「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

 本誌8月号に「磐梯東都バス撤退の裏事情 会津バスが路線継承!?」という記事を掲載した。猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになり、その影響と背景を探ったもの。その中で、「会津バスが事業を引き継ぐことが決定的」と書いたが、その後、正式に会津バスが事業継承することが発表された。一方で、ある関係者は「磐梯東都バスから会津バスへの事業継承に向けて、〝最後の課題〟が残っている」と明かした。

営業所・車両の売買が〝最後の課題〟

磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所
磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所

 磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛け、福島県内では1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。

 磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。

 同社グループが猪苗代・裏磐梯エリアで路線バスを運行するに至った背景について、北塩原村の事情通はこう話していた。

 「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」

 こうして、約20年にわたって路線バスが運行されてきたが、「少子化に伴う利用客の減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減」を理由に、事業継続は困難と判断し、9月末で全4路線を廃止してバス事業から撤退することを決めた。

 磐梯東都バスから猪苗代・北塩原両町村に正式にそれが伝えられたのは今年6月だが、それ以前から、「このままでは事業を継続できない」旨は知らされていた模様。そのため、両町村は、「クルマを使えない住民が不便になる」、「観光客の足がなくなる」として、代替策を検討し、関係者間の協議で、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことが決定的になっていた。

 以前、磐梯東都バスは前述の4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。

 村は代替交通手段の確保に向けた検討を行い、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入し、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。

 ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。

 こうした事例もあったことから、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえると思う――というのが大方の見方だったのだ。

会津バスのリリース

磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)
磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)

 本誌8月号締め切り時点では、正式発表はなかったが、その後、会津バスは7月28日付で「猪苗代町内・北塩原村内の路線バスを10月1日から会津乗合自動車が運行します」とのリリースを発表した。

 同リリースには、おおむね以下のようなことが記されている。

 ○10月1日(※磐梯東都バスの最終運行日の翌日)から会津バスが4路線を運行する。

 ○運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ。

 ○猪苗代町、北塩原村と連携し、路線バスの維持、適正な運行を目指す。

 ○猪苗代町と北塩原村は、夏は登山、冬はスキーを中心とするアクティビリティーを楽しめ、風光明媚な猪苗代湖、磐梯山、五色沼などの豊富な観光資源があるため、路線バスだけでなく、貸切バス事業の活性化により、訪日外国人を含む観光誘客に貢献し、当該地域の経済効果が図られるものと考えている。

 ○スマホなどで、利用するバスの現在地や到着時刻などが分かる「バスロケーションシステム」を提供し、より便利で快適な利用を実現する。

 単に路線バスを引き継ぐだけでなく、新たなサービスや、運行エリアの観光資源を生かした事業展開などを考えていることが分かる。

 一方で、ある関係者によると、「事業継承に向けて〝最後の課題〟になっているのが、磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所の売買金額」という。

 磐梯東都バスは猪苗代町千代田地内、JR猪苗代駅から約500㍍のところに猪苗代磐梯営業所を構えている。自社所有の土地・建物で、敷地面積は約991平方㍍。不動産登記簿謄本によると、担保は設定されてない。

 前段で紹介した会津バスのリリースでは、磐梯東都バスから運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ、とのことだったが、その売買金額で折り合いが付いていない、というのが、前出・ある関係者の証言だ。

 この関係者はこう続ける。

 「磐梯東都バスは、営業所、車庫、車両をすべて合わせて9000万円で売却したい考えを示しました。それに対し、会津バスは、『そんなに出せない。もう少し安くならないか』といった意向のようです」

 こうして、両者間で折り合いがつかず、「事業継承に向けた〝最後の課題〟になっている」というのだ。

 そんな中、会津バスは猪苗代町と北塩原村に補助金要請をしたのだという。

 これを受け、関係者間で協議を行い、磐梯東都バスが営業所、車庫、車両などの売却価格に設定した9000万円のうち、4500万円を会津バスが負担し、残りは猪苗代町が75%(3375万円)、北塩原村が25%(1125万円)を負担(補助)する、といった案が出された。猪苗代町と北塩原村の負担割合は、バス路線の大部分が猪苗代町内を走っていることなどが加味された模様。

 猪苗代町、北塩原村はともに7月24日に議会全員協議会を開き、この案について説明した。本誌は、両町村が議会に説明するために配布した文書を確認しているが、似たような文面になっており、両町村間で調整したことがうかがえる。

 この案について、猪苗代町議会では特に異論はなく、理解が得られたという。

補助名目に疑義

磐梯東都バスの運行路線と主な停留所
磐梯東都バスの運行路線と主な停留所

 一方で、北塩原村議会では、反対ではないものの、ある問題点が指摘された。関係者はこう話す。

 「まず、会津バスが磐梯東都バスの事業を継承するのは非常にありがたいことです。路線バスは中高生の通学や高齢者の通院などには欠かせないものですし、観光客の足にもなっていましたからね。そのために、行政として補助金を出すこと自体への反対は出なかった。ただ、今回の場合は、バス運行にかかる補助金ではなく、民間事業者(会津バス)が、土地・建物などの不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)や車両、つまりは財産を取得するための補助金です。ですから、そういった名目での補助金支出が正しいのか、といった疑義が出たのです」

 同議会では、不動産取得について補助を出すのであれば、その不動産について一部、村に権利があるようにしなければならないのでは、といった指摘があったようだ。

 もっとも、後に本誌が村に確認したところ、「補助金の名目は未定」とのこと。つまり、補助金を出すにしても、不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)取得についての補助金なのか、別の名目にするのかはこれから決めるというのだ。予算化の時期についても、「9月議会ではなく、その後になる」(村当局)との説明だった。

 猪苗代町にも確認したが、「会津バスに補助金を出すこと自体は、議会から理解が得られたが、まだ予算化はしておらず、名目についてもこれから決めることになる」とのことだった。

 ちなみに、両町村が議会に説明するために配布した文書には、「予算の計上時期、方法については、国・県の指導により、適切に行う」と書かれていた。

 一方、会津バスに「磐梯東都バスの営業所、車庫、車両の取得について、猪苗代町、北塩原村に補助金を要請したそうだが、その見通しは」と問い合わせたところ、次のように回答した。

 「猪苗代町、北塩原村による補助金は見通しがついた。10月1日からの運行に合わせて陸運局への申請・許可取得を済ませ、営業所、車庫、車両も9月30日までに取得する」

 北塩原村では名目について疑義が出たようだが、両町村が補助金を出すこと、その金額は猪苗代町が3375万円、北塩原村が1125万円であること自体は、おおむね理解が得られている模様。あとは、どのような名目で、どのタイミングで予算化・支出するのか、ということになる。少なくとも、両町村に確認した限りでは、9月議会で予算化されることはなさそう。つまり、支出は、会津バスが磐梯東都バスの営業所、車庫、車両を取得した後、ということになる。

 補助金の名目がどうなるのかなど、不透明な部分はあるものの、〝最後の課題〟は解決の目処が立ったと言えそう。少なくとも、磐梯東都バス撤退後に「空白期間」をつくることなく、バス運行が行われるのは確実で、その点ではひと安心といったところか。

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末永 武史

すえなが・たけし

1980(昭和55)年生まれ。南相馬市出身。
新卒で東邦出版に入社。

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