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  • 福島県警の贈収賄摘発は一段落!?

    福島県警の贈収賄摘発は一段落!?【赤羽組】【東日本緑化工業】

     県発注工事を巡る贈収賄事件は8月、県中流域下水道建設事務所元職員と須賀川市の土木会社「赤羽組」元社長に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。9月13日には、公契約関係競売入札妨害罪に問われている大熊町の法面業者「東日本緑化工業」元社長に判決が下される。県警による贈収賄事件の検挙は、昨年9月に田村市の元職員らを逮捕したのを皮切りに市内の業者に及び、さらにその下請けに入っていた東日本緑化工業の元社長へと至った。業界関係者は、県警が「一罰百戒」の目的を達成したとして、捜査は一区切りを迎えたとみている。 「一罰百戒」芋づる式検挙の舞台裏 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  贈賄罪に問われた赤羽組(須賀川市)元社長の赤羽隆氏(69)には懲役1年、執行猶予3年の有罪判決。受託収賄罪などに問われた県中流域下水道建設事務所元職員の遠藤英司氏(60)には懲役2年、執行猶予4年の他、現金10万円の没収と追徴金約18万円が言い渡された。公契約関係競売入札妨害罪に問われている東日本緑化工業(大熊町)元社長の坂田紀幸氏(53)の裁判は、検察側が懲役1年を求刑し、9月13日に福島地裁で判決が言い渡される予定。  本誌は昨年から、田村市や県の職員が関わった贈収賄事件を業界関係者の話や裁判で明かされた証拠をもとにリポートしてきた。時系列を追うと、今回の県発注工事に絡む贈収賄事件の摘発は、田村市で昨年発覚した贈収賄事件の延長にあった。  福島県の発注工事では、入札予定価格と設計金額は同額に設定されている。一連の贈収賄事件の発端は設計金額を積算するソフトを作る会社の営業活動だった。積算ソフト会社は自社製品の精度向上に日々励んでいるが、各社とも高精度のため製品に大差はない。それゆえ、各自治体が発注工事の設計金額の積算に使う非公表の資材単価表は、自社製品を優位にするために「喉から手が出るほど欲しい情報」だ。  2021年6月、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、同町内の建設業「丹野土木」の男性役員(50)、そして仙台市青葉区の積算ソフト会社「コンピュータシステム研究所」の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報同7月1日付より。年齢、役職は当時、紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同紙の同年12月28日付の記事によると、この3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、仙台地裁から有罪判決を受けた。判決では、同研究所の社員が丹野土木の役員と共謀し、町職員に単価表の情報提供を依頼、見返りに6回に渡って商品券計12万円分を渡したと認定された。1回当たり2万円の計算だ。  同紙によると、宮城県警が川崎町の贈収賄事件を本格捜査し始めたのは2021年5月。田村市で同種の贈収賄事件(詳細は本誌昨年12月号参照)が摘発されたのは、それから1年以上経った翌22年9月だった。  福島県警が、田村市内の土木会社「三和工業」役員のA氏(48)と、同年3月に同市を退職し民間企業に勤めていたB氏(47)をそれぞれ贈賄と受託収賄の疑いで逮捕した(年齢、肩書きは当時)。2人は中学時代の同級生だった。同研究所の営業担当社員S氏が「上司から入手するよう指示された単価表情報を手に入れられなくて困っている」とA氏に打ち明け、A氏がB氏に情報提供を働きかけた。   川崎町の事件と違い、同研究所社員は贈賄罪に問われていない。しかし、同研究所が交際費として渡した見返りが商品券で、1回当たり2万円だったように手口は全く同じだ。  裁判でB氏は、任意捜査が始まったのは2022年の5月24日と述べた。出勤のため家を出た時、警察官2人に呼び止められ、商品券を受け取ったかどうか聞かれたという。警察が同研究所を取り調べ、似たような事件が他でも起きていないか捜査の範囲を広げたと考えるのが自然だろう。  ある業界関係者は「県警は田村市の元職員を検挙し、元職員とつながりのあった業者、さらにその先の業者というように芋づる式に捜査の手を伸ばしたのだろう」とみている。  どういうことか。鍵を握るのは、田村市の贈収賄事件と、今回の県発注工事に絡む事件のどちらにも登場する市内の土木会社「秀和建設」である。  田村市の一連の贈収賄は、三和工業が贈賄側になった事件と、秀和建設が贈賄側になった事件があった。秀和建設のC社長(当時)は、市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6~9月に行われた入札で、当時市職員だったB氏に設計金額を教えてもらい、見返りに飲食接待したと裁判所に認定された(詳細は本誌1月号と2月号を参照)。  県発注工事をめぐる今回の事件では、県中流域下水道建設事務所職員(当時)の遠藤氏から設計金額を聞き出し元請け業者に教えたとして、東日本緑化工業社長(当時)の坂田氏が公契約関係競売入札妨害罪に問われている。その東日本緑化工業が設計金額を教えた元請け業者が秀和建設だった。  秀和建設は坂田氏を通じて設計金額=予定価格を知り、目当ての工事を確実に落札する。坂田氏が社長を務めていた東日本緑化工業は、その下請けに入り法面工事の仕事を得るという仕組みだ。  坂田氏と秀和建設のつながりは、氏が以前勤めていた郡山市の「福島グリーン開発」が資金繰りに困っていた時、秀和建設が援助したことから始まった。福島グリーン開発は2003年に破産宣告を受けたが、坂田氏は東日本緑化工業に転職した後、秀和建設との関係を引き継いだ。  坂田氏は今年8月に行われた初公判で「取り調べを受けてから1年近くになる」と述べているので、坂田氏に任意の捜査が入ったのは昨年8月辺り。田村市元職員のB氏が秀和建設のC氏から見返りに接待を受けたとして逮捕されたのが昨年9月、C氏が在宅起訴されたのが同10月だから、秀和建設と下請けの東日本緑化工業の捜査は呼応して行われていたと考えられる。  捜査はさらに県職員と赤羽組に波及する。坂田氏と県中流域下水道建設事務所職員だった遠藤氏、赤羽組元社長の赤羽氏は3人で会食する仲だった。警察が坂田氏を取り調べる中で、遠藤氏と赤羽氏の関係が浮上したと本誌は考える。裁判では、遠藤氏の取り調べが始まったのが今年3月と明かされたので、秀和建設→坂田氏→遠藤氏・赤羽氏の順に捜査が及んだのだろう。 杓子定規の「綱紀粛正」に迷惑  芋づる式検挙をみると、不正は氷山の一角に過ぎず、さらに摘発が進むのではと、入札不正に心当たりのあるベテラン公務員と業者は戦々恐々している様が想像できるが、前出の業界関係者は「『一罰百戒』の効果は十分にあった。県警本部長と捜査2課長も今年7〜8月に代わったので、継続性を考えると捜査は一段落したのではないか」とみる。  とりわけ、県に与えた効果は絶大だったようだ。「綱紀粛正」が杓子定規に進められ、業者からは県に対しての不満が漏れている。  「県土木部の出先機関に打ち合わせに出向くと職員から『部屋に入らないで』『挨拶はしないで』と言われる。疑いを招くような行動は全て排除しようとしているのだろうが、おかげで十分なコミュニケーションが取れず、良い仕事ができない。現場の職員が判断するべき些細な内容もいちいち上司に諮るので、1週間で終わる仕事が2週間かかり、労力も時間も倍だ。急を要する災害復旧工事が出たら、一体どうなるのか」(前出の業界関係者)  この1年間で、県土木部では出先機関の職員2人が贈収賄事件に絡み有罪判決を受けた。県職員はまさに羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹いている。県は不祥事防止対策として、警察官や教員を除く職員約5500人に「啓発リーフレット」を配り、コンプライアンス順守を周知するハンドブックを必携させたが、効果は未知数だ。  実際、いま管理職に就く世代は、業者との関係性が曖昧だった。60歳の遠藤氏は「入庁当初の1990年ごろは、県職員が受注業者と私的に飲むのは厳しく制限されていなかった」と法廷で振り返っていた。赤羽氏が「後継者を見つけてほしい」との趣旨で退職を控える遠藤氏に現金10万円を渡していたことからも、県職員が昵懇の業者に入札に関わる非公開情報を教える関係は代々受け継がれていたようだ。  ただ遠藤氏も、見境なく設計金額を教えていたわけではない。「設計金額を教えてほしい」と単刀直入に聞きに来る一見の業者がいたが、「初対面で教えろとは常識がない。何を言っているんだ」と思い断ったという。  では逆に、教えていた赤羽組と東日本緑化工業は遠藤氏にとってどのような業者だったのか。遠藤氏は、自身が入札を歪めたことは許されることではないとしつつ、「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むようになった」と法廷で理由を語った。  遠藤氏と9歳年上の赤羽氏は、熱心で優秀な仕事ぶりから初対面で互いに好印象を持ち、兄弟のような関係を築いた。東日本緑化工業の坂田氏とは、前述のように赤羽氏を交えて会食する仲であり、遠藤氏は坂田氏に有能な人物との印象を抱いていた。  東日本緑化工業のオーナー家である千葉幸生社長(坂田氏が社長を辞任したのに伴い会長から就任。現在大熊町議5期)は、浜通り以外でも営業を拡大しようと、2003年に破産宣告を受けた福島グリーン開発から坂田氏を引き取り、郡山支店で営業に据えた。おかげで中通り、会津地方でも売り上げが増えたという。同社の破産手続きを一人で完遂した坂田氏の手腕も評価していた。坂田氏を代表取締役社長にしたのは、事業承継を考えてのことだった。 見せしめの効果は想像以上  公務員だった遠藤氏は、丁寧な仕事ぶりと人柄を熟知する赤羽氏、坂田氏に「良い工事をしてもらいたいから」と便宜を図ったのか。それとも、赤羽氏から接待を受けていることに引け目を感じた見返りだったのか。何が非公開情報を教えるきっかけになったかは分からない。言えるのは、事件の時点では、清算できないほど親密な関係になっていたということだ。  今回の摘発は、コンプライアンス重視が叫ばれる昨今、捜査の目が厳しくなり、県・市職員と受注業者の近すぎる関係にメスが入ったということだろう。  公務員は摘発を恐れ、仕事が円滑に進まないくらいに「綱紀粛正」に励んでいる。一方、業者は有罪判決を受けた結果、公共工事の入札で指名停止となり、最悪廃業となるのを恐れている。公務員と業者、双方への見せしめ効果は想像以上に大きかった。前出の業界関係者が「一罰百戒」と形容し、警察・検察が十分目的を果たしたと考える所以だ。 あわせて読みたい 裁判で分かった福島県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  • 裁判で分かった県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】

    裁判で分かった福島県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】

     県発注工事をめぐる贈収賄・入札妨害は氷山の一角だ。裁判では、他の県職員や業者の関与もほのめかされた。非公開の設計金額を教える見返りに接待や現金を受け取ったとして、受託収賄罪などに問われている県土木部職員は容疑を全面的に認める一方、「昔は業者との飲食が厳しくなかった」「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むためだった」と先輩から受け継がれた習慣を赤裸々に語った。 県職員間で受け継がれる業者との親密関係 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  受託収賄、公契約関係競売入札妨害の罪に問われているのは、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査(休職中)の遠藤英司氏(60)=郡山市。須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆氏(69)は贈賄罪に、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸氏(53)は公契約関係競売入札妨害の罪に問われている(業者の肩書は逮捕当時)。 競争入札の公平性を保つために非公開にしている設計金額=入札予定価格を、県発注工事の受注業者が仲の良い県職員に頼んで教えてもらったという点で赤羽氏と坂田氏が犯した罪は同じ入札不正だが、業者が行った接待が賄賂と認められるかどうか、県職員から得た情報を自社が元請けに入るために使ったかどうかで問われた罪が異なる。 以下、7月21日に開かれた赤羽氏の初公判と、同26日に開かれた遠藤氏の初公判をもとに書き進める。 赤羽組前社長の赤羽氏は贈賄罪に問われている。赤羽氏と遠藤氏の付き合いは34年前にさかのぼる。遠藤氏は高校卒業後の1982年に土木職の技術者として県庁に入庁。89年に郡山建設事務所(現県中建設事務所)で赤羽組が受注した工事の現場監督員をしている時に赤羽氏と知り合う。互いに相手の仕事ぶりに尊敬の念を覚えた。両氏は9歳違いだったが馬が合い、赤羽氏は遠藤氏を弟のようにかわいがり、遠藤氏も赤羽氏を兄のように慕っていたとそれぞれ法廷で語っている。赤羽氏の誘いで飲食をする関係になり、2011年からは2、3カ月に1回の割合で飲みに行く仲になった。「兄貴分」の赤羽氏が全額奢った。 遠藤氏によると、30年前はまだ受注業者と担当職員の飲食はありふれていたという。その時の感覚が抜けきれなかったのだろうか。遠藤氏は妻に「業者の人と一緒に飲みに行ってまずくないのか」と聞かれ、「許容範囲であれば問題ない」と答えている。(法廷での妻の証言) 赤羽氏は2014年ごろから、遠藤氏に設計金額の積算の基となる非公開の資材単価情報を聞くようになり、次第に工事の設計金額も教えてほしいと求めるようになった。赤羽組は3人がかりで積算をしていたが、札入れの最終金額は赤羽氏1人で決めていた。赤羽氏は法廷で「競争相手がいる場合、どの程度まで金額を上げても大丈夫か、きちんとした設計金額を知らないと競り勝てない」と動機を述べた。 2018年6月ごろから22年8月ごろの間に郡山駅前で2人で飲食し、赤羽氏が計18万円ほどを全額払ったことが「設計金額などを教えた見返り」と捉えられ、贈賄に問われている。 2021年4月に赤羽氏は郡山駅前のスナックで遠藤氏に「退職したら『後継者』確保に使ってほしい」と現金10万円を渡した。「後継者」とは、入札に関わる情報を教えてくれる県職員のこと。遠藤氏は現金を受け取るのはさすがにまずいと思い、断る素振りを見せたが、これまで築いた関係を壊したくないと、受け取って自宅に保管していたという。これが受託収賄罪に問われた。遠藤氏は県庁を退職後に、赤羽組に再就職することが「内定」していた。 もともと両者の間に現金の授受はなかったが、一緒に飲食し絆が深まると、個人的な信頼関係を失いたくないと金銭の供与を断れなくなる。昨今検挙が盛んな「小物」の贈収賄事件に共通する動機だ。検察側は赤羽氏に懲役1年、遠藤氏には懲役2年と追徴金約18万円、現金10万円の没収を求刑しており、判決は福島地裁でそれぞれ8月21日、同22日に言い渡される。 公契約関係競売入札妨害の罪に問われている東日本緑化工業の坂田氏の初公判は8月16日午後1時半から同地裁で行われる予定だ。 本誌7月号記事「収まらない県職員贈収賄事件」では、坂田氏についてある法面業者がこう語っていた。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープランドという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉幸生代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」 元請けは秀和建設  7月26日の遠藤氏の公判では、坂田氏が2004年に東日本緑化工業に入社したと明かされた。遠藤氏とは1999年か2000年ごろ、当時勤めていた法面業者の工事で知り会ったという。遠藤氏はあぶくま高原道路管理事務所に勤務しており、何回か飲食に行く仲となった。 坂田氏は2012年ごろ、秀和建設(田村市)の取締役から公共工事を思うように落札できないと相談を受け、遠藤氏とは別の県職員から設計金額を教えてもらうようになる。その県職員から、遠藤氏は15年ごろにバトンタッチされ、引き続き設計金額を教えていた。それを基に秀和建設が工事を落札し、下請けに東日本緑化工業が常に入ることを考えていたと、坂田氏は検察への供述で明かしている。坂田氏は秀和建設以外の業者にも予定価格を教えることがあったという。 遠藤氏は、坂田氏に教えた情報が別の業者に流れていることに気付いていた。坂田氏が聞いてきたのは田村市内の道路改良工事で、法面業者である東日本緑化工業が元請けになるような工事ではなかったからだ。同社は大規模な工事を下請けに発注するために必要な特定建設業の許可を持っていなかった。 「聞いてどうするのか」と尋ねると、坂田氏は「いろいろあってな」。遠藤氏は悩んだが、「田村市内の業者が受注調整に使うのだろう」と想像し教えた。 前出・法面業者は「坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思いついた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」と述べていた。この法面業者の見立ては正しかったわけだ。 坂田氏は年に数回、設計金額を聞いてきたという。そんな坂田氏を、遠藤氏は「情報通として業界内での立場を強めていた」と見ていた。 ここで重要なのは、不正入札に加担していたのが秀和建設と判明したことだ。同社の元社長は、昨年発覚した田村市発注工事の入札を巡る贈収賄事件で今年1月に贈賄で有罪判決を受けている。 今回の県工事贈収賄・入札妨害事件は、任意の捜査が始まったのが3月ごろ。県警は田村市の事件で秀和建設元社長を取り調べした段階で、次は同社の下請けに入っていた東日本緑化工業と県職員と狙いを付けていたのだろう。11年前には既に遠藤氏とは別の県職員が設計金額を教えていた。坂田氏も別の業者に教えていたということは、入札不正が氷山の一角に過ぎないこと分かる。思い当たるベテラン県職員は戦々恐々としているだろう。 あわせて読みたい 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  • 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

    収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

     またもや県発注の公共工事をめぐる贈収賄事件である。1月の会津管内に続き、今度は県中流域下水道建設事務所の主任主査と須賀川市の土木会社社長が5月16日に逮捕。その3週間後には大熊町の土木会社社長も逮捕された。主任主査からもたらされた入札情報をもとに工事を落札した業者は他にもいるとみられる。不正はなぜ繰り返されるのか。また〝小物〟ばかり逮捕する県警の狙いは何か。 業者が設計金額を知りたがるワケ  今回の事件で逮捕されたのは6月25日現在3人。 1人目は、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査の遠藤英司容疑者(59)=受託収賄、公契約関係競売入札妨害。2人目は、須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆容疑者(68)=贈賄。3人目は、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸容疑者(53)=公契約関係競売入札妨害(以下、容疑者を氏と表記する)。 事件は大きく二つある。一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを赤羽氏に教えた見返りに、赤羽氏から現金10万円の謝礼や18万円相当の飲食接待を受けた贈収賄事件。遠藤氏は収賄容疑で逮捕されたが、起訴の段階で受託収賄罪に切り替わった。癒着は2018年6月ころから22年8月ころにかけて行われていたとみられる。 もう一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを坂田氏に漏らし、坂田氏がこの情報を他社に教えて落札させた公契約関係競売入札妨害事件。坂田氏は落札させた業者の下請けに入り、仕事を得ていた。遠藤氏と坂田氏の間で謝礼や飲食接待が行われていたかどうかは、6月25日現在分かっていない。 遠藤氏は1982年に土木職として県庁に入った。2011年度に県中建設事務所、15年度に石川土木事務所、18年度にあぶくま高原道路管理事務所で土木関連業務に携わり、現在の県中流域下水道建設事務所は21年度から勤務していた。 遠藤氏は前任地から工事の設計・積算に携わるようになり、土木部内の設計金額などを閲覧できるIDを持っていた。それを悪用し、所属先だけでなく担当外の入札情報も入手し、赤羽氏や遠藤氏に漏らしていたとみられる。県によると、今年2月にシステムを改修したため、現在は担当外の入札情報にはアクセスできないという。 入札情報を漏らしたことで遠藤氏が受けた見返りは、赤羽氏から約28万円(時効分も含む)。坂田氏からは現時点で不明だが、ゼロとは考えにくい。事件の全容が明らかになれば懲戒免職は免れない。現在59歳の遠藤氏はこのまま勤務していれば来年度で定年を迎える予定だったが、たった数十万円の賄賂を受け取ったがために約2000万円の退職金を失ったことになる。 その点で言うと、本誌3、6月号で報じた県中農林事務所主査と会津坂下町のマルト建設㈱をめぐる贈収賄事件でも賄賂の額は約26万円だった。主査は逮捕時44歳。県のシミュレーションによると「勤続24年の46歳主任主査が自己都合で退職した場合、退職金は約1100万円」というから、業者からの見返りと逮捕によるペナルティは釣り合っていない。 遠藤氏や県中農林事務所主査と同じく「出先勤務」が長い40代半ばの県職員はこんな感想を述べる。 「出先の方が本庁より業者と接する機会は多く、距離感も近くなりがちなのは事実です。おそらく、情報を漏らす職員は悪気もなく『それくらいならバレないだろう』との感覚なんでしょうね。見返りが何百万円とかではなく、飲み代やゴルフ代をおごってもらう程度なのも『それくらいいいか』との感覚に拍車をかけているのかもしれない。要は個々人の倫理観の問題だと思います」 既に引退した元土木会社社長の思い出話も興味深い。 「昔は入札の金額をこっそり教えてくれる県職員がいたものです。ある入札の札入れ額でウチが万単位、A社が千円単位、B社が百円単位で刻んだ結果、B社が僅差で落札したことがあったが、後日、全員が同じ職員から金額を教わっていたと知った時は驚いた。ウチは謝礼や接待はしていないが、A社とB社がどうだったかは分かりません」 県土木部では1年に二度、全職員を対象にコンプライアンス研修を行っているが、遠藤氏は逮捕される前日(5月15日)に上司との面談で「コンプライアンス順守については十分理解している」と述べていたというからシャレにならない。前出・県職員の「個々人の倫理観の問題」という指摘は的を射ている。 「私たち社員も不思議で」 須賀川市にある赤羽組の事務所  そんな遠藤氏に接近した前述・2社はどのような会社なのか。 赤羽組(須賀川市長沼)は1972年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役・赤羽隆、取締役・赤羽敦子、赤羽晃明、監査役・赤羽恵美子の各氏。 関連会社に赤羽隆氏が社長を務める葬祭業の㈲闡王閣(須賀川市並木町)がある。2002年設立。資本金300万円。 赤羽組の直近5年間の決算は別表①の通り。売上高は4億円前後で推移していたが、2021年は7億円台、22年は5億円台に伸びた。それに伴って当期純利益も21年以降大幅増。好決算の背景に、遠藤氏からもたらされた入札情報があったということか。 表① 赤羽組の業績 売上高当期純利益2018年4億0600万円1300万円2019年3億7900万円2300万円2020年3億9500万円2000万円2021年7億3700万円4600万円2022年5億6500万円5900万円※決算期は5月。  複数の建設業者に話を聞いたが、今はどこの業者も積算ソフトを用いて札入れ金額を弾き出し、その金額はかなり精度が高いので、 「県職員から設計金額を聞き出すような危険を冒さなくても、公開されている設計金額を参考にしたり、必要な情報を開示請求するなどして自社で研究すれば、最低制限価格はほぼ割り出せる。あとは他社の札入れ額を予測して、自社の札入れ額をさじ加減すればいいだけ」(県中地方の土木会社社長) 今はほとんどの業者で、社内に積算担当の社員を置くのが当たり前になっているという。 「工事の大きさにもよるが、小さければ1~2時間、大きくても半日あれば積算できると思う」(同) ただし、どうしても取りたい仕事では、積算ソフトに打ち込むための「正確な設計金額」が必要になる。 「極端な話、100円でも不正確だったら、積み上げていくと大きな開きになってしまう。シビアな入札では僅差の勝負もあるので、開きが大きいほど致命傷になる」(同) 公共工事の積算は県が作成する単価表に基づいて行われるが、それを見ると生コンクリートやアスファルト合材など、さまざまな資材の単価が細かく示されている。一方で木材類、コンクリート製品、排水溝、管類など複数の資材や各種工事の夜間単価は非公表になっている。単価表の実に半分以上が非公表だ。 各社は、非公表の単価は前年の単価を参考に「今年度はこれくらいだろう」と見当をつけて積算する。その金額はほぼ合っているが、必ずしも正確ではない。「だから、絶対取りたい仕事の積算はミスできないので、正確な設計金額を欲する」(同)。赤羽氏が遠藤氏に接近した理由もそういうことだったのだろう。 須賀川・岩瀬管内の業者がこんな話をしてくれた。 「赤羽組と同じ入札に参加し、ウチも本気で取りにいったが向こうに落札されたことが何度かある。赤羽組は精度の高い積算ソフトを使っているのかと思い、赤羽社長に聞いたがウチと同じソフトだった。積算担当社員と、なぜ同じソフトを使っているのに向こうと同じ金額にならないのか考えたが『この資材の単価が違っていたのかもしれない』というくらいしか思い当たらなかった」 この業者は対策として別メーカーのソフトも導入し、さらに精度を上げようと努めた。その直後に事件が起こり「そういうことだったのかと合点がいった」(同)。 「入札に参加して一番悔しいのは失格(最低制限価格を下回ること)です。失格は、土俵にすら上がれないことを意味するからです。失格になれば、積算担当社員にすぐに原因究明させ、反省材料にします。昔と違い、今の積算はそれくらいシビアなんです」(同) そういう意味では、赤羽社長は自社の積算を一手に行っていたというが、積算ソフトを使う一方で、年齢的(68歳)には昔の積算も経験しており、いわゆる〝天の声〟が落札の決め手になったことをよく理解しているはず。遠藤氏に接触し、正確な設計金額を聞き出したのは「古い時代の名残を知るからこそ」だったのかもしれない。 6月上旬、赤羽組の事務所を訪ねると「対応できる者が不在」(女性事務員)。夕方に電話すると、男性社員が「この電話でよければ話します」と応じてくれた。 「積算は社長が担当していたので他の社員は分からない。正直、私たちも新聞報道以上のことは知らなくて……。積算ソフトですか? もちろん使っていた。それなのに、なぜ不正をする必要があったのか、私たちも不思議でならない」 一部報道によると、遠藤氏は県を定年退職後、赤羽組に就職する予定だったという。そのことを尋ねると社員は「えっ、それも初耳です」と絶句していた。 事件を受け、赤羽組は県から24カ月(2025年5月まで)、須賀川市から9カ月(24年2月まで)の入札参加資格制限措置(指名停止)を科された。売り上げの大部分を公共工事が占める同社にとって、見返りとペナルティのどちらが大きかったことになるのか。 オーナーは大熊町議 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  東日本緑化工業(大熊町)は1967年設立。資本金1000万円。役員は代表取締役・千葉幸生、坂田紀幸、取締役・千葉ゆかり、千葉幸子、千葉智博、監査役・千葉絵里奈の各氏。逮捕された坂田氏は昨年6月に就任したばかりだった。 直近5年間の決算は別表②の通り。当期純利益は不明だが、2017年に1200万円の赤字を計上している。それまで2億円台で推移していた売上高が昨年5億円台になっているのは、赤羽組と同じく遠藤氏からの入札情報のおかげか。 表② 東日本緑化工業の業績 売上高当期純利益2018年2億8600万円――2019年2億8600万円――2020年2億6300万円――2021年2億6000万円――2022年5億5300万円――※決算期は3月。――は不明。  東日本緑化工業は2000年代に郡山市富久山町福原に支店を構えたが、2011年の震災・原発事故で大熊町の本社が避難区域になったため、以降は郡山支店が事実上の本社として機能している。 もう一人の代表取締役である千葉氏は現職の大熊町議(5期目)。2011~15年まで議長を務めた。 構図としては、大熊町議が代表兼オーナーの会社に「千葉一族」以外の坂田氏が社長として入ったことになる。坂田氏とは何者なのか。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープラントという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」(ある法面業者) ジープラントは資本金300万円で2005年に設立されたが、昨年5月に解散。本店は郡山市菜根一丁目にあったが、2013年に東日本緑化工業郡山支店と同じ住所に移転していた。つまり千葉氏と坂田氏の付き合いは10年以上に及ぶわけ。 東日本緑化工業は特定建設業の許可を持っていない。特定建設業とは1件の工事につき4000万円以上を下請けに出す場合に必要な要件だが、同社はこの許可がないため、大規模工事を受注しても下請けに出すことができず、すべて自社施工しなければならなかった。 「そこで坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思い付いた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」(同) 現在、坂田氏と遠藤氏が問われているのは公契約関係競売入札妨害だけだが、両者の間で謝礼や飲食接待が行われていれば贈収賄も問われることになる。実際に落札し、坂田氏に仕事を回していた業者は立件に至らないという観測もあるが、真面目に札入れしている業者からすると解せないに違いない。 6月上旬、郡山支社の事務所を訪ねると「警察から捜査に支障が出るので答えるなと言われている」(居合わせた男性)と告げられ、話を聞くことはできなかった。 ならば、オーナーの千葉氏に会おうと大熊町議会事務局を通じてコンタクトを取ったが「議員から『携帯番号等は個人情報に当たるので(記者に)教えないように』と言われました」(議会事務局職員)。議員が個人情報を盾に取材拒否するとは呆れて物も言えない。 新聞やテレビは東日本緑化工業と千葉氏の関係を一切報じていないが、事情を知る大熊町民からは「逮捕されたのは坂田氏だが、そういう人物を社長にしたのは千葉氏だろうし、不正を繰り返していた会社のオーナーが議員というのはいかがなものか」との声が漏れている。 事件を受け、東日本緑化工業は県から24カ月(2025年6月まで)の入札参加資格制限措置を科された。須賀川市やいわき市などからも1年前後の処分を科されている。 県警トップの意向!?  県内では2021年に会津美里町長、22年に楢葉町建設課主幹と元田村市職員、今年に入って県中農林事務所主査、そして遠藤氏と公共工事をめぐる逮捕者が相次いでいる。 かつての汚職事件はまず〝小物〟を逮捕し、その後に〝大物〟を逮捕するのがよくあるパターンだった。典型的な例が、当時の佐藤栄佐久知事が逮捕された県政汚職事件である。 しかし最近の汚職事件を見ると、会津美里町長以外は小物の逮捕に終始。事件発生直後は「おそらく県警は別の狙いがあるに違いない」との推測が出回るが、結局、現実になった試しはない。 これは何を意味するのか。 「県警トップの意向が反映されているのかもしれない。大物の逮捕は組織における評価が高いとされ、かつては首長の汚職に強い関心を向けるトップが多かったが、今のトップは『相手が誰だろうと不正は絶対に許さない』という考えなのかもしれない。だから、役職が低かろうが賄賂の額が少なかろうが、ダメなものはダメという姿勢を貫いている。その結果が小物の連続逮捕となって表れているのではないか」(ある県政ウオッチャー) 県警本部の児島洋平本部長は2021年8月に警察庁長官官房付から着任したが、今年7月7日付で同役職に異動し、後任には警視庁総務部長の若田英氏が就く。児島氏が着任したのは会津美里町長の逮捕後だったので、時系列で言うと、相次ぐ小物の逮捕時期と合致する。 警察庁発表の資料によると、全国で発生した贈収賄・公契約関係競売妨害事件の件数は横ばいで、2021年度は過去10年で最多だった(別表③参照)。県内で続発する不正は、他の都道府県でも起きているわけ。  そう考えると遠藤氏、赤羽氏、坂田氏の逮捕は氷山の一角で、「次は自分の番かも……」と内心ビクビクしている県職員、業者はもっといるのかもしれない。新しい県警本部長のもとでも引き続き「小物だろうが大物だろうが、不正は絶対に許さない」との姿勢が堅持されるのか。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

  • 福島県警の贈収賄摘発は一段落!?【赤羽組】【東日本緑化工業】

     県発注工事を巡る贈収賄事件は8月、県中流域下水道建設事務所元職員と須賀川市の土木会社「赤羽組」元社長に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。9月13日には、公契約関係競売入札妨害罪に問われている大熊町の法面業者「東日本緑化工業」元社長に判決が下される。県警による贈収賄事件の検挙は、昨年9月に田村市の元職員らを逮捕したのを皮切りに市内の業者に及び、さらにその下請けに入っていた東日本緑化工業の元社長へと至った。業界関係者は、県警が「一罰百戒」の目的を達成したとして、捜査は一区切りを迎えたとみている。 「一罰百戒」芋づる式検挙の舞台裏 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  贈賄罪に問われた赤羽組(須賀川市)元社長の赤羽隆氏(69)には懲役1年、執行猶予3年の有罪判決。受託収賄罪などに問われた県中流域下水道建設事務所元職員の遠藤英司氏(60)には懲役2年、執行猶予4年の他、現金10万円の没収と追徴金約18万円が言い渡された。公契約関係競売入札妨害罪に問われている東日本緑化工業(大熊町)元社長の坂田紀幸氏(53)の裁判は、検察側が懲役1年を求刑し、9月13日に福島地裁で判決が言い渡される予定。  本誌は昨年から、田村市や県の職員が関わった贈収賄事件を業界関係者の話や裁判で明かされた証拠をもとにリポートしてきた。時系列を追うと、今回の県発注工事に絡む贈収賄事件の摘発は、田村市で昨年発覚した贈収賄事件の延長にあった。  福島県の発注工事では、入札予定価格と設計金額は同額に設定されている。一連の贈収賄事件の発端は設計金額を積算するソフトを作る会社の営業活動だった。積算ソフト会社は自社製品の精度向上に日々励んでいるが、各社とも高精度のため製品に大差はない。それゆえ、各自治体が発注工事の設計金額の積算に使う非公表の資材単価表は、自社製品を優位にするために「喉から手が出るほど欲しい情報」だ。  2021年6月、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、同町内の建設業「丹野土木」の男性役員(50)、そして仙台市青葉区の積算ソフト会社「コンピュータシステム研究所」の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報同7月1日付より。年齢、役職は当時、紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同紙の同年12月28日付の記事によると、この3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、仙台地裁から有罪判決を受けた。判決では、同研究所の社員が丹野土木の役員と共謀し、町職員に単価表の情報提供を依頼、見返りに6回に渡って商品券計12万円分を渡したと認定された。1回当たり2万円の計算だ。  同紙によると、宮城県警が川崎町の贈収賄事件を本格捜査し始めたのは2021年5月。田村市で同種の贈収賄事件(詳細は本誌昨年12月号参照)が摘発されたのは、それから1年以上経った翌22年9月だった。  福島県警が、田村市内の土木会社「三和工業」役員のA氏(48)と、同年3月に同市を退職し民間企業に勤めていたB氏(47)をそれぞれ贈賄と受託収賄の疑いで逮捕した(年齢、肩書きは当時)。2人は中学時代の同級生だった。同研究所の営業担当社員S氏が「上司から入手するよう指示された単価表情報を手に入れられなくて困っている」とA氏に打ち明け、A氏がB氏に情報提供を働きかけた。   川崎町の事件と違い、同研究所社員は贈賄罪に問われていない。しかし、同研究所が交際費として渡した見返りが商品券で、1回当たり2万円だったように手口は全く同じだ。  裁判でB氏は、任意捜査が始まったのは2022年の5月24日と述べた。出勤のため家を出た時、警察官2人に呼び止められ、商品券を受け取ったかどうか聞かれたという。警察が同研究所を取り調べ、似たような事件が他でも起きていないか捜査の範囲を広げたと考えるのが自然だろう。  ある業界関係者は「県警は田村市の元職員を検挙し、元職員とつながりのあった業者、さらにその先の業者というように芋づる式に捜査の手を伸ばしたのだろう」とみている。  どういうことか。鍵を握るのは、田村市の贈収賄事件と、今回の県発注工事に絡む事件のどちらにも登場する市内の土木会社「秀和建設」である。  田村市の一連の贈収賄は、三和工業が贈賄側になった事件と、秀和建設が贈賄側になった事件があった。秀和建設のC社長(当時)は、市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6~9月に行われた入札で、当時市職員だったB氏に設計金額を教えてもらい、見返りに飲食接待したと裁判所に認定された(詳細は本誌1月号と2月号を参照)。  県発注工事をめぐる今回の事件では、県中流域下水道建設事務所職員(当時)の遠藤氏から設計金額を聞き出し元請け業者に教えたとして、東日本緑化工業社長(当時)の坂田氏が公契約関係競売入札妨害罪に問われている。その東日本緑化工業が設計金額を教えた元請け業者が秀和建設だった。  秀和建設は坂田氏を通じて設計金額=予定価格を知り、目当ての工事を確実に落札する。坂田氏が社長を務めていた東日本緑化工業は、その下請けに入り法面工事の仕事を得るという仕組みだ。  坂田氏と秀和建設のつながりは、氏が以前勤めていた郡山市の「福島グリーン開発」が資金繰りに困っていた時、秀和建設が援助したことから始まった。福島グリーン開発は2003年に破産宣告を受けたが、坂田氏は東日本緑化工業に転職した後、秀和建設との関係を引き継いだ。  坂田氏は今年8月に行われた初公判で「取り調べを受けてから1年近くになる」と述べているので、坂田氏に任意の捜査が入ったのは昨年8月辺り。田村市元職員のB氏が秀和建設のC氏から見返りに接待を受けたとして逮捕されたのが昨年9月、C氏が在宅起訴されたのが同10月だから、秀和建設と下請けの東日本緑化工業の捜査は呼応して行われていたと考えられる。  捜査はさらに県職員と赤羽組に波及する。坂田氏と県中流域下水道建設事務所職員だった遠藤氏、赤羽組元社長の赤羽氏は3人で会食する仲だった。警察が坂田氏を取り調べる中で、遠藤氏と赤羽氏の関係が浮上したと本誌は考える。裁判では、遠藤氏の取り調べが始まったのが今年3月と明かされたので、秀和建設→坂田氏→遠藤氏・赤羽氏の順に捜査が及んだのだろう。 杓子定規の「綱紀粛正」に迷惑  芋づる式検挙をみると、不正は氷山の一角に過ぎず、さらに摘発が進むのではと、入札不正に心当たりのあるベテラン公務員と業者は戦々恐々している様が想像できるが、前出の業界関係者は「『一罰百戒』の効果は十分にあった。県警本部長と捜査2課長も今年7〜8月に代わったので、継続性を考えると捜査は一段落したのではないか」とみる。  とりわけ、県に与えた効果は絶大だったようだ。「綱紀粛正」が杓子定規に進められ、業者からは県に対しての不満が漏れている。  「県土木部の出先機関に打ち合わせに出向くと職員から『部屋に入らないで』『挨拶はしないで』と言われる。疑いを招くような行動は全て排除しようとしているのだろうが、おかげで十分なコミュニケーションが取れず、良い仕事ができない。現場の職員が判断するべき些細な内容もいちいち上司に諮るので、1週間で終わる仕事が2週間かかり、労力も時間も倍だ。急を要する災害復旧工事が出たら、一体どうなるのか」(前出の業界関係者)  この1年間で、県土木部では出先機関の職員2人が贈収賄事件に絡み有罪判決を受けた。県職員はまさに羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹いている。県は不祥事防止対策として、警察官や教員を除く職員約5500人に「啓発リーフレット」を配り、コンプライアンス順守を周知するハンドブックを必携させたが、効果は未知数だ。  実際、いま管理職に就く世代は、業者との関係性が曖昧だった。60歳の遠藤氏は「入庁当初の1990年ごろは、県職員が受注業者と私的に飲むのは厳しく制限されていなかった」と法廷で振り返っていた。赤羽氏が「後継者を見つけてほしい」との趣旨で退職を控える遠藤氏に現金10万円を渡していたことからも、県職員が昵懇の業者に入札に関わる非公開情報を教える関係は代々受け継がれていたようだ。  ただ遠藤氏も、見境なく設計金額を教えていたわけではない。「設計金額を教えてほしい」と単刀直入に聞きに来る一見の業者がいたが、「初対面で教えろとは常識がない。何を言っているんだ」と思い断ったという。  では逆に、教えていた赤羽組と東日本緑化工業は遠藤氏にとってどのような業者だったのか。遠藤氏は、自身が入札を歪めたことは許されることではないとしつつ、「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むようになった」と法廷で理由を語った。  遠藤氏と9歳年上の赤羽氏は、熱心で優秀な仕事ぶりから初対面で互いに好印象を持ち、兄弟のような関係を築いた。東日本緑化工業の坂田氏とは、前述のように赤羽氏を交えて会食する仲であり、遠藤氏は坂田氏に有能な人物との印象を抱いていた。  東日本緑化工業のオーナー家である千葉幸生社長(坂田氏が社長を辞任したのに伴い会長から就任。現在大熊町議5期)は、浜通り以外でも営業を拡大しようと、2003年に破産宣告を受けた福島グリーン開発から坂田氏を引き取り、郡山支店で営業に据えた。おかげで中通り、会津地方でも売り上げが増えたという。同社の破産手続きを一人で完遂した坂田氏の手腕も評価していた。坂田氏を代表取締役社長にしたのは、事業承継を考えてのことだった。 見せしめの効果は想像以上  公務員だった遠藤氏は、丁寧な仕事ぶりと人柄を熟知する赤羽氏、坂田氏に「良い工事をしてもらいたいから」と便宜を図ったのか。それとも、赤羽氏から接待を受けていることに引け目を感じた見返りだったのか。何が非公開情報を教えるきっかけになったかは分からない。言えるのは、事件の時点では、清算できないほど親密な関係になっていたということだ。  今回の摘発は、コンプライアンス重視が叫ばれる昨今、捜査の目が厳しくなり、県・市職員と受注業者の近すぎる関係にメスが入ったということだろう。  公務員は摘発を恐れ、仕事が円滑に進まないくらいに「綱紀粛正」に励んでいる。一方、業者は有罪判決を受けた結果、公共工事の入札で指名停止となり、最悪廃業となるのを恐れている。公務員と業者、双方への見せしめ効果は想像以上に大きかった。前出の業界関係者が「一罰百戒」と形容し、警察・検察が十分目的を果たしたと考える所以だ。 あわせて読みたい 裁判で分かった福島県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

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     県発注工事をめぐる贈収賄・入札妨害は氷山の一角だ。裁判では、他の県職員や業者の関与もほのめかされた。非公開の設計金額を教える見返りに接待や現金を受け取ったとして、受託収賄罪などに問われている県土木部職員は容疑を全面的に認める一方、「昔は業者との飲食が厳しくなかった」「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むためだった」と先輩から受け継がれた習慣を赤裸々に語った。 県職員間で受け継がれる業者との親密関係 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  受託収賄、公契約関係競売入札妨害の罪に問われているのは、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査(休職中)の遠藤英司氏(60)=郡山市。須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆氏(69)は贈賄罪に、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸氏(53)は公契約関係競売入札妨害の罪に問われている(業者の肩書は逮捕当時)。 競争入札の公平性を保つために非公開にしている設計金額=入札予定価格を、県発注工事の受注業者が仲の良い県職員に頼んで教えてもらったという点で赤羽氏と坂田氏が犯した罪は同じ入札不正だが、業者が行った接待が賄賂と認められるかどうか、県職員から得た情報を自社が元請けに入るために使ったかどうかで問われた罪が異なる。 以下、7月21日に開かれた赤羽氏の初公判と、同26日に開かれた遠藤氏の初公判をもとに書き進める。 赤羽組前社長の赤羽氏は贈賄罪に問われている。赤羽氏と遠藤氏の付き合いは34年前にさかのぼる。遠藤氏は高校卒業後の1982年に土木職の技術者として県庁に入庁。89年に郡山建設事務所(現県中建設事務所)で赤羽組が受注した工事の現場監督員をしている時に赤羽氏と知り合う。互いに相手の仕事ぶりに尊敬の念を覚えた。両氏は9歳違いだったが馬が合い、赤羽氏は遠藤氏を弟のようにかわいがり、遠藤氏も赤羽氏を兄のように慕っていたとそれぞれ法廷で語っている。赤羽氏の誘いで飲食をする関係になり、2011年からは2、3カ月に1回の割合で飲みに行く仲になった。「兄貴分」の赤羽氏が全額奢った。 遠藤氏によると、30年前はまだ受注業者と担当職員の飲食はありふれていたという。その時の感覚が抜けきれなかったのだろうか。遠藤氏は妻に「業者の人と一緒に飲みに行ってまずくないのか」と聞かれ、「許容範囲であれば問題ない」と答えている。(法廷での妻の証言) 赤羽氏は2014年ごろから、遠藤氏に設計金額の積算の基となる非公開の資材単価情報を聞くようになり、次第に工事の設計金額も教えてほしいと求めるようになった。赤羽組は3人がかりで積算をしていたが、札入れの最終金額は赤羽氏1人で決めていた。赤羽氏は法廷で「競争相手がいる場合、どの程度まで金額を上げても大丈夫か、きちんとした設計金額を知らないと競り勝てない」と動機を述べた。 2018年6月ごろから22年8月ごろの間に郡山駅前で2人で飲食し、赤羽氏が計18万円ほどを全額払ったことが「設計金額などを教えた見返り」と捉えられ、贈賄に問われている。 2021年4月に赤羽氏は郡山駅前のスナックで遠藤氏に「退職したら『後継者』確保に使ってほしい」と現金10万円を渡した。「後継者」とは、入札に関わる情報を教えてくれる県職員のこと。遠藤氏は現金を受け取るのはさすがにまずいと思い、断る素振りを見せたが、これまで築いた関係を壊したくないと、受け取って自宅に保管していたという。これが受託収賄罪に問われた。遠藤氏は県庁を退職後に、赤羽組に再就職することが「内定」していた。 もともと両者の間に現金の授受はなかったが、一緒に飲食し絆が深まると、個人的な信頼関係を失いたくないと金銭の供与を断れなくなる。昨今検挙が盛んな「小物」の贈収賄事件に共通する動機だ。検察側は赤羽氏に懲役1年、遠藤氏には懲役2年と追徴金約18万円、現金10万円の没収を求刑しており、判決は福島地裁でそれぞれ8月21日、同22日に言い渡される。 公契約関係競売入札妨害の罪に問われている東日本緑化工業の坂田氏の初公判は8月16日午後1時半から同地裁で行われる予定だ。 本誌7月号記事「収まらない県職員贈収賄事件」では、坂田氏についてある法面業者がこう語っていた。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープランドという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉幸生代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」 元請けは秀和建設  7月26日の遠藤氏の公判では、坂田氏が2004年に東日本緑化工業に入社したと明かされた。遠藤氏とは1999年か2000年ごろ、当時勤めていた法面業者の工事で知り会ったという。遠藤氏はあぶくま高原道路管理事務所に勤務しており、何回か飲食に行く仲となった。 坂田氏は2012年ごろ、秀和建設(田村市)の取締役から公共工事を思うように落札できないと相談を受け、遠藤氏とは別の県職員から設計金額を教えてもらうようになる。その県職員から、遠藤氏は15年ごろにバトンタッチされ、引き続き設計金額を教えていた。それを基に秀和建設が工事を落札し、下請けに東日本緑化工業が常に入ることを考えていたと、坂田氏は検察への供述で明かしている。坂田氏は秀和建設以外の業者にも予定価格を教えることがあったという。 遠藤氏は、坂田氏に教えた情報が別の業者に流れていることに気付いていた。坂田氏が聞いてきたのは田村市内の道路改良工事で、法面業者である東日本緑化工業が元請けになるような工事ではなかったからだ。同社は大規模な工事を下請けに発注するために必要な特定建設業の許可を持っていなかった。 「聞いてどうするのか」と尋ねると、坂田氏は「いろいろあってな」。遠藤氏は悩んだが、「田村市内の業者が受注調整に使うのだろう」と想像し教えた。 前出・法面業者は「坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思いついた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」と述べていた。この法面業者の見立ては正しかったわけだ。 坂田氏は年に数回、設計金額を聞いてきたという。そんな坂田氏を、遠藤氏は「情報通として業界内での立場を強めていた」と見ていた。 ここで重要なのは、不正入札に加担していたのが秀和建設と判明したことだ。同社の元社長は、昨年発覚した田村市発注工事の入札を巡る贈収賄事件で今年1月に贈賄で有罪判決を受けている。 今回の県工事贈収賄・入札妨害事件は、任意の捜査が始まったのが3月ごろ。県警は田村市の事件で秀和建設元社長を取り調べした段階で、次は同社の下請けに入っていた東日本緑化工業と県職員と狙いを付けていたのだろう。11年前には既に遠藤氏とは別の県職員が設計金額を教えていた。坂田氏も別の業者に教えていたということは、入札不正が氷山の一角に過ぎないこと分かる。思い当たるベテラン県職員は戦々恐々としているだろう。 あわせて読みたい 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  • 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

     またもや県発注の公共工事をめぐる贈収賄事件である。1月の会津管内に続き、今度は県中流域下水道建設事務所の主任主査と須賀川市の土木会社社長が5月16日に逮捕。その3週間後には大熊町の土木会社社長も逮捕された。主任主査からもたらされた入札情報をもとに工事を落札した業者は他にもいるとみられる。不正はなぜ繰り返されるのか。また〝小物〟ばかり逮捕する県警の狙いは何か。 業者が設計金額を知りたがるワケ  今回の事件で逮捕されたのは6月25日現在3人。 1人目は、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査の遠藤英司容疑者(59)=受託収賄、公契約関係競売入札妨害。2人目は、須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆容疑者(68)=贈賄。3人目は、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸容疑者(53)=公契約関係競売入札妨害(以下、容疑者を氏と表記する)。 事件は大きく二つある。一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを赤羽氏に教えた見返りに、赤羽氏から現金10万円の謝礼や18万円相当の飲食接待を受けた贈収賄事件。遠藤氏は収賄容疑で逮捕されたが、起訴の段階で受託収賄罪に切り替わった。癒着は2018年6月ころから22年8月ころにかけて行われていたとみられる。 もう一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを坂田氏に漏らし、坂田氏がこの情報を他社に教えて落札させた公契約関係競売入札妨害事件。坂田氏は落札させた業者の下請けに入り、仕事を得ていた。遠藤氏と坂田氏の間で謝礼や飲食接待が行われていたかどうかは、6月25日現在分かっていない。 遠藤氏は1982年に土木職として県庁に入った。2011年度に県中建設事務所、15年度に石川土木事務所、18年度にあぶくま高原道路管理事務所で土木関連業務に携わり、現在の県中流域下水道建設事務所は21年度から勤務していた。 遠藤氏は前任地から工事の設計・積算に携わるようになり、土木部内の設計金額などを閲覧できるIDを持っていた。それを悪用し、所属先だけでなく担当外の入札情報も入手し、赤羽氏や遠藤氏に漏らしていたとみられる。県によると、今年2月にシステムを改修したため、現在は担当外の入札情報にはアクセスできないという。 入札情報を漏らしたことで遠藤氏が受けた見返りは、赤羽氏から約28万円(時効分も含む)。坂田氏からは現時点で不明だが、ゼロとは考えにくい。事件の全容が明らかになれば懲戒免職は免れない。現在59歳の遠藤氏はこのまま勤務していれば来年度で定年を迎える予定だったが、たった数十万円の賄賂を受け取ったがために約2000万円の退職金を失ったことになる。 その点で言うと、本誌3、6月号で報じた県中農林事務所主査と会津坂下町のマルト建設㈱をめぐる贈収賄事件でも賄賂の額は約26万円だった。主査は逮捕時44歳。県のシミュレーションによると「勤続24年の46歳主任主査が自己都合で退職した場合、退職金は約1100万円」というから、業者からの見返りと逮捕によるペナルティは釣り合っていない。 遠藤氏や県中農林事務所主査と同じく「出先勤務」が長い40代半ばの県職員はこんな感想を述べる。 「出先の方が本庁より業者と接する機会は多く、距離感も近くなりがちなのは事実です。おそらく、情報を漏らす職員は悪気もなく『それくらいならバレないだろう』との感覚なんでしょうね。見返りが何百万円とかではなく、飲み代やゴルフ代をおごってもらう程度なのも『それくらいいいか』との感覚に拍車をかけているのかもしれない。要は個々人の倫理観の問題だと思います」 既に引退した元土木会社社長の思い出話も興味深い。 「昔は入札の金額をこっそり教えてくれる県職員がいたものです。ある入札の札入れ額でウチが万単位、A社が千円単位、B社が百円単位で刻んだ結果、B社が僅差で落札したことがあったが、後日、全員が同じ職員から金額を教わっていたと知った時は驚いた。ウチは謝礼や接待はしていないが、A社とB社がどうだったかは分かりません」 県土木部では1年に二度、全職員を対象にコンプライアンス研修を行っているが、遠藤氏は逮捕される前日(5月15日)に上司との面談で「コンプライアンス順守については十分理解している」と述べていたというからシャレにならない。前出・県職員の「個々人の倫理観の問題」という指摘は的を射ている。 「私たち社員も不思議で」 須賀川市にある赤羽組の事務所  そんな遠藤氏に接近した前述・2社はどのような会社なのか。 赤羽組(須賀川市長沼)は1972年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役・赤羽隆、取締役・赤羽敦子、赤羽晃明、監査役・赤羽恵美子の各氏。 関連会社に赤羽隆氏が社長を務める葬祭業の㈲闡王閣(須賀川市並木町)がある。2002年設立。資本金300万円。 赤羽組の直近5年間の決算は別表①の通り。売上高は4億円前後で推移していたが、2021年は7億円台、22年は5億円台に伸びた。それに伴って当期純利益も21年以降大幅増。好決算の背景に、遠藤氏からもたらされた入札情報があったということか。 表① 赤羽組の業績 売上高当期純利益2018年4億0600万円1300万円2019年3億7900万円2300万円2020年3億9500万円2000万円2021年7億3700万円4600万円2022年5億6500万円5900万円※決算期は5月。  複数の建設業者に話を聞いたが、今はどこの業者も積算ソフトを用いて札入れ金額を弾き出し、その金額はかなり精度が高いので、 「県職員から設計金額を聞き出すような危険を冒さなくても、公開されている設計金額を参考にしたり、必要な情報を開示請求するなどして自社で研究すれば、最低制限価格はほぼ割り出せる。あとは他社の札入れ額を予測して、自社の札入れ額をさじ加減すればいいだけ」(県中地方の土木会社社長) 今はほとんどの業者で、社内に積算担当の社員を置くのが当たり前になっているという。 「工事の大きさにもよるが、小さければ1~2時間、大きくても半日あれば積算できると思う」(同) ただし、どうしても取りたい仕事では、積算ソフトに打ち込むための「正確な設計金額」が必要になる。 「極端な話、100円でも不正確だったら、積み上げていくと大きな開きになってしまう。シビアな入札では僅差の勝負もあるので、開きが大きいほど致命傷になる」(同) 公共工事の積算は県が作成する単価表に基づいて行われるが、それを見ると生コンクリートやアスファルト合材など、さまざまな資材の単価が細かく示されている。一方で木材類、コンクリート製品、排水溝、管類など複数の資材や各種工事の夜間単価は非公表になっている。単価表の実に半分以上が非公表だ。 各社は、非公表の単価は前年の単価を参考に「今年度はこれくらいだろう」と見当をつけて積算する。その金額はほぼ合っているが、必ずしも正確ではない。「だから、絶対取りたい仕事の積算はミスできないので、正確な設計金額を欲する」(同)。赤羽氏が遠藤氏に接近した理由もそういうことだったのだろう。 須賀川・岩瀬管内の業者がこんな話をしてくれた。 「赤羽組と同じ入札に参加し、ウチも本気で取りにいったが向こうに落札されたことが何度かある。赤羽組は精度の高い積算ソフトを使っているのかと思い、赤羽社長に聞いたがウチと同じソフトだった。積算担当社員と、なぜ同じソフトを使っているのに向こうと同じ金額にならないのか考えたが『この資材の単価が違っていたのかもしれない』というくらいしか思い当たらなかった」 この業者は対策として別メーカーのソフトも導入し、さらに精度を上げようと努めた。その直後に事件が起こり「そういうことだったのかと合点がいった」(同)。 「入札に参加して一番悔しいのは失格(最低制限価格を下回ること)です。失格は、土俵にすら上がれないことを意味するからです。失格になれば、積算担当社員にすぐに原因究明させ、反省材料にします。昔と違い、今の積算はそれくらいシビアなんです」(同) そういう意味では、赤羽社長は自社の積算を一手に行っていたというが、積算ソフトを使う一方で、年齢的(68歳)には昔の積算も経験しており、いわゆる〝天の声〟が落札の決め手になったことをよく理解しているはず。遠藤氏に接触し、正確な設計金額を聞き出したのは「古い時代の名残を知るからこそ」だったのかもしれない。 6月上旬、赤羽組の事務所を訪ねると「対応できる者が不在」(女性事務員)。夕方に電話すると、男性社員が「この電話でよければ話します」と応じてくれた。 「積算は社長が担当していたので他の社員は分からない。正直、私たちも新聞報道以上のことは知らなくて……。積算ソフトですか? もちろん使っていた。それなのに、なぜ不正をする必要があったのか、私たちも不思議でならない」 一部報道によると、遠藤氏は県を定年退職後、赤羽組に就職する予定だったという。そのことを尋ねると社員は「えっ、それも初耳です」と絶句していた。 事件を受け、赤羽組は県から24カ月(2025年5月まで)、須賀川市から9カ月(24年2月まで)の入札参加資格制限措置(指名停止)を科された。売り上げの大部分を公共工事が占める同社にとって、見返りとペナルティのどちらが大きかったことになるのか。 オーナーは大熊町議 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  東日本緑化工業(大熊町)は1967年設立。資本金1000万円。役員は代表取締役・千葉幸生、坂田紀幸、取締役・千葉ゆかり、千葉幸子、千葉智博、監査役・千葉絵里奈の各氏。逮捕された坂田氏は昨年6月に就任したばかりだった。 直近5年間の決算は別表②の通り。当期純利益は不明だが、2017年に1200万円の赤字を計上している。それまで2億円台で推移していた売上高が昨年5億円台になっているのは、赤羽組と同じく遠藤氏からの入札情報のおかげか。 表② 東日本緑化工業の業績 売上高当期純利益2018年2億8600万円――2019年2億8600万円――2020年2億6300万円――2021年2億6000万円――2022年5億5300万円――※決算期は3月。――は不明。  東日本緑化工業は2000年代に郡山市富久山町福原に支店を構えたが、2011年の震災・原発事故で大熊町の本社が避難区域になったため、以降は郡山支店が事実上の本社として機能している。 もう一人の代表取締役である千葉氏は現職の大熊町議(5期目)。2011~15年まで議長を務めた。 構図としては、大熊町議が代表兼オーナーの会社に「千葉一族」以外の坂田氏が社長として入ったことになる。坂田氏とは何者なのか。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープラントという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」(ある法面業者) ジープラントは資本金300万円で2005年に設立されたが、昨年5月に解散。本店は郡山市菜根一丁目にあったが、2013年に東日本緑化工業郡山支店と同じ住所に移転していた。つまり千葉氏と坂田氏の付き合いは10年以上に及ぶわけ。 東日本緑化工業は特定建設業の許可を持っていない。特定建設業とは1件の工事につき4000万円以上を下請けに出す場合に必要な要件だが、同社はこの許可がないため、大規模工事を受注しても下請けに出すことができず、すべて自社施工しなければならなかった。 「そこで坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思い付いた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」(同) 現在、坂田氏と遠藤氏が問われているのは公契約関係競売入札妨害だけだが、両者の間で謝礼や飲食接待が行われていれば贈収賄も問われることになる。実際に落札し、坂田氏に仕事を回していた業者は立件に至らないという観測もあるが、真面目に札入れしている業者からすると解せないに違いない。 6月上旬、郡山支社の事務所を訪ねると「警察から捜査に支障が出るので答えるなと言われている」(居合わせた男性)と告げられ、話を聞くことはできなかった。 ならば、オーナーの千葉氏に会おうと大熊町議会事務局を通じてコンタクトを取ったが「議員から『携帯番号等は個人情報に当たるので(記者に)教えないように』と言われました」(議会事務局職員)。議員が個人情報を盾に取材拒否するとは呆れて物も言えない。 新聞やテレビは東日本緑化工業と千葉氏の関係を一切報じていないが、事情を知る大熊町民からは「逮捕されたのは坂田氏だが、そういう人物を社長にしたのは千葉氏だろうし、不正を繰り返していた会社のオーナーが議員というのはいかがなものか」との声が漏れている。 事件を受け、東日本緑化工業は県から24カ月(2025年6月まで)の入札参加資格制限措置を科された。須賀川市やいわき市などからも1年前後の処分を科されている。 県警トップの意向!?  県内では2021年に会津美里町長、22年に楢葉町建設課主幹と元田村市職員、今年に入って県中農林事務所主査、そして遠藤氏と公共工事をめぐる逮捕者が相次いでいる。 かつての汚職事件はまず〝小物〟を逮捕し、その後に〝大物〟を逮捕するのがよくあるパターンだった。典型的な例が、当時の佐藤栄佐久知事が逮捕された県政汚職事件である。 しかし最近の汚職事件を見ると、会津美里町長以外は小物の逮捕に終始。事件発生直後は「おそらく県警は別の狙いがあるに違いない」との推測が出回るが、結局、現実になった試しはない。 これは何を意味するのか。 「県警トップの意向が反映されているのかもしれない。大物の逮捕は組織における評価が高いとされ、かつては首長の汚職に強い関心を向けるトップが多かったが、今のトップは『相手が誰だろうと不正は絶対に許さない』という考えなのかもしれない。だから、役職が低かろうが賄賂の額が少なかろうが、ダメなものはダメという姿勢を貫いている。その結果が小物の連続逮捕となって表れているのではないか」(ある県政ウオッチャー) 県警本部の児島洋平本部長は2021年8月に警察庁長官官房付から着任したが、今年7月7日付で同役職に異動し、後任には警視庁総務部長の若田英氏が就く。児島氏が着任したのは会津美里町長の逮捕後だったので、時系列で言うと、相次ぐ小物の逮捕時期と合致する。 警察庁発表の資料によると、全国で発生した贈収賄・公契約関係競売妨害事件の件数は横ばいで、2021年度は過去10年で最多だった(別表③参照)。県内で続発する不正は、他の都道府県でも起きているわけ。  そう考えると遠藤氏、赤羽氏、坂田氏の逮捕は氷山の一角で、「次は自分の番かも……」と内心ビクビクしている県職員、業者はもっといるのかもしれない。新しい県警本部長のもとでも引き続き「小物だろうが大物だろうが、不正は絶対に許さない」との姿勢が堅持されるのか。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相