やざわ・としゆき 1967年生まれ。埼玉大学工学部卒。1990年に県庁入庁。会津若松建設事務所長、土木部次長などを経て、今年4月から現職。
近年は地震や水害などの自然災害が相次いでおり、有事の際の迅速な対応や防災・減災対策が急務となっている。一方で、それらを担う建設業界では、時間外労働の上限規制や従事者不足などの問題を抱える。そうした課題に県としてどのように取り組むのか。矢澤敏幸県土木部長にインタビューした。
4月から土木部長に就任
――4月から土木部長に就任されました。
「はじめに、令和6年能登半島地震により、亡くなられた方々に対し、深く哀悼の意を表しますとともに、被害に遭われた皆様に心からお見舞いを申し上げます。土木部としては、東日本大震災での経験を踏まえ、現地へ職員を派遣しています。被災された方々が一日も早く元の生活を取り戻せるよう、最大限の支援を行っていきます。
東日本大震災から13年が経過し、本県の復旧復興は着実に進捗しています。特に復興支援道路として国に整備いただいた相馬福島道路は、復興のリーディングプロジェクトとして進められ、着手から約10年の短期間で全線が開通、浜通り地方と中通り地方を結ぶ横軸の道路として、有効に活用されています。さまざまな面での経済効果も生まれており、被災地の復興に大きく寄与していることに感謝を申し上げます。
本県は現在も原子力災害に伴う避難区域を抱えており、未だ復興の途上にあります。このため、土木部へ向けられている期待の大きさ、果たすべき役割の重要性を強く認識しています。今後も復興の進展に伴う新たな課題等に対応するため、住民の帰還やイノベーション・コースト構想等を支援するインフラ整備にしっかりと取り組んでいきます。
東日本大震災以降も本県では、度重なる自然災害を経験してきました。これらを踏まえ、自然災害に強い県土づくりを進めるため、防災・減災、国土強靭化のための5カ年加速化対策等を活用し、福島県緊急水災害対策プロジェクトによる河川改修や堤防補強、道路ネットワークの強化など、社会資本の機能強化に取り組んでいます。震災復興や自然災害への対応のほか、土木部が担う役割をひとつ、ひとつ実現していくため、福島県総合計画に基づく部門別計画として、令和3年度に『福島県土木・建築総合計画』を策定しました。同計画に基づき、施策を着実に推進していきます」
建設業界の問題への対応
――建設業では、4週8休の取得が進んでおらず、若年労働者の育成や担い手確保が大きな課題となっています。
「4月から『時間外労働の上限規制』が建設業に適用されました。適正工期の確保や週休2日工事の実施など、長時間労働の是正に向けた取り組みを進めるとともに、デジタル化の推進による生産性の向上を図りながら、働き方改革に取り組んでいます。
近年、建設業では、担い手の確保が大きな課題となっており、建設業が果たす社会的役割や仕事のやりがいなどが若者に広く認知されることが重要です。このため、SNSでの職場紹介や建設業に接する機会が少ない高校生への説明会の開催、小学生や保護者を対象にドローン等のICT機器の操作体験や建設機械の試乗など、建設業に対する理解を深めるための現場見学会を県内各方部で開催しています。今後も若者の建設業への就業につながるよう積極的な情報発信に取り組んでいきます。
また、産学官が連携し、企業の経営力強化の支援、担い手の確保・育成に取り組むとともに、建設業が地域の守り手としての役割を持続的に担うことのできる環境づくりに取り組みます。地元建設産業が持続可能で活力ある産業となるよう、新技術を活用しながら生産性の向上に取り組むことが極めて重要と考えます。このため、県では、産・学・官連携による『ふくしまインフラメンテナンス技術者育成協議会』における技術者育成に加え、災害対応や維持管理分野でのドローンの活用やICT活用工事の拡大、情報共有システムや遠隔臨場の更なる活用により、生産性向上、品質確保、安全性の向上を図ります。併せて、デジタル技術の活用に向けた支援や受発注者双方の人材育成も進めていきます」
――国交省より一般国道49号好間三和防災の新規事業化が公表されました。
「国道49号は、産業・経済・交流を支える極めて重要な路線ですが、代替路線がなく、令和元年東日本台風や令和5年台風13号では、路肩法面崩落などによる通行止めで人流や物流に大きな支障が生じるなど、道路ネットワークの強化が求められています。今年度から好間三和防災事業が直轄事業で着手されることとなり、本事業により防災機能の強化、線形不良個所の解消が図られ、磐越自動車道と一体となった道路ネットワークの多重性・代替性の確保が期待されます。県としては、円滑な事業促進のため、当該事業に伴い発生する残土の搬出場所の確保や埋蔵文化財の調査、現道の取り扱いについて、関係機関と連携を図っていきます」
――その他の今年度の重点施策についてうかがいます。
「帰還困難区域内の河川・海岸の災害復旧や、『ふくしま復興再生道路』等の整備をはじめ、震災の記憶と教訓の後世への伝承等を目的とした福島県復興祈念公園の整備を国と連携して進めていきます。
自然災害から県民の生命と財産を守り、安全で安心できる生活環境を確保するため、令和元年東日本台風を踏まえた『福島県緊急水災害対策プロジェクト』に基づき河川の改良復旧や堤防補強などの対策を進めるとともに、令和5年台風13号で大きな被害があった新川・宮川などの中小河川においても必要な対策に取り組んでいきます。また、流域内のあらゆる関係者の協働による流域治水の実効性を高めるため、今年3月26日に一級河川阿武隈川水系釈迦堂川をはじめとする流域内の9河川を特定都市河川に指定しました。さらに、7月1日に同水系逢瀬川をはじめとする流域内の3河川、谷田川をはじめとする流域内の2河川を特定都市河川に指定し、浸水被害対策の強化を図ります。加えて、日々の県民生活を支えていくためには、日頃から公共土木施設の健全な状態を確保する必要があります。このため、橋りょうやトンネル等が長期にわたり十分にその機能を発揮できるよう、長寿命化対策や新技術を用いた点検の推進など、計画的な維持管理に努めていきます。
また、危険な盛土等による災害の防止を図るため、県内全域における9月末からの規制開始に向けて準備を進めており、県外からの大量土砂搬入事案等に対し、盛土規制法等に基づく規制をより実効的なものとするため、市町村などの関係機関と連携して『福島県不法・危険盛土等対策本部』を設置しました」