文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年4月27日に開かれた会合で、同3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命して調査・分析を行う」との方針を決めた。
これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は、原賠審が定めた中間指針(同追補を含む)にはなかった。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。
その後、専門委員を設置・任命して確定判決の詳細分析が行われ、11月10日に専門委員から原賠審に最終報告書が提出された。その報告書は参考資料を含めて200頁以上に及ぶかなりの文量だが、ポイントになるのは、①過酷避難状況による精神的損害、②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)、③自主的避難等による精神的損害、④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害、⑤精神的損害の増額事由――の5項目で類型化が可能とされたこと。
各項目の概要は次の通り。
①過酷避難状況による精神的損害▽避難を余儀なくされた人が、放射線に関する情報不足の中で、被曝不安と、今後の見通しが示されない不安を抱きつつ、過酷な状況下で避難を強いられたことによる精神的損害。
②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)▽避難(その地域に人が住まなくなったこと)によって生じた故郷・生活基盤の喪失・変容に伴う精神的損害。
③自主的避難等による精神的損害▽自主的避難等対象区域(避難指示区域外)の住民の被曝不安による精神的損害。
④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害▽計画的避難区域の住民が相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる精神的損害
⑤精神的損害の増額事由▽ADRセンター総括基準で類型化されている精神的損害の増額事由。
専門委員の最終報告書では、これらの類型化が可能な項目を示したうえで、「今後、中間指針の見直しを含めた対応の要否等の検討では、従来からの一貫性や継続性を重視し、現在の中間指針の構造を維持しつつ、新たに類型化された損害を取り込む努力・工夫が求められる」、「指針で類型化されたものだけが賠償すべき損害ではないことは言うまでもなく、東京電力は、被害者からの賠償請求を真摯に受け止め、合理的かつ柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応を求めたい」、「関係行政機関が一体となり、東京電力への指導監督や、ADRセンターの積極的活用など、被害者の迅速かつ適正な救済と円滑な賠償の実施に向けた取り組みとともに、賠償だけでは限界がある被災地の復興に向けた取り組みを進めることも併せて要請する」と記されている。
原賠審ではこれを踏まえて、中間指針の見直しに向けた議論に入った。今後、追補として示される見通し。中間指針の見直しの必要性は、県原子力損害対策協議会、県内市町村、県内各種団体、弁護士会、被災者支援弁護団などがずっと訴えてきたことだが、ようやく本格的に動き出した格好だ。