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セクハラ

  • 【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為

    【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為

     陸上自衛隊郡山駐屯地に所属していた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県東松島市出身=に服の上から下半身を押し付け性行為を想起させる「腰振り」をしたとして、強制わいせつ罪に問われた元男性隊員3人の公判は8月23日で3回目を迎えた。これまでに当時現場にいた現役隊員や元隊員ら4人が証言。自衛隊内の犯罪を取り締まる警務隊が「口裏合わせ」の時間を与えてしまった初動捜査の問題が浮かび上がった。 証人は自らの嘘に苦しむ 第3回公判を終えた後、取材に応じる五ノ井さん=8月23日、福島市  事件は2021年8月3日夜、北海道・陸自矢臼別演習場の宿泊部屋で起こった。検察側の主張では、郡山市に駐屯する東北方面特科連隊第1大隊第2中隊(約50人)の一部隊員十数人が飲み会を開き、居合わせた隊員の中では階級が上位だった40代のF1等陸曹(1曹)と30代のB2等陸曹(2曹)が格闘談義で盛り上がり、F1曹が「首を制する者は勝てる」と発言。相手の首をひねり、痛がったところで地面に押し付ける技「首ひねり」を五ノ井さん(1等陸士)に掛けるよう3等陸曹(3曹)の男性に指示。男性3曹は倒した五ノ井さんに腰を押し付ける行為をした。2人の男性3曹が順に同様の行為をした。五ノ井さんはその部屋で唯一の女性だった(階級は当時。匿名表記は五ノ井里奈著、岩下明日香構成『声をあげて』2023年、小学館に準じた)。  今回、強制わいせつ罪に問われているのは、いずれも郡山市在住で現在は会社員の渋谷修太郎被告(30)=山形県米沢市出身、関根亮斗被告(29)=須賀川市出身、木目沢佑輔被告(29)=郡山市出身。防衛省はこの3人のわいせつ行為を認定。F1曹が首ひねりを指示したこと、B2曹が別の機会に五ノ井さんにわいせつ行為をしたことも認め、昨年12月に5人を懲戒免職した。3被告とB2曹は懲戒免職前の同10月に、「軽率な行動」を詫びる謝罪文をしたため、五ノ井さんに直接謝罪していた。だが3被告は、裁判では一転「わいせつ目的ではなく笑いを取るため」「下半身の接触はなかった」などと否認している。  物的証拠はない。そのため、検察側は現場にいた4人を証人にした。  1人目の証人は懲戒免職されたB氏。2021年に行われた警務隊の取り調べ前、部下に当たる3被告から「自分たちはやってないんで、やってないって言います」と言われ、「じゃあ俺も見てないってする」と口裏を合わせた。  五ノ井さんが被害を実名告発後、取り調べが頻繁に行われるようになり、2022年9月か10月に渋谷被告から「Bさんだめです。もう話します」と言われ、次の日に「真実を伝えました」と打ち明けられたという。B氏は「なんで俺は嘘を付いているんだろう」とさいなまれ「見てない」という当初の証言を覆した。  B氏は法廷で渋谷、関根両被告が五ノ井さんに性行為を思わせる「腰振り」をしていたと証言。B氏は笑いながらも「やり過ぎだ」とたしなめたという。  2人目の証人X隊員は当時、渋谷被告の同期。関根、木目沢両被告の後輩に当たる。渋谷被告と木目沢被告らしき風貌の人物が五ノ井さんに腕立て伏せをするような体勢で覆い被さったのを見たと証言した。技を掛ける前には、渋谷、木目沢両被告ら男性隊員複数人が必要以上に五ノ井さんに接近して囲み、「キャバクラのような雰囲気」でプライバシーに関わる内容を聞いていたという。  3人目の証人Y氏は、県外の自衛隊地方協力本部に勤務。3被告の先輩だった。自分が寝るベッドを背に酒を飲んでいた。音がして振り向いたところ、渋谷被告が五ノ井さんをベッドに押し倒したような状況を目撃したと証言した。次に振り向いた時は、木目沢被告と五ノ井さんが同様の状況にあった。  最後の証人Z隊員は、郡山駐屯地に勤務。当時は、3被告の後輩に当たる。苗字と訛りから県内ゆかりの人物のようだ。被告たちの前に衝立を置いて証言台に立った。  部屋では当初13人で宴会を行い、渋谷、関根両被告は後から来たと証言。渋谷被告と一緒にF1曹に乾杯をしに近づき、「首を制する者は勝てる」発言を聞いた。F1曹かB2曹の指示で渋谷被告が五ノ井さんに首ひねりを掛けてベッドに倒し、お笑い芸人レイザーラモンHGのような「ウェーイ」という声を発し、複数回腰を振るのを目にした。着衣越しに陰部が五ノ井さんに当たっているように見えた。関根被告も同様の行為をしたという(レイザーラモンHGを真似た言動をしたかは不明)。周囲は笑っていた。  被告や証人たちは再捜査後、警務隊や検察からの度重なる取り調べに相当参っていたようだ。弁護側は、被告や証人の証言が自発的なものかを確かめるため、聴取を受けた回数や頻度、事件直後に警務隊が聞き取った内容との食い違いを指摘した。  そもそも、初動捜査で隊員たちに「口裏合わせ」をする時間を与えてしまった警務隊に不作為があったのではないか。警務隊が捜査に消極的だったことも、五ノ井さんの著書からうかがえる。  五ノ井さんは事件から約1カ月後の2021年9月に警務隊の聞き取り調査に応じ、捜査員から「警察と違って、警務隊には逮捕する権限がないんだ」と言われた(前掲書94ページより)。だが、これは虚偽。自衛隊法96条に、警務隊は「刑事訴訟法の規定による司法警察職員として職務を行う」とあり、自衛隊内の犯罪については容疑者を逮捕・送検する権限を持つ。  五ノ井さんの著書には、捜査への本気度が薄いと感じる描写もある。この捜査員に付いてきた書記官は居眠りし、何度も手に持っているペンを落としたという。警務隊からは、訓練を理由にすぐには男性隊員たちを事情聴取できないと言われ、五ノ井さんは「人の記憶はどんどん薄れていってしまうというのに、どうして早急に対応してくれないのだろう」と書いている。 不祥事隠蔽の温床  月刊誌『選択』7月号「お粗末な『警務隊』の実態」は、そもそも捜査能力に疑問符を付けている。今年6月に岐阜県内の射撃場で発生した自衛隊員による銃撃事件では、自衛隊施設内での犯罪にもかかわらず、発生当初から警察が介入し、警務隊は「おまけのような扱い」(防衛省関係者)だったという。警務隊が「身内の不祥事を隠蔽する温床になっている」(警察関係者)との指摘もある。  今回の裁判は自衛隊関係者が傍聴し、熱心にメモを取っている。初動捜査を担当した東北方面の部隊を管轄する警務隊員かどうかは分からないが、「初めから抜かりなく捜査をしていれば、苦しむ人はもっと少なくて済んだのに」と筆者は思う。  第3回公判の閉廷後、五ノ井さんは報道陣の取材に応じ、証人について「最初の自衛隊内の調査で正直に話してもらいたかった」と述べた。「同じ中隊で一緒に仕事をしてきた先輩たち。上司、先輩だからこそ(被告たちに)注意してほしかった」とも話している。被告3人が否認していることについては「証言がしっかり出ている。嘘を付かずに認めてほしい」と訴えた。  嘘で苦しむのは他者だけではない。一番苦しむのは「嘘を付いている自分」と「本当のことを知っている自分」を内部に同居させ、それに引き裂かれる思いをしなければならない自分自身だ。  第4回公判は9月12日午後1時半から福島地裁で行われる予定。渋谷、関根両被告が証言台に立つ。 あわせて読みたい 【陸自郡山駐屯地】【強制わいせつ事件】明らかとなった加害者の素性 セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

  • 【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】明らかとなった加害者の素性

    【陸自郡山駐屯地】【強制わいせつ事件】明らかとなった加害者の素性

     陸上自衛隊郡山駐屯地(郡山市)に所属していた元陸上自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=がわいせつ被害をネットで実名公表してから1年が経った。服の上から下半身を押し付け、性行為を想起させる「腰振り」をしたとして、強制わいせつ罪で在宅起訴された元男性隊員3人の初公判が6月29日、福島地裁で開かれ、初めて加害者の名前が明かされた。マスコミのほか、傍聴席数を大きく上回る市民、自衛隊関係者が傍聴に押し寄せた。注目が集まったのは、「命を削ってでも闘う」と覚悟を決めた五ノ井さんと、わいせつと捉えられる行為を「笑いを取るために行った」と弁明する加害者たちとの埋め難い差だった。 「笑いを取るため」見苦しい弁明 福島地方裁判所  原稿執筆時(7月27日)は同31日に開かれる予定の第2回公判を傍聴しておらず、初公判(6月29日)を終えた時点での情報を書く。 強制わいせつ罪に問われているのは、いずれも自衛官を懲戒免職された、現在郡山市在住で会社員の渋谷修太郎被告(30)=山形県米沢市出身=、関根亮斗被告(29)=須賀川市出身=、木目沢佑輔被告(29)=郡山市出身=。 2021年8月3日夜に北海道・陸自矢臼別演習場の宿泊部屋の飲み会で、上司から指示を受けた被告3人が、それぞれ五ノ井さんに格闘技の「首ひねり」を掛けてベッドに押し倒した上、五ノ井さんに覆い被さって下半身を押し付けたかどうかが問われている。被告3人は技を掛けたことは認めたが、わいせつ目的の行為はしていないと一部否認している。 最初に技を掛けた渋谷被告は、裁判で「覆い被さっていない」「腰を振ったのは事実だが笑いを取るためで、下半身の接触はなかった」と主張。関根被告は押さえつけたこと、木目沢被告は覆い被さったことは認めたが「下半身は接触していない」と述べた。 「笑いを取るため」との主張は、一般の感覚を持ち合わせているなら苦し紛れに聞こえる。 渋谷被告は無罪を勝ち取った場合でも「飲み会中に女性に技を掛けて倒し、笑いのために腰を振った男」と言われ続けることを考えなかったのか。 渋谷被告は専門学校を卒業後、2013年に入隊。関根被告と木目沢被告は高校卒業後、2012年に入隊した。2020年に入隊した五ノ井さんにとっては7、8年先輩で、階級は事件当時3等陸曹だった。五ノ井さんは当時1等陸士で、3人よりも階級が下だった。今回の刑事事件では、五ノ井さん、被告3人双方が自衛隊内は絶対的な階級制度で上司の命令に逆らえなかった点を挙げている。 五ノ井さんによると、事件のあった部屋で被告3人に五ノ井さんへの首ひねりを命じたのはF1等陸曹(1曹)だった(五ノ井里奈著、岩下明日香構成『声をあげて』2023年、小学館。人名の匿名表記は同書に従う。階級は当時)。40代のF1曹は、ほかに男性隊員十数人がいたその部屋の中では階級が上位だった。 発端の言葉「首を制する者は勝てる」  柔道を指導していたF1曹は、30代のB2等陸曹(2曹)と格闘技の話で盛り上がり、「首を制する者は勝てる」と語っていた。F1曹は渋谷被告に柔道有段者である五ノ井さんを相手に「やってみろ」と言ったという。F1曹は渋谷被告にやり方をレクチャーした(検察側が読み上げた男性隊員の供述調書より)。 法廷で示された捜査段階の資料によると、部屋の広さは約6㍍×約6・8㍍。壁際にベッドが4台、短辺を中央に向けるように約0・8㍍の間隔で並んでいた。 渋谷被告の捜査段階での供述によると、「なぜ狭いところでやらなければ」と思ったという。室内が狭いので、ゆっくり首ひねりを行って五ノ井さんをベッドの上に倒した。渋谷被告は思った。「誰も反応してくれない」。性行為の疑似行為で笑いを取ろうと、腰を前後に振った。体の線を強調した黒い服装で「ウェーイ」と叫びながら腰を振る芸風で、2000年代半ばに一斉を風靡したお笑い芸人レイザーラモンHGを真似たという。人前で「ウェーイ」と叫び腰を振るのは初めてのことだった。狙い通り笑いが起きたという。 証人として出廷した五ノ井さんは、渋谷被告は腰を振る行為をする際に「あんあん」という喘ぎ声を出していたと話した。自分がされていることに頭が追いつかなかったという。大勢の男性隊員がいる中、「F1曹とB2曹が笑っていたのを覚えている」と証言した。 渋谷被告の捜査段階の供述と、五ノ井さんの法廷での証言は「笑いが起きた」という点で矛盾しない。被告側は「笑いを取るため」と強調することで、わいせつ行為に当たらないと主張したいのだろうが、「笑いを取るためにやった」ということは一般市民をドン引きさせることはあっても、責任を和らげる効果はないだろう。 市井の生活を送っている者の感覚で言えば、上官の指示とは言え、首ひねりを掛けた時点で暴行だ。訓練期間中ではあったが、飲み会の席であり、中隊の全員が参加していたわけではなかった。後から「格闘技の練習の意味合いがあった」と言い訳ができそうだが、そもそも酔った集団の中で、渋谷被告自身も「なぜ狭いところでやらなければ」と疑問に思った広さの場所で危険行為をするべきではない。裁判は、自衛隊が一般市民の感覚から大きくかけ離れていることを浮き彫りにした。 国(防衛省)は強制わいせつ罪に問われている被告たちが、F1曹の指示でくだんの行為を行い、それがセクハラに当たると認定している。五ノ井さんが被害を受けている様子を見て笑ったとされるB2曹については、別の場面で五ノ井さんにセクハラをしたと認定した。加害行為が認定された5人は昨年12月に懲戒免職された。 民事と刑事で一貫した主張 弁護士とともに福島地裁に入る五ノ井さん(左)  五ノ井さんは、懲戒免職された元隊員5人と国に対し、損害賠償を求めて横浜地裁に提訴している。加害者側の代理人が「個人責任を負うべきか疑問が残る」との見解を示したこと、加害行為をどう受け止め、どのように責任を取るか質問状を投げても回答しなかったことを、五ノ井さんは不誠実と捉え、示談では解決できないと思ったからだ(前掲書208~209ページより)。 渋谷、関根、木目沢被告は、この民事裁判でも暴行や性加害を否認。F1曹も同じく否認。B2曹は矢臼別演習場での事件を概ね認め、和解に応じる姿勢を示している。国は、性加害の事実について認めた上で、法的責任の有無などについて追って主張したいと「留保」。民事、刑事双方で被告側が一貫した主張をできるかどうかも重要な要素だ。 福島地裁によると、6月29日に開かれた渋谷、関根、木目沢被告の初公判には、47席の一般傍聴席に125枚の整理券を交付。競争倍率は約2・6倍だった(6月30日付福島民友より)。裁判が行われたのは平日の昼間である。マスコミのほか、自らが捜査した事件の行方を報告するために来た自衛隊の警務隊員など仕事で来た人がほとんどであったが、被告たちが所属していた駐屯地がある郡山市から来たという人や、大学生とみられる一団もいた。 五ノ井さんや被告3人を撮ろうと裁判所の敷地境界で待ち構えるマスコミ  本誌は記者クラブに加盟していないので、法廷内の記者席が割り当てられていない。社員8人で抽選に臨み、2人が傍聴券を得た。毎回傍聴できるとは限らないので、常に本気だ。 本来なら満席のはずだが、横を見ると、なぜか筆者の隣はずらりと3人分空いていた。傍聴を棄権した人がいることになる。裁判は公開されていると言っても新聞、テレビは知り得ても伝えないことが多いし、本誌も証言者の実名は民事裁判への影響を考慮し報じていない。どちらが本当のことを話しているのか。実社会では表情や声色などを参考にするが、事件は裁判所に赴かないと分からない。 第3回公判は8月23日午後1時半開廷の予定。どちらが本当のことを言っているのか、自分で判断するためにも傍聴を勧める。 声をあげてposted with ヨメレバ五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle あわせて読みたい 【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為 セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

  • セクハラの舞台となった陸自郡山

    セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

    (2022年10月号)  陸上自衛隊郡山駐屯地に所属時、複数の男性隊員から性被害を受けていた元自衛官の五ノ井里奈さん(22)が8月31日、第三者委員会による公正な調査を求める要望書と約10万人の署名簿を防衛省に提出した。マスコミが一斉に報じ、大きな注目を集めることに。自衛隊の女性差別・パワハラ体質にメスが入るか。 「市民感覚」が試される検察審査会  性被害の後に退職した五ノ井さんは、6月からネットを通じて被害を訴えていた。経緯は、本誌8月号「陸自郡山駐屯地で『集団セクハラ』 元自衛官の女性が決意の実名告発」で詳述している。 五ノ井さんは、自衛隊内の捜査権限を持つ警務隊に強制わいせつ事件として被害届を出した。男性隊員3人が書類送検され、検察庁は今年5月31日付で嫌疑不十分で不起訴にしていた。河北新報9月1日付によると、五ノ井さんは検察官から「首を押さえる行為に関する証言はあったが、わいせつの証言は得られなかった」と説明されたという。加害者は、暴行は認めたが、五ノ井さんが尊厳を奪われたと最も問題視している性被害については認めなかったということだ。 五ノ井さんは7月27日に都内で開いた記者会見で、「中隊内で隠ぺいや口裏合わせが行われていると、内部の隊員から聞いたので、ちゃんと第三者委員会を立ち上げ、公正な再調査をしてほしい」(『AERAdot.』7月27日配信)と組織を守るためにもみ消しが行われていることを指摘している。自浄作用は期待できない。 世論を受けてトップが動いた。9月6日には、浜田靖一防衛相が全自衛隊を対象とした「特別防衛監察」の実施を表明。担当する防衛監察本部は防衛相直属の機関で、独立した立場で調査・報告を行う。 郡山検察審査会は、検察が加害者3人を不起訴にしたことを審査員過半数の意見を得て「不当」と議決。議決書では、五ノ井さんの供述が唯一の証拠と指摘したうえで、不起訴の場合「被害者に泣き寝入りを強いる以上、被害者供述の信用性の判断をより慎重に行う必要がある」(福島民報9月10日付)とした。審査員11人は管内の有権者から選ばれる。県民の良識が少しでも反映される形。検察は再捜査し、起訴の可否を決める。不起訴の場合、審査会は強制的に起訴すべきかどうかを決めるが、決定には11人中8人以上の賛成が必要で、より市民感覚が試される。 五ノ井さんは宮城県東松島市出身。小学校4年生の時に東日本大震災を経験し、救援活動する女性自衛官に憧れた。中学では柔道で宮城県大会を制した実力者だ。泣き寝入りせず被害を実名告発したことからも心身ともに強靭で、自衛隊が理想とする人物だろう。それが組織に潰された。 女性差別とパワハラ体質は自衛隊全体の問題ではあるが、集団セクハラが常習化していた部隊を受け入れている県民の関心事は、「郡山駐屯地に固有の問題はなかったのか」ということだ。まずは、政府が早急に五ノ井さんの被害の救済を。真相解明は、刑事裁判という公開の場で行われるべきだ。 声をあげてposted with ヨメレバ五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle あわせて読みたい 生業訴訟を牽引した弁護士の「裏の顔」【馬奈木厳太郎】 【谷賢一】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】

  • 【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為

     陸上自衛隊郡山駐屯地に所属していた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県東松島市出身=に服の上から下半身を押し付け性行為を想起させる「腰振り」をしたとして、強制わいせつ罪に問われた元男性隊員3人の公判は8月23日で3回目を迎えた。これまでに当時現場にいた現役隊員や元隊員ら4人が証言。自衛隊内の犯罪を取り締まる警務隊が「口裏合わせ」の時間を与えてしまった初動捜査の問題が浮かび上がった。 証人は自らの嘘に苦しむ 第3回公判を終えた後、取材に応じる五ノ井さん=8月23日、福島市  事件は2021年8月3日夜、北海道・陸自矢臼別演習場の宿泊部屋で起こった。検察側の主張では、郡山市に駐屯する東北方面特科連隊第1大隊第2中隊(約50人)の一部隊員十数人が飲み会を開き、居合わせた隊員の中では階級が上位だった40代のF1等陸曹(1曹)と30代のB2等陸曹(2曹)が格闘談義で盛り上がり、F1曹が「首を制する者は勝てる」と発言。相手の首をひねり、痛がったところで地面に押し付ける技「首ひねり」を五ノ井さん(1等陸士)に掛けるよう3等陸曹(3曹)の男性に指示。男性3曹は倒した五ノ井さんに腰を押し付ける行為をした。2人の男性3曹が順に同様の行為をした。五ノ井さんはその部屋で唯一の女性だった(階級は当時。匿名表記は五ノ井里奈著、岩下明日香構成『声をあげて』2023年、小学館に準じた)。  今回、強制わいせつ罪に問われているのは、いずれも郡山市在住で現在は会社員の渋谷修太郎被告(30)=山形県米沢市出身、関根亮斗被告(29)=須賀川市出身、木目沢佑輔被告(29)=郡山市出身。防衛省はこの3人のわいせつ行為を認定。F1曹が首ひねりを指示したこと、B2曹が別の機会に五ノ井さんにわいせつ行為をしたことも認め、昨年12月に5人を懲戒免職した。3被告とB2曹は懲戒免職前の同10月に、「軽率な行動」を詫びる謝罪文をしたため、五ノ井さんに直接謝罪していた。だが3被告は、裁判では一転「わいせつ目的ではなく笑いを取るため」「下半身の接触はなかった」などと否認している。  物的証拠はない。そのため、検察側は現場にいた4人を証人にした。  1人目の証人は懲戒免職されたB氏。2021年に行われた警務隊の取り調べ前、部下に当たる3被告から「自分たちはやってないんで、やってないって言います」と言われ、「じゃあ俺も見てないってする」と口裏を合わせた。  五ノ井さんが被害を実名告発後、取り調べが頻繁に行われるようになり、2022年9月か10月に渋谷被告から「Bさんだめです。もう話します」と言われ、次の日に「真実を伝えました」と打ち明けられたという。B氏は「なんで俺は嘘を付いているんだろう」とさいなまれ「見てない」という当初の証言を覆した。  B氏は法廷で渋谷、関根両被告が五ノ井さんに性行為を思わせる「腰振り」をしていたと証言。B氏は笑いながらも「やり過ぎだ」とたしなめたという。  2人目の証人X隊員は当時、渋谷被告の同期。関根、木目沢両被告の後輩に当たる。渋谷被告と木目沢被告らしき風貌の人物が五ノ井さんに腕立て伏せをするような体勢で覆い被さったのを見たと証言した。技を掛ける前には、渋谷、木目沢両被告ら男性隊員複数人が必要以上に五ノ井さんに接近して囲み、「キャバクラのような雰囲気」でプライバシーに関わる内容を聞いていたという。  3人目の証人Y氏は、県外の自衛隊地方協力本部に勤務。3被告の先輩だった。自分が寝るベッドを背に酒を飲んでいた。音がして振り向いたところ、渋谷被告が五ノ井さんをベッドに押し倒したような状況を目撃したと証言した。次に振り向いた時は、木目沢被告と五ノ井さんが同様の状況にあった。  最後の証人Z隊員は、郡山駐屯地に勤務。当時は、3被告の後輩に当たる。苗字と訛りから県内ゆかりの人物のようだ。被告たちの前に衝立を置いて証言台に立った。  部屋では当初13人で宴会を行い、渋谷、関根両被告は後から来たと証言。渋谷被告と一緒にF1曹に乾杯をしに近づき、「首を制する者は勝てる」発言を聞いた。F1曹かB2曹の指示で渋谷被告が五ノ井さんに首ひねりを掛けてベッドに倒し、お笑い芸人レイザーラモンHGのような「ウェーイ」という声を発し、複数回腰を振るのを目にした。着衣越しに陰部が五ノ井さんに当たっているように見えた。関根被告も同様の行為をしたという(レイザーラモンHGを真似た言動をしたかは不明)。周囲は笑っていた。  被告や証人たちは再捜査後、警務隊や検察からの度重なる取り調べに相当参っていたようだ。弁護側は、被告や証人の証言が自発的なものかを確かめるため、聴取を受けた回数や頻度、事件直後に警務隊が聞き取った内容との食い違いを指摘した。  そもそも、初動捜査で隊員たちに「口裏合わせ」をする時間を与えてしまった警務隊に不作為があったのではないか。警務隊が捜査に消極的だったことも、五ノ井さんの著書からうかがえる。  五ノ井さんは事件から約1カ月後の2021年9月に警務隊の聞き取り調査に応じ、捜査員から「警察と違って、警務隊には逮捕する権限がないんだ」と言われた(前掲書94ページより)。だが、これは虚偽。自衛隊法96条に、警務隊は「刑事訴訟法の規定による司法警察職員として職務を行う」とあり、自衛隊内の犯罪については容疑者を逮捕・送検する権限を持つ。  五ノ井さんの著書には、捜査への本気度が薄いと感じる描写もある。この捜査員に付いてきた書記官は居眠りし、何度も手に持っているペンを落としたという。警務隊からは、訓練を理由にすぐには男性隊員たちを事情聴取できないと言われ、五ノ井さんは「人の記憶はどんどん薄れていってしまうというのに、どうして早急に対応してくれないのだろう」と書いている。 不祥事隠蔽の温床  月刊誌『選択』7月号「お粗末な『警務隊』の実態」は、そもそも捜査能力に疑問符を付けている。今年6月に岐阜県内の射撃場で発生した自衛隊員による銃撃事件では、自衛隊施設内での犯罪にもかかわらず、発生当初から警察が介入し、警務隊は「おまけのような扱い」(防衛省関係者)だったという。警務隊が「身内の不祥事を隠蔽する温床になっている」(警察関係者)との指摘もある。  今回の裁判は自衛隊関係者が傍聴し、熱心にメモを取っている。初動捜査を担当した東北方面の部隊を管轄する警務隊員かどうかは分からないが、「初めから抜かりなく捜査をしていれば、苦しむ人はもっと少なくて済んだのに」と筆者は思う。  第3回公判の閉廷後、五ノ井さんは報道陣の取材に応じ、証人について「最初の自衛隊内の調査で正直に話してもらいたかった」と述べた。「同じ中隊で一緒に仕事をしてきた先輩たち。上司、先輩だからこそ(被告たちに)注意してほしかった」とも話している。被告3人が否認していることについては「証言がしっかり出ている。嘘を付かずに認めてほしい」と訴えた。  嘘で苦しむのは他者だけではない。一番苦しむのは「嘘を付いている自分」と「本当のことを知っている自分」を内部に同居させ、それに引き裂かれる思いをしなければならない自分自身だ。  第4回公判は9月12日午後1時半から福島地裁で行われる予定。渋谷、関根両被告が証言台に立つ。 あわせて読みたい 【陸自郡山駐屯地】【強制わいせつ事件】明らかとなった加害者の素性 セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

  • 【陸自郡山駐屯地】【強制わいせつ事件】明らかとなった加害者の素性

     陸上自衛隊郡山駐屯地(郡山市)に所属していた元陸上自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=がわいせつ被害をネットで実名公表してから1年が経った。服の上から下半身を押し付け、性行為を想起させる「腰振り」をしたとして、強制わいせつ罪で在宅起訴された元男性隊員3人の初公判が6月29日、福島地裁で開かれ、初めて加害者の名前が明かされた。マスコミのほか、傍聴席数を大きく上回る市民、自衛隊関係者が傍聴に押し寄せた。注目が集まったのは、「命を削ってでも闘う」と覚悟を決めた五ノ井さんと、わいせつと捉えられる行為を「笑いを取るために行った」と弁明する加害者たちとの埋め難い差だった。 「笑いを取るため」見苦しい弁明 福島地方裁判所  原稿執筆時(7月27日)は同31日に開かれる予定の第2回公判を傍聴しておらず、初公判(6月29日)を終えた時点での情報を書く。 強制わいせつ罪に問われているのは、いずれも自衛官を懲戒免職された、現在郡山市在住で会社員の渋谷修太郎被告(30)=山形県米沢市出身=、関根亮斗被告(29)=須賀川市出身=、木目沢佑輔被告(29)=郡山市出身=。 2021年8月3日夜に北海道・陸自矢臼別演習場の宿泊部屋の飲み会で、上司から指示を受けた被告3人が、それぞれ五ノ井さんに格闘技の「首ひねり」を掛けてベッドに押し倒した上、五ノ井さんに覆い被さって下半身を押し付けたかどうかが問われている。被告3人は技を掛けたことは認めたが、わいせつ目的の行為はしていないと一部否認している。 最初に技を掛けた渋谷被告は、裁判で「覆い被さっていない」「腰を振ったのは事実だが笑いを取るためで、下半身の接触はなかった」と主張。関根被告は押さえつけたこと、木目沢被告は覆い被さったことは認めたが「下半身は接触していない」と述べた。 「笑いを取るため」との主張は、一般の感覚を持ち合わせているなら苦し紛れに聞こえる。 渋谷被告は無罪を勝ち取った場合でも「飲み会中に女性に技を掛けて倒し、笑いのために腰を振った男」と言われ続けることを考えなかったのか。 渋谷被告は専門学校を卒業後、2013年に入隊。関根被告と木目沢被告は高校卒業後、2012年に入隊した。2020年に入隊した五ノ井さんにとっては7、8年先輩で、階級は事件当時3等陸曹だった。五ノ井さんは当時1等陸士で、3人よりも階級が下だった。今回の刑事事件では、五ノ井さん、被告3人双方が自衛隊内は絶対的な階級制度で上司の命令に逆らえなかった点を挙げている。 五ノ井さんによると、事件のあった部屋で被告3人に五ノ井さんへの首ひねりを命じたのはF1等陸曹(1曹)だった(五ノ井里奈著、岩下明日香構成『声をあげて』2023年、小学館。人名の匿名表記は同書に従う。階級は当時)。40代のF1曹は、ほかに男性隊員十数人がいたその部屋の中では階級が上位だった。 発端の言葉「首を制する者は勝てる」  柔道を指導していたF1曹は、30代のB2等陸曹(2曹)と格闘技の話で盛り上がり、「首を制する者は勝てる」と語っていた。F1曹は渋谷被告に柔道有段者である五ノ井さんを相手に「やってみろ」と言ったという。F1曹は渋谷被告にやり方をレクチャーした(検察側が読み上げた男性隊員の供述調書より)。 法廷で示された捜査段階の資料によると、部屋の広さは約6㍍×約6・8㍍。壁際にベッドが4台、短辺を中央に向けるように約0・8㍍の間隔で並んでいた。 渋谷被告の捜査段階での供述によると、「なぜ狭いところでやらなければ」と思ったという。室内が狭いので、ゆっくり首ひねりを行って五ノ井さんをベッドの上に倒した。渋谷被告は思った。「誰も反応してくれない」。性行為の疑似行為で笑いを取ろうと、腰を前後に振った。体の線を強調した黒い服装で「ウェーイ」と叫びながら腰を振る芸風で、2000年代半ばに一斉を風靡したお笑い芸人レイザーラモンHGを真似たという。人前で「ウェーイ」と叫び腰を振るのは初めてのことだった。狙い通り笑いが起きたという。 証人として出廷した五ノ井さんは、渋谷被告は腰を振る行為をする際に「あんあん」という喘ぎ声を出していたと話した。自分がされていることに頭が追いつかなかったという。大勢の男性隊員がいる中、「F1曹とB2曹が笑っていたのを覚えている」と証言した。 渋谷被告の捜査段階の供述と、五ノ井さんの法廷での証言は「笑いが起きた」という点で矛盾しない。被告側は「笑いを取るため」と強調することで、わいせつ行為に当たらないと主張したいのだろうが、「笑いを取るためにやった」ということは一般市民をドン引きさせることはあっても、責任を和らげる効果はないだろう。 市井の生活を送っている者の感覚で言えば、上官の指示とは言え、首ひねりを掛けた時点で暴行だ。訓練期間中ではあったが、飲み会の席であり、中隊の全員が参加していたわけではなかった。後から「格闘技の練習の意味合いがあった」と言い訳ができそうだが、そもそも酔った集団の中で、渋谷被告自身も「なぜ狭いところでやらなければ」と疑問に思った広さの場所で危険行為をするべきではない。裁判は、自衛隊が一般市民の感覚から大きくかけ離れていることを浮き彫りにした。 国(防衛省)は強制わいせつ罪に問われている被告たちが、F1曹の指示でくだんの行為を行い、それがセクハラに当たると認定している。五ノ井さんが被害を受けている様子を見て笑ったとされるB2曹については、別の場面で五ノ井さんにセクハラをしたと認定した。加害行為が認定された5人は昨年12月に懲戒免職された。 民事と刑事で一貫した主張 弁護士とともに福島地裁に入る五ノ井さん(左)  五ノ井さんは、懲戒免職された元隊員5人と国に対し、損害賠償を求めて横浜地裁に提訴している。加害者側の代理人が「個人責任を負うべきか疑問が残る」との見解を示したこと、加害行為をどう受け止め、どのように責任を取るか質問状を投げても回答しなかったことを、五ノ井さんは不誠実と捉え、示談では解決できないと思ったからだ(前掲書208~209ページより)。 渋谷、関根、木目沢被告は、この民事裁判でも暴行や性加害を否認。F1曹も同じく否認。B2曹は矢臼別演習場での事件を概ね認め、和解に応じる姿勢を示している。国は、性加害の事実について認めた上で、法的責任の有無などについて追って主張したいと「留保」。民事、刑事双方で被告側が一貫した主張をできるかどうかも重要な要素だ。 福島地裁によると、6月29日に開かれた渋谷、関根、木目沢被告の初公判には、47席の一般傍聴席に125枚の整理券を交付。競争倍率は約2・6倍だった(6月30日付福島民友より)。裁判が行われたのは平日の昼間である。マスコミのほか、自らが捜査した事件の行方を報告するために来た自衛隊の警務隊員など仕事で来た人がほとんどであったが、被告たちが所属していた駐屯地がある郡山市から来たという人や、大学生とみられる一団もいた。 五ノ井さんや被告3人を撮ろうと裁判所の敷地境界で待ち構えるマスコミ  本誌は記者クラブに加盟していないので、法廷内の記者席が割り当てられていない。社員8人で抽選に臨み、2人が傍聴券を得た。毎回傍聴できるとは限らないので、常に本気だ。 本来なら満席のはずだが、横を見ると、なぜか筆者の隣はずらりと3人分空いていた。傍聴を棄権した人がいることになる。裁判は公開されていると言っても新聞、テレビは知り得ても伝えないことが多いし、本誌も証言者の実名は民事裁判への影響を考慮し報じていない。どちらが本当のことを話しているのか。実社会では表情や声色などを参考にするが、事件は裁判所に赴かないと分からない。 第3回公判は8月23日午後1時半開廷の予定。どちらが本当のことを言っているのか、自分で判断するためにも傍聴を勧める。 声をあげてposted with ヨメレバ五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle あわせて読みたい 【陸自郡山駐屯地強制わいせつ事件】「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為 セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

  • セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

    (2022年10月号)  陸上自衛隊郡山駐屯地に所属時、複数の男性隊員から性被害を受けていた元自衛官の五ノ井里奈さん(22)が8月31日、第三者委員会による公正な調査を求める要望書と約10万人の署名簿を防衛省に提出した。マスコミが一斉に報じ、大きな注目を集めることに。自衛隊の女性差別・パワハラ体質にメスが入るか。 「市民感覚」が試される検察審査会  性被害の後に退職した五ノ井さんは、6月からネットを通じて被害を訴えていた。経緯は、本誌8月号「陸自郡山駐屯地で『集団セクハラ』 元自衛官の女性が決意の実名告発」で詳述している。 五ノ井さんは、自衛隊内の捜査権限を持つ警務隊に強制わいせつ事件として被害届を出した。男性隊員3人が書類送検され、検察庁は今年5月31日付で嫌疑不十分で不起訴にしていた。河北新報9月1日付によると、五ノ井さんは検察官から「首を押さえる行為に関する証言はあったが、わいせつの証言は得られなかった」と説明されたという。加害者は、暴行は認めたが、五ノ井さんが尊厳を奪われたと最も問題視している性被害については認めなかったということだ。 五ノ井さんは7月27日に都内で開いた記者会見で、「中隊内で隠ぺいや口裏合わせが行われていると、内部の隊員から聞いたので、ちゃんと第三者委員会を立ち上げ、公正な再調査をしてほしい」(『AERAdot.』7月27日配信)と組織を守るためにもみ消しが行われていることを指摘している。自浄作用は期待できない。 世論を受けてトップが動いた。9月6日には、浜田靖一防衛相が全自衛隊を対象とした「特別防衛監察」の実施を表明。担当する防衛監察本部は防衛相直属の機関で、独立した立場で調査・報告を行う。 郡山検察審査会は、検察が加害者3人を不起訴にしたことを審査員過半数の意見を得て「不当」と議決。議決書では、五ノ井さんの供述が唯一の証拠と指摘したうえで、不起訴の場合「被害者に泣き寝入りを強いる以上、被害者供述の信用性の判断をより慎重に行う必要がある」(福島民報9月10日付)とした。審査員11人は管内の有権者から選ばれる。県民の良識が少しでも反映される形。検察は再捜査し、起訴の可否を決める。不起訴の場合、審査会は強制的に起訴すべきかどうかを決めるが、決定には11人中8人以上の賛成が必要で、より市民感覚が試される。 五ノ井さんは宮城県東松島市出身。小学校4年生の時に東日本大震災を経験し、救援活動する女性自衛官に憧れた。中学では柔道で宮城県大会を制した実力者だ。泣き寝入りせず被害を実名告発したことからも心身ともに強靭で、自衛隊が理想とする人物だろう。それが組織に潰された。 女性差別とパワハラ体質は自衛隊全体の問題ではあるが、集団セクハラが常習化していた部隊を受け入れている県民の関心事は、「郡山駐屯地に固有の問題はなかったのか」ということだ。まずは、政府が早急に五ノ井さんの被害の救済を。真相解明は、刑事裁判という公開の場で行われるべきだ。 声をあげてposted with ヨメレバ五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle あわせて読みたい 生業訴訟を牽引した弁護士の「裏の顔」【馬奈木厳太郎】 【谷賢一】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】