会津若松「夜の街」リポート

会津若松「夜の街」リポート

 コロナ禍以降、夜の街で捕まえづらくなったタクシー・運転代行。会津地方の中核都市である会津若松市も例外ではなく、飲み歩いた後、帰りの車を確保できず、街角で立ち尽くす姿が見られる。会津若松市の「夜の街」の現状を追うシリーズの第2弾は、同市中心部を走るタクシーに焦点を当ててリポートする。

ネオン街をさまようタクシー難民

 23時過ぎ、会津若松市中心部の繁華街にあるパティオビル前で、30分近く立ってスマホをいじっている年配男性がいた。何か困りごとかと思って声をかけたところ、タクシー配車アプリ「GO」でタクシーを呼んでいるところだった。

 「市内在住だが、最近はタクシーが捕まりにくいので、飲食店にいるうちから呼ぶようにしています。私が最近活用しているのはこのアプリ(GO)。近くを走っている空車タクシーを自動手配してくれるサービスなんです。ただ、大都市圏とは違い、会津若松市は登録している会社も台数も少ないからすぐには捕まえられない。あっ、せっかく1台画面に表示されたのに、操作のタイミングが遅れて別の場所に向かってしまいました……」(年配男性)

 「GO」は大都市圏を中心に普及しており、2022年からは福島県も対象エリアとなった。だが、タクシー台数自体が少ない会津若松市ではマッチングするまでに時間がかかり、万能とは言えないようだ。

 邪魔したことを謝っていると、たまたま空車のタクシーが目の前を通り過ぎようとしていたので、手を挙げて呼び止めた。年配男性は「ありがとう。助かったよ」と笑顔でタクシーに乗り込んでいった。

タクシーに乗り込む年配男性
タクシーに乗り込む年配男性
「GO」の画面
「GO」の画面

 タクシーを捕まえるのに苦慮しているのはこの年配男性に限った話ではない。コロナ禍以降、会津若松市の夜の街を走るタクシーは激減しており、街角で〝空車〟のタクシーを捕まえるのが困難になった。そのため、飲食店を利用する人は店に入る前に〝お開き〟の時間を設定し、タクシーを事前予約するようになった。

 「歓楽街にタクシーや運転代行が並んでいたのは昔の話。それぞれ知り合いのタクシーや運転代行に電話して帰りの手段を確保してから飲み始める。それでも時間通りに来ることは少なく、待たされることがほとんど。こないだ一緒に飲んだ人は一切予約をしておらず、『神明通りまで行けばタクシーが拾えると思う』と歩き始めたので、『いつの時代の話をしているんだ』と慌てて止めました」(会津若松市在住の経済人)

 大沼郡在住で会津若松市によく飲みに行くという男性もこう明かす。

 「小規模のタクシー会社は夜中になると、一人の運転手が電話番を兼ねて待機している。その一人をうまく捕まえられるかどうかが帰宅時間を左右する。どの会社も出払っているタイミングだと、飲食店で飲みながら2時間近く待つこともざらにあります」

 コロナ禍のさなかだった2020年5月に取材した時点では、会津若松市中心部の至るところにタクシーや運転代行が停車していた。だが、今年4月中旬の週末に取材した際は、停車中の車はほとんどなかった。

 飲食店の前に停車していたタクシーの運転手は、「会社に車両はあるが運転手が不足しているのです」と明かした。

 「コロナ禍前は繁華街に何台も車を出していたが、いまは運転手不足で繁華街にいる車は当時の半分に満たない。そのため、たまたま配車のタイミングが重なると、街なかに空車のタクシーが1台もいなくなり、いつまで待っても来ないということが起こり得る。なぜ運転手がそこまで減ったのかって? コロナ禍の影響で賃金が下がったせいですよ」

 この運転手によると、タクシー運転手の多くは歩合制だが、コロナ禍で飲み歩く人が激減し、賃金が大幅に下がってしまった。そのため「これでは家族を養えない」、「60歳を超えていい区切りなので、このあたりでやめようと思う」と転職・退職する人が続出したのだという。

 一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会が昨年5月に公表した「タクシー運転者賃金・労働時間の現況」によると、2023年の福島県のタクシー運転手の平均賃金(年間推計額)は269万7900円(年齢66・2歳、勤続年数16・0年、月間労働時間196時間)。

 この調査によると、福島県の全産業労働者の賃金(年間推計額)は438万6900円なので、168万9000円もの格差があることになる。

 運転手の給与体系はA型賃金(固定給と歩合給を両方支給)、B型賃金(完全歩合制)、AB型賃金(完全歩合制だが賞与あり)などに分かれる。完全歩合制の場合、運転手の取り分の割合は50~60%というところが多い。歩合率50%、1日の売り上げ3万円で、月20日間稼働したと考えると、単純計算で30万円超(年間推計額360万円超)になるが、実際には売り上げから管理費や燃料費などを引いた金額に歩合率をかけるので、手取りはもっと少なくなる。

 首都圏では年収500万円の運転手がざらにいるようだが、会津若松市では「賃金はせいぜい20万円前後で、コロナ禍以降はその金額さえもらえていない運転手も多いのではないか」(あるタクシー業界関係者)。他の産業が人手不足で賃金を高く設定する中では、転職者が続出するのも理解できる。

運転手は7年で約2割減

 本誌2024年1月号「呼んでも来ないタクシー・運転代行」という記事で、一般社団法人県タクシー協会が明かした県内運転手数の推移は、2016年3月末3711人、2023年3月末3032人。7年間で679人(18%)減少したことになる。タクシーの運転手は第二種普通免許が必要で、30万円近い自動車学校費用が障壁となっているという事情もある。こうした中で、会津若松市周辺も運転手の人手不足が深刻になり、夜の街を走るタクシーが減ってしまったわけ。

 「タクシー会社にとっては、事前に予約を入れられると、その時間の前はフリー客を乗せづらくなり、効率が悪くなる。そのことで運転手の賃金が落ち込み、運転手が減るという悪循環になりつつあります。高齢化も進んでいるので、夜中まで車を走らせられる人も減っている。加えて不安定な勤務時間や酔っ払いなどの接客もしなければならないので求職者からは避けられがちです」(前出のタクシー業界関係者)

 タクシー会社にとっては、「普段は利用者が少ないのに、需要が集中する夜の時間帯だけタクシーが足りないと言われても困る」というのが本音のようだ。県タクシー協会の担当者によると、全国ではダイナミックプライシング(忙しいときは運賃が高くなり、暇なときは安くなるシステム)を導入する企業も出てきており、同協会では問題認識や先進事例の共有を行っているという。

 ただ、料金が高い首都圏でも運転手不足になっているところを見ると、根本的な待遇改善と若年層へのアピールも必要となりそうだ。

 今年3月には県内のタクシー運賃が4年ぶりに改定され、普通車の初乗り料金は580円から700円に上がった。それが運転手不足の解消にどこまでつながるだろうか。

 複数の業界関係者によると、タクシーを利用する側である飲食店利用者も未だコロナ禍前のレベルまで回復したとは言い難く、活況とはほど遠い状態が続いているという。

 会津若松市は市内人口に比して繁華街の飲食店が多く、個人経営の店舗が大半を占めるのが特色とされる。それらを支えてきたのが「無尽」だ。飲み会のたびに会員が掛け金を出し合い、一定期日を迎えたタイミングでメンバーの一人が融通の権利を得るシステムやその会のことを指す。

 従来、会津若松市の飲食店は「無尽」によって支えられてきた。個人経営の居酒屋にとっては何本の無尽を持てるか(毎回その店で開催されるか)が経営の行方を左右すると言われてきた。

 ところが、コロナ禍で無尽を自粛するムードが強まり、開催を見合わせるようになって以降、何年も再開していないケースが少なくないようだ。中には無尽を開いていたことについて、「もう過去の話だ」と語る経営者もいた。

 2023年7月号で会津若松市中心部のスナックの増減を取材した際は、イベントや総会、会議後の二次会需要が落ち込み、夜10時以降は閑散としているという話が聞かれた。こうした状況は現在も続いているようで、特にスナックやバーへの打撃が大きかったためか、飲食店ビルは空きテナントが目立った。

飲み歩かない中年層

 前出・タクシー運転手は、特に40代後半から50代の客層が減少したと指摘する。

 「食事が楽しめる飲食店や観光客向けの飲食店はそれなりににぎわっている。しかし、二次会で利用されていたスナックやバーの落ち込みが激しく、特に働き盛りのミドル層を乗せる機会が減ったと実感します。それに伴い、若い20~30代が上司や先輩に同行することも減っているようです。バーのマスターやスナックのママさんからは『ただでさえ若者のアルコール離れが加速している。このままだと繁華街で飲み歩くという文化そのものが無くなってしまうのではないか』と危惧する声が聞かれます」(同)

 タクシー運転手にとって稼ぎ時である夜間に飲み歩く人が減れば、売り上げ減は避けられない。

 会津地方在住のある経済人が危惧しているのは、2月の大雪で客足が途絶えたダメージでさらに転職していく運転手が増えてしまうことだ。

 「大雪による路面状況の悪化と大渋滞で1週間近く繁華街への人出が激減し、飲食店でもキャンセルが相次いだ。インバウンド客は想定外の大雪にむしろ喜んで歩き回っていたが、国内観光客は訪れず、その後も大雪を警戒して1カ月近く客足が少なくなった。その期間の売り上げ減はタクシー運転手にとって大きな痛手だったはずです。さらに運転手が減るようなことにならなければいいがと心配しています」(会津地方在住の経済人)

 32頁からの記事でも報じている通り、62年ぶりに災害救助法が適用されるほど記録的な積雪となった今年2月の大雪は、農業をはじめ観光業、小売業など全産業に大きな被害をもたらした。そこでダメージを受けた企業・個人事業主が「飲みに行っている場合ではない」と繁華街に行かなくなれば、その分タクシー運転手の収入は減る。そうなると今後転職を考える人が増え、さらにタクシーを捕まえるのが難しくなる、とこの経済人は懸念しているのだ。

 会津地方の複数のタクシー会社に確認したところ、2月以降に運転手が減少した事実はないとのこと。ただ、大雪で市内の経済活動が一時的に麻痺したことはボディーブローのように効いてきそうだ。

 農家の田植えがひと段落し、各種団体の総会が行われる5月下旬は会津若松市の飲食店にとって書き入れ時となる。そこで繁華街に客足が戻るのか。タクシー運転手の不安は消えない。

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