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立谷秀清

  • 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー(2023.12)

    【相馬市】立谷秀清市長インタビュー(2023.12)

     たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務める。  ――5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に引き下げられました。今年は相馬野馬追が通常開催されるなどイベントが戻りつつありますが市内の状況は。  「ワクチン接種への関心が大分薄れています。新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に引き下げられる一方、ワクチンの副反応への警戒が残っていることが接種率低下につながっているようです。重症化率が高い高齢者や基礎疾患を抱える方を念頭に接種体制を整えています。高齢者が重症化しやすいのは、現在流行しているインフルエンザについても同じです。個人の意思を尊重した上で接種を勧め、流行と重症化リスクを下げるよう対応していきます。催しはできるだけ活発にやりたい。市の新春のつどいは、来年は行います」  ――一昨年2月、昨年3月に福島県沖地震が発生し、相馬市は2年連続で震度6強の揺れに見舞われました。この間、市内では台風などによる水害なども発生しましたが、復興状況と対策はいかがでしょうか。  「多くの住宅が損壊しました。行政として公費解体などできる支援はしてきたつもりですが、被害に遭った方の人生への影響は計り知れません。私の家も大規模半壊で建て替えざるを得ませんでした。70歳を過ぎて家を建てるのは容易でない。解体が必要な家屋は千数百軒で、約90%は解体が済んでいます。難しい判断なので解体はせかさず、時期を待って行政の手を差し伸べます。解体と移転が進むと更地が増えます。街なかを散歩すると空き地が増えているのが分かります。行政として、1年単位ではなく、10年、20年先を考えてリカバリーしなくてはなりません。リカバリーが新たな景観やビジネス創出につながってほしい。  建て替えてまた再起した飲食店やホテルもあり、繁盛している店舗もあります。市としては、もう被害には遭わせないという気持ちで水を吸い上げるポンプ車を新たに2台配備し、さらに宇多川と小泉川の河川改修をしました。過去には水田で保水効果があった土地が宅地化でアスファルトになるなど土地の変化が水害に与える影響は大きいですが、対策を抜かりなく行っていきます」  ――福島第一原発の処理水が放出されました。「常磐ものを食べて応援キャンペーン」が好調ですが観光の状況はいかがでしょうか。  「私が知る限りでは、マイナスの影響はそれほどありません。IAEAの厳しい基準を各国が支持しています。米国のエマニュエル駐日大使が相馬市を訪れ、意見交換をしました。海洋放出については大丈夫、つまり影響がないことを示す科学的な根拠があるという趣旨のことを言ってくれました。  中国内から日本の公共機関や店舗へ嫌がらせの電話が相次ぎ、それに対する反発で国民が冷静になった面はあります。相馬市内でも学校や病院、飲食店に中国語の電話や無言電話がずいぶんあり、業務を妨害されました。市民の間に科学的なデータに基づいて考えようという気持ちが芽生えました。  全国市長会会長として、教育現場で放射線を正しく学ばせてほしいとこれまで訴えてきました。高校入試に出題するように求めましたが、実現はまだ遠いです。副読本だけではリテラシーは十分に身に着かないと思います。  新たな名産として期待がかかるふぐの季節が始まりました。地元料理店での提供も徐々に増え、名物料理としても今後に期待ですが、漁業資源としては好調です。かねてからの名産地である山口県下関市のふぐ取扱業者が相当量買い取ってくれています。この前、全国ふぐ連盟の方々が相馬市を訪れ意見交換をしました。下関近海では温暖化の影響で近年ふぐが不漁です。相馬で獲れたふぐで下関のふぐ産業を支え、双方に実りあるようにしたいです」  ――今年度取り組んでいる重点施策についてお聞かせください。  「行政の役割は困った人たちに対して救いの手を伸べること、すなわち『不幸の緩和』です。自然災害や疫病への対応など住民の生活環境を守る義務を果たしていきます。無責任に夢みたいなことを語るよりも、目の前の義務を果たすことが一番大事なことだと思っています。  物価高で困窮者が増えています。政府が総合経済対策を進めていますので、市町村分について、生活困窮者には特に対応していきたいです」  ――全国市長会会長として政府に求めたいことは。 「たくさんあります。11月15日には副会長ら8人で与党の両政務調査会長と、内閣官房長官らを訪ね、『減税する際に市町村に迷惑を掛けない』との言質を取ってきました。減税とは地方自治体の税収減も意味するからです。  これまで他には児童・生徒が1人1台のタブレット端末で学ぶGIGAスクール構想の財源確保を要望してきました。同構想は5年を迎え、タブレット端末の更新を迎えます。5年に1回更新費用をその都度要望するのは非効率なので恒久財源を付けてほしいと訴えました。文部科学省は基金で対応することになりました。  来年から新型コロナワクチン接種が有料となりますが、単価が高いと市町村間の公費負担に差が出るので、負担に格差がないようにしてほしいと政府に要請しています」  ――今後の抱負を。  「重点施策と重複しますが、不幸な事態を最大限に緩和することです。長い目で見ると人口減少が不幸な事態です。それを解消するには企業誘致に励み、県外に流出が進む女性の働く場所をつくらないといけない。今年は企業誘致がまとまって、市内の工業団地用地をいくつか売却しました。人口減少に歯止めをかけるのは難しいですが、対策を積み重ねていかなければなりません。野球に例えればホームランを打つのではなく、バントでヒットを狙って、着実に返すような守り主体にしていかなければならない。  地道にコツコツが私の信条です。守りを継続していけば攻めに転じるチャンスが必ずある。一つが浜の駅松川浦です。浜の駅には原発事故後の風評被害の中、相馬の魚介類を味わってもらい『安全なんだな』と来場者に納得してもらう役割を担ってもらいました。『攻』というよりは『守』です。今や大勢の人で賑わい、近隣食堂に経済効果が波及するほどです。ところが、賑わいが商店街まで波及するかと期待したところに地震と水害、新型コロナ禍が襲いました。  市を挙げて地道にコツコツ石を積んでいたところを崩された感じです。打撃は大きいですが、『不幸の緩和』のために守り続け、幸福という攻めに転じるために、苦境の中でも対策は積み上げていかねばなりません。行政とはそういうものです」 相馬市ホームページ

  • 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー

    【相馬市】立谷秀清市長インタビュー

     たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務める。  ――2022年3月に発生した福島県沖地震で相馬市は大きな被害を受けました。  「特徴的な被害として挙げられるのは、ほぼ100%の住宅が被災したことです。家財道具が倒れたり、食器類が割れるなどの被害はほとんどの住宅であったと思います。家屋損壊も相当数に上りました。生活の現場で市民はさまざまな苦労を余儀なくされ、それは発災から8カ月経った今も続いています。  屋根には未だにブルーシートが被せられ、屋根瓦の修繕も思うように進んでいません。大工さんもフル回転で対応していますが、ここ20年で大工さんの人数自体が減っており、修繕に当たる人員は不足しているのが実情です。それでも市民の多くは、何とか自宅を再建しようと努力を続けていますが、中には再建を諦め、市営住宅や民間アパートに転居された方も少なくありません。それぞれ事情が異なるので(再建を諦めるという選択は)仕方ないのでしょうが、生活の基盤となる住宅が元通りにならないと『相馬は復旧した』という気持ちにはなれませんね。  産業では、観光業の方々を中心に国のグループ補助金が適用され、復旧費の4分の3が補助されます。それはありがたいことなのですが、残り4分の1は自己負担になります。平時ならまかなう余力があっても、新型コロナウイルス感染症の影響で客足が落ち込む中、自己負担分が今後の経営に影響を与えないか心配されます。また、後継者問題に直面していた事業者の中には先行きが見通せないとして、今回の被災で事業を取りやめたところもあったようです。事業者は千差万別、いろいろと悩みながら今後の経営を考えている状況です。主要な工場については、相馬共同火力新地発電所は現在も一部運転再開に至っていませんが、その他の工場はほぼ稼働しています。  東日本大震災から11年8カ月経ちますが、復興を遂げつつあった中で2021年2月、2022年3月と立て続けに地震に襲われ、市民の間には『大地震がまた来るのではないか』という憂鬱感が広がっています。そこに追い打ちをかけているのが新型コロナの影響による閉塞感と国際情勢の不安定さです。災害から復旧を果たしても、新型コロナの影響があって商売が上手くいかない、そこに原油高、円安、物価高が重なり、相馬市は非常に厳しい状況にあるというのが実感です。  とはいえ、市民がみんな下を向いているかと言うと、そんなことはありません。市職員も同様です。東日本大震災の時も実感しましたが、相馬市民は根性があります。市長として、この難局を市民一丸となって乗り越えていきたいと考えています」  ――相馬市内の新型コロナ感染状況はいかがですか。  「相馬市はPDCAサイクル(※)に則り、市ワクチン接種メディカルセンター会議で議論しながらワクチン接種を進めてきました。例えば接種方法は、スポーツアリーナそうまを会場とした集団接種が85%、病院での個別接種が15%という割合です。集団接種会場では何が起きても安心・安全が保てるよう万全の態勢を整えていますが、接種により何らかのリスクが生じる恐れのある方は最初から病院(個別接種)で対応しています。また、強い副反応が出た方にはその後の接種を勧めていません。  ワクチン接種の効果ですが、相馬市独自のデータではこれまでに約2600人(9月25日まで)の市民が感染し、そのうち中等症以上になられた方は21人(0・8%)で、99%以上の方は軽症です。感染確率は、ワクチンを適正回数接種した方が4・4%、適正回数接種していない、あるいは全く接種していない方が17・8%で約13㌽の差がありました。  これらの結果から、ワクチン接種の効果は確実にあると言えます。ただし、接種しても感染するブレイクスルー感染も見られるので『効果は絶対ではない』という点は認識しなければなりませんし、中にはさまざまな理由から接種しない・できない方もいるので、そうした意向も尊重しなければならないと思っています。  さらに課題になるのが、新型コロナは感染症法上の2類相当になるため、感染者や濃厚接触者の長期離脱が社会・経済に悪影響を及ぼしてしまうことです。今後、同法上の扱いをどうしていくのか、具体的には5類に引き下げられるのか国の動向を注視する必要があります」  ――年末に向けては第8波が懸念されていますが。  「相馬市では11月1日からオミクロン株対応ワクチンの集団接種を開始しており、医師は10月22日に全員接種済みです。接種間隔をめぐっては3カ月あけるのか、5カ月あけるのかという議論がありましたが、私は全国市長会長として『3カ月で接種させてほしい。そうでなければ第8波に間に合わない』と政府に申し入れ、10月21日に了承が得られた経緯があります。計画通り進めば12月20日には希望者の接種を終える予定です。  第7波は、感染者は多かったが重症者は少ないものでした。第8波がどのような特徴を示すか分かりませんが、事前の準備をしっかり整えておきたいと思います」  ――福島第一原発の敷地内に溜まる汚染水の海洋放出について、国、東電に求めることは。  「しっかりとしたエビデンスに基づき最終的な処理方法を国の責任で決めること、それによって漁業者等に被害が出ることがあればきちんと補償すること、この二つは一貫して申し上げてきました。実際に海洋放出した場合、どういう被害が出て、どこまで補償が必要かは現時点で分かりませんが、国と東電には被害者の声に耳を傾け、誠実な対応を強く求めたい」  ――観光振興への取り組みは。  「3月の地震で通行止めが続いていた市道大洲松川線が10月20日に通行再開しました。同線は海岸堤防上などを走る観光道路で、2020年10月にオープンした浜の駅松川浦、2022年10月に物産館がリニューアルされた道の駅そうま、さらに磯部加工施設の直売所を有機的に結び付ける役割を担っています。各施設とも評判は上々ですが、今後の課題はこれらの施設を訪れた方々をどうやって街中に誘導するかです。例えば相馬市では現在、相馬で水揚げされる天然トラフグを『福とら』の名でブランド化してPRに努めており、街中でトラフグ料理を味わってもらうのも一つのアイデアだと思います。また、新型コロナや地震の影響で旅館などが厳しい状況にあるので、市内に整備したサッカー場、ソフトボール場、パークゴルフ場などを生かした合宿の誘致も検討したいですね」  ――最後に抱負を。  「ダメージからの回復、これに尽きます。1日でも早く、市民が普通の生活に戻れるよう市長として尽力していきます」 相馬市ホームページ 政経東北【2022年12月号】

  • 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー(2023.12)

     たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務める。  ――5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に引き下げられました。今年は相馬野馬追が通常開催されるなどイベントが戻りつつありますが市内の状況は。  「ワクチン接種への関心が大分薄れています。新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に引き下げられる一方、ワクチンの副反応への警戒が残っていることが接種率低下につながっているようです。重症化率が高い高齢者や基礎疾患を抱える方を念頭に接種体制を整えています。高齢者が重症化しやすいのは、現在流行しているインフルエンザについても同じです。個人の意思を尊重した上で接種を勧め、流行と重症化リスクを下げるよう対応していきます。催しはできるだけ活発にやりたい。市の新春のつどいは、来年は行います」  ――一昨年2月、昨年3月に福島県沖地震が発生し、相馬市は2年連続で震度6強の揺れに見舞われました。この間、市内では台風などによる水害なども発生しましたが、復興状況と対策はいかがでしょうか。  「多くの住宅が損壊しました。行政として公費解体などできる支援はしてきたつもりですが、被害に遭った方の人生への影響は計り知れません。私の家も大規模半壊で建て替えざるを得ませんでした。70歳を過ぎて家を建てるのは容易でない。解体が必要な家屋は千数百軒で、約90%は解体が済んでいます。難しい判断なので解体はせかさず、時期を待って行政の手を差し伸べます。解体と移転が進むと更地が増えます。街なかを散歩すると空き地が増えているのが分かります。行政として、1年単位ではなく、10年、20年先を考えてリカバリーしなくてはなりません。リカバリーが新たな景観やビジネス創出につながってほしい。  建て替えてまた再起した飲食店やホテルもあり、繁盛している店舗もあります。市としては、もう被害には遭わせないという気持ちで水を吸い上げるポンプ車を新たに2台配備し、さらに宇多川と小泉川の河川改修をしました。過去には水田で保水効果があった土地が宅地化でアスファルトになるなど土地の変化が水害に与える影響は大きいですが、対策を抜かりなく行っていきます」  ――福島第一原発の処理水が放出されました。「常磐ものを食べて応援キャンペーン」が好調ですが観光の状況はいかがでしょうか。  「私が知る限りでは、マイナスの影響はそれほどありません。IAEAの厳しい基準を各国が支持しています。米国のエマニュエル駐日大使が相馬市を訪れ、意見交換をしました。海洋放出については大丈夫、つまり影響がないことを示す科学的な根拠があるという趣旨のことを言ってくれました。  中国内から日本の公共機関や店舗へ嫌がらせの電話が相次ぎ、それに対する反発で国民が冷静になった面はあります。相馬市内でも学校や病院、飲食店に中国語の電話や無言電話がずいぶんあり、業務を妨害されました。市民の間に科学的なデータに基づいて考えようという気持ちが芽生えました。  全国市長会会長として、教育現場で放射線を正しく学ばせてほしいとこれまで訴えてきました。高校入試に出題するように求めましたが、実現はまだ遠いです。副読本だけではリテラシーは十分に身に着かないと思います。  新たな名産として期待がかかるふぐの季節が始まりました。地元料理店での提供も徐々に増え、名物料理としても今後に期待ですが、漁業資源としては好調です。かねてからの名産地である山口県下関市のふぐ取扱業者が相当量買い取ってくれています。この前、全国ふぐ連盟の方々が相馬市を訪れ意見交換をしました。下関近海では温暖化の影響で近年ふぐが不漁です。相馬で獲れたふぐで下関のふぐ産業を支え、双方に実りあるようにしたいです」  ――今年度取り組んでいる重点施策についてお聞かせください。  「行政の役割は困った人たちに対して救いの手を伸べること、すなわち『不幸の緩和』です。自然災害や疫病への対応など住民の生活環境を守る義務を果たしていきます。無責任に夢みたいなことを語るよりも、目の前の義務を果たすことが一番大事なことだと思っています。  物価高で困窮者が増えています。政府が総合経済対策を進めていますので、市町村分について、生活困窮者には特に対応していきたいです」  ――全国市長会会長として政府に求めたいことは。 「たくさんあります。11月15日には副会長ら8人で与党の両政務調査会長と、内閣官房長官らを訪ね、『減税する際に市町村に迷惑を掛けない』との言質を取ってきました。減税とは地方自治体の税収減も意味するからです。  これまで他には児童・生徒が1人1台のタブレット端末で学ぶGIGAスクール構想の財源確保を要望してきました。同構想は5年を迎え、タブレット端末の更新を迎えます。5年に1回更新費用をその都度要望するのは非効率なので恒久財源を付けてほしいと訴えました。文部科学省は基金で対応することになりました。  来年から新型コロナワクチン接種が有料となりますが、単価が高いと市町村間の公費負担に差が出るので、負担に格差がないようにしてほしいと政府に要請しています」  ――今後の抱負を。  「重点施策と重複しますが、不幸な事態を最大限に緩和することです。長い目で見ると人口減少が不幸な事態です。それを解消するには企業誘致に励み、県外に流出が進む女性の働く場所をつくらないといけない。今年は企業誘致がまとまって、市内の工業団地用地をいくつか売却しました。人口減少に歯止めをかけるのは難しいですが、対策を積み重ねていかなければなりません。野球に例えればホームランを打つのではなく、バントでヒットを狙って、着実に返すような守り主体にしていかなければならない。  地道にコツコツが私の信条です。守りを継続していけば攻めに転じるチャンスが必ずある。一つが浜の駅松川浦です。浜の駅には原発事故後の風評被害の中、相馬の魚介類を味わってもらい『安全なんだな』と来場者に納得してもらう役割を担ってもらいました。『攻』というよりは『守』です。今や大勢の人で賑わい、近隣食堂に経済効果が波及するほどです。ところが、賑わいが商店街まで波及するかと期待したところに地震と水害、新型コロナ禍が襲いました。  市を挙げて地道にコツコツ石を積んでいたところを崩された感じです。打撃は大きいですが、『不幸の緩和』のために守り続け、幸福という攻めに転じるために、苦境の中でも対策は積み上げていかねばなりません。行政とはそういうものです」 相馬市ホームページ

  • 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー

     たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務める。  ――2022年3月に発生した福島県沖地震で相馬市は大きな被害を受けました。  「特徴的な被害として挙げられるのは、ほぼ100%の住宅が被災したことです。家財道具が倒れたり、食器類が割れるなどの被害はほとんどの住宅であったと思います。家屋損壊も相当数に上りました。生活の現場で市民はさまざまな苦労を余儀なくされ、それは発災から8カ月経った今も続いています。  屋根には未だにブルーシートが被せられ、屋根瓦の修繕も思うように進んでいません。大工さんもフル回転で対応していますが、ここ20年で大工さんの人数自体が減っており、修繕に当たる人員は不足しているのが実情です。それでも市民の多くは、何とか自宅を再建しようと努力を続けていますが、中には再建を諦め、市営住宅や民間アパートに転居された方も少なくありません。それぞれ事情が異なるので(再建を諦めるという選択は)仕方ないのでしょうが、生活の基盤となる住宅が元通りにならないと『相馬は復旧した』という気持ちにはなれませんね。  産業では、観光業の方々を中心に国のグループ補助金が適用され、復旧費の4分の3が補助されます。それはありがたいことなのですが、残り4分の1は自己負担になります。平時ならまかなう余力があっても、新型コロナウイルス感染症の影響で客足が落ち込む中、自己負担分が今後の経営に影響を与えないか心配されます。また、後継者問題に直面していた事業者の中には先行きが見通せないとして、今回の被災で事業を取りやめたところもあったようです。事業者は千差万別、いろいろと悩みながら今後の経営を考えている状況です。主要な工場については、相馬共同火力新地発電所は現在も一部運転再開に至っていませんが、その他の工場はほぼ稼働しています。  東日本大震災から11年8カ月経ちますが、復興を遂げつつあった中で2021年2月、2022年3月と立て続けに地震に襲われ、市民の間には『大地震がまた来るのではないか』という憂鬱感が広がっています。そこに追い打ちをかけているのが新型コロナの影響による閉塞感と国際情勢の不安定さです。災害から復旧を果たしても、新型コロナの影響があって商売が上手くいかない、そこに原油高、円安、物価高が重なり、相馬市は非常に厳しい状況にあるというのが実感です。  とはいえ、市民がみんな下を向いているかと言うと、そんなことはありません。市職員も同様です。東日本大震災の時も実感しましたが、相馬市民は根性があります。市長として、この難局を市民一丸となって乗り越えていきたいと考えています」  ――相馬市内の新型コロナ感染状況はいかがですか。  「相馬市はPDCAサイクル(※)に則り、市ワクチン接種メディカルセンター会議で議論しながらワクチン接種を進めてきました。例えば接種方法は、スポーツアリーナそうまを会場とした集団接種が85%、病院での個別接種が15%という割合です。集団接種会場では何が起きても安心・安全が保てるよう万全の態勢を整えていますが、接種により何らかのリスクが生じる恐れのある方は最初から病院(個別接種)で対応しています。また、強い副反応が出た方にはその後の接種を勧めていません。  ワクチン接種の効果ですが、相馬市独自のデータではこれまでに約2600人(9月25日まで)の市民が感染し、そのうち中等症以上になられた方は21人(0・8%)で、99%以上の方は軽症です。感染確率は、ワクチンを適正回数接種した方が4・4%、適正回数接種していない、あるいは全く接種していない方が17・8%で約13㌽の差がありました。  これらの結果から、ワクチン接種の効果は確実にあると言えます。ただし、接種しても感染するブレイクスルー感染も見られるので『効果は絶対ではない』という点は認識しなければなりませんし、中にはさまざまな理由から接種しない・できない方もいるので、そうした意向も尊重しなければならないと思っています。  さらに課題になるのが、新型コロナは感染症法上の2類相当になるため、感染者や濃厚接触者の長期離脱が社会・経済に悪影響を及ぼしてしまうことです。今後、同法上の扱いをどうしていくのか、具体的には5類に引き下げられるのか国の動向を注視する必要があります」  ――年末に向けては第8波が懸念されていますが。  「相馬市では11月1日からオミクロン株対応ワクチンの集団接種を開始しており、医師は10月22日に全員接種済みです。接種間隔をめぐっては3カ月あけるのか、5カ月あけるのかという議論がありましたが、私は全国市長会長として『3カ月で接種させてほしい。そうでなければ第8波に間に合わない』と政府に申し入れ、10月21日に了承が得られた経緯があります。計画通り進めば12月20日には希望者の接種を終える予定です。  第7波は、感染者は多かったが重症者は少ないものでした。第8波がどのような特徴を示すか分かりませんが、事前の準備をしっかり整えておきたいと思います」  ――福島第一原発の敷地内に溜まる汚染水の海洋放出について、国、東電に求めることは。  「しっかりとしたエビデンスに基づき最終的な処理方法を国の責任で決めること、それによって漁業者等に被害が出ることがあればきちんと補償すること、この二つは一貫して申し上げてきました。実際に海洋放出した場合、どういう被害が出て、どこまで補償が必要かは現時点で分かりませんが、国と東電には被害者の声に耳を傾け、誠実な対応を強く求めたい」  ――観光振興への取り組みは。  「3月の地震で通行止めが続いていた市道大洲松川線が10月20日に通行再開しました。同線は海岸堤防上などを走る観光道路で、2020年10月にオープンした浜の駅松川浦、2022年10月に物産館がリニューアルされた道の駅そうま、さらに磯部加工施設の直売所を有機的に結び付ける役割を担っています。各施設とも評判は上々ですが、今後の課題はこれらの施設を訪れた方々をどうやって街中に誘導するかです。例えば相馬市では現在、相馬で水揚げされる天然トラフグを『福とら』の名でブランド化してPRに努めており、街中でトラフグ料理を味わってもらうのも一つのアイデアだと思います。また、新型コロナや地震の影響で旅館などが厳しい状況にあるので、市内に整備したサッカー場、ソフトボール場、パークゴルフ場などを生かした合宿の誘致も検討したいですね」  ――最後に抱負を。  「ダメージからの回復、これに尽きます。1日でも早く、市民が普通の生活に戻れるよう市長として尽力していきます」 相馬市ホームページ 政経東北【2022年12月号】