【相馬商工会議所】草野清貴会頭インタビュー

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【相馬商工会議所】草野清貴会頭

 くさの・きよたか 1946年生まれ。東京電機大卒。草野建設代表取締役会長。2013年から相馬商工会議所常議員を務め、2016年11月から会頭。現在3期目。

 昨年秋、全国の商工会議所で役員の一斉改選があり、相馬商工会議所は草野清貴会頭(草野建設代表取締役会長)の続投が決まった。3期目の任期をスタートさせた草野会頭に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う会員事業所への影響や、昨年3月の福島県沖地震からの復旧状況などについて話を聞いた。


 ――3期目がスタートしました。

 「東日本大震災以降も度重なる災害で大きな被害を受け、旅館などでは未だ再開できていないところもあります。加えて、コロナ禍に伴う消費低迷やエネルギー価格・資材高騰により、経済環境は悪化し各事業所の業績はますます低下しています。そうした中、会頭に再任したのは非常に身の引き締まる思いです。今後も職員と一緒に会員が少しでも元気を取り戻せるよう個々の課題に寄り添いながら重責を全うしていきたいと思います」

 ――昨年3月に福島県沖を震源とする地震が発生しました。

 「被害額は合計約81億円で、会員事業所93%に何らかの被害がありました。2021年2月の地震と比較すると5倍の被害額です。会議所では、直ちにグループ補助金適用の要望を行い、制度適用に至りました。ただ、2021年2月の地震でも申請している事業所が多く、職員も申請手続き支援を行いましたが、複雑な作業となりました。現時点で施設復旧のための見積金額は約91億円、うち補助金申請金額は約79億円となっています。一方で、二重の借金を抱えることになるところが多く、後継者問題もあって再開をためらう事業所が多いのが現状です。そんな中、市内に一軒だけあった豆腐店が震災の影響で閉店してしまい非常に残念です。宿泊施設は、再開を決めたものの、人手不足や資材調達遅延の影響もあり、まだ着工になっていない事業所もあります。県内では宿泊割引などが行われていますが、市内の事業所はそういった経緯から参画できなかったところも多くあるため、継続して宿泊割引支援を行ってほしいと思います」

 ――コロナに加え、円高や物価高など厳しい状況が続いています。

 「東日本大震災、新型コロナ、福島県沖地震など、際限なく苦境に立たされながら必死に営業努力を続ける管内事業所には敬意を表したいと思います。会議所としても、少しでも会員事業所のお役に立てるよう職員に呼び掛けています。

 新型コロナに関しては、国の方針は新たな行動制限を行わず、感染拡大防止と社会経済活動両立を図る、まさにウィズコロナ社会となり、一定の安堵感はあるものの、会員事業所は依然として減収・減益の中、厳しい状況下に置かれています。

 加えて円安や物価高の状況で、会員事業所の多くから『エネルギー価格や原材料価格高騰に対する価格転嫁ができていないため利益を見いだせない』との声も聞かれます。そのため、賃上げの意思はあるものの、対応できていない状況にあります。一方で、価格転嫁した事業所は新たなサービスや付加価値を持って対応を始めているところもあります。

 また、誘致企業の多くは、コロナ禍により人員削減し、その後、再度人員募集を行っても人員が集まらない状況にあり、慢性的な人手不足が続いています。さらに、ここに来て世界情勢の影響を直で受けている企業も多くあり、企業努力では解決できない状況も生じています。足腰の弱い小規模事業所の中には、後継者不足もあって、廃業を検討しているところも少なくありません」

 ――国や県に要望したいことは。

 「コロナ禍に加え、二度の地震被害、さらには円安や物価高騰が続く中、今後も景気が厳しさを増すことが予想されます。そんな中で、国債を発行して防衛費を増額する案が出ていますが、社会保障や景気回復のための予算投下を優先させるべきと思います。また、これは県にも要望したいのですが、燃料費高騰に対する中小企業への支援措置の拡充をさらに進めてほしいと思います。原発処理水の海洋放出に関しては、海を生かした観光を進めているものの、未だに海産物の価格が戻らない中、さらなる風評被害につながることを懸念しています。そういった面では風評被害対策にしっかり取り組んでほしいと思います」

トラフグを新名物に

 ――観光協会長も兼任しています。

 「浜の駅松川浦には多くの観光客に訪れていただいています。今年は道の駅そうまもリニューアルオープンしました。また、昨年は新たに尾浜にビーチバレーボール場がオープンしたほか、サーフィンスポットとしても注目され、スポーツ目的で相馬に訪れる方が増加しています。最近は天然トラフグの水揚げが急増し、昨年は30㌧と過去最高となりました。新たな常磐もの『福とら』として売り出そうと『相馬市福とら利用促進協議会』を立ち上げ、PRに努めたことで、仙台やいわきなどからフグを目当てに訪れる観光客が増加しています。昨年は本場・下関の関係者を招き、指導を受けながら相馬産のフグを召し上がっていただきましたが、下関の関係者からも『下関産フグより一回り大きい』と太鼓判をいただきました。フグと言えば西の下関、東の相馬と呼ばれるようにしたいと思います。

 また、最近は健康志向も重なりアオサノリの評判が上々です。加工品やアオサノリを使用したラーメン、そばなどといった開発も進み、地元米を使用した日本酒『夢そうま』とアオサノリをセットにした贈答品も人気があります。先日も宮城県に視察に行きましたが、缶詰などの加工品開発が進んでいました。県内でもいわきにはさんまのみりん干しといった加工品が多くありますが、相馬市の場合は加工品はあまり多くありませんでした。これまでは新鮮な海産物を首都圏で販売するという考えでしたが、どうしても生ものだけに頼ると飛躍できないと思います。今後も新たな加工品開発に力を入れ、それを観光に結び付けたいと思っています。相馬を訪れた観光客がお土産として加工品を購入し、地元企業も潤うという好循環を生み出したいと思っています。

 また、最近はクルーズ船が相馬に停泊しています。東北中央道ができたことでクルーズ船の乗客が福島や米沢に行くコースも計画されているので、さらに福島や米沢との連携を強化していきたいと思います。ほかにも、海だけでなく城下町ならではの歴史や文化もありますから、海と歴史・文化を織り交ぜた観光開発も進めていきたいと思います」

 ――今後の抱負を。

 「度重なる震災やコロナ禍等により、中小企業や小規模事業所は未曾有の影響を受け、厳しい状況にあります。経営者の心が折れることなく、今後も事業継続に希望を持つことができるよう、職員一丸となって取り組んでいきたいと思います」

相馬商工会議所のホームページ

掲載号:政経東北【2023年2月号】

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