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ベスト学院(郡山市)は3月21日、「ベスト学院県立安積中専門校」を開校させた。 県立安積中学校(仮称)は、県教委が新たに県立安積高等学校内に設置する中高一貫校。開校は2025年度予定で、設置課程・学科は全日制普通科。生徒募集定員は60人で、通学区域は県下一円となっている。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業における課題研究を軸とした産学官連携や、地域との共創等を特色とする取り組み、文化活動を尊ぶ郡山市の立地を生かした教育を行う。また、教育の柱として、STEAM教育の推進を掲げ、創造性、表現力、課題解決力等を育成する、としている。 県立中学校の入学者選抜は、小学校で身につけた科目横断型の問題が出題される「適正検査1」と、与えられた条件のもとで自分の意見や感じられたことを分かりやすく適切に文章で表現する力が求められる「適正検査2」、その他「面接試験」「調査書」で行われている。 ベスト学院県立安積中専門校は入学者選抜に出題される「適正検査」に必要な力を学年ごとに指導していく。出題される問題傾向は科目の枠にとらわれず「計算処理能力」はもちろん、「資料・図を読み取る力」「読解力」「思考力」や「表現力」「探求心」等が求められる。知識を理解し、吸収する授業と演習を繰り返すことで確かな学力が身につき、県立安積中学校入学者選抜に特化した指導が受けられる専門校となっている。対象は県立安積中の一期生となる小5年生から小3年生まで。小3年生は算数と国語の2教科、小4・5年生は算数と国語の2教科に加え、理科と社会を加えた4教科コースから選択が可能。 授業は週あたり算数・国語は100分、理科・社会は50分で、従来の黒板を使用した専門講師の分析・指導による授業に加え、最新のAIを用い、一人ひとりの弱点発見と補強ができる「atama+」を活用し指導する。「得意」「苦手」「つまずき」などをAIが分析し、一人ひとりの「自分専用カリキュラム」で個別学習時間を設けることにより、つまずいた時間までさかのぼって学習できるため、最短最速で成績が上がるという。また、「県立安積中合格」という同じ目的を持った生徒が集まる環境のため、ライバルを意識できるほか、日々の授業を通して自分の学習や成績を客観的に見直すことも可能となる。 「ベスト学院は創設以来、3つの人づくりビジョンに基づいて運営しています。一つ目が子どもたちの夢達成のために全力を尽くす。二つ目が社会に貢献できる人材育成。三つ目が次世代の真のリーダー育成。これらが今後新たに開校する県立安積中高一貫校の目標と合致していると考えています。郡山市から、県内はもとより全国各地や世界中で活躍する人材を育成していきたいという思いから専門校を開校させていただきました。子どもたちの夢をしっかりと応援できるような、教育をしていきたいと考えています」(ベスト学院の担当者) ベスト学院は県内50教室以上を展開し、これまでも会津学鳳中学校等の入試での指導実績と分析力があり合格実績は抜群。高校受験だけではなく中学受験にも強い学習塾だ。 問い合わせは0120ー535ー010か、ベスト学院本部事務局☎024ー934ー3330まで。 県立安積中受験コース(ホームページ) 【受験料無料】学力確認テストに申し込む あわせて読みたい 【米アップル出身】藤井靖史さんに聞く「DXって何?」
環境水族館「アクアマリンふくしま」(いわき市)の子ども体験館「アクアマリンえっぐ」が3月20日にリニューアルオープンし、多くの観光客が訪れている。 施設をリニューアルオープン 同施設は釣り場がある子ども向けの体験型施設で、楽しみながら自然の大切さや生物の多様性、命の尊さなどを学ぶことができる。今回のリニューアルでは、はく製タッチやものづくりワークショップ、生き物調査、オリジナルのぬり絵など、いろいろな体験ができるエリアへと生まれ変わった。新たに誕生した体験プログラムは次の通り。 「いろいろミュージアム」――いろいろなはく製にさわって生物の多様性を学ぶことができる。参加料100円ではく製クイズにもチャレンジできる。 「いろいろ工房」――水族館の生き物、海や森にある素材を使ったものづくりワークショップを随時開催。つくるものは時期によって変わる。 「いろいろアーティスト」――アクアマリンふくしまの展示をイメージした、個性豊かな生き物たちのぬり絵が楽しめる。 「すくすくキッズ」――絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりすることができる親子のくつろぎスペース。 これらリニューアルオープンと同じ3月20日には、館内の生き物解説を専門とする解説員「こんべえズ」がデビューした。ごんべえズはアクアマリンふくしまをより楽しんでもらうため「ごんべえズトーク」と題したさまざまな解説を行っている。 「ごんべえズ」のメンバー 例えば、潮目の海の大水槽の展示を解説してくれる「黒潮水槽の生き物たち編」は土日、「黒潮水槽のえさのじかん編」は毎日開催している(火曜は給餌がないため、解説内容は前記の生き物たち編になる)。所要時間は15分、参加費無料。また不定期開催の「さわって学ぶはく製編」では、さまざまな生き物のはく製について解説してくれる。開催時はアクアマリンえっぐ内に掲示される。 大水槽展示の解説の様子 ごんべえズの活動は裏側の解説だけにとどまらない。「ごんべえズガイド」と題して施設のバックヤードを紹介しており、特別ツアー「バックヤード水槽大公開コース」では魚を繁殖している水槽やデビュー前の生き物を飼育する水槽が並ぶ水生生物保全センターを中心に案内してくれる。どんな生き物に出会えるかは、その時のお楽しみだ。ちなみにアクアマリンボランティアが水族館の裏側を紹介してくれるバックヤードツアーも3月25日から復活した。各ツアーの開催日時は公式サイト等で確認していただきたい。 ごんべえズの皆川裕斗さんはこのように話している。 「さまざまな体験を通して生き物や海の魅力に気付いていただければうれしいです」 生き物を通じてさまざまな体験が楽しめるアクアマリンふくしまに足を運んでみてはいかがだろうか。問い合わせは☎0246ー73ー2525まで。 前売り券を購入する 電子チケット 【アソビュー】 コンビニチケット 【セブンチケット】 あわせて読みたい 【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】
郡山市大平町の市道交差点で発生した一家4人死亡事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた福島市泉の会社員高橋俊被告(25)に対し、地裁郡山支部は4月10日、禁錮3年(求刑禁錮3年6カ月)の判決を言い渡した。 裁判では、初めて通る道路にもかかわらず、助手席に置いたスマホに知人女性から連絡があるかどうか、気にしながら運転していたことが分かった。交差点に一時停止の標識などが設置されておらず、停止線も消えかかっていたのを踏まえ、小野寺健太裁判官は「過失の程度は重大であったとまでは言えないが、結果の重大性も考慮すれば、執行猶予を付けることは相当ではない」とした。 記者は夜、実際に現場を走ったが、坂道で加速するのに見通しが悪く、減速しながら慎重に降りた。判決によると高橋被告は約60㌔で交差点に入ったというから、漫然と運転した結果が悲劇を生み出したと言える。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】
テレビ離れが進む昨今、ユーチューブの全世代の利用率は9割だ。本誌の読者層であるシニア世代も、パソコンやスマートフォンで毎日のようにユーチューブを見ている人は多いはず。数あるチャンネルの中には、県内で活動するユーチューバーも多数存在する。その中に、異色のジャンル「車中泊&グルメ」系で人気を誇る「戦力外110kgおじさん(43歳)」がいる。なぜ視聴者はこのチャンネルにハマるのか、本人へのインタビューをもとに、その謎に迫ってみたい。 【戦力外110kgおじさん】福島県内在住おじさんユーチューバーの素顔 https://www.youtube.com/watch?v=_SxScudMxQ8&t=23s 週末夜のキャンプ場。辺り一面、真っ暗の中、ポツンと明かりが灯る1台のプリウス。その車の後部座席で、一人焼肉をしながらチューハイ「ストロングゼロ」をキメる――。そんな様子をユーチューブに配信している男性がいる。男性の名は「戦力外110kgおじさん」(以下、戦力外さんと表記)。戦力外さんのユーチューブのチャンネル登録者数は10・5万人。1つの動画が配信されれば20万回再生するのは当たり前で、中にはミリオン(100万回再生)に届きそうな動画も複数ある。 「110kg」という名の通りの巨漢が、決して広いとは言えないセダンタイプのプリウスの後部座席で、好きなものをたらふく食べ、大酒を飲む。そんな動画がなぜ多くの人に見られ、そして見続けられるのか。 戦力外さんの動画はチャンネルを開設してすぐに〝バズった〟(人気が出た)わけではない。 戦力外さんがユーチューブに動画を配信し始めたのは2020年2月。当初は釣りの動画を配信していたが、再生回数は数十回程度で、チャンネル登録者数も伸びなかった。 浮上のきっかけとなったのは「顔出し」だった。 戦力外さんは「正直なところ、40代である自分らの世代ってネットで顔出しするなんて気が狂っているというか、抵抗があったんですよね」と話す。今の40代は、匿名性の高い「2ちゃんねる」などを見てきた世代であり、「インターネットでは絶対に顔を出すな」と言われてきた世代でもある。それでも、戦力外さんは再生回数を伸ばしたい一心で顔出しを決意した。 「顔出ししたら登録者が100人を超えたんですよ。ユーチューブには『チャンネル登録者数100人の壁』というのがあります。そこを自力で超えられると、収益化の条件である『チャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間』に近づくと言われています。大体の人はこの100人の壁を超えられず、やめてしまうみたいですね」 チャンネル登録者数100人に達するまで7カ月を要した戦力外さんだったが、そこから1000人になるまでは、わずか3カ月だった。 顔出しと前後して、現在の動画の原点となる「プリウスの快適車中泊キットを110kgおじさんがDIY」という動画を配信したことも追い風となった。 プリウスの後部座席で使う食卓テーブル兼ベッドを作る動画だ。プリウスは後部座席を倒してフラットにしても、普段座るときの足置きのスペースがぽっかり空いてしまう。寝袋を敷いて寝ていると、どうしても足の部分がはみ出てしまい快適に眠れない。それを解決するために作られたのがこの台だった(写真)。このときの動画が初めて再生回数1000回を超え、戦力外さんにとって初バズり動画となった。戦力外さんは「釣りではなく、車中泊に需要があるのか!」と気付き、動画の内容を車中泊系へと変更していく。 車内に設置された食卓テーブル兼ベッド 2度目のバズり動画は「車上生活者の休日シリーズ」。その後、このシリーズが戦力外さんの主力コンテンツとなっていく。 戦力外さんは「このシリーズの第1弾で、いきなり1万回再生いったんです」と言う。 「再生回数が伸びた理由は、当時チャンネル登録者数20万人のユーチューバーさんが動画にコメントをくれたからなんです」 コメントの内容は「あなたみたいな人が、もしかしたらユーチューブで成功するのかもしれませんね。収益化するまで是非続けてください。わたしも応援します」だった。 ユーチューブに限らずSNSではよく起こる現象だ。多くのフォロワーやファンを持つ配信者(発信者)が、無名ユーチューバーの動画を一言「面白い」と紹介しただけで、瞬く間にその動画が拡散されていく。これをきっかけに戦力外さんは、収益化の条件であるチャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間を達成した。 動画を通じて疑似体験 動画の冒頭は、戦力外さんが車中泊をする場所に向かう道中の運転席を映している。無言で運転する戦力外さんが映し出され、テロップでその日にあった出来事などが紹介される。動画の説明欄に「この動画は半分くらいフィクションです」とある通り、テロップの内容は現実世界で起きたことに、戦力外さんが少し〝アレンジ〟を加えたものとなっている。 名前にあるもう一つのテーマ「戦力外」。これは、戦力外さんが日々の生活において「社会に出ると全然自分が役に立たない」、「俺って会社や社会では戦力外だな」と、打ちひしがれた経験が基になっている。 視聴者のコメント欄を見ると「おっちゃん見てると他人事には思えないんだよな。職場のストレスはよく分かる! この動画を見てると頑張んなきゃって不思議と思える。おっちゃん頑張って!」などと書き込まれている。 「動画の前半部分によく出てくる職場での失敗エピソードは、視聴者が自分よりきつい環境にいる人を見て、自分はまだまだマシだなって安心したい思いがあると思います。社会の戦力外おじさんが、もがきながら、ささやかな楽しみを見つけて楽しんでいる姿を見てシンパシーを感じるのでしょうね」 取材に応じる戦力外さん メーンである動画の後半部分は、戦力外さんが車中で一人、ひたすら飲み食いするシーンだ。これがまた「食べ物がとても美味しそうで、美味しそうに食べる」動画なのだ。 視聴者のコメント欄には「見てると幸せな気持ちになれる動画を、ありがとうございます!」、「毎回、元気いただいてます」などと寄せられている。 「自分の好きなユーチューバーを見ることによって、自分もキャンプした気持ちになる。健康上の理由で食べたいけど食べられない人にとっては、私の動画を見て食べた気になる。そうやって疑似体験したいのかもしれませんね」 動画の編集時間は5時間 戦力外さんは1979(昭和54)年生まれの43歳。出身は山形県だが、幼少期から30代半ばまで猪苗代町で過ごす。学生時代は漠然と「物書きになりたい」という夢を持っていた。専門学生時代にはサブカルチャー雑誌『BURST(バースト)』にハマり、石丸元章、見沢知廉、花村萬月など、破天荒だが自由を感じるライフスタイルに憧れた。何か行動に移すということはなかったが、創作活動をしたいという思いは学生時代から抱いていた。 高校卒業後、家業である川魚の養殖業に就き、6年半前に実家を出て中通りに引っ越すタイミングで、インフラ系の会社に転職した。20代に真剣に打ち込んだのはフルコンタクト空手という格闘技だった。しかし膝のじん帯を断裂し、選手生命を断たれてしまう。 人生の大きな目標を失い「もう一つ生きがいを見つけたい」と思い立った戦力外さんが表現活動の第一歩として始めたのが、LIVEコミュニケーションアプリ「Pococha(ポコチャ)」だった。しかし、ポコチャはリスナーと直接会話するスタイルで、高度なコミュニケーション能力が要求されるため数カ月で挫折してしまう。 戦力外さんは「誰かと直接コミュニケーションせず、自分のタイミングで動画を撮り、じっくり編集できる方がいいんじゃないか」と考え、ユーチューブを始めた。 平日は会社で働き、休日になると動画撮影のため出掛ける。撮り終わったら自宅に戻って編集する。1つの動画の編集作業は平均5時間を要するが、「スマホを使ってベッドに寝ころびながらリラックスして作業しているので、そんなに大変ではないですよ」。 台本は作らず、頭の中で動画の構成を練っている。仕事は車の移動時間が長いため、その時間を有効活用し、面白いワードが出てくるのをひたすら待つのだという。 「美しいマンネリ目指す」「理想は水戸黄門とか孤独のグルメ」 戦力外さんのチャンネルの視聴層は35~60歳までが多く、男女比では男性が9割を占める。 「理想は水戸黄門とか孤独のグルメなんです。視聴率トップは取れないけど、ずっと見てくれる人がいる。美しいマンネリっていうんですかね、そんな動画でありたいですね」 戦力外さんの動画が限られた層にしか見られていないと分かるエピソードがある。戦力外さんは自身のユーチューブチャンネルを母親に薦めたそうだが、母親が熱心に見るのは猫やフォークダンスの動画で、いくら薦めても自身の息子が配信している動画を全く見なかったという。戦力外さんは「興味がなければ肉親の動画でも見ないんですよ」と笑う。 プリウスと戦力外さん ユーチューブはユーザー一人ひとりの趣味趣向に合った動画がトップ画面に表示されるような仕組みになっており、普段見ないジャンルの動画はそもそも表示もされない。これはユーチューブに限ったことではなく、買収騒動で話題のツイッターなどのSNS、ゾゾタウンなどの通販サイトも同様だ。 ただ、世の中の〝おじさん〟しか見ないニッチな動画を配信しているはずが、最近は少しずつファン層が拡大している様子。北海道に撮影に行った際、チャンネル登録しているファンの女性と奇跡的に出会い、お付き合いするまでに至ったという。 声をかけられる機会も増え、特にキャンピングカーで旅をしているシニア世代の夫婦からが多いようだ。 専業ユーチューバーへ 戦力外さんは6年半勤めた会社を辞め、12月から専業ユーチューバーとして活動を始めた。 「収入は不安定ですし、専業としてやっていくのに不安はありましたが、これからは創作活動一本で食っていくんだと決めました」 ユーチューブでの収入は「サラリーマンの月収の2倍くらい」だという。再生回数の変動などにより月の収入が100万円の時もあれば10万円の時もあるような世界だが、ユーチューブで最も広告収入を得やすいのは3月と12月なので、そのタイミングで退職を決意した。 ユーチューブは再生数によって広告収入が決まる。その単価についてはユーチューブの規約で公言しないよう定められている。戦力外さんも明かそうとしなかった。 しかし、さまざまなユーチューバーの書籍の情報によると、現在、ユーチューブの広告収入単価は1再生あたり0・05~0・7円と言われている。トップクラスの人気ユーチューバーは、1つの動画につき、サラリーマンの平均年収の3~4倍の広告収入が入る計算となる。 とは言っても、そこまで稼げるのはほんの一握りで、急に動画が見られなくなることだってあるのだ。 ただ、戦力外さんは「ユーチューブはプライベートすべてがネタになる」と前向きに捉える。 「仮にユーチューブで稼げなくなり、アルバイトをすることになっても、それを動画にすればいい。いいことも悪いこともネタにできるのがユーチューブなんです」 専業ユーチューバーになれば撮影回数を増やせるし、動画を配信する本数も増える。海外向けのチャンネル開設も目論んでいる。 「私のチャンネルは日本語のテロップを入れているので日本人しか見ません。次は世界に向けて、言葉なしでも伝わるような動画も作っていければと思っています」 戦力外さんは、テロップ無しに加え、ユーモアもプラスアルファしていきたいと考えている。 「チャップリンやミスタービーンみたいなコミカルな動きを入れていけば面白いかなと思っています」 一度見たら見続けてしまう中毒性。これがユーチューブの性質であり、作り手はそこを目指して動画を作成する。 「好きなことで、生きていく」 これはユーチューブのキャッチフレーズだが、専業ユーチューバーとして生き残っていくためには、そうも言っていられない。戦力外さんは「自分が好きなものも大事ですが、それ以上に、視聴者が求めているものを常に考え、再生回数が落ちないように維持していかなければなりません」と漏らす。 「死ぬ時、『なんであの時に専業ユーチューバーにならなかったんだ』と思いたくないんです。やった後悔よりもやらない後悔の方が悔いが残るって言うじゃないですか」 そう笑って話す戦力外さん。この先、どのようなチャンネルや動画を作り、ファンを拡大していくのか。〝おじさんユーチューバー〟の挑戦は始まったばかりだ。 追記【TBS 櫻井・有吉THE夜会で紹介】(2023年5月23日放送分)戦力外さんが紹介される! チュートリアル・徳井義実さんが、おすすめのユーチューブチャンネルを紹介するコーナーで戦力外さんを紹介!タイトルは「なぜか見てしまう!脱サラ親父の哀愁車内メシ」。23分30秒頃から。 Paravi(パラビ)で視聴する
(2022年9月号) 郡山市内の放課後児童クラブ支援員が保護者会費を横領した――。編集部宛てにこんな告発メールが届いたことを8月号で紹介したところ、記事脱稿後に市が記者会見を開き、概ね事実だったことが分かった。子どもたちの〝おやつ代〟として使われるべき金を生活費として使い込んでおり、同業者や保護者からは怒りの声が聞かれる。 公式発表前に届いた内部告発メール 一連の経緯は本誌8月号「郡山市民が呆れるアノ話題 学童保育支援員に横領疑惑が浮上」という記事で紹介した。 7月上旬、編集部宛てに以下のような内容のメールが寄せられた。 《芳賀小児童クラブで2年前ぐらいから、会計を務める主任支援員が保護者会費(保護者が支払うおやつ代などの運営費)を着服している。その額は100万円以上。市の子ども政策課は事実を把握しているが、公表しておらず、なかったことにしようとしている》 芳賀小児童クラブは放課後の間、児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育とも呼ばれる)の一つ。同小学校の校庭に建てられた施設に開設されており、児童は勉強(宿題)や運動、遊びをして過ごしている。 子どもたちの〝先生役〟となるのは「放課後児童支援員(以下、支援員と表記)」という資格を持つ職員。同市の放課後児童クラブは公設公営なので、いずれも市職員(会計年度任用職員)だ。 保護者会費とは、市に支払う利用料金とは別に支払う料金で、おやつなどの購入に使われる。同クラブは100人弱の児童が利用。毎月1人2300円の保護者会費を支払っており、会計担当の支援員が現金で預かる形になっていた。メールの内容が事実だとすれば、市職員がその金を横領していたことになる。 7月下旬、放課後児童クラブを管轄する市こども政策課にメールの内容について問い合わせると、担当者は「その放課後児童クラブに関しては現在調査中であり、事実関係や当該支援員の扱いも含めて、いまはお話しできません、ただ、調査が終わった段階で、然るべき形で発表しようとは考えています」と話した。内部で何らかのトラブルが起きていたことを認めたわけ。 同クラブに直接足を運んだが、「私どもも詳しい事情は分からない。コメントは控えさせていただきます」(当日勤務していた支援員)と話すのみだった。 いずれにしても、これだけ内情を知っているということは、差出人は同クラブを利用する保護者か、同市の職員・支援員だろう。ただ、確証が得られなかったため、8月号記事では学校名を伏せ、「疑惑」として紹介する形に留めた。 そうしたところ、記事脱稿後の8月2日、市が「放課後児童クラブ保護者会費(運営費)を横領した会計年度任用職員の懲戒処分について」という内容の記者会見を開いた。総合的に判断して同クラブで起きた案件と思われ、公益性もあると判断したので、本稿では実名で表記する。 市によると、横領したのは2009年から支援員として働いていた50代女性。20年度から22年度にかけて、保護者会費の一部239万4069円を横領。その事実を隠蔽するため、20、21年度の収支決算書を偽造していた。 横領期間は2020年8月から22年5月までの22カ月間。横領額の内訳は20年度68万1160円、21年度138万4000円、22年度32万8909円。 市こども政策課によると、保護者会の規約では「会計(=保護者)は担当支援員(=市職員)と相互協力のもと、円滑な運営を遂行する」と規定されており、市も「職員は2人以上が担当する」と指導していた。 ところが、芳賀小児童クラブに関しては、同支援員が一人で会計を担当。保護者から預かった会費は口座に入金せず金庫で管理し、収支決算書で帳尻合わせをしていた。保護者会で会計監査も行われていたそうだが、会計監査担当者に帳簿と領収書を一部分だけ突き合わせさせ、金額が合っていると信じ込ませる形で切り抜けていた。 239万円横領の理由 8月2日に行われた記者会見 周囲が異変に気付いたのは2022年5月。同クラブの別の支援員から「おやつ代を立て替えた際の清算が遅くて困っている」と相談を受けた同課の職員が事務指導を行っている中で、保護者会費が通帳に記帳されていないことが発覚。関係書類を提出させたところ、毎月ほぼ一定であるはずの保護者会費の収入額がなぜか月によって開きがあった。 同課の職員が6月14日、会計担当だった同支援員に事情聴取したところ、横領と書類偽造を認めた。 同課の聞き取り調査に対し、同支援員は「父が所有する事業用倉庫内の機械等を撤去する必要があり、その費用(約70万円)を工面するため、『一時的に借りよう』と思い一部を横領してしまった。その後も自分の生活が苦しかったこともあり、生活費に充てるため、横領を繰り返してしまった」と語ったという。 前述の通り、保護者会費はすべて現金で支払われ、金庫で管理されていた。すなわち1000円札や100円玉などを金庫からそのまま持ち出し、使っていたことになる。「生活費に充てるため」と語っていたというが、「ちょっと拝借する」程度で年間140万円にはなるまい。完全に感覚が麻痺してしまっていたのだろう。会見では記者から宗教団体などの関与を疑う質問もあった。 冒頭のメールには「全額回収のめどが立たないので市こども政策課としても公表できないようだ。このまま隠蔽するのではないか」とも書かれていたが、結局、同支援員は全額を返済した。同課は6月14日に事件が発覚してから1カ月以上公表しなかった理由について、「同支援員に返還の意思があり、そちらを優先したため」と明かした。 その一方で、同支援員は8月2日付で懲戒免職になった。本来、業務上横領罪に問われる案件だが、市では横領分が全額返済されたことから刑事告訴は行わない方針。そうした条件で示談にしたということだろう。 8月1日には保護者向けの説明会が開かれ、横領期間に利用していた児童の在籍期間に応じて返金する方針が伝えられた。対象となる保護者は延べ124人。 おやつ代として支払われていた保護者会費を横領していたということは、その分子どもたちへのおやつをケチっていたと考えられる。県内で活動する支援員はこう語る。 「保護者会費2300円ということは、1カ月に23日利用するとして、1日100円使う計算なのでしょう。うちのクラブでは大袋の菓子をみんなで分けて1日60円程度で済ませ、浮いた分で誕生日やイベント時に振る舞うケーキを買うなど、メリハリを付けている。問題の支援員はそうしたやりくりをせず、ひたすら安く済ませて横領分を捻出していたのかもしれません」 保護者会費は単純計算で年間1人当たり2万7600円、100人分で276万円。その中から最大138万円横領(2021年度)していたということは、おやつ代1日50円の計算で運営していたことになる。一緒に勤務していた支援員は気付かなかったのか。それとも会計を務める支援員だから何も言えなかったのか。同課は実名を伏せ、詳細も明かしていないので真相は分からないが、〝どんぶり勘定〟であったことがうかがえるし、市のチェック体制にも問題があったと言わざるを得ない。 8月上旬、同クラブ周辺で、児童を迎えに来た父親に声をかけたところ、「最悪ですよね。自分たちが預けていた金を勝手に使われていたわけですから」と述べた。 ほかにも複数の保護者に声をかけたが、「詳しく分からない」、「時間がない」と明言を避け足早に帰っていく人が多かった。「仕事と子育てを両立するのに忙しい中で、放課後児童クラブの内情まで把握できないし、余計なトラブルに巻き込まないでくれ」というのが本音かもしれない。市のチェック体制の甘さと保護者の〝無関心〟の間で、約2年にわたる横領が見過ごされてきたのだろう。 放課後児童クラブへの不満 取材の中では、同市の放課後児童クラブへの不満の声も聞かれた。 「子どもが利用し始めた当初、放課後をただ遊んで過ごしていることが分かり、『せめて宿題を終えてから遊べよ』と叱ったことがある。放課後の間、預かってもらうのはとてもありがたいが、それ以上のことは期待できないのだな、と実感しました」(2021年まで市内の放課後児童クラブを利用していた保護者) 放課後児童クラブにおいては、支援員の資格を持たない職員も「補助員」として働いている。ただ、支援員事情に詳しい関係者によると「現在人手不足なので、基本的には誰でもなれる状況。地域の高齢者などが務めることも多いが、親族や顔見知りの児童に甘い対応を見せて、不満が生まれることもある」。 2021年3月号では「郡山市の児童クラブで支援員が体罰!?」という記事を掲載した。「放課後児童クラブに通う長男が支援員から体罰を受けた」という投書の内容を検証したもので、支援員にそのつもりはなかったものの、誤解を招きかねない言動が確認されたという。 同市の放課後児童クラブの利用料金は1カ月4800円(生活保護受給世帯など条件によって軽減措置あり)。保護者会費2300円と合わせると約7100円に上る。「その金額で放課後の間預かってくれるなら十分だ」という保護者もいるが、その一方で「物足りない」、「割に合わない」と不満を抱く保護者もいるということだ。 同市の放課後児童クラブは市内50校に81クラブ設置されており、各クラブでは5~10人の支援員が勤務している。その大半は誠実に働いているが、今回のような不祥事が発覚すれば、保護者からの信頼をさらに失うことになる。 前出・県内で活動する支援員は次のように憤る。 「私たちは子どもたちから〝先生〟と呼ばれる立場にある。その立場の人間が『子どもたちの健全な育成のために』と保護者からもらったおやつ代(保護者会費)を横領する……これは、目の前の子どもより自分の生活費を優先したということであり、到底許されることではありません」 テレビや新聞での扱いは小さく、詳細が分かっていないことも多いが、市は今回の事件を重く受け止め、再発防止策を徹底しなければならない。前出のメールの差出人は、それが期待できないと懸念したから、本誌に〝内部告発〟したのだろう。 市では保護者会役員と支援員の役割を明確化して監査を行うとともに、コンプライアンス研修などを実施し再発防止に努める考えだ。しかし、そうした対応だけでは不十分だ。会計のダブルチェックの徹底、提供されるおやつのSNSでの公開など、保護者会費の使途をできる限り透明化し、「これなら横領できそうだ」という悪意が入り込めないような体制構築が求められる。
(2022年10月号) オグリキャップ、トウカイテイオー、テイエムオペラオーなど、競馬史に残る名馬が、現役時代に入所していた競走馬用の温浴・リハビリ施設がいわき市にある。〝競馬ファンの聖地〟ともなっている同施設に足を運んだ。 【いわき市常磐白鳥町】JRA競走馬リハビリテーションセンター いわき湯本温泉は古くから湯治の名所として栄えてきた温泉地で、有馬温泉(兵庫県神戸市)、道後温泉(愛媛県松山市)と並ぶ日本三大古泉だ。全国的に珍しい泉質で、その効能から「美人の湯」、「心臓の湯」、「熱の湯」とも呼ばれる。 そんな同温泉の温泉街の西側に、競走馬専用の温泉を備えたリハビリ施設があることをご存じだろうか。 1963(昭和38)年にJRA競走馬保健研究所常磐支所として開所した「競走馬リハビリテーションセンター」(小平和道所長)だ。屈腱炎・骨折など脚部に疾患を抱える現役競走馬を受け入れ、レース復帰に向けたリハビリの支援を行っている。 広大な敷地の中には、ダートコースの調教馬場(1周400㍍)をはじめ、脚部に負担をかけず心肺機能を高められるスイミングプール(1周40㍍、深さ3㍍)やウオータートレッドミルなどの設備が設けられている。 馬場では脚の具合を見ながら徐々に速度を上げる 療養馬の回復状況に合わせてメニューが組まれ、朝8時から獣医師立ち合いのもと、各施設でリハビリが行われる。取材時の7月中旬現在、16頭の馬が入厩していた。馬房は40馬分あるものの、「人手不足で所属している厩務員に限りがあるので、現在はフルでは受け入れていない。そのため、順番待ちになることもある」(広報担当者)という。 13時30分からスイミングプールでの調教が始まると、フェンス越しに見学に訪れた競馬ファンや子ども連れが集まってきた。楽し気に泳ぐ姿をイメージしていたが、近くで見ると、「ブルルッ」と鼻を鳴らしながら必死の表情で泳いでいた。厩務員は手綱を引いているほか、さまざまな道具を駆使して歩みを止めないようにしている。療養馬にとってはハードなリハビリの一環なのだろう。 プールで泳ぐ療養馬 フェンス外から見守る競馬ファン 初めてプールに入るという馬に至っては、厩務員が押しても引いても10分以上その場から動こうとしなかった(もっとも、厩務員にとってこの行動は想定の範囲内で、この日は、水に慣れさせるのが目的だったようだ)。写真やほのぼのニュースの映像で抱いていた涼やかなイメージとのギャップに驚かされた。 リハビリ終了後には、38~40度の足湯と打たせ湯で疲労を解消する。リハビリにより溜まったストレスを解消する効果もあるという。温泉でリラックスできるのは馬も人間も同じということだろう。 足湯と打たせ湯の温泉でリラックス 慣れた手付きで馬を連れて回る厩務員はいずれも若く、女性の姿が目立った。競馬業界への就職を目指してここで勤めている人が多いという。 リハビリ支えるスタッフ 馬の懐に入り蹄鉄を打ち付ける兒玉さん スタッフの一人に声をかけたところ、同センターに常駐する装蹄師・兒玉聡太さん(32)だった。 装蹄師とは馬の蹄(ひづめ)に蹄鉄を打つ技術者のこと。体重400~500㌔の体で走るサラブレッドの脚には大きな負荷がかかっている。蹄が摩耗したり割れて変形すれば、パフォーマンスが下がるばかりか、ケガのリスクも高まる。そのため、その馬の蹄の形に合わせた蹄鉄を打ち、保護する必要がある。 蹄鉄はアルミニウム合金製で、摩耗するため、3週間に1度のペースで打ち変えているという。 兒玉さんは胴体の下に潜り込み、脚を上げさせて蹄を削る。蹄の形に合わせて蹄鉄を叩いて微調整し、釘で打ち付ける。テンポ良く進めているが、確かな技術と経験がないとできない仕事だ。こうした関係者のサポートにより競馬は成り立っているということだ。 2021年、競走馬を擬人化したキャラクターを育ててレースで競わせるスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒット。ゲームから競馬に関心を持つ新規ファンが増え、競馬ブームにつながった。「競馬への注目度が高まるのはうれしい。当センターにもぜひ多くの人に見学に来てほしい」と広報担当者は語る。 震災・原発事故、令和元年東日本台風など、災害により大きな被害を受けながら、復興を遂げているいわき市。そんな同市に同センターが設けられ、療養馬が再起を目指してリハビリに励んでいるのも運命的なものを感じる。 秋になると中央競馬が盛り上がるシーズンが到来する。福島市の福島競馬場では、第3回福島競馬が11月5日から20日まで延べ6日間の日程で行われる。 同センターは朝8時から17時まで見学を受け付けている(日曜日は休み、プール見学は夏季平日のみ、改修工事のため、完全閉鎖の時期あり)。秋の福島競馬に合わせて聖地を〝巡礼〟するのも、競馬文化の楽しみ方の一つと言える。
(2022年10月号) 陸上自衛隊郡山駐屯地に所属時、複数の男性隊員から性被害を受けていた元自衛官の五ノ井里奈さん(22)が8月31日、第三者委員会による公正な調査を求める要望書と約10万人の署名簿を防衛省に提出した。マスコミが一斉に報じ、大きな注目を集めることに。自衛隊の女性差別・パワハラ体質にメスが入るか。 「市民感覚」が試される検察審査会 性被害の後に退職した五ノ井さんは、6月からネットを通じて被害を訴えていた。経緯は、本誌8月号「陸自郡山駐屯地で『集団セクハラ』 元自衛官の女性が決意の実名告発」で詳述している。 五ノ井さんは、自衛隊内の捜査権限を持つ警務隊に強制わいせつ事件として被害届を出した。男性隊員3人が書類送検され、検察庁は今年5月31日付で嫌疑不十分で不起訴にしていた。河北新報9月1日付によると、五ノ井さんは検察官から「首を押さえる行為に関する証言はあったが、わいせつの証言は得られなかった」と説明されたという。加害者は、暴行は認めたが、五ノ井さんが尊厳を奪われたと最も問題視している性被害については認めなかったということだ。 五ノ井さんは7月27日に都内で開いた記者会見で、「中隊内で隠ぺいや口裏合わせが行われていると、内部の隊員から聞いたので、ちゃんと第三者委員会を立ち上げ、公正な再調査をしてほしい」(『AERAdot.』7月27日配信)と組織を守るためにもみ消しが行われていることを指摘している。自浄作用は期待できない。 世論を受けてトップが動いた。9月6日には、浜田靖一防衛相が全自衛隊を対象とした「特別防衛監察」の実施を表明。担当する防衛監察本部は防衛相直属の機関で、独立した立場で調査・報告を行う。 郡山検察審査会は、検察が加害者3人を不起訴にしたことを審査員過半数の意見を得て「不当」と議決。議決書では、五ノ井さんの供述が唯一の証拠と指摘したうえで、不起訴の場合「被害者に泣き寝入りを強いる以上、被害者供述の信用性の判断をより慎重に行う必要がある」(福島民報9月10日付)とした。審査員11人は管内の有権者から選ばれる。県民の良識が少しでも反映される形。検察は再捜査し、起訴の可否を決める。不起訴の場合、審査会は強制的に起訴すべきかどうかを決めるが、決定には11人中8人以上の賛成が必要で、より市民感覚が試される。 五ノ井さんは宮城県東松島市出身。小学校4年生の時に東日本大震災を経験し、救援活動する女性自衛官に憧れた。中学では柔道で宮城県大会を制した実力者だ。泣き寝入りせず被害を実名告発したことからも心身ともに強靭で、自衛隊が理想とする人物だろう。それが組織に潰された。 女性差別とパワハラ体質は自衛隊全体の問題ではあるが、集団セクハラが常習化していた部隊を受け入れている県民の関心事は、「郡山駐屯地に固有の問題はなかったのか」ということだ。まずは、政府が早急に五ノ井さんの被害の救済を。真相解明は、刑事裁判という公開の場で行われるべきだ。
(2022年10月号) 郡山市の認可保育所「ヒューマニティー保育園」が委託費を不正受給していたとして、新規園児受け入れ半年間停止の行政処分を受けた。不正受領していた金額は約660万円に上り、市は返還を求めている。 〝投書攻撃〟を受けていた運営法人 ヒューマニティー保育園を運営しているのは一般社団法人ヒューマニティー幼保学園(瓜生麻美代表理事)。子どもの能力を開花させる教育法として話題になった「ヨコミネ式」を導入して人気を集めており、認可外保育所や学習塾なども運営する。 私立の認可保育所には市から委託費(運営費用)が支払われているが、同保育所では、非常勤の所長を常勤勤務として市に報告。加算分の受給要件を満たしていないにもかかわらず、2019年9月から21年3月にかけて、委託費659万8280円を不正に受給していた。 さらに昨年12月22日に行われた定期施設監査において、在籍していない保育士1人を「勤務していた」と偽って市に報告。虚偽の出勤簿や履歴書などを作成して提出していた。併せて同法人が運営する認可外保育施設などで使用する中古車2台(計65万円)を、同保育所の委託費で購入していたことも判明。市は同保育所への9月・10月分委託費から不正分を差し引く考え。 市は「昨年12月の定期施設監査の書類が偽造されていた」と外部から通報を受け、1月に特別監査を実施。この間、書類精査や関係者の聴取を行ってきた。市の聴き取りに対し、同保育所の関係者は「当初から不正の認識はあった。運営会社の指示を受けて行った」(NHKニュース)と語っていたというから、組織ぐるみだった可能性が高い。 同法人に関しては、匿名投書が連続で送られてきたとして、本誌2013年11月号で取り上げたことがある。内容はいずれも「保護者に説明がないまま新保育園建設が進められている」という不満を綴ったもので、「保育士の人数など、法律を無視した運営がなされている」など運営の怪しさを指摘する記述もあった。 当時の本誌取材に対し、園長代理を務めていた瓜生氏は「保護者にはきちんと説明しており、法律違反の点もない」、「(同法人の運営が)まるで不安要素だらけのように書かれているのは悪意を感じますね」と話し、「投書は外部から見たイメージだけで意図的に悪く書かれている。これ以上続くようであれば、差出人に対し法的手段を取ることも考えています」と息巻いていた。 同市保育課の担当者も「(当時、同法人が運営していたのは認可外保育所のみだったので)投書で苦情を言われても市としては対応しようがない」というスタンスだった。 だが結果的に、保育士の数を偽っていると指摘していた〝投書攻撃〟は事実だったことになる。 不正受給の件について、あらためて同法人に問い合わせたが、担当者はどの質問にも「市に報告し、この間報道されたことがすべてです」と答えるのみだった。記者が「2013年の取材当時も実は内部で不正が行われていたのではないか」と尋ねると「あの時点では間違いなく不正行為はしていなかった」と述べた。市は同法人が返金の意思を示していることから刑事告訴しない方針。不正受給の動機は分からずじまいだ。 9月下旬、同保育所を訪ねると静まり返っていた。新規園児受け入れ停止期間は来年3月末まで。保護者の反応は聞けなかったが、悪質な不正受給の実態を知って、退園する動きが出てきても不思議ではない。
(2022年10月号) 塙町で75歳の女性を殺した後、奪ったキャッシュカードで現金計300万円を引き出したとして強盗殺人などの罪に問われていた鈴木敬斗被告(19)に9月15日、求刑通り無期懲役の判決が言い渡された。被告は被害者の孫。同17日付で控訴した。4月の改正少年法施行後、県内で初めて「特定少年」として、実名で起訴、審理された。判決は更生を期待する少年法は考慮せず、あくまで重罪に見合う刑罰を科した。被告は趣味の車の修理のため、手軽にカネを得ようと殺したと話すが、身勝手としか説明がつかない動機だ。なぜ祖母を殺そうとまで思ったのか、判決では触れられなかった事実を拾う。 逮捕見越して散財の異常性 裁判で明らかとなった事件の経過をたどる。被害者は塙町真名畑字鎌田に住む菊池ハナ子さん。主要道路から離れた山奥の平屋に独身の長男と2人で暮らしていた。事件は今年2月9~10日の深夜に起こった。菊池さんと長男は、9日午後5時半ごろ夕食を取り、同9時半ごろまでテレビを見るなどして過ごした。 長男は深夜勤務のため、同9時35分ごろに自家用の軽トラックで家を出た。長男の「行ってくっから」に「おう」と返す菊池さん。長男が最後に見たのはパジャマを着てテレビを見てくつろぐ姿だった。長男が出ていった後、鈴木被告は矢祭町内の自宅から菊池さんの家に車で向かった。車はレンタカーだった。 犯行時刻は同11時45分ごろから翌10日の午前0時17分ごろの間。 茶の間のタンスの引き出しに入っていた現金を盗むのが目的だった。凶行に及ぶ約1時間前の9日午後11時ごろには、コンビニで防水の黒手袋を購入。自宅に戻り、倉庫から凶器となる長さ約55㌢、直径約3・2㌢、重さ約420㌘の鉄パイプを持ち出した。パイプは改造・修理中の自家用車の排気マフラーに使うために買った材料の残りでステンレス製。殴打に使った部分は斜めにカットされていた。法廷内では銀色に輝き、アルミホイルのような見た目だった。殴打で数カ所へこんだ部分が鈍く乱反射していた。 鈴木被告は建築板金業を営む一人親方で趣味は車の改造だ。改造に使う部品や工具を買いそろえるためにカネが必要だったと動機を話す。犯行現場までの移動にレンタカーを使ったのも、被告によると自家用車を修理のために分解しており、乗ることができなかったからだという。 鈴木被告はレンタカーの尾灯を消したまま、矢祭町の自宅から塙町まで車を走らせた。道路沿いの家の防犯カメラが車を記録していた。尾灯をつけないままヘッドライトのみを光らせて走るのは、無灯火のままライトのレバーを手前に引きパッシングの状態を続けることで可能だ。「車好き」なら思いつくのは当たり前のことなのだろう。 鎌田集落に入った。菊池さん宅まで続く道は車1台通るのがやっとの幅で、すれ違いは困難だ。菊池さん宅近くの道の待避所に車を止めた。玄関前で飼っている犬に吠えられるのを避けるためだった。夜遅いので他の車はまず通らない。黒いパーカーの上に黒い合羽を着て黒手袋をはめ、夜陰に紛れて道を急いだ。手には鉄パイプを持っていた。菊池さん宅南側にある駐車場には菊池さんの長男が運転する軽トラが見当たらない。菊池さんは運転免許証を持っていないので、少なくとも長男はいないと鈴木被告は推測した。 犬が吠えるのを恐れた鈴木被告は南側の玄関からは入らず、北側に回り、掃き出し窓から家に侵入しようとした。掃き出し窓は無施錠だった。侵入した際、利き手と反対の右手には鉄パイプを持っていた。寝室は豆電球一つしか明かりがついておらず薄暗かった。鈴木被告は、菊池さんが侵入者に気づき布団から上体を起こしたのが分かった。こちらを見ている。鈴木被告は右手の鉄パイプを菊池さんがいるところへ夢中で振り下ろした。5回程度殴った後に自分のしたことに気づいたが、なおも殴り続け、少なくとも計15回殴打した。 菊池さんは頭や上半身から血を流し、倒れこんだ。倒れた時に背中を電気毛布のスイッチ部分にぶつけ、背中の肋骨も折れていた。ふすまには打撃でついたようなキズが残り、障子も破れていたが、鈴木被告は覚えていないと法廷で語った。長男が帰宅した際、菊池さんはまだ息があり救急搬送されたが、出血性ショックで亡くなった。 「足が付くのは分かっていた」 「子ども時代に来た時は、ばあちゃんはここでは寝てなかったはずだ」と思った鈴木被告にとって、菊池さんが北側の窓に面した部屋にいたのは想定外だったという。だが、本来の目的である現金を盗もうと、うめき声を出して倒れている菊池さんを残して隣りの茶の間に向かった。タンスの引き出しには現金はなかったが、巾着袋の中に通帳とキャッシュカードがあった。暗証番号が書かれた紙も入っていた。巾着袋を奪うと、鈴木被告は侵入したのと同じ掃き出し窓から外に出て、止めていた車に戻った。犬は吠えなかった。 事件から約3週間後の3月1日、鈴木被告は盗んだキャッシュカードを使って現金計300万円を引き出したとして窃盗容疑で棚倉署に逮捕された。同22日には、前述した強盗殺人の罪で再逮捕。家裁郡山支部から逆送され、地検郡山支部が強盗殺人罪などで起訴し実名を公表、裁判員裁判で成人と同じように裁かれたというわけだ。 逮捕されるまでの間、鈴木被告には罪に向き合う機会もあったが、傍目には自身の行為を悔いていない行動を取った。まずは証拠隠滅。犯行日の2月10日に茨城県内の川で、橋の上から凶器の鉄パイプを捨てた。菊池さんの葬式にも平然と出席していた。奪ったキャッシュカードで同10~16日の間に県南、いわき市、茨城県内のコンビニのATМで18回に分けて計300万円を引き出した。車の部品や交際相手にブランド品や服を買ったほか、クレジットカードの返済に使い切った。鈴木被告は「足が付くのは分かっていた。捕まるまで自由にしようと思った」と法廷でその時の心情を振り返った。 ここで鈴木被告の成育歴を振り返る。2002年生まれの鈴木被告は3人きょうだいの2番目。小学5年生の時に両親が別居し、2015年に離婚した。きょうだい3人は母親が引き取った。父親は別の家庭を持っている。殺害した菊池さんは父方の祖母に当たり、菊池さんと暮らしていた長男は、鈴木被告にとって伯父に当たる。 鈴木被告は矢祭町内の中学校を卒業後、建築板金の職人として茨城県で働き始めた。職場の人間関係に悩み、矢祭町に戻ってきた。技術を生かそうと町内の建築板金業で働き、昨年秋に独立して一人親方となった。平均月40万円は稼いでいたという。町内の母方の実家で母親とは別に暮らしていた。 収入は、経費や健康保険代、税金などが引かれるとしても、家賃を支払う必要がないと考えれば十分な額だ。それでも菊池さんに十数万円の借金をしていた。借金について、鈴木被告は「車や仕事道具に出費し管理ができなかった」「ばあちゃんには甘えているところがあった」と述べている。 菊池さんの口座に大金があると知ったのは、状況から見て1年前にさかのぼる。矢祭町に帰ってから、菊池さんの資金援助を得て運転免許証を取得した被告は、昨年9月に運転ができない菊池さんに頼まれ、塙町内の金融機関へ現金を引き出しに連れていった。ATMの前で、操作方法を菊池さんに教える鈴木被告の画像が残されている。そこで、口座にある金額を知ったというわけだ。 今年1月20日には、鈴木被告は交際相手を連れて菊池さんを訪ね、カネを無心している。「妊娠したので検査費用が必要」と話したという。 この話は、菊池さんが、栃木県へ嫁いだ自身の妹に電話で伝えていた。殺害される3日前の2月6日の電話では、1月の借金は「断った」と話した。交際相手とのその後について、裁判官が鈴木被告に質問したが「自分はもう分からない」と答えた。裁判中にそれ以上聞かれることはなかった。 情状酌量は一切なし 事件現場となった被害者の自宅 鈴木被告は「車の修理代にカネが欲しかった」と言っており、菊池さんに断られた時点で盗むしかないと考えた。これだけでも身勝手ではあるが、鉄パイプを持ち込んだことで取り返しのつかない事件を起こしてしまったというわけだ。 菊池さんの次男に当たる鈴木被告の父親は、弁護側の証人として出廷し、「事件については整理できず何とも言えない」と複雑な立場にある心情を話した。「バカ親と言われるのは仕方ない」と断ったうえで「家族間の事件」と捉えていると打ち明けた。そして、「できれば息子が罪を償った後は引き取りたい」と訴えた。母親も出廷し、幼少期から暴力とは無縁だったと証言した。 一方、同居する母親を殺された長男は「家族間の事件」では済まないと代理人を通して思いを伝えた。鈴木被告にとって「かあちゃん(菊池さん)は弱く、身近で簡単にカネを取れる存在だった」と指摘し、「どうして高齢の女性にあんなひどいことができるのか。敬斗は社会一般では私の甥かもしれないが、私からすれば『犯人』に他ならない」と刑務所行きの厳罰を求めた。 地裁郡山支部で9月15日に開かれた判決公判には約35の一般傍聴席に対し70人近くが抽選に並んだ。筆者は同7日の初公判と、翌8日の被告人質問は傍聴券を手にしたが、肝心の判決は約2倍の倍率に阻まれた。判決は抽選に当たった傍聴マニアから聞いた。彼によると、 「少年だとか情状酌量とかは一切なかったね。裁判長は判決とは別に、被告に『立ち直れると期待している』と言っていたよ。でも、判決は無期でしょ。それはそれ、これはこれなんだろうね」 強盗殺人罪の法定刑は死刑か無期懲役だ。無期懲役は仮釈放が認められるまでに最低30年はかかると言われている。鈴木被告は仙台高裁に控訴中。まだ若い被告にとって納得できない判決だろう。 鈴木被告の最後の支えとなるのは、証人として出廷した両親しかいない。最後まで味方でいてくれる肉親の温かさを感じれば感じるほど、鈴木被告は、最も大切で頼りにしていた家族(菊池さん)を殺された長男の気持ちに向き合わなければならない。一度は自分自身を徹底的に否定する心情になることは必至で、全人生に付きまとうだろう。
(2022年10月号) 須賀川市の「無量寺」(小山宗賢住職)で、檀信徒が屋根葺き替え工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたところ、寺側が拒否したため、檀信徒から「何らかの不正があったのではないか」と疑われる事態に発展している。宗教法人の財産は公開が原則のはず。騒動を追った。 住職と役員の隠蔽体質が露呈 須賀川市雨田字宮ノ前にある無量寺は天台宗で、法人登記簿によると設立は1953(昭和28)年、基本財産は総額348万6000円。代表役員(住職)の小山宗賢氏は2008(平成20)年に就任した。檀信徒数は約420。 そんな無量寺では4年前、老朽化していた本堂屋根の葺き替え工事を行っていた。責任役員2名と総代1名を正副委員長とし、檀信徒二十数人や小山住職などを委員とする「本堂屋根葺き替え建設委員会」(佐藤和良委員長。以下、建設委員会と略)を設立。工事に関する協議は同委員会のもとで行われた。 その結果、①設計監理は土田建築設計事務所(須賀川市)、②施工は大柿建業(同)、③工事資金は1836万円、④工期は2018年10月から19年3月末等々が決まった。 工事資金計画表によると、1836万円の内訳は檀家からの寄付が1059万円、無量寺特別会計からの充当が707万円、金融機関からの借り入れが70万円。ここから大柿建業に約1720万円、土田建築設計事務所に約56万円、残りを会議費、雑費、予備費に充てる計画だった。 その後、葺き替え工事が始まり、予定より3カ月早い2018年12月末に工事は終了。19年1月に建設委員会による立ち会い検査を経て引き渡しが行われた。 竣工を受け、建設委員会が檀信徒に宛てた報告文書には次のように書かれている。 《檀信徒の皆様には何かと出費の多き折りにも関わらず、多くのご寄付をいただきました。(中略)土田建築設計事務所には契約の回数以上に現場に足を運んでいただき、きめ細かい指導・監理をしていただき、工事をスムーズに進めることが出来ました。大柿建業は、設計事務所が称賛するほど丁寧で誠実な仕事ぶりでした。さらに、当初の想定よりも屋根下の腐食が酷く、野地板・垂木に加えて、その下の根太も交換しなければならない個所もありました。この想定外の修復に関しては別途支払いの契約でしたが、大柿建業では追加料金(約26万円)の請求をせず、ご寄付として入札代金内で対処していただきました》 収支決算報告書によると、当初予定より寄付が多く集まったため金融機関から借り入れする必要がなくなり、収入総額は約1812万円。これに対し、支出総額は約1781万円で、差し引き31万円が特別会計に戻された。同報告書には「2019年3月5日に監査を行ったところ適正だった」とする監事2名の印鑑も押されていた。 一見すると、何の問題もなく工事は完了し、決算報告も終えたように映る。しかし、檀信徒の関根兼男さんは工事が始まった直後から、さまざまな疑問を呈していた。 「工事を見ていておかしいと思うことが度々あり、その都度、建設委員会の佐藤委員長や小山住職、土田建築設計事務所に質問をぶつけていた。しかし『あなたには関係ない』と取り合ってもらえなかった。私は檀信徒で工事資金も寄付しているので関係なくはない。にもかかわらず工事中の寺に入って写真を撮っていたら、建設委員会の生田目進副委員長に『不法侵入で警察を呼ぶぞ』とまで言われた」(関根さん) まるで“邪魔者扱い”されていた関根さん。実は、関根さんは大工で、建設委員会が2018年8月に行った施工者を決める入札に参加し約1840万円で札入れしたが、前出・大柿建業より高かったため工事を受注できなかった経緯がある。 「受注はできなかったが、檀信徒としてだけでなく、大工としても工事の進め方に関心があったので現場に足を運んでいただけ。そしたらおかしいと感じる場面を度々見掛けたので、これは建設委員会や小山住職に言うしかないと思って」(同) 具体的には▽足場と落下防止ネットは間違いなく取り付けられていたか、▽腐ったり痛んだりしていた垂木、野地板、広木舞は交換されたのか、▽塗料は当初指定のものが使われたのか――など。つまり、関根さんの目には工事が適正に行われていないと映ったわけだが、これらを適正に行うと、例えば金額は100万円かかるのに、仮に▽足場と落下防止ネットがきちんと取り付けられていなかった、▽垂木、野地板、広木舞が交換されていなかった、▽指定とは別の塗料が使われていた――とすれば80万円で収まり、予算は決算報告より余った(使われなかった)可能性があるというのだ。そうなると、余った金はどこにいったのかという問題も浮上してくる。 関根さんは入札前に建設委員会から渡された見積書に、工事項目ごとに細かく金額を書き込んで札入れしたが、 「その工事項目と実際に行われている工事が違っていた。例えば見積書の塗装工事欄は『オスモカラーを使え』となっていたので、それに沿った金額を書いて札入れしたのに、実際の工事ではオスモカラーは使われていなかった」(同) 要するに関根さんは「これでは真面目に見積もりをした意味がない」と言いたいわけ。 しかし前述の通り、建設委員会や小山住職は関根さんの質問に耳を貸さなかった。おそらく両者は「工事を受注できなかった腹いせに難癖をつけている」としか捉えていなかったのかもしれない。 無関係の弁護士に対応を〝丸投げ〟 一方、土田建築設計事務所は、設計監理の契約先は無量寺であり、契約先を差し置いて関根さんの質問に答えるのは馴染まないとして、東京都内の松田綜合法律事務所(以下、松田法律事務所と略)を代理人に立てて対応を一任した。 そんな孤軍奮闘の関根さんに、ようやく援軍が現れたのは2021年4月。雨田地区の総代になった瀬谷広至さんが問題に関心を示してくれた。以降は関根さんと瀬谷さんの二人で、建設委員会や小山住職、土田建築設計事務所や大柿建業などにアプローチを試みているが、解決に向けた成果は得られていない。 「関根さんの話を聞き、もしおかしな点があるなら正すべきと考え一緒に調査に乗り出した。しかし、建設委員会や小山住職は『一人二人の言い分に取り合っていたらキリがない』と私たちの疑問に向き合おうとしない」(瀬谷さん) 関根さんと瀬谷さんは今年2月、建設委員会と小山住職に対し、工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたり、工事の進め方を尋ねるなど10の申し立てからなる提案申立書を提出した。すると同4月、建設委員会から「土田建築設計事務所の代理人である松田法律事務所に問い合わせてもらうという結論に達した」との回答が届いた。 関根さんと瀬谷さんは、建設委員会メンバーや複数の檀信徒から「佐藤委員長が『弁護士に任せたので一安心』と言っていた」とか「小山住職が『弁護士に任せることに異論はないか』と建設委員会メンバーに多数決を取っていた」という話を聞いていた。まるで建設委員会と小山住職が松田法律事務所に代理人を依頼したかのような口ぶりだが、そうではない。同事務所が同3月に建設委員会に宛てた文書にはこう書かれている。 《貴委員会(※建設委員会)は、無量寺の檀信徒である瀬谷広至氏及び関根兼男氏から、令和4年2月13日付の「無量寺本堂屋根葺き替え工事に関する書類の閲覧及び質問並びに提案申立書」に記載されている各事項についての質問を受けている件について、当社(※土田建築設計事務所)に対し質問を行い、回答を求めておられます。 当社は無量寺から、本堂屋根の瓦葺き替え工事の設計監理業務の委託を受けたところ、当該業務は適切に遂行されており、貴委員会及び無量寺に対し負うべき責任はなく、特別対応すべき義務はないものと認識しております》 松田法律事務所は建設委員会からの問い合わせに「土田建築設計事務所の代理人」として対応している様子がうかがえる。 「建設委員会メンバーや檀信徒の中には、佐藤委員長や小山住職が弁護士を雇ったと勘違いしている人が多い。しかし、松田法律事務所はあくまで土田建築設計事務所の代理人にすぎず、両者の代理人ではない。にもかかわらず両者は、無関係の松田法律事務所に回答を〝丸投げ〟しようとしたのです」(瀬谷さん) 本誌が松田法律事務所に問い合わせると、担当弁護士もこのように話していた。 「私たちは土田建築設計事務所の代理人であり、建設委員会や小山住職とは関係ない。しかしどういうわけか両者は、私たちが両者の代理人も兼ねていると勘違いしているフシがある。両者には『それは誤解だ』という趣旨の手紙を出したが、きちんと理解してくれたかどうか」 こうなると、佐藤委員長や小山住職は代理人契約を交わしていないにもかかわらず「弁護士に任せた」と建設委員会メンバーや檀信徒にウソをついた可能性も出てくる。 ちなみに担当弁護士は、土田建築設計事務所の仕事ぶりについて 「無量寺との契約に基づき適切に行った。監理設計料も適正な金額だったと思います」 と強調。一方で、関根さんと瀬谷さんに対してはこうも語った。 「檀信徒が寺に関する情報の開示を求めるのは当然。それに寺が応じようとしたものの、依頼人(土田建築設計事務所)に聞かなければ分からない事案が出てきたら、依頼人は寺と監理設計契約を結んだ立場上、寺側に答える用意はある。ただ、契約関係にない檀信徒の質問に答えることはできない」 つまり、関根さんと瀬谷さんの質問に無量寺が答えるなら、土田建築設計事務所(松田法律事務所)は協力するというわけ。 土田建築設計事務所にも直接話を聞こうとしたが「弁護士にすべて任せている」と断られた。 60人超の檀信徒が「署名」に協力 工事を行った大柿建業は何と答えるのか。 「工事は4年前なので細かい点は覚えていないが、垂木が腐っていたので交換し、その後、野地板を張って瓦をかけて塗装と、予定外の作業が結構あった。腐った個所に足場をかけると崩落する恐れがあるため、順番に直しながら足場をかけていった。予定外の作業が出た場合はその度に土田建築設計事務所に連絡し、一緒に現場を見てもらった。工期は(2019年)3月までだったが、12月を過ぎると雪で屋根に上がるのは危険なため、作業を急いだ記憶がある。工事代金は千五百数十万円で、そこに消費税が加わり千七百数十万円が振り込まれたはず。その時の銀行の通帳は残っているので、それを見れば正確な金額は分かる」 前述の通り、寺から大柿建業に工事代金として支払われたのは約1720万円なので、発言の金額と照らし合わせると間違いなく支払われたと見てよさそうだ。 「他人がどう評価しているか分からないが、ウチとしては精一杯の工事をやったつもりだ。その時撮った作業の様子や工事個所の写真は、すべて寺に渡した。関連の資料も寺に残っているはず。えっ、檀信徒がそれを見せろと言っているのに寺は見せないんですか? すべて見せれば疑いは晴れると思うんだが」(同) 松田法律事務所と大柿建業に共通するのは「なぜ寺側は隠そうとするのか」「すべて公開すれば済む話」というもの。裏を返せば「後ろめたいことがあるから隠したがっている」となるが、真相はどうなのか。 そもそも宗教法人が財産に関することを公開しないのはおかしい。宗教法人法第25条第3項によると、宗教法人は財産目録、収支計算書、貸借対照表、境内建物に関する書類、責任役員らの議事に関する書類や事務処理簿などについて、信者らから閲覧請求があった時は閲覧させなければならない。宗教法人を管轄する県私学・法人化に確認すると「会計帳簿などの資料は閲覧の対象外」というので領収書は見られないようだが、葺き替えた屋根が「寺の財産」に属することを踏まえると、関根さんと瀬谷さんが確認しようとするのは檀信徒として当然の権利だ。 関根さんと瀬谷さんは、前述・今年4月に寄せられた建設委員会と小山住職の回答に納得がいかないとして、すぐに再質問書を送ったが返事はなかった。そこで2人は、約420ある檀信徒を一軒一軒回り事情を説明、寺側に誠実な回答を求める署名に協力してほしいと要請した。すると、同9月中旬までに全体の7分の1以上に当たる60人超が署名してくれた。 「檀信徒の中には『本当は署名したいが、住職には法事などで世話になっているので勘弁してくれ』という人も結構いた。署名集めを通じ、私たちが思っている以上に、建設委員会や小山住職のやり方に不満を持っている檀信徒が多いことがよく分かった」(関根さん) 署名集めの過程では、新たに阿部計一さんも「自分もかつて、佐藤委員長に別の建物工事の明細書を見せるよう求めたが、結局見せてもらえなかった」として関根さんと瀬谷さんに協力する意向を示し、現在は3人で活動中だ。 同9月下旬には、集めた署名を再々質問書と一緒に建設委員会の正副委員長や小山住職らに送り、回答を迫っている。一人二人ではなく、60人超もの檀信徒が不信感を露わにしているのだから、事態は深刻だ。 求められる「公開」と「公平」 本誌は小山住職に取材を申し込んだが「私から話すことは何もない。すべて建設委員会で決めたことだ」と終始逃げの姿勢だった。 建設委員会の佐藤委員長には質問書を送り、電話でも「期限までに回答するか、直接お会いしたい」と伝えたが「私の一存で答えるわけにはいかない。建設委員会で協議し対応を検討したい」と言ったきり、文書等での回答もなければ、記者がかけた電話に出ることもなかった。 県北・県中地方の2人の住職に今回の問題について感想を求めると、次のように話してくれた。 「ウチの寺でも数年前に屋根の葺き替え工事をしたが、作業の手順、入札、お金の動きなど工事に関係するものはすべて公開した。どんなに些細なことも檀信徒の許可をもらってから進めることを心掛けた。工事資金の大半は檀信徒からの寄付なので、当然の進め方だと思う。工事途中には檀信徒を対象に見学会もやった。無量寺さんはすべて公開すれば疑われることはないのに、なぜ隠そうとするのか」(県北地方の住職) 「昔より信仰心が薄れる中、寺と檀信徒によるトラブルは大なり小なり増えている。そこで意識したいのは寺が日頃、檀信徒とどう付き合っているかだ。葬儀や法事だけが寺の仕事ではない。寺の本来の仕事は檀信徒への法施。特定の人と親しくするのではなく、すべての檀信徒と向き合い、公平に付き合っていれば不満は出ない」(県中地方の住職) 「公開の大切さ」と「公平な付き合い」を説いてくれた両住職。真逆の行動をする建設委員会と小山住職に、この言葉が響けばいいのだが。
土壌・地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所が、土壌汚染対策法に基づき敷地内の土壌汚染原因とみなしている8物質のうち、4物質しか住民に報告していないことが分かった。同社が県に提出した文書と住民への説明の食い違いから判明。「住民に知らせなかったということか」という本誌の問いに同社は明確に答えていない。住民に知らせなかった4物質は、事業所敷地内でも周辺でも未検出か基準値内に収まり、深刻な汚染には発展していないが、住民は「隠蔽を図ったのではないか」と不信感を強めている。 ※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。 住民にひた隠しにした4種類の有害物質 汚染を除去する工事が進められている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所 喜多方事業所の敷地内で土壌汚染を引き起こしているとみなされている有害物質は表で示した8物質。シアン、ヒ素、フッ素、ホウ素は2020年に計測し、基準値を超える汚染が判明。残りの六価クロム、水銀、セレン、鉛は、実際の分析では基準値超過はみられないが、使用履歴や過去の調査からいまだに汚染の恐れがある。敷地は土壌汚染対策法上、この8物質により「土壌汚染されている」とみなされており、土地の変更を伴う工事が制限される。 昭和電工喜多方事業所敷地内で土壌汚染の恐れがある8物質 基準値を超過基準値を下回るor未検出シアン六価クロムヒ素水銀フッ素セレンホウ素鉛 ここで土壌汚染対策法の説明が必要になる。同法が成立したのは2002年。工場跡地の再開発などに伴い、重金属や有機化合物などによる土壌汚染が判明する事例が増えてきたことを背景に、汚染を把握・防止して健康被害を防ぐために制定された。汚染が判明した場合、その土地の所有者は汚染状況を都道府県に届け出なければならない。 汚染が分かった土地の所有者には調査義務が生じ、期限までに調査結果を都道府県に報告する必要がある。昭和電工喜多方事業所の場合、2020年に同社が行った調査で汚染が判明し、同11月に公表。公害対策のため、大規模な遮水壁工事や汚染土壌の運搬などを迫られた。 土壌汚染調査は、土地の所有者が環境省から指定を受けた「指定調査機関」に依頼して行う。喜多方事業所の場合、土地調査に関するコンサルティング大手の国際航業㈱(東京都新宿区)に依頼している。 土壌汚染対策法が定める特定有害物質は、揮発性有機化合物からなる第一種(11種類)、重金属などからなる第二種(9種類)、農薬などからなる第三種(5種類)に分かれる。全部で25種類になる。 喜多方事業所で土壌汚染が認められる8物質は全て重金属由来のものだ。戦中から約40年間、アルミニウム製錬工場として稼働しており、その過程で発生した有害物質を敷地内に埋めていたことで汚染が発生している。工場の生産工程で使用していたジクロロメタン、ベンゼンの有機化合物は、2020年にそれぞれ敷地内で計測したが、いずれも不検出だった。 基準に適合していない場合は、土地の所有者は「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に指定するよう都道府県に申請する。都道府県は周辺の地下水までの波及を把握し、住民が生活に利用して健康被害のおそれがある時は要措置区域に指定、汚染の除去を指示し、土地の所有者は期限までに必要な措置を講じなければならない。 健康被害のおそれがない場合は、制限の少ない形質変更時要届出区域の指定のみで済み、工事などで土地に変化がある際に計画を届け出すればよい。 公文書で判明 喜多方事業所は所有地の一部をケミコン東日本マテリアル㈱に貸している。届け出は同事業所が使用している土地と貸している土地に分けて申請され、全敷地が要措置区域と形質変更時要届出区域に重複して指定されている。汚染公表の2020年11月から5カ月後の21年4月に県から指定を受けた後、汚染除去の工事が始まった。有害物質が流れ込んだ地下水が敷地外に拡散しないよう敷地を遮水壁で覆い、地下水を汲み上げる方法だ。地下水は有害物質を除去し、薄めたうえで喜多方市の下水道や会津北部土地改良区が管理する用水路に流している。汚染土壌の運搬も進めている。 喜多方事業所以外にも汚染された土地はある。都道府県は指定した土壌汚染区域の範囲を台帳に記して公開しなければならず、福島県では台帳の概要をホームページで公表している。詳細を知りたければ、県庁や土壌汚染対象地を管轄する各振興局で台帳を閲覧できる。 筆者が喜多方事業所による「有害物質のひた隠し」に気づいたのは、この台帳を見たからだった。県に提出した文書では、冒頭に述べた8種類の有害物質で土壌汚染されていることを認めているが、住民には、「汚染が見つかったのは4物質」と事実の一部のみを説明し、残り4物質については汚染の恐れがあることを伏せていたのだ。 「要措置区域台帳」を見ると、生産工程での使用や過去の調査の結果、汚染の恐れがあるとみなされたのは重金属由来の有害物質(第二種特定有害物質)のうち前述の8種類。試料採取等調査結果の欄は全て「調査省略」とある。しかし、結果は土壌溶出量、土壌含有量とも基準は「不適合」だった。 調査省略なのに基準不適合とはどういうことか。それは、「土壌汚染状況調査の対象地における土壌の特定有害物質による汚染のおそれを推定するために有効な情報の把握を行わなかったときは、全ての特定有害物質について第二溶出量基準及び土壌含有量基準に適合しない汚染状態にある土地とみなす」(土壌汚染対策法規則第11条2項)との規定に基づく。喜多方事業所は、調査を省略したことで「汚染状態にある」とみなしているわけだ。 さらに規則では、汚染のおそれのある物質を使用履歴などを調べ特定した場合はその物質の種類を都道府県に申請し、確定の通知を受けた物質のみを汚染状態にあるとみなすことができる。試料採取の調査を省略する場合は、本来は前述の規定に従い、土壌汚染対策法で定めた全25物質により汚染されていると認めなければならないのだが、喜多方事業所は工場での使用履歴や過去の調査から汚染の原因物質を特定したため、書類上は8物質のみによる汚染で済んだということだ。 台帳には、喜多方事業所が調査を省略した理由は「措置の実施を優先するため」とある。時間をかけて調査するよりも、汚染状態にあることを受け入れて本来の目的である公害対策を優先するという意味だ。 ある周辺住民は、 「8物質による土壌汚染が認められているなんて初めて聞きました。住民に知らされているのは、そのうちフッ素などの4物質だけです。これら4物質は土壌を計測した結果、実際に基準値超えが出たにすぎません。私たちが知らされた4物質以外に六価クロム、水銀、セレン、鉛があるとは聞いていません」 と話す。 「住民軽視の表れ」 喜多方事業所にも住民に説明したかどうか確認しなければなるまい。同社は「書面でしか質問を受け付けない」というので、今回も期限を設けてファクスで質問状を送った。有害物質8種類に関する質問は以下の3項目。 ①8物質で土壌汚染されていると自社でみなしている、という認識でいいのか。 ②六価クロム、水銀、セレン、鉛について、土壌や水質における基準値超過があったか。 ③「土壌汚染対策法上は事業所敷地内が六価クロム、水銀、セレン、鉛による土壌汚染状態にある」という事実を住民に伝えなかったという認識でいいのか。 「事実」は県の公文書から判明している。喜多方事業所には本誌の認識に異議や反論がないか尋ねたつもりだったが、返答は「内容が関連しますのでまとめて回答させて頂きます」。筆者は総花的な答えを覚悟した。以下が回答だ。 「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり、土壌汚染対策法に定められている土壌汚染状況調査の方法により、有害物質について使用履歴の確認および既往調査の記録の確認を行い、当該8物質を汚染のおそれのある物質として特定しております」 土壌汚染対策法上、喜多方事業所が取った手続きを述べているに過ぎず、質問に正面から答えていない。①の有害物質8種類については「汚染のおそれのある物質」と認めている。ただし、同法施行規則に従うと「汚染状態にあるものとみなされる」の表現が正しい。 ②の4有害物質については、これまで土壌や地下水を計測して基準値を超えたわけではないため、喜多方事業所は汚染原因として住民には知らせてこなかった。筆者が2022年9月時点までに同社が県に提出した文書を確認したところ、同社はこの4物質について汚染状況を計測・監視しているが、基準値超過はなかった。問題のない回答まで避けるということは、同社はもはや自社に都合の良い悪いにかかわらず何も情報を出すつもりがないのだろう。 ③については、「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり」で済ませ、本誌の「住民に伝えたか伝えていないか」との問いに対する明言を避けている。前出の住民の話からするに、「有害物質8種類で土壌汚染の恐れがある」という事実は伝わっていない可能性が高い。 本誌はさらに、「住民に伝えなかった」という認識に反する事実があれば、住民への説明資料と伝えた日時を示して教えてほしいと畳みかけたが、回答は 「個別地区に向けた説明会の質疑応答を含め多岐にわたりますのでその日時や資料については回答を控えさせていただきます」 「伝えた」と明言しない点、「伝えなかった」という認識に反する根拠を提示しない点から、喜多方事業所が土壌汚染の恐れがある有害物質の種類を住民に少なく報告し、汚染を矮小化している可能性が高い。 法律の定めに従い、県には汚染の恐れがある物質を全て知らせている一方、敷地周辺に波及した地下水汚染により実害を被っている周辺住民にはひた隠しにしてきたことを「ダブルスタンダードで、住民軽視の表れだ」と前出の住民は憤る。 しかし、住民軽視は今に始まったことではない。開示請求で得た情報をもとに取材を進めると、より深刻な事実をひた隠しにしていることが分かった。 あわせて読みたい 【第1弾】親世代から続く喜多方昭和電工の公害問題 【第2弾】【喜多方市】昭和電工の不誠実な汚染対策 【第3弾】【喜多方市】未来に汚染のツケを回した昭和電工【公害】 【第4弾】【喜多方市】処理水排出を強行する昭和電工
3月6日午後6時40分ごろ、石川町母畑字湯前の「ホテル下の湯」で火を出し、約6時間半後に消し止められた。同ホテルは数年前から休業していた。 母畑温泉の火事と言えば、ちょうど1年前、十数年前に閉館した廃旅館「神泉閣」で不審火が発生したことを本誌昨年4月号でリポートしたが、ホテル下の湯は日中、経営者がおり、鍵もかかっていたため不審火ではなさそう。 鎮火の翌日(8日)、現場を訪れると、一帯には焼け焦げた臭いが充満していた。作業をしていた消防署員によると「出火原因は不明。いくつか思い当たる箇所はあるが、これが原因とは現時点で断定できない」。ただ、消防署員たちはコンセントや電源プラグの状況を念入りに調べており、その辺りが「思い当たる箇所」なのかもしれない。 同ホテルは㈲ホテル下の湯(資本金1000万円、永沼幸三郎社長)が経営。登記簿謄本によると、敷地内には3階建ての旅館、5階建ての集会所・ホテル、2階建ての居宅、2階建ての共同住宅が建っていた。焼け跡を見る限りはどれがどの建物か判然としなかったが、複数の建物が密集していることは分かった。 現場にいた永沼社長に話を聞くことができた。 「この2日間、第一発見時の様子や出火時間など、同じことを十数回も聞かれてウンザリしているよ」(永沼社長) 取材途中にはお見舞いを持って訪れる人もいたが、永沼社長は「気持ちだけで十分。(お見舞いは)いらないよ」と丁重に断っていた。 「鎮火直後から友人・知人が何十人も来ているが(お見舞いは)全て断っている。塩田金次郎町長も来てくれたが、同じく断ったよ。気持ちだけ受け取れば十分だからね」(同) 建物は最も古い箇所で築60年になり、もともと老朽化していたが、そこに令和元年東日本台風の水害が襲った。同ホテルは北須川のすぐ横に建ち、1階が床上浸水したが、建築士による被災状況調査では損害割合20%未満で「半壊には当たらない」と診断された。 満足な補償が見込めない中、永沼社長は国のグループ補助金を使って立て直しを図ろうと考え、2億7000万円の交付を求める申請書を提出した。しかし、県から「既に公募期間を終えている」などの理由で申請書を受け付けてもらえなかった。 そうこうしているうちに新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、営業再開できないまま今日に至っていた。今回の火事は、そうした中で発生したわけ。 「もっとさかのぼれば、12年前には震災と原発事故が起こり、客足が途絶えた。東京電力からは営業損害として賠償金300万円を受け取ったが、それだって逸失利益を考えると十分ではなかった」(同) 永沼社長は客にアンケート調査を行い、原発事故の影響を数値化。それを基に東電と交渉したが、それ以上の賠償は受けられなかった。 原発事故、台風水害、新型コロナウイルス、火事の四重苦に見舞われた同ホテルは今後どうなるのか。 「これから固定資産税について町と相談する予定だが、焼けた建物を解体するには億単位のカネがかかるので、簡単には決断できない。かといって、解体して営業再開するのも難しい。今後どうするかは、すぐには判断できないな」(同) 火事とそれに伴う解体は〝余計な災難〟だったが、似たような境遇に置かれているホテル・旅館は少なくないはずだ。
いよいよ本格的な春の観光シーズンを迎える。新型コロナウイルスの影響は続いている一方で、3月13日からはマスク着用ルールが緩和されるなど、かつての日常に近付きつつある。今春はいままで控えていた花見や観光に出かける人も多いのではないか。春の観光シーズンにおすすめの県内スポットを紹介する。(このページの写真撮影=地域カメラマン・渡部良寛さん) 観音寺川の桜並木(猪苗代町) 花見山から望む吾妻小富士(福島市) JR水郡線と「戸津辺の桜」(矢祭町) 小川諏訪神社のシダレザクラ(いわき市) 観音沼森林公園の春紅葉(南会津町) 田人町のクマガイソウ群生地(いわき市)
本が好きな人間にとって、書棚に多くの本が並べられている光景は憧れであり、読書欲を刺激されるもの。〝読書の秋〟に合わせて、県内の読書家の自宅、書店、古書店を訪問し、さまざまな書棚を見せてもらった。 深瀬幸一さん(福島市在住) 元高校教諭(国語)で、定年退職後も教壇に立つ。好きな本はドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』。「人間の深さを描いた作品。5回は読みました」(深瀬さん)。上の写真は深瀬さんの実家の書棚で、隣接する自宅にも書棚がある。著書『るつぼの中の国語教師』。 石川屋(田村市常葉町) 海外の作家の希少な絵本も取り扱っている 東北でも数少ない絵本専門の書店。壁面に設けられた書棚に国内外の約2000冊の絵本が並ぶ。石井修一代表はすべての絵本の中身を把握しており、来店客から相談を受けることも多いとか。2014年に全面改装後は県外からも絵本ファンが足を運ぶ。 田村市常葉町常葉字中町36番地☎︎0247(77)2001営業時間9時〜18時30分 八木沼笙子さん(福島市在住) 長年編集業に携わっており、文学・美術など幅広い分野の書籍を所蔵する。「引っ越しや火災で好きだった本を一部消失してしまいました。さらに福島県沖地震で本棚が壊れたので、自宅内に分散して置いています」(八木沼さん)。日本文学の初版本の復刻版(写真右)は大量に譲り受けたもの。聖書や昭和史に関する大判の図説(写真下)は執筆の下調べに使う。 スモールタウントーク(郡山市) サブカルチャー関連の書籍や雑誌、写真集などをそろえる古書店。郡山市出身・在住で、映画、写真、雑誌文化など幅広い分野に関心を持つ黒田真市さんが2009年に開店。住宅地の中にあり、まるで学生時代、友人の部屋に遊びに来たような雰囲気を味わえる。 郡山市安積町荒井字荒井12☎︎090(5848)1490営業時間12時〜19時30分
1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場 郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所 要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 (前田公園前十字路)見通し市53大平町字前田116-2見通し市54大平町字御前田53見通しなし55大平町字御前田59-45見通し市56大平町字向川原80-4見通しなし57荒井町字東195見通し市58阿久津町字風早87-2見通し市59舞木町字岩ノ作44-6見通し市60町東一丁目245見通しなし61町東二丁目67見通しなし62町東三丁目142-2見通し市63新屋敷1-91見通し市64富田町字墨染18見通し公安65富田町字十文字2見通し市66富田町字大十内85-246ヒヤリ市67富田町字音路90-20見通し市68富田東二丁目1優先市69富田町字細田85-1優先公安70富田町日吉ヶ丘53優先市71大槻町字西宮前26ヒヤリ公安72大槻町字南反田18−3ヒヤリなし73大槻町字室ノ木33-8見通し市74大槻町字原田東13-93ヒヤリ市75大槻町字葉槻22-1優先市76笹川一丁目184-32見通し市77安積一丁目155見通し市78安積一丁目38見通しなし79安積町二丁目350番1見通し公安80安積町日出山字一本松100番18見通しなし81三穂田町川田二丁目62-2見通し市82三穂田町川田三丁目156見通し市83三穂田町川田字駒隠1-4見通し公安84三穂田町川田字小樋41見通し公安85三穂田町川田字北宿3-2見通し公安86三穂田町野田字中沢目9見通し公安87三穂田町鍋山字松川53見通しなし88三穂田町駒屋二丁目62ヒヤリ市89三穂田町駒屋字上佐武担2-2見通し公安90三穂田町八幡字北山10-13見通し公安91三穂田町八幡字北山7-12見通しなし92三穂田町富岡字下茂内56見通し市93三穂田町富岡字下間川67ヒヤリ公安94三穂田町富岡字藤沼18-9見通しなし95三穂田町山口字横山5-4見通しなし96三穂田町山口字川底原22優先公安97逢瀬町多田野字清水池125見通し市98逢瀬町多田野字上中丸56-1見通し市99逢瀬町多田野字家向61見通し市100逢瀬町多田野字柳河原77-2優先市101逢瀬町多田野字南原26見通し市102逢瀬町河内字西荒井123優先市103逢瀬町河内字藤田185見通し公安104片平町字庚坦原14-507優先市105片平町字元大谷地27-3優先市106片平町字森48-2優先市107片平町字新蟻塚99-5見通し市108片平町字樋下68優先市109東原一丁目44見通しなし110東原一丁目120見通し市111東原一丁目229見通し市112東原一丁目250見通し市113東原二丁目127見通し市114東原二丁目141見通し市115東原二丁目235見通し市116東原三丁目246ヒヤリ市117喜久田町字双又30-19見通し市118喜久田町堀之内字北原6-9優先市119喜久田町早稲原字伝左エ門原優先市120日和田町高倉字牛ケ鼻130-1優先市121日和田町高倉字鶴番367-1優先市122日和田町高倉字南台23-1見通し公安123日和田町梅沢字衛門次郎原123優先市124日和田町梅沢字衛門次郎原150-2見通し市125日和田町梅沢字新屋敷115-1見通し市126日和田町字鶴見坦139優先市127日和田町字鶴見坦88優先市128日和田町字鶴見坦156優先市129日和田町字沼田29-1見通しなし130日和田町字原町25-1見通し市131日和田町字水神前145優先市132日和田町字水神前169優先市133日和田町字水神前184優先市134日和田町字境田17優先市135日和田町字鶴見坦40-54見通し公安136八山田二丁目204優先市137八山田三丁目204優先市138八山田四丁目160優先市139八山田五丁目452優先市140八山田西二丁目242優先なし141八山田西三丁目149優先なし142八山田西三丁目164優先なし143八山田西四丁目9優先市144八山田西四丁目30優先市145八山田西四丁目83優先なし146八山田西四丁目179優先市147八山田西五丁目284優先市148富久山町八山田字細田原3-18見通し市149富久山町八山田字坂下1-1優先市150富久山町八山田字舘前103-2見通しなし151富久山町八山田字菱池17-4見通し市152富久山町久保田字本木93見通し市153富久山町久保田字我妻117優先市154富久山町久保田字我妻136優先なし155富久山町久保田字石堂35-4優先市156富久山町久保田字石堂22優先市157富久山町久保田字本木54-2見通しなし158富久山町久保田字我妻79-1見通し市159富久山町久保田字麓山115-3見通しなし160富久山町久保田字麓山54-3見通しなし161富久山町久保田字三御堂12-2優先市162富久山町久保田字三御堂15-1優先なし163富久山町久保田字下河原123-1優先市164富久山町久保田字下河原38-2優先市165富久山町久保田字古坦131-4優先なし166富久山町久保田字三御堂122-2優先市167富久山町久保田字三御堂129-10優先なし168富久山町福原字猪田29-1見通し市169富久山町福原字左内90-63見通し市170湖南町三代字原木1148優先市171湖南町三代字御代1155-2優先市172湖南町福良字畑田181-1優先市173湖南町舟津字ヲボケ沼1見通し市174湖南町舘字上高野52優先市175熱海町安子島字北原24-54見通し市176上伊豆島一丁目25見通し市177田村町小川字岡市6見通し市178田村町小川字戸ノ内80-4見通し市179田村町山中字上野90-2見通し市180田村町山中字鬼越91-1見通し市181田村町山中字鬼越518-3優先市182田村町山中字枇杷沢264-6見通し市183田村町金沢字大谷地234-10見通し市184田村町谷田川字北田9見通し市185田村町谷田川字町畑11-1見通しなし186田村町守山字湯ノ川85-1見通し市187田村町正直字南17-1見通し市188田村町正直字北22-3見通し市189田村町金屋字水上35-1見通し市190田村町金屋字水上4見通し市191田村町金屋字マセ口14-2見通し市192田村町金屋字西川原80-3見通しなし193田村町上行合字北古川97優先市194田村町下行合字古道内122-2優先市195田村町下行合字宮田130-25優先市196田村町手代木字三斗蒔34優先市197田村町手代木字永作236-1優先市198田村町桜ケ丘一丁目59優先公安199田村町桜ケ丘一丁目170見通し公安200田村町桜ケ丘一丁目226見通しなし201田村町桜ケ丘二丁目1見通し市202田村町桜ケ丘二丁目2見通し市203田村町桜ケ丘二丁目27見通し市204田村町桜ケ丘二丁目90見通し市205田村町桜ケ丘二丁目115、297-17見通し市206田村町桜ケ丘二丁目144見通し公安207田村町桜ケ丘二丁目203見通し市208田村町桜ケ丘二丁目295-54見通し市209田村町桜ケ丘二丁目365見通し市210田村町守山字権現壇165-1見通し市211西田町鬼生田字前田407優先公安212西田町鬼生田字石堂1194優先市213西田町土棚字内出694-2見通しなし214中田町下枝字五百目55見通し市215中田町柳橋字石畑520-9見通し市216中田町柳橋字久根込564優先市217中田町柳橋字小中里217優先市218中田町牛字縊本字袋内1-1優先市219中田町高倉字弥五郎253優先市220中田町高倉字弥五郎202見通し市221中田町高倉字三渡13-2見通し市222中田町高倉字宮ノ脇198-1見通し市 また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い 東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない 郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影) さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故
福島市のイオン福島店西側の車道で車を暴走させ、歩道に乗り上げて歩行者1人を死なせ、前方の車に乗っていた4人にけがをさせたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われている97歳の男に4月12日午後2時、福島地裁で判決が言い渡される。裁判では、男が5年前に妻を亡くし一人暮らしをしていたこと。自炊しないため外食が日課となり、その帰りに事故を起こしたことが明らかとなった。 被告の波汐国芳氏(福島市北沢又)は1925(大正14)年生まれ、いわき市出身。全国区の歌人として知られ、福島民友では事故前まで短歌の選者を務めていた。 波汐氏は事故直後に逮捕されたが、高齢ということもあり現在は釈放中で、老人ホームに入所している。波汐氏は杖をつき、背広姿で法廷に現れた。腰は曲がっている。入廷時に傍聴席と裁判官、検察官それぞれに向かって深く礼をした。頭は年齢の割に豊かな白髪で覆われていた。足つきはおぼつかないが、ゆっくりと証言台まで自らの足で歩いた。 波汐氏は民間企業に勤める傍ら、53歳ごろに運転免許を取得した。95歳の時に高齢者講習と認知症検査をパスし、1日に1回のペースで運転を続けていた。だが、近隣住民によると、車庫入れの際にはバックで何度も切り返していたという。 そもそも97歳の超高齢者が車を運転し、毎日どこに行く必要があったのか。自宅があるのは、車や歩行者が行き来する大型商業施設の周辺で日中から夕方は特に混み合う。にもかかわらず車で出かける理由は、波汐氏が2018年に妻を亡くし、一人暮らしとなったことが関係している。食事は買い置きのパンを食べるほかは「自分では作らなかった」という。 毎日午前10時ごろに起床していたため、1日2食で済ませた。そのうち1食は車を運転し、2㌔ほど離れたとんかつ店で食事をした。歩くには遠い。波汐氏は高齢で腰を痛めていたこともあり、その選択肢はなかった。自宅からこの店に車で向かうには、交通量の多い国道13号福島西道路とイオン福島店付近を通らなければならない。昨年11月19日夕方に歩行者を死なせた事故を起こした時も、その帰り道だった。 波汐氏には別に暮らす長女と長男がいる。首都圏に住む長女は毎月1回程度、様子を見に泊りがけで訪ねてきていた。他にケアマネージャーやヘルパーが自宅を訪問していた。 大事故の予兆は事故3カ月前の昨年8月にあった。車庫入れの際、自損事故を起こしたのだ。その時は普通自動車に乗っていた。破損個所は大きく、修理が必要だった。ディーラーに依頼すると「直すのと同じ値段で買い替えられる」と勧められ、軽自動車に乗り替えた。死亡事故を起こしたのはこの軽自動車だった。 普通自動車から軽自動車に乗り替えたところで根本的な解決にはならないと周囲も思ったようだ。波汐氏を定期的に診ている鍼灸師は、波汐氏の長女に「今、波汐氏はこの軽自動車に乗っている」とメールで報告していた。 波汐氏を担当するケアマネージャーは、軽自動車に傷がついているのを発見した。事故を起こす3日前の11月16日には、長女に「今は自損事故で済んでいるが、他人を巻き込む重大事故につながる恐れがある。運転をやめた方がいいと思います」とメールを送っていた。 長女自身も大事故を予見する機会があった。11月12~13日に波汐氏を訪ね、彼の運転する車に同乗した時のことだ。 「乗っていると違和感はありませんでしたが、車庫入れの際に少し違和感を覚えて、早く運転をやめさせた方がいいと思いました。車から降りて車庫入れを見ていたら、後ろの部分をこすっていました。父親に直接『そろそろやめた方がいい』と言い、実家を離れてからも毎日電話して運転をやめるよう言いました」(長女の法廷での証言) 長女はタクシー会社に契約を打診した。波汐氏がその都度配車を依頼し、その分の運賃を後日まとめて口座から引き落とす方法だ。だが、「個人とは契約していない」と断られたという。 大惨事はそれから1週間も経たないうちに起こった。 犠牲者の夫「事件は予見できた」 97歳の運転者が死亡事故を起こしたイオン福島店西側の道路 「『ママ、ママ』と9歳の娘が叫びながら倒れている妻に向かって走っていました。周りの大人が応急処置を施す中、娘はそれでも近づこうとします。遠ざけられた娘は衝撃で飛んだ妻の靴を拾い大事そうに抱えていました。警察に証拠として提出する必要があったのですが、夜になっても離しません。後で返してもらうからと説得してやっと渡してもらいました」 被害者参加制度を利用し、事故で亡くなった、当時42歳女性の夫が法廷で手記を読み上げた。時間は30分に及んだ。 事故から1カ月経って、夫は惨状を記録したドライブレコーダーをようやく見る決断ができた。妻の最期を見届けてあげたかった。何より、暴走車に引かれる直前まで妻の隣にいた娘が責任を感じ、悩んだ時に相談に乗ってあげられるようにしたい気持ちがあったという。 夫の怒りは波汐氏とその家族に向けられた。 「高齢者の運転免許返納は60~80代の議論だと私は思っていました。90歳を超えたら当然返納すべきではないでしょうか。被告の家族が同居して世話もできたし、介護サービスもあります。現に被告は釈放後に老人ホームで暮らしています。事故を起こすまでなぜ97歳の高齢者を1人にしておいたのですか。憤りを覚えます。今回のような事件が起きることは予見できたし、今まで起きなかったのはたまたまだったと思います」 波汐氏は事故原因を検察官に問われ、こう答えている。 「ブレーキと間違ってアクセルを踏んでしまった。的確にできなかった。……これは自分の運転の未熟です。……慌ててしまった」 波汐氏は耳が遠く、質問の趣旨も理解できていないようだった。「車がないと生活できないんです」「運転するのは近くの食堂に行く時だけです」。自分の発言がどう受け取られるか客観視する余裕はなかった。ちぐはぐな答えを繰り返すと、質問する側が「もういいです」と打ち切った。 今回の大事故は、波汐氏はもちろん家族や周囲の甘い考えが招いた。検察は波汐氏に禁錮3年6月を求めているが、どれだけ厳罰が下されても犠牲者が帰ってくることはない。高齢者の免許返納が進むこと、そして、運転しなくても暮らしていけるように公共・民間を問わず交通サービスを整えなければ新たな犠牲者を生むだけだ。
国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」 令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。 遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区 3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。
福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう 福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。 施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人 同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加 国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。 無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク 同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。
本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長 本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。 × × × × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員 中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。 × × × × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ 斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。 ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」
3月下旬、伊達市保原町上保原に食品スーパーとディスカウントストアの複合店舗「スーパーセンタートライアル(TRIAL)伊達保原店」がオープンする。出店場所は県道4号福島保原線沿いで、相馬福島道路伊達中央インターチェンジの近く。 交通の利便性が良く、市内初進出店舗ということもあって、注目度は高い。周辺にはヨークベニマル保原店など商業施設が出店しており、競合は必至だ。 これだけ店舗が多いエリアだと、来店客以上にスタッフの確保も大変そうだが、トライアルでは時給1000~1200円(鮮魚部門)の条件で求人を出していた。ちなみにヨークベニマル保原店(パート、惣菜製造スタッフ)は時給858円(いずれも企業ホームページより)。 市内の事情通からは「小売店経験者がトライアルに流れている」とのウワサも聞こえる。オープン前から流通戦争が始まっている。 https://www.trial-net.co.jp/shops/559/
ベスト学院(郡山市)は3月21日、「ベスト学院県立安積中専門校」を開校させた。 県立安積中学校(仮称)は、県教委が新たに県立安積高等学校内に設置する中高一貫校。開校は2025年度予定で、設置課程・学科は全日制普通科。生徒募集定員は60人で、通学区域は県下一円となっている。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業における課題研究を軸とした産学官連携や、地域との共創等を特色とする取り組み、文化活動を尊ぶ郡山市の立地を生かした教育を行う。また、教育の柱として、STEAM教育の推進を掲げ、創造性、表現力、課題解決力等を育成する、としている。 県立中学校の入学者選抜は、小学校で身につけた科目横断型の問題が出題される「適正検査1」と、与えられた条件のもとで自分の意見や感じられたことを分かりやすく適切に文章で表現する力が求められる「適正検査2」、その他「面接試験」「調査書」で行われている。 ベスト学院県立安積中専門校は入学者選抜に出題される「適正検査」に必要な力を学年ごとに指導していく。出題される問題傾向は科目の枠にとらわれず「計算処理能力」はもちろん、「資料・図を読み取る力」「読解力」「思考力」や「表現力」「探求心」等が求められる。知識を理解し、吸収する授業と演習を繰り返すことで確かな学力が身につき、県立安積中学校入学者選抜に特化した指導が受けられる専門校となっている。対象は県立安積中の一期生となる小5年生から小3年生まで。小3年生は算数と国語の2教科、小4・5年生は算数と国語の2教科に加え、理科と社会を加えた4教科コースから選択が可能。 授業は週あたり算数・国語は100分、理科・社会は50分で、従来の黒板を使用した専門講師の分析・指導による授業に加え、最新のAIを用い、一人ひとりの弱点発見と補強ができる「atama+」を活用し指導する。「得意」「苦手」「つまずき」などをAIが分析し、一人ひとりの「自分専用カリキュラム」で個別学習時間を設けることにより、つまずいた時間までさかのぼって学習できるため、最短最速で成績が上がるという。また、「県立安積中合格」という同じ目的を持った生徒が集まる環境のため、ライバルを意識できるほか、日々の授業を通して自分の学習や成績を客観的に見直すことも可能となる。 「ベスト学院は創設以来、3つの人づくりビジョンに基づいて運営しています。一つ目が子どもたちの夢達成のために全力を尽くす。二つ目が社会に貢献できる人材育成。三つ目が次世代の真のリーダー育成。これらが今後新たに開校する県立安積中高一貫校の目標と合致していると考えています。郡山市から、県内はもとより全国各地や世界中で活躍する人材を育成していきたいという思いから専門校を開校させていただきました。子どもたちの夢をしっかりと応援できるような、教育をしていきたいと考えています」(ベスト学院の担当者) ベスト学院は県内50教室以上を展開し、これまでも会津学鳳中学校等の入試での指導実績と分析力があり合格実績は抜群。高校受験だけではなく中学受験にも強い学習塾だ。 問い合わせは0120ー535ー010か、ベスト学院本部事務局☎024ー934ー3330まで。 県立安積中受験コース(ホームページ) 【受験料無料】学力確認テストに申し込む あわせて読みたい 【米アップル出身】藤井靖史さんに聞く「DXって何?」
環境水族館「アクアマリンふくしま」(いわき市)の子ども体験館「アクアマリンえっぐ」が3月20日にリニューアルオープンし、多くの観光客が訪れている。 施設をリニューアルオープン 同施設は釣り場がある子ども向けの体験型施設で、楽しみながら自然の大切さや生物の多様性、命の尊さなどを学ぶことができる。今回のリニューアルでは、はく製タッチやものづくりワークショップ、生き物調査、オリジナルのぬり絵など、いろいろな体験ができるエリアへと生まれ変わった。新たに誕生した体験プログラムは次の通り。 「いろいろミュージアム」――いろいろなはく製にさわって生物の多様性を学ぶことができる。参加料100円ではく製クイズにもチャレンジできる。 「いろいろ工房」――水族館の生き物、海や森にある素材を使ったものづくりワークショップを随時開催。つくるものは時期によって変わる。 「いろいろアーティスト」――アクアマリンふくしまの展示をイメージした、個性豊かな生き物たちのぬり絵が楽しめる。 「すくすくキッズ」――絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりすることができる親子のくつろぎスペース。 これらリニューアルオープンと同じ3月20日には、館内の生き物解説を専門とする解説員「こんべえズ」がデビューした。ごんべえズはアクアマリンふくしまをより楽しんでもらうため「ごんべえズトーク」と題したさまざまな解説を行っている。 「ごんべえズ」のメンバー 例えば、潮目の海の大水槽の展示を解説してくれる「黒潮水槽の生き物たち編」は土日、「黒潮水槽のえさのじかん編」は毎日開催している(火曜は給餌がないため、解説内容は前記の生き物たち編になる)。所要時間は15分、参加費無料。また不定期開催の「さわって学ぶはく製編」では、さまざまな生き物のはく製について解説してくれる。開催時はアクアマリンえっぐ内に掲示される。 大水槽展示の解説の様子 ごんべえズの活動は裏側の解説だけにとどまらない。「ごんべえズガイド」と題して施設のバックヤードを紹介しており、特別ツアー「バックヤード水槽大公開コース」では魚を繁殖している水槽やデビュー前の生き物を飼育する水槽が並ぶ水生生物保全センターを中心に案内してくれる。どんな生き物に出会えるかは、その時のお楽しみだ。ちなみにアクアマリンボランティアが水族館の裏側を紹介してくれるバックヤードツアーも3月25日から復活した。各ツアーの開催日時は公式サイト等で確認していただきたい。 ごんべえズの皆川裕斗さんはこのように話している。 「さまざまな体験を通して生き物や海の魅力に気付いていただければうれしいです」 生き物を通じてさまざまな体験が楽しめるアクアマリンふくしまに足を運んでみてはいかがだろうか。問い合わせは☎0246ー73ー2525まで。 前売り券を購入する 電子チケット 【アソビュー】 コンビニチケット 【セブンチケット】 あわせて読みたい 【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】
郡山市大平町の市道交差点で発生した一家4人死亡事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた福島市泉の会社員高橋俊被告(25)に対し、地裁郡山支部は4月10日、禁錮3年(求刑禁錮3年6カ月)の判決を言い渡した。 裁判では、初めて通る道路にもかかわらず、助手席に置いたスマホに知人女性から連絡があるかどうか、気にしながら運転していたことが分かった。交差点に一時停止の標識などが設置されておらず、停止線も消えかかっていたのを踏まえ、小野寺健太裁判官は「過失の程度は重大であったとまでは言えないが、結果の重大性も考慮すれば、執行猶予を付けることは相当ではない」とした。 記者は夜、実際に現場を走ったが、坂道で加速するのに見通しが悪く、減速しながら慎重に降りた。判決によると高橋被告は約60㌔で交差点に入ったというから、漫然と運転した結果が悲劇を生み出したと言える。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】
テレビ離れが進む昨今、ユーチューブの全世代の利用率は9割だ。本誌の読者層であるシニア世代も、パソコンやスマートフォンで毎日のようにユーチューブを見ている人は多いはず。数あるチャンネルの中には、県内で活動するユーチューバーも多数存在する。その中に、異色のジャンル「車中泊&グルメ」系で人気を誇る「戦力外110kgおじさん(43歳)」がいる。なぜ視聴者はこのチャンネルにハマるのか、本人へのインタビューをもとに、その謎に迫ってみたい。 【戦力外110kgおじさん】福島県内在住おじさんユーチューバーの素顔 https://www.youtube.com/watch?v=_SxScudMxQ8&t=23s 週末夜のキャンプ場。辺り一面、真っ暗の中、ポツンと明かりが灯る1台のプリウス。その車の後部座席で、一人焼肉をしながらチューハイ「ストロングゼロ」をキメる――。そんな様子をユーチューブに配信している男性がいる。男性の名は「戦力外110kgおじさん」(以下、戦力外さんと表記)。戦力外さんのユーチューブのチャンネル登録者数は10・5万人。1つの動画が配信されれば20万回再生するのは当たり前で、中にはミリオン(100万回再生)に届きそうな動画も複数ある。 「110kg」という名の通りの巨漢が、決して広いとは言えないセダンタイプのプリウスの後部座席で、好きなものをたらふく食べ、大酒を飲む。そんな動画がなぜ多くの人に見られ、そして見続けられるのか。 戦力外さんの動画はチャンネルを開設してすぐに〝バズった〟(人気が出た)わけではない。 戦力外さんがユーチューブに動画を配信し始めたのは2020年2月。当初は釣りの動画を配信していたが、再生回数は数十回程度で、チャンネル登録者数も伸びなかった。 浮上のきっかけとなったのは「顔出し」だった。 戦力外さんは「正直なところ、40代である自分らの世代ってネットで顔出しするなんて気が狂っているというか、抵抗があったんですよね」と話す。今の40代は、匿名性の高い「2ちゃんねる」などを見てきた世代であり、「インターネットでは絶対に顔を出すな」と言われてきた世代でもある。それでも、戦力外さんは再生回数を伸ばしたい一心で顔出しを決意した。 「顔出ししたら登録者が100人を超えたんですよ。ユーチューブには『チャンネル登録者数100人の壁』というのがあります。そこを自力で超えられると、収益化の条件である『チャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間』に近づくと言われています。大体の人はこの100人の壁を超えられず、やめてしまうみたいですね」 チャンネル登録者数100人に達するまで7カ月を要した戦力外さんだったが、そこから1000人になるまでは、わずか3カ月だった。 顔出しと前後して、現在の動画の原点となる「プリウスの快適車中泊キットを110kgおじさんがDIY」という動画を配信したことも追い風となった。 プリウスの後部座席で使う食卓テーブル兼ベッドを作る動画だ。プリウスは後部座席を倒してフラットにしても、普段座るときの足置きのスペースがぽっかり空いてしまう。寝袋を敷いて寝ていると、どうしても足の部分がはみ出てしまい快適に眠れない。それを解決するために作られたのがこの台だった(写真)。このときの動画が初めて再生回数1000回を超え、戦力外さんにとって初バズり動画となった。戦力外さんは「釣りではなく、車中泊に需要があるのか!」と気付き、動画の内容を車中泊系へと変更していく。 車内に設置された食卓テーブル兼ベッド 2度目のバズり動画は「車上生活者の休日シリーズ」。その後、このシリーズが戦力外さんの主力コンテンツとなっていく。 戦力外さんは「このシリーズの第1弾で、いきなり1万回再生いったんです」と言う。 「再生回数が伸びた理由は、当時チャンネル登録者数20万人のユーチューバーさんが動画にコメントをくれたからなんです」 コメントの内容は「あなたみたいな人が、もしかしたらユーチューブで成功するのかもしれませんね。収益化するまで是非続けてください。わたしも応援します」だった。 ユーチューブに限らずSNSではよく起こる現象だ。多くのフォロワーやファンを持つ配信者(発信者)が、無名ユーチューバーの動画を一言「面白い」と紹介しただけで、瞬く間にその動画が拡散されていく。これをきっかけに戦力外さんは、収益化の条件であるチャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間を達成した。 動画を通じて疑似体験 動画の冒頭は、戦力外さんが車中泊をする場所に向かう道中の運転席を映している。無言で運転する戦力外さんが映し出され、テロップでその日にあった出来事などが紹介される。動画の説明欄に「この動画は半分くらいフィクションです」とある通り、テロップの内容は現実世界で起きたことに、戦力外さんが少し〝アレンジ〟を加えたものとなっている。 名前にあるもう一つのテーマ「戦力外」。これは、戦力外さんが日々の生活において「社会に出ると全然自分が役に立たない」、「俺って会社や社会では戦力外だな」と、打ちひしがれた経験が基になっている。 視聴者のコメント欄を見ると「おっちゃん見てると他人事には思えないんだよな。職場のストレスはよく分かる! この動画を見てると頑張んなきゃって不思議と思える。おっちゃん頑張って!」などと書き込まれている。 「動画の前半部分によく出てくる職場での失敗エピソードは、視聴者が自分よりきつい環境にいる人を見て、自分はまだまだマシだなって安心したい思いがあると思います。社会の戦力外おじさんが、もがきながら、ささやかな楽しみを見つけて楽しんでいる姿を見てシンパシーを感じるのでしょうね」 取材に応じる戦力外さん メーンである動画の後半部分は、戦力外さんが車中で一人、ひたすら飲み食いするシーンだ。これがまた「食べ物がとても美味しそうで、美味しそうに食べる」動画なのだ。 視聴者のコメント欄には「見てると幸せな気持ちになれる動画を、ありがとうございます!」、「毎回、元気いただいてます」などと寄せられている。 「自分の好きなユーチューバーを見ることによって、自分もキャンプした気持ちになる。健康上の理由で食べたいけど食べられない人にとっては、私の動画を見て食べた気になる。そうやって疑似体験したいのかもしれませんね」 動画の編集時間は5時間 戦力外さんは1979(昭和54)年生まれの43歳。出身は山形県だが、幼少期から30代半ばまで猪苗代町で過ごす。学生時代は漠然と「物書きになりたい」という夢を持っていた。専門学生時代にはサブカルチャー雑誌『BURST(バースト)』にハマり、石丸元章、見沢知廉、花村萬月など、破天荒だが自由を感じるライフスタイルに憧れた。何か行動に移すということはなかったが、創作活動をしたいという思いは学生時代から抱いていた。 高校卒業後、家業である川魚の養殖業に就き、6年半前に実家を出て中通りに引っ越すタイミングで、インフラ系の会社に転職した。20代に真剣に打ち込んだのはフルコンタクト空手という格闘技だった。しかし膝のじん帯を断裂し、選手生命を断たれてしまう。 人生の大きな目標を失い「もう一つ生きがいを見つけたい」と思い立った戦力外さんが表現活動の第一歩として始めたのが、LIVEコミュニケーションアプリ「Pococha(ポコチャ)」だった。しかし、ポコチャはリスナーと直接会話するスタイルで、高度なコミュニケーション能力が要求されるため数カ月で挫折してしまう。 戦力外さんは「誰かと直接コミュニケーションせず、自分のタイミングで動画を撮り、じっくり編集できる方がいいんじゃないか」と考え、ユーチューブを始めた。 平日は会社で働き、休日になると動画撮影のため出掛ける。撮り終わったら自宅に戻って編集する。1つの動画の編集作業は平均5時間を要するが、「スマホを使ってベッドに寝ころびながらリラックスして作業しているので、そんなに大変ではないですよ」。 台本は作らず、頭の中で動画の構成を練っている。仕事は車の移動時間が長いため、その時間を有効活用し、面白いワードが出てくるのをひたすら待つのだという。 「美しいマンネリ目指す」「理想は水戸黄門とか孤独のグルメ」 戦力外さんのチャンネルの視聴層は35~60歳までが多く、男女比では男性が9割を占める。 「理想は水戸黄門とか孤独のグルメなんです。視聴率トップは取れないけど、ずっと見てくれる人がいる。美しいマンネリっていうんですかね、そんな動画でありたいですね」 戦力外さんの動画が限られた層にしか見られていないと分かるエピソードがある。戦力外さんは自身のユーチューブチャンネルを母親に薦めたそうだが、母親が熱心に見るのは猫やフォークダンスの動画で、いくら薦めても自身の息子が配信している動画を全く見なかったという。戦力外さんは「興味がなければ肉親の動画でも見ないんですよ」と笑う。 プリウスと戦力外さん ユーチューブはユーザー一人ひとりの趣味趣向に合った動画がトップ画面に表示されるような仕組みになっており、普段見ないジャンルの動画はそもそも表示もされない。これはユーチューブに限ったことではなく、買収騒動で話題のツイッターなどのSNS、ゾゾタウンなどの通販サイトも同様だ。 ただ、世の中の〝おじさん〟しか見ないニッチな動画を配信しているはずが、最近は少しずつファン層が拡大している様子。北海道に撮影に行った際、チャンネル登録しているファンの女性と奇跡的に出会い、お付き合いするまでに至ったという。 声をかけられる機会も増え、特にキャンピングカーで旅をしているシニア世代の夫婦からが多いようだ。 専業ユーチューバーへ 戦力外さんは6年半勤めた会社を辞め、12月から専業ユーチューバーとして活動を始めた。 「収入は不安定ですし、専業としてやっていくのに不安はありましたが、これからは創作活動一本で食っていくんだと決めました」 ユーチューブでの収入は「サラリーマンの月収の2倍くらい」だという。再生回数の変動などにより月の収入が100万円の時もあれば10万円の時もあるような世界だが、ユーチューブで最も広告収入を得やすいのは3月と12月なので、そのタイミングで退職を決意した。 ユーチューブは再生数によって広告収入が決まる。その単価についてはユーチューブの規約で公言しないよう定められている。戦力外さんも明かそうとしなかった。 しかし、さまざまなユーチューバーの書籍の情報によると、現在、ユーチューブの広告収入単価は1再生あたり0・05~0・7円と言われている。トップクラスの人気ユーチューバーは、1つの動画につき、サラリーマンの平均年収の3~4倍の広告収入が入る計算となる。 とは言っても、そこまで稼げるのはほんの一握りで、急に動画が見られなくなることだってあるのだ。 ただ、戦力外さんは「ユーチューブはプライベートすべてがネタになる」と前向きに捉える。 「仮にユーチューブで稼げなくなり、アルバイトをすることになっても、それを動画にすればいい。いいことも悪いこともネタにできるのがユーチューブなんです」 専業ユーチューバーになれば撮影回数を増やせるし、動画を配信する本数も増える。海外向けのチャンネル開設も目論んでいる。 「私のチャンネルは日本語のテロップを入れているので日本人しか見ません。次は世界に向けて、言葉なしでも伝わるような動画も作っていければと思っています」 戦力外さんは、テロップ無しに加え、ユーモアもプラスアルファしていきたいと考えている。 「チャップリンやミスタービーンみたいなコミカルな動きを入れていけば面白いかなと思っています」 一度見たら見続けてしまう中毒性。これがユーチューブの性質であり、作り手はそこを目指して動画を作成する。 「好きなことで、生きていく」 これはユーチューブのキャッチフレーズだが、専業ユーチューバーとして生き残っていくためには、そうも言っていられない。戦力外さんは「自分が好きなものも大事ですが、それ以上に、視聴者が求めているものを常に考え、再生回数が落ちないように維持していかなければなりません」と漏らす。 「死ぬ時、『なんであの時に専業ユーチューバーにならなかったんだ』と思いたくないんです。やった後悔よりもやらない後悔の方が悔いが残るって言うじゃないですか」 そう笑って話す戦力外さん。この先、どのようなチャンネルや動画を作り、ファンを拡大していくのか。〝おじさんユーチューバー〟の挑戦は始まったばかりだ。 追記【TBS 櫻井・有吉THE夜会で紹介】(2023年5月23日放送分)戦力外さんが紹介される! チュートリアル・徳井義実さんが、おすすめのユーチューブチャンネルを紹介するコーナーで戦力外さんを紹介!タイトルは「なぜか見てしまう!脱サラ親父の哀愁車内メシ」。23分30秒頃から。 Paravi(パラビ)で視聴する
(2022年9月号) 郡山市内の放課後児童クラブ支援員が保護者会費を横領した――。編集部宛てにこんな告発メールが届いたことを8月号で紹介したところ、記事脱稿後に市が記者会見を開き、概ね事実だったことが分かった。子どもたちの〝おやつ代〟として使われるべき金を生活費として使い込んでおり、同業者や保護者からは怒りの声が聞かれる。 公式発表前に届いた内部告発メール 一連の経緯は本誌8月号「郡山市民が呆れるアノ話題 学童保育支援員に横領疑惑が浮上」という記事で紹介した。 7月上旬、編集部宛てに以下のような内容のメールが寄せられた。 《芳賀小児童クラブで2年前ぐらいから、会計を務める主任支援員が保護者会費(保護者が支払うおやつ代などの運営費)を着服している。その額は100万円以上。市の子ども政策課は事実を把握しているが、公表しておらず、なかったことにしようとしている》 芳賀小児童クラブは放課後の間、児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育とも呼ばれる)の一つ。同小学校の校庭に建てられた施設に開設されており、児童は勉強(宿題)や運動、遊びをして過ごしている。 子どもたちの〝先生役〟となるのは「放課後児童支援員(以下、支援員と表記)」という資格を持つ職員。同市の放課後児童クラブは公設公営なので、いずれも市職員(会計年度任用職員)だ。 保護者会費とは、市に支払う利用料金とは別に支払う料金で、おやつなどの購入に使われる。同クラブは100人弱の児童が利用。毎月1人2300円の保護者会費を支払っており、会計担当の支援員が現金で預かる形になっていた。メールの内容が事実だとすれば、市職員がその金を横領していたことになる。 7月下旬、放課後児童クラブを管轄する市こども政策課にメールの内容について問い合わせると、担当者は「その放課後児童クラブに関しては現在調査中であり、事実関係や当該支援員の扱いも含めて、いまはお話しできません、ただ、調査が終わった段階で、然るべき形で発表しようとは考えています」と話した。内部で何らかのトラブルが起きていたことを認めたわけ。 同クラブに直接足を運んだが、「私どもも詳しい事情は分からない。コメントは控えさせていただきます」(当日勤務していた支援員)と話すのみだった。 いずれにしても、これだけ内情を知っているということは、差出人は同クラブを利用する保護者か、同市の職員・支援員だろう。ただ、確証が得られなかったため、8月号記事では学校名を伏せ、「疑惑」として紹介する形に留めた。 そうしたところ、記事脱稿後の8月2日、市が「放課後児童クラブ保護者会費(運営費)を横領した会計年度任用職員の懲戒処分について」という内容の記者会見を開いた。総合的に判断して同クラブで起きた案件と思われ、公益性もあると判断したので、本稿では実名で表記する。 市によると、横領したのは2009年から支援員として働いていた50代女性。20年度から22年度にかけて、保護者会費の一部239万4069円を横領。その事実を隠蔽するため、20、21年度の収支決算書を偽造していた。 横領期間は2020年8月から22年5月までの22カ月間。横領額の内訳は20年度68万1160円、21年度138万4000円、22年度32万8909円。 市こども政策課によると、保護者会の規約では「会計(=保護者)は担当支援員(=市職員)と相互協力のもと、円滑な運営を遂行する」と規定されており、市も「職員は2人以上が担当する」と指導していた。 ところが、芳賀小児童クラブに関しては、同支援員が一人で会計を担当。保護者から預かった会費は口座に入金せず金庫で管理し、収支決算書で帳尻合わせをしていた。保護者会で会計監査も行われていたそうだが、会計監査担当者に帳簿と領収書を一部分だけ突き合わせさせ、金額が合っていると信じ込ませる形で切り抜けていた。 239万円横領の理由 8月2日に行われた記者会見 周囲が異変に気付いたのは2022年5月。同クラブの別の支援員から「おやつ代を立て替えた際の清算が遅くて困っている」と相談を受けた同課の職員が事務指導を行っている中で、保護者会費が通帳に記帳されていないことが発覚。関係書類を提出させたところ、毎月ほぼ一定であるはずの保護者会費の収入額がなぜか月によって開きがあった。 同課の職員が6月14日、会計担当だった同支援員に事情聴取したところ、横領と書類偽造を認めた。 同課の聞き取り調査に対し、同支援員は「父が所有する事業用倉庫内の機械等を撤去する必要があり、その費用(約70万円)を工面するため、『一時的に借りよう』と思い一部を横領してしまった。その後も自分の生活が苦しかったこともあり、生活費に充てるため、横領を繰り返してしまった」と語ったという。 前述の通り、保護者会費はすべて現金で支払われ、金庫で管理されていた。すなわち1000円札や100円玉などを金庫からそのまま持ち出し、使っていたことになる。「生活費に充てるため」と語っていたというが、「ちょっと拝借する」程度で年間140万円にはなるまい。完全に感覚が麻痺してしまっていたのだろう。会見では記者から宗教団体などの関与を疑う質問もあった。 冒頭のメールには「全額回収のめどが立たないので市こども政策課としても公表できないようだ。このまま隠蔽するのではないか」とも書かれていたが、結局、同支援員は全額を返済した。同課は6月14日に事件が発覚してから1カ月以上公表しなかった理由について、「同支援員に返還の意思があり、そちらを優先したため」と明かした。 その一方で、同支援員は8月2日付で懲戒免職になった。本来、業務上横領罪に問われる案件だが、市では横領分が全額返済されたことから刑事告訴は行わない方針。そうした条件で示談にしたということだろう。 8月1日には保護者向けの説明会が開かれ、横領期間に利用していた児童の在籍期間に応じて返金する方針が伝えられた。対象となる保護者は延べ124人。 おやつ代として支払われていた保護者会費を横領していたということは、その分子どもたちへのおやつをケチっていたと考えられる。県内で活動する支援員はこう語る。 「保護者会費2300円ということは、1カ月に23日利用するとして、1日100円使う計算なのでしょう。うちのクラブでは大袋の菓子をみんなで分けて1日60円程度で済ませ、浮いた分で誕生日やイベント時に振る舞うケーキを買うなど、メリハリを付けている。問題の支援員はそうしたやりくりをせず、ひたすら安く済ませて横領分を捻出していたのかもしれません」 保護者会費は単純計算で年間1人当たり2万7600円、100人分で276万円。その中から最大138万円横領(2021年度)していたということは、おやつ代1日50円の計算で運営していたことになる。一緒に勤務していた支援員は気付かなかったのか。それとも会計を務める支援員だから何も言えなかったのか。同課は実名を伏せ、詳細も明かしていないので真相は分からないが、〝どんぶり勘定〟であったことがうかがえるし、市のチェック体制にも問題があったと言わざるを得ない。 8月上旬、同クラブ周辺で、児童を迎えに来た父親に声をかけたところ、「最悪ですよね。自分たちが預けていた金を勝手に使われていたわけですから」と述べた。 ほかにも複数の保護者に声をかけたが、「詳しく分からない」、「時間がない」と明言を避け足早に帰っていく人が多かった。「仕事と子育てを両立するのに忙しい中で、放課後児童クラブの内情まで把握できないし、余計なトラブルに巻き込まないでくれ」というのが本音かもしれない。市のチェック体制の甘さと保護者の〝無関心〟の間で、約2年にわたる横領が見過ごされてきたのだろう。 放課後児童クラブへの不満 取材の中では、同市の放課後児童クラブへの不満の声も聞かれた。 「子どもが利用し始めた当初、放課後をただ遊んで過ごしていることが分かり、『せめて宿題を終えてから遊べよ』と叱ったことがある。放課後の間、預かってもらうのはとてもありがたいが、それ以上のことは期待できないのだな、と実感しました」(2021年まで市内の放課後児童クラブを利用していた保護者) 放課後児童クラブにおいては、支援員の資格を持たない職員も「補助員」として働いている。ただ、支援員事情に詳しい関係者によると「現在人手不足なので、基本的には誰でもなれる状況。地域の高齢者などが務めることも多いが、親族や顔見知りの児童に甘い対応を見せて、不満が生まれることもある」。 2021年3月号では「郡山市の児童クラブで支援員が体罰!?」という記事を掲載した。「放課後児童クラブに通う長男が支援員から体罰を受けた」という投書の内容を検証したもので、支援員にそのつもりはなかったものの、誤解を招きかねない言動が確認されたという。 同市の放課後児童クラブの利用料金は1カ月4800円(生活保護受給世帯など条件によって軽減措置あり)。保護者会費2300円と合わせると約7100円に上る。「その金額で放課後の間預かってくれるなら十分だ」という保護者もいるが、その一方で「物足りない」、「割に合わない」と不満を抱く保護者もいるということだ。 同市の放課後児童クラブは市内50校に81クラブ設置されており、各クラブでは5~10人の支援員が勤務している。その大半は誠実に働いているが、今回のような不祥事が発覚すれば、保護者からの信頼をさらに失うことになる。 前出・県内で活動する支援員は次のように憤る。 「私たちは子どもたちから〝先生〟と呼ばれる立場にある。その立場の人間が『子どもたちの健全な育成のために』と保護者からもらったおやつ代(保護者会費)を横領する……これは、目の前の子どもより自分の生活費を優先したということであり、到底許されることではありません」 テレビや新聞での扱いは小さく、詳細が分かっていないことも多いが、市は今回の事件を重く受け止め、再発防止策を徹底しなければならない。前出のメールの差出人は、それが期待できないと懸念したから、本誌に〝内部告発〟したのだろう。 市では保護者会役員と支援員の役割を明確化して監査を行うとともに、コンプライアンス研修などを実施し再発防止に努める考えだ。しかし、そうした対応だけでは不十分だ。会計のダブルチェックの徹底、提供されるおやつのSNSでの公開など、保護者会費の使途をできる限り透明化し、「これなら横領できそうだ」という悪意が入り込めないような体制構築が求められる。
(2022年10月号) オグリキャップ、トウカイテイオー、テイエムオペラオーなど、競馬史に残る名馬が、現役時代に入所していた競走馬用の温浴・リハビリ施設がいわき市にある。〝競馬ファンの聖地〟ともなっている同施設に足を運んだ。 【いわき市常磐白鳥町】JRA競走馬リハビリテーションセンター いわき湯本温泉は古くから湯治の名所として栄えてきた温泉地で、有馬温泉(兵庫県神戸市)、道後温泉(愛媛県松山市)と並ぶ日本三大古泉だ。全国的に珍しい泉質で、その効能から「美人の湯」、「心臓の湯」、「熱の湯」とも呼ばれる。 そんな同温泉の温泉街の西側に、競走馬専用の温泉を備えたリハビリ施設があることをご存じだろうか。 1963(昭和38)年にJRA競走馬保健研究所常磐支所として開所した「競走馬リハビリテーションセンター」(小平和道所長)だ。屈腱炎・骨折など脚部に疾患を抱える現役競走馬を受け入れ、レース復帰に向けたリハビリの支援を行っている。 広大な敷地の中には、ダートコースの調教馬場(1周400㍍)をはじめ、脚部に負担をかけず心肺機能を高められるスイミングプール(1周40㍍、深さ3㍍)やウオータートレッドミルなどの設備が設けられている。 馬場では脚の具合を見ながら徐々に速度を上げる 療養馬の回復状況に合わせてメニューが組まれ、朝8時から獣医師立ち合いのもと、各施設でリハビリが行われる。取材時の7月中旬現在、16頭の馬が入厩していた。馬房は40馬分あるものの、「人手不足で所属している厩務員に限りがあるので、現在はフルでは受け入れていない。そのため、順番待ちになることもある」(広報担当者)という。 13時30分からスイミングプールでの調教が始まると、フェンス越しに見学に訪れた競馬ファンや子ども連れが集まってきた。楽し気に泳ぐ姿をイメージしていたが、近くで見ると、「ブルルッ」と鼻を鳴らしながら必死の表情で泳いでいた。厩務員は手綱を引いているほか、さまざまな道具を駆使して歩みを止めないようにしている。療養馬にとってはハードなリハビリの一環なのだろう。 プールで泳ぐ療養馬 フェンス外から見守る競馬ファン 初めてプールに入るという馬に至っては、厩務員が押しても引いても10分以上その場から動こうとしなかった(もっとも、厩務員にとってこの行動は想定の範囲内で、この日は、水に慣れさせるのが目的だったようだ)。写真やほのぼのニュースの映像で抱いていた涼やかなイメージとのギャップに驚かされた。 リハビリ終了後には、38~40度の足湯と打たせ湯で疲労を解消する。リハビリにより溜まったストレスを解消する効果もあるという。温泉でリラックスできるのは馬も人間も同じということだろう。 足湯と打たせ湯の温泉でリラックス 慣れた手付きで馬を連れて回る厩務員はいずれも若く、女性の姿が目立った。競馬業界への就職を目指してここで勤めている人が多いという。 リハビリ支えるスタッフ 馬の懐に入り蹄鉄を打ち付ける兒玉さん スタッフの一人に声をかけたところ、同センターに常駐する装蹄師・兒玉聡太さん(32)だった。 装蹄師とは馬の蹄(ひづめ)に蹄鉄を打つ技術者のこと。体重400~500㌔の体で走るサラブレッドの脚には大きな負荷がかかっている。蹄が摩耗したり割れて変形すれば、パフォーマンスが下がるばかりか、ケガのリスクも高まる。そのため、その馬の蹄の形に合わせた蹄鉄を打ち、保護する必要がある。 蹄鉄はアルミニウム合金製で、摩耗するため、3週間に1度のペースで打ち変えているという。 兒玉さんは胴体の下に潜り込み、脚を上げさせて蹄を削る。蹄の形に合わせて蹄鉄を叩いて微調整し、釘で打ち付ける。テンポ良く進めているが、確かな技術と経験がないとできない仕事だ。こうした関係者のサポートにより競馬は成り立っているということだ。 2021年、競走馬を擬人化したキャラクターを育ててレースで競わせるスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒット。ゲームから競馬に関心を持つ新規ファンが増え、競馬ブームにつながった。「競馬への注目度が高まるのはうれしい。当センターにもぜひ多くの人に見学に来てほしい」と広報担当者は語る。 震災・原発事故、令和元年東日本台風など、災害により大きな被害を受けながら、復興を遂げているいわき市。そんな同市に同センターが設けられ、療養馬が再起を目指してリハビリに励んでいるのも運命的なものを感じる。 秋になると中央競馬が盛り上がるシーズンが到来する。福島市の福島競馬場では、第3回福島競馬が11月5日から20日まで延べ6日間の日程で行われる。 同センターは朝8時から17時まで見学を受け付けている(日曜日は休み、プール見学は夏季平日のみ、改修工事のため、完全閉鎖の時期あり)。秋の福島競馬に合わせて聖地を〝巡礼〟するのも、競馬文化の楽しみ方の一つと言える。
(2022年10月号) 陸上自衛隊郡山駐屯地に所属時、複数の男性隊員から性被害を受けていた元自衛官の五ノ井里奈さん(22)が8月31日、第三者委員会による公正な調査を求める要望書と約10万人の署名簿を防衛省に提出した。マスコミが一斉に報じ、大きな注目を集めることに。自衛隊の女性差別・パワハラ体質にメスが入るか。 「市民感覚」が試される検察審査会 性被害の後に退職した五ノ井さんは、6月からネットを通じて被害を訴えていた。経緯は、本誌8月号「陸自郡山駐屯地で『集団セクハラ』 元自衛官の女性が決意の実名告発」で詳述している。 五ノ井さんは、自衛隊内の捜査権限を持つ警務隊に強制わいせつ事件として被害届を出した。男性隊員3人が書類送検され、検察庁は今年5月31日付で嫌疑不十分で不起訴にしていた。河北新報9月1日付によると、五ノ井さんは検察官から「首を押さえる行為に関する証言はあったが、わいせつの証言は得られなかった」と説明されたという。加害者は、暴行は認めたが、五ノ井さんが尊厳を奪われたと最も問題視している性被害については認めなかったということだ。 五ノ井さんは7月27日に都内で開いた記者会見で、「中隊内で隠ぺいや口裏合わせが行われていると、内部の隊員から聞いたので、ちゃんと第三者委員会を立ち上げ、公正な再調査をしてほしい」(『AERAdot.』7月27日配信)と組織を守るためにもみ消しが行われていることを指摘している。自浄作用は期待できない。 世論を受けてトップが動いた。9月6日には、浜田靖一防衛相が全自衛隊を対象とした「特別防衛監察」の実施を表明。担当する防衛監察本部は防衛相直属の機関で、独立した立場で調査・報告を行う。 郡山検察審査会は、検察が加害者3人を不起訴にしたことを審査員過半数の意見を得て「不当」と議決。議決書では、五ノ井さんの供述が唯一の証拠と指摘したうえで、不起訴の場合「被害者に泣き寝入りを強いる以上、被害者供述の信用性の判断をより慎重に行う必要がある」(福島民報9月10日付)とした。審査員11人は管内の有権者から選ばれる。県民の良識が少しでも反映される形。検察は再捜査し、起訴の可否を決める。不起訴の場合、審査会は強制的に起訴すべきかどうかを決めるが、決定には11人中8人以上の賛成が必要で、より市民感覚が試される。 五ノ井さんは宮城県東松島市出身。小学校4年生の時に東日本大震災を経験し、救援活動する女性自衛官に憧れた。中学では柔道で宮城県大会を制した実力者だ。泣き寝入りせず被害を実名告発したことからも心身ともに強靭で、自衛隊が理想とする人物だろう。それが組織に潰された。 女性差別とパワハラ体質は自衛隊全体の問題ではあるが、集団セクハラが常習化していた部隊を受け入れている県民の関心事は、「郡山駐屯地に固有の問題はなかったのか」ということだ。まずは、政府が早急に五ノ井さんの被害の救済を。真相解明は、刑事裁判という公開の場で行われるべきだ。
(2022年10月号) 郡山市の認可保育所「ヒューマニティー保育園」が委託費を不正受給していたとして、新規園児受け入れ半年間停止の行政処分を受けた。不正受領していた金額は約660万円に上り、市は返還を求めている。 〝投書攻撃〟を受けていた運営法人 ヒューマニティー保育園を運営しているのは一般社団法人ヒューマニティー幼保学園(瓜生麻美代表理事)。子どもの能力を開花させる教育法として話題になった「ヨコミネ式」を導入して人気を集めており、認可外保育所や学習塾なども運営する。 私立の認可保育所には市から委託費(運営費用)が支払われているが、同保育所では、非常勤の所長を常勤勤務として市に報告。加算分の受給要件を満たしていないにもかかわらず、2019年9月から21年3月にかけて、委託費659万8280円を不正に受給していた。 さらに昨年12月22日に行われた定期施設監査において、在籍していない保育士1人を「勤務していた」と偽って市に報告。虚偽の出勤簿や履歴書などを作成して提出していた。併せて同法人が運営する認可外保育施設などで使用する中古車2台(計65万円)を、同保育所の委託費で購入していたことも判明。市は同保育所への9月・10月分委託費から不正分を差し引く考え。 市は「昨年12月の定期施設監査の書類が偽造されていた」と外部から通報を受け、1月に特別監査を実施。この間、書類精査や関係者の聴取を行ってきた。市の聴き取りに対し、同保育所の関係者は「当初から不正の認識はあった。運営会社の指示を受けて行った」(NHKニュース)と語っていたというから、組織ぐるみだった可能性が高い。 同法人に関しては、匿名投書が連続で送られてきたとして、本誌2013年11月号で取り上げたことがある。内容はいずれも「保護者に説明がないまま新保育園建設が進められている」という不満を綴ったもので、「保育士の人数など、法律を無視した運営がなされている」など運営の怪しさを指摘する記述もあった。 当時の本誌取材に対し、園長代理を務めていた瓜生氏は「保護者にはきちんと説明しており、法律違反の点もない」、「(同法人の運営が)まるで不安要素だらけのように書かれているのは悪意を感じますね」と話し、「投書は外部から見たイメージだけで意図的に悪く書かれている。これ以上続くようであれば、差出人に対し法的手段を取ることも考えています」と息巻いていた。 同市保育課の担当者も「(当時、同法人が運営していたのは認可外保育所のみだったので)投書で苦情を言われても市としては対応しようがない」というスタンスだった。 だが結果的に、保育士の数を偽っていると指摘していた〝投書攻撃〟は事実だったことになる。 不正受給の件について、あらためて同法人に問い合わせたが、担当者はどの質問にも「市に報告し、この間報道されたことがすべてです」と答えるのみだった。記者が「2013年の取材当時も実は内部で不正が行われていたのではないか」と尋ねると「あの時点では間違いなく不正行為はしていなかった」と述べた。市は同法人が返金の意思を示していることから刑事告訴しない方針。不正受給の動機は分からずじまいだ。 9月下旬、同保育所を訪ねると静まり返っていた。新規園児受け入れ停止期間は来年3月末まで。保護者の反応は聞けなかったが、悪質な不正受給の実態を知って、退園する動きが出てきても不思議ではない。
(2022年10月号) 塙町で75歳の女性を殺した後、奪ったキャッシュカードで現金計300万円を引き出したとして強盗殺人などの罪に問われていた鈴木敬斗被告(19)に9月15日、求刑通り無期懲役の判決が言い渡された。被告は被害者の孫。同17日付で控訴した。4月の改正少年法施行後、県内で初めて「特定少年」として、実名で起訴、審理された。判決は更生を期待する少年法は考慮せず、あくまで重罪に見合う刑罰を科した。被告は趣味の車の修理のため、手軽にカネを得ようと殺したと話すが、身勝手としか説明がつかない動機だ。なぜ祖母を殺そうとまで思ったのか、判決では触れられなかった事実を拾う。 逮捕見越して散財の異常性 裁判で明らかとなった事件の経過をたどる。被害者は塙町真名畑字鎌田に住む菊池ハナ子さん。主要道路から離れた山奥の平屋に独身の長男と2人で暮らしていた。事件は今年2月9~10日の深夜に起こった。菊池さんと長男は、9日午後5時半ごろ夕食を取り、同9時半ごろまでテレビを見るなどして過ごした。 長男は深夜勤務のため、同9時35分ごろに自家用の軽トラックで家を出た。長男の「行ってくっから」に「おう」と返す菊池さん。長男が最後に見たのはパジャマを着てテレビを見てくつろぐ姿だった。長男が出ていった後、鈴木被告は矢祭町内の自宅から菊池さんの家に車で向かった。車はレンタカーだった。 犯行時刻は同11時45分ごろから翌10日の午前0時17分ごろの間。 茶の間のタンスの引き出しに入っていた現金を盗むのが目的だった。凶行に及ぶ約1時間前の9日午後11時ごろには、コンビニで防水の黒手袋を購入。自宅に戻り、倉庫から凶器となる長さ約55㌢、直径約3・2㌢、重さ約420㌘の鉄パイプを持ち出した。パイプは改造・修理中の自家用車の排気マフラーに使うために買った材料の残りでステンレス製。殴打に使った部分は斜めにカットされていた。法廷内では銀色に輝き、アルミホイルのような見た目だった。殴打で数カ所へこんだ部分が鈍く乱反射していた。 鈴木被告は建築板金業を営む一人親方で趣味は車の改造だ。改造に使う部品や工具を買いそろえるためにカネが必要だったと動機を話す。犯行現場までの移動にレンタカーを使ったのも、被告によると自家用車を修理のために分解しており、乗ることができなかったからだという。 鈴木被告はレンタカーの尾灯を消したまま、矢祭町の自宅から塙町まで車を走らせた。道路沿いの家の防犯カメラが車を記録していた。尾灯をつけないままヘッドライトのみを光らせて走るのは、無灯火のままライトのレバーを手前に引きパッシングの状態を続けることで可能だ。「車好き」なら思いつくのは当たり前のことなのだろう。 鎌田集落に入った。菊池さん宅まで続く道は車1台通るのがやっとの幅で、すれ違いは困難だ。菊池さん宅近くの道の待避所に車を止めた。玄関前で飼っている犬に吠えられるのを避けるためだった。夜遅いので他の車はまず通らない。黒いパーカーの上に黒い合羽を着て黒手袋をはめ、夜陰に紛れて道を急いだ。手には鉄パイプを持っていた。菊池さん宅南側にある駐車場には菊池さんの長男が運転する軽トラが見当たらない。菊池さんは運転免許証を持っていないので、少なくとも長男はいないと鈴木被告は推測した。 犬が吠えるのを恐れた鈴木被告は南側の玄関からは入らず、北側に回り、掃き出し窓から家に侵入しようとした。掃き出し窓は無施錠だった。侵入した際、利き手と反対の右手には鉄パイプを持っていた。寝室は豆電球一つしか明かりがついておらず薄暗かった。鈴木被告は、菊池さんが侵入者に気づき布団から上体を起こしたのが分かった。こちらを見ている。鈴木被告は右手の鉄パイプを菊池さんがいるところへ夢中で振り下ろした。5回程度殴った後に自分のしたことに気づいたが、なおも殴り続け、少なくとも計15回殴打した。 菊池さんは頭や上半身から血を流し、倒れこんだ。倒れた時に背中を電気毛布のスイッチ部分にぶつけ、背中の肋骨も折れていた。ふすまには打撃でついたようなキズが残り、障子も破れていたが、鈴木被告は覚えていないと法廷で語った。長男が帰宅した際、菊池さんはまだ息があり救急搬送されたが、出血性ショックで亡くなった。 「足が付くのは分かっていた」 「子ども時代に来た時は、ばあちゃんはここでは寝てなかったはずだ」と思った鈴木被告にとって、菊池さんが北側の窓に面した部屋にいたのは想定外だったという。だが、本来の目的である現金を盗もうと、うめき声を出して倒れている菊池さんを残して隣りの茶の間に向かった。タンスの引き出しには現金はなかったが、巾着袋の中に通帳とキャッシュカードがあった。暗証番号が書かれた紙も入っていた。巾着袋を奪うと、鈴木被告は侵入したのと同じ掃き出し窓から外に出て、止めていた車に戻った。犬は吠えなかった。 事件から約3週間後の3月1日、鈴木被告は盗んだキャッシュカードを使って現金計300万円を引き出したとして窃盗容疑で棚倉署に逮捕された。同22日には、前述した強盗殺人の罪で再逮捕。家裁郡山支部から逆送され、地検郡山支部が強盗殺人罪などで起訴し実名を公表、裁判員裁判で成人と同じように裁かれたというわけだ。 逮捕されるまでの間、鈴木被告には罪に向き合う機会もあったが、傍目には自身の行為を悔いていない行動を取った。まずは証拠隠滅。犯行日の2月10日に茨城県内の川で、橋の上から凶器の鉄パイプを捨てた。菊池さんの葬式にも平然と出席していた。奪ったキャッシュカードで同10~16日の間に県南、いわき市、茨城県内のコンビニのATМで18回に分けて計300万円を引き出した。車の部品や交際相手にブランド品や服を買ったほか、クレジットカードの返済に使い切った。鈴木被告は「足が付くのは分かっていた。捕まるまで自由にしようと思った」と法廷でその時の心情を振り返った。 ここで鈴木被告の成育歴を振り返る。2002年生まれの鈴木被告は3人きょうだいの2番目。小学5年生の時に両親が別居し、2015年に離婚した。きょうだい3人は母親が引き取った。父親は別の家庭を持っている。殺害した菊池さんは父方の祖母に当たり、菊池さんと暮らしていた長男は、鈴木被告にとって伯父に当たる。 鈴木被告は矢祭町内の中学校を卒業後、建築板金の職人として茨城県で働き始めた。職場の人間関係に悩み、矢祭町に戻ってきた。技術を生かそうと町内の建築板金業で働き、昨年秋に独立して一人親方となった。平均月40万円は稼いでいたという。町内の母方の実家で母親とは別に暮らしていた。 収入は、経費や健康保険代、税金などが引かれるとしても、家賃を支払う必要がないと考えれば十分な額だ。それでも菊池さんに十数万円の借金をしていた。借金について、鈴木被告は「車や仕事道具に出費し管理ができなかった」「ばあちゃんには甘えているところがあった」と述べている。 菊池さんの口座に大金があると知ったのは、状況から見て1年前にさかのぼる。矢祭町に帰ってから、菊池さんの資金援助を得て運転免許証を取得した被告は、昨年9月に運転ができない菊池さんに頼まれ、塙町内の金融機関へ現金を引き出しに連れていった。ATMの前で、操作方法を菊池さんに教える鈴木被告の画像が残されている。そこで、口座にある金額を知ったというわけだ。 今年1月20日には、鈴木被告は交際相手を連れて菊池さんを訪ね、カネを無心している。「妊娠したので検査費用が必要」と話したという。 この話は、菊池さんが、栃木県へ嫁いだ自身の妹に電話で伝えていた。殺害される3日前の2月6日の電話では、1月の借金は「断った」と話した。交際相手とのその後について、裁判官が鈴木被告に質問したが「自分はもう分からない」と答えた。裁判中にそれ以上聞かれることはなかった。 情状酌量は一切なし 事件現場となった被害者の自宅 鈴木被告は「車の修理代にカネが欲しかった」と言っており、菊池さんに断られた時点で盗むしかないと考えた。これだけでも身勝手ではあるが、鉄パイプを持ち込んだことで取り返しのつかない事件を起こしてしまったというわけだ。 菊池さんの次男に当たる鈴木被告の父親は、弁護側の証人として出廷し、「事件については整理できず何とも言えない」と複雑な立場にある心情を話した。「バカ親と言われるのは仕方ない」と断ったうえで「家族間の事件」と捉えていると打ち明けた。そして、「できれば息子が罪を償った後は引き取りたい」と訴えた。母親も出廷し、幼少期から暴力とは無縁だったと証言した。 一方、同居する母親を殺された長男は「家族間の事件」では済まないと代理人を通して思いを伝えた。鈴木被告にとって「かあちゃん(菊池さん)は弱く、身近で簡単にカネを取れる存在だった」と指摘し、「どうして高齢の女性にあんなひどいことができるのか。敬斗は社会一般では私の甥かもしれないが、私からすれば『犯人』に他ならない」と刑務所行きの厳罰を求めた。 地裁郡山支部で9月15日に開かれた判決公判には約35の一般傍聴席に対し70人近くが抽選に並んだ。筆者は同7日の初公判と、翌8日の被告人質問は傍聴券を手にしたが、肝心の判決は約2倍の倍率に阻まれた。判決は抽選に当たった傍聴マニアから聞いた。彼によると、 「少年だとか情状酌量とかは一切なかったね。裁判長は判決とは別に、被告に『立ち直れると期待している』と言っていたよ。でも、判決は無期でしょ。それはそれ、これはこれなんだろうね」 強盗殺人罪の法定刑は死刑か無期懲役だ。無期懲役は仮釈放が認められるまでに最低30年はかかると言われている。鈴木被告は仙台高裁に控訴中。まだ若い被告にとって納得できない判決だろう。 鈴木被告の最後の支えとなるのは、証人として出廷した両親しかいない。最後まで味方でいてくれる肉親の温かさを感じれば感じるほど、鈴木被告は、最も大切で頼りにしていた家族(菊池さん)を殺された長男の気持ちに向き合わなければならない。一度は自分自身を徹底的に否定する心情になることは必至で、全人生に付きまとうだろう。
(2022年10月号) 須賀川市の「無量寺」(小山宗賢住職)で、檀信徒が屋根葺き替え工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたところ、寺側が拒否したため、檀信徒から「何らかの不正があったのではないか」と疑われる事態に発展している。宗教法人の財産は公開が原則のはず。騒動を追った。 住職と役員の隠蔽体質が露呈 須賀川市雨田字宮ノ前にある無量寺は天台宗で、法人登記簿によると設立は1953(昭和28)年、基本財産は総額348万6000円。代表役員(住職)の小山宗賢氏は2008(平成20)年に就任した。檀信徒数は約420。 そんな無量寺では4年前、老朽化していた本堂屋根の葺き替え工事を行っていた。責任役員2名と総代1名を正副委員長とし、檀信徒二十数人や小山住職などを委員とする「本堂屋根葺き替え建設委員会」(佐藤和良委員長。以下、建設委員会と略)を設立。工事に関する協議は同委員会のもとで行われた。 その結果、①設計監理は土田建築設計事務所(須賀川市)、②施工は大柿建業(同)、③工事資金は1836万円、④工期は2018年10月から19年3月末等々が決まった。 工事資金計画表によると、1836万円の内訳は檀家からの寄付が1059万円、無量寺特別会計からの充当が707万円、金融機関からの借り入れが70万円。ここから大柿建業に約1720万円、土田建築設計事務所に約56万円、残りを会議費、雑費、予備費に充てる計画だった。 その後、葺き替え工事が始まり、予定より3カ月早い2018年12月末に工事は終了。19年1月に建設委員会による立ち会い検査を経て引き渡しが行われた。 竣工を受け、建設委員会が檀信徒に宛てた報告文書には次のように書かれている。 《檀信徒の皆様には何かと出費の多き折りにも関わらず、多くのご寄付をいただきました。(中略)土田建築設計事務所には契約の回数以上に現場に足を運んでいただき、きめ細かい指導・監理をしていただき、工事をスムーズに進めることが出来ました。大柿建業は、設計事務所が称賛するほど丁寧で誠実な仕事ぶりでした。さらに、当初の想定よりも屋根下の腐食が酷く、野地板・垂木に加えて、その下の根太も交換しなければならない個所もありました。この想定外の修復に関しては別途支払いの契約でしたが、大柿建業では追加料金(約26万円)の請求をせず、ご寄付として入札代金内で対処していただきました》 収支決算報告書によると、当初予定より寄付が多く集まったため金融機関から借り入れする必要がなくなり、収入総額は約1812万円。これに対し、支出総額は約1781万円で、差し引き31万円が特別会計に戻された。同報告書には「2019年3月5日に監査を行ったところ適正だった」とする監事2名の印鑑も押されていた。 一見すると、何の問題もなく工事は完了し、決算報告も終えたように映る。しかし、檀信徒の関根兼男さんは工事が始まった直後から、さまざまな疑問を呈していた。 「工事を見ていておかしいと思うことが度々あり、その都度、建設委員会の佐藤委員長や小山住職、土田建築設計事務所に質問をぶつけていた。しかし『あなたには関係ない』と取り合ってもらえなかった。私は檀信徒で工事資金も寄付しているので関係なくはない。にもかかわらず工事中の寺に入って写真を撮っていたら、建設委員会の生田目進副委員長に『不法侵入で警察を呼ぶぞ』とまで言われた」(関根さん) まるで“邪魔者扱い”されていた関根さん。実は、関根さんは大工で、建設委員会が2018年8月に行った施工者を決める入札に参加し約1840万円で札入れしたが、前出・大柿建業より高かったため工事を受注できなかった経緯がある。 「受注はできなかったが、檀信徒としてだけでなく、大工としても工事の進め方に関心があったので現場に足を運んでいただけ。そしたらおかしいと感じる場面を度々見掛けたので、これは建設委員会や小山住職に言うしかないと思って」(同) 具体的には▽足場と落下防止ネットは間違いなく取り付けられていたか、▽腐ったり痛んだりしていた垂木、野地板、広木舞は交換されたのか、▽塗料は当初指定のものが使われたのか――など。つまり、関根さんの目には工事が適正に行われていないと映ったわけだが、これらを適正に行うと、例えば金額は100万円かかるのに、仮に▽足場と落下防止ネットがきちんと取り付けられていなかった、▽垂木、野地板、広木舞が交換されていなかった、▽指定とは別の塗料が使われていた――とすれば80万円で収まり、予算は決算報告より余った(使われなかった)可能性があるというのだ。そうなると、余った金はどこにいったのかという問題も浮上してくる。 関根さんは入札前に建設委員会から渡された見積書に、工事項目ごとに細かく金額を書き込んで札入れしたが、 「その工事項目と実際に行われている工事が違っていた。例えば見積書の塗装工事欄は『オスモカラーを使え』となっていたので、それに沿った金額を書いて札入れしたのに、実際の工事ではオスモカラーは使われていなかった」(同) 要するに関根さんは「これでは真面目に見積もりをした意味がない」と言いたいわけ。 しかし前述の通り、建設委員会や小山住職は関根さんの質問に耳を貸さなかった。おそらく両者は「工事を受注できなかった腹いせに難癖をつけている」としか捉えていなかったのかもしれない。 無関係の弁護士に対応を〝丸投げ〟 一方、土田建築設計事務所は、設計監理の契約先は無量寺であり、契約先を差し置いて関根さんの質問に答えるのは馴染まないとして、東京都内の松田綜合法律事務所(以下、松田法律事務所と略)を代理人に立てて対応を一任した。 そんな孤軍奮闘の関根さんに、ようやく援軍が現れたのは2021年4月。雨田地区の総代になった瀬谷広至さんが問題に関心を示してくれた。以降は関根さんと瀬谷さんの二人で、建設委員会や小山住職、土田建築設計事務所や大柿建業などにアプローチを試みているが、解決に向けた成果は得られていない。 「関根さんの話を聞き、もしおかしな点があるなら正すべきと考え一緒に調査に乗り出した。しかし、建設委員会や小山住職は『一人二人の言い分に取り合っていたらキリがない』と私たちの疑問に向き合おうとしない」(瀬谷さん) 関根さんと瀬谷さんは今年2月、建設委員会と小山住職に対し、工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたり、工事の進め方を尋ねるなど10の申し立てからなる提案申立書を提出した。すると同4月、建設委員会から「土田建築設計事務所の代理人である松田法律事務所に問い合わせてもらうという結論に達した」との回答が届いた。 関根さんと瀬谷さんは、建設委員会メンバーや複数の檀信徒から「佐藤委員長が『弁護士に任せたので一安心』と言っていた」とか「小山住職が『弁護士に任せることに異論はないか』と建設委員会メンバーに多数決を取っていた」という話を聞いていた。まるで建設委員会と小山住職が松田法律事務所に代理人を依頼したかのような口ぶりだが、そうではない。同事務所が同3月に建設委員会に宛てた文書にはこう書かれている。 《貴委員会(※建設委員会)は、無量寺の檀信徒である瀬谷広至氏及び関根兼男氏から、令和4年2月13日付の「無量寺本堂屋根葺き替え工事に関する書類の閲覧及び質問並びに提案申立書」に記載されている各事項についての質問を受けている件について、当社(※土田建築設計事務所)に対し質問を行い、回答を求めておられます。 当社は無量寺から、本堂屋根の瓦葺き替え工事の設計監理業務の委託を受けたところ、当該業務は適切に遂行されており、貴委員会及び無量寺に対し負うべき責任はなく、特別対応すべき義務はないものと認識しております》 松田法律事務所は建設委員会からの問い合わせに「土田建築設計事務所の代理人」として対応している様子がうかがえる。 「建設委員会メンバーや檀信徒の中には、佐藤委員長や小山住職が弁護士を雇ったと勘違いしている人が多い。しかし、松田法律事務所はあくまで土田建築設計事務所の代理人にすぎず、両者の代理人ではない。にもかかわらず両者は、無関係の松田法律事務所に回答を〝丸投げ〟しようとしたのです」(瀬谷さん) 本誌が松田法律事務所に問い合わせると、担当弁護士もこのように話していた。 「私たちは土田建築設計事務所の代理人であり、建設委員会や小山住職とは関係ない。しかしどういうわけか両者は、私たちが両者の代理人も兼ねていると勘違いしているフシがある。両者には『それは誤解だ』という趣旨の手紙を出したが、きちんと理解してくれたかどうか」 こうなると、佐藤委員長や小山住職は代理人契約を交わしていないにもかかわらず「弁護士に任せた」と建設委員会メンバーや檀信徒にウソをついた可能性も出てくる。 ちなみに担当弁護士は、土田建築設計事務所の仕事ぶりについて 「無量寺との契約に基づき適切に行った。監理設計料も適正な金額だったと思います」 と強調。一方で、関根さんと瀬谷さんに対してはこうも語った。 「檀信徒が寺に関する情報の開示を求めるのは当然。それに寺が応じようとしたものの、依頼人(土田建築設計事務所)に聞かなければ分からない事案が出てきたら、依頼人は寺と監理設計契約を結んだ立場上、寺側に答える用意はある。ただ、契約関係にない檀信徒の質問に答えることはできない」 つまり、関根さんと瀬谷さんの質問に無量寺が答えるなら、土田建築設計事務所(松田法律事務所)は協力するというわけ。 土田建築設計事務所にも直接話を聞こうとしたが「弁護士にすべて任せている」と断られた。 60人超の檀信徒が「署名」に協力 工事を行った大柿建業は何と答えるのか。 「工事は4年前なので細かい点は覚えていないが、垂木が腐っていたので交換し、その後、野地板を張って瓦をかけて塗装と、予定外の作業が結構あった。腐った個所に足場をかけると崩落する恐れがあるため、順番に直しながら足場をかけていった。予定外の作業が出た場合はその度に土田建築設計事務所に連絡し、一緒に現場を見てもらった。工期は(2019年)3月までだったが、12月を過ぎると雪で屋根に上がるのは危険なため、作業を急いだ記憶がある。工事代金は千五百数十万円で、そこに消費税が加わり千七百数十万円が振り込まれたはず。その時の銀行の通帳は残っているので、それを見れば正確な金額は分かる」 前述の通り、寺から大柿建業に工事代金として支払われたのは約1720万円なので、発言の金額と照らし合わせると間違いなく支払われたと見てよさそうだ。 「他人がどう評価しているか分からないが、ウチとしては精一杯の工事をやったつもりだ。その時撮った作業の様子や工事個所の写真は、すべて寺に渡した。関連の資料も寺に残っているはず。えっ、檀信徒がそれを見せろと言っているのに寺は見せないんですか? すべて見せれば疑いは晴れると思うんだが」(同) 松田法律事務所と大柿建業に共通するのは「なぜ寺側は隠そうとするのか」「すべて公開すれば済む話」というもの。裏を返せば「後ろめたいことがあるから隠したがっている」となるが、真相はどうなのか。 そもそも宗教法人が財産に関することを公開しないのはおかしい。宗教法人法第25条第3項によると、宗教法人は財産目録、収支計算書、貸借対照表、境内建物に関する書類、責任役員らの議事に関する書類や事務処理簿などについて、信者らから閲覧請求があった時は閲覧させなければならない。宗教法人を管轄する県私学・法人化に確認すると「会計帳簿などの資料は閲覧の対象外」というので領収書は見られないようだが、葺き替えた屋根が「寺の財産」に属することを踏まえると、関根さんと瀬谷さんが確認しようとするのは檀信徒として当然の権利だ。 関根さんと瀬谷さんは、前述・今年4月に寄せられた建設委員会と小山住職の回答に納得がいかないとして、すぐに再質問書を送ったが返事はなかった。そこで2人は、約420ある檀信徒を一軒一軒回り事情を説明、寺側に誠実な回答を求める署名に協力してほしいと要請した。すると、同9月中旬までに全体の7分の1以上に当たる60人超が署名してくれた。 「檀信徒の中には『本当は署名したいが、住職には法事などで世話になっているので勘弁してくれ』という人も結構いた。署名集めを通じ、私たちが思っている以上に、建設委員会や小山住職のやり方に不満を持っている檀信徒が多いことがよく分かった」(関根さん) 署名集めの過程では、新たに阿部計一さんも「自分もかつて、佐藤委員長に別の建物工事の明細書を見せるよう求めたが、結局見せてもらえなかった」として関根さんと瀬谷さんに協力する意向を示し、現在は3人で活動中だ。 同9月下旬には、集めた署名を再々質問書と一緒に建設委員会の正副委員長や小山住職らに送り、回答を迫っている。一人二人ではなく、60人超もの檀信徒が不信感を露わにしているのだから、事態は深刻だ。 求められる「公開」と「公平」 本誌は小山住職に取材を申し込んだが「私から話すことは何もない。すべて建設委員会で決めたことだ」と終始逃げの姿勢だった。 建設委員会の佐藤委員長には質問書を送り、電話でも「期限までに回答するか、直接お会いしたい」と伝えたが「私の一存で答えるわけにはいかない。建設委員会で協議し対応を検討したい」と言ったきり、文書等での回答もなければ、記者がかけた電話に出ることもなかった。 県北・県中地方の2人の住職に今回の問題について感想を求めると、次のように話してくれた。 「ウチの寺でも数年前に屋根の葺き替え工事をしたが、作業の手順、入札、お金の動きなど工事に関係するものはすべて公開した。どんなに些細なことも檀信徒の許可をもらってから進めることを心掛けた。工事資金の大半は檀信徒からの寄付なので、当然の進め方だと思う。工事途中には檀信徒を対象に見学会もやった。無量寺さんはすべて公開すれば疑われることはないのに、なぜ隠そうとするのか」(県北地方の住職) 「昔より信仰心が薄れる中、寺と檀信徒によるトラブルは大なり小なり増えている。そこで意識したいのは寺が日頃、檀信徒とどう付き合っているかだ。葬儀や法事だけが寺の仕事ではない。寺の本来の仕事は檀信徒への法施。特定の人と親しくするのではなく、すべての檀信徒と向き合い、公平に付き合っていれば不満は出ない」(県中地方の住職) 「公開の大切さ」と「公平な付き合い」を説いてくれた両住職。真逆の行動をする建設委員会と小山住職に、この言葉が響けばいいのだが。
土壌・地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所が、土壌汚染対策法に基づき敷地内の土壌汚染原因とみなしている8物質のうち、4物質しか住民に報告していないことが分かった。同社が県に提出した文書と住民への説明の食い違いから判明。「住民に知らせなかったということか」という本誌の問いに同社は明確に答えていない。住民に知らせなかった4物質は、事業所敷地内でも周辺でも未検出か基準値内に収まり、深刻な汚染には発展していないが、住民は「隠蔽を図ったのではないか」と不信感を強めている。 ※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。 住民にひた隠しにした4種類の有害物質 汚染を除去する工事が進められている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所 喜多方事業所の敷地内で土壌汚染を引き起こしているとみなされている有害物質は表で示した8物質。シアン、ヒ素、フッ素、ホウ素は2020年に計測し、基準値を超える汚染が判明。残りの六価クロム、水銀、セレン、鉛は、実際の分析では基準値超過はみられないが、使用履歴や過去の調査からいまだに汚染の恐れがある。敷地は土壌汚染対策法上、この8物質により「土壌汚染されている」とみなされており、土地の変更を伴う工事が制限される。 昭和電工喜多方事業所敷地内で土壌汚染の恐れがある8物質 基準値を超過基準値を下回るor未検出シアン六価クロムヒ素水銀フッ素セレンホウ素鉛 ここで土壌汚染対策法の説明が必要になる。同法が成立したのは2002年。工場跡地の再開発などに伴い、重金属や有機化合物などによる土壌汚染が判明する事例が増えてきたことを背景に、汚染を把握・防止して健康被害を防ぐために制定された。汚染が判明した場合、その土地の所有者は汚染状況を都道府県に届け出なければならない。 汚染が分かった土地の所有者には調査義務が生じ、期限までに調査結果を都道府県に報告する必要がある。昭和電工喜多方事業所の場合、2020年に同社が行った調査で汚染が判明し、同11月に公表。公害対策のため、大規模な遮水壁工事や汚染土壌の運搬などを迫られた。 土壌汚染調査は、土地の所有者が環境省から指定を受けた「指定調査機関」に依頼して行う。喜多方事業所の場合、土地調査に関するコンサルティング大手の国際航業㈱(東京都新宿区)に依頼している。 土壌汚染対策法が定める特定有害物質は、揮発性有機化合物からなる第一種(11種類)、重金属などからなる第二種(9種類)、農薬などからなる第三種(5種類)に分かれる。全部で25種類になる。 喜多方事業所で土壌汚染が認められる8物質は全て重金属由来のものだ。戦中から約40年間、アルミニウム製錬工場として稼働しており、その過程で発生した有害物質を敷地内に埋めていたことで汚染が発生している。工場の生産工程で使用していたジクロロメタン、ベンゼンの有機化合物は、2020年にそれぞれ敷地内で計測したが、いずれも不検出だった。 基準に適合していない場合は、土地の所有者は「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に指定するよう都道府県に申請する。都道府県は周辺の地下水までの波及を把握し、住民が生活に利用して健康被害のおそれがある時は要措置区域に指定、汚染の除去を指示し、土地の所有者は期限までに必要な措置を講じなければならない。 健康被害のおそれがない場合は、制限の少ない形質変更時要届出区域の指定のみで済み、工事などで土地に変化がある際に計画を届け出すればよい。 公文書で判明 喜多方事業所は所有地の一部をケミコン東日本マテリアル㈱に貸している。届け出は同事業所が使用している土地と貸している土地に分けて申請され、全敷地が要措置区域と形質変更時要届出区域に重複して指定されている。汚染公表の2020年11月から5カ月後の21年4月に県から指定を受けた後、汚染除去の工事が始まった。有害物質が流れ込んだ地下水が敷地外に拡散しないよう敷地を遮水壁で覆い、地下水を汲み上げる方法だ。地下水は有害物質を除去し、薄めたうえで喜多方市の下水道や会津北部土地改良区が管理する用水路に流している。汚染土壌の運搬も進めている。 喜多方事業所以外にも汚染された土地はある。都道府県は指定した土壌汚染区域の範囲を台帳に記して公開しなければならず、福島県では台帳の概要をホームページで公表している。詳細を知りたければ、県庁や土壌汚染対象地を管轄する各振興局で台帳を閲覧できる。 筆者が喜多方事業所による「有害物質のひた隠し」に気づいたのは、この台帳を見たからだった。県に提出した文書では、冒頭に述べた8種類の有害物質で土壌汚染されていることを認めているが、住民には、「汚染が見つかったのは4物質」と事実の一部のみを説明し、残り4物質については汚染の恐れがあることを伏せていたのだ。 「要措置区域台帳」を見ると、生産工程での使用や過去の調査の結果、汚染の恐れがあるとみなされたのは重金属由来の有害物質(第二種特定有害物質)のうち前述の8種類。試料採取等調査結果の欄は全て「調査省略」とある。しかし、結果は土壌溶出量、土壌含有量とも基準は「不適合」だった。 調査省略なのに基準不適合とはどういうことか。それは、「土壌汚染状況調査の対象地における土壌の特定有害物質による汚染のおそれを推定するために有効な情報の把握を行わなかったときは、全ての特定有害物質について第二溶出量基準及び土壌含有量基準に適合しない汚染状態にある土地とみなす」(土壌汚染対策法規則第11条2項)との規定に基づく。喜多方事業所は、調査を省略したことで「汚染状態にある」とみなしているわけだ。 さらに規則では、汚染のおそれのある物質を使用履歴などを調べ特定した場合はその物質の種類を都道府県に申請し、確定の通知を受けた物質のみを汚染状態にあるとみなすことができる。試料採取の調査を省略する場合は、本来は前述の規定に従い、土壌汚染対策法で定めた全25物質により汚染されていると認めなければならないのだが、喜多方事業所は工場での使用履歴や過去の調査から汚染の原因物質を特定したため、書類上は8物質のみによる汚染で済んだということだ。 台帳には、喜多方事業所が調査を省略した理由は「措置の実施を優先するため」とある。時間をかけて調査するよりも、汚染状態にあることを受け入れて本来の目的である公害対策を優先するという意味だ。 ある周辺住民は、 「8物質による土壌汚染が認められているなんて初めて聞きました。住民に知らされているのは、そのうちフッ素などの4物質だけです。これら4物質は土壌を計測した結果、実際に基準値超えが出たにすぎません。私たちが知らされた4物質以外に六価クロム、水銀、セレン、鉛があるとは聞いていません」 と話す。 「住民軽視の表れ」 喜多方事業所にも住民に説明したかどうか確認しなければなるまい。同社は「書面でしか質問を受け付けない」というので、今回も期限を設けてファクスで質問状を送った。有害物質8種類に関する質問は以下の3項目。 ①8物質で土壌汚染されていると自社でみなしている、という認識でいいのか。 ②六価クロム、水銀、セレン、鉛について、土壌や水質における基準値超過があったか。 ③「土壌汚染対策法上は事業所敷地内が六価クロム、水銀、セレン、鉛による土壌汚染状態にある」という事実を住民に伝えなかったという認識でいいのか。 「事実」は県の公文書から判明している。喜多方事業所には本誌の認識に異議や反論がないか尋ねたつもりだったが、返答は「内容が関連しますのでまとめて回答させて頂きます」。筆者は総花的な答えを覚悟した。以下が回答だ。 「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり、土壌汚染対策法に定められている土壌汚染状況調査の方法により、有害物質について使用履歴の確認および既往調査の記録の確認を行い、当該8物質を汚染のおそれのある物質として特定しております」 土壌汚染対策法上、喜多方事業所が取った手続きを述べているに過ぎず、質問に正面から答えていない。①の有害物質8種類については「汚染のおそれのある物質」と認めている。ただし、同法施行規則に従うと「汚染状態にあるものとみなされる」の表現が正しい。 ②の4有害物質については、これまで土壌や地下水を計測して基準値を超えたわけではないため、喜多方事業所は汚染原因として住民には知らせてこなかった。筆者が2022年9月時点までに同社が県に提出した文書を確認したところ、同社はこの4物質について汚染状況を計測・監視しているが、基準値超過はなかった。問題のない回答まで避けるということは、同社はもはや自社に都合の良い悪いにかかわらず何も情報を出すつもりがないのだろう。 ③については、「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり」で済ませ、本誌の「住民に伝えたか伝えていないか」との問いに対する明言を避けている。前出の住民の話からするに、「有害物質8種類で土壌汚染の恐れがある」という事実は伝わっていない可能性が高い。 本誌はさらに、「住民に伝えなかった」という認識に反する事実があれば、住民への説明資料と伝えた日時を示して教えてほしいと畳みかけたが、回答は 「個別地区に向けた説明会の質疑応答を含め多岐にわたりますのでその日時や資料については回答を控えさせていただきます」 「伝えた」と明言しない点、「伝えなかった」という認識に反する根拠を提示しない点から、喜多方事業所が土壌汚染の恐れがある有害物質の種類を住民に少なく報告し、汚染を矮小化している可能性が高い。 法律の定めに従い、県には汚染の恐れがある物質を全て知らせている一方、敷地周辺に波及した地下水汚染により実害を被っている周辺住民にはひた隠しにしてきたことを「ダブルスタンダードで、住民軽視の表れだ」と前出の住民は憤る。 しかし、住民軽視は今に始まったことではない。開示請求で得た情報をもとに取材を進めると、より深刻な事実をひた隠しにしていることが分かった。 あわせて読みたい 【第1弾】親世代から続く喜多方昭和電工の公害問題 【第2弾】【喜多方市】昭和電工の不誠実な汚染対策 【第3弾】【喜多方市】未来に汚染のツケを回した昭和電工【公害】 【第4弾】【喜多方市】処理水排出を強行する昭和電工
3月6日午後6時40分ごろ、石川町母畑字湯前の「ホテル下の湯」で火を出し、約6時間半後に消し止められた。同ホテルは数年前から休業していた。 母畑温泉の火事と言えば、ちょうど1年前、十数年前に閉館した廃旅館「神泉閣」で不審火が発生したことを本誌昨年4月号でリポートしたが、ホテル下の湯は日中、経営者がおり、鍵もかかっていたため不審火ではなさそう。 鎮火の翌日(8日)、現場を訪れると、一帯には焼け焦げた臭いが充満していた。作業をしていた消防署員によると「出火原因は不明。いくつか思い当たる箇所はあるが、これが原因とは現時点で断定できない」。ただ、消防署員たちはコンセントや電源プラグの状況を念入りに調べており、その辺りが「思い当たる箇所」なのかもしれない。 同ホテルは㈲ホテル下の湯(資本金1000万円、永沼幸三郎社長)が経営。登記簿謄本によると、敷地内には3階建ての旅館、5階建ての集会所・ホテル、2階建ての居宅、2階建ての共同住宅が建っていた。焼け跡を見る限りはどれがどの建物か判然としなかったが、複数の建物が密集していることは分かった。 現場にいた永沼社長に話を聞くことができた。 「この2日間、第一発見時の様子や出火時間など、同じことを十数回も聞かれてウンザリしているよ」(永沼社長) 取材途中にはお見舞いを持って訪れる人もいたが、永沼社長は「気持ちだけで十分。(お見舞いは)いらないよ」と丁重に断っていた。 「鎮火直後から友人・知人が何十人も来ているが(お見舞いは)全て断っている。塩田金次郎町長も来てくれたが、同じく断ったよ。気持ちだけ受け取れば十分だからね」(同) 建物は最も古い箇所で築60年になり、もともと老朽化していたが、そこに令和元年東日本台風の水害が襲った。同ホテルは北須川のすぐ横に建ち、1階が床上浸水したが、建築士による被災状況調査では損害割合20%未満で「半壊には当たらない」と診断された。 満足な補償が見込めない中、永沼社長は国のグループ補助金を使って立て直しを図ろうと考え、2億7000万円の交付を求める申請書を提出した。しかし、県から「既に公募期間を終えている」などの理由で申請書を受け付けてもらえなかった。 そうこうしているうちに新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、営業再開できないまま今日に至っていた。今回の火事は、そうした中で発生したわけ。 「もっとさかのぼれば、12年前には震災と原発事故が起こり、客足が途絶えた。東京電力からは営業損害として賠償金300万円を受け取ったが、それだって逸失利益を考えると十分ではなかった」(同) 永沼社長は客にアンケート調査を行い、原発事故の影響を数値化。それを基に東電と交渉したが、それ以上の賠償は受けられなかった。 原発事故、台風水害、新型コロナウイルス、火事の四重苦に見舞われた同ホテルは今後どうなるのか。 「これから固定資産税について町と相談する予定だが、焼けた建物を解体するには億単位のカネがかかるので、簡単には決断できない。かといって、解体して営業再開するのも難しい。今後どうするかは、すぐには判断できないな」(同) 火事とそれに伴う解体は〝余計な災難〟だったが、似たような境遇に置かれているホテル・旅館は少なくないはずだ。
いよいよ本格的な春の観光シーズンを迎える。新型コロナウイルスの影響は続いている一方で、3月13日からはマスク着用ルールが緩和されるなど、かつての日常に近付きつつある。今春はいままで控えていた花見や観光に出かける人も多いのではないか。春の観光シーズンにおすすめの県内スポットを紹介する。(このページの写真撮影=地域カメラマン・渡部良寛さん) 観音寺川の桜並木(猪苗代町) 花見山から望む吾妻小富士(福島市) JR水郡線と「戸津辺の桜」(矢祭町) 小川諏訪神社のシダレザクラ(いわき市) 観音沼森林公園の春紅葉(南会津町) 田人町のクマガイソウ群生地(いわき市)
本が好きな人間にとって、書棚に多くの本が並べられている光景は憧れであり、読書欲を刺激されるもの。〝読書の秋〟に合わせて、県内の読書家の自宅、書店、古書店を訪問し、さまざまな書棚を見せてもらった。 深瀬幸一さん(福島市在住) 元高校教諭(国語)で、定年退職後も教壇に立つ。好きな本はドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』。「人間の深さを描いた作品。5回は読みました」(深瀬さん)。上の写真は深瀬さんの実家の書棚で、隣接する自宅にも書棚がある。著書『るつぼの中の国語教師』。 石川屋(田村市常葉町) 海外の作家の希少な絵本も取り扱っている 東北でも数少ない絵本専門の書店。壁面に設けられた書棚に国内外の約2000冊の絵本が並ぶ。石井修一代表はすべての絵本の中身を把握しており、来店客から相談を受けることも多いとか。2014年に全面改装後は県外からも絵本ファンが足を運ぶ。 田村市常葉町常葉字中町36番地☎︎0247(77)2001営業時間9時〜18時30分 八木沼笙子さん(福島市在住) 長年編集業に携わっており、文学・美術など幅広い分野の書籍を所蔵する。「引っ越しや火災で好きだった本を一部消失してしまいました。さらに福島県沖地震で本棚が壊れたので、自宅内に分散して置いています」(八木沼さん)。日本文学の初版本の復刻版(写真右)は大量に譲り受けたもの。聖書や昭和史に関する大判の図説(写真下)は執筆の下調べに使う。 スモールタウントーク(郡山市) サブカルチャー関連の書籍や雑誌、写真集などをそろえる古書店。郡山市出身・在住で、映画、写真、雑誌文化など幅広い分野に関心を持つ黒田真市さんが2009年に開店。住宅地の中にあり、まるで学生時代、友人の部屋に遊びに来たような雰囲気を味わえる。 郡山市安積町荒井字荒井12☎︎090(5848)1490営業時間12時〜19時30分
1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場 郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所 要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 (前田公園前十字路)見通し市53大平町字前田116-2見通し市54大平町字御前田53見通しなし55大平町字御前田59-45見通し市56大平町字向川原80-4見通しなし57荒井町字東195見通し市58阿久津町字風早87-2見通し市59舞木町字岩ノ作44-6見通し市60町東一丁目245見通しなし61町東二丁目67見通しなし62町東三丁目142-2見通し市63新屋敷1-91見通し市64富田町字墨染18見通し公安65富田町字十文字2見通し市66富田町字大十内85-246ヒヤリ市67富田町字音路90-20見通し市68富田東二丁目1優先市69富田町字細田85-1優先公安70富田町日吉ヶ丘53優先市71大槻町字西宮前26ヒヤリ公安72大槻町字南反田18−3ヒヤリなし73大槻町字室ノ木33-8見通し市74大槻町字原田東13-93ヒヤリ市75大槻町字葉槻22-1優先市76笹川一丁目184-32見通し市77安積一丁目155見通し市78安積一丁目38見通しなし79安積町二丁目350番1見通し公安80安積町日出山字一本松100番18見通しなし81三穂田町川田二丁目62-2見通し市82三穂田町川田三丁目156見通し市83三穂田町川田字駒隠1-4見通し公安84三穂田町川田字小樋41見通し公安85三穂田町川田字北宿3-2見通し公安86三穂田町野田字中沢目9見通し公安87三穂田町鍋山字松川53見通しなし88三穂田町駒屋二丁目62ヒヤリ市89三穂田町駒屋字上佐武担2-2見通し公安90三穂田町八幡字北山10-13見通し公安91三穂田町八幡字北山7-12見通しなし92三穂田町富岡字下茂内56見通し市93三穂田町富岡字下間川67ヒヤリ公安94三穂田町富岡字藤沼18-9見通しなし95三穂田町山口字横山5-4見通しなし96三穂田町山口字川底原22優先公安97逢瀬町多田野字清水池125見通し市98逢瀬町多田野字上中丸56-1見通し市99逢瀬町多田野字家向61見通し市100逢瀬町多田野字柳河原77-2優先市101逢瀬町多田野字南原26見通し市102逢瀬町河内字西荒井123優先市103逢瀬町河内字藤田185見通し公安104片平町字庚坦原14-507優先市105片平町字元大谷地27-3優先市106片平町字森48-2優先市107片平町字新蟻塚99-5見通し市108片平町字樋下68優先市109東原一丁目44見通しなし110東原一丁目120見通し市111東原一丁目229見通し市112東原一丁目250見通し市113東原二丁目127見通し市114東原二丁目141見通し市115東原二丁目235見通し市116東原三丁目246ヒヤリ市117喜久田町字双又30-19見通し市118喜久田町堀之内字北原6-9優先市119喜久田町早稲原字伝左エ門原優先市120日和田町高倉字牛ケ鼻130-1優先市121日和田町高倉字鶴番367-1優先市122日和田町高倉字南台23-1見通し公安123日和田町梅沢字衛門次郎原123優先市124日和田町梅沢字衛門次郎原150-2見通し市125日和田町梅沢字新屋敷115-1見通し市126日和田町字鶴見坦139優先市127日和田町字鶴見坦88優先市128日和田町字鶴見坦156優先市129日和田町字沼田29-1見通しなし130日和田町字原町25-1見通し市131日和田町字水神前145優先市132日和田町字水神前169優先市133日和田町字水神前184優先市134日和田町字境田17優先市135日和田町字鶴見坦40-54見通し公安136八山田二丁目204優先市137八山田三丁目204優先市138八山田四丁目160優先市139八山田五丁目452優先市140八山田西二丁目242優先なし141八山田西三丁目149優先なし142八山田西三丁目164優先なし143八山田西四丁目9優先市144八山田西四丁目30優先市145八山田西四丁目83優先なし146八山田西四丁目179優先市147八山田西五丁目284優先市148富久山町八山田字細田原3-18見通し市149富久山町八山田字坂下1-1優先市150富久山町八山田字舘前103-2見通しなし151富久山町八山田字菱池17-4見通し市152富久山町久保田字本木93見通し市153富久山町久保田字我妻117優先市154富久山町久保田字我妻136優先なし155富久山町久保田字石堂35-4優先市156富久山町久保田字石堂22優先市157富久山町久保田字本木54-2見通しなし158富久山町久保田字我妻79-1見通し市159富久山町久保田字麓山115-3見通しなし160富久山町久保田字麓山54-3見通しなし161富久山町久保田字三御堂12-2優先市162富久山町久保田字三御堂15-1優先なし163富久山町久保田字下河原123-1優先市164富久山町久保田字下河原38-2優先市165富久山町久保田字古坦131-4優先なし166富久山町久保田字三御堂122-2優先市167富久山町久保田字三御堂129-10優先なし168富久山町福原字猪田29-1見通し市169富久山町福原字左内90-63見通し市170湖南町三代字原木1148優先市171湖南町三代字御代1155-2優先市172湖南町福良字畑田181-1優先市173湖南町舟津字ヲボケ沼1見通し市174湖南町舘字上高野52優先市175熱海町安子島字北原24-54見通し市176上伊豆島一丁目25見通し市177田村町小川字岡市6見通し市178田村町小川字戸ノ内80-4見通し市179田村町山中字上野90-2見通し市180田村町山中字鬼越91-1見通し市181田村町山中字鬼越518-3優先市182田村町山中字枇杷沢264-6見通し市183田村町金沢字大谷地234-10見通し市184田村町谷田川字北田9見通し市185田村町谷田川字町畑11-1見通しなし186田村町守山字湯ノ川85-1見通し市187田村町正直字南17-1見通し市188田村町正直字北22-3見通し市189田村町金屋字水上35-1見通し市190田村町金屋字水上4見通し市191田村町金屋字マセ口14-2見通し市192田村町金屋字西川原80-3見通しなし193田村町上行合字北古川97優先市194田村町下行合字古道内122-2優先市195田村町下行合字宮田130-25優先市196田村町手代木字三斗蒔34優先市197田村町手代木字永作236-1優先市198田村町桜ケ丘一丁目59優先公安199田村町桜ケ丘一丁目170見通し公安200田村町桜ケ丘一丁目226見通しなし201田村町桜ケ丘二丁目1見通し市202田村町桜ケ丘二丁目2見通し市203田村町桜ケ丘二丁目27見通し市204田村町桜ケ丘二丁目90見通し市205田村町桜ケ丘二丁目115、297-17見通し市206田村町桜ケ丘二丁目144見通し公安207田村町桜ケ丘二丁目203見通し市208田村町桜ケ丘二丁目295-54見通し市209田村町桜ケ丘二丁目365見通し市210田村町守山字権現壇165-1見通し市211西田町鬼生田字前田407優先公安212西田町鬼生田字石堂1194優先市213西田町土棚字内出694-2見通しなし214中田町下枝字五百目55見通し市215中田町柳橋字石畑520-9見通し市216中田町柳橋字久根込564優先市217中田町柳橋字小中里217優先市218中田町牛字縊本字袋内1-1優先市219中田町高倉字弥五郎253優先市220中田町高倉字弥五郎202見通し市221中田町高倉字三渡13-2見通し市222中田町高倉字宮ノ脇198-1見通し市 また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い 東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない 郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影) さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故
福島市のイオン福島店西側の車道で車を暴走させ、歩道に乗り上げて歩行者1人を死なせ、前方の車に乗っていた4人にけがをさせたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われている97歳の男に4月12日午後2時、福島地裁で判決が言い渡される。裁判では、男が5年前に妻を亡くし一人暮らしをしていたこと。自炊しないため外食が日課となり、その帰りに事故を起こしたことが明らかとなった。 被告の波汐国芳氏(福島市北沢又)は1925(大正14)年生まれ、いわき市出身。全国区の歌人として知られ、福島民友では事故前まで短歌の選者を務めていた。 波汐氏は事故直後に逮捕されたが、高齢ということもあり現在は釈放中で、老人ホームに入所している。波汐氏は杖をつき、背広姿で法廷に現れた。腰は曲がっている。入廷時に傍聴席と裁判官、検察官それぞれに向かって深く礼をした。頭は年齢の割に豊かな白髪で覆われていた。足つきはおぼつかないが、ゆっくりと証言台まで自らの足で歩いた。 波汐氏は民間企業に勤める傍ら、53歳ごろに運転免許を取得した。95歳の時に高齢者講習と認知症検査をパスし、1日に1回のペースで運転を続けていた。だが、近隣住民によると、車庫入れの際にはバックで何度も切り返していたという。 そもそも97歳の超高齢者が車を運転し、毎日どこに行く必要があったのか。自宅があるのは、車や歩行者が行き来する大型商業施設の周辺で日中から夕方は特に混み合う。にもかかわらず車で出かける理由は、波汐氏が2018年に妻を亡くし、一人暮らしとなったことが関係している。食事は買い置きのパンを食べるほかは「自分では作らなかった」という。 毎日午前10時ごろに起床していたため、1日2食で済ませた。そのうち1食は車を運転し、2㌔ほど離れたとんかつ店で食事をした。歩くには遠い。波汐氏は高齢で腰を痛めていたこともあり、その選択肢はなかった。自宅からこの店に車で向かうには、交通量の多い国道13号福島西道路とイオン福島店付近を通らなければならない。昨年11月19日夕方に歩行者を死なせた事故を起こした時も、その帰り道だった。 波汐氏には別に暮らす長女と長男がいる。首都圏に住む長女は毎月1回程度、様子を見に泊りがけで訪ねてきていた。他にケアマネージャーやヘルパーが自宅を訪問していた。 大事故の予兆は事故3カ月前の昨年8月にあった。車庫入れの際、自損事故を起こしたのだ。その時は普通自動車に乗っていた。破損個所は大きく、修理が必要だった。ディーラーに依頼すると「直すのと同じ値段で買い替えられる」と勧められ、軽自動車に乗り替えた。死亡事故を起こしたのはこの軽自動車だった。 普通自動車から軽自動車に乗り替えたところで根本的な解決にはならないと周囲も思ったようだ。波汐氏を定期的に診ている鍼灸師は、波汐氏の長女に「今、波汐氏はこの軽自動車に乗っている」とメールで報告していた。 波汐氏を担当するケアマネージャーは、軽自動車に傷がついているのを発見した。事故を起こす3日前の11月16日には、長女に「今は自損事故で済んでいるが、他人を巻き込む重大事故につながる恐れがある。運転をやめた方がいいと思います」とメールを送っていた。 長女自身も大事故を予見する機会があった。11月12~13日に波汐氏を訪ね、彼の運転する車に同乗した時のことだ。 「乗っていると違和感はありませんでしたが、車庫入れの際に少し違和感を覚えて、早く運転をやめさせた方がいいと思いました。車から降りて車庫入れを見ていたら、後ろの部分をこすっていました。父親に直接『そろそろやめた方がいい』と言い、実家を離れてからも毎日電話して運転をやめるよう言いました」(長女の法廷での証言) 長女はタクシー会社に契約を打診した。波汐氏がその都度配車を依頼し、その分の運賃を後日まとめて口座から引き落とす方法だ。だが、「個人とは契約していない」と断られたという。 大惨事はそれから1週間も経たないうちに起こった。 犠牲者の夫「事件は予見できた」 97歳の運転者が死亡事故を起こしたイオン福島店西側の道路 「『ママ、ママ』と9歳の娘が叫びながら倒れている妻に向かって走っていました。周りの大人が応急処置を施す中、娘はそれでも近づこうとします。遠ざけられた娘は衝撃で飛んだ妻の靴を拾い大事そうに抱えていました。警察に証拠として提出する必要があったのですが、夜になっても離しません。後で返してもらうからと説得してやっと渡してもらいました」 被害者参加制度を利用し、事故で亡くなった、当時42歳女性の夫が法廷で手記を読み上げた。時間は30分に及んだ。 事故から1カ月経って、夫は惨状を記録したドライブレコーダーをようやく見る決断ができた。妻の最期を見届けてあげたかった。何より、暴走車に引かれる直前まで妻の隣にいた娘が責任を感じ、悩んだ時に相談に乗ってあげられるようにしたい気持ちがあったという。 夫の怒りは波汐氏とその家族に向けられた。 「高齢者の運転免許返納は60~80代の議論だと私は思っていました。90歳を超えたら当然返納すべきではないでしょうか。被告の家族が同居して世話もできたし、介護サービスもあります。現に被告は釈放後に老人ホームで暮らしています。事故を起こすまでなぜ97歳の高齢者を1人にしておいたのですか。憤りを覚えます。今回のような事件が起きることは予見できたし、今まで起きなかったのはたまたまだったと思います」 波汐氏は事故原因を検察官に問われ、こう答えている。 「ブレーキと間違ってアクセルを踏んでしまった。的確にできなかった。……これは自分の運転の未熟です。……慌ててしまった」 波汐氏は耳が遠く、質問の趣旨も理解できていないようだった。「車がないと生活できないんです」「運転するのは近くの食堂に行く時だけです」。自分の発言がどう受け取られるか客観視する余裕はなかった。ちぐはぐな答えを繰り返すと、質問する側が「もういいです」と打ち切った。 今回の大事故は、波汐氏はもちろん家族や周囲の甘い考えが招いた。検察は波汐氏に禁錮3年6月を求めているが、どれだけ厳罰が下されても犠牲者が帰ってくることはない。高齢者の免許返納が進むこと、そして、運転しなくても暮らしていけるように公共・民間を問わず交通サービスを整えなければ新たな犠牲者を生むだけだ。
国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」 令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。 遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区 3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。
福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう 福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。 施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人 同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加 国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。 無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク 同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。
本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長 本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。 × × × × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員 中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。 × × × × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ 斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。 ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」
3月下旬、伊達市保原町上保原に食品スーパーとディスカウントストアの複合店舗「スーパーセンタートライアル(TRIAL)伊達保原店」がオープンする。出店場所は県道4号福島保原線沿いで、相馬福島道路伊達中央インターチェンジの近く。 交通の利便性が良く、市内初進出店舗ということもあって、注目度は高い。周辺にはヨークベニマル保原店など商業施設が出店しており、競合は必至だ。 これだけ店舗が多いエリアだと、来店客以上にスタッフの確保も大変そうだが、トライアルでは時給1000~1200円(鮮魚部門)の条件で求人を出していた。ちなみにヨークベニマル保原店(パート、惣菜製造スタッフ)は時給858円(いずれも企業ホームページより)。 市内の事情通からは「小売店経験者がトライアルに流れている」とのウワサも聞こえる。オープン前から流通戦争が始まっている。 https://www.trial-net.co.jp/shops/559/