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矢吹町

  • 【矢吹町】蛭田泰昭町長インタビュー

    【矢吹町】蛭田泰昭町長インタビュー

    経歴 ひるた・やすあき 1958年生まれ。早稲田大政経学部卒。農林中央金庫本店審査部主任考査役(部長)、高松支店長(四国地区総括)、全国酪農業協同組合連合会常務理事、共栄火災海上保険常勤監査役などを歴任。昨年12月の町長選で再選を果たす。  ――昨年12月の町長選で再選を果たしました。  「前回の選挙戦の際には『現場主義』を基本に、町民の皆さんの日々の中に足を運んで、声をきちんと聞いていくことを訴えました。車座になっていろいろと話をしたことが非常に良かったのですが、2020年1月に初登庁したあと、4月に矢吹町で初めて新型コロナの感染者が出まして、そこから本当に新型コロナとの戦いが始まりました。毎日のように防災無線で注意点を呼び掛けることをはじめ、対策に取り組む中で、皆さんと車座になって話を聞くこともできませんでした。私にとってそれは残念であり、ストレスでもありました。  新型コロナや二度の福島県沖地震、台風19号など対応に追われた1期4年でしたが、今回、あらためて、町内を回って、夕暮れ時の明かりのついた家の前から手を振ってくれる町民の姿を見て、胸が熱くなりました。住宅団地の前を通りました時には、わざわざ降りてきていただいて『町長さん、よくやってくれたね。また頑張ってください』と言っていただきました。こんなに嬉しいことはないですね。選挙戦を通して、一定の信任を得ることができましたことと、新型コロナでなかなか接触できなかった方々と様々な接点を持つことができて、私としてはやはり『これがエネルギーになるな』と。いい経験ができたと思います」  ――デジタル技術を活用したまちづくりを進めています。  「以前から国の『デジタル田園都市国家構想』に基づき、『デジタル田園タウン』の推進を図ってきました。東京都狛江市や三菱商事、成城大学などと連携し、データ連携と蓄積、サービスの共有を図ることで導入・運営コストの削減とパフォーマンスの大幅アップを目指しています。  また、町では子どもたちの運動能力向上や高齢者の健康づくりを目的として国の『デジタル田園都市国家構想交付金』の採択を受け、スポーツを軸にした地域課題の解決に向けた『スポーツ×デジタル振興プロジェクト』に取り組んでいます。新型コロナの影響もあり、町民の全世代で、スポーツや健康づくりへの参加機会を増やしていくことが重要です。そのため、2026年度の本格始動を目指し、町民がそれぞれの形でスポーツや運動を楽しめる町になるよう、体の組成や体力測定・健康診断などの数値を分かりやすく示し、全町民を対象にスポーツ科学に基づく健康長寿と体力・運動能力向上に役立つプログラムを提供していきます。同時に、ジュニアアスリート支援活動を行い、将来のアスリート発掘にもつなげていきたいと思っています。 まずは自身の健康状態や体組成を把握します。測定データは、今後開設予定の住民向けサイトなどから確認できるようにします。個々の課題に応じて、トップアスリートを指導するトレーナーが考案した運動メニューが提供される仕組みにします。  一方で、子どもたちだけでなく、健康長寿・予防医療・生活習慣病予防などに向けたヘルスケアも行っていきたいと思っています。今後はジム機能を備えたクラブハウスや町民が気軽に運動できる『マルチフィールド』を新設したいと思っています。  このプロジェクトはスポーツ庁の『スポーツ・健康まちづくり優良自治体表彰2023』にも福島県で初めて選ばれました。町民ばかりではなく、周辺地域との関係人口や交流・流入人口が増えるよう取り組んでいきたいと思っています。  また、公共交通にもデジタル技術を活用していきたいと考えています。以前から高齢者福祉向上のために、70歳以上の町民を対象にした『行き活きタクシー』というタクシー事業を改善を重ねながら行ってきました。ただ、2024年問題などタクシー運転手不足が叫ばれる中で、希望する方に『いつでも、どこでも』というサービス提供が難しくなってきました。そこで、代替策としてコミュニティーバスの実証実験を行っており、今後はオンデマンドバス、自動運転バスに移行したいと思っています。今後はAIを活用して、町民ニーズに合わせた運行内容の見直しなど、中心市街地における新たな運行システムの構築を図っていきたいと考えています。地域公共交通の充実は高齢者だけでなく、子どもたちの安全な登下校や部活動での移動手段の確保などへの発展性も見据えていきたいと思います。  よく『誰1人取り残さない』社会を目指すと言われます。特に高齢化の一人暮らしが増える中にあって『誰1人取り残さない』ためにデジタルの力を借りることは新しい社会を目指す上で大変重要です。福島県沖地震が発生した際、民生委員や行政区長など地域を見守っていただいている方には、地震発生直後の深夜から訪問活動を行っていただき、非常にありがたかった半面、そういった方々に過重な負担を欠けてはいけないと思いました。スマホやタブレットを各住宅に配布するなど、デジタルの力を道具として、民生委員などの負担を大幅に軽減できるのではと考えています。当然、個別ケースで従来の対面は重要ですが。特に5G時代になった今は、より鮮明な画像で確認できます。プライバシーの問題もありますが、平時はスイッチオフ、緊急時に使用する等、解消策は用意できると思います。  学校教育にもデジタル化は重要です。町内の進出企業に、小学校4校・中学校1校の全クラスに電子黒板を寄付していただきました。最大限活用し、今後は先生方の負担軽減や新たな教育に大いに活用していきたいと思います」  ――いい部屋ネットの自治体ランキングで、県内1位になりました。  「私は1期目、雑誌等インタビューで『矢吹町を魅力ある町にして選んでいただけるようにしたいと思います。そのためには、就業できる企業や農業法人等が必要ですし、生活に必要な物が豊かに手に入る環境整備も求められます。加えて福祉関係が充実して暮らし易い環境を順次整備していけば、交通の要衝であり、自然環境でも恵まれている矢吹町を選択してもらえると思います』と話しました。そんな中、『いい部屋ネットランキング』の『住み心地ランキング2023年(福島県版)』では、県内59市町村中第1位にランクされています。これまでの取り組みが少しでも功を奏して、矢吹町の評価アップに貢献できたのではと感慨深いものがあり、移住を希望される方にとっても参考にしていただけるものと思っています。また、矢吹町の子どもたちに、誇りと自信、郷土愛をもたらしてくれるものだと期待しながら、矢吹中学校等で矢吹町についてお話を続けています」  ――今後の抱負。  「長きにわたったコロナ禍は生活様式の見直しばかりではなく、働き方の変化をもたらしました。自宅や移住先におけるテレワークが多くの企業で行われることで、経費が安い土地へのオフィス移転なども行われています。今だからこそ、地方が本当に輝き、存在感を発揮できる条件が揃い始めたと私は思います。  矢吹町の交通面では、高速道路、新幹線、空港へのアクセスを考えれば素晴らしい立地条件であると言えます。都市部に負けない利便性と情報、仕事等を自然豊かな地方に住みながら、デジタルを大いに生かすことができます。2期目の抱負として、デジタル技術を活用したまちづくりを目指していきたいと思っています。現在は、町民の活動を記録し、住民サービスに生かす『ライフログモデル』の実用化に取り組んでいます。『誰1人取り残さない』町づくりにはツールとしてのデジタル活用が必要です。肝心なところは人間対人間のフェースtoフェースが大切ですが。町スポーツ×デジタル振興プロジェクトも推進し、活性化に努めていきます。  今年は、遊水地整備事業、国道4号の4車線化など矢吹町の将来の姿に大きな影響を与える事業が本格的に動き出します。2期目においても粉骨砕身、矢吹町を前に進めるために一層の努力を続けてまいります。町民の皆様のご理解、ご協力よろしくお願い申し上げます」

  • 矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景

    矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景

     受給対象ではない住居手当を7年8カ月にわたり受け取っていたとして、矢吹町の30代男性職員が戒告の懲戒処分を受けた。  報道や関係者の情報によると、この男性職員は2013年2月から賃貸物件を契約し、住居手当1カ月2万6700円を受給していた。  2015年10月に賃貸物件を引き払い、実家に住むようになったが、住居手当の変更手続きを怠り、同年11月から今年6月までの7年8カ月分、245万6000円を受給していた。職員は届け出を「失念していた」と話している。また、町もこの間、支給要件を満たしているかどうかの確認をしていなかった。  本人の届け出により発覚し、不適切受給した分は全額返還された。  同町総務課によると、毎月渡される給与明細に住居手当の金額は記されている。それを確認せず7年もの間手当をもらい続けたということになる。本当に故意ではなかったのか、それとも住居手当のルール自体よく理解せずもらっていたのか。  懲戒処分は免職、停職、減給(6月以内)、戒告の4段階がある。町は職員に故意や悪質性はなかったとして、懲戒処分の中で最も軽い戒告処分、監督する立場だった管理職の50代男性2人を口頭注意とした。処分は9月15日付。  町内在住の年配男性は「結構重大な問題だと思うけど、ずいぶん軽い処分だったので呆れました」と語る。  というのも、9月11日、群馬県富岡市の職員が住宅手当235万円を不正に受け取っていたとして、停職6カ月の懲戒処分となったことが先行して報じられていたからだ。  富岡市の榎本義法市長は「公務員としてあるまじき行為。誠に遺憾であり深くおわび申し上げる。綱紀粛正の徹底と再発防止を図る」(上毛新聞ウェブ版9月12日付配信)とコメントしている。  「金額的には富岡市より矢吹町の方が大きいが、軽い処分で乗り切ろうとしている。蛭田泰昭町長は来年1月任期満了を迎える町長選に再選を目指し立候補する意向を示している。不祥事という印象が付くのを避けようとしたのかもしれません」(町内在住の年配男性)  気になったのは、住居手当として2万6700円もの金額を毎月受け取っていた、ということだ。  町によると、住居手当はアパートなどの賃貸物件が対象で、マイホームに住む場合は支払われない。補助割合は家賃の半額分で、上限額は2万8000円。矢吹町で家賃5万6000円のアパートとなれば、比較的広い部屋で暮らせそうだ。  ちなみに、県市町村行政課によると、上限2万8000円は県・市町村共通の金額とのこと。  厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」によると、民間企業で住居(住宅)手当が支払われている割合は47・2%。金額は平均1万7800円。同調査は常用労働者30人以上を雇用する企業6400社が対象で、零細企業は含まれていない。住居手当がない企業もあるだろうから、実態は割合・金額ともにもっと低いと思われる。  本誌ではこの間、「民間準拠と言われている公務員の給与水準だが、実際には大きくかけ離れている」と指摘し、記事でそのカラクリを解き明かしているが、住居手当一つとっても民間準拠ではないことが分かる。そういう意味で、さまざまな背景が読み取れる住居手当の不適切受給だったと言える。

  • 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家

     国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」  令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。  遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区  3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い 木賊正男町長  そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。

  • 【矢吹町】蛭田泰昭町長インタビュー

    経歴 ひるた・やすあき 1958年生まれ。早稲田大政経学部卒。農林中央金庫本店審査部主任考査役(部長)、高松支店長(四国地区総括)、全国酪農業協同組合連合会常務理事、共栄火災海上保険常勤監査役などを歴任。昨年12月の町長選で再選を果たす。  ――昨年12月の町長選で再選を果たしました。  「前回の選挙戦の際には『現場主義』を基本に、町民の皆さんの日々の中に足を運んで、声をきちんと聞いていくことを訴えました。車座になっていろいろと話をしたことが非常に良かったのですが、2020年1月に初登庁したあと、4月に矢吹町で初めて新型コロナの感染者が出まして、そこから本当に新型コロナとの戦いが始まりました。毎日のように防災無線で注意点を呼び掛けることをはじめ、対策に取り組む中で、皆さんと車座になって話を聞くこともできませんでした。私にとってそれは残念であり、ストレスでもありました。  新型コロナや二度の福島県沖地震、台風19号など対応に追われた1期4年でしたが、今回、あらためて、町内を回って、夕暮れ時の明かりのついた家の前から手を振ってくれる町民の姿を見て、胸が熱くなりました。住宅団地の前を通りました時には、わざわざ降りてきていただいて『町長さん、よくやってくれたね。また頑張ってください』と言っていただきました。こんなに嬉しいことはないですね。選挙戦を通して、一定の信任を得ることができましたことと、新型コロナでなかなか接触できなかった方々と様々な接点を持つことができて、私としてはやはり『これがエネルギーになるな』と。いい経験ができたと思います」  ――デジタル技術を活用したまちづくりを進めています。  「以前から国の『デジタル田園都市国家構想』に基づき、『デジタル田園タウン』の推進を図ってきました。東京都狛江市や三菱商事、成城大学などと連携し、データ連携と蓄積、サービスの共有を図ることで導入・運営コストの削減とパフォーマンスの大幅アップを目指しています。  また、町では子どもたちの運動能力向上や高齢者の健康づくりを目的として国の『デジタル田園都市国家構想交付金』の採択を受け、スポーツを軸にした地域課題の解決に向けた『スポーツ×デジタル振興プロジェクト』に取り組んでいます。新型コロナの影響もあり、町民の全世代で、スポーツや健康づくりへの参加機会を増やしていくことが重要です。そのため、2026年度の本格始動を目指し、町民がそれぞれの形でスポーツや運動を楽しめる町になるよう、体の組成や体力測定・健康診断などの数値を分かりやすく示し、全町民を対象にスポーツ科学に基づく健康長寿と体力・運動能力向上に役立つプログラムを提供していきます。同時に、ジュニアアスリート支援活動を行い、将来のアスリート発掘にもつなげていきたいと思っています。 まずは自身の健康状態や体組成を把握します。測定データは、今後開設予定の住民向けサイトなどから確認できるようにします。個々の課題に応じて、トップアスリートを指導するトレーナーが考案した運動メニューが提供される仕組みにします。  一方で、子どもたちだけでなく、健康長寿・予防医療・生活習慣病予防などに向けたヘルスケアも行っていきたいと思っています。今後はジム機能を備えたクラブハウスや町民が気軽に運動できる『マルチフィールド』を新設したいと思っています。  このプロジェクトはスポーツ庁の『スポーツ・健康まちづくり優良自治体表彰2023』にも福島県で初めて選ばれました。町民ばかりではなく、周辺地域との関係人口や交流・流入人口が増えるよう取り組んでいきたいと思っています。  また、公共交通にもデジタル技術を活用していきたいと考えています。以前から高齢者福祉向上のために、70歳以上の町民を対象にした『行き活きタクシー』というタクシー事業を改善を重ねながら行ってきました。ただ、2024年問題などタクシー運転手不足が叫ばれる中で、希望する方に『いつでも、どこでも』というサービス提供が難しくなってきました。そこで、代替策としてコミュニティーバスの実証実験を行っており、今後はオンデマンドバス、自動運転バスに移行したいと思っています。今後はAIを活用して、町民ニーズに合わせた運行内容の見直しなど、中心市街地における新たな運行システムの構築を図っていきたいと考えています。地域公共交通の充実は高齢者だけでなく、子どもたちの安全な登下校や部活動での移動手段の確保などへの発展性も見据えていきたいと思います。  よく『誰1人取り残さない』社会を目指すと言われます。特に高齢化の一人暮らしが増える中にあって『誰1人取り残さない』ためにデジタルの力を借りることは新しい社会を目指す上で大変重要です。福島県沖地震が発生した際、民生委員や行政区長など地域を見守っていただいている方には、地震発生直後の深夜から訪問活動を行っていただき、非常にありがたかった半面、そういった方々に過重な負担を欠けてはいけないと思いました。スマホやタブレットを各住宅に配布するなど、デジタルの力を道具として、民生委員などの負担を大幅に軽減できるのではと考えています。当然、個別ケースで従来の対面は重要ですが。特に5G時代になった今は、より鮮明な画像で確認できます。プライバシーの問題もありますが、平時はスイッチオフ、緊急時に使用する等、解消策は用意できると思います。  学校教育にもデジタル化は重要です。町内の進出企業に、小学校4校・中学校1校の全クラスに電子黒板を寄付していただきました。最大限活用し、今後は先生方の負担軽減や新たな教育に大いに活用していきたいと思います」  ――いい部屋ネットの自治体ランキングで、県内1位になりました。  「私は1期目、雑誌等インタビューで『矢吹町を魅力ある町にして選んでいただけるようにしたいと思います。そのためには、就業できる企業や農業法人等が必要ですし、生活に必要な物が豊かに手に入る環境整備も求められます。加えて福祉関係が充実して暮らし易い環境を順次整備していけば、交通の要衝であり、自然環境でも恵まれている矢吹町を選択してもらえると思います』と話しました。そんな中、『いい部屋ネットランキング』の『住み心地ランキング2023年(福島県版)』では、県内59市町村中第1位にランクされています。これまでの取り組みが少しでも功を奏して、矢吹町の評価アップに貢献できたのではと感慨深いものがあり、移住を希望される方にとっても参考にしていただけるものと思っています。また、矢吹町の子どもたちに、誇りと自信、郷土愛をもたらしてくれるものだと期待しながら、矢吹中学校等で矢吹町についてお話を続けています」  ――今後の抱負。  「長きにわたったコロナ禍は生活様式の見直しばかりではなく、働き方の変化をもたらしました。自宅や移住先におけるテレワークが多くの企業で行われることで、経費が安い土地へのオフィス移転なども行われています。今だからこそ、地方が本当に輝き、存在感を発揮できる条件が揃い始めたと私は思います。  矢吹町の交通面では、高速道路、新幹線、空港へのアクセスを考えれば素晴らしい立地条件であると言えます。都市部に負けない利便性と情報、仕事等を自然豊かな地方に住みながら、デジタルを大いに生かすことができます。2期目の抱負として、デジタル技術を活用したまちづくりを目指していきたいと思っています。現在は、町民の活動を記録し、住民サービスに生かす『ライフログモデル』の実用化に取り組んでいます。『誰1人取り残さない』町づくりにはツールとしてのデジタル活用が必要です。肝心なところは人間対人間のフェースtoフェースが大切ですが。町スポーツ×デジタル振興プロジェクトも推進し、活性化に努めていきます。  今年は、遊水地整備事業、国道4号の4車線化など矢吹町の将来の姿に大きな影響を与える事業が本格的に動き出します。2期目においても粉骨砕身、矢吹町を前に進めるために一層の努力を続けてまいります。町民の皆様のご理解、ご協力よろしくお願い申し上げます」

  • 矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景

     受給対象ではない住居手当を7年8カ月にわたり受け取っていたとして、矢吹町の30代男性職員が戒告の懲戒処分を受けた。  報道や関係者の情報によると、この男性職員は2013年2月から賃貸物件を契約し、住居手当1カ月2万6700円を受給していた。  2015年10月に賃貸物件を引き払い、実家に住むようになったが、住居手当の変更手続きを怠り、同年11月から今年6月までの7年8カ月分、245万6000円を受給していた。職員は届け出を「失念していた」と話している。また、町もこの間、支給要件を満たしているかどうかの確認をしていなかった。  本人の届け出により発覚し、不適切受給した分は全額返還された。  同町総務課によると、毎月渡される給与明細に住居手当の金額は記されている。それを確認せず7年もの間手当をもらい続けたということになる。本当に故意ではなかったのか、それとも住居手当のルール自体よく理解せずもらっていたのか。  懲戒処分は免職、停職、減給(6月以内)、戒告の4段階がある。町は職員に故意や悪質性はなかったとして、懲戒処分の中で最も軽い戒告処分、監督する立場だった管理職の50代男性2人を口頭注意とした。処分は9月15日付。  町内在住の年配男性は「結構重大な問題だと思うけど、ずいぶん軽い処分だったので呆れました」と語る。  というのも、9月11日、群馬県富岡市の職員が住宅手当235万円を不正に受け取っていたとして、停職6カ月の懲戒処分となったことが先行して報じられていたからだ。  富岡市の榎本義法市長は「公務員としてあるまじき行為。誠に遺憾であり深くおわび申し上げる。綱紀粛正の徹底と再発防止を図る」(上毛新聞ウェブ版9月12日付配信)とコメントしている。  「金額的には富岡市より矢吹町の方が大きいが、軽い処分で乗り切ろうとしている。蛭田泰昭町長は来年1月任期満了を迎える町長選に再選を目指し立候補する意向を示している。不祥事という印象が付くのを避けようとしたのかもしれません」(町内在住の年配男性)  気になったのは、住居手当として2万6700円もの金額を毎月受け取っていた、ということだ。  町によると、住居手当はアパートなどの賃貸物件が対象で、マイホームに住む場合は支払われない。補助割合は家賃の半額分で、上限額は2万8000円。矢吹町で家賃5万6000円のアパートとなれば、比較的広い部屋で暮らせそうだ。  ちなみに、県市町村行政課によると、上限2万8000円は県・市町村共通の金額とのこと。  厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」によると、民間企業で住居(住宅)手当が支払われている割合は47・2%。金額は平均1万7800円。同調査は常用労働者30人以上を雇用する企業6400社が対象で、零細企業は含まれていない。住居手当がない企業もあるだろうから、実態は割合・金額ともにもっと低いと思われる。  本誌ではこの間、「民間準拠と言われている公務員の給与水準だが、実際には大きくかけ離れている」と指摘し、記事でそのカラクリを解き明かしているが、住居手当一つとっても民間準拠ではないことが分かる。そういう意味で、さまざまな背景が読み取れる住居手当の不適切受給だったと言える。

  • 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家

     国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」  令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。  遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区  3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い 木賊正男町長  そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。