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  • 「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

    「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

     本誌8月号に「磐梯東都バス撤退の裏事情 会津バスが路線継承!?」という記事を掲載した。猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになり、その影響と背景を探ったもの。その中で、「会津バスが事業を引き継ぐことが決定的」と書いたが、その後、正式に会津バスが事業継承することが発表された。一方で、ある関係者は「磐梯東都バスから会津バスへの事業継承に向けて、〝最後の課題〟が残っている」と明かした。 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛け、福島県内では1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。  磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。  同社グループが猪苗代・裏磐梯エリアで路線バスを運行するに至った背景について、北塩原村の事情通はこう話していた。  「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」  こうして、約20年にわたって路線バスが運行されてきたが、「少子化に伴う利用客の減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減」を理由に、事業継続は困難と判断し、9月末で全4路線を廃止してバス事業から撤退することを決めた。  磐梯東都バスから猪苗代・北塩原両町村に正式にそれが伝えられたのは今年6月だが、それ以前から、「このままでは事業を継続できない」旨は知らされていた模様。そのため、両町村は、「クルマを使えない住民が不便になる」、「観光客の足がなくなる」として、代替策を検討し、関係者間の協議で、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことが決定的になっていた。  以前、磐梯東都バスは前述の4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。  村は代替交通手段の確保に向けた検討を行い、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入し、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。  ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。  こうした事例もあったことから、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえると思う――というのが大方の見方だったのだ。 会津バスのリリース 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  本誌8月号締め切り時点では、正式発表はなかったが、その後、会津バスは7月28日付で「猪苗代町内・北塩原村内の路線バスを10月1日から会津乗合自動車が運行します」とのリリースを発表した。  同リリースには、おおむね以下のようなことが記されている。  ○10月1日(※磐梯東都バスの最終運行日の翌日)から会津バスが4路線を運行する。  ○運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ。  ○猪苗代町、北塩原村と連携し、路線バスの維持、適正な運行を目指す。  ○猪苗代町と北塩原村は、夏は登山、冬はスキーを中心とするアクティビリティーを楽しめ、風光明媚な猪苗代湖、磐梯山、五色沼などの豊富な観光資源があるため、路線バスだけでなく、貸切バス事業の活性化により、訪日外国人を含む観光誘客に貢献し、当該地域の経済効果が図られるものと考えている。  ○スマホなどで、利用するバスの現在地や到着時刻などが分かる「バスロケーションシステム」を提供し、より便利で快適な利用を実現する。  単に路線バスを引き継ぐだけでなく、新たなサービスや、運行エリアの観光資源を生かした事業展開などを考えていることが分かる。  一方で、ある関係者によると、「事業継承に向けて〝最後の課題〟になっているのが、磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所の売買金額」という。  磐梯東都バスは猪苗代町千代田地内、JR猪苗代駅から約500㍍のところに猪苗代磐梯営業所を構えている。自社所有の土地・建物で、敷地面積は約991平方㍍。不動産登記簿謄本によると、担保は設定されてない。  前段で紹介した会津バスのリリースでは、磐梯東都バスから運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ、とのことだったが、その売買金額で折り合いが付いていない、というのが、前出・ある関係者の証言だ。  この関係者はこう続ける。  「磐梯東都バスは、営業所、車庫、車両をすべて合わせて9000万円で売却したい考えを示しました。それに対し、会津バスは、『そんなに出せない。もう少し安くならないか』といった意向のようです」  こうして、両者間で折り合いがつかず、「事業継承に向けた〝最後の課題〟になっている」というのだ。  そんな中、会津バスは猪苗代町と北塩原村に補助金要請をしたのだという。  これを受け、関係者間で協議を行い、磐梯東都バスが営業所、車庫、車両などの売却価格に設定した9000万円のうち、4500万円を会津バスが負担し、残りは猪苗代町が75%(3375万円)、北塩原村が25%(1125万円)を負担(補助)する、といった案が出された。猪苗代町と北塩原村の負担割合は、バス路線の大部分が猪苗代町内を走っていることなどが加味された模様。  猪苗代町、北塩原村はともに7月24日に議会全員協議会を開き、この案について説明した。本誌は、両町村が議会に説明するために配布した文書を確認しているが、似たような文面になっており、両町村間で調整したことがうかがえる。  この案について、猪苗代町議会では特に異論はなく、理解が得られたという。 補助名目に疑義 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  一方で、北塩原村議会では、反対ではないものの、ある問題点が指摘された。関係者はこう話す。  「まず、会津バスが磐梯東都バスの事業を継承するのは非常にありがたいことです。路線バスは中高生の通学や高齢者の通院などには欠かせないものですし、観光客の足にもなっていましたからね。そのために、行政として補助金を出すこと自体への反対は出なかった。ただ、今回の場合は、バス運行にかかる補助金ではなく、民間事業者(会津バス)が、土地・建物などの不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)や車両、つまりは財産を取得するための補助金です。ですから、そういった名目での補助金支出が正しいのか、といった疑義が出たのです」  同議会では、不動産取得について補助を出すのであれば、その不動産について一部、村に権利があるようにしなければならないのでは、といった指摘があったようだ。  もっとも、後に本誌が村に確認したところ、「補助金の名目は未定」とのこと。つまり、補助金を出すにしても、不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)取得についての補助金なのか、別の名目にするのかはこれから決めるというのだ。予算化の時期についても、「9月議会ではなく、その後になる」(村当局)との説明だった。  猪苗代町にも確認したが、「会津バスに補助金を出すこと自体は、議会から理解が得られたが、まだ予算化はしておらず、名目についてもこれから決めることになる」とのことだった。  ちなみに、両町村が議会に説明するために配布した文書には、「予算の計上時期、方法については、国・県の指導により、適切に行う」と書かれていた。  一方、会津バスに「磐梯東都バスの営業所、車庫、車両の取得について、猪苗代町、北塩原村に補助金を要請したそうだが、その見通しは」と問い合わせたところ、次のように回答した。  「猪苗代町、北塩原村による補助金は見通しがついた。10月1日からの運行に合わせて陸運局への申請・許可取得を済ませ、営業所、車庫、車両も9月30日までに取得する」  北塩原村では名目について疑義が出たようだが、両町村が補助金を出すこと、その金額は猪苗代町が3375万円、北塩原村が1125万円であること自体は、おおむね理解が得られている模様。あとは、どのような名目で、どのタイミングで予算化・支出するのか、ということになる。少なくとも、両町村に確認した限りでは、9月議会で予算化されることはなさそう。つまり、支出は、会津バスが磐梯東都バスの営業所、車庫、車両を取得した後、ということになる。  補助金の名目がどうなるのかなど、不透明な部分はあるものの、〝最後の課題〟は解決の目処が立ったと言えそう。少なくとも、磐梯東都バス撤退後に「空白期間」をつくることなく、バス運行が行われるのは確実で、その点ではひと安心といったところか。 あわせて読みたい 磐梯東都バス撤退の裏事情

  • 磐梯東都バス撤退の裏事情

    磐梯東都バス撤退の裏事情

     猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになった。住民の足が失われることに加え、観光への影響も懸念されることから、関係町村は代替策を検討している。同社撤退の影響と背景を探った。(末永) 会津バスが路線継承!? 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、1959年設立、資本金3750万円。東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県に営業所を構え、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛けている。福島県内では、1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。 磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。 「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」(北塩原村の事情通) 以降、磐梯東都バスは約20年間にわたって、猪苗代町、北塩原村で路線バスを運行してきたわけだが、9月末で全4路線を廃止し、バス事業から撤退することになった。 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所に撤退に至った経緯などを尋ねると、本社経由で回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されましたが、撤退決定に至った理由。また、いつ頃から撤退を考えるようになったのでしょうか。 「近年の少子化に伴う利用客の減少と、3年間に及んだ新型コロナウイルスによる観光利用客の激減により、事業継続は困難と判断しました。撤退を考えるようになったのは、新型コロナウイルスが大きく影響した時期と重なります」 ――差し支えなければで結構ですが、売上高のピークと直近の減少幅、さらには採算ラインはどのくらいか、を教えていただけますか。 「令和2(2020)年3月期(コロナ前)に対し、令和5(2023)年3月期(直近)の売り上げは、33%下落の67%となっております」 ――関係自治体とは撤退決定前の段階で、協議してきたと思われますが、いつの段階で、どのような話をしてきたのでしょうか。また、その中で存続の道筋は見い出せなかったのでしょうか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、といった部分はあったのでしょうか。 「関係自治体とは当社の実績も伝え対策を協議してまいりました。やはりコロナ禍の影響が大きく、従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難であると考えます。当社としましては、事業撤退に際し、地域住民にご迷惑をお掛けしないように努め、引き続き後任事業者と自治体との間で調整してまいります」 大きかったコロナの影響 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  猪苗代町によると、全4路線のうち、同町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線は、「委託路線」の扱いだという。つまり、町が磐梯東都バスに委託費を支払い、同路線を運行してもらっていた。今年度の委託費は4280万円。 当然、町としては「住民の足」として必要なものと捉えており、例えば町独自でコミュニティバスを運行するよりは、委託費を支払ってバス会社に運行してもらった方が効率的といった考えからそうしている。今年度の契約期間は昨年10月1日から今年9月30日まで。つまり、磐梯東都バスは今年度の委託期間を終えるのと同時に、撤退するということだ。 一方、猪苗代駅から北塩原村裏磐梯地区を結ぶ路線は、「自主路線」の扱いで委託費は支払われていない。諸橋近代美術館前、五色沼入口、小野川湖入口、磐梯山噴火記念館前、長峯舟付、裏磐梯高原駅、裏磐梯レイクリゾート、裏磐梯高原ホテルなどの観光地を中心に停留所があり、観光客の重要な足となっていた。 裏磐梯地区の観光業関係者は次のように話す。 「ほかの路線は、乗客がいてもポツポツで、誰も乗客がいないというのも珍しくなかったが、猪苗代駅から裏磐梯方面への路線は、結構、観光客が利用していました。ですから、ほかと比べたらそれほど悪くなかったと思いますが、コロナ禍以降は観光客が減りましたからね。われわれとしては、観光地としての〝格〟とでも言うんですかね、それが損なわれるというか。今後、代わりの方策が取られるとは思いますが、『路線バス撤退』ということが表に出ただけで、観光地として貧弱な印象を与えてしまう。それだけでマイナスですよね」 磐梯東都バスの回答では「少子化に伴う利用客減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減で、事業継続は困難と判断した」とのことだったが、要は「委託路線」は少子化に伴う利用客減少で委託費だけではやっていけない、「自主路線」もコロナによる観光客激減で厳しくなった、ということだろう。 本誌は猪苗代駅周辺で各路線の乗客状況を見たが、やはり乗客はほとんどいなかった。 民間信用調査会社調べの磐梯東都バスの業績は別表の通り。2021年3月期(2020年4月から2021年3月)は、最もコロナの影響を受けた時期で、それが如実に数字に表れている。 磐梯東都バスの業績 決算期売上高当期純利益2017年4億9000万円1074万円2018年4億3300万円1460万円2019年4億2500万円1833万円2020年4億1700万円1218万円2021年8200万円△6405万円2022年2億0300万円1323万円※決算期は3月。△はマイナス  一方、本誌の「存続の道筋は見い出せなかったのか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、という部分はあったのか」との質問には、磐梯東都バスは「従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難と考える。事業撤退で地域住民に迷惑を掛けないよう、後任事業者と自治体との間で調整していく」との回答だった。 猪苗代町の前後公前町長(今年6月25日の任期満了で退任)はこう話した。 「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていました。業績などの内情を示され、やむを得ないだろう、と。とはいえ、それで路線バスが完全になくなっては町(町民)としても困るので、以降は関係事業者を交えて代替策を検討してきました」 その後、前後氏は6月25日の任期満了で退任し、この問題は新町長に引き継がれることになった。 前後前町長が言う「代替策」について、町に確認すると「いま交渉中ですので、まだ詳細をお話できる段階にありません」とのこと。 今号で二瓶盛一新町長のインタビュー取材を行ったが、その際、二瓶町長は次のように語っていた。 「JR猪苗代駅を起点として町内や裏磐梯方面を走る磐梯東都バスが9月末で町内から撤退することになり、10月以降の路線バスの運用について現在協議を進めているところで、空白を生まないためにもスピード感と責任感を持ったうえで判断し、利用者の方々にご不便をおかけしないよう対処していきたい」 どうやら、関係者間の協議では、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことで、ある程度まとまっている模様。ただ、交渉ごとのため、「まだ詳しいことは話せない」、「もう少し待ってほしい」というのが現状のようだ。 喜多方―裏磐梯線の廃止騒動 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  以前、磐梯東都バスは前述した4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。 同路線は、主に中高生の通学や高齢者の通院などで利用されていたことから、同村内では「廃止されたら困る」、「12月以降はどうなるのか」といった声が噴出した。そこで、村は代替交通手段の確保に向けた検討を行った。 同社から「喜多方―裏磐梯間のバス廃止」の意思表示があった直後の同村2019年3月議会では、関連の質問が出た。当時の議会でのやりとりで明らかになったのは以下のようなこと。 ○村は喜多方―裏磐梯間のバス運行に対して、年間1600万円の負担金(補助金)を支出している。 ○磐梯東都バスが運行している路線は黒字のところはなく、経営的な問題から喜多方―裏磐梯間廃止の打診があった。そのほか、バス更新、運転手確保などの問題もある。村長が本社に行って協議してきたが、廃止撤回は難しいとのことだった。 ○「廃止」の意思表示を受け、村では運行を引き継ぐ事業者を探すか、村でバスを購入し、運行してもらえる事業者を探す等々の代替策を検討している。 こうして、すったもんだした中、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。 ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。 これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。 こうした事例があるため、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえるよう交渉し、その方向でまとまりつつあるようだ。 ところで、この「喜多方―裏磐梯間のバス廃止騒動」があった際、ある村民はこう話していた。 「同路線が赤字で厳しい状況だったのは間違いないのだろうけど、廃止の理由はそれだけではなさそう。というのは、元村議の遠藤和夫氏が自身の考えなどを綴ったビラを村内で配布しており、『路線廃止』報道があった直後、磐梯東都バスの件を書いていました。遠藤氏は同社の役員などに会い、そこで得た情報を掲載していたのですが、それによると、同社は数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後の路線バスのあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止に至ったというのです。言い換えると、村がきちんと対応していれば廃止を決断することもなかったかもしれない、と」 要するに、「廃止騒動」の裏には村の不作為があったというのだ。どうやら、磐梯東都バスは村に補助金申請のための相談をしていたが、村が動いてくれなかったため、業を煮やして「廃止せざるを得ない」と伝えた。それで、村が慌てて同社に「どうにかならないか」と持ちかけ、前述した「公有民営方式」に落ち着いたということのようだ。 ここに出てくる「元村議の遠藤和夫氏」は現村長。2015年4月の村議選で初当選し、その任期途中の2016年8月の村長選に立候補したが、当時現職の小椋敏一氏に敗れた。以降は、前出の村民の証言にあったように、村内で各種情報発信をしており、自身の考えなどを綴ったビラを配布していた。その後、2020年の村長選に立候補し、当選を果たした。 かつて、村長選を見据えて情報発信する中で、磐梯東都バス関連で現職村長の対応を問題視していた遠藤氏。その遠藤氏が村長に就いた後、磐梯東都バスの撤退問題に直面することになったわけ。 遠藤村長に聞く 遠藤和夫北塩原村長  村総務企画課を通して、遠藤村長にコメントを求めると、次のような回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されました。村にはその前の段階で、何らかの話があったと思われますが、事業者からはいつの段階で、どのような話があったのでしょうか。また、それを受けて、村としてはどのように応じたのでしょうか。 「6月5日に、磐梯東都バスが村へ訪問。本年9月30日をもって事業撤退する旨を報告。諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」 ――磐梯東都バスが撤退することで、村、村民の足、あるいは村内に来る観光客など、どのような影響が懸念されますか。 「猪苗代・裏磐梯の路線は村民の通学や通院・買い物に利用されているほか、観光客の移動手段にもなっていることから、磐梯東都バスが撤退後に路線バスの維持がなされない場合、住民や観光客の足が無くなり、住民に不便を来たしてしまうこと、そして観光客の減少につながる懸念が想定される」 ――磐梯東都バスの問題に限らず、いまの社会情勢等を考えると、地方における路線バスの廃止は避けられない面があると思います。一方で、路線バス廃止によって「交通難民」が生まれてしまう懸念もあるわけですが、磐梯東都バス撤退後の代替策についてはどのように考えていますか。 「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」 ――2019年に磐梯東都バスの「喜多方線廃止」問題が浮上した際、遠藤村長は一村民の立場で情報発信する中で、磐梯東都バスの役員と会い、「数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後のバス路線のあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止問題に至った」旨を指摘されていたと記憶しています(※当時、村民の方に現物を見せていただき、本誌記者の取材メモとして記録されている)。その後、村長に就いたわけですが、新たな関係性の構築や、協議の場を設けるなどの動きはあったのでしょうか。 「村長就任後に磐梯東都バスとは会っていたが、喜多方線廃止問題が具体的になる中、残念ながら相互に理解を得ることが難しくなり、喜多方線の撤退、猪苗代線も独自運行となった。解決に向けての打開策について協議を行ったが、磐梯東都バスの判断として、このような事態となった」 最大のポイントである磐梯東都バス撤退後の代替策については、「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」との回答だった。前述したように、同村では喜多方―裏磐梯間の路線バスで「公有民営方式」を採用し、当初の磐梯東都バス撤退後は会津バスに引き継いでもらっている。今回の4路線(※北塩原村が直接的に関係するのは猪苗代―裏磐梯間の路線バス)についても、会津バスに継承してもらって運行維持することを想定しているのだろう。 事業参入時に裏約束⁉  一方で、磐梯東都バスから撤退することを聞かされたのは6月5日で、村役場に同社関係者の訪問があり、「9月30日で事業撤退」の報告を受けたという。そのうえで「諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」とのことだった。 最終的な決定事項(撤退)の伝達としては、その日だったのだろうが、猪苗代町の前後前町長が「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていた」と話していたことからも、当然、その前の事前協議があったと思われる。 前出・村内の事情通によると、「昨年の段階で、磐梯東都バスから村には『このままでは厳しい』といった話があったようだ」という。 「その席で、磐梯東都バスは『このエリアでバス事業を始めるときに、渡部恒三衆院議員、高橋伝村長との約束が』と、過去に決め事があったようなニュアンスのことをチラつかせたそうです。要するに、何らかの裏約束があったかのような口ぶりだった、と。とはいっても、それは20年以上前のことですし、恒三先生は亡くなり、高橋伝さんも村長を退いてだいぶ経つ。磐梯東都バスの親会社の社長も代わりました。そもそも、本当に何らかの約束事(裏約束?)があったのか、あったとしてそれがどんな内容だったのかは、いまの村長をはじめとする関係者は誰も知らない。そのため、村では『そんな昔のことを持ち出されても……。それよりも、今後どうすべきかを一緒に考えていきましょう』といったスタンスで応じたそうです」 こうして協議を行ったが、結果的には存続には至らなかった。 マイカーの普及、人口減少による利用者の減少、少子化に伴う通学需要の縮小などを背景に、地方の路線バスはどこも厳しい状況。磐梯東都バスが事業参入したときには、すでにその流れが顕著になっていたが、コロナという思いがけない事態にも見舞われた。そんな中で、撤退は避けられなかったということだろう。

  • 「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

     本誌8月号に「磐梯東都バス撤退の裏事情 会津バスが路線継承!?」という記事を掲載した。猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになり、その影響と背景を探ったもの。その中で、「会津バスが事業を引き継ぐことが決定的」と書いたが、その後、正式に会津バスが事業継承することが発表された。一方で、ある関係者は「磐梯東都バスから会津バスへの事業継承に向けて、〝最後の課題〟が残っている」と明かした。 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛け、福島県内では1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。  磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。  同社グループが猪苗代・裏磐梯エリアで路線バスを運行するに至った背景について、北塩原村の事情通はこう話していた。  「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」  こうして、約20年にわたって路線バスが運行されてきたが、「少子化に伴う利用客の減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減」を理由に、事業継続は困難と判断し、9月末で全4路線を廃止してバス事業から撤退することを決めた。  磐梯東都バスから猪苗代・北塩原両町村に正式にそれが伝えられたのは今年6月だが、それ以前から、「このままでは事業を継続できない」旨は知らされていた模様。そのため、両町村は、「クルマを使えない住民が不便になる」、「観光客の足がなくなる」として、代替策を検討し、関係者間の協議で、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことが決定的になっていた。  以前、磐梯東都バスは前述の4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。  村は代替交通手段の確保に向けた検討を行い、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入し、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。  ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。  こうした事例もあったことから、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえると思う――というのが大方の見方だったのだ。 会津バスのリリース 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  本誌8月号締め切り時点では、正式発表はなかったが、その後、会津バスは7月28日付で「猪苗代町内・北塩原村内の路線バスを10月1日から会津乗合自動車が運行します」とのリリースを発表した。  同リリースには、おおむね以下のようなことが記されている。  ○10月1日(※磐梯東都バスの最終運行日の翌日)から会津バスが4路線を運行する。  ○運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ。  ○猪苗代町、北塩原村と連携し、路線バスの維持、適正な運行を目指す。  ○猪苗代町と北塩原村は、夏は登山、冬はスキーを中心とするアクティビリティーを楽しめ、風光明媚な猪苗代湖、磐梯山、五色沼などの豊富な観光資源があるため、路線バスだけでなく、貸切バス事業の活性化により、訪日外国人を含む観光誘客に貢献し、当該地域の経済効果が図られるものと考えている。  ○スマホなどで、利用するバスの現在地や到着時刻などが分かる「バスロケーションシステム」を提供し、より便利で快適な利用を実現する。  単に路線バスを引き継ぐだけでなく、新たなサービスや、運行エリアの観光資源を生かした事業展開などを考えていることが分かる。  一方で、ある関係者によると、「事業継承に向けて〝最後の課題〟になっているのが、磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所の売買金額」という。  磐梯東都バスは猪苗代町千代田地内、JR猪苗代駅から約500㍍のところに猪苗代磐梯営業所を構えている。自社所有の土地・建物で、敷地面積は約991平方㍍。不動産登記簿謄本によると、担保は設定されてない。  前段で紹介した会津バスのリリースでは、磐梯東都バスから運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ、とのことだったが、その売買金額で折り合いが付いていない、というのが、前出・ある関係者の証言だ。  この関係者はこう続ける。  「磐梯東都バスは、営業所、車庫、車両をすべて合わせて9000万円で売却したい考えを示しました。それに対し、会津バスは、『そんなに出せない。もう少し安くならないか』といった意向のようです」  こうして、両者間で折り合いがつかず、「事業継承に向けた〝最後の課題〟になっている」というのだ。  そんな中、会津バスは猪苗代町と北塩原村に補助金要請をしたのだという。  これを受け、関係者間で協議を行い、磐梯東都バスが営業所、車庫、車両などの売却価格に設定した9000万円のうち、4500万円を会津バスが負担し、残りは猪苗代町が75%(3375万円)、北塩原村が25%(1125万円)を負担(補助)する、といった案が出された。猪苗代町と北塩原村の負担割合は、バス路線の大部分が猪苗代町内を走っていることなどが加味された模様。  猪苗代町、北塩原村はともに7月24日に議会全員協議会を開き、この案について説明した。本誌は、両町村が議会に説明するために配布した文書を確認しているが、似たような文面になっており、両町村間で調整したことがうかがえる。  この案について、猪苗代町議会では特に異論はなく、理解が得られたという。 補助名目に疑義 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  一方で、北塩原村議会では、反対ではないものの、ある問題点が指摘された。関係者はこう話す。  「まず、会津バスが磐梯東都バスの事業を継承するのは非常にありがたいことです。路線バスは中高生の通学や高齢者の通院などには欠かせないものですし、観光客の足にもなっていましたからね。そのために、行政として補助金を出すこと自体への反対は出なかった。ただ、今回の場合は、バス運行にかかる補助金ではなく、民間事業者(会津バス)が、土地・建物などの不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)や車両、つまりは財産を取得するための補助金です。ですから、そういった名目での補助金支出が正しいのか、といった疑義が出たのです」  同議会では、不動産取得について補助を出すのであれば、その不動産について一部、村に権利があるようにしなければならないのでは、といった指摘があったようだ。  もっとも、後に本誌が村に確認したところ、「補助金の名目は未定」とのこと。つまり、補助金を出すにしても、不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)取得についての補助金なのか、別の名目にするのかはこれから決めるというのだ。予算化の時期についても、「9月議会ではなく、その後になる」(村当局)との説明だった。  猪苗代町にも確認したが、「会津バスに補助金を出すこと自体は、議会から理解が得られたが、まだ予算化はしておらず、名目についてもこれから決めることになる」とのことだった。  ちなみに、両町村が議会に説明するために配布した文書には、「予算の計上時期、方法については、国・県の指導により、適切に行う」と書かれていた。  一方、会津バスに「磐梯東都バスの営業所、車庫、車両の取得について、猪苗代町、北塩原村に補助金を要請したそうだが、その見通しは」と問い合わせたところ、次のように回答した。  「猪苗代町、北塩原村による補助金は見通しがついた。10月1日からの運行に合わせて陸運局への申請・許可取得を済ませ、営業所、車庫、車両も9月30日までに取得する」  北塩原村では名目について疑義が出たようだが、両町村が補助金を出すこと、その金額は猪苗代町が3375万円、北塩原村が1125万円であること自体は、おおむね理解が得られている模様。あとは、どのような名目で、どのタイミングで予算化・支出するのか、ということになる。少なくとも、両町村に確認した限りでは、9月議会で予算化されることはなさそう。つまり、支出は、会津バスが磐梯東都バスの営業所、車庫、車両を取得した後、ということになる。  補助金の名目がどうなるのかなど、不透明な部分はあるものの、〝最後の課題〟は解決の目処が立ったと言えそう。少なくとも、磐梯東都バス撤退後に「空白期間」をつくることなく、バス運行が行われるのは確実で、その点ではひと安心といったところか。 あわせて読みたい 磐梯東都バス撤退の裏事情

  • 磐梯東都バス撤退の裏事情

     猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになった。住民の足が失われることに加え、観光への影響も懸念されることから、関係町村は代替策を検討している。同社撤退の影響と背景を探った。(末永) 会津バスが路線継承!? 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、1959年設立、資本金3750万円。東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県に営業所を構え、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛けている。福島県内では、1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。 磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。 「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」(北塩原村の事情通) 以降、磐梯東都バスは約20年間にわたって、猪苗代町、北塩原村で路線バスを運行してきたわけだが、9月末で全4路線を廃止し、バス事業から撤退することになった。 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所に撤退に至った経緯などを尋ねると、本社経由で回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されましたが、撤退決定に至った理由。また、いつ頃から撤退を考えるようになったのでしょうか。 「近年の少子化に伴う利用客の減少と、3年間に及んだ新型コロナウイルスによる観光利用客の激減により、事業継続は困難と判断しました。撤退を考えるようになったのは、新型コロナウイルスが大きく影響した時期と重なります」 ――差し支えなければで結構ですが、売上高のピークと直近の減少幅、さらには採算ラインはどのくらいか、を教えていただけますか。 「令和2(2020)年3月期(コロナ前)に対し、令和5(2023)年3月期(直近)の売り上げは、33%下落の67%となっております」 ――関係自治体とは撤退決定前の段階で、協議してきたと思われますが、いつの段階で、どのような話をしてきたのでしょうか。また、その中で存続の道筋は見い出せなかったのでしょうか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、といった部分はあったのでしょうか。 「関係自治体とは当社の実績も伝え対策を協議してまいりました。やはりコロナ禍の影響が大きく、従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難であると考えます。当社としましては、事業撤退に際し、地域住民にご迷惑をお掛けしないように努め、引き続き後任事業者と自治体との間で調整してまいります」 大きかったコロナの影響 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  猪苗代町によると、全4路線のうち、同町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線は、「委託路線」の扱いだという。つまり、町が磐梯東都バスに委託費を支払い、同路線を運行してもらっていた。今年度の委託費は4280万円。 当然、町としては「住民の足」として必要なものと捉えており、例えば町独自でコミュニティバスを運行するよりは、委託費を支払ってバス会社に運行してもらった方が効率的といった考えからそうしている。今年度の契約期間は昨年10月1日から今年9月30日まで。つまり、磐梯東都バスは今年度の委託期間を終えるのと同時に、撤退するということだ。 一方、猪苗代駅から北塩原村裏磐梯地区を結ぶ路線は、「自主路線」の扱いで委託費は支払われていない。諸橋近代美術館前、五色沼入口、小野川湖入口、磐梯山噴火記念館前、長峯舟付、裏磐梯高原駅、裏磐梯レイクリゾート、裏磐梯高原ホテルなどの観光地を中心に停留所があり、観光客の重要な足となっていた。 裏磐梯地区の観光業関係者は次のように話す。 「ほかの路線は、乗客がいてもポツポツで、誰も乗客がいないというのも珍しくなかったが、猪苗代駅から裏磐梯方面への路線は、結構、観光客が利用していました。ですから、ほかと比べたらそれほど悪くなかったと思いますが、コロナ禍以降は観光客が減りましたからね。われわれとしては、観光地としての〝格〟とでも言うんですかね、それが損なわれるというか。今後、代わりの方策が取られるとは思いますが、『路線バス撤退』ということが表に出ただけで、観光地として貧弱な印象を与えてしまう。それだけでマイナスですよね」 磐梯東都バスの回答では「少子化に伴う利用客減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減で、事業継続は困難と判断した」とのことだったが、要は「委託路線」は少子化に伴う利用客減少で委託費だけではやっていけない、「自主路線」もコロナによる観光客激減で厳しくなった、ということだろう。 本誌は猪苗代駅周辺で各路線の乗客状況を見たが、やはり乗客はほとんどいなかった。 民間信用調査会社調べの磐梯東都バスの業績は別表の通り。2021年3月期(2020年4月から2021年3月)は、最もコロナの影響を受けた時期で、それが如実に数字に表れている。 磐梯東都バスの業績 決算期売上高当期純利益2017年4億9000万円1074万円2018年4億3300万円1460万円2019年4億2500万円1833万円2020年4億1700万円1218万円2021年8200万円△6405万円2022年2億0300万円1323万円※決算期は3月。△はマイナス  一方、本誌の「存続の道筋は見い出せなかったのか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、という部分はあったのか」との質問には、磐梯東都バスは「従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難と考える。事業撤退で地域住民に迷惑を掛けないよう、後任事業者と自治体との間で調整していく」との回答だった。 猪苗代町の前後公前町長(今年6月25日の任期満了で退任)はこう話した。 「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていました。業績などの内情を示され、やむを得ないだろう、と。とはいえ、それで路線バスが完全になくなっては町(町民)としても困るので、以降は関係事業者を交えて代替策を検討してきました」 その後、前後氏は6月25日の任期満了で退任し、この問題は新町長に引き継がれることになった。 前後前町長が言う「代替策」について、町に確認すると「いま交渉中ですので、まだ詳細をお話できる段階にありません」とのこと。 今号で二瓶盛一新町長のインタビュー取材を行ったが、その際、二瓶町長は次のように語っていた。 「JR猪苗代駅を起点として町内や裏磐梯方面を走る磐梯東都バスが9月末で町内から撤退することになり、10月以降の路線バスの運用について現在協議を進めているところで、空白を生まないためにもスピード感と責任感を持ったうえで判断し、利用者の方々にご不便をおかけしないよう対処していきたい」 どうやら、関係者間の協議では、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことで、ある程度まとまっている模様。ただ、交渉ごとのため、「まだ詳しいことは話せない」、「もう少し待ってほしい」というのが現状のようだ。 喜多方―裏磐梯線の廃止騒動 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  以前、磐梯東都バスは前述した4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。 同路線は、主に中高生の通学や高齢者の通院などで利用されていたことから、同村内では「廃止されたら困る」、「12月以降はどうなるのか」といった声が噴出した。そこで、村は代替交通手段の確保に向けた検討を行った。 同社から「喜多方―裏磐梯間のバス廃止」の意思表示があった直後の同村2019年3月議会では、関連の質問が出た。当時の議会でのやりとりで明らかになったのは以下のようなこと。 ○村は喜多方―裏磐梯間のバス運行に対して、年間1600万円の負担金(補助金)を支出している。 ○磐梯東都バスが運行している路線は黒字のところはなく、経営的な問題から喜多方―裏磐梯間廃止の打診があった。そのほか、バス更新、運転手確保などの問題もある。村長が本社に行って協議してきたが、廃止撤回は難しいとのことだった。 ○「廃止」の意思表示を受け、村では運行を引き継ぐ事業者を探すか、村でバスを購入し、運行してもらえる事業者を探す等々の代替策を検討している。 こうして、すったもんだした中、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。 ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。 これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。 こうした事例があるため、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえるよう交渉し、その方向でまとまりつつあるようだ。 ところで、この「喜多方―裏磐梯間のバス廃止騒動」があった際、ある村民はこう話していた。 「同路線が赤字で厳しい状況だったのは間違いないのだろうけど、廃止の理由はそれだけではなさそう。というのは、元村議の遠藤和夫氏が自身の考えなどを綴ったビラを村内で配布しており、『路線廃止』報道があった直後、磐梯東都バスの件を書いていました。遠藤氏は同社の役員などに会い、そこで得た情報を掲載していたのですが、それによると、同社は数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後の路線バスのあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止に至ったというのです。言い換えると、村がきちんと対応していれば廃止を決断することもなかったかもしれない、と」 要するに、「廃止騒動」の裏には村の不作為があったというのだ。どうやら、磐梯東都バスは村に補助金申請のための相談をしていたが、村が動いてくれなかったため、業を煮やして「廃止せざるを得ない」と伝えた。それで、村が慌てて同社に「どうにかならないか」と持ちかけ、前述した「公有民営方式」に落ち着いたということのようだ。 ここに出てくる「元村議の遠藤和夫氏」は現村長。2015年4月の村議選で初当選し、その任期途中の2016年8月の村長選に立候補したが、当時現職の小椋敏一氏に敗れた。以降は、前出の村民の証言にあったように、村内で各種情報発信をしており、自身の考えなどを綴ったビラを配布していた。その後、2020年の村長選に立候補し、当選を果たした。 かつて、村長選を見据えて情報発信する中で、磐梯東都バス関連で現職村長の対応を問題視していた遠藤氏。その遠藤氏が村長に就いた後、磐梯東都バスの撤退問題に直面することになったわけ。 遠藤村長に聞く 遠藤和夫北塩原村長  村総務企画課を通して、遠藤村長にコメントを求めると、次のような回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されました。村にはその前の段階で、何らかの話があったと思われますが、事業者からはいつの段階で、どのような話があったのでしょうか。また、それを受けて、村としてはどのように応じたのでしょうか。 「6月5日に、磐梯東都バスが村へ訪問。本年9月30日をもって事業撤退する旨を報告。諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」 ――磐梯東都バスが撤退することで、村、村民の足、あるいは村内に来る観光客など、どのような影響が懸念されますか。 「猪苗代・裏磐梯の路線は村民の通学や通院・買い物に利用されているほか、観光客の移動手段にもなっていることから、磐梯東都バスが撤退後に路線バスの維持がなされない場合、住民や観光客の足が無くなり、住民に不便を来たしてしまうこと、そして観光客の減少につながる懸念が想定される」 ――磐梯東都バスの問題に限らず、いまの社会情勢等を考えると、地方における路線バスの廃止は避けられない面があると思います。一方で、路線バス廃止によって「交通難民」が生まれてしまう懸念もあるわけですが、磐梯東都バス撤退後の代替策についてはどのように考えていますか。 「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」 ――2019年に磐梯東都バスの「喜多方線廃止」問題が浮上した際、遠藤村長は一村民の立場で情報発信する中で、磐梯東都バスの役員と会い、「数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後のバス路線のあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止問題に至った」旨を指摘されていたと記憶しています(※当時、村民の方に現物を見せていただき、本誌記者の取材メモとして記録されている)。その後、村長に就いたわけですが、新たな関係性の構築や、協議の場を設けるなどの動きはあったのでしょうか。 「村長就任後に磐梯東都バスとは会っていたが、喜多方線廃止問題が具体的になる中、残念ながら相互に理解を得ることが難しくなり、喜多方線の撤退、猪苗代線も独自運行となった。解決に向けての打開策について協議を行ったが、磐梯東都バスの判断として、このような事態となった」 最大のポイントである磐梯東都バス撤退後の代替策については、「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」との回答だった。前述したように、同村では喜多方―裏磐梯間の路線バスで「公有民営方式」を採用し、当初の磐梯東都バス撤退後は会津バスに引き継いでもらっている。今回の4路線(※北塩原村が直接的に関係するのは猪苗代―裏磐梯間の路線バス)についても、会津バスに継承してもらって運行維持することを想定しているのだろう。 事業参入時に裏約束⁉  一方で、磐梯東都バスから撤退することを聞かされたのは6月5日で、村役場に同社関係者の訪問があり、「9月30日で事業撤退」の報告を受けたという。そのうえで「諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」とのことだった。 最終的な決定事項(撤退)の伝達としては、その日だったのだろうが、猪苗代町の前後前町長が「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていた」と話していたことからも、当然、その前の事前協議があったと思われる。 前出・村内の事情通によると、「昨年の段階で、磐梯東都バスから村には『このままでは厳しい』といった話があったようだ」という。 「その席で、磐梯東都バスは『このエリアでバス事業を始めるときに、渡部恒三衆院議員、高橋伝村長との約束が』と、過去に決め事があったようなニュアンスのことをチラつかせたそうです。要するに、何らかの裏約束があったかのような口ぶりだった、と。とはいっても、それは20年以上前のことですし、恒三先生は亡くなり、高橋伝さんも村長を退いてだいぶ経つ。磐梯東都バスの親会社の社長も代わりました。そもそも、本当に何らかの約束事(裏約束?)があったのか、あったとしてそれがどんな内容だったのかは、いまの村長をはじめとする関係者は誰も知らない。そのため、村では『そんな昔のことを持ち出されても……。それよりも、今後どうすべきかを一緒に考えていきましょう』といったスタンスで応じたそうです」 こうして協議を行ったが、結果的には存続には至らなかった。 マイカーの普及、人口減少による利用者の減少、少子化に伴う通学需要の縮小などを背景に、地方の路線バスはどこも厳しい状況。磐梯東都バスが事業参入したときには、すでにその流れが顕著になっていたが、コロナという思いがけない事態にも見舞われた。そんな中で、撤退は避けられなかったということだろう。