副業で「月額25万円」も夢じゃない!?フードデリバリー配達員の理想と現実

副業で「月額25万円」も夢じゃない!?フードデリバリー配達員の理想と現実

 ユニークな活動をしている人にインタビューして掘り下げるシリーズ。初回はフードデリバリーサービスの配達員に話を聞いた。首都圏では自転車などで移動する配達員の姿がすっかり日常風景になったが、地方都市でも近年利用が広がりつつある。県内での配達需要や配達員の働き方はどういう状況なのか。郡山市で会社員のかたわら配達員として働く男性に、その実態を語ってもらった。

ウーバーイーツやウォルト、出前館など大手サービスが参入

 一昨年、新型コロナウイルス感染症にかかり、数日間、療養生活を余儀なくされたとき、食料が底をついた。独身で、家族や同僚に頼むのも気が引けるのでどうしたものか、と考えていたとき、頼りになったのがフードデリバリーサービスだった。

 飲食店やコンビニから自宅の玄関先まで商品を届けてくれるサービスで、直接手渡しのほか、いわゆる〝置き配〟にも対応している。スマートフォンのアプリをダウンロードして利用登録し、メニューを選べば、数十分後には食事が届く。

 コロナ禍での在宅需要の拡大を背景に一気に普及し、県内では福島市、郡山市、いわき市、会津若松市でウーバーイーツやウォルト、出前館など大手サービスが参入している。すしやそばの出前、ピザなどのデリバリーと決定的に異なるのは、配達員が飲食店の従業員ではなく、サービス提供会社と個別契約している点。注文が入ると近隣にいる配達員にアプリで通知が届き、飲食店などで商品を受け取り、注文客に届ける。

 勤務時間などは定められておらず、注文1件ごとに報酬が支払われるので、自分のペースで働ける仕事として人気を集めている。配達員になる際は試験や面接などが行われるわけではない。専用アプリをダウンロードして身分証明書を送付すれば、数日後には審査が完了。動画研修で交通ルールやマナーを確認すると登録完了となる。

 自転車や原付、軽自動車などがあればすぐに始められる。ただし、排気量125cc以上のバイクや普通車での配達は、貨物軽自動車運送業に区分されるため、運送業者として福島運輸支局で事業用の緑ナンバーを取得しなければならない。

 郡山市に住むSさんは、排気量400ccの大型スクーター「スズキ・バーグマン」を相棒に夕方から深夜まで配達を続けている。本業は会社員だが、趣味の延長として始めたフードデリバリーが、いまや「もう一つの仕事」になりつつある。

 「X(旧ツイッター)のフォロワーが配達員を始めた様子を眺めているうちに、ふと『スズキのバイクオーナーによるミーティングに参加する際、フードデリバリー対応の緑ナンバーのバイクで行ったらウケるのではないか』と思いついたのです。それを実践したくて実際に配達員をやってみることにしました」

 福島市の福島運輸支局で講習を受け、緑ナンバーを取得。今年5月1日から配達員を始めたところ、すっかりハマってしまったという。

 配達依頼が入ると、店舗と届け先の場所、移動距離・時間、報酬額がアプリに表示され、承諾するかどうかを15秒ほどで選択しなければならない。最低報酬額は320円で、注文にかかる時間・距離・天候などを加味して報酬が設定される。首都圏では、繁忙期に1時間当たり3000円以上稼げるとされているが、郡山市では繁忙期で1500円、閑散期で1000円程度だという。

 「過ごしやすい時期はライバルとなる配達員が増える分、報酬額は下がる。逆に悪天候の日は報酬額が上がり、『クエスト』と呼ばれる特別ボーナスも設定されます。誰も受けたがらない長距離の配達依頼も料金が高いが、よくよく計算してみると1㌔当たり単価が50円程度の場合がある。拘束時間の長さや燃費を考えて、二の足を踏んでしまいます」

 ライバルとなる配達員は意外にも軽自動車が多い。県外ナンバーが目立ち、リース契約している人ではないかとSさんは分析する。

 Sさんはウーバーイーツなど大手3社に登録し、同時に配達依頼を受けているという。月収は、配達員を始めた5月が約13万円だったが、6月約23万円、7月約24万円と右肩上がりに伸び続け、8月には約29万円にまで達した。「空き時間にやる副業でこれだけ稼げるなら自分も挑戦してみよう」と考える読者も多いのではないだろうか。

 もっとも、ここから燃料代や保険料などの経費を差し引く必要がある。Sさんが乗っている大型スクーターの燃費は1㍑当たり20㌔前後。報酬の9%が燃料代に消える計算だ。

 「排気量125ccクラスの原付二種であれば燃費は1㍑当たり40㌔、50cc以下の原付一種に至っては1㍑当たり60~70㌔走る。それらで配達した方が採算性は高まりますが、新たに購入すれば結構な金額がかかります。私の場合、通勤に使っていたバイクをそのまま活用できたので、初期投資を抑える方を優先しました」

 また、副業による年間収入が20万円を超える場合は、会社員でも確定申告をする必要もある。Sさんはそのあたりを意識しておらず、当初、保険代や整備代をプライベート用としてカウントしていたが、次に保険を更新したり車両整備を行う際には経費として計算するという。

苦労が尽きない配達

Sさんと愛車のバーグマン
Sさんと愛車のバーグマン

 配達員がいかに稼げる仕事か分かっていただけたと思うが、もちろん苦労も少なくないという。Sさんが挙げるのが、商品をこぼしたり崩したりしないように運ぶ難しさだ。

 配達をしていると、ラーメンや味噌汁、丼物などを運ばなければならないこともある。店側が容器に料理を入れ、ビニール袋で梱包した状態で配達員に渡すが、容器のふたの閉め方が甘いと、少しの揺れで中身がこぼれてしまうという。

 「牛丼セットの味噌汁を配達していたら、容器のふたの空気抜きの穴から汁が漏れていたことがあった。一番安心して運べるのはテイクアウト容器がしっかりしているマクドナルド。飲み物は逆さにひっくり返しても容易にこぼれない構造になっています。ラーメンは難易度が高く、特に幸楽苑の冷やし中華はつゆがこぼれやすい構造で参りました。多くの配達依頼をこなしていると、同じチェーン店でもこぼれないように気をつかっている加盟店・店員と、全く気にしていないところの差が見えてきて興味深いです」

 駐車場所の問題にも悩まされたという。繁華街などでは停車スペースが限られる。「貨物車専用」の表示がある場所なら緑ナンバー車両として止められるが、時間帯が遅くなると「タクシー専用」に変わる。業務でやっている以上、交通ルール違反は避けたいが、サービス提供会社がノウハウを教えてくれるわけではないので、どう対応すればいいか迷った。だが、結局は周囲に迷惑をかけないようにしつつ、状況に応じて自己判断で対応するしかない、と割り切るようになった。

 このほか、地図アプリを使って注文者が指定する住所にたどり着いたものの、場所がずれていたり、データが反映されていなかったりして、さまようこともあるという。フードデリバリーサービスを利用する際には、住所を丁寧に教えることが必要ということが伝わってくる。

 当初は少しでもできたてに近い状態で届けるため、がむしゃらに早く運ぼうとしていたSさん。ところが、フードデリバリーのシステム自体がそうした点を考慮していないことに気付いた。

 「注文客のもとに向かう途中に、別の注文客の配達依頼が重複して入ることがあります(ダブル、トリプルと呼ばれる)。言われるがまま依頼を受け続けていると、最後の届け先に到着するころにはすっかり料理が冷めた状態となってしまうのです。これに関しても、しばらく葛藤がありましたが、少しでも早く温かい食事を届けてもらいたい人は『優先配達』という有料オプションを選んでいることに気付いてから、割り切るようになりました」

 このように話しつつも、Sさんは少しでもきれいで温かい状態で届けたいと考え、スポンジやカップホルダー、保温・保冷用のサバイバルシートなどを買い足し、自分なりに工夫を施しながら、丁寧な配達を続けているという。

 注文客の態度はさまざまで、笑顔で感謝を伝える人もいれば、ドアを10㌢だけ開け手を伸ばして商品を受け取るだけの人もいる。

 「お客様の中には会話が苦手そうな方もいます。挨拶をしても返事が返ってこないこともありますが、どの人も食事を楽しみに待っているのは確か。置き配を希望する方も多く、生活の一部として利用されているんだなと感じます」

 配達員には顧客からの評価制度が設けられており、通報内容によっては警告が来たりアカウント停止になったりする。少しの遅延や容器の不具合で「低評価」を受けることがあり、配達員にとっては死活問題だ。Sさんも一時は満足度が94%まで下がったが、高評価を続けることで低評価を打ち消せる仕組みになっており、現在は努力の甲斐あって100%を維持している。

「無心になれるのが魅力」


 フードデリバリーの魅力は、シフトに縛られず、好きな時間に働ける点だ。気が向いたときにアプリをオンにすれば稼働でき、疲れたらオフにすればいい。その自由さは副業を志す人にとって大きなメリットだ。

 一方で、報酬は完全歩合制。効率よく稼ぐには土地勘や時間帯の見極め、そして何より体力が欠かせない。夏の猛暑は体に堪えたが、それでも「バイクで走りたい」と思わせる魅力があるという。

 「バイクで走っていると、嫌なことを全部忘れられるんです。高速道路を何時間も走っていると、頭の中が空っぽになる。配達も同じで、気づけば夢中になって走っています」

 Sさんにとって、配達は収入源であると同時に、大好きなバイクを思いきり走らせる時間なのだ。疲れて帰ってきても、不思議と充実感が残る。妻や息子も理解を示しており、Sさんは感謝の意味を込めて報酬の大半を渡しているという。 

 地方都市でのフードデリバリーは、まだ成長途上だ。依頼が集中する日もあれば、まったく通知が鳴らない日もある。それでも、自由度の高さとやりがいに魅了され、挑戦する人は後を絶たない。

 「誰かの役に立てている実感があります。玄関先で『ありがとう』と言われるだけで疲れが吹き飛びます。もちろん副業としてもおすすめですよ。空き時間に少しやるだけでも、月給プラス数万円は達成できるはず。その分を子どもの教育資金や老後資金に回せると考えると大きいですよね。正直、私としては競争相手が増えると単価が下がるので困ってしまいますが……。これからも自分のペースで続けていきます」

 苦労と夢の両方を背負いながら、配達員は今日も街を走る。

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