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相馬商工会議所

  • 【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー(2024.2)

    【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー(2024.2)

     くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大学卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、16年11月から会頭。現在3期目。  新型コロナウイルスは徐々に収まってきたが、円安、物価高、人手不足の影響は深刻さを増している。インバウンドで賑わう首都圏や有名観光地とは異なり、地方経済の回復はまだまだ遠い。加えて相馬市は、二度の福島県沖地震による被害からも完全に立ち直っていない。地元経済界の現状と今後を相馬商工会議所の草野清貴会頭に聞いた。 災い転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたい。  ――新型コロナウイルスが昨年5月に5類に移行しました。  「昨年から祭りやイベントなどを従来通り実施していますが、コロナ前と比べても大盛況でした。スポーツ合宿で市内を訪れる人の数も戻っています。  コロナの影響を大きく受けた飲食店や宿泊業などは回復傾向にあります。飲食店は店ごとに差はありますが、コロナ前の7~8割まで回復しています。ただ、昨今の物価高を価格転嫁できておらず、それが雇用に支障を及ぼしており、経営は未だ不安定です。宿泊業は、人流は回復しているものの地震被害の復旧が完了済みの所とこれから建て替えを行う所があり、格差が見られます。地域全体では回復に至っておらず、イベントが行われても市内に宿泊できる場所が少ないのが現状です」  ――2021、22年に発生した福島県沖地震の影響は。  「地震で半壊以上となった市内の建物は2621件、うち公費解体は1176件に上ります。会員事業所も多くが被災しましたが、国・県に要望してグループ補助金が適用され再開に至った所もあります。しかし比較的大規模な宿泊施設はこれから着工となる所もあり、全体的に回復したとは言えません。  地震被害からの回復を目的に県内一斉に行われた宿泊県民割では、管内の宿泊施設の復旧が遅れたため、県に要望し『県民割相馬版』を実施しました。ほかにも15%割増プレミアム商品券や飲食マップ作成、ほろ酔いスタンプラリーや推奨物産品発掘事業『相馬逸品』など、地域経済回復のための事業に取り組んできました。  今後も行政、観光協会、漁協、農協など各種団体と連携し、地域経済浮揚に向け努力していきたい。また事業所に寄り添い、それぞれが抱える課題には伴走型支援を行うなど経営改善普及事業を積極的に進めていきたいと思います」  ――円高・物価高が大きな問題となっています。人手不足や後継者不在も深刻です。  「8割を超える事業所が異口同音に『物価高に対する価格転嫁ができず利益を見いだせない』『賃上げの意思はあるが余力がない』と述べています。中には『高齢化で廃業を検討せざるを得ない』などの声もあります。建設業や運送業からも『人手不足と資材・燃料高騰で業績が低迷している』との声が聞かれる中、4月からは運送業で年間残業時間上限960時間の規制が始まるため、業界の縮小も懸念されます。ただ一方では、価格転嫁をできている事業所もあり『新たなサービスや付加価値を付けて対応している』という意見も少なからずあるので、全体に波及させていきたいと思います。  後継者問題は、特に小規模事業所では深刻に捉えており、事業継続を断念するケースが多い。会議所としては、そういった事業所に積極的に相談するよう呼びかけながら、経営アドバイザー的な役割を果たしていきたいと思います」  ――国・県に望むことは。  「原油、原材料、資材価格の急激な高騰に対応するため、経営環境が逼迫している中小企業・小規模事業所の実態に沿った事業コストの負担軽減支援策を求めたい。また、エネルギー価格高騰の影響を受ける中小企業・小規模事業所に対する総合的な支援および原油価格高騰の影響を抑えるための総合的な対策を迅速かつ的確に実施していただきたい。  また公共事業を受注する際、受注から納品までの期限が長い事業については、当初の見積もり額から値上がりすることが想定されるため再見積もりを認めるなど、受注側に配慮した負担軽減支援策を実施するようお願いしたい」  ――昨年、福島第一原発で処理水海洋放出が行われました。  「幸い、管内で大きな影響は出ていません。日本商工会議所の小林健会頭が全国に呼びかけた『常磐ものの活用促進』により各地から多くのアプローチがあります。当会議所でも水産加工事業者と連携し情報発信を行っており、今後も地元水産物のPRに努めていきます」 人気を集める「福とら」  ――相馬沖で捕れる天然トラフグ「福とら」が人気を集めています。  「『「福とら」泊まって、食べてキャンぺーン』を展開中ですが、お陰様で大変好調です。『福とら』を取り扱う店舗も11に増えていますが、さらなる拡充に努めていきたい。また『福とら』との相乗効果でカレイやヒラメの人気も高まっており、直売所・浜の駅松川浦には週末になると多くの観光客が訪れています。 一方、課題としては他県に比べて水産加工品が少ないので、以前からアオサの加工品などの開発に取り組んでいます。アオサは健康食品として注目されており、現在四つの加工品が発売されています。今後もさらなる加工品開発に取り組んでいきたいと思います」  ――今年度取り組んでいる事業について。  「この間、相馬駅東改札口設置をJR東日本に要望してきましたが、常磐線を管理する水戸支社からは前向きな回答をいただいています。東側には法務局があり、以前から開発のための土地もあって、ようやく東口開発が進むと思います。  東北中央自動車道の開通により中通り方面とのアクセスは格段に向上しましたが、県立医大附属病院への救急搬送には伊達桑折ICで下りなければならず、さらなるアクセス向上が求められます。そこで、国道115号の改良を県に要望していますが、当会議所だけでなく原町、福島、会津若松、会津喜多方の各商工会議所や各種商工団体も加わったことで県にも前向きに検討していただいているので、引き続き改良実現を目指していきます。  また、相馬野馬追の開催時期が今年から5月に変更されます。周知活動はもちろんのこと、これまで以上の誘客につなげられるよう取り組んでいきたい」  ――最後に、今後の抱負をお聞かせください。  「観光をさらなる産業の柱とすべく『福とら』を生かした『新たな食文化の創造』『豊かな海と城下町の歴史を生かした交流事業』『音楽によるマチ起こし事業』など、これまでの基幹事業に文化事業を幅広く加え、新たなアイデアを駆使しながら交流人口拡大に取り組んでいきたい。近年多くの災いに襲われていますが、転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたいです」

  • 【相馬商工会議所】草野清貴会頭

    【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー

     くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、2016年11月から会頭。現在3期目。  昨年秋、全国の商工会議所で役員の一斉改選があり、相馬商工会議所は草野清貴会頭(草野建設代表取締役会長)の続投が決まった。3期目の任期をスタートさせた草野会頭に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う会員事業所への影響や、昨年3月の福島県沖地震からの復旧状況などについて話を聞いた。  ――3期目がスタートしました。 「東日本大震災以降も度重なる災害で大きな被害を受け、旅館などでは未だ再開できていないところもあります。加えて、コロナ禍に伴う消費低迷やエネルギー価格・資材高騰により、経済環境は悪化し各事業所の業績はますます低下しています。そうした中、会頭に再任したのは非常に身の引き締まる思いです。今後も職員と一緒に会員が少しでも元気を取り戻せるよう個々の課題に寄り添いながら重責を全うしていきたいと思います」 ――昨年3月に福島県沖を震源とする地震が発生しました。 「被害額は合計約81億円で、会員事業所93%に何らかの被害がありました。2021年2月の地震と比較すると5倍の被害額です。会議所では、直ちにグループ補助金適用の要望を行い、制度適用に至りました。ただ、2021年2月の地震でも申請している事業所が多く、職員も申請手続き支援を行いましたが、複雑な作業となりました。現時点で施設復旧のための見積金額は約91億円、うち補助金申請金額は約79億円となっています。一方で、二重の借金を抱えることになるところが多く、後継者問題もあって再開をためらう事業所が多いのが現状です。そんな中、市内に一軒だけあった豆腐店が震災の影響で閉店してしまい非常に残念です。宿泊施設は、再開を決めたものの、人手不足や資材調達遅延の影響もあり、まだ着工になっていない事業所もあります。県内では宿泊割引などが行われていますが、市内の事業所はそういった経緯から参画できなかったところも多くあるため、継続して宿泊割引支援を行ってほしいと思います」 ――コロナに加え、円高や物価高など厳しい状況が続いています。 「東日本大震災、新型コロナ、福島県沖地震など、際限なく苦境に立たされながら必死に営業努力を続ける管内事業所には敬意を表したいと思います。会議所としても、少しでも会員事業所のお役に立てるよう職員に呼び掛けています。 新型コロナに関しては、国の方針は新たな行動制限を行わず、感染拡大防止と社会経済活動両立を図る、まさにウィズコロナ社会となり、一定の安堵感はあるものの、会員事業所は依然として減収・減益の中、厳しい状況下に置かれています。 加えて円安や物価高の状況で、会員事業所の多くから『エネルギー価格や原材料価格高騰に対する価格転嫁ができていないため利益を見いだせない』との声も聞かれます。そのため、賃上げの意思はあるものの、対応できていない状況にあります。一方で、価格転嫁した事業所は新たなサービスや付加価値を持って対応を始めているところもあります。 また、誘致企業の多くは、コロナ禍により人員削減し、その後、再度人員募集を行っても人員が集まらない状況にあり、慢性的な人手不足が続いています。さらに、ここに来て世界情勢の影響を直で受けている企業も多くあり、企業努力では解決できない状況も生じています。足腰の弱い小規模事業所の中には、後継者不足もあって、廃業を検討しているところも少なくありません」 ――国や県に要望したいことは。 「コロナ禍に加え、二度の地震被害、さらには円安や物価高騰が続く中、今後も景気が厳しさを増すことが予想されます。そんな中で、国債を発行して防衛費を増額する案が出ていますが、社会保障や景気回復のための予算投下を優先させるべきと思います。また、これは県にも要望したいのですが、燃料費高騰に対する中小企業への支援措置の拡充をさらに進めてほしいと思います。原発処理水の海洋放出に関しては、海を生かした観光を進めているものの、未だに海産物の価格が戻らない中、さらなる風評被害につながることを懸念しています。そういった面では風評被害対策にしっかり取り組んでほしいと思います」 トラフグを新名物に  ――観光協会長も兼任しています。 「浜の駅松川浦には多くの観光客に訪れていただいています。今年は道の駅そうまもリニューアルオープンしました。また、昨年は新たに尾浜にビーチバレーボール場がオープンしたほか、サーフィンスポットとしても注目され、スポーツ目的で相馬に訪れる方が増加しています。最近は天然トラフグの水揚げが急増し、昨年は30㌧と過去最高となりました。新たな常磐もの『福とら』として売り出そうと『相馬市福とら利用促進協議会』を立ち上げ、PRに努めたことで、仙台やいわきなどからフグを目当てに訪れる観光客が増加しています。昨年は本場・下関の関係者を招き、指導を受けながら相馬産のフグを召し上がっていただきましたが、下関の関係者からも『下関産フグより一回り大きい』と太鼓判をいただきました。フグと言えば西の下関、東の相馬と呼ばれるようにしたいと思います。 また、最近は健康志向も重なりアオサノリの評判が上々です。加工品やアオサノリを使用したラーメン、そばなどといった開発も進み、地元米を使用した日本酒『夢そうま』とアオサノリをセットにした贈答品も人気があります。先日も宮城県に視察に行きましたが、缶詰などの加工品開発が進んでいました。県内でもいわきにはさんまのみりん干しといった加工品が多くありますが、相馬市の場合は加工品はあまり多くありませんでした。これまでは新鮮な海産物を首都圏で販売するという考えでしたが、どうしても生ものだけに頼ると飛躍できないと思います。今後も新たな加工品開発に力を入れ、それを観光に結び付けたいと思っています。相馬を訪れた観光客がお土産として加工品を購入し、地元企業も潤うという好循環を生み出したいと思っています。 また、最近はクルーズ船が相馬に停泊しています。東北中央道ができたことでクルーズ船の乗客が福島や米沢に行くコースも計画されているので、さらに福島や米沢との連携を強化していきたいと思います。ほかにも、海だけでなく城下町ならではの歴史や文化もありますから、海と歴史・文化を織り交ぜた観光開発も進めていきたいと思います」 ――今後の抱負を。 「度重なる震災やコロナ禍等により、中小企業や小規模事業所は未曾有の影響を受け、厳しい状況にあります。経営者の心が折れることなく、今後も事業継続に希望を持つことができるよう、職員一丸となって取り組んでいきたいと思います」 相馬商工会議所のホームページ 掲載号:政経東北【2023年2月号】

  • 【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー(2024.2)

     くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大学卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、16年11月から会頭。現在3期目。  新型コロナウイルスは徐々に収まってきたが、円安、物価高、人手不足の影響は深刻さを増している。インバウンドで賑わう首都圏や有名観光地とは異なり、地方経済の回復はまだまだ遠い。加えて相馬市は、二度の福島県沖地震による被害からも完全に立ち直っていない。地元経済界の現状と今後を相馬商工会議所の草野清貴会頭に聞いた。 災い転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたい。  ――新型コロナウイルスが昨年5月に5類に移行しました。  「昨年から祭りやイベントなどを従来通り実施していますが、コロナ前と比べても大盛況でした。スポーツ合宿で市内を訪れる人の数も戻っています。  コロナの影響を大きく受けた飲食店や宿泊業などは回復傾向にあります。飲食店は店ごとに差はありますが、コロナ前の7~8割まで回復しています。ただ、昨今の物価高を価格転嫁できておらず、それが雇用に支障を及ぼしており、経営は未だ不安定です。宿泊業は、人流は回復しているものの地震被害の復旧が完了済みの所とこれから建て替えを行う所があり、格差が見られます。地域全体では回復に至っておらず、イベントが行われても市内に宿泊できる場所が少ないのが現状です」  ――2021、22年に発生した福島県沖地震の影響は。  「地震で半壊以上となった市内の建物は2621件、うち公費解体は1176件に上ります。会員事業所も多くが被災しましたが、国・県に要望してグループ補助金が適用され再開に至った所もあります。しかし比較的大規模な宿泊施設はこれから着工となる所もあり、全体的に回復したとは言えません。  地震被害からの回復を目的に県内一斉に行われた宿泊県民割では、管内の宿泊施設の復旧が遅れたため、県に要望し『県民割相馬版』を実施しました。ほかにも15%割増プレミアム商品券や飲食マップ作成、ほろ酔いスタンプラリーや推奨物産品発掘事業『相馬逸品』など、地域経済回復のための事業に取り組んできました。  今後も行政、観光協会、漁協、農協など各種団体と連携し、地域経済浮揚に向け努力していきたい。また事業所に寄り添い、それぞれが抱える課題には伴走型支援を行うなど経営改善普及事業を積極的に進めていきたいと思います」  ――円高・物価高が大きな問題となっています。人手不足や後継者不在も深刻です。  「8割を超える事業所が異口同音に『物価高に対する価格転嫁ができず利益を見いだせない』『賃上げの意思はあるが余力がない』と述べています。中には『高齢化で廃業を検討せざるを得ない』などの声もあります。建設業や運送業からも『人手不足と資材・燃料高騰で業績が低迷している』との声が聞かれる中、4月からは運送業で年間残業時間上限960時間の規制が始まるため、業界の縮小も懸念されます。ただ一方では、価格転嫁をできている事業所もあり『新たなサービスや付加価値を付けて対応している』という意見も少なからずあるので、全体に波及させていきたいと思います。  後継者問題は、特に小規模事業所では深刻に捉えており、事業継続を断念するケースが多い。会議所としては、そういった事業所に積極的に相談するよう呼びかけながら、経営アドバイザー的な役割を果たしていきたいと思います」  ――国・県に望むことは。  「原油、原材料、資材価格の急激な高騰に対応するため、経営環境が逼迫している中小企業・小規模事業所の実態に沿った事業コストの負担軽減支援策を求めたい。また、エネルギー価格高騰の影響を受ける中小企業・小規模事業所に対する総合的な支援および原油価格高騰の影響を抑えるための総合的な対策を迅速かつ的確に実施していただきたい。  また公共事業を受注する際、受注から納品までの期限が長い事業については、当初の見積もり額から値上がりすることが想定されるため再見積もりを認めるなど、受注側に配慮した負担軽減支援策を実施するようお願いしたい」  ――昨年、福島第一原発で処理水海洋放出が行われました。  「幸い、管内で大きな影響は出ていません。日本商工会議所の小林健会頭が全国に呼びかけた『常磐ものの活用促進』により各地から多くのアプローチがあります。当会議所でも水産加工事業者と連携し情報発信を行っており、今後も地元水産物のPRに努めていきます」 人気を集める「福とら」  ――相馬沖で捕れる天然トラフグ「福とら」が人気を集めています。  「『「福とら」泊まって、食べてキャンぺーン』を展開中ですが、お陰様で大変好調です。『福とら』を取り扱う店舗も11に増えていますが、さらなる拡充に努めていきたい。また『福とら』との相乗効果でカレイやヒラメの人気も高まっており、直売所・浜の駅松川浦には週末になると多くの観光客が訪れています。 一方、課題としては他県に比べて水産加工品が少ないので、以前からアオサの加工品などの開発に取り組んでいます。アオサは健康食品として注目されており、現在四つの加工品が発売されています。今後もさらなる加工品開発に取り組んでいきたいと思います」  ――今年度取り組んでいる事業について。  「この間、相馬駅東改札口設置をJR東日本に要望してきましたが、常磐線を管理する水戸支社からは前向きな回答をいただいています。東側には法務局があり、以前から開発のための土地もあって、ようやく東口開発が進むと思います。  東北中央自動車道の開通により中通り方面とのアクセスは格段に向上しましたが、県立医大附属病院への救急搬送には伊達桑折ICで下りなければならず、さらなるアクセス向上が求められます。そこで、国道115号の改良を県に要望していますが、当会議所だけでなく原町、福島、会津若松、会津喜多方の各商工会議所や各種商工団体も加わったことで県にも前向きに検討していただいているので、引き続き改良実現を目指していきます。  また、相馬野馬追の開催時期が今年から5月に変更されます。周知活動はもちろんのこと、これまで以上の誘客につなげられるよう取り組んでいきたい」  ――最後に、今後の抱負をお聞かせください。  「観光をさらなる産業の柱とすべく『福とら』を生かした『新たな食文化の創造』『豊かな海と城下町の歴史を生かした交流事業』『音楽によるマチ起こし事業』など、これまでの基幹事業に文化事業を幅広く加え、新たなアイデアを駆使しながら交流人口拡大に取り組んでいきたい。近年多くの災いに襲われていますが、転じて福となるよう新たなことに挑戦していきたいです」

  • 【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー

     くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、2016年11月から会頭。現在3期目。  昨年秋、全国の商工会議所で役員の一斉改選があり、相馬商工会議所は草野清貴会頭(草野建設代表取締役会長)の続投が決まった。3期目の任期をスタートさせた草野会頭に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う会員事業所への影響や、昨年3月の福島県沖地震からの復旧状況などについて話を聞いた。  ――3期目がスタートしました。 「東日本大震災以降も度重なる災害で大きな被害を受け、旅館などでは未だ再開できていないところもあります。加えて、コロナ禍に伴う消費低迷やエネルギー価格・資材高騰により、経済環境は悪化し各事業所の業績はますます低下しています。そうした中、会頭に再任したのは非常に身の引き締まる思いです。今後も職員と一緒に会員が少しでも元気を取り戻せるよう個々の課題に寄り添いながら重責を全うしていきたいと思います」 ――昨年3月に福島県沖を震源とする地震が発生しました。 「被害額は合計約81億円で、会員事業所93%に何らかの被害がありました。2021年2月の地震と比較すると5倍の被害額です。会議所では、直ちにグループ補助金適用の要望を行い、制度適用に至りました。ただ、2021年2月の地震でも申請している事業所が多く、職員も申請手続き支援を行いましたが、複雑な作業となりました。現時点で施設復旧のための見積金額は約91億円、うち補助金申請金額は約79億円となっています。一方で、二重の借金を抱えることになるところが多く、後継者問題もあって再開をためらう事業所が多いのが現状です。そんな中、市内に一軒だけあった豆腐店が震災の影響で閉店してしまい非常に残念です。宿泊施設は、再開を決めたものの、人手不足や資材調達遅延の影響もあり、まだ着工になっていない事業所もあります。県内では宿泊割引などが行われていますが、市内の事業所はそういった経緯から参画できなかったところも多くあるため、継続して宿泊割引支援を行ってほしいと思います」 ――コロナに加え、円高や物価高など厳しい状況が続いています。 「東日本大震災、新型コロナ、福島県沖地震など、際限なく苦境に立たされながら必死に営業努力を続ける管内事業所には敬意を表したいと思います。会議所としても、少しでも会員事業所のお役に立てるよう職員に呼び掛けています。 新型コロナに関しては、国の方針は新たな行動制限を行わず、感染拡大防止と社会経済活動両立を図る、まさにウィズコロナ社会となり、一定の安堵感はあるものの、会員事業所は依然として減収・減益の中、厳しい状況下に置かれています。 加えて円安や物価高の状況で、会員事業所の多くから『エネルギー価格や原材料価格高騰に対する価格転嫁ができていないため利益を見いだせない』との声も聞かれます。そのため、賃上げの意思はあるものの、対応できていない状況にあります。一方で、価格転嫁した事業所は新たなサービスや付加価値を持って対応を始めているところもあります。 また、誘致企業の多くは、コロナ禍により人員削減し、その後、再度人員募集を行っても人員が集まらない状況にあり、慢性的な人手不足が続いています。さらに、ここに来て世界情勢の影響を直で受けている企業も多くあり、企業努力では解決できない状況も生じています。足腰の弱い小規模事業所の中には、後継者不足もあって、廃業を検討しているところも少なくありません」 ――国や県に要望したいことは。 「コロナ禍に加え、二度の地震被害、さらには円安や物価高騰が続く中、今後も景気が厳しさを増すことが予想されます。そんな中で、国債を発行して防衛費を増額する案が出ていますが、社会保障や景気回復のための予算投下を優先させるべきと思います。また、これは県にも要望したいのですが、燃料費高騰に対する中小企業への支援措置の拡充をさらに進めてほしいと思います。原発処理水の海洋放出に関しては、海を生かした観光を進めているものの、未だに海産物の価格が戻らない中、さらなる風評被害につながることを懸念しています。そういった面では風評被害対策にしっかり取り組んでほしいと思います」 トラフグを新名物に  ――観光協会長も兼任しています。 「浜の駅松川浦には多くの観光客に訪れていただいています。今年は道の駅そうまもリニューアルオープンしました。また、昨年は新たに尾浜にビーチバレーボール場がオープンしたほか、サーフィンスポットとしても注目され、スポーツ目的で相馬に訪れる方が増加しています。最近は天然トラフグの水揚げが急増し、昨年は30㌧と過去最高となりました。新たな常磐もの『福とら』として売り出そうと『相馬市福とら利用促進協議会』を立ち上げ、PRに努めたことで、仙台やいわきなどからフグを目当てに訪れる観光客が増加しています。昨年は本場・下関の関係者を招き、指導を受けながら相馬産のフグを召し上がっていただきましたが、下関の関係者からも『下関産フグより一回り大きい』と太鼓判をいただきました。フグと言えば西の下関、東の相馬と呼ばれるようにしたいと思います。 また、最近は健康志向も重なりアオサノリの評判が上々です。加工品やアオサノリを使用したラーメン、そばなどといった開発も進み、地元米を使用した日本酒『夢そうま』とアオサノリをセットにした贈答品も人気があります。先日も宮城県に視察に行きましたが、缶詰などの加工品開発が進んでいました。県内でもいわきにはさんまのみりん干しといった加工品が多くありますが、相馬市の場合は加工品はあまり多くありませんでした。これまでは新鮮な海産物を首都圏で販売するという考えでしたが、どうしても生ものだけに頼ると飛躍できないと思います。今後も新たな加工品開発に力を入れ、それを観光に結び付けたいと思っています。相馬を訪れた観光客がお土産として加工品を購入し、地元企業も潤うという好循環を生み出したいと思っています。 また、最近はクルーズ船が相馬に停泊しています。東北中央道ができたことでクルーズ船の乗客が福島や米沢に行くコースも計画されているので、さらに福島や米沢との連携を強化していきたいと思います。ほかにも、海だけでなく城下町ならではの歴史や文化もありますから、海と歴史・文化を織り交ぜた観光開発も進めていきたいと思います」 ――今後の抱負を。 「度重なる震災やコロナ禍等により、中小企業や小規模事業所は未曾有の影響を受け、厳しい状況にあります。経営者の心が折れることなく、今後も事業継続に希望を持つことができるよう、職員一丸となって取り組んでいきたいと思います」 相馬商工会議所のホームページ 掲載号:政経東北【2023年2月号】