない空気 志翔会会長の大城宏之議員(5期)  加えて市議会3月定例会では、志翔会会長の大城宏之議員(5期)が代表質問で「事業者選定は総合評価としながら、次点者は企画提案力では(ゼビオを)上回っていたのに、価格が高かったため落選の憂き目に遭った」「優先交渉権者となったグループの構成員には(郡山総合体育館をホームとする地元プロバスケットボールチームの)運営会社が入っているが、公平性や利害関係の観点から、内閣府やスポーツ庁が示す指針に触れないのか」と指摘。市文化スポーツ部長が「優先交渉権者は審議会が基準に則って決定した」「グループの構成員に問題はない」と答弁する一幕もあった。  確かに採点結果を見ると、技術提案の審査ではゼビオコーポレートグループ520・93点、陰山建設グループ528・69点で後者が7・76点上回った。ところが価格審査ではゼビオグループが97億7800万円で300点、陰山グループが101億2000万円で289・86点と前者が10・14点上回り、合計点でゼビオグループが勝利しているのだ。  また、ゼビオグループの側に地元プロバスケの運営会社が参加していることも、他地域の体育施設に関するPFI事業では、利害関係が生じる恐れのあるスポーツチームは受託者から除外され、スポーツ庁の指針などでも行政のパートナーとして協力するのが望ましいとされていることから「一方のグループへの関与が深過ぎる」との指摘があった。  こうした状況を大城議員は「問題なかったのか」と再確認したわけだが、本誌は審査に不正があったとは思っていない。大城議員もそうは考えていないだろう。ただ地元企業が多く参加するグループが、企画提案力では優れていたのに価格で負けた挙げ句、有権交渉権者になった「ゼビオ」が正式契約直後に本社移転を発表したので、釈然としない空気になっているのは事実だ。  次点者のグループに参加した地元企業に取材を申し込んだところ、唯一、1人の方が匿名を条件に「もし審査の過程で『ゼビオ』の本社移転が分かっていたら、地元企業優遇の観点から結果は違っていたかもしれない。そう思うと複雑な気持ちだ」とだけ話してくれた。  旧農業試験場跡地の入札で辛酸を舐めたと思ったら、開成山体育施設整備事業のプロポーザルでは槍玉に挙げられたゼビオ。大きな事業に関われば嫌でも注目されるし、賛成・応援してもらうこともあれば反対・批判されることもある。そんな渦中に、同社は今まさにいる。  ゼビオの本社移転について取材を申し込むと、ゼビオコーポレートの田村健志氏(コーポレート室長)が応じてくれた。以下、紙面と口頭でのやりとりを織り交ぜながら記す。    ×  ×  ×  ×  ――本社移転のスケジュールは。  「現時点で移転日は決まっていないが、今後、場所や規模を含め、社員の就労環境に配慮しながら具体的な移転作業に着手する予定です」  ――社員の移転規模は。  「ゼビオは社員約700人、パート・アルバイト約3300人です。ゼビオグループ全体では社員約2600人、パート・アルバイト約5400人です。宇都宮に移転するのはあくまでゼビオであり、ゼビオコーポレートやゼビオカードなど郡山本社に勤務するグループ会社社員の雇用は守る考えです。ゼビオについても全員の異動ではなく、地域に根ざしている社員の雇用を守りながら経営していきます」  ――数ある都市の中から宇都宮を選んだ理由は。  「震災以降、宇都宮市をはじめ約70の自治体からお誘いを受けた。私たちゼビオグループは未来に向けた会社経営を行っていくに際し、自治体を含めた産学官の連携が必須と考えている。そうした中で今年2月に話し合いが始まり、当グループの取り組みについて宇都宮市が快く引き受けてくださったことから本社移転を決断した」  ――ゼビオにとって宇都宮は魅力的な都市だった、と。  「人口減少や少子高齢化などかつてない社会構造の変化を迎えている中、まちづくりとスポーツを連動させ、地域の子どもから高齢者まで誰もが夢や希望の叶う『スーパースマートシティ』の実現に向け、宇都宮市が円滑な対話姿勢を持っていたことは非常に魅力的でした」  ――逆に言うと、郡山ではスポーツを通じたまちづくりはできない? 「先に述べた通りです」 逃した魚は大きい 郡山市朝日にあるゼビオ本社  ――ゼビオHDは旧農業試験場跡地の入札に参加したが次点でした。ここで行いたかった事業を宇都宮で実現する考えはあるのか。  「同跡地でも同様に産学官連携によるスポーツを通じたまちづくりを構想していました。正直、同跡地で実現したい思いはありました。ただゼビオHDは上場会社なので、適正価格で入札に臨むしかなかった。民間企業はスピード感が求められるので、宇都宮市からのお声がけを生かすことにしました」  ――同跡地をめぐって行政とはこの間、どんなやりとりを?  「郡山市には私たちの考え・思いを定期的に伝えてきた。県とは、知事とお会いすることは叶わなかったが、副知事には私たちの考え・思いを話しています」  ――ゼビオグループは開成山体育施設の整備と管理運営を、郡山市から10年間にわたり受託したが、同事業の正式契約後にゼビオの本社移転が発表されたため、市議会や市役所内からは「後出しジャンケン」と批判的な声が上がっている。  「これは私見になるが『後出しジャンケン』ということは、本来、公平・公正に行われるはずの入札が、ゼビオが郡山市に本社を置いていれば何らかの配慮や忖度が働いた可能性があったと受け取ることもできるが、いかがでしょうか」    ×  ×  ×  ×  ゼビオの宇都宮への本社移転は、将来を見据えた企業戦略の一環だったことが分かる。また、移転先のソフト・ハードを含めた環境と、パートナーとなる自治体との信頼関係を重視した様子もうかがえる。  これは裏を返せば、ゼビオにとって郡山市は▽子どもの部活動や高齢者の健康づくりにも関わるスポーツを通じたまちづくりへの考えが希薄で、▽環境(旧農業試験場跡地)を用意することもなく、▽品川市長も理解に乏しかったため信頼関係が築けなかった――と捉えることができるのではないか。  「釣った魚に餌をやらない」ではないが、地元を代表する企業とのコミュニケーションを疎かにしてきた結果、「逃がした魚は大きかった」と後悔しているのが、郡山市・品川市長の今の姿と言える。 あわせて読みたい 南東北病院「移転」にゼビオが横やり 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

  • 【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲

     震災・原発事故、コロナ禍、2年連続で発生した福島県沖地震により、相馬市の企業は深刻なダメージを受けている。そうした中、被災しながらも高品質な商品づくりに努め、全国最高賞を受賞した醤油醸造業者がある。(志賀) 災害乗り越えて全国最高賞受賞 山形屋商店  醤油メーカーの業界団体・日本醤油協会では毎年、全国の醤油を種類別に評価する「全国醤油品評会」を開催している。この品評会で昨年9月末、相馬市の醸造業者・合資会社山形屋商店の商品が、最高賞の「農林水産大臣賞」を受賞した。  同社が一気に脚光を浴びるようになったのは、今回受賞した醤油が、県内ではあまり知られていない淡口醤油だったためだ。穏やかな味わいで、食材の持ち味を引き出すため、精進料理、京料理、懐石料理などに使われる。ただ、味や香りを加える濃口醤油と比べると評価しづらい面があり、過去6年間、淡口醤油から最高賞は出ていなかった。加えて北海道・東北地方では淡口醤油を使う食文化が極端に少なく、過去に淡口醤油で最高賞を受賞した県内醸造業者は一つもなかった。 同社が出品した「ヤマブンうすくち醤油」は食欲をそそる豊かな香り、美しい色と艶、まろやかな甘みと旨み、後味の良い風味と、バランスが優れている点が高く評価されたという。見事、醤油の世界で〝白河の関越え〟を果たした格好だ。 同社は過去、主力商品の濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」でも4度にわたり最高賞を受賞しており、県内最多の受賞歴を誇る醸造業者となった。 「品評会に出品するのは全国展開している大手・中堅メーカーで、うちみたいな零細の醸造業者には縁がない世界だと思っていました」 こう笑うのは同社代表社員で5代目店主の渡辺和夫さん(53)だ。 最高賞を受賞した「ヤマブンうすくち醤油」を掲げる渡辺和夫さん  同社は1863(文久3)年創業で、米麹、味噌、醤油などを扱ってきた。もともと大東銀行の行員だった渡辺さんは、2001年に婿入りしたのを機に同社に入社。義理の父である先代店主・正雄さんのもとで、10年にわたり修行を積んでいた。そうした中で遭遇したのが2011年の震災・原発事故だ。 ガラス瓶に詰められた出荷前の醤油1500本がすべて落下し、タンクの中身もこぼれて、床は黒く染まった。翌日以降片付けに追われ、工場は配管の組み直しを余儀なくされた。原発事故発生直後には従業員を避難させ、家族だけが残って工場内を片付けしながら、店を訪れた人に食べ物などを分けた。 1カ月後、避難先から従業員が戻って来たのに合わせて生産・販売を再開したが、放射能汚染を心配する声は大きく、地元旅館や料理店との取引は一時ストップとなった。しばらくすると「ヤマブンの醤油じゃないと料理の味が決まらない」と取引が復活したが、県外企業との取引はそのまま消滅した。 2012年には、福島第一原発敷地内の配管から汚染水12㌧が海洋に漏れていたことが発覚。福島県産品への不安が一気に高まった。さらに同年には先代店主・正雄さんが亡くなり、渡辺さんが5代目店主となった。普通なら次の一手をどう打つべきか迷いそうなところだが、渡辺さんはひたすら商品の品質向上に向けた取り組みに挑戦した。 「二本松市の福島県醤油醸造協同組合から『いまこそ品質向上に取り組むべき。勉強会を開いて品評会で最高賞を目指しましょう』とお声がけいただき、震災・原発事故から半年後の2011年10月26日、勉強会(福島県醤油出品評価会)に参加しました。勉強会のモデルになったのは県清酒組合が立ち上げた『県酒造アカデミー』です。県ハイテクプラザ研究員の指導のもと、酒蔵のレベルアップ、知識・技術の共有に成功し、『全国新酒鑑評会』で多くの金賞を受賞するようになりました(その後、都道府県別金賞受賞数で史上初の9回連続日本一を達成)。それを参考に、醤油業界でも醸造業者、同組合、ハイテクプラザの3者によるレベルアップを図ったのです」 勉強会で製造方法を研究 福島県醤油醸造協同組合 勉強会の様子(同組合提供)  勉強会に集まったのは18業者の経営者・役員・技術者など。渡辺さん同様、比較的若い世代が多かった。品評会で上位に入った醤油を集め、商品の原材料を比較しながら、利き味(色・香りの確認)をした。ハイテクプラザの主任研究員が成分を分析・数値化し、それを基に上位入賞醤油の色、香り、味、風味などについて仲間とともに議論を交わした。 本来、醤油蔵にとって醤油の製造方法は〝門外不出〟。同業者同士の情報交換などもってのほかだが、県内では醸造業者が古くから連携してきた経緯があった。 醤油の工程は以下の5つに分けられる。 ①原料処理(蒸した大豆と、炒って粉砕した小麦に、麹菌を植え付ける) ②麹造り(温度や湿度を変えながら麹菌を育て、醤油麹をつくる) ③諸味造り(食塩水を加えた「諸味」をつくり、半年かけて発酵させる) ④圧搾(熟成した諸味を搾り、醤油の元となる「生揚げ」をつくる) ⑤火入れ(生揚げに熱を加えて発酵を止め、醤油の色・味・香り・風味を決める) 実は、県内の醤油醸造業者ではこの5工程のすべてをやっているわけではない。①~④までを醸造業者の共同出資で設立された福島県醤油醸造協同組合が一手に担い、でき上がった生揚げを配送し、各業者は醤油づくりの生命線である⑤火入れに集中できる体制となっているのだ。 資本投下が大きく技術力が求められる生揚げの製造を1カ所で行うことで、各業者の負担を減らし、品質向上にもつなげる狙いがある(一方で、すべての工程を自社内で行っている県内醸造業者もある)。 同組合は1964(昭和39)年に設立されたが、福島県で最初に始まったこの仕組みは「生産協業化方式」と呼ばれ、その後、各地に広まっていった。 こうした経緯があったからこそ、震災・原発事故という危機に直面した際、自然と一致団結する機運が高まったのかもしれない。 同組合の工場長で、勉強会の呼びかけ人である紅林孝幸さん(52、農学博士)は「震災・原発事故直後、県内の多数の酒蔵が全国新酒鑑評会で金賞を取っているのを見て感銘を受けました。危機に直面しているいまこそ醤油業界も一つになり、チャンピオンを目指していかなければならないと考え、組合員に勉強会開催を呼びかけました」と振り返る。 紅林孝幸さん  勉強会は品評会直前の5月と直後の10月下旬の年2回、定期的に開催されるようになった。渡辺さんは参加するうちに「福島県の醤油が日本一の安心安全な品質であることを示したい」と考えるようになり、勉強会で学んだ成果を持ち帰っては、伝統の製法に生かす方法を模索した。 地道な取り組みが実を結び、2013年の品評会に出品した濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」は最高賞に選ばれた。同商品は以後14、16、17年にわたり、農林水産大臣賞を獲得した。 こうして高い評価を得た同社の醤油だが、その後前述の通り、ハードルが高い淡口醤油で品評会に挑戦することになった。なぜあえて評価されにくい商品を出品したのか。 その理由を渡辺さんは「昨年3月16日に発生した福島県沖地震がきっかけだった」と明かす。 福島県沖地震で相馬市は震度6強の揺れに見舞われ、多くの企業や住宅が被害を受けた。今年2月時点での公費解体の申請数は1162棟。公共施設の復旧事業は現在も進められている。同社の醸造工場も全壊判定となり、醤油を製造する機械や配管が損傷した。一昨年2月の地震で被害を受け、復旧工事中だっただけに渡辺さんのショックは大きかった。 一時は廃業も覚悟したが、このときも地元飲食店などから「ヤマブンの醤油がなくなると困る。続けてほしい」と温かい言葉をかけられた。勇気づけられた渡辺さんは、雨漏りなどの応急処置を自分たちで行い、「納品を遅れさせてはならない」と復旧作業に全力を注いだ。 4月26日、機械や配管が復旧し、ようやく製造を再開できた。最初に火入れしたのは、そのときたまたま在庫が少なかった淡口醤油だった。 香りとうまみをより引き出すため、普段より火入れの温度を1・3度高く設定した。自信作だったが、地震直後だっただけに、品質の高い醤油ができているか不安だった。そこに、品評会への出品案内が届いた。せっかくなら、品評会の審査員36人全員の評価を聞きたいと考えた。 事前に同組合の紅林さんに相談して利き味をお願いしたところ、「とても良い」と太鼓判を押された。それならばと出品したところ、9月30日の授賞式で最高賞受賞が発表された。 レベルの高さを証明  渡辺さんは、受賞は「チーム福島」の力であることを強調する。 「醸造業者、醸造組合、県ハイテクプラザの『チーム福島』で品質向上に取り組んできた結果だと捉えています。福島県の醤油が日本酒に負けないぐらい高いレベルであることを証明できたのが何よりうれしい。受賞を重ね、いまも続く風評被害の払拭につながっていくことを期待しています」 実は、昨年の品評会では、県醤油醸造協同組合が製造する「香味しょうゆ」も「こいくちしょうゆ」部門で農林水産大臣賞を受賞した。 同組合では、各醸造業者に代わって、難易度が高かったり組合員の負担が大きい商品を製造してきたが、今回受賞した商品は新たに開発した商品だった。 というのも、前出・紅林さんは、渡辺さんら醸造業者関係者とともに勉強会を続ける中でおいしい醤油づくりに関する〝仮説〟を立てていた。 「これまで品評会で上位に入った醤油の傾向を見ていると、『減塩志向が強まっており、マイルドでまろやかな味わいが受け入れられやすい』、『香りが長持ちする醤油が高く評価される』といった法則性が見えてきた。これらを実現した醤油を作れば品評会で上位に入るのではないかと考えました」 醸造業者にはそれぞれの伝統があるので、いきなり製法を変えるわけにはいかない。そこで、仮説を実証する意味で、これまでのテイストを変えた濃口醤油の新商品を製造し、品評会に出品したところ、山形屋商店と並んで「日本一の醤油」の評価をもらった。 品評会授賞式と併せて行われたトークショーでは、一般社団法人日本たまごかけごはん研究所の上野貴史代表理事が「最高賞受賞5商品のうち、『香味しょうゆ』が一番卵かけごはんに合う」と評価したほど。震災・原発事故直後から続けてきた勉強会の方向性が間違っていないことを証明する形となった。 商品のレベルの高さを証明した山形屋商店は、醤油の魅力を広める活動にも積極的に取り組んでいる。 最近では、福島・宮城両県の港町の醸造蔵7社と宮城学院女子大(宮城県仙台市)による共同企画「港町のしょうゆ屋」プロジェクトに参加した。マグロやイカ、ヒラメなど港町でよく食べられている海産物に合う醤油を開発し、共通ボトルで販売するというもので、同大現代ビジネス学部の石原慎士教授が呼びかけて3月11日に販売が開始となった。 同プロジェクトの代表を務める渡辺さんはプロジェクトの狙いを「港町によって水揚げされる海産物の種類は違うし、醸造業者は地元の食文化に合わせて味を変えている。魚食文化を支える〝地醤油〟にスポットライトを当て商品化しようというものです」と話す。 いわきのメヒカリは濃厚なだし醤油、マグロは木桶で作った本格的な丸大豆醤油、イカはさっぱりした昆布醤油で味わう。同社は「『ヒラメ』に合ううまさを引き出すしょうゆ」として前出の「ヤマブンうすくち醤油」を提案した。「ヒラメは白身魚でさっぱりして歯ごたえがある。繊細な旨味と甘味を淡口醤油が引き出してくれます」(渡辺さん)。 こうして聞くと、港町の食堂で提供される「刺身定食」、「煮魚定食」は、その場所ごとに違う味が楽しめるメニューということが分かる。 もっと言えば、全国には1100もの醤油醸造業者があり、作られる醤油にはそれぞれ特徴がある。料理本のレシピなどに「醤油大さじ1杯」などと書いてあっても、使う醤油が異なれば料理の仕上がりは全く違うかもしれない。そういう意味で醤油は奥深い調味料であり、日本の食文化を象徴する存在といえよう。 海洋放出への懸念  頻繁に地震被害を受ける中で、新たな社屋建設計画はあるのか尋ねると、渡辺さんは「福島県沖地震と同じ規模の地震が再び発生するとも報道されていますが、コロナ禍ということもあって、現在の場所に数千万円かけて新しい工場を建てる考えも余裕もありません。直しながらやれるだけやっていこうと腹をくくっています」と答えた。 「県内の醤油出荷量はいまも震災前の半分に落ち込んでいます。他県でこうした動きは確認されていないので、やはり風評被害の影響ということでしょう。だからこそ、高品質な醤油をつくり続け、少しでも多くの人に届けていきたいと考えています」 そのうえで心配なのが、ALPS処理水の海洋放出の行方だという。 「福島第一原発の敷地内からALPS処理水が海洋放出されれば、うちのような港町の醤油醸造業者はさらに打撃を受ける。福島県の漁業者はこれまで試験操業を余儀なくされ、水揚げ量は震災前の2割程度に過ぎない。少しずつ魚価が上がってきており、ようやく本格操業というタイミングで海洋放出が行われれば回復基調が落ち込むでしょう。漁業者の立場に寄り添うということであれば、(海洋放出ではなく)別の方法を検討すべきではないかと思います」 政府・東電は今春から今夏にかけて海洋放出を実施する方針を示し、着々と準備を進めているが、浜通りの魚食文化を支える水産業の〝関係者〟から、こうした声が上がっていることを認識すべきだ。 災害で幾度も苦境に立たされながら、その都度立ち上がり、港町の食文化を支え続けている山形屋商店。今後も「チーム福島」での醤油づくを継続し〝醸造王国ふくしま〟の存在を示し続ける。渡辺さんの挑戦は始まったばかりだ。 農林水産大臣賞を受賞したヤマブンの本醸造特選醤油を購入する

  • 【芦ノ牧温泉】丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

     先月号に「丸峰観光ホテル『民事再生』を阻む諸課題」という記事を掲載したところ、それを読んだ元従業員たちが、在職中に目撃した星保洋社長の杜撰な経営を明かしてくれた。元従業員たちは「あんな社長のもとでは自主再建なんて絶対無理」と断言する。 スポンサー不在の民事再生に憤る元従業員 再建を目指す丸峰観光ホテル  会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵が福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは2月26日。負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 両社の経営状態が分かる資料は少ないが、東京商工リサーチ発行『東商信用録福島県版』に別表の決算が載っていた。もっとも、その数値もコロナ禍前のものだから、現在は更に厳しい売り上げ・損益になっているのは間違いない。 丸峰観光ホテルの業績売上高利益2012年15億4700万円1億1000万円2013年14億3100万円14万円2014年14億9400万円190万円2015年8億8500万円980万円2016年9億7300万円5200万円 丸峰庵の業績売上高利益2013年4億0800万円16万円2014年5億0700万円▲1800万円※決算期は両社とも3月。▲は赤字。  両社の社長を務める星保洋氏は、3月に開いた債権者説明会で自主再建を目指す方針を明らかにした。債権者が注目していたスポンサーについては「今後の状況によっては(スポンサーから)支援を受けることも検討する」と説明。スポンサー不在で再建を進めようとする星社長のやり方に、多くの債権者が首を傾げていた。 先代社長で女将の星弘子氏(保洋氏の母、故人)にかつて世話になったという元従業員はこう話す。 「丸峰観光ホテルは最盛期、土日のみで年13億円を売り上げていた。あの施設規模だと損益分岐点は10億円。しかし、稼働率は震災・原発事故や新型コロナもあり低調で、現在は少しずつ回復しているとしても2022年3月期決算は売上高5億円台、最終赤字2億円超というから、スポンサー不在で再建できるとは思えない。それでも自主再建を目指すというなら、トップが代わらないと無理でしょう」 このように、社長交代の必要性を指摘する元従業員だが、 「ただ、私は丸峰を辞めてからだいぶ経つので、現社長の経営手腕はウワサで聞くことはあっても、実際に見たわけではない」(同) ならば、会社が傾いていく経過を間近で見ていた元従業員は、星社長の経営手腕をどう評価するのか。 ここからは、先月号の記事を読んで「ぜひ星社長の真の姿を知ってほしい。そして、この人のもとでは自主再建は絶対無理ということを分かってほしい」と情報を寄せてくれたAさんとBさんの証言を紹介する。ちなみに、ふたりの性別、在職時の勤務先、退職日等々を書いてしまうと、誰が話しているのか特定される恐れがあるため、ここでは触れないことをご了承いただきたい。 まず驚かされたのが星社長の金銭感覚だ。少ない月で20~30万円、多い月には100万円以上の個人的支出を「これ、処理しておいて」と経理に回していたという。 一体何に浪費していたのか、その一部は後述するが、 「要するに、会社の財布を自分の財布のように使っていた」(Aさん) そのくせ、取引先への支払いは後回しにすることが多く、口うるさい取引先には10日遅れ、物分かりがいい取引先には1、2カ月遅れで支払うこともザラだった。 「そういうことをしておいて、自分はレクサスを乗り回し、飲み屋に出入りしていた。取引先はそんな星社長の姿を見て『贅沢する余裕があるならオレたちに払えよ!』といつも怒っていた」(Bさん) ふたりによると、星社長は滞っている支払いをめぐり、どこを優先するかを決める会議まで開いていたというから呆れるしかない。 「こういう無駄な会議が、本来やるべき業務の妨げになっていることを星社長は分かっていない」(同) 従業員に対しても、会社のために立て替え払いをしても数百円、1000円の精算にさえ応じないケチっぷりだった。 AさんとBさんが口を揃えて言うのは「本業に注力していれば傾くことはなかった」ということだ。本業とは、言うまでもなく丸峰観光ホテルを指す。ならば経営悪化の要因は丸峰庵が手掛ける「丸峰黒糖まんじゅう」にあったということか。 「黒糖まんじゅうは、利益は薄かったかもしれないが現金収入として会社に入っていたし、お土産として需要があったという点では本業とリンクしていたと思う」(Aさん) 問題は、丸峰庵が行っていた飲食店経営にあった。 前出・かつての従業員によると、そもそも飲食店経営に乗り出したのは星弘子氏が健在のころ、保洋氏の妻が姑との関係に悩み、夫婦で一時期、会津若松市から郡山市に引っ越したことがきっかけという。保洋氏からすると、妻のことを思って弘子氏と距離を置く一方、ホテル経営で実績を上げる母を見返すため、別事業で成果を出したい思惑もあったのかもしれない。 報道等によると、飲食店経営は2006年ごろから参入し、もともとは「丸峰観光ホテルの外食事業」としてスタート。しかし、2014年にホテル経営に注力するため、まんじゅう製造・販売事業と併せて丸峰庵に移管した。 現在、丸峰庵が経営しているのはJR郡山駅のエキナカに並んでいる蕎麦店と中華料理店、同駅前に立地するダイワロイネットホテルの飲食テナント(1階)に入っている、エキナカよりグレードの高い蕎麦店。 「それ以外に郡山駅西口の陣屋では居酒屋とバーを経営している。大町にもかつて居酒屋を出したことがある」(Aさん) そのほか東京都内にも飲食店を構えたことがあったが「3年程前に撤退し、今は都内にはない」(同)。 店を出すのが「趣味」 丸峰庵  これらの飲食店が繁盛し、グループ全体の売り上げを押し上げていればよかったが、現実は本業の足を引っ張るお荷物になっていたという。 「駅前は人が来ないのに家賃が高い。そんな場所に、会社にとって中心的な店を三つも出している時点で厳しい。都内から撤退したのは正解でしたが」(同) そんな甘い出店戦略もさることながら、従業員の目には星社長の経営感覚も違和感だらけに映った。 「ちゃんとリサーチして出店しているのかな、と思うことばかりだった。例えば、大町の立地条件が悪い場所に『知り合いから紹介された』と中華料理店を出したが、案の定、客が入らず閉店した。すると、今度は同じ場所でしゃぶしゃぶ店をやると言い出し、店内を改装してオープンしたが、こちらも数カ月で閉店してしまった」(Bさん) さらに問題なのは、▽閉店後に完全撤退するのではなく「また店を出すかもしれない」と無駄な家賃を支払い続けた、▽出店に当たり他店から料理人等を引き抜いてきたのに、すぐに閉店させたことで行き場を失わせた、▽店が営業中、経営が厳しいと理解しているのに対策を練らない――等々、先を見据えている様子が一切見られないことだった。 「要するに、星社長にとっては店を出すことが目的なので、オープンしたら途端に興味を失うのです。もし店を出すことが手段なら、客を増やすにはどうしたらいいか真剣に考えるはず。しかし、星社長は『今月は〇〇円の赤字です』と報告を受けても全く焦らないし悩まない」(同) 星社長にとっては、店を出すことが「趣味」なのかもしれない。そうなると、飲食店事業で儲けようという考えは出てこないだろう。 「出店に当たっては、厨房機器等をネット通販で勝手に買い、会社に払わせていた。普通はリースやまとめ買いで揃えると思うが、与信が通らないから個人で揃えるしかなかったのでしょう」(同) 前述・会社に支払わせていた個人的支出の一部は、ネット通販で購入した厨房機器等とみられる。 AさんとBさんは「もし飲食店経営をするなら計画的に出店し、店舗数を絞ればグループ全体に寄与したのではないか」とも話す。ところが現状は、星社長による無計画な出店が足を引っ張り、従業員の間に軋轢を起こしていたと指摘する。 「ホテルやまんじゅう製造・販売に関わる従業員は『儲からない飲食店のおかげでオレたちが稼いだ利益が食われている』と不満に思っていた。飲食店経営に関わる従業員はそれをよく理解していたが、出店が趣味の星社長は意に介さないし、忠告する幹部社員もいない」(Bさん) 「かつては苦言を呈する幹部社員もいたが、星社長が聞く耳を持たないため嫌気を差して辞めていった。今いる幹部社員は星社長のイエスマンばかり」(Aさん) 星弘子氏が健在のころは強いブレーキ役を果たしていたが、2019年に弘子氏が亡くなったのを境にタガが外れ、本業から飲食店経営への資金流出が起こっていた可能性も考えられる。 こうした状況を招いた経営者が民事再生法の適用を申請し、スポンサー不在のまま自主再建を目指すと言い出したから、AさんとBさんは既に退職した立場だが「債権者に失礼だし、従業員も気の毒」として、星社長の真の姿を伝えるべきと決心したという。ふたりとも「そういう経営者のもとで自主再建を目指そうなんてとんでもない」と憤りが収まらなかったわけ。 AさんとBさんは、最後にこのように語った。 「SNSで『大好きなホテルなので残念』『再建できるよう応援しています』とのコメントを見かけたが、それは従業員がお客さんに真摯な接客をしたから言われているのであって、星社長を応援しているわけではないことを理解してほしい。私たちは、スポンサーがつくなどして新しい経営者のもとで再建を目指すなら応援するが、星社長が主導する再建は賛成できない」 難しい自主再建 渓谷美の宿 川音(HPより)  丸峰観光ホテルは現在も予約を受け付けるなど、傍目には平時と変わらない営業を続けているという。しかし、三つある施設のうち「渓谷美の宿 川音」は古代檜の湯が工事中で男女ともに営業停止。「レストランあいづ五桜」も設備メンテナンスのため休業している。どちらも再開日は未定だ。 このほか二つの施設「丸峰本館」「離れ山翠」のうち、本館も休館中との話もあり、営業しているのは離れ山翠だけとみられる。客が入らないのに巨大な施設を稼働させても経費の無駄なので、経営資源を集中させるという意味では正解と言える。 ただ、本誌には4月中旬に起きた出来事として「その日は給料日だったが振り込まれず、従業員がホテルに詰めかける騒動があった」「給料は支払われたが、3月は手渡し、4月は振り込みだったらしい」との話も寄せられており、これが事実なら星社長は当面の資金繰りに窮していることが考えられる。 今後注目されるのは、これから債権者に示されることになる再生計画の中身だ。以下は『民事再生申立ての実務』(東京弁護士会倒産法部編、ぎょうせい発行)に基づいて書き進める。 民事再生申し立てに当たり、再生債務者(丸峰観光ホテルと丸峰庵)は裁判所や監督委員から、申し立て前1年間の資金繰り実績表と、申し立て後半年間の資金繰り予定表の提出を求められる。資金繰りができなければ再生計画の策定・認可を待つことなく事業停止に追い込まれるため、再生債務者にとって資金繰り対策は極めて重要になる。 再生債務者は「申し立てによる相殺」や「申し立て前の差し押さえ」といった難を逃れて確保できた資金をもとに資金計画を立てる。ここで重要なのは、入金・出金の確度を高めることができるかどうかだ。関係者に協力を仰ぎ、既発生の売掛金・未収金・貸付金などの回収を進め、将来発生する売掛金の入金見込みを立てると同時に、支払い条件を一定のルールに基づき決定し、支出の見込みも立てる。併せて棚卸や無担保資産の早期処分を適宜行う。 問題は、星社長がこのような資金繰りのメドをつけられるかどうかだが、前述した個人的支出、取引先への支払い遅延、給料遅配、さらに飲食店事業をめぐっては家賃滞納のウワサも囁かれる中、取引先・債権者から資金繰りの理解と協力が得られるかは疑問だ。 メーンバンクの会津商工信組も、民事再生申し立て前に「思うように再建が進まない」と嘆いていたというし、前出・AさんとBさんも「星社長は他人の意見を聞かない」というから、自主再建が見込める資金計画が立てられるとは考えにくい。 だからこそ、スポンサーの存在が重要になるのだ。スポンサーがつけば信用が補完され、再生債務者の事業価値の毀損(信用不安・資金不足による取引先との取引中止、従業員の退職、顧客離れなど)が最小限に抑えられる。スポンサーによる確実な事業再生が見込まれ、申し立ての前後からスポンサーの人的・資金的協力も得られる。 スポンサー不在の違和感  全国を見渡しても、鳥取県・皆生温泉の老舗旅館「白扇」は負債16億円を抱えて4月7日に民事再生法の適用を申請したが、同日付で地元の食肉加工会社がスポンサーにつくことが発表された。昨年3月に負債11億円で同法適用を申請した山梨県・湯村温泉の「湯村ホテル」も、スポンサー候補を探すプレパッケージ型民事再生に取り組み、半年後に事業譲渡した。2021年8月に同法適用を申請した北海道・丸駒温泉の「丸駒温泉旅館」は、全国で地域ファンドを運用する企業がスポンサーとなって再建が図られた。負債は8億3000万円だった。 ここに挙げた事例より負債額が格段に多い丸峰観光ホテル・丸峰庵がスポンサー不在というのは、やはり違和感がある。今後は3月の債権者説明会で言及がなかったスポンサーを見つけることが、今夏にも債権者に示されるであろう再生計画案の成否を握るのではないか。 ちなみに再生計画案を実行に移せるかどうかは、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。 本誌は民事再生の申請代理人を務めるDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士を通じて、星社長に取材を申し込んだ。具体的に15の質問項目を示して回答を待ったが、両者からは期限までに何の返事もなかった。 この稿の主人公は丸峰観光ホテルだったが、星社長のような経営者は他にもいるはずで、そこにコロナ禍が重なり、青息吐息のホテル・旅館は少なくないと思われる。杜撰な経営を改めなければ早晩、手痛いしっぺ返しに遭うことを経営者は肝に銘じるべきだ。 最後に余談になるが、4月中旬、本誌編集部に会津商工信組と取り引きがあるとする匿名事業者から「今回の民事再生で信組の損失がどれくらいになるか心配」「役員が責任を取って辞める話が出ている」「これを機に新体制のもとで以前のような活気ある組織に戻ってほしい」などと綴られた投書が届いた。組合員は丸峰観光ホテル・丸峰庵の再生の行方と同時に、メーンバンクの同信組が今後どうなるのかについても強い関心を向けている。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

  • 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

     5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる。飲食業界は度重なる「自粛」要請で打撃を受けたが、業界はコロナ禍からの出口の気配を感じ、「客足は感染拡大前の7~8割に戻りつつある」と関係者。一方、2次会以降の客を相手にするスナックは閉店・移転が相次ぎ、テナントの半数が去ったビルもある。福島市では主な宴会は県職員頼みのため、郡山市に比べ客足の回復が鈍く、夜の街への波及は限定的だ。 公務員頼みで郡山・いわきの後塵 飲食店が並ぶ福島市街地  福島市は県庁所在地で国の出先機関も多い「公務員の街」だ。市内のある飲食店主Aは「県職員が宴会をしないと商売が成り立たない」と話す。民間企業は、取引先に県関係の占める割合が多いため、宴会の解禁も県職員に合わせているという。 「東邦銀行も福島信用金庫も宴会を大々的に開いて大丈夫か県庁の様子を伺っているそうです。民間なら気にせず飲みに行けるかというとそうでもなく、行員に対する『監視の目』も県職員に向けられるのと同じくらい厳しい。ある店では地元金融機関の幹部が店で飲んでいたのを客が見つけて本店に『通報』し、幹部たちが飲みに行けなくなったという話を聞きました」(店主A) 福島市の夜の街は、県職員をはじめとする公務員の宴会が頼りだ。福島、伊達、郡山、いわきの4市で飲食店向けの酒卸店を経営する㈱追分(福島市)の追分拓哉会長(76)は街の弱みを次のように指摘する。 「福島、郡山、いわきの売り上げを比較すると、福島の飲食店の回復が最も弱いことが見えてきた」 2019年度『福島県市町村民経済計算』によると、経済規模を表す市町村内総生産は県内で多い順に郡山市が1兆3635億円(県内計の構成比17・1%)、いわき市が1兆3577億円(同17・0%)、福島市が1兆1466億円(同14・4%)。経済規模が大きいほど飲食店に卸す酒の売り上げも多くなると考えると、3位の福島市が他2市より少なくなるのは自然だ。だが追分会長によると、同市は売上高が他2市より少ないだけでなく、回復も遅いという。 「3市の酒売上高は、2019年は郡山、いわき、福島の順でした。各市の今年2月の売り上げは、19年2月と比べると郡山90%、いわき83%、福島76%に回復しています。郡山はコロナ前の水準まで戻ったが、福島はまだ4分の3です。しかも、コロナ禍で売上高が最も減少したのは福島でした。私は福島が行政都市であり、かつ他2市と比べて若者の割合が少ないことが要因とみています。県職員(行政関係者)が夜の街に出ないと、飲食店は悲惨な状態になります」(追分会長) 飲食業の再生の動きが鈍いのは、度重なる感染拡大に息切れしたことも要因だ。 「福島では昨年10月に到来した第8波で閉めた店が多く、駅前の大規模店も撤退しました。3、4月の歓送迎会シーズンで持ち直した現状を見ると、もう少し続けていればと思いますが、それはあくまで結果論です。これ以上ない経営努力を続けていたところに電気代の値上げが直撃し、体力が尽きてしまった。水道光熱費だけで10~20万円と賃料と同じ額に達する店もありました」 そうした中でも、コロナ禍を乗り切った飲食店には「三つの共通点」があるという。 「一つ目は『飲む』から『食べる』へのシフトです。スナックやバーが減り、代わりに小料理屋、イタリアン、焼き鳥屋が増えました」 「二つ目が『大』から『小』への移向です。宴会がなくなりました。あったとしても仲間内の小規模なものです。売りだった広い客席は大規模店には仇となりました。健闘しているのは、区分けして小規模宴会を呼び込んだ店です」 最後は「老」から「若」への変化。 「老舗が減りましたね。後継者がいない高齢の経営者が、コロナを機に見切りを付けたからです」 一方、これをチャンスと見てコロナ前では店を出すことなど考えられなかった駅前の一等地に若手経営者が出店する動きがあるという。経営者たちが見据えるのは、福島駅東口の再開発だ。 「4月から再開発エリアに建つ古い建物の本格的な取り壊しが始まりました。3年間の工事で市外・県外から500~1000人の作業員が動員されます。福島市役所の新庁舎(仮称・市民センター)建設も拍車をかけるでしょう。市内に建設業のミニバブルが訪れる中、ホテルや飲食店の需要は高まるとみられるが、老舗の飲食店が減っているので受け皿は十分にない。そのタイミングでお客さんを満足させる店を出すことができれば、不動の地位を獲得できると思います」 追分のグループ会社である不動産業㈱マーケッティングセンター(福島市)では毎年、市内の飲食店を同社従業員が訪問して開店・閉店状況を記録し、「マップレポート」にまとめてきた。最新調査は2019年12月~20年10月に行った。同レポートによると、開店は41店、閉店は106店。飲食店街全体としては、感染拡大前の837店から65店減り、772店となった。減少率は7・7%で、1988年に調査を開始して以降最大の減少幅だった。 「特に閉店が多かったのはスナック・バーです。48店が閉店し、全閉店数の44%を占めました」 もっとも、スナック・バーは開店数も業種別で最も多い。同レポートによると、11カ月の間に22店が開店し、全開店数の54%を占めた。酒とカラオケを備えれば営業できるため参入が容易で、もともと入れ替わりが盛んな業種と言えるだろう。 25%減ったスナック  マーケッティングセンターほどの正確性は保証できないが、本誌は夜の飲食店数をコロナ前後で比較した。1月号では郡山市のスナック・バーの閉店数を電話帳から推計。忘年会シーズンの昨年12月にスナックのママに電話をして客の入り具合を聞き取った。 電話帳から消えたと言って必ずしも閉店を意味するわけではない。もともと固定電話を契約していない店もあるだろう。ただし「昔から営業していた店が移転を機に契約を更新しなかったり、経費削減のために解約したりするケースはある」と前出の飲食店主Aは話す。今まで続けていたことをやめるという点で、固定電話の契約解除は、店に何らかの変化があったことを示す。 コロナ前の2019年と感染拡大後の2021年の情報を載せた電話帳(NTT作成「タウンページ」)を比較したところ、福島市の掲載店舗数は次のように減少した。 スナック 194店→145店(新規掲載1店、消滅50店) 差し引き49店が減った。減少数をコロナ前の店舗数で割った減少率は25・2%。 バー・クラブ 42店→35店(新規掲載なし、消滅7店) 減少率は16・6%。 果たしてスナック、バー・クラブの減少率は他の業種と比べ高いのか低いのか。夜の街に関わる他の業種の増減を調べた。2021年時点で20店舗以上残っている業種を記す。電話帳に掲載されている業種は店側が複数申告できるため、重複があることを断っておく(カッコ内は減少率)。 飲食店 208店→178店(14・4%) 居酒屋 143店→118店(17・4%) 食堂 75店→69店(8・0%) ラーメン店 63店→60店(5・0%) うどん・そば店 63店→55店(12・6%)  レストラン(ファミレス除く) 50店→42店(16・0%)  すし店(回転ずし除く) 39店→38店(2・5%) 中華・中国料理店 33店→31店(6・0%) 焼肉・ホルモン料理店 29店→24店(17・2%) 焼鳥店 25店→23店(8・0%)  日本料理店 23店→22店(4・3%) 酒を提供する居酒屋の減少率は17・4%と高水準だが、スナックは前記の通り、それを上回る25・2%だ。マーケティングセンターの2020年調査では、スナック48店が閉店した。照らし合わせると、電話帳から消えたスナックには閉店した店が含まれていることが推測できる。 筆者は電話帳から消えたスナックを訪ね、営業状況や移転先を確認した。結果は一覧表にまとめた。深夜食堂に業種転換した店、コロナ前に広げた支店を「選択と集中」させて危機を乗り越えた店、賃料の低いビルに引っ越し再起を図る店など、形を変えて生き残っている店も少なくない。 電話帳から消えた福島市街地のスナック ○…営業確認、×…営業未確認、※…ビル以外の店舗 陣場町 第10佐勝ビルスナッククローバー〇SECOND彩スナック彩に集約ハリカ〇レイヴァン(LaVan)✕ペガサス30ビル花音✕スナッククレスト(CREST)✕スナックトモト✕プラスαkana✕ハーモニー✕ボルサリーノスナックARINOS✕ファンタジー〇ポート99ラーイ(Raai)✕第5寿ビルジョーカー✕アイランド〇※モア・グレース✕※ 置賜町 エース7ビル韓国スナックローズハウス✕CuteCute✕トリコロール✕フィリピーナ✕ジャガービルトイ・トイ・トイ(toi・toi・toi)✕マノン✕鈴✕ピア21ビルK・桂✕ラパン✕ミナモトビルシャルム✕都ビル仮面舞踏会✕清水第1ビルマドンナ✕第5清水ビルラウンジラグナ✕ 栄町 イーストハウスあづま会館志桜里✕スナック楓店名キッチンkaedeで「食」に業種転換花むら✕第2あづまソシアルビルショーパブパライソ✕せらみ✕ムーチャークーチャー〇ユートピアビルスナックみつわ✕わがまま天使✕※ 万世町 パセオビルカトレア✕萌木✕ 新町 クラフトビルぼんと✕ゆー(YOU)✕金源ビルザ・シャトル✕スナック星(ぴょる)✕※凛〇※ 大町 コロールビルのりちゃんあっちゃん(ai)×エスケープ(SK-P)×※  電話帳に載っていないスナックもそこそこある。ただ、書き入れ時の金曜夜9時でも営業している様子がなく、移転先をたどれない店が多かった。あるビルの閉ざされた一室は、かつてはフィリピン人女性がもてなすショーパブだったのだろう。「福島県知事の緊急事態宣言の要請により当店は暫くの間休業とさせていただきます」と書かれた紙がドアに張られ、扉の隙間には開封されていない郵便物が挟まっていた。 「やめたくない」  ビル入口にあるテナントを示す看板は点灯しているのに、どこの階にも店が見当たらない事態も何度も遭遇した。あるベテランママの話。 「看板を総取っ換えしなきゃならないから、余程のことがないとオーナーは交換しない。一つの階が丸ごと空いているビルもあるわ」 飲食店主Bも言う。 「存在しない店の看板は覆い隠せばいいが、オーナーは敢えてそうはしません。テナントもしてほしくないでしょう。人けがないビルと明かすことになるからです」 テナントの空きは、スナック業界の深刻さも表している。 「手狭ですが家賃が安い新参者向けのビルがあります。入口にある看板は20軒くらいついていて全部埋まっているように見えるが、各階に行くと数軒しか営業していない。新しく店を始める人がいないんでしょうね」(店主B) 閉店する際も「後腐れなく」とはいかない。前出のベテランママがため息をつく。 「せいせいした気持ちで店をやめる人なんて誰もいませんよ。出入りしているカラオケ業者から聞いた話です。カラオケ代を3カ月分滞納した店があり、取り立てに行った。払えない以上は、目ぼしい財産を処分し、返済に充てて店を閉めなければならない。そこのママは『やめたくない』と泣いたそうです。しかし、そのカラオケ業者も雇われの身なので淡々と請求するしかなかったそうです」 大抵は連帯保証人となっている配偶者や恋人、親きょうだいが返済するという。 2021、22年に起きた2度の大地震は、コロナにあえぐスナックにとって泣きっ面に蜂だった。酒瓶やグラスがたくさん割れた。あるビルでは、オーナーとテナントが補償でもめ、納得しない人は移転するか、これを機に廃業したという。テナントの半数近くに及んだ。 福島市内のビルの多くは30~40年前のバブル期に建てられた。初期から入居しているテナントは、家賃は契約時のままで、コロナで赤字になってもなかなか引き下げてもらえなかった。コロナ禍ではどこのビルも空室が増え、オーナーは家賃を下げて新規入居者を募集。余力のあるスナックはより良い条件のビルに移転したという。 ベテランママは引退を見据える年齢に差しかかっている。苦境でも店を続ける理由は何か。 「コロナが収束するまではやめたくない。閉店した店はどこもふっと消えて、周りは『コロナで閉めた』とウワサする。それぞれ事情があってやめたのに、時代に負けたみたいで嫌だ。私にとっては、誰もがマスクを外して気兼ねなく話せるようになったらコロナ収束ですね。最後はなじみのお客さんを迎え、惜しまれながら去りたい」 ベテランママの願いはかなうか。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く