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  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

    【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

    【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

    【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

     5月号で南相馬市の医療・介護業界を振り回すブローカー・吉田豊氏についてリポートしたところ、同氏が運営に携わった施設の元スタッフや同氏をよく知る人物から「被害者が何人もいる」と情報提供があった。公的機関は被害者救済に及び腰だ。 被害報告多数も公的機関は及び腰 桜並木クリニック  吉田豊氏は青森県出身。今年4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。衆院議員などの秘書を務め、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。医師を招いてクリニックを開設、その一部を母体として医療法人グループを立ち上げ、吉田氏が実質的なオーナーを務めていた。  その後、青森県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。当時の報道によると、有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、さまざまな企業に医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、いずれもずさんな計画で、集まった医師・スタッフは賃金未払いにより次々と退職。施設運営は行き詰まり、協力した企業が損失を押し付けられている状況だ。 現時点で分かっているトラブルは以下のようなもの。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続いた結果、契約解除となり、建物から退去させられた。現在は地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  〇スタッフを集めるため、ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜いた。だが、賃金未払いとブラックな職場環境に耐えかねて、相次いで退職していった。 〇その後、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」、「桜並木クリニック」を地元企業の支援で立ち上げたが、こちらも退職者が後を絶たない。 〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、それを担保に支援者から融資を受け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)建設計画を進めた。また、市内企業に話を持ち掛けて、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 5月号記事では、事実確認のため複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じてもらえなかった。そのため、関係者の意向を踏まえて具体的な企業名・施設名を伏せて報じた。南相馬市の医療・介護業界では「関わってはいけないヒト」と言われている。 だが、藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所に出入りしており、紳士的かつ気さくで話もうまいので、「初対面だと社会的地位が高い人に見えてしまう」(吉田氏の言動を間近で見て来た人物)。 ちなみに5月号発売後、東京・永田町にある議員会館の藤丸衆院議員の事務所に確認したところ、女性スタッフが次のように説明した。 「吉田豊さんには毎回パーティー券を買っていただいていますが、今年3月のパーティーには来ていただけませんでした。事務所に連絡をいただけるのはほとんどが福岡の支持者ですが、吉田さんは東北の訛りで話してくるので強く印象に残っているし、『(藤丸衆院議員と)どういう接点があるのだろう』と不思議に思っていました。カレンダーを送ってほしいと頼まれ、その送付先が福島県のクリニックだったので、医療関係者だと思っていました」 藤丸衆院議員と個人的に親しい間柄であれば、当然スタッフもそのことを共有しているはず。それほど深い関係ではないと見るべきだろう。 吉田氏は「(藤丸衆院議員が秘書を務めていた)古賀誠元衆院議員とも親交がある」と話していたとも聞いたので、古賀氏の事務所に確認したが、秘書は「申し訳ないですが全く聞いたことがありません」と回答した。細いつながりを大きくして吹聴していた可能性が高い。 本人の反論も聞きたいと思い、裁判所で閲覧した訴状の住所宛てに配達証明で質問書を送付したが、不在続きのため地元郵便局で保管され、そのまま返って来た。 不確定な部分が多かったが、新たな〝被害者〟を出さないようにと記事にしたところ、5月号発売後、吉田氏のことを知る業界関係者や元スタッフから相次いで連絡があり、トラブルの詳細と吉田氏の人物像が見えてきた。 職員への賃金未払いが横行 相馬労働基準監督署  新たに分かったのは、賃金未払いとなったスタッフが相当数いること。というのも、吉田氏に直接支払いを要望してものらりくらりと逃げられ、相馬労働基準監督署も親身に相談に乗ってくれないからだ。 「過去には立ち入り調査が入って、是正勧告が出された事例もあったが、しょせんは罰則などがない〝行政指導〟。その場だけ取り繕ってごまかされてしまいました。また、退職した人が相談しても『さかのぼって支払いを要求するのは難しい』とされて積極的に動いてもらえませんでした」(ある元スタッフ) 現時点で吉田氏が運営に携わっている施設は前出の「憩いの森」、「桜並木クリニック」の2施設と、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」。榎本氏は同クリニックにも頻繁に出入りしている吉田氏の〝参謀〟的存在で、吉田氏は現在、この薬局の2階で生活している。 憩いの森  吉田氏関連の会社はこれまで確認されているだけで4社ある。いずれも南相馬市本社。法人登記簿によると、概要は以下の通り。 ①ライフサポート 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2020年12月25日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ 事業目的=訪問介護、訪問看護、高齢者向け賃貸住宅など ②スマイルホーム 原町区本陣前二丁目22―3 設立=2021年2月19日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司 事業目的=賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供など ③フォレストフーズ 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月25日 資本金=100万円 代表取締役=馬場伸次 事業目的=不動産の企画・運営・管理、フランチャイズビジネスの企画・管理、自動車での送迎・配達サービス、人材派遣サービスなど ④ヴェール 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月6日 資本金=100万円 代表取締役=佐藤寿司 事業目的=不動産の賃貸借・仲介、ビル・共同住宅・寮の経営、公園・観光施設などの管理運営、総合リース業、日用雑貨・介護用品販売など 4社のうち2社の代表取締役を務める浜野氏は吉田氏のパートナー的存在とされる女性。二丁目53―7は「憩いの森」の住所、二丁目22―3は同施設近くの土地の一角に建てられたユニットハウス。 吉田氏を直撃 吉田豊氏  こうして見ると吉田氏本人の名前は見当たらないが、これこそが吉田氏の得意とする手口だという。 「吉田氏は代表者など表に名前が出る所に出たがらず、スタッフに経営責任者を任せて裏で指示を出す。これだと書類上の経営責任者はスタッフになり、公的機関が指揮系統やお金の流れを把握しづらくなります。実際、ここに名前が挙がっている代表取締役にも、賃金未払いを訴えて退職した職員が含まれています」(前出・元スタッフ) もっとも、複数の関係者の話を統合すると、書類上で名前を出していなくても決定権を持っているのは吉田氏であり、実際、スタッフからは「オーナー」と呼ばれている。 前出・南相馬ホームクリニックが運営していたころは、敷地内に設けられた小さなユニットハウスが「事務所」となっており、職員は退勤時に必ず顔を出してあいさつする決まりとなっていた。 そこでは毎日17時ぐらいから酒盛りが始まる。吉田氏は素性がよく分からない飲み仲間を呼び寄せ、お気に入りの正職員が顔を出すと、一緒に酒を飲むように勧めた。患者がいようがおかまいなしで、酔った状態で待合室に顔を出し、ソファーに横になることもあった。翌朝、ビールの空き缶や総菜のごみを片付けるのは職員の仕事。オーナーでなければ、こんな振る舞いは許されまい。 ちなみに、南相馬ホームクリニック閉院後、吉田氏の居場所だったユニットハウスはスマイルホームの〝社屋〟として再利用されている。 何より驚いたのは、吉田氏に数百万円単位の金を貸している元スタッフが何人もいるという事実だ。 一例を挙げると、関連会社を統合した組合組織を立ち上げ、理事に就いたスタッフに対し、「出資金が不足している」、「役員に就かせたのだから個人的に協力してくれないか」などの理屈を付けてそれぞれ数百万円の金を出させたという。借用書は残っており、それぞれ返済を求めているが、吉田氏は応じていない。 客観的に見ると吉田氏が信用に値する人物とは到底思えないが「役員として、できる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる。組合組織を立ち上げることになったのも補助金目当てだったとみられ、現在組合として活動している気配は見えない。 同市内で医療・介護業界に従事し、元スタッフとも交流がある人物は吉田氏の性格をこう述べる。 「新しく入ってくる人には手厚い待遇で迎えるが、吉田氏に意見を述べる人や内情を詳しく知った古株は徹底的に冷遇する。職員間対立も煽るようになり、ついには賃金未払いが発生し、支払いを求めると逆ギレされる。そこで初めてどういう人物だったかを思い知らされるのです」 こうした声を当の吉田氏はどのように受け止めるのか。5月下旬、オレンジファーマシーから路上に出て来た吉田氏を直撃した。 ――医療・介護施設をめぐるトラブルが多く、当初の約束通りに金を支払ってもらっていない企業などもあるようだが。 「そういうところはない」 ――南相馬ホームクリニックでは未払い分の賃貸料の支払いを求める裁判を地元企業から起こされている。 「先方がクリニックをやりたいということで、私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方。そもそも係争中なのでそういう部分だけで誤解して書かないでほしい」 ――係争中と言うが、地裁相馬支部で確認したところ、訴状に対する答弁書は見当たらなかった。 「契約している東京のサダヒロという弁護士が対応している」 ――弁護士の連絡先は。 「あることないこと言われているので、いまさら私の方から答えることは何もない」 ――個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる。 「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 ――賃金未払いを訴える声が多い。実質的なオーナーとして責任を取るべきではないか。 「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」 吉田氏はあくまで「自分は被害者」というスタンスを貫き、賃金未払いに関しても「助言している立場に過ぎないので、各施設の責任者に話してほしい」と述べた。しかし前述の通り、実質的なオーナーであることは間違いない。呆れた言い逃れであり、責任を持って賃金未払いや借入金返済に対応する必要がある。 なお、南相馬ホームクリニックの裁判は、東京の弁護士に任せているとの回答だったが、福島地裁相馬支部にあらためて確認したところ、「吉田豊氏を原告とした裁判の訴状は確認できない」とのことだった。 「ここは本当に法治国家なのか」 オレンジファーマシー  結局、本誌の直撃取材を受けた吉田氏は「この後用事があるので」と言って、桜並木クリニックの中に入っていった。本誌5月号では桜並木クリニックを訪問したときの様子を、名前を伏せてこう紹介している。 《中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初からかかわっているが、ちょっと分からない」と話した》 このとき、対応したのは「エノモト」と名乗る男性。後から確認したところ、オレンジファーマシーの管理薬剤師を務める榎本雄一氏だった。吉田氏の親戚に当たる人物が平然とうそを付いていたことになる。外部にすらこういう対応なのだから、スタッフへの対応は推して知るべし。 これ以外にも、本誌には▼同クリニックは医師会に入っていない、▼同クリニックの診察時間はその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている、▼スタッフが定着せず、パート・アルバイトで対応している、▼過去には青森県の人物から借金返済を求める電話が毎日のように来ていた、▼業者に対しても代金未払いが発生している、▼同市石神地区で何か始めようとしている――などの情報が寄せられた。 県相双保健福祉事務所、労働基準監督署などの公的機関には、これらの情報を伝えたが、いずれも反応は鈍く、他人事に捉えているように感じられた。 元スタッフの一人は「賃金未払いや借金踏み倒しで泣き寝入りしている人が多いのに、どの公的機関も見て見ぬふり。市議などに相談したが大きな動きにはつながらなかった。ここは本当に法治国家なのか、と疑いたくなりますよ」と嘆いた。 こうした実態は広く知られるべきであり、企業経営者、医療・介護従事者は被害に遭わないように吉田氏の動向を注視しながら、それぞれが〝自衛〟していく必要がある。 政経東北【2023年7月号】で【第3弾】『吉田豊』南相馬市ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆きを詳報します! 政経東北【2023年7月号】 あわせて読みたい 【第1弾】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家【吉田豊】

  • 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家

     南相馬市の医療・福祉業界関係者から「関わってはいけないヒト」と称される人物がいる。さまざまな企業に医療・福祉施設の計画を持ち掛け、ことごとく頓挫。集めた医師・スタッフは給与未払いに耐え切れず退職、協力した企業は損失を押し付けられ、至る所でトラブルになっている。被害に遭った人たちは口を閉ざすばかり。一体どんな人物なのか。 施設計画持ちかけ複数企業が損失 吉田氏の逮捕を報じる新聞記事(デーリー東北2007年4月28日付)  「吉田豊氏について『政経東北』を含めどのマスコミも触れないけど、何か理由があるのかい?」。4月上旬、南相馬市内の経済人からこんな話を持ち掛けられた。 南相馬市内で医療・福祉施設建設計画を持ち掛け、支援を募っては計画が頓挫し、複数の企業が損失を被っているというのだ。吉田氏は青森県出身の元政治家で、数年前から南相馬市内で暮らしているという。 事実確認のため複数の関係者に接触したが、結論から言うと、誰も口を開こうとしなかった。「現在係争中なのでコメントは控えたい」、「ほかに影響が及ぶのを避けたい」、「もう関わり合いたくない」というのが理由だった。 せめて一言だけでもと食い下がると、「とにかく裏切られたという思い」、「業界内では『関わってはいけないヒト』と評判だ」という答えが並んだ。誌面では書けない言葉で吉田氏を罵倒した人もいる。 ある人物は匿名を条件に次のように語った。 「医療・福祉の充実という理念を掲げ、補助金がもらえそうな事業計画を企業に持ち掛け出資させる。ただ、ブローカー的な役割に終始し、その後の運営は二の次になるのでトラブルになる。表舞台には決して立とうとせず、ほかの人物や企業を前面に立たせる。だから、結局、何かあっても吉田氏が責任を取ることはない」 関係者の意向を踏まえ、本稿では具体的な企業名・施設名などを伏せるが、市内の事情通の話や裁判資料などの情報を統合すると、吉田氏をめぐり少なくとも以下のようなトラブルが発生していた。 〇市内にクリニックを開設する計画を立て、賃貸料を支払う契約で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続き契約解除となり、現在は未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関や介護施設から医師・職員を高額給与で引き抜いたが、賃金未払いが続き、加えてブラックな職場環境だったため、相次いで退職。施設が運営できなくなり、休業している。 〇市内企業を巻き込んで、数十億円規模のサービス付き高齢者向け住宅建設計画やバイオマス焼却施設計画なども進めようとしていたが、いずれも実現していない。 吉田氏が一方的に嫌われ悪く言われている可能性もゼロではないが、話を聞いたすべての人が良く言わず、企業が泣き寝入りしている様子もうかがえた。吉田氏は現在公人ではないが、こうした事実を踏まえ、誌面で取り上げるのは公益性・公共性が高いと判断した。 吉田氏とはどういう人物なのか。過去の新聞記事などを遡って調べたところ、青森県上北町(現東北町)出身で、同町議を2期務めていた。 《八戸市内の私立高校(※編集部注・現在の八戸学院光星高校)を卒業後、県選出の代議士や県議らの下で政治を学び、1991年の町議選に32歳で初当選した。医療と福祉の充実を掲げ、医師を招いて自宅近くに内科・歯科医院を開業するなど精力的だった》(デーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏が個人で運営していた「あさひクリニック」の一部を母体に「医療法人秀豊会」が立ち上げられ、有床診療所を運営しているほか、関係会社が高齢者・障害者向け住宅賃貸サービス、在宅介護、訪問診療を行っている(現在は医療法人瑞翔会に名称変更している)。吉田氏は登記簿上は役員から外れていたが、実質的なオーナーだったという。 1999年4月、上北町議2期目途中、青森県議選・上北郡選挙区に推薦なしの無所属で立候補したが、6候補者中6番目の得票数(9545票)で落選した。その後、有権者に現金5万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼、さらに60人以上の有権者に計142万円を配って買収工作を行ったとして、公職選挙法違反(現金買収)の疑いで逮捕された。 《今年1月ごろから「吉田陣営は派手に買収に動いているようだ」とのうわさが一部に広がり出していた。「福祉に対する熱意が感じられる」として3月上旬まで同容疑者の応援を続けていた県内のある大学教授が、「金にまつわるうわさを聞いて失望した」と、告示の約3週間前に同陣営とのかかわりを断ち切るというトラブルもあった》 《(※編集部注・吉田氏が実質オーナーだった医療法人グループについて)最近では、老人保健施設や特別養護老人ホーム建設の計画を声高にうたっていた。しかし、老健施設の建設予定地の農地転用の手続きに絡み、町農業委員会の転用許可が下りる前に予定地の一部を更地にして厳重注意を受けるなど、周囲からは吉田容疑者ら経営幹部たちの強引な手法を指摘する声も上がっていた》(いずれもデーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏は懲役2年6月、執行猶予5年の有罪判決を受け、「今後は選挙にかかわらない」と誓っていた。ところが、5年間の公民権停止期間が明けると2007年4月の県議選に再び立候補。結果は、7候補者中6番目の得票数(4922票)で落選した。 立候補表明時には「住民が安心して暮らせる地域づくりを目指し、地元の医療環境を整備したい」と訴え、「派手な選挙は行わない。地道に政策を訴えたい」と話していた吉田氏。だが選挙後、3人の運動員に計76万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼していたとして、再び公職選挙法違反の疑いで逮捕された。 《「8年前は大変ご迷惑をお掛けしました」―選挙運動中、マイクを握った吉田容疑者はこの言葉から口を開き、自身を含む計6人が公選法違反で逮捕された前々回の県議選と同じ轍は踏まない―との意気込みを見せていた。しかし自身の逮捕により、今回の逮捕者は計8人と前々回を上回る結果となった》(デーリー東北2007年4月28日付) 呆れた過去に驚かされるが、吉田氏自身は2度の前科を特に隠してはいないようで、周囲に話すネタにしているフシさえあるという。 官僚・政治家人脈を強調  吉田氏の言動を間近で見てきたという人物は「どう見ても怪しいが、外見は紳士的で、初対面だと社会的地位の高い人に見えてしまう。見抜くのは難しい」と語る。 「藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区、自民党)の事務所に出入りしており、私も一度案内されたことがあった。話している感じも違和感はなく、過去を知らなければすっかり信用してしまうと思う」 藤丸氏は古賀誠元衆院議員の秘書を務めていた。そのため、「秘書時代のつながりではないか」と指摘する声もある。しかし、「〇〇議員の秘書とはしょっちゅう連絡を取っている」と至るところで吹聴しているようなので、真偽は分からない。 中央官僚ともパイプを持っていると盛んにアピールしているようだが、浜通りの政治家によると、「『誰と会っているのか教えてくれたら私からも話をする』と知り合いの官僚の名前を出したら、急にしどろもどろになって話をはぐらかした」のだとか。別の経済人からも同様の声が聞かれた。市町村長クラスと会える場所にはよく顔を出すという話もある。 複数の関係者によると、吉田氏はトラブル後も同市内で暮らし続けているが、具体的な居場所は分からないようで、「住所を特定されないように宿泊施設を転々としている」、「プレハブ小屋を事務所代わりにしている」「建設に関わった同市原町区のクリニックを拠点としている」などと囁かれている。 名前の挙がったクリニックを訪ねたところ、扉に「休業中」の札がかかっていたが、電気は付いており、中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初から関わっているが、ちょっと分からない」と話した。休業の理由については「医師が退職し、現在募っているため」という。 手紙には返答なし  念のため、同クリニック宛てに吉田豊氏に向けた手紙を送り、裁判所で閲覧した資料に掲載されていた青森県の自宅住所にも送ったが、期日までに回答はなかった。なお、吉田氏に未払い賃金の支払いを求めている人物の代理人によると、内容証明を送っても何の返答もない、とのこと。吉田氏本人の主張は残念ながら聞くことができなかった。 ちなみに、青森県六戸町の現職町長・吉田豊氏は同姓同名の別人物。また、南相馬市内にも同姓同名の医師がおり、業界関係者の間でも混乱することが多々あるという。実際、記者も同市内で最初に話を聞いたときは「町長までやった奴が南相馬で問題を起こしている」と誤って教えられた。 そのためかネット検索しても、関連情報がヒットしにくい。こうした事情も、吉田氏のトラブルが表に出てこない要因のようだ。 吉田氏に翻弄されたという男性は「これ以上被害者が増えてほしくない。こういう人物に近付いてはならないと警鐘を鳴らす意味でも政経東北で取り上げるべきだ」と話した。そうした声を踏まえ、不確定な部分が多かったが記事にした次第。 クリニック開業の際、医師が確保できていないのに認可するなど、保健所をはじめとした公的機関の無策を嘆く声も聞かれたが、一方で、吉田氏の動きはしっかりマークしているとのウワサも聞こえている。ひとまずはその動きをウオッチしながら〝自衛〟していく必要がある。 あわせて読みたい 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

     5月号で南相馬市の医療・介護業界を振り回すブローカー・吉田豊氏についてリポートしたところ、同氏が運営に携わった施設の元スタッフや同氏をよく知る人物から「被害者が何人もいる」と情報提供があった。公的機関は被害者救済に及び腰だ。 被害報告多数も公的機関は及び腰 桜並木クリニック  吉田豊氏は青森県出身。今年4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。衆院議員などの秘書を務め、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。医師を招いてクリニックを開設、その一部を母体として医療法人グループを立ち上げ、吉田氏が実質的なオーナーを務めていた。  その後、青森県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。当時の報道によると、有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、さまざまな企業に医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、いずれもずさんな計画で、集まった医師・スタッフは賃金未払いにより次々と退職。施設運営は行き詰まり、協力した企業が損失を押し付けられている状況だ。 現時点で分かっているトラブルは以下のようなもの。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続いた結果、契約解除となり、建物から退去させられた。現在は地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  〇スタッフを集めるため、ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜いた。だが、賃金未払いとブラックな職場環境に耐えかねて、相次いで退職していった。 〇その後、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」、「桜並木クリニック」を地元企業の支援で立ち上げたが、こちらも退職者が後を絶たない。 〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、それを担保に支援者から融資を受け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)建設計画を進めた。また、市内企業に話を持ち掛けて、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 5月号記事では、事実確認のため複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じてもらえなかった。そのため、関係者の意向を踏まえて具体的な企業名・施設名を伏せて報じた。南相馬市の医療・介護業界では「関わってはいけないヒト」と言われている。 だが、藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所に出入りしており、紳士的かつ気さくで話もうまいので、「初対面だと社会的地位が高い人に見えてしまう」(吉田氏の言動を間近で見て来た人物)。 ちなみに5月号発売後、東京・永田町にある議員会館の藤丸衆院議員の事務所に確認したところ、女性スタッフが次のように説明した。 「吉田豊さんには毎回パーティー券を買っていただいていますが、今年3月のパーティーには来ていただけませんでした。事務所に連絡をいただけるのはほとんどが福岡の支持者ですが、吉田さんは東北の訛りで話してくるので強く印象に残っているし、『(藤丸衆院議員と)どういう接点があるのだろう』と不思議に思っていました。カレンダーを送ってほしいと頼まれ、その送付先が福島県のクリニックだったので、医療関係者だと思っていました」 藤丸衆院議員と個人的に親しい間柄であれば、当然スタッフもそのことを共有しているはず。それほど深い関係ではないと見るべきだろう。 吉田氏は「(藤丸衆院議員が秘書を務めていた)古賀誠元衆院議員とも親交がある」と話していたとも聞いたので、古賀氏の事務所に確認したが、秘書は「申し訳ないですが全く聞いたことがありません」と回答した。細いつながりを大きくして吹聴していた可能性が高い。 本人の反論も聞きたいと思い、裁判所で閲覧した訴状の住所宛てに配達証明で質問書を送付したが、不在続きのため地元郵便局で保管され、そのまま返って来た。 不確定な部分が多かったが、新たな〝被害者〟を出さないようにと記事にしたところ、5月号発売後、吉田氏のことを知る業界関係者や元スタッフから相次いで連絡があり、トラブルの詳細と吉田氏の人物像が見えてきた。 職員への賃金未払いが横行 相馬労働基準監督署  新たに分かったのは、賃金未払いとなったスタッフが相当数いること。というのも、吉田氏に直接支払いを要望してものらりくらりと逃げられ、相馬労働基準監督署も親身に相談に乗ってくれないからだ。 「過去には立ち入り調査が入って、是正勧告が出された事例もあったが、しょせんは罰則などがない〝行政指導〟。その場だけ取り繕ってごまかされてしまいました。また、退職した人が相談しても『さかのぼって支払いを要求するのは難しい』とされて積極的に動いてもらえませんでした」(ある元スタッフ) 現時点で吉田氏が運営に携わっている施設は前出の「憩いの森」、「桜並木クリニック」の2施設と、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」。榎本氏は同クリニックにも頻繁に出入りしている吉田氏の〝参謀〟的存在で、吉田氏は現在、この薬局の2階で生活している。 憩いの森  吉田氏関連の会社はこれまで確認されているだけで4社ある。いずれも南相馬市本社。法人登記簿によると、概要は以下の通り。 ①ライフサポート 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2020年12月25日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ 事業目的=訪問介護、訪問看護、高齢者向け賃貸住宅など ②スマイルホーム 原町区本陣前二丁目22―3 設立=2021年2月19日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司 事業目的=賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供など ③フォレストフーズ 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月25日 資本金=100万円 代表取締役=馬場伸次 事業目的=不動産の企画・運営・管理、フランチャイズビジネスの企画・管理、自動車での送迎・配達サービス、人材派遣サービスなど ④ヴェール 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月6日 資本金=100万円 代表取締役=佐藤寿司 事業目的=不動産の賃貸借・仲介、ビル・共同住宅・寮の経営、公園・観光施設などの管理運営、総合リース業、日用雑貨・介護用品販売など 4社のうち2社の代表取締役を務める浜野氏は吉田氏のパートナー的存在とされる女性。二丁目53―7は「憩いの森」の住所、二丁目22―3は同施設近くの土地の一角に建てられたユニットハウス。 吉田氏を直撃 吉田豊氏  こうして見ると吉田氏本人の名前は見当たらないが、これこそが吉田氏の得意とする手口だという。 「吉田氏は代表者など表に名前が出る所に出たがらず、スタッフに経営責任者を任せて裏で指示を出す。これだと書類上の経営責任者はスタッフになり、公的機関が指揮系統やお金の流れを把握しづらくなります。実際、ここに名前が挙がっている代表取締役にも、賃金未払いを訴えて退職した職員が含まれています」(前出・元スタッフ) もっとも、複数の関係者の話を統合すると、書類上で名前を出していなくても決定権を持っているのは吉田氏であり、実際、スタッフからは「オーナー」と呼ばれている。 前出・南相馬ホームクリニックが運営していたころは、敷地内に設けられた小さなユニットハウスが「事務所」となっており、職員は退勤時に必ず顔を出してあいさつする決まりとなっていた。 そこでは毎日17時ぐらいから酒盛りが始まる。吉田氏は素性がよく分からない飲み仲間を呼び寄せ、お気に入りの正職員が顔を出すと、一緒に酒を飲むように勧めた。患者がいようがおかまいなしで、酔った状態で待合室に顔を出し、ソファーに横になることもあった。翌朝、ビールの空き缶や総菜のごみを片付けるのは職員の仕事。オーナーでなければ、こんな振る舞いは許されまい。 ちなみに、南相馬ホームクリニック閉院後、吉田氏の居場所だったユニットハウスはスマイルホームの〝社屋〟として再利用されている。 何より驚いたのは、吉田氏に数百万円単位の金を貸している元スタッフが何人もいるという事実だ。 一例を挙げると、関連会社を統合した組合組織を立ち上げ、理事に就いたスタッフに対し、「出資金が不足している」、「役員に就かせたのだから個人的に協力してくれないか」などの理屈を付けてそれぞれ数百万円の金を出させたという。借用書は残っており、それぞれ返済を求めているが、吉田氏は応じていない。 客観的に見ると吉田氏が信用に値する人物とは到底思えないが「役員として、できる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる。組合組織を立ち上げることになったのも補助金目当てだったとみられ、現在組合として活動している気配は見えない。 同市内で医療・介護業界に従事し、元スタッフとも交流がある人物は吉田氏の性格をこう述べる。 「新しく入ってくる人には手厚い待遇で迎えるが、吉田氏に意見を述べる人や内情を詳しく知った古株は徹底的に冷遇する。職員間対立も煽るようになり、ついには賃金未払いが発生し、支払いを求めると逆ギレされる。そこで初めてどういう人物だったかを思い知らされるのです」 こうした声を当の吉田氏はどのように受け止めるのか。5月下旬、オレンジファーマシーから路上に出て来た吉田氏を直撃した。 ――医療・介護施設をめぐるトラブルが多く、当初の約束通りに金を支払ってもらっていない企業などもあるようだが。 「そういうところはない」 ――南相馬ホームクリニックでは未払い分の賃貸料の支払いを求める裁判を地元企業から起こされている。 「先方がクリニックをやりたいということで、私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方。そもそも係争中なのでそういう部分だけで誤解して書かないでほしい」 ――係争中と言うが、地裁相馬支部で確認したところ、訴状に対する答弁書は見当たらなかった。 「契約している東京のサダヒロという弁護士が対応している」 ――弁護士の連絡先は。 「あることないこと言われているので、いまさら私の方から答えることは何もない」 ――個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる。 「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 ――賃金未払いを訴える声が多い。実質的なオーナーとして責任を取るべきではないか。 「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」 吉田氏はあくまで「自分は被害者」というスタンスを貫き、賃金未払いに関しても「助言している立場に過ぎないので、各施設の責任者に話してほしい」と述べた。しかし前述の通り、実質的なオーナーであることは間違いない。呆れた言い逃れであり、責任を持って賃金未払いや借入金返済に対応する必要がある。 なお、南相馬ホームクリニックの裁判は、東京の弁護士に任せているとの回答だったが、福島地裁相馬支部にあらためて確認したところ、「吉田豊氏を原告とした裁判の訴状は確認できない」とのことだった。 「ここは本当に法治国家なのか」 オレンジファーマシー  結局、本誌の直撃取材を受けた吉田氏は「この後用事があるので」と言って、桜並木クリニックの中に入っていった。本誌5月号では桜並木クリニックを訪問したときの様子を、名前を伏せてこう紹介している。 《中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初からかかわっているが、ちょっと分からない」と話した》 このとき、対応したのは「エノモト」と名乗る男性。後から確認したところ、オレンジファーマシーの管理薬剤師を務める榎本雄一氏だった。吉田氏の親戚に当たる人物が平然とうそを付いていたことになる。外部にすらこういう対応なのだから、スタッフへの対応は推して知るべし。 これ以外にも、本誌には▼同クリニックは医師会に入っていない、▼同クリニックの診察時間はその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている、▼スタッフが定着せず、パート・アルバイトで対応している、▼過去には青森県の人物から借金返済を求める電話が毎日のように来ていた、▼業者に対しても代金未払いが発生している、▼同市石神地区で何か始めようとしている――などの情報が寄せられた。 県相双保健福祉事務所、労働基準監督署などの公的機関には、これらの情報を伝えたが、いずれも反応は鈍く、他人事に捉えているように感じられた。 元スタッフの一人は「賃金未払いや借金踏み倒しで泣き寝入りしている人が多いのに、どの公的機関も見て見ぬふり。市議などに相談したが大きな動きにはつながらなかった。ここは本当に法治国家なのか、と疑いたくなりますよ」と嘆いた。 こうした実態は広く知られるべきであり、企業経営者、医療・介護従事者は被害に遭わないように吉田氏の動向を注視しながら、それぞれが〝自衛〟していく必要がある。 政経東北【2023年7月号】で【第3弾】『吉田豊』南相馬市ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆きを詳報します! 政経東北【2023年7月号】 あわせて読みたい 【第1弾】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家【吉田豊】

  • 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家

     南相馬市の医療・福祉業界関係者から「関わってはいけないヒト」と称される人物がいる。さまざまな企業に医療・福祉施設の計画を持ち掛け、ことごとく頓挫。集めた医師・スタッフは給与未払いに耐え切れず退職、協力した企業は損失を押し付けられ、至る所でトラブルになっている。被害に遭った人たちは口を閉ざすばかり。一体どんな人物なのか。 施設計画持ちかけ複数企業が損失 吉田氏の逮捕を報じる新聞記事(デーリー東北2007年4月28日付)  「吉田豊氏について『政経東北』を含めどのマスコミも触れないけど、何か理由があるのかい?」。4月上旬、南相馬市内の経済人からこんな話を持ち掛けられた。 南相馬市内で医療・福祉施設建設計画を持ち掛け、支援を募っては計画が頓挫し、複数の企業が損失を被っているというのだ。吉田氏は青森県出身の元政治家で、数年前から南相馬市内で暮らしているという。 事実確認のため複数の関係者に接触したが、結論から言うと、誰も口を開こうとしなかった。「現在係争中なのでコメントは控えたい」、「ほかに影響が及ぶのを避けたい」、「もう関わり合いたくない」というのが理由だった。 せめて一言だけでもと食い下がると、「とにかく裏切られたという思い」、「業界内では『関わってはいけないヒト』と評判だ」という答えが並んだ。誌面では書けない言葉で吉田氏を罵倒した人もいる。 ある人物は匿名を条件に次のように語った。 「医療・福祉の充実という理念を掲げ、補助金がもらえそうな事業計画を企業に持ち掛け出資させる。ただ、ブローカー的な役割に終始し、その後の運営は二の次になるのでトラブルになる。表舞台には決して立とうとせず、ほかの人物や企業を前面に立たせる。だから、結局、何かあっても吉田氏が責任を取ることはない」 関係者の意向を踏まえ、本稿では具体的な企業名・施設名などを伏せるが、市内の事情通の話や裁判資料などの情報を統合すると、吉田氏をめぐり少なくとも以下のようなトラブルが発生していた。 〇市内にクリニックを開設する計画を立て、賃貸料を支払う契約で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続き契約解除となり、現在は未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関や介護施設から医師・職員を高額給与で引き抜いたが、賃金未払いが続き、加えてブラックな職場環境だったため、相次いで退職。施設が運営できなくなり、休業している。 〇市内企業を巻き込んで、数十億円規模のサービス付き高齢者向け住宅建設計画やバイオマス焼却施設計画なども進めようとしていたが、いずれも実現していない。 吉田氏が一方的に嫌われ悪く言われている可能性もゼロではないが、話を聞いたすべての人が良く言わず、企業が泣き寝入りしている様子もうかがえた。吉田氏は現在公人ではないが、こうした事実を踏まえ、誌面で取り上げるのは公益性・公共性が高いと判断した。 吉田氏とはどういう人物なのか。過去の新聞記事などを遡って調べたところ、青森県上北町(現東北町)出身で、同町議を2期務めていた。 《八戸市内の私立高校(※編集部注・現在の八戸学院光星高校)を卒業後、県選出の代議士や県議らの下で政治を学び、1991年の町議選に32歳で初当選した。医療と福祉の充実を掲げ、医師を招いて自宅近くに内科・歯科医院を開業するなど精力的だった》(デーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏が個人で運営していた「あさひクリニック」の一部を母体に「医療法人秀豊会」が立ち上げられ、有床診療所を運営しているほか、関係会社が高齢者・障害者向け住宅賃貸サービス、在宅介護、訪問診療を行っている(現在は医療法人瑞翔会に名称変更している)。吉田氏は登記簿上は役員から外れていたが、実質的なオーナーだったという。 1999年4月、上北町議2期目途中、青森県議選・上北郡選挙区に推薦なしの無所属で立候補したが、6候補者中6番目の得票数(9545票)で落選した。その後、有権者に現金5万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼、さらに60人以上の有権者に計142万円を配って買収工作を行ったとして、公職選挙法違反(現金買収)の疑いで逮捕された。 《今年1月ごろから「吉田陣営は派手に買収に動いているようだ」とのうわさが一部に広がり出していた。「福祉に対する熱意が感じられる」として3月上旬まで同容疑者の応援を続けていた県内のある大学教授が、「金にまつわるうわさを聞いて失望した」と、告示の約3週間前に同陣営とのかかわりを断ち切るというトラブルもあった》 《(※編集部注・吉田氏が実質オーナーだった医療法人グループについて)最近では、老人保健施設や特別養護老人ホーム建設の計画を声高にうたっていた。しかし、老健施設の建設予定地の農地転用の手続きに絡み、町農業委員会の転用許可が下りる前に予定地の一部を更地にして厳重注意を受けるなど、周囲からは吉田容疑者ら経営幹部たちの強引な手法を指摘する声も上がっていた》(いずれもデーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏は懲役2年6月、執行猶予5年の有罪判決を受け、「今後は選挙にかかわらない」と誓っていた。ところが、5年間の公民権停止期間が明けると2007年4月の県議選に再び立候補。結果は、7候補者中6番目の得票数(4922票)で落選した。 立候補表明時には「住民が安心して暮らせる地域づくりを目指し、地元の医療環境を整備したい」と訴え、「派手な選挙は行わない。地道に政策を訴えたい」と話していた吉田氏。だが選挙後、3人の運動員に計76万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼していたとして、再び公職選挙法違反の疑いで逮捕された。 《「8年前は大変ご迷惑をお掛けしました」―選挙運動中、マイクを握った吉田容疑者はこの言葉から口を開き、自身を含む計6人が公選法違反で逮捕された前々回の県議選と同じ轍は踏まない―との意気込みを見せていた。しかし自身の逮捕により、今回の逮捕者は計8人と前々回を上回る結果となった》(デーリー東北2007年4月28日付) 呆れた過去に驚かされるが、吉田氏自身は2度の前科を特に隠してはいないようで、周囲に話すネタにしているフシさえあるという。 官僚・政治家人脈を強調  吉田氏の言動を間近で見てきたという人物は「どう見ても怪しいが、外見は紳士的で、初対面だと社会的地位の高い人に見えてしまう。見抜くのは難しい」と語る。 「藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区、自民党)の事務所に出入りしており、私も一度案内されたことがあった。話している感じも違和感はなく、過去を知らなければすっかり信用してしまうと思う」 藤丸氏は古賀誠元衆院議員の秘書を務めていた。そのため、「秘書時代のつながりではないか」と指摘する声もある。しかし、「〇〇議員の秘書とはしょっちゅう連絡を取っている」と至るところで吹聴しているようなので、真偽は分からない。 中央官僚ともパイプを持っていると盛んにアピールしているようだが、浜通りの政治家によると、「『誰と会っているのか教えてくれたら私からも話をする』と知り合いの官僚の名前を出したら、急にしどろもどろになって話をはぐらかした」のだとか。別の経済人からも同様の声が聞かれた。市町村長クラスと会える場所にはよく顔を出すという話もある。 複数の関係者によると、吉田氏はトラブル後も同市内で暮らし続けているが、具体的な居場所は分からないようで、「住所を特定されないように宿泊施設を転々としている」、「プレハブ小屋を事務所代わりにしている」「建設に関わった同市原町区のクリニックを拠点としている」などと囁かれている。 名前の挙がったクリニックを訪ねたところ、扉に「休業中」の札がかかっていたが、電気は付いており、中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初から関わっているが、ちょっと分からない」と話した。休業の理由については「医師が退職し、現在募っているため」という。 手紙には返答なし  念のため、同クリニック宛てに吉田豊氏に向けた手紙を送り、裁判所で閲覧した資料に掲載されていた青森県の自宅住所にも送ったが、期日までに回答はなかった。なお、吉田氏に未払い賃金の支払いを求めている人物の代理人によると、内容証明を送っても何の返答もない、とのこと。吉田氏本人の主張は残念ながら聞くことができなかった。 ちなみに、青森県六戸町の現職町長・吉田豊氏は同姓同名の別人物。また、南相馬市内にも同姓同名の医師がおり、業界関係者の間でも混乱することが多々あるという。実際、記者も同市内で最初に話を聞いたときは「町長までやった奴が南相馬で問題を起こしている」と誤って教えられた。 そのためかネット検索しても、関連情報がヒットしにくい。こうした事情も、吉田氏のトラブルが表に出てこない要因のようだ。 吉田氏に翻弄されたという男性は「これ以上被害者が増えてほしくない。こういう人物に近付いてはならないと警鐘を鳴らす意味でも政経東北で取り上げるべきだ」と話した。そうした声を踏まえ、不確定な部分が多かったが記事にした次第。 クリニック開業の際、医師が確保できていないのに認可するなど、保健所をはじめとした公的機関の無策を嘆く声も聞かれたが、一方で、吉田氏の動きはしっかりマークしているとのウワサも聞こえている。ひとまずはその動きをウオッチしながら〝自衛〟していく必要がある。 あわせて読みたい 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口