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  • 断トツ得票を記録した深谷勝仁氏【須賀川市】【若手新人議員】

    断トツ得票を記録した深谷勝仁氏【須賀川市】【若手新人議員】

    新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏  本誌6月号に「須賀川市議選 異例の連続無投票が現実味」という記事を掲載した。任期満了に伴う須賀川市議選は、7月30日告示、8月6日投開票で行われたが、事前情報(6月号記事掲載時点)では、「無投票の可能性が高い」と言われていた。  前回(2019年8月)は、同市にとって、1954年の市制施行以来、初めての無投票で、市民からは「連続無投票は避けなければならない」、「無投票になった次は多くの候補者が出そうなものだが、そうならないのが問題だ」といった声が出ていた。  その後、7月3日に立候補予定者説明会が開かれ、それまで立候補の動きがなかった新人3陣営が出席。このうちの1人が正式に立候補表明したことから、定数24に25人(現職19人、新人6人)が立候補し、8年ぶりの選挙戦となった。  結果は別掲の通り。現職19人、新人5人の計24人が当選した。投票率は45・28%で、過去最低だった前々回の55・89%を10・61ポイント下回り、過去最低を更新した。 選挙結果(8月6日投開票、投票率45・28%)当 3141 深谷 勝仁 (39)無新当 1914 松川 勇治 (45)無新当 1640 鈴木 正勝 (70)公現当 1380 大河内和彦 (56)無現当 1334 深谷 政憲 (66)無現当 1278 大寺 正晃 (61)無現当 1206 溝井 光夫 (62)無現当 1203 佐藤 暸二 (67)無現当 1159 横田 洋子 (64)共現当 1078 鈴木 洋二 (64)無現当 1078 本田 勝善 (58)無現当 1072 浜尾 一美 (51)無現当 1067 五十嵐 伸 (60)無現当 1039 堂脇 明奈 (40)共現当 1016 大内 康司 (83)自現当  891 古川 達也 (50)無新当  881 市村 喜雄 (66)無現当  881 関根 篤志 (47)無新当  768 斉藤 秀幸 (47)無現当  767 石堂 正章 (65)無現当  722 柏村 修吾 (66)無新当  588 大柿 貞夫 (71)無現当  573 熊谷 勝幸 (52)無現当  516 小野 裕史 (54)無現 513 桜井  誠 (37)無新  この中で目に付くのが、新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏(39)。今回の当選者では最年少になる。  選挙戦となった直近3回の最多得票は2015年が2098票、2011年が2005票、2007年が2472票といずれも2000票から2500票の間。今回の深谷氏は3141票で、それらを大きく上回っている。今回2番目に得票が多かったのは新人の松川勇治氏(45)で1914票だから、2位に約1200票差を付けている。過去のトップ当選者との比較に加えて、今回の低投票率を考えると、深谷氏の得票がいかに多いかがうかがえよう。  深谷氏はどんな人物なのか。  本人のSNSなどに掲載されたプロフィールによると、1984年生まれ。須賀川高校(現・須賀川創英館)、東北文化学園大学医療福祉学部卒。2007年に市社会福祉協議会の職員となり、今年3月まで勤務した。  年度末に社協を辞め、4月以降は市議選の準備をしてきた格好だ。  過去に仕事上の付き合いがあったという市民はこう話す。  「深谷氏は、福祉を必要とする高齢者や障がい者、その家族などからの信頼が厚く、彼のことを悪く言う人は聞いたことがありませんね。そのくらい、誠実で人柄がいい。それに加えて『若さと実行力』というキャッチフレースが有権者に響いたのだと思います。社協職員の経験から、『社会的に弱い立場の人への支援』といったことも訴えており、それも共感を得たのでしょうね」  さらにある市民はこう語る。  「深谷氏の実家は、栄町にある『深谷石材店』で、そこは深谷氏の実兄が継いでおり、深谷氏自身もその近くに住んでいます。今回の選挙では、これまで栄町には議員がいなかったことから、『この地区から議員を出そう』と、町内会がかなり支援したようです(※編集部注・深谷氏の自宅は市内中山だが、栄町、中山などを含む複数大字の地区が新栄町町内会に該当する)。また、深谷氏は学生のころから熱心に野球に取り組んでおり、いまも『市町村対抗福島県軟式野球大会』に出場するなど、野球繋がりの支援も多かった。加えて、社協職員時代に、高齢者や障がい者、その家族などの評判も良かったから、そういった層も深谷氏に投票したと思われます。その結果、断トツの得票数になったものと思われます」  一方で、ある議員経験者は「ちょっと勝ち過ぎの感もある」と話す。  「表立っては言わなくても、深谷氏があれだけ票を取ったことで、自分の票が減ったとか、そういう思いを抱いている人もいると思う。もちろん、それはその人(票を減らした人)の問題なんですが、どうしても、こういう世界は、妬み嫉みがありますからね。まさか、議員活動を妨害されるようなことはないとは思いますが、ちょっとしたことで揚げ足を取られるようなこともあるかもしれない。深谷氏にはそういったことに気を付けつつ、萎縮することなく頑張ってほしいですね」 深谷氏に聞く  深谷氏に話を聞いた。なお、本誌が取材したのは8月22日で、議員任期がスタートする前だった。  ――議員を目指したきっかけは?  「社会福祉協議会に勤務していた時の最初のころは高齢者福祉、後半は障がい者福祉を担当していました。その中で、高齢者福祉、障がい者福祉ともに、まだまだ課題があると感じており、『福祉の充実』を図りたいというのが、議員を目指した一番の要因です」  ――3000票オーバーという得票についてはどう捉えているか。  「正直、驚いています。喜びと同時に責任を感じます」  ――本誌取材では、若い世代、高齢者・障がい者福祉を必要としている人、その家族などに支持が広がったと聞いている。  「確かに、新聞等では『若い世代の票が入った』と書かれていましたが、実際にどうだったかは分析が追いついていません。ただ、私自身、小学生の娘が2人いますから、子育て世代や、高齢者・障がい者福祉を必要としている人たちの思いは受け止められると思っていますし、(任期スタート後は)そのための活動をしていきたいと思っています」  ――もう1つは、町内会の支援が大きかったとも聞いた。  「新栄町町内会では、(議員が誕生するのは)40年ぶりくらいだそうです。この地区では、JR須賀川駅西口開発(※深谷氏の地元は須賀川駅西側に当たり、須賀川駅は西側から駅に出入りすることができないため、西側に出入り口と駅前広場をつくる計画が進められている)などの動きもありますから、そういった点からも、町内会の皆様に応援していただけたのだと思います。そのほか、同級生、先輩・後輩にも支えていただきました」  ――当然、議会の常任委員会は、福祉関係を所管する委員会に所属したい?  「その辺はどうなんでしょうか。市議会は会派制ですから、会派で誰がどの委員会になるかということだと思います」  ――就任後すぐに9月定例会(※通常は9月中に行われるが、選挙があった年は9月末から10月にかけて行われる)が開かれることになるが、早速、一般質問をするか。  「その辺も、会派の構成などが決まってからですかね」  議員の任期は9月4日からスタートする。「若さと実行力」を売りにする深谷氏の今後に注目したい。

  • 【福島県議会選挙】自民現職2人に新人2人が挑む【須賀川市・岩瀬郡】

     須賀川市・岩瀬郡選挙区(定数3)は、立憲民主党の現職宗方保氏が引退し、その後継者と、自民党の現職2人、共産党候補の4人で争う構図が予想され、激戦区と言える。 「共産候補も侮れない」との声も 渡辺康平氏 水野透氏  現在、同選挙区の現職は、宗方保氏(県民連合、6期)、水野透氏、渡辺康平氏(ともに自民党、1期)の3人。前回(2019年11月10日投開票)は、それまで5期務めていた自民党の重鎮・斎藤健治氏が引退したこともあり、6人が立候補する激戦だった。斎藤氏の引退を受け、自民党は新人2人の公認候補を擁立したが、同選挙区で自民公認候補が2人になるのは初めてだった。そのため、「宗方氏は安泰としても、自民党公認候補の2人がどれだけ得票できるか、場合によっては他候補が〝漁夫の利〟を得る可能性もあるのでは」との見方もあった。  ただ、結果は宗方氏と自民党公認の新人2人が当選した(前回の投票結果は別掲の通り)。  今回は、早い段階で現職の水野氏と渡辺氏が自民党公認での立候補が決まり、共産党も前回選挙に立候補した丸本由美子氏を擁立することを決めていた。  一方、宗方氏は「今期限りで引退する可能性が高い」(ある関係者)と言われていたものの確定的な情報はなかった。ただ、ある陣営の関係者は、5月ごろの時点で「宗方氏が出るにしても、引退するにしても、玄葉光一郎衆院議員の意向を汲んだ人が出てくるのは間違いない。ですから、すでに立候補を決めている自民党の現職2人と共産党の丸本氏、そこに宗方氏、もしくはその後継者(玄葉衆院議員の意向を汲んだ人)を加えた4人の争いになると思って準備をしている」との見方だった。  その後、宗方氏は6月4日に会見を開き、今期限りで引退する意向を表明した。地元紙報道によると「自分にできることを全うし、東奔西走の毎日だった。今後は一市民として発想力と行動力を持って地域貢献したい」(福島民友6月5日付より)と述べたという。  宗方氏の後継者については、当初から玄葉氏の秘書・吉田誠氏の名前が挙がっており、宗方氏の引退表明から約2週間後の6月19日に、立憲民主党公認で立候補することを表明した。  吉田氏について、須賀川市・岩瀬郡の有権者はこう話す。  「宗方氏が須賀川市のまちなか(旧市内)出身なのに対し、吉田氏は旧市内より人口が少ない東部地区出身だから、その辺がどうか。一方で、自民党の水野氏と地盤がかぶるところもあるから、その影響も気になるところです」(須賀川市民)  「人柄はいいと思うが、知名度としてはそこまでではないと思う。まあ、玄葉さんとその支持者が本気になってやるでしょうから、有力であるのは間違いないでしょうけど」(岩瀬郡の住民)  大方の見方では、「自民党の現職2人と吉田氏の3人が有力だろう」とのこと。ただ、「共産党の丸本氏も、昨夏の参院選に比例で立候補し落選したものの、(同じく比例で立候補して当選した)岩渕友氏とタッグを組んで顔と名前を売った。処理水放出など、自民党にとっては逆風もあるから、丸本氏も侮れないと思う」と見る向きもある。  吉田氏が宗方氏のごとく強さを発揮するのか、自民党は2議席を維持できるのか、共産党の議席奪取はあるのか等々が見どころだ。

  • 須賀川市議選異例の連続無投票!?

    須賀川市議選異例の連続無投票!?

     任期満了に伴う須賀川市議選は、7月30日告示、8月6日投開票の日程で行われる。前回は同市にとって、1954年の市制施行以来、初めての無投票だったが、今回も無投票の可能性があるという。 「選挙時期を変えるべき」との声も  同市議選は、7月3日に立候補予定者説明会が行われることになっており、そこで大体の顔ぶれが明らかになると思われる。 ただ、本誌が5月中旬までに同市内で取材した中では「定数24(欠員1)に対して、新人数人が立候補を表明、あるいはその動きを見せているが、新人と引退する現職が同数になるとみられ、無投票になるのではないか、というのが現在のところの情勢です」(ある関係者)という。 ある市民はこう話す。 「数カ月前の時点では、定数24に27人くらいが立候補するのではないかとみられていましたが、最近になり、地元夕刊紙で無投票になる可能性があることが報じられました。普通、無投票になった次の選挙は多くの候補者が出そうなものですが、そうならないのが問題だと思います」 冒頭で書いたように、前回の同市議選は1954年の市制施行以来、初めての無投票だった。 前回は新人9人が立候補するなど新たな顔ぶれが出てきたが、市議選を見送り県議選に立候補した現職が3人いたほか、引退した議員も多かった。結果、新人は多かったものの定数24に現職14人、元職1人、新人9人の計24人の立候補者で、無投票での当選が決まった。 当時、市民からは「審判を受けなかった議員が市民の代表と言えるのか」、「もし議会(議員)が失態を演じたら、『だから無投票はよくない』、『やっぱり、市民の審判を受けていない議会はダメだ』と酷評されることになるだろう。そのことを肝に命じて議員活動をしてほしい」といった声が聞かれた。 その一方で、「初の無投票で、どう評していいのか分からない」と語る人もおり、有権者も困惑していた様子がうかがえた。それだけ、同市にとっては異例のことだったのだ。 そんな中、前出の市民は「無投票になった次は多くの候補者が出そうなものだが、そうならないのが問題だ」との見解を示したわけだが、確かに、そういった傾向がある。 他市町村では揺り戻しも  例えば、本誌4月号で4月18日告示、23日投票で行われた北塩原村議選の直前情報をリポートした。同村でも、前回(2019年4月)が村として初めて議員選挙が無投票となった。 迎えた今回の村議選は定数10に対し、現職6人、元職2人、新人8人の16人が立候補した。その背景には、村内(議会内、議会と執行部)の勢力争いがあったという事情もあるものの、前回の無投票からの揺り戻しがあった格好だ。 ある意味、それは正常な流れだろう。村内では以前(前回の村議選直後)から「無投票によって議員の質が落ちている。次回は絶対に無投票は避けなければならない」といった声や、実際に議会でのやり取りや議員の普段の振る舞いなどを見て、「やっぱり、村民の審判を受けていない議員はダメだ」との意見を聞くことが少なからずあった。「次回は絶対に無投票を避けなければならない」といった空気があり、今回はより多くの候補者が出る選挙戦になったのである。 須賀川市では、多くの有権者が「無投票は良くない」と思っているのは間違いないが、具体的にその動きが見えないのが問題だ、というのが前出の市民の指摘である。 8月選挙の弊害  一方で、以前から言われているのが「選挙の時期を変えるべきではないか」ということだ。 というのは、同市議選は2007年までは4月に実施されていた。ただ、その次の改選期である2011年は、直前に東日本大震災・原発事故が発生したため、特例で選挙(議員任期)を先伸ばしにした。結果、同年以降の市議選は、現在の8月に市議選が行われることになった。 ある識者はこう話す。 「いまの選挙期間は、夏休み期間中のお盆前になるため、各地区では夏祭りの準備だったり、それぞれの勤め先でも長期休暇前にやっておかなければならない仕事に追われていたりと、いろいろ忙しいんです。また、須賀川市はキュウリ農家や果樹農家などが多いが、それらの農繁期でもあり、収穫最盛期に選挙どころではないという声も少なくありません。加えて、近年は猛暑で選挙運動をする側も、選挙に行く側も大変ですよね。そういったさまざまな事情から、この時期の選挙は市民の関心が得られにくい、という大きな問題点があります。ですから、この時期の選挙は良くないので、以前の4月選挙に戻せば、少し状況は変わってくるのかな、と思います」 もし、以前の選挙時期(4月選挙)に戻そうと思ったら、議員全員の総意で、その直前に総辞職する必要がある。 ある関係者は「実際にそうした話も出た」という。 「前回選挙後、『今回は無投票だったから、(数カ月、任期を返上して議員全員が辞職し、以前の選挙時期に戻すことについて)以前より抵抗なくできるのではないか』といった意見があった。実際、議会でそれを提案した議員もいたそうですが、『あなた1人で辞めれば』と言われたそうです。当然、提案した議員からすると、『それでは意味ないだろ』という話になりますが、その程度の認識でしかないということです」 もっとも、選挙時期を以前の4月に戻したとして、現在の8月選挙よりは市民の関心が得られやすくなるだろうが、実際に立候補する人が増えるかどうか、というとまた別の問題になろう。 議員のなり手不足については、機を見てあらためてリポートしたいと考えるが、本誌では以前から、会社勤めの人でも議員活動ができるような工夫が必要であると訴えてきた経緯がある。議会として、そういったことを考えていかなければならないだろう。 同市議選までは、まだ少し時間があり、今後情勢が変わる可能性もある。異例の連続無投票となるのか、それとも無投票回避のために候補者が出てくるのか、が注目される。

  • 檀信徒から不正を疑われた【須賀川市】無量寺

    檀信徒から不正を疑われた【須賀川市】無量寺

    (2022年10月号)  須賀川市の「無量寺」(小山宗賢住職)で、檀信徒が屋根葺き替え工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたところ、寺側が拒否したため、檀信徒から「何らかの不正があったのではないか」と疑われる事態に発展している。宗教法人の財産は公開が原則のはず。騒動を追った。 住職と役員の隠蔽体質が露呈  須賀川市雨田字宮ノ前にある無量寺は天台宗で、法人登記簿によると設立は1953(昭和28)年、基本財産は総額348万6000円。代表役員(住職)の小山宗賢氏は2008(平成20)年に就任した。檀信徒数は約420。 そんな無量寺では4年前、老朽化していた本堂屋根の葺き替え工事を行っていた。責任役員2名と総代1名を正副委員長とし、檀信徒二十数人や小山住職などを委員とする「本堂屋根葺き替え建設委員会」(佐藤和良委員長。以下、建設委員会と略)を設立。工事に関する協議は同委員会のもとで行われた。 その結果、①設計監理は土田建築設計事務所(須賀川市)、②施工は大柿建業(同)、③工事資金は1836万円、④工期は2018年10月から19年3月末等々が決まった。 工事資金計画表によると、1836万円の内訳は檀家からの寄付が1059万円、無量寺特別会計からの充当が707万円、金融機関からの借り入れが70万円。ここから大柿建業に約1720万円、土田建築設計事務所に約56万円、残りを会議費、雑費、予備費に充てる計画だった。 その後、葺き替え工事が始まり、予定より3カ月早い2018年12月末に工事は終了。19年1月に建設委員会による立ち会い検査を経て引き渡しが行われた。 竣工を受け、建設委員会が檀信徒に宛てた報告文書には次のように書かれている。 《檀信徒の皆様には何かと出費の多き折りにも関わらず、多くのご寄付をいただきました。(中略)土田建築設計事務所には契約の回数以上に現場に足を運んでいただき、きめ細かい指導・監理をしていただき、工事をスムーズに進めることが出来ました。大柿建業は、設計事務所が称賛するほど丁寧で誠実な仕事ぶりでした。さらに、当初の想定よりも屋根下の腐食が酷く、野地板・垂木に加えて、その下の根太も交換しなければならない個所もありました。この想定外の修復に関しては別途支払いの契約でしたが、大柿建業では追加料金(約26万円)の請求をせず、ご寄付として入札代金内で対処していただきました》 収支決算報告書によると、当初予定より寄付が多く集まったため金融機関から借り入れする必要がなくなり、収入総額は約1812万円。これに対し、支出総額は約1781万円で、差し引き31万円が特別会計に戻された。同報告書には「2019年3月5日に監査を行ったところ適正だった」とする監事2名の印鑑も押されていた。 一見すると、何の問題もなく工事は完了し、決算報告も終えたように映る。しかし、檀信徒の関根兼男さんは工事が始まった直後から、さまざまな疑問を呈していた。 「工事を見ていておかしいと思うことが度々あり、その都度、建設委員会の佐藤委員長や小山住職、土田建築設計事務所に質問をぶつけていた。しかし『あなたには関係ない』と取り合ってもらえなかった。私は檀信徒で工事資金も寄付しているので関係なくはない。にもかかわらず工事中の寺に入って写真を撮っていたら、建設委員会の生田目進副委員長に『不法侵入で警察を呼ぶぞ』とまで言われた」(関根さん) まるで“邪魔者扱い”されていた関根さん。実は、関根さんは大工で、建設委員会が2018年8月に行った施工者を決める入札に参加し約1840万円で札入れしたが、前出・大柿建業より高かったため工事を受注できなかった経緯がある。 「受注はできなかったが、檀信徒としてだけでなく、大工としても工事の進め方に関心があったので現場に足を運んでいただけ。そしたらおかしいと感じる場面を度々見掛けたので、これは建設委員会や小山住職に言うしかないと思って」(同) 具体的には▽足場と落下防止ネットは間違いなく取り付けられていたか、▽腐ったり痛んだりしていた垂木、野地板、広木舞は交換されたのか、▽塗料は当初指定のものが使われたのか――など。つまり、関根さんの目には工事が適正に行われていないと映ったわけだが、これらを適正に行うと、例えば金額は100万円かかるのに、仮に▽足場と落下防止ネットがきちんと取り付けられていなかった、▽垂木、野地板、広木舞が交換されていなかった、▽指定とは別の塗料が使われていた――とすれば80万円で収まり、予算は決算報告より余った(使われなかった)可能性があるというのだ。そうなると、余った金はどこにいったのかという問題も浮上してくる。 関根さんは入札前に建設委員会から渡された見積書に、工事項目ごとに細かく金額を書き込んで札入れしたが、 「その工事項目と実際に行われている工事が違っていた。例えば見積書の塗装工事欄は『オスモカラーを使え』となっていたので、それに沿った金額を書いて札入れしたのに、実際の工事ではオスモカラーは使われていなかった」(同) 要するに関根さんは「これでは真面目に見積もりをした意味がない」と言いたいわけ。 しかし前述の通り、建設委員会や小山住職は関根さんの質問に耳を貸さなかった。おそらく両者は「工事を受注できなかった腹いせに難癖をつけている」としか捉えていなかったのかもしれない。 無関係の弁護士に対応を〝丸投げ〟  一方、土田建築設計事務所は、設計監理の契約先は無量寺であり、契約先を差し置いて関根さんの質問に答えるのは馴染まないとして、東京都内の松田綜合法律事務所(以下、松田法律事務所と略)を代理人に立てて対応を一任した。 そんな孤軍奮闘の関根さんに、ようやく援軍が現れたのは2021年4月。雨田地区の総代になった瀬谷広至さんが問題に関心を示してくれた。以降は関根さんと瀬谷さんの二人で、建設委員会や小山住職、土田建築設計事務所や大柿建業などにアプローチを試みているが、解決に向けた成果は得られていない。 「関根さんの話を聞き、もしおかしな点があるなら正すべきと考え一緒に調査に乗り出した。しかし、建設委員会や小山住職は『一人二人の言い分に取り合っていたらキリがない』と私たちの疑問に向き合おうとしない」(瀬谷さん) 関根さんと瀬谷さんは今年2月、建設委員会と小山住職に対し、工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたり、工事の進め方を尋ねるなど10の申し立てからなる提案申立書を提出した。すると同4月、建設委員会から「土田建築設計事務所の代理人である松田法律事務所に問い合わせてもらうという結論に達した」との回答が届いた。 関根さんと瀬谷さんは、建設委員会メンバーや複数の檀信徒から「佐藤委員長が『弁護士に任せたので一安心』と言っていた」とか「小山住職が『弁護士に任せることに異論はないか』と建設委員会メンバーに多数決を取っていた」という話を聞いていた。まるで建設委員会と小山住職が松田法律事務所に代理人を依頼したかのような口ぶりだが、そうではない。同事務所が同3月に建設委員会に宛てた文書にはこう書かれている。 《貴委員会(※建設委員会)は、無量寺の檀信徒である瀬谷広至氏及び関根兼男氏から、令和4年2月13日付の「無量寺本堂屋根葺き替え工事に関する書類の閲覧及び質問並びに提案申立書」に記載されている各事項についての質問を受けている件について、当社(※土田建築設計事務所)に対し質問を行い、回答を求めておられます。 当社は無量寺から、本堂屋根の瓦葺き替え工事の設計監理業務の委託を受けたところ、当該業務は適切に遂行されており、貴委員会及び無量寺に対し負うべき責任はなく、特別対応すべき義務はないものと認識しております》 松田法律事務所は建設委員会からの問い合わせに「土田建築設計事務所の代理人」として対応している様子がうかがえる。 「建設委員会メンバーや檀信徒の中には、佐藤委員長や小山住職が弁護士を雇ったと勘違いしている人が多い。しかし、松田法律事務所はあくまで土田建築設計事務所の代理人にすぎず、両者の代理人ではない。にもかかわらず両者は、無関係の松田法律事務所に回答を〝丸投げ〟しようとしたのです」(瀬谷さん) 本誌が松田法律事務所に問い合わせると、担当弁護士もこのように話していた。 「私たちは土田建築設計事務所の代理人であり、建設委員会や小山住職とは関係ない。しかしどういうわけか両者は、私たちが両者の代理人も兼ねていると勘違いしているフシがある。両者には『それは誤解だ』という趣旨の手紙を出したが、きちんと理解してくれたかどうか」 こうなると、佐藤委員長や小山住職は代理人契約を交わしていないにもかかわらず「弁護士に任せた」と建設委員会メンバーや檀信徒にウソをついた可能性も出てくる。 ちなみに担当弁護士は、土田建築設計事務所の仕事ぶりについて 「無量寺との契約に基づき適切に行った。監理設計料も適正な金額だったと思います」 と強調。一方で、関根さんと瀬谷さんに対してはこうも語った。 「檀信徒が寺に関する情報の開示を求めるのは当然。それに寺が応じようとしたものの、依頼人(土田建築設計事務所)に聞かなければ分からない事案が出てきたら、依頼人は寺と監理設計契約を結んだ立場上、寺側に答える用意はある。ただ、契約関係にない檀信徒の質問に答えることはできない」 つまり、関根さんと瀬谷さんの質問に無量寺が答えるなら、土田建築設計事務所(松田法律事務所)は協力するというわけ。 土田建築設計事務所にも直接話を聞こうとしたが「弁護士にすべて任せている」と断られた。 60人超の檀信徒が「署名」に協力  工事を行った大柿建業は何と答えるのか。 「工事は4年前なので細かい点は覚えていないが、垂木が腐っていたので交換し、その後、野地板を張って瓦をかけて塗装と、予定外の作業が結構あった。腐った個所に足場をかけると崩落する恐れがあるため、順番に直しながら足場をかけていった。予定外の作業が出た場合はその度に土田建築設計事務所に連絡し、一緒に現場を見てもらった。工期は(2019年)3月までだったが、12月を過ぎると雪で屋根に上がるのは危険なため、作業を急いだ記憶がある。工事代金は千五百数十万円で、そこに消費税が加わり千七百数十万円が振り込まれたはず。その時の銀行の通帳は残っているので、それを見れば正確な金額は分かる」 前述の通り、寺から大柿建業に工事代金として支払われたのは約1720万円なので、発言の金額と照らし合わせると間違いなく支払われたと見てよさそうだ。 「他人がどう評価しているか分からないが、ウチとしては精一杯の工事をやったつもりだ。その時撮った作業の様子や工事個所の写真は、すべて寺に渡した。関連の資料も寺に残っているはず。えっ、檀信徒がそれを見せろと言っているのに寺は見せないんですか? すべて見せれば疑いは晴れると思うんだが」(同) 松田法律事務所と大柿建業に共通するのは「なぜ寺側は隠そうとするのか」「すべて公開すれば済む話」というもの。裏を返せば「後ろめたいことがあるから隠したがっている」となるが、真相はどうなのか。 そもそも宗教法人が財産に関することを公開しないのはおかしい。宗教法人法第25条第3項によると、宗教法人は財産目録、収支計算書、貸借対照表、境内建物に関する書類、責任役員らの議事に関する書類や事務処理簿などについて、信者らから閲覧請求があった時は閲覧させなければならない。宗教法人を管轄する県私学・法人化に確認すると「会計帳簿などの資料は閲覧の対象外」というので領収書は見られないようだが、葺き替えた屋根が「寺の財産」に属することを踏まえると、関根さんと瀬谷さんが確認しようとするのは檀信徒として当然の権利だ。 関根さんと瀬谷さんは、前述・今年4月に寄せられた建設委員会と小山住職の回答に納得がいかないとして、すぐに再質問書を送ったが返事はなかった。そこで2人は、約420ある檀信徒を一軒一軒回り事情を説明、寺側に誠実な回答を求める署名に協力してほしいと要請した。すると、同9月中旬までに全体の7分の1以上に当たる60人超が署名してくれた。 「檀信徒の中には『本当は署名したいが、住職には法事などで世話になっているので勘弁してくれ』という人も結構いた。署名集めを通じ、私たちが思っている以上に、建設委員会や小山住職のやり方に不満を持っている檀信徒が多いことがよく分かった」(関根さん) 署名集めの過程では、新たに阿部計一さんも「自分もかつて、佐藤委員長に別の建物工事の明細書を見せるよう求めたが、結局見せてもらえなかった」として関根さんと瀬谷さんに協力する意向を示し、現在は3人で活動中だ。 同9月下旬には、集めた署名を再々質問書と一緒に建設委員会の正副委員長や小山住職らに送り、回答を迫っている。一人二人ではなく、60人超もの檀信徒が不信感を露わにしているのだから、事態は深刻だ。 求められる「公開」と「公平」  本誌は小山住職に取材を申し込んだが「私から話すことは何もない。すべて建設委員会で決めたことだ」と終始逃げの姿勢だった。 建設委員会の佐藤委員長には質問書を送り、電話でも「期限までに回答するか、直接お会いしたい」と伝えたが「私の一存で答えるわけにはいかない。建設委員会で協議し対応を検討したい」と言ったきり、文書等での回答もなければ、記者がかけた電話に出ることもなかった。 県北・県中地方の2人の住職に今回の問題について感想を求めると、次のように話してくれた。 「ウチの寺でも数年前に屋根の葺き替え工事をしたが、作業の手順、入札、お金の動きなど工事に関係するものはすべて公開した。どんなに些細なことも檀信徒の許可をもらってから進めることを心掛けた。工事資金の大半は檀信徒からの寄付なので、当然の進め方だと思う。工事途中には檀信徒を対象に見学会もやった。無量寺さんはすべて公開すれば疑われることはないのに、なぜ隠そうとするのか」(県北地方の住職) 「昔より信仰心が薄れる中、寺と檀信徒によるトラブルは大なり小なり増えている。そこで意識したいのは寺が日頃、檀信徒とどう付き合っているかだ。葬儀や法事だけが寺の仕事ではない。寺の本来の仕事は檀信徒への法施。特定の人と親しくするのではなく、すべての檀信徒と向き合い、公平に付き合っていれば不満は出ない」(県中地方の住職) 「公開の大切さ」と「公平な付き合い」を説いてくれた両住職。真逆の行動をする建設委員会と小山住職に、この言葉が響けばいいのだが。

  • 断トツ得票を記録した深谷勝仁氏【須賀川市】【若手新人議員】

    新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏  本誌6月号に「須賀川市議選 異例の連続無投票が現実味」という記事を掲載した。任期満了に伴う須賀川市議選は、7月30日告示、8月6日投開票で行われたが、事前情報(6月号記事掲載時点)では、「無投票の可能性が高い」と言われていた。  前回(2019年8月)は、同市にとって、1954年の市制施行以来、初めての無投票で、市民からは「連続無投票は避けなければならない」、「無投票になった次は多くの候補者が出そうなものだが、そうならないのが問題だ」といった声が出ていた。  その後、7月3日に立候補予定者説明会が開かれ、それまで立候補の動きがなかった新人3陣営が出席。このうちの1人が正式に立候補表明したことから、定数24に25人(現職19人、新人6人)が立候補し、8年ぶりの選挙戦となった。  結果は別掲の通り。現職19人、新人5人の計24人が当選した。投票率は45・28%で、過去最低だった前々回の55・89%を10・61ポイント下回り、過去最低を更新した。 選挙結果(8月6日投開票、投票率45・28%)当 3141 深谷 勝仁 (39)無新当 1914 松川 勇治 (45)無新当 1640 鈴木 正勝 (70)公現当 1380 大河内和彦 (56)無現当 1334 深谷 政憲 (66)無現当 1278 大寺 正晃 (61)無現当 1206 溝井 光夫 (62)無現当 1203 佐藤 暸二 (67)無現当 1159 横田 洋子 (64)共現当 1078 鈴木 洋二 (64)無現当 1078 本田 勝善 (58)無現当 1072 浜尾 一美 (51)無現当 1067 五十嵐 伸 (60)無現当 1039 堂脇 明奈 (40)共現当 1016 大内 康司 (83)自現当  891 古川 達也 (50)無新当  881 市村 喜雄 (66)無現当  881 関根 篤志 (47)無新当  768 斉藤 秀幸 (47)無現当  767 石堂 正章 (65)無現当  722 柏村 修吾 (66)無新当  588 大柿 貞夫 (71)無現当  573 熊谷 勝幸 (52)無現当  516 小野 裕史 (54)無現 513 桜井  誠 (37)無新  この中で目に付くのが、新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏(39)。今回の当選者では最年少になる。  選挙戦となった直近3回の最多得票は2015年が2098票、2011年が2005票、2007年が2472票といずれも2000票から2500票の間。今回の深谷氏は3141票で、それらを大きく上回っている。今回2番目に得票が多かったのは新人の松川勇治氏(45)で1914票だから、2位に約1200票差を付けている。過去のトップ当選者との比較に加えて、今回の低投票率を考えると、深谷氏の得票がいかに多いかがうかがえよう。  深谷氏はどんな人物なのか。  本人のSNSなどに掲載されたプロフィールによると、1984年生まれ。須賀川高校(現・須賀川創英館)、東北文化学園大学医療福祉学部卒。2007年に市社会福祉協議会の職員となり、今年3月まで勤務した。  年度末に社協を辞め、4月以降は市議選の準備をしてきた格好だ。  過去に仕事上の付き合いがあったという市民はこう話す。  「深谷氏は、福祉を必要とする高齢者や障がい者、その家族などからの信頼が厚く、彼のことを悪く言う人は聞いたことがありませんね。そのくらい、誠実で人柄がいい。それに加えて『若さと実行力』というキャッチフレースが有権者に響いたのだと思います。社協職員の経験から、『社会的に弱い立場の人への支援』といったことも訴えており、それも共感を得たのでしょうね」  さらにある市民はこう語る。  「深谷氏の実家は、栄町にある『深谷石材店』で、そこは深谷氏の実兄が継いでおり、深谷氏自身もその近くに住んでいます。今回の選挙では、これまで栄町には議員がいなかったことから、『この地区から議員を出そう』と、町内会がかなり支援したようです(※編集部注・深谷氏の自宅は市内中山だが、栄町、中山などを含む複数大字の地区が新栄町町内会に該当する)。また、深谷氏は学生のころから熱心に野球に取り組んでおり、いまも『市町村対抗福島県軟式野球大会』に出場するなど、野球繋がりの支援も多かった。加えて、社協職員時代に、高齢者や障がい者、その家族などの評判も良かったから、そういった層も深谷氏に投票したと思われます。その結果、断トツの得票数になったものと思われます」  一方で、ある議員経験者は「ちょっと勝ち過ぎの感もある」と話す。  「表立っては言わなくても、深谷氏があれだけ票を取ったことで、自分の票が減ったとか、そういう思いを抱いている人もいると思う。もちろん、それはその人(票を減らした人)の問題なんですが、どうしても、こういう世界は、妬み嫉みがありますからね。まさか、議員活動を妨害されるようなことはないとは思いますが、ちょっとしたことで揚げ足を取られるようなこともあるかもしれない。深谷氏にはそういったことに気を付けつつ、萎縮することなく頑張ってほしいですね」 深谷氏に聞く  深谷氏に話を聞いた。なお、本誌が取材したのは8月22日で、議員任期がスタートする前だった。  ――議員を目指したきっかけは?  「社会福祉協議会に勤務していた時の最初のころは高齢者福祉、後半は障がい者福祉を担当していました。その中で、高齢者福祉、障がい者福祉ともに、まだまだ課題があると感じており、『福祉の充実』を図りたいというのが、議員を目指した一番の要因です」  ――3000票オーバーという得票についてはどう捉えているか。  「正直、驚いています。喜びと同時に責任を感じます」  ――本誌取材では、若い世代、高齢者・障がい者福祉を必要としている人、その家族などに支持が広がったと聞いている。  「確かに、新聞等では『若い世代の票が入った』と書かれていましたが、実際にどうだったかは分析が追いついていません。ただ、私自身、小学生の娘が2人いますから、子育て世代や、高齢者・障がい者福祉を必要としている人たちの思いは受け止められると思っていますし、(任期スタート後は)そのための活動をしていきたいと思っています」  ――もう1つは、町内会の支援が大きかったとも聞いた。  「新栄町町内会では、(議員が誕生するのは)40年ぶりくらいだそうです。この地区では、JR須賀川駅西口開発(※深谷氏の地元は須賀川駅西側に当たり、須賀川駅は西側から駅に出入りすることができないため、西側に出入り口と駅前広場をつくる計画が進められている)などの動きもありますから、そういった点からも、町内会の皆様に応援していただけたのだと思います。そのほか、同級生、先輩・後輩にも支えていただきました」  ――当然、議会の常任委員会は、福祉関係を所管する委員会に所属したい?  「その辺はどうなんでしょうか。市議会は会派制ですから、会派で誰がどの委員会になるかということだと思います」  ――就任後すぐに9月定例会(※通常は9月中に行われるが、選挙があった年は9月末から10月にかけて行われる)が開かれることになるが、早速、一般質問をするか。  「その辺も、会派の構成などが決まってからですかね」  議員の任期は9月4日からスタートする。「若さと実行力」を売りにする深谷氏の今後に注目したい。

  • 【福島県議会選挙】自民現職2人に新人2人が挑む【須賀川市・岩瀬郡】

     須賀川市・岩瀬郡選挙区(定数3)は、立憲民主党の現職宗方保氏が引退し、その後継者と、自民党の現職2人、共産党候補の4人で争う構図が予想され、激戦区と言える。 「共産候補も侮れない」との声も 渡辺康平氏 水野透氏  現在、同選挙区の現職は、宗方保氏(県民連合、6期)、水野透氏、渡辺康平氏(ともに自民党、1期)の3人。前回(2019年11月10日投開票)は、それまで5期務めていた自民党の重鎮・斎藤健治氏が引退したこともあり、6人が立候補する激戦だった。斎藤氏の引退を受け、自民党は新人2人の公認候補を擁立したが、同選挙区で自民公認候補が2人になるのは初めてだった。そのため、「宗方氏は安泰としても、自民党公認候補の2人がどれだけ得票できるか、場合によっては他候補が〝漁夫の利〟を得る可能性もあるのでは」との見方もあった。  ただ、結果は宗方氏と自民党公認の新人2人が当選した(前回の投票結果は別掲の通り)。  今回は、早い段階で現職の水野氏と渡辺氏が自民党公認での立候補が決まり、共産党も前回選挙に立候補した丸本由美子氏を擁立することを決めていた。  一方、宗方氏は「今期限りで引退する可能性が高い」(ある関係者)と言われていたものの確定的な情報はなかった。ただ、ある陣営の関係者は、5月ごろの時点で「宗方氏が出るにしても、引退するにしても、玄葉光一郎衆院議員の意向を汲んだ人が出てくるのは間違いない。ですから、すでに立候補を決めている自民党の現職2人と共産党の丸本氏、そこに宗方氏、もしくはその後継者(玄葉衆院議員の意向を汲んだ人)を加えた4人の争いになると思って準備をしている」との見方だった。  その後、宗方氏は6月4日に会見を開き、今期限りで引退する意向を表明した。地元紙報道によると「自分にできることを全うし、東奔西走の毎日だった。今後は一市民として発想力と行動力を持って地域貢献したい」(福島民友6月5日付より)と述べたという。  宗方氏の後継者については、当初から玄葉氏の秘書・吉田誠氏の名前が挙がっており、宗方氏の引退表明から約2週間後の6月19日に、立憲民主党公認で立候補することを表明した。  吉田氏について、須賀川市・岩瀬郡の有権者はこう話す。  「宗方氏が須賀川市のまちなか(旧市内)出身なのに対し、吉田氏は旧市内より人口が少ない東部地区出身だから、その辺がどうか。一方で、自民党の水野氏と地盤がかぶるところもあるから、その影響も気になるところです」(須賀川市民)  「人柄はいいと思うが、知名度としてはそこまでではないと思う。まあ、玄葉さんとその支持者が本気になってやるでしょうから、有力であるのは間違いないでしょうけど」(岩瀬郡の住民)  大方の見方では、「自民党の現職2人と吉田氏の3人が有力だろう」とのこと。ただ、「共産党の丸本氏も、昨夏の参院選に比例で立候補し落選したものの、(同じく比例で立候補して当選した)岩渕友氏とタッグを組んで顔と名前を売った。処理水放出など、自民党にとっては逆風もあるから、丸本氏も侮れないと思う」と見る向きもある。  吉田氏が宗方氏のごとく強さを発揮するのか、自民党は2議席を維持できるのか、共産党の議席奪取はあるのか等々が見どころだ。

  • 須賀川市議選異例の連続無投票!?

     任期満了に伴う須賀川市議選は、7月30日告示、8月6日投開票の日程で行われる。前回は同市にとって、1954年の市制施行以来、初めての無投票だったが、今回も無投票の可能性があるという。 「選挙時期を変えるべき」との声も  同市議選は、7月3日に立候補予定者説明会が行われることになっており、そこで大体の顔ぶれが明らかになると思われる。 ただ、本誌が5月中旬までに同市内で取材した中では「定数24(欠員1)に対して、新人数人が立候補を表明、あるいはその動きを見せているが、新人と引退する現職が同数になるとみられ、無投票になるのではないか、というのが現在のところの情勢です」(ある関係者)という。 ある市民はこう話す。 「数カ月前の時点では、定数24に27人くらいが立候補するのではないかとみられていましたが、最近になり、地元夕刊紙で無投票になる可能性があることが報じられました。普通、無投票になった次の選挙は多くの候補者が出そうなものですが、そうならないのが問題だと思います」 冒頭で書いたように、前回の同市議選は1954年の市制施行以来、初めての無投票だった。 前回は新人9人が立候補するなど新たな顔ぶれが出てきたが、市議選を見送り県議選に立候補した現職が3人いたほか、引退した議員も多かった。結果、新人は多かったものの定数24に現職14人、元職1人、新人9人の計24人の立候補者で、無投票での当選が決まった。 当時、市民からは「審判を受けなかった議員が市民の代表と言えるのか」、「もし議会(議員)が失態を演じたら、『だから無投票はよくない』、『やっぱり、市民の審判を受けていない議会はダメだ』と酷評されることになるだろう。そのことを肝に命じて議員活動をしてほしい」といった声が聞かれた。 その一方で、「初の無投票で、どう評していいのか分からない」と語る人もおり、有権者も困惑していた様子がうかがえた。それだけ、同市にとっては異例のことだったのだ。 そんな中、前出の市民は「無投票になった次は多くの候補者が出そうなものだが、そうならないのが問題だ」との見解を示したわけだが、確かに、そういった傾向がある。 他市町村では揺り戻しも  例えば、本誌4月号で4月18日告示、23日投票で行われた北塩原村議選の直前情報をリポートした。同村でも、前回(2019年4月)が村として初めて議員選挙が無投票となった。 迎えた今回の村議選は定数10に対し、現職6人、元職2人、新人8人の16人が立候補した。その背景には、村内(議会内、議会と執行部)の勢力争いがあったという事情もあるものの、前回の無投票からの揺り戻しがあった格好だ。 ある意味、それは正常な流れだろう。村内では以前(前回の村議選直後)から「無投票によって議員の質が落ちている。次回は絶対に無投票は避けなければならない」といった声や、実際に議会でのやり取りや議員の普段の振る舞いなどを見て、「やっぱり、村民の審判を受けていない議員はダメだ」との意見を聞くことが少なからずあった。「次回は絶対に無投票を避けなければならない」といった空気があり、今回はより多くの候補者が出る選挙戦になったのである。 須賀川市では、多くの有権者が「無投票は良くない」と思っているのは間違いないが、具体的にその動きが見えないのが問題だ、というのが前出の市民の指摘である。 8月選挙の弊害  一方で、以前から言われているのが「選挙の時期を変えるべきではないか」ということだ。 というのは、同市議選は2007年までは4月に実施されていた。ただ、その次の改選期である2011年は、直前に東日本大震災・原発事故が発生したため、特例で選挙(議員任期)を先伸ばしにした。結果、同年以降の市議選は、現在の8月に市議選が行われることになった。 ある識者はこう話す。 「いまの選挙期間は、夏休み期間中のお盆前になるため、各地区では夏祭りの準備だったり、それぞれの勤め先でも長期休暇前にやっておかなければならない仕事に追われていたりと、いろいろ忙しいんです。また、須賀川市はキュウリ農家や果樹農家などが多いが、それらの農繁期でもあり、収穫最盛期に選挙どころではないという声も少なくありません。加えて、近年は猛暑で選挙運動をする側も、選挙に行く側も大変ですよね。そういったさまざまな事情から、この時期の選挙は市民の関心が得られにくい、という大きな問題点があります。ですから、この時期の選挙は良くないので、以前の4月選挙に戻せば、少し状況は変わってくるのかな、と思います」 もし、以前の選挙時期(4月選挙)に戻そうと思ったら、議員全員の総意で、その直前に総辞職する必要がある。 ある関係者は「実際にそうした話も出た」という。 「前回選挙後、『今回は無投票だったから、(数カ月、任期を返上して議員全員が辞職し、以前の選挙時期に戻すことについて)以前より抵抗なくできるのではないか』といった意見があった。実際、議会でそれを提案した議員もいたそうですが、『あなた1人で辞めれば』と言われたそうです。当然、提案した議員からすると、『それでは意味ないだろ』という話になりますが、その程度の認識でしかないということです」 もっとも、選挙時期を以前の4月に戻したとして、現在の8月選挙よりは市民の関心が得られやすくなるだろうが、実際に立候補する人が増えるかどうか、というとまた別の問題になろう。 議員のなり手不足については、機を見てあらためてリポートしたいと考えるが、本誌では以前から、会社勤めの人でも議員活動ができるような工夫が必要であると訴えてきた経緯がある。議会として、そういったことを考えていかなければならないだろう。 同市議選までは、まだ少し時間があり、今後情勢が変わる可能性もある。異例の連続無投票となるのか、それとも無投票回避のために候補者が出てくるのか、が注目される。

  • 檀信徒から不正を疑われた【須賀川市】無量寺

    (2022年10月号)  須賀川市の「無量寺」(小山宗賢住職)で、檀信徒が屋根葺き替え工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたところ、寺側が拒否したため、檀信徒から「何らかの不正があったのではないか」と疑われる事態に発展している。宗教法人の財産は公開が原則のはず。騒動を追った。 住職と役員の隠蔽体質が露呈  須賀川市雨田字宮ノ前にある無量寺は天台宗で、法人登記簿によると設立は1953(昭和28)年、基本財産は総額348万6000円。代表役員(住職)の小山宗賢氏は2008(平成20)年に就任した。檀信徒数は約420。 そんな無量寺では4年前、老朽化していた本堂屋根の葺き替え工事を行っていた。責任役員2名と総代1名を正副委員長とし、檀信徒二十数人や小山住職などを委員とする「本堂屋根葺き替え建設委員会」(佐藤和良委員長。以下、建設委員会と略)を設立。工事に関する協議は同委員会のもとで行われた。 その結果、①設計監理は土田建築設計事務所(須賀川市)、②施工は大柿建業(同)、③工事資金は1836万円、④工期は2018年10月から19年3月末等々が決まった。 工事資金計画表によると、1836万円の内訳は檀家からの寄付が1059万円、無量寺特別会計からの充当が707万円、金融機関からの借り入れが70万円。ここから大柿建業に約1720万円、土田建築設計事務所に約56万円、残りを会議費、雑費、予備費に充てる計画だった。 その後、葺き替え工事が始まり、予定より3カ月早い2018年12月末に工事は終了。19年1月に建設委員会による立ち会い検査を経て引き渡しが行われた。 竣工を受け、建設委員会が檀信徒に宛てた報告文書には次のように書かれている。 《檀信徒の皆様には何かと出費の多き折りにも関わらず、多くのご寄付をいただきました。(中略)土田建築設計事務所には契約の回数以上に現場に足を運んでいただき、きめ細かい指導・監理をしていただき、工事をスムーズに進めることが出来ました。大柿建業は、設計事務所が称賛するほど丁寧で誠実な仕事ぶりでした。さらに、当初の想定よりも屋根下の腐食が酷く、野地板・垂木に加えて、その下の根太も交換しなければならない個所もありました。この想定外の修復に関しては別途支払いの契約でしたが、大柿建業では追加料金(約26万円)の請求をせず、ご寄付として入札代金内で対処していただきました》 収支決算報告書によると、当初予定より寄付が多く集まったため金融機関から借り入れする必要がなくなり、収入総額は約1812万円。これに対し、支出総額は約1781万円で、差し引き31万円が特別会計に戻された。同報告書には「2019年3月5日に監査を行ったところ適正だった」とする監事2名の印鑑も押されていた。 一見すると、何の問題もなく工事は完了し、決算報告も終えたように映る。しかし、檀信徒の関根兼男さんは工事が始まった直後から、さまざまな疑問を呈していた。 「工事を見ていておかしいと思うことが度々あり、その都度、建設委員会の佐藤委員長や小山住職、土田建築設計事務所に質問をぶつけていた。しかし『あなたには関係ない』と取り合ってもらえなかった。私は檀信徒で工事資金も寄付しているので関係なくはない。にもかかわらず工事中の寺に入って写真を撮っていたら、建設委員会の生田目進副委員長に『不法侵入で警察を呼ぶぞ』とまで言われた」(関根さん) まるで“邪魔者扱い”されていた関根さん。実は、関根さんは大工で、建設委員会が2018年8月に行った施工者を決める入札に参加し約1840万円で札入れしたが、前出・大柿建業より高かったため工事を受注できなかった経緯がある。 「受注はできなかったが、檀信徒としてだけでなく、大工としても工事の進め方に関心があったので現場に足を運んでいただけ。そしたらおかしいと感じる場面を度々見掛けたので、これは建設委員会や小山住職に言うしかないと思って」(同) 具体的には▽足場と落下防止ネットは間違いなく取り付けられていたか、▽腐ったり痛んだりしていた垂木、野地板、広木舞は交換されたのか、▽塗料は当初指定のものが使われたのか――など。つまり、関根さんの目には工事が適正に行われていないと映ったわけだが、これらを適正に行うと、例えば金額は100万円かかるのに、仮に▽足場と落下防止ネットがきちんと取り付けられていなかった、▽垂木、野地板、広木舞が交換されていなかった、▽指定とは別の塗料が使われていた――とすれば80万円で収まり、予算は決算報告より余った(使われなかった)可能性があるというのだ。そうなると、余った金はどこにいったのかという問題も浮上してくる。 関根さんは入札前に建設委員会から渡された見積書に、工事項目ごとに細かく金額を書き込んで札入れしたが、 「その工事項目と実際に行われている工事が違っていた。例えば見積書の塗装工事欄は『オスモカラーを使え』となっていたので、それに沿った金額を書いて札入れしたのに、実際の工事ではオスモカラーは使われていなかった」(同) 要するに関根さんは「これでは真面目に見積もりをした意味がない」と言いたいわけ。 しかし前述の通り、建設委員会や小山住職は関根さんの質問に耳を貸さなかった。おそらく両者は「工事を受注できなかった腹いせに難癖をつけている」としか捉えていなかったのかもしれない。 無関係の弁護士に対応を〝丸投げ〟  一方、土田建築設計事務所は、設計監理の契約先は無量寺であり、契約先を差し置いて関根さんの質問に答えるのは馴染まないとして、東京都内の松田綜合法律事務所(以下、松田法律事務所と略)を代理人に立てて対応を一任した。 そんな孤軍奮闘の関根さんに、ようやく援軍が現れたのは2021年4月。雨田地区の総代になった瀬谷広至さんが問題に関心を示してくれた。以降は関根さんと瀬谷さんの二人で、建設委員会や小山住職、土田建築設計事務所や大柿建業などにアプローチを試みているが、解決に向けた成果は得られていない。 「関根さんの話を聞き、もしおかしな点があるなら正すべきと考え一緒に調査に乗り出した。しかし、建設委員会や小山住職は『一人二人の言い分に取り合っていたらキリがない』と私たちの疑問に向き合おうとしない」(瀬谷さん) 関根さんと瀬谷さんは今年2月、建設委員会と小山住職に対し、工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたり、工事の進め方を尋ねるなど10の申し立てからなる提案申立書を提出した。すると同4月、建設委員会から「土田建築設計事務所の代理人である松田法律事務所に問い合わせてもらうという結論に達した」との回答が届いた。 関根さんと瀬谷さんは、建設委員会メンバーや複数の檀信徒から「佐藤委員長が『弁護士に任せたので一安心』と言っていた」とか「小山住職が『弁護士に任せることに異論はないか』と建設委員会メンバーに多数決を取っていた」という話を聞いていた。まるで建設委員会と小山住職が松田法律事務所に代理人を依頼したかのような口ぶりだが、そうではない。同事務所が同3月に建設委員会に宛てた文書にはこう書かれている。 《貴委員会(※建設委員会)は、無量寺の檀信徒である瀬谷広至氏及び関根兼男氏から、令和4年2月13日付の「無量寺本堂屋根葺き替え工事に関する書類の閲覧及び質問並びに提案申立書」に記載されている各事項についての質問を受けている件について、当社(※土田建築設計事務所)に対し質問を行い、回答を求めておられます。 当社は無量寺から、本堂屋根の瓦葺き替え工事の設計監理業務の委託を受けたところ、当該業務は適切に遂行されており、貴委員会及び無量寺に対し負うべき責任はなく、特別対応すべき義務はないものと認識しております》 松田法律事務所は建設委員会からの問い合わせに「土田建築設計事務所の代理人」として対応している様子がうかがえる。 「建設委員会メンバーや檀信徒の中には、佐藤委員長や小山住職が弁護士を雇ったと勘違いしている人が多い。しかし、松田法律事務所はあくまで土田建築設計事務所の代理人にすぎず、両者の代理人ではない。にもかかわらず両者は、無関係の松田法律事務所に回答を〝丸投げ〟しようとしたのです」(瀬谷さん) 本誌が松田法律事務所に問い合わせると、担当弁護士もこのように話していた。 「私たちは土田建築設計事務所の代理人であり、建設委員会や小山住職とは関係ない。しかしどういうわけか両者は、私たちが両者の代理人も兼ねていると勘違いしているフシがある。両者には『それは誤解だ』という趣旨の手紙を出したが、きちんと理解してくれたかどうか」 こうなると、佐藤委員長や小山住職は代理人契約を交わしていないにもかかわらず「弁護士に任せた」と建設委員会メンバーや檀信徒にウソをついた可能性も出てくる。 ちなみに担当弁護士は、土田建築設計事務所の仕事ぶりについて 「無量寺との契約に基づき適切に行った。監理設計料も適正な金額だったと思います」 と強調。一方で、関根さんと瀬谷さんに対してはこうも語った。 「檀信徒が寺に関する情報の開示を求めるのは当然。それに寺が応じようとしたものの、依頼人(土田建築設計事務所)に聞かなければ分からない事案が出てきたら、依頼人は寺と監理設計契約を結んだ立場上、寺側に答える用意はある。ただ、契約関係にない檀信徒の質問に答えることはできない」 つまり、関根さんと瀬谷さんの質問に無量寺が答えるなら、土田建築設計事務所(松田法律事務所)は協力するというわけ。 土田建築設計事務所にも直接話を聞こうとしたが「弁護士にすべて任せている」と断られた。 60人超の檀信徒が「署名」に協力  工事を行った大柿建業は何と答えるのか。 「工事は4年前なので細かい点は覚えていないが、垂木が腐っていたので交換し、その後、野地板を張って瓦をかけて塗装と、予定外の作業が結構あった。腐った個所に足場をかけると崩落する恐れがあるため、順番に直しながら足場をかけていった。予定外の作業が出た場合はその度に土田建築設計事務所に連絡し、一緒に現場を見てもらった。工期は(2019年)3月までだったが、12月を過ぎると雪で屋根に上がるのは危険なため、作業を急いだ記憶がある。工事代金は千五百数十万円で、そこに消費税が加わり千七百数十万円が振り込まれたはず。その時の銀行の通帳は残っているので、それを見れば正確な金額は分かる」 前述の通り、寺から大柿建業に工事代金として支払われたのは約1720万円なので、発言の金額と照らし合わせると間違いなく支払われたと見てよさそうだ。 「他人がどう評価しているか分からないが、ウチとしては精一杯の工事をやったつもりだ。その時撮った作業の様子や工事個所の写真は、すべて寺に渡した。関連の資料も寺に残っているはず。えっ、檀信徒がそれを見せろと言っているのに寺は見せないんですか? すべて見せれば疑いは晴れると思うんだが」(同) 松田法律事務所と大柿建業に共通するのは「なぜ寺側は隠そうとするのか」「すべて公開すれば済む話」というもの。裏を返せば「後ろめたいことがあるから隠したがっている」となるが、真相はどうなのか。 そもそも宗教法人が財産に関することを公開しないのはおかしい。宗教法人法第25条第3項によると、宗教法人は財産目録、収支計算書、貸借対照表、境内建物に関する書類、責任役員らの議事に関する書類や事務処理簿などについて、信者らから閲覧請求があった時は閲覧させなければならない。宗教法人を管轄する県私学・法人化に確認すると「会計帳簿などの資料は閲覧の対象外」というので領収書は見られないようだが、葺き替えた屋根が「寺の財産」に属することを踏まえると、関根さんと瀬谷さんが確認しようとするのは檀信徒として当然の権利だ。 関根さんと瀬谷さんは、前述・今年4月に寄せられた建設委員会と小山住職の回答に納得がいかないとして、すぐに再質問書を送ったが返事はなかった。そこで2人は、約420ある檀信徒を一軒一軒回り事情を説明、寺側に誠実な回答を求める署名に協力してほしいと要請した。すると、同9月中旬までに全体の7分の1以上に当たる60人超が署名してくれた。 「檀信徒の中には『本当は署名したいが、住職には法事などで世話になっているので勘弁してくれ』という人も結構いた。署名集めを通じ、私たちが思っている以上に、建設委員会や小山住職のやり方に不満を持っている檀信徒が多いことがよく分かった」(関根さん) 署名集めの過程では、新たに阿部計一さんも「自分もかつて、佐藤委員長に別の建物工事の明細書を見せるよう求めたが、結局見せてもらえなかった」として関根さんと瀬谷さんに協力する意向を示し、現在は3人で活動中だ。 同9月下旬には、集めた署名を再々質問書と一緒に建設委員会の正副委員長や小山住職らに送り、回答を迫っている。一人二人ではなく、60人超もの檀信徒が不信感を露わにしているのだから、事態は深刻だ。 求められる「公開」と「公平」  本誌は小山住職に取材を申し込んだが「私から話すことは何もない。すべて建設委員会で決めたことだ」と終始逃げの姿勢だった。 建設委員会の佐藤委員長には質問書を送り、電話でも「期限までに回答するか、直接お会いしたい」と伝えたが「私の一存で答えるわけにはいかない。建設委員会で協議し対応を検討したい」と言ったきり、文書等での回答もなければ、記者がかけた電話に出ることもなかった。 県北・県中地方の2人の住職に今回の問題について感想を求めると、次のように話してくれた。 「ウチの寺でも数年前に屋根の葺き替え工事をしたが、作業の手順、入札、お金の動きなど工事に関係するものはすべて公開した。どんなに些細なことも檀信徒の許可をもらってから進めることを心掛けた。工事資金の大半は檀信徒からの寄付なので、当然の進め方だと思う。工事途中には檀信徒を対象に見学会もやった。無量寺さんはすべて公開すれば疑われることはないのに、なぜ隠そうとするのか」(県北地方の住職) 「昔より信仰心が薄れる中、寺と檀信徒によるトラブルは大なり小なり増えている。そこで意識したいのは寺が日頃、檀信徒とどう付き合っているかだ。葬儀や法事だけが寺の仕事ではない。寺の本来の仕事は檀信徒への法施。特定の人と親しくするのではなく、すべての檀信徒と向き合い、公平に付き合っていれば不満は出ない」(県中地方の住職) 「公開の大切さ」と「公平な付き合い」を説いてくれた両住職。真逆の行動をする建設委員会と小山住職に、この言葉が響けばいいのだが。