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中間貯蔵施設

  • 【JESCO】中間貯蔵を担う風通しの悪い国策会社

    【JESCO】中間貯蔵を担う風通しの悪い国策会社

     東京電力福島第一原発事故で生じた放射性物質を含んだ除染土を最終処分するまでの間、保管を担う国策会社「中間貯蔵・環境安全事業株式会社」(JESCO・本社東京)に上司から暴言を吐かれたと訴える職員がいる。上司は「怠慢を指導」とし、職員は「パワハラを受けた」と互いの主張は平行線。寄せ集めの組織ゆえ、職員同士の連携が並大抵でない実態が浮かび上がってきた。 「怠慢を指導」か「パワハラ」かでいがみ合い 除染廃棄物の運搬状況を監視するJESCOの輸送統括ルーム(いわき市)=2020年2月撮影  8月24日、東京電力福島第一原発で発生した汚染水を浄化処理した水の海洋放出が始まった。「水」に注目が集まる一方、事故で発生した放射性物質を含む「土」の保管を担う中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の中間貯蔵管理センター福島事務所(福島市)に勤務する60代の男性職員は、所長を務める男性から投げ掛けられたという暴言をこう振り返った。  「2022年1月に環境省から委託された建物の解体工事の設計変更を担当しました。同27日に設計書の納期が迫っているのにまだ終わらないのかと上司から言われました。『やる気あんのか!』『ふざけんじゃねえぞ!』などの暴言を吐かれました」  男性職員は、大学の工学部を卒業後、民間企業、復興庁を経て2017年にJESCOに入社した。民間企業に勤めていた時は建築現場で働き、一級建築士の免許を取った。  ここでJESCOの組織に触れておかねばならない。特徴は、中途採用や出向者が多く、職歴がさまざまな人物が集まる大所帯(従業員559人=今年3月末現在)ということだ。それが、職員間の軋轢を生みやすい土壌につながっている可能性がある。  JESCOは、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法に基づき政府全額出資で2004年に設立された特殊法人。当初の事業はポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物の処理で、16年に終える計画だった。ところが14年に計画を延長した上、原発事故で発生した除染土の収集や運搬、中間貯蔵、調査研究、技術開発の事業も追加された(東京新聞2017年4月24日付より)。  代表取締役社長は環境省で事務次官(2019年7月~20年7月)を務めた鎌形浩史氏。資本金は382億円(2023年2月末現在)。  前出の東京新聞の記事は、JESCOが中央省庁から再就職者や現役出向者を19人受け入れ、そのうち監督官庁の環境省出身者が17人で約9割を占めていたと報じた。「環境省職員だからといってPCB処理や中間貯蔵のプロというわけではない。OBや出向者を20人近くも在籍させる必要があるのか疑問だ」という元経済産業省官僚古賀茂明氏の指摘を紹介している。  除染で集めた汚染土壌を保管するのは不可欠な仕事だ。環境省所管の国策会社のため、JESCOは代々トップに同省事務次官経験者を据え、取締役と監査には元官僚と民間企業の役員が付いている。天下り先と言われる所以だ。  前出の男性職員によると、福島市の事務所では県職員が退職後に所長になり、実務は東電や土木建設会社からの出向者・転職者が主導し、現地採用の任期付き職員や派遣社員が従っているという。  JESCOの業務はPCBの処理と、除染土を最終処分するまで管理することなので、新たな業務を抱え込まない限り事業は将来縮小する。言わば「尻拭い」の組織。実務者には、生え抜きの職員を多く採用して一から育てるよりも、即戦力の人物を民間から集め、その他は臨時職員で人員調整する方が都合が良い。  男性職員に暴言を吐いたとされる所長は、県が発表する「退職県職員の再就職状況」によると、2017年度に水・大気環境課長を退職し、JESCOの福島事務所に再就職したと記載されている。  本誌は所長に、男性職員が訴える昨年1月27日の暴言について確認した。  「ハラスメントを受けたという申告はありましたが『苦情』と処理しています。『やるべきことをやらない人に厳しく指導をした』との認識です。男性職員には工事設計の締め切りを前から知らせていたのに、必要な作業をする素振りが見られませんでした。本人に確認すると『期限は明日までと思っていました』と答えました」  さらに、  「彼は『設計部門をできる』と虚偽を言って採用されたのではないでしょうか。周りがカバーしなければならず、他の職員から批判が出ました。所長の手前、必要な指導をしたと認識しています」  所長によると、納期が迫る中、工事の設計結果を急いで提出するよう指導したが、その時に「激しい言葉遣いになった」との認識のようだ。  男性職員が反論する。  「期限は同2月上旬で、まだ時間はあり、私は計画的に進めていました。正しい期限は議事録で回し、所長もチェックを入れ確認していたはずです。前職では解体工事の設計を担当したことがあります。経験に従って自分の中では順調に進んでいると思っていましたが、突然『間に合わないのではないか』と詰められ、そこで環境省委託の設計書では見積もり方法が異なっていることを知りました。想定していた期限よりも前に、徹夜で仕上げるようにと罵倒を交え叱責されました」  男性職員は、所長とのトラブルに至る前段に、発注者である環境省内で職員同士の折り合いが悪く、同省からJESCOへの指示が一本化されていなかった点、以前に環境省の仕事を請負い辛酸を舐めた民間業者から「今度の担当者は最後に仕事を押し付けてくる人物なので気を付けろ」と助言され、実際にその通りだった点を挙げ、工事の流れの川上に立つ環境省職員の問題も指摘した。 所長と同じフロアに  男性職員によると、暴言を吐かれたことを受け、福島労働基準監督署に相談して本社の人事部と面談し、別の仕事の担当になったという。ところが、その職場は所長と同じフロアで、「罵声を浴びせられるのでないかとビクビクし、顔を合わせることに苦痛を感じる」と話す。  一方、所長はと言うと「ここまで『苦情』を申し立てる職員はレアケース。やることをやらず、権利だけ主張するのはおかしいと思います」。  本誌は5月号に「福島国際研究教育機構職員が2日で『出勤断念』 霞が関官僚の〝高圧的態度〟に憤慨」という記事を掲載した。現地採用の職員が官庁の出向者から馬鹿にされたと思い、「この上司とは信頼関係を築ける気がしない」と2日で出勤を諦めた内容。寄せ集めの職場では、信頼関係を築くのが並大抵ではないことが分かる。  男性職員と所長の話を聞くと、JESCO福島事務所の職場は風通しが悪そうだ。JESCOは国策事業を担い、多額の公金が投入されているので、職場問題が業務に支障を及ぼさないか国民は不安を覚えるだろう。仲良くしろとは言わないが、準公務員であることを自覚し「呉越同舟」で職務に励んでほしい。 ※JESCO本社に事実関係を確認すると、男性職員の申し出は「ハラスメントの相談として受け付け、詳細については個人が特定される情報なので、回答を控えさせていただきますが、社内規程および厚労省の指針に則り、ヒアリング調査など必要な対応をとりました」とのこと。「会社としては、ハラスメントの防止に引き続き力を入れて取り組んでいく所存です」とした。 https://www.youtube.com/watch?v=CTJF_pbybQo&t=275s 【福島】【原発】【中間貯蔵施設】① 輸送統括ルーム(2020年.2.20)

  • 営農賠償対象外の中間貯蔵農地所有者

    営農賠償対象外の中間貯蔵農地所有者

    (2022年10月号)  県内除染で発生した土などの除染廃棄物が搬入されている中間貯蔵施設(大熊町・双葉町)。そんな同施設に農地を提供する地権者(農業生産者)らが「環境省や東電に理不尽・不公平な扱いを受けている」と主張し、見直しを求めている。 看過できない国・東電の「理不尽対応」  除染廃棄物は帰還困難区域を除くエリアで約1400万立方㍍発生すると推計されていたが、9月上旬現在、約9割にあたる1327万立方㍍が中間貯蔵施設に搬入された。 同施設は用地を取得しながら整備を進めている。地権者は2360人(国・地方公共団体含む)に上り、環境省は30年後に返還される「地上権設定」、所有権が完全に移る「売買」、いずれかの形で契約するよう求めている。連絡先把握済み約2100人のうち、8月末時点で1845人(78・2%)が契約を結んでいる。 その中の有志などで組織されているのが、「30年中間貯蔵施設地権者会」(門馬好春会長)だ。この間、30年後の確実な土地返還を担保する契約書の見直しを求め、新たな契約書案を環境省に受け入れさせたほか、理不尽な用地補償ルールの是正にも取り組んできた。 通常、国が公共事業の用地補償を行う際には〝国内統一ルール〟に基づいて行われている。ところが、中間貯蔵施設の用地補償は環境省の独自ルールで行われており、具体的には中間貯蔵施設の地権者(30年間の地上権設定者)が受け取る補償額より、仮置き場として土地を4年半提供した地代累計額の方が多いという異常な〝逆転現象〟が生まれていた。 地権者会では用地補償について専門家などの指導を受け、憲法や法律や基準要綱などの解釈を研究。それらを踏まえ、「なぜ国が用地補償を行う際の〝国内統一ルール〟を中間貯蔵施設に用いなかったのか」、「〝国内統一ルール〟では『使用する土地に対し地代で補償する』、『宅地、宅地見込地、農地の地代は土地価格の6%が妥当』と示されているのに、なぜ環境省は同ルールを無視して低い金額で契約させたのか」と団体交渉や説明会の場で繰り返し追及した。 そうしたところ、環境省は2021年、地権者会との団体交渉を突然一方的に打ち切った。ルール外の契約であることを訴え続ける同地権者会に対し、頬かむりを決め込んだわけ。その後も地権者との個別交渉や説明会は継続して行われているが、未だ地上権を見直す姿勢は見えないという。 併せて同地権者会と農業生産者が取り組んでいるのが、理不尽な営農賠償(農業における営業損害の賠償)の見直しだ。 門馬会長はこう訴える。 門馬好春会長  「東電は農業生産者である帰還困難区域内の農地所有者、中間貯蔵施設の未契約の農地所有者、県内の仮置き場に提供している農地所有者には現在も農業における営農賠償の支払い対象としている。しかし、中間貯蔵施設に地上権契約で農地を提供している農地所有者だけは営農賠償の対象外となっているのです。こんな無茶苦茶な話はありません」 地上権契約者にも、2019年分までは年間逸失利益を認め営農賠償が支払われていた。だが、2020年に同年分から突然営農賠償の対象外という方針を東電が決定した。 ある農業生産者は、東電に対し、農業再開の意思がある証拠として、地上権契約書などを送って回答を求めたが、何の連絡もなかった。そのため、同地権者会も含めた東電との交渉が始まり、問題が広く認識されるようになった。 同地権者会と農業生産者らは、越前谷元紀弁護士や熊本一規明治学院大名誉教授、礒野弥生東京経済大名誉教授の同席のもと、東電(弁護士同席)とマスコミ公開の下で交渉を重ねている。 門馬会長によると、東電は「仮置き場は一時的な土地の提供の契約書なので、早期の営農再開が可能だが、中間貯蔵施設は相当期間農地を提供するため、農業ができない期間が長期にわたる契約書である」、「仮置き場は地域の要請によりやむを得ない事情で提供せざるを得なかった」として、営農賠償の対象にしていることの正当性を主張した。 「それを言うなら、仮置き場で設置期間が長いものは10年近くになっているし、帰還困難区域や中間貯蔵施設の未契約者も長期にわたり農業ができていないが、東電に営農の意思を示し営農賠償の対象になっている。地域の要請で土地を提供したのは、仮置き場も中間貯蔵施設も同じで同施設の方が要請ははるかに強い。そもそも原発事故で農業ができないのはみな一緒なのだから、分ける必要はない」(門馬会長) 【越前谷弁護士が指摘】東電主張は「論理の逆転」 2022年8月に行われた地権者会と東電との交渉の様子(門馬好春氏撮影)  越前谷弁護士は東電の主張を「論理の逆転」と指摘している。 東電は営農賠償の対象になるかどうかの判断基準を「将来農業ができる環境が整ったら営農再開をする意思があるかどうか」という点だと示している。その理屈だと、「将来農業ができないかもしれない」と言っただけで、現時点で起きている「農業ができない」損害までなかったことになり、東電が賠償責任を負わないことになる。勝手な理屈だ。熊本、礒野両名誉教授も東電の逸失利益に対する解釈の法的根拠の問題点を指摘し、東電に説明を求めた。 「原発事故により営農が不可能ならば、その被害に応じて毎年賠償すべき。そして農業ができる環境が整ったとき、営農再開するかどうかを農家自身が判断する――というのが本来の姿。事故加害者の東電が、一方的に営農再開時期をジャッジし、いま農家が農業再開の意思があると示していることを無視して、東電が『営農の意思がない』と勝手に判断、賠償の対象にならないと決めていることは承服できません」(同) 門馬さんらが東電担当者に長期と短期の定義を尋ねたところ、回答が二転三転して最終的には「総合的に勘案している」と答えたという。 営農賠償に関しては、東電と、JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会などが協議してルールを定めてきたが、中間貯蔵施設の地上権契約者はそこから抜け落ちる形となった。 門馬会長が経緯を説明したところ、JAも理解を示し、バックアップする考えを表明したほか、中間貯蔵施設が立地する双葉町の伊澤史朗町長なども「東電が勝手に営農の意思がないと判断して営農賠償の対象外にするのはおかしい」と述べている。しかし、東電の反応は鈍く、8月3回目の交渉でも対応を見直す旨の回答はなかった。 事故を起こした責任がある国・東電が、被害者である中間貯蔵施設の地権者らに理不尽・不公平な条件をのませている現状がここにある。 中間貯蔵施設に関しては2045年3月12日までに県外で最終処分し事業を終了させる方針が法律で定められているが、最終処分地選定に向けた具体的な動きはまだない。今後、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域や同拠点区域外の除染が進めばさらに多くの除染廃棄物が発生すると予想される。こうした現状を考えると、県外での最終処分が実現し、地上権契約者に土地が返還されるとは現実的に考えにくい。 原発事故の被害者である県民・地権者が理不尽な扱いをなし崩し的に受け入れる必要はない。いまから県外搬出が実現できなかったときのことも考え、例えば「搬出完了が1日遅れるごとに、違約金をいくら払え」ということを求める訴訟準備をしておくべきだ。そういう意味では、同地権者会は今後も大きな役割を担うことになろう。 あわせて読みたい 根本から間違っている国の帰還困難区域対応 【原発事故から12年】終わらない原発災害

  • 【JESCO】中間貯蔵を担う風通しの悪い国策会社

     東京電力福島第一原発事故で生じた放射性物質を含んだ除染土を最終処分するまでの間、保管を担う国策会社「中間貯蔵・環境安全事業株式会社」(JESCO・本社東京)に上司から暴言を吐かれたと訴える職員がいる。上司は「怠慢を指導」とし、職員は「パワハラを受けた」と互いの主張は平行線。寄せ集めの組織ゆえ、職員同士の連携が並大抵でない実態が浮かび上がってきた。 「怠慢を指導」か「パワハラ」かでいがみ合い 除染廃棄物の運搬状況を監視するJESCOの輸送統括ルーム(いわき市)=2020年2月撮影  8月24日、東京電力福島第一原発で発生した汚染水を浄化処理した水の海洋放出が始まった。「水」に注目が集まる一方、事故で発生した放射性物質を含む「土」の保管を担う中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の中間貯蔵管理センター福島事務所(福島市)に勤務する60代の男性職員は、所長を務める男性から投げ掛けられたという暴言をこう振り返った。  「2022年1月に環境省から委託された建物の解体工事の設計変更を担当しました。同27日に設計書の納期が迫っているのにまだ終わらないのかと上司から言われました。『やる気あんのか!』『ふざけんじゃねえぞ!』などの暴言を吐かれました」  男性職員は、大学の工学部を卒業後、民間企業、復興庁を経て2017年にJESCOに入社した。民間企業に勤めていた時は建築現場で働き、一級建築士の免許を取った。  ここでJESCOの組織に触れておかねばならない。特徴は、中途採用や出向者が多く、職歴がさまざまな人物が集まる大所帯(従業員559人=今年3月末現在)ということだ。それが、職員間の軋轢を生みやすい土壌につながっている可能性がある。  JESCOは、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法に基づき政府全額出資で2004年に設立された特殊法人。当初の事業はポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物の処理で、16年に終える計画だった。ところが14年に計画を延長した上、原発事故で発生した除染土の収集や運搬、中間貯蔵、調査研究、技術開発の事業も追加された(東京新聞2017年4月24日付より)。  代表取締役社長は環境省で事務次官(2019年7月~20年7月)を務めた鎌形浩史氏。資本金は382億円(2023年2月末現在)。  前出の東京新聞の記事は、JESCOが中央省庁から再就職者や現役出向者を19人受け入れ、そのうち監督官庁の環境省出身者が17人で約9割を占めていたと報じた。「環境省職員だからといってPCB処理や中間貯蔵のプロというわけではない。OBや出向者を20人近くも在籍させる必要があるのか疑問だ」という元経済産業省官僚古賀茂明氏の指摘を紹介している。  除染で集めた汚染土壌を保管するのは不可欠な仕事だ。環境省所管の国策会社のため、JESCOは代々トップに同省事務次官経験者を据え、取締役と監査には元官僚と民間企業の役員が付いている。天下り先と言われる所以だ。  前出の男性職員によると、福島市の事務所では県職員が退職後に所長になり、実務は東電や土木建設会社からの出向者・転職者が主導し、現地採用の任期付き職員や派遣社員が従っているという。  JESCOの業務はPCBの処理と、除染土を最終処分するまで管理することなので、新たな業務を抱え込まない限り事業は将来縮小する。言わば「尻拭い」の組織。実務者には、生え抜きの職員を多く採用して一から育てるよりも、即戦力の人物を民間から集め、その他は臨時職員で人員調整する方が都合が良い。  男性職員に暴言を吐いたとされる所長は、県が発表する「退職県職員の再就職状況」によると、2017年度に水・大気環境課長を退職し、JESCOの福島事務所に再就職したと記載されている。  本誌は所長に、男性職員が訴える昨年1月27日の暴言について確認した。  「ハラスメントを受けたという申告はありましたが『苦情』と処理しています。『やるべきことをやらない人に厳しく指導をした』との認識です。男性職員には工事設計の締め切りを前から知らせていたのに、必要な作業をする素振りが見られませんでした。本人に確認すると『期限は明日までと思っていました』と答えました」  さらに、  「彼は『設計部門をできる』と虚偽を言って採用されたのではないでしょうか。周りがカバーしなければならず、他の職員から批判が出ました。所長の手前、必要な指導をしたと認識しています」  所長によると、納期が迫る中、工事の設計結果を急いで提出するよう指導したが、その時に「激しい言葉遣いになった」との認識のようだ。  男性職員が反論する。  「期限は同2月上旬で、まだ時間はあり、私は計画的に進めていました。正しい期限は議事録で回し、所長もチェックを入れ確認していたはずです。前職では解体工事の設計を担当したことがあります。経験に従って自分の中では順調に進んでいると思っていましたが、突然『間に合わないのではないか』と詰められ、そこで環境省委託の設計書では見積もり方法が異なっていることを知りました。想定していた期限よりも前に、徹夜で仕上げるようにと罵倒を交え叱責されました」  男性職員は、所長とのトラブルに至る前段に、発注者である環境省内で職員同士の折り合いが悪く、同省からJESCOへの指示が一本化されていなかった点、以前に環境省の仕事を請負い辛酸を舐めた民間業者から「今度の担当者は最後に仕事を押し付けてくる人物なので気を付けろ」と助言され、実際にその通りだった点を挙げ、工事の流れの川上に立つ環境省職員の問題も指摘した。 所長と同じフロアに  男性職員によると、暴言を吐かれたことを受け、福島労働基準監督署に相談して本社の人事部と面談し、別の仕事の担当になったという。ところが、その職場は所長と同じフロアで、「罵声を浴びせられるのでないかとビクビクし、顔を合わせることに苦痛を感じる」と話す。  一方、所長はと言うと「ここまで『苦情』を申し立てる職員はレアケース。やることをやらず、権利だけ主張するのはおかしいと思います」。  本誌は5月号に「福島国際研究教育機構職員が2日で『出勤断念』 霞が関官僚の〝高圧的態度〟に憤慨」という記事を掲載した。現地採用の職員が官庁の出向者から馬鹿にされたと思い、「この上司とは信頼関係を築ける気がしない」と2日で出勤を諦めた内容。寄せ集めの職場では、信頼関係を築くのが並大抵ではないことが分かる。  男性職員と所長の話を聞くと、JESCO福島事務所の職場は風通しが悪そうだ。JESCOは国策事業を担い、多額の公金が投入されているので、職場問題が業務に支障を及ぼさないか国民は不安を覚えるだろう。仲良くしろとは言わないが、準公務員であることを自覚し「呉越同舟」で職務に励んでほしい。 ※JESCO本社に事実関係を確認すると、男性職員の申し出は「ハラスメントの相談として受け付け、詳細については個人が特定される情報なので、回答を控えさせていただきますが、社内規程および厚労省の指針に則り、ヒアリング調査など必要な対応をとりました」とのこと。「会社としては、ハラスメントの防止に引き続き力を入れて取り組んでいく所存です」とした。 https://www.youtube.com/watch?v=CTJF_pbybQo&t=275s 【福島】【原発】【中間貯蔵施設】① 輸送統括ルーム(2020年.2.20)

  • 営農賠償対象外の中間貯蔵農地所有者

    (2022年10月号)  県内除染で発生した土などの除染廃棄物が搬入されている中間貯蔵施設(大熊町・双葉町)。そんな同施設に農地を提供する地権者(農業生産者)らが「環境省や東電に理不尽・不公平な扱いを受けている」と主張し、見直しを求めている。 看過できない国・東電の「理不尽対応」  除染廃棄物は帰還困難区域を除くエリアで約1400万立方㍍発生すると推計されていたが、9月上旬現在、約9割にあたる1327万立方㍍が中間貯蔵施設に搬入された。 同施設は用地を取得しながら整備を進めている。地権者は2360人(国・地方公共団体含む)に上り、環境省は30年後に返還される「地上権設定」、所有権が完全に移る「売買」、いずれかの形で契約するよう求めている。連絡先把握済み約2100人のうち、8月末時点で1845人(78・2%)が契約を結んでいる。 その中の有志などで組織されているのが、「30年中間貯蔵施設地権者会」(門馬好春会長)だ。この間、30年後の確実な土地返還を担保する契約書の見直しを求め、新たな契約書案を環境省に受け入れさせたほか、理不尽な用地補償ルールの是正にも取り組んできた。 通常、国が公共事業の用地補償を行う際には〝国内統一ルール〟に基づいて行われている。ところが、中間貯蔵施設の用地補償は環境省の独自ルールで行われており、具体的には中間貯蔵施設の地権者(30年間の地上権設定者)が受け取る補償額より、仮置き場として土地を4年半提供した地代累計額の方が多いという異常な〝逆転現象〟が生まれていた。 地権者会では用地補償について専門家などの指導を受け、憲法や法律や基準要綱などの解釈を研究。それらを踏まえ、「なぜ国が用地補償を行う際の〝国内統一ルール〟を中間貯蔵施設に用いなかったのか」、「〝国内統一ルール〟では『使用する土地に対し地代で補償する』、『宅地、宅地見込地、農地の地代は土地価格の6%が妥当』と示されているのに、なぜ環境省は同ルールを無視して低い金額で契約させたのか」と団体交渉や説明会の場で繰り返し追及した。 そうしたところ、環境省は2021年、地権者会との団体交渉を突然一方的に打ち切った。ルール外の契約であることを訴え続ける同地権者会に対し、頬かむりを決め込んだわけ。その後も地権者との個別交渉や説明会は継続して行われているが、未だ地上権を見直す姿勢は見えないという。 併せて同地権者会と農業生産者が取り組んでいるのが、理不尽な営農賠償(農業における営業損害の賠償)の見直しだ。 門馬会長はこう訴える。 門馬好春会長  「東電は農業生産者である帰還困難区域内の農地所有者、中間貯蔵施設の未契約の農地所有者、県内の仮置き場に提供している農地所有者には現在も農業における営農賠償の支払い対象としている。しかし、中間貯蔵施設に地上権契約で農地を提供している農地所有者だけは営農賠償の対象外となっているのです。こんな無茶苦茶な話はありません」 地上権契約者にも、2019年分までは年間逸失利益を認め営農賠償が支払われていた。だが、2020年に同年分から突然営農賠償の対象外という方針を東電が決定した。 ある農業生産者は、東電に対し、農業再開の意思がある証拠として、地上権契約書などを送って回答を求めたが、何の連絡もなかった。そのため、同地権者会も含めた東電との交渉が始まり、問題が広く認識されるようになった。 同地権者会と農業生産者らは、越前谷元紀弁護士や熊本一規明治学院大名誉教授、礒野弥生東京経済大名誉教授の同席のもと、東電(弁護士同席)とマスコミ公開の下で交渉を重ねている。 門馬会長によると、東電は「仮置き場は一時的な土地の提供の契約書なので、早期の営農再開が可能だが、中間貯蔵施設は相当期間農地を提供するため、農業ができない期間が長期にわたる契約書である」、「仮置き場は地域の要請によりやむを得ない事情で提供せざるを得なかった」として、営農賠償の対象にしていることの正当性を主張した。 「それを言うなら、仮置き場で設置期間が長いものは10年近くになっているし、帰還困難区域や中間貯蔵施設の未契約者も長期にわたり農業ができていないが、東電に営農の意思を示し営農賠償の対象になっている。地域の要請で土地を提供したのは、仮置き場も中間貯蔵施設も同じで同施設の方が要請ははるかに強い。そもそも原発事故で農業ができないのはみな一緒なのだから、分ける必要はない」(門馬会長) 【越前谷弁護士が指摘】東電主張は「論理の逆転」 2022年8月に行われた地権者会と東電との交渉の様子(門馬好春氏撮影)  越前谷弁護士は東電の主張を「論理の逆転」と指摘している。 東電は営農賠償の対象になるかどうかの判断基準を「将来農業ができる環境が整ったら営農再開をする意思があるかどうか」という点だと示している。その理屈だと、「将来農業ができないかもしれない」と言っただけで、現時点で起きている「農業ができない」損害までなかったことになり、東電が賠償責任を負わないことになる。勝手な理屈だ。熊本、礒野両名誉教授も東電の逸失利益に対する解釈の法的根拠の問題点を指摘し、東電に説明を求めた。 「原発事故により営農が不可能ならば、その被害に応じて毎年賠償すべき。そして農業ができる環境が整ったとき、営農再開するかどうかを農家自身が判断する――というのが本来の姿。事故加害者の東電が、一方的に営農再開時期をジャッジし、いま農家が農業再開の意思があると示していることを無視して、東電が『営農の意思がない』と勝手に判断、賠償の対象にならないと決めていることは承服できません」(同) 門馬さんらが東電担当者に長期と短期の定義を尋ねたところ、回答が二転三転して最終的には「総合的に勘案している」と答えたという。 営農賠償に関しては、東電と、JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会などが協議してルールを定めてきたが、中間貯蔵施設の地上権契約者はそこから抜け落ちる形となった。 門馬会長が経緯を説明したところ、JAも理解を示し、バックアップする考えを表明したほか、中間貯蔵施設が立地する双葉町の伊澤史朗町長なども「東電が勝手に営農の意思がないと判断して営農賠償の対象外にするのはおかしい」と述べている。しかし、東電の反応は鈍く、8月3回目の交渉でも対応を見直す旨の回答はなかった。 事故を起こした責任がある国・東電が、被害者である中間貯蔵施設の地権者らに理不尽・不公平な条件をのませている現状がここにある。 中間貯蔵施設に関しては2045年3月12日までに県外で最終処分し事業を終了させる方針が法律で定められているが、最終処分地選定に向けた具体的な動きはまだない。今後、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域や同拠点区域外の除染が進めばさらに多くの除染廃棄物が発生すると予想される。こうした現状を考えると、県外での最終処分が実現し、地上権契約者に土地が返還されるとは現実的に考えにくい。 原発事故の被害者である県民・地権者が理不尽な扱いをなし崩し的に受け入れる必要はない。いまから県外搬出が実現できなかったときのことも考え、例えば「搬出完了が1日遅れるごとに、違約金をいくら払え」ということを求める訴訟準備をしておくべきだ。そういう意味では、同地権者会は今後も大きな役割を担うことになろう。 あわせて読みたい 根本から間違っている国の帰還困難区域対応 【原発事故から12年】終わらない原発災害