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  • 内堀雅雄福島県知事

    無意味な海外出張を再開した内堀雅雄【福島県知事】

     内堀雅雄知事は1月16日から21日、米国・ロサンゼルスとワシントンを訪れた。県産米や日本酒の販路開拓を目指し、トップセールスを展開するのが主な目的。知事の海外訪問は約3年3カ月ぶり。 ロサンゼルスではスーパーマーケットの店頭で県産米「天のつぶ」を販売し、県産日本酒とともに取引拡大を働き掛けた。さらに飲食店経営者や料理人などを招いた試食会、地元県人会との交流会も開いた。 ワシントンでは国務省や駐米大使などを表敬訪問。両都市で米国政府関係者を招いたレセプションを催し、県産品の魅力を発信した。震災直後、被災地救援活動「トモダチ作戦」に従事した米軍関係者や、2021年の東京五輪で来県し、県産モモを絶賛した前ソフトボール女子米国代表監督のケン・エリクセン氏に謝意を伝える一幕もあった。 新聞報道によると、トップセールスにはJA福島五連の管野啓二会長、全農県本部の渡部俊男本部長らが加わったほか、福島民報社報道部県政キャップの斎藤直幸記者、福島民友新聞社の渡辺美幸記者らマスコミも同行した。そのためか、期間中は訪米に関する記事が大々的に紹介され、地元紙は一面で取り上げた。 内堀知事は1月23日に開かれた定例記者会見で、「3年3カ月ぶりの海外渡航となったが、長い戦いとなる原子力災害による風評払拭、新型感染症からの回復に向けて、海外を訪問し本県の現状や魅力を知事として直接お伝えする重要性をあらためて実感した。しっかりと発信しさらなる理解と共感の輪を広げる」と訪米の成果を強調した。 米国は原発事故の後に続いてきた輸入規制を2021年に撤廃した。だからこそ、トップセールスに向かったのだろうが、果たしてそれで県産米や日本酒の売り上げがどこまで伸びるのか。国内ですら放射能汚染を危惧して県産品を忌避する人が一定数いるのに、遠く離れた海外で理解を得てファンを増やし、販路を拡大するのは限界があろう。 そもそも県全体の出荷額に対し、輸出額は微々たる金額だ。 県によると、2021年度の県産米を含む県産農畜産物の輸出額は3億3200万円。県の農業産出額は2086億円(2019年度)。 県産日本酒の輸出額は分からなかったが、県酒造組合によると、令和3酒造年度(2020年7月~2021年6月)の輸出量は255㌔㍑。同酒造年度の県全体の出荷量は1万1000㌔㍑だ。指標はそれぞれ異なるので分かりにくいが、輸出が全体に占める割合の小ささがイメージできるのではないか。 過去には農産物の生産者から「輸出は手間がかかるわりに、諸経費などがかさむし、国内需要を凌駕する勢いで売れるわけではないので大した儲けにならない」と冷ややかな声を聞いたこともあった。 本誌2019年10月号では内堀知事が知事就任後の5年間で、11回にわたり海外出張に出かけ、累計約4000万円の旅費がかかっていたことを紹介した。今回の訪米もそれなりの金額がかかっているだろう。 本誌2019年10月号『【福島】無意味な内堀知事の海外出張』は下記のリンクから読めます!  輸出を〝伸びしろ〟と捉え、販路拡大に努めること自体は否定しないし、トップセールスの効果もある程度は見込めるかもしれない。だが、費用対効果という点では意味があるとは言えないということだ。 地元紙はそうした課題にほとんど触れず、海外訪問のメリットを大々的に記事で取り上げるから毎回呆れさせられる。ただ、定例記者会見を見る限り、そんなことはお構いなしで、内堀知事は今後も年2、3回ペースで海外を訪問するのだろう。 あわせて読みたい 【検証・内堀福島県政 第3弾】公開資料で見えた内堀知事の懐事情 「尊敬する人」に箭内道彦氏を挙げた内堀知事

  • 政治

    元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設

     県会津農林事務所発注の公共工事の入札で、設計金額を教えた見返りに賄賂を受け取ったとして、県警本部捜査2課、郡山・会津坂下両署は1月23日、収賄の疑いで県職員の寺木領容疑者、贈賄の疑いで会津坂下町の土木建築会社・マルト建設の社長上野清範容疑者、同社営業部長棚木光弘容疑者を逮捕した。  地元紙などの報道によると、寺木容疑者は2019年4月から22年3月まで同事務所に勤務し農業土木工事の設計・積算を行っていたが、そこで知り得た情報を上野・棚木両容疑者に教え、謝礼として飲食、宿泊、ゴルフ代など26万円相当の賄賂を受け取ったとされる。一方、マルト建設が同じ期間に同事務所発注の公共工事を落札したのは17件だが、寺木容疑者が設計・積算を直接担当したのはその中の1件だけだった。県警は、寺木容疑者が自分の担当以外の入札情報を何らかの方法で入手し、同社側に教えていたとみて調べを進めている。  地元ジャーナリストによると「マルト建設は、農業土木分野では地元で後発だったが、農林事務所とパイプをつくるなどして、今ではトップを争う位置にいる」。逮捕された棚木容疑者は社内で官公庁発注工事を担当し、以前は別の農業土木会社に勤務していた。  「私は会津農林事務所幹部と業者連中のつながりを疑ったことがあるが、今回の事件が別の展開を見せるのか注目している」(同)  同社と言えば、上野容疑者の父で元社長の清隆氏(2008年死去)も1999年に当時の会津農地事務所が発注した農業土木工事に絡む贈賄事件で逮捕され、懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けたが、農林事務所とのパイプづくりは昔も今も行われていたことになる。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相

  • 上杉謙太郎氏と菅家一郎氏

    【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き

     衆院小選挙区の区割り改定を受け定数5から4に減る福島県選挙区。そのうち県南と会津地方が一つになる新3区をめぐっては、次期衆院選の公認候補となる支部長に現3区の上杉謙太郎氏(47、2期)と現4区の菅家一郎氏(67、4期)のどちらを据えるか、自民党本部が結論を出せずにいる。両氏とも比例復活当選を二度経験しているため、党本部はどちらが「勝てる候補者」になり得るか、地元の意見も踏まえながら慎重に検討している。  そうした中、ある関係者から「党本部は若さと行動力で上杉氏を推しているが、両氏が所属する清和政策研究会は期数や派閥内での立ち位置から菅家氏を推している」という話が伝わってきた。  「上杉氏の後見人は安倍晋三元首相だったが、安倍氏が銃撃事件で亡くなり派閥内に強力な後ろ盾がいない状況。一方、菅家氏は下村博文氏らと関係が深く、復興副大臣を歴任するなど政治キャリアは上杉氏より上。そのため上杉氏は、早稲田大学の先輩でもある菅家氏に気を使い、余計なことを一切言わず『党本部の決定に従う』とひたすら繰り返している」(関係者)  上杉氏に対しては、党本部が他選挙区からの立候補も打診したが、上杉氏は「ここで頑張りたい」と断ったという。  新支部長は遅くとも3月中に決まる見通しだが、党本部が派閥の意向を汲むのか、それとも突っぱねるのか注目される。 あわせて読みたい 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

  • 【福島県】衆院区割り改定に翻弄される若手議員

    【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員

     衆院小選挙区定数「10増10減」を反映し、1票の格差を2倍未満とする改正公職選挙法が12月28日に施行された。これを受け、福島県の小選挙区定数は5から4に減った。新たな区割りは次の衆院選から適用される。今後の焦点は与野党の候補者調整だが、ベテラン議員が早くから立候補したい選挙区を匂わせているのに対し、若手議員は意中の選挙区があっても「先輩」への遠慮から口籠っている。若手議員はこのまま本音を言えず、時の流れに身を任せるしかないのか。与野党2人の若手議員の今後に迫った。(佐藤仁) ベテランに遠慮し口籠る上杉氏と馬場氏 福島県四つの区切りの地図  新区割りは以下の市町村構成になる。▽新1区=現1区の福島市、伊達市、伊達郡と現2区の二本松市、本宮市、安達郡。▽新2区=現2区の郡山市と現3区の須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡。▽新3区=現3区の白河市、西白河郡、東白川郡と現4区全域(会津地方、西白河郡西郷村)。▽新4区=現5区全域(いわき市、双葉郡)と現1区の相馬市、南相馬市、相馬郡。 中央メディアの記者は、自民党選対筋の話として「5月に開かれるG7広島サミット終了後、岸田文雄首相が解散総選挙に打って出るのではないか」という見方を示している。 解散権は首相の専権事項なので、選挙の時期は岸田首相のみぞ知ることだが、いつ選挙になってもいいように候補者調整を急がなければならないのは与野党とも同じだ。 現在、県内には与野党合わせて9人の衆院議員がいる。根本匠(71、9期)、吉野正芳(74、8期)、亀岡偉民(67、5期)、菅家一郎(67、4期)、上杉謙太郎(47、2期)=以上、自民党。玄葉光一郎(58、10期)、小熊慎司(54、4期)、金子恵美(57、3期)、馬場雄基(1期、30)=以上、立憲民主党。このうち本誌が注目するのは両党の2人の若手議員、上杉氏と馬場氏だ。 上杉氏はこれまで3回の選挙を経験し、いずれも現3区から立候補してきた。最初の選挙は厳しい結果に終わったが、前々回、前回は比例復活当選。玄葉光一郎氏を相手に小選挙区では及ばないが、着実に票差を縮めており、支持者の間では「次の選挙は(小選挙区で)勝てる」が合言葉になっていた。それだけに、今回の区割り改定に支持者は大きく落胆している。 現3区は区割り改定で最もあおりを受けた。福島市がある現1区、郡山市がある現2区、会津若松市がある現4区、いわき市がある現5区は新区割りでも一定の原形をとどめたが、現3区は真っ二つに分断・消失する。他選挙区のように「母体となる市」がなかったことが影響した。 現3区は、北側(須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡)が新2区、南側(白河市、西白河郡、東白川郡)が新3区に組み込まれた。そうなると上杉氏はどちらかの選挙区から立候補するのが自然だが、現実はそう簡単ではない。新2区では根本氏、新3区では菅家氏が立候補に意欲を示しているからだ。 「先輩」に手を挙げられては、年齢が若く期数も少ない上杉氏は遠慮するしかない。しかし立候補する選挙区がなくなれば、自身の政治生命が危ぶまれる。要するに、今の上杉氏は「ここから立候補したい」という意中の選挙区があっても、積極的に口にしづらい立場にあるのだ。 もっとも、上杉氏が「先輩」に気を使ったとしても、上杉氏を熱心に応援してきた支持者は納得がいかないだろう。 上杉氏が家族とともに暮らす白河市の支持者もこのように語る。 「上杉氏が大臣経験のある根本氏を押し退け、新2区から出ることはあり得ない。残る選択肢は新3区になるが、菅家氏と上杉氏のどちらを候補者にするかは、期数ではなく選挙実績を重視すべきだ」 この支持者が選挙実績を持ち出したのは、もちろん理由がある。 前述の通り上杉氏は小選挙区で玄葉氏に連敗しているが、着実に票差を縮めている。これに対し菅家氏は現4区で小熊慎司氏を相手に勝ち負けを繰り返している。前回は小選挙区で敗れ、比例復活に救われた。 「最大の疑問は菅家氏が会津若松で小熊氏に負けていることです。会津若松市長を3期も務めた人がなぜ得票できないのか。地元で不人気な人が候補者にふさわしいとは思えない」(同) 選考は長期化の見通し  前回の結果を見ると、会津若松市の得票数は小熊氏2万9650票、菅家氏2万8107票で菅家氏の負け。同市の得票数に限ってさかのぼると、2014年と12年の衆院選も菅家氏は負けている。唯一、17年の衆院選は勝ったものの、両氏以外に立候補した野党系2氏の得票分を小熊氏に上乗せすると、菅家氏は実質負けているのだ。 「菅家氏が小選挙区で連勝し、会津若松市の得票数も引き離していれば、私たちも『新3区からは菅家氏が出るべき』と潔くあきらめた。しかし、地元で不人気という現実を見ると、新たに県南に来て得票できるかは怪しい」(同) ちなみに前回の衆院選で、西白河郡の西郷村は現3区から現4区に編入されたが、同村の得票数は小熊氏4430票、菅家氏4299票とここでも菅家氏は競り負けている。 「とはいえ、菅家氏が県南で得票できるか分からないのと同じく、上杉氏も会津で戦えるかは未知数。正直、あれだけ広いエリアをどうやって回るかも想像がつかない」(同) そんな両氏を救う方法は二つ考えられる。 一つはどちらかが比例単独に回ること。ただし、当選することはできても地盤は失われるので、これまで小選挙区で戦ってきた両氏には受け入れ難い救済案だろう。確実に当選できるならまだしも、名簿順位で上位が確約されなければ落選リスクにもさらされる。 もう一つはどちらかが小選挙区、どちらかが比例区に回り、次の選挙では入れ替わって立候補するコスタリカ方式を採用すること。ただし、この救済案もどちらが先に小選挙区に回るかで揉めると思われる。最初に比例区に回れば、小選挙区の有権者に自分の名前を書いてもらう機会を逸し、次の選挙で自分が小選挙区に回った際、名前を書いてもらえる保証がないからだ。 さらに同方式の危うさとして、小選挙区の候補者が落選し比例区の候補者が当選したら、両陣営の間に溝が生じ、次の選挙では選挙協力が成立しづらい点も挙げられる。 田村地方の自民党員はこう話す。 「私たちはこの先、上杉氏を直接応援することはできないが、本人には『もし菅家氏とコスタリカを組むなら絶対に比例区に回るな』とはアドバイスしました」 そもそも現3区の自民党員は同方式に良いイメージを持っていない。中選挙区制の時代、県南・田村地方には穂積良行と荒井広幸、2人の自民党議員がいたが、小選挙区比例代表並立制への移行を受け両氏は現3区で同方式を組んだ。最初の選挙は荒井氏が小選挙区、穂積氏が比例区に回り、荒井氏が玄葉氏を破って両氏とも当選したが、次の選挙は小選挙区に回った穂積氏が玄葉氏に敗れ政界引退。荒井氏は比例単独で当選したものの、次の選挙は小選挙区で玄葉氏に大差負けした。名前を書いてもらえない比例区に回ったことと両者の選挙協力が機能しなかったことが、小選挙区での大敗を招いた典型例と言える。 「上杉氏はかつて荒井氏の秘書をしていたので、コスタリカが上手くいかないことはよく分かっているはずです」(同) 果たして上杉氏は、区割り改定を受けてどのようなアクションを起こそうとしているのか。衆院議員会館の上杉事務所に取材を申し込むと、 「上杉本人とも話しましたが、これから決まっていく事案について、いろいろ申し上げるのは控えさせてほしい」(事務所担当者) この翌日(12月15日)、自民党県連は選挙対策委員会を開き、次期衆院選公認候補となる選挙区支部長に新1区が亀岡氏、新2区が根本氏、新4区が吉野氏に内定したと発表した。新3区は菅家氏と上杉氏、双方の地元(総支部)から「オラがセンセイ」を強く推す意見が出され、結論は持ち越された。今後、党本部や両氏の所属派閥(清和政策研究会)で調整が行われるが、党本部は比例復活で複数回当選している議員の支部長就任は慎重に検討するという方針も示しており、上杉氏(2回)、菅家氏(2回)とも該当するため、選考は長期化する見通しだ。 県連はどちらが選挙区支部長に内定しても「現職5人を引き続き国政に送ることが大前提」として、比例代表の1枠を優先的に配分するよう党本部に求めていくとしている。菅家氏と上杉氏はともに早稲田大学卒業。「先輩」に面と向かって本音を言いづらい上杉氏に代わり、地元支持者の熱意と、前述した菅家氏への物足りなさが候補者調整にどう影響するのか注目される。 組織力を持たない馬場氏  立憲民主党の若手、馬場雄基氏も上杉氏と同様、辛い立場にある。 前回、現2区から立候補した馬場氏は根本匠氏に及ばなかったが比例復活で初当選した。当時20代で初登院後は「平成生まれ初の衆院議員」としてマスコミの注目を集めた。爽やかなルックスで「馬場氏の演説には引き込まれるものがある」と同党県連内の評価もまずまず。国会がない週末は選挙区内を回り、自民党支持者が多く集まる場所にも臆せず顔を出すなどフットワークの軽さものぞかせる。 現2区は、中核を成す郡山市が現3区の北側と一緒になり新2区に移行。これに伴い馬場氏も新2区からの立候補を目指すとみられるが、ここに早くから踏み入るのが、現3区が地盤の玄葉光一郎氏だ。 当選10回。民主党政権時には外務大臣、国家戦略担当大臣、同党政調会長などの要職を歴任。岳父は佐藤栄佐久元知事。言わずと知れた福島県を代表する政治家の一人だ。 玄葉氏は、現3区の南側が組み入れられた新3区ではなく、新2区からの立候補を模索している。背景には▽郡山市には昔から自分を支持してくれる経済人らが多数いること、▽同市内の安積高校を卒業していること、▽同市内に栄佐久氏の人脈が存在すること、等々の理由が挙げられる。「現3区で上杉氏が票差を詰めている」と書いたが、北側(須賀川市や田村市)では一定の票差で勝っていることも新2区を選んだ一因になっているようだ。 馬場氏にとっては年齢も期数も実績も「大先輩」の玄葉氏が新2区からの立候補に意欲を示せば、面と向かって「それは困る」「自分も立候補したい」とは言いにくいだろう。 もっとも玄葉氏と馬場氏を天秤にかければ、本人が辞退しない限り玄葉氏が候補者になることは誰の目にも明らかだ。理由は馬場氏より期数や実績が上回っているから、ということだけではない。 両氏の明らかな差は組織力だ。政治家歴30年以上の玄葉氏と、2年にも満たない馬場氏では比べ物にならない。例えば、郡山駅前で街頭演説を行うことが急きょ決まり「動員をかけろ」となったら、玄葉氏は支持者を集めることができても、組織力を持たない馬場氏は難しいだろう。 「馬場氏は青空集会を定期的に開いて多くの有権者と触れ合ったり、SNSを使って積極的に発信している点は評価できる。馬場氏がマイクを握ると聴衆が聞き入るように、演説も相当長けている。しかし、辻立ちや挨拶回り、名簿集めといった基本的な行動は物足りない」(同党の関係者) 馬場氏の普段の政治活動は、若者や無党派層が多い都市部では支持が広がり易いが、高齢者が多く地縁血縁が幅を利かす地方では、この関係者が言う「基本的な行動」を疎かにすると票に結び付かないのだ。 「簡単には決められない」  立憲民主党の県議に新区割りを受けて馬場氏の今後がどうなるか意見を求めたが、言葉を濁した。 「現1区で当選した金子氏が新1区、現4区で当選した小熊氏が新3区に決まれば残るは二つだが、だからと言って新2区が玄葉氏、現5区時代から候補者不在の新4区が馬場氏、という単純な振り分けにはならない。両氏の支持者を思うと、簡単にあっちに行け、こっちに行けとは言えませんよ」 加えて県議が挙げたのは、同党単独では決めづらい事情だ。 「私たちはこの間、野党共闘で選挙を戦っており、他党の候補者との調整や、ここに来て距離を縮めている日本維新の党との関係にも配慮しなければならない。こうなると県連での判断は難しく、党本部が調整しないと決まらないでしょうね」(同) 同党県連幹事長の高橋秀樹県議もかなり頭を悩ませている様子。 「もし全員が新人なら、あなたはあっち、あなたはこっちと振り分けられたかもしれないが、現選挙区に長く根ざし、そこには大勢の支持者がいることを考えると、パズルのピーズを埋めるような決め方はできない。党本部からは年内に一定の方向性を示すよう言われているが『他県はできるかもしれないが、福島は無理』と伝えています。他県は現職の人数が少なかったり、2人の現職が一つの選挙区に重なるケースがほとんどないため、すんなり候補者が決まるかもしれないが、現職の人数が多い福島では簡単に決められない。ただ、目標は現職4人を再び国政に送ることなので、4人と直接協議しながら党本部も交えて調整していきたい」(高橋幹事長) 当の馬場氏は今後どのように活動していくつもりなのか。衆院議員会館の馬場事務所に尋ねると、馬場氏から次のような返答があった。(丸カッコ内は本誌注釈) 「(候補者調整について)現時点において、特段決まっていることはございません。しっかりと自分の思いを県連や党本部に伝えているところでもあり、その決定に従いたいと考えています。その思いとは、私が今ここに平成初の国会議員として活動できているのも、地盤看板鞄の何一つ持ち合わせていない中から育ててくださり、ゼロから一緒につくりあげてくださり、今なお大きく支えてくださっている郡山市・二本松市・本宮市・大玉村の皆さまのおかげです。いただいた負託に応えられるように全力を尽くすのみです」 現2区への強い思いをにじませつつ、県連や党本部の決定には従うとしている。 中途半端な状態に長く置き続けるのは本人にも支持者にも気の毒。それは馬場氏に限った話ではない。丁寧に協議を進めつつ、早期決着を図り、次の選挙に向けた新体制を構築することが賢明だ。(文中一部敬称略) あわせて読みたい 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

  • 存在感が希薄な福島県議会

    【高額報酬】存在感が希薄な福島県議会

     今年は県議の改選イヤー(11月19日任期満了)。だが、一般県民からすると馴染みがない存在で、知名度も低い。年間報酬は約1400万円。その金額に見合った役割を果たしていると言えるのか。(志賀) つまらないやり取りで高額報酬  昨年10月30日投開票の知事選。現職・内堀雅雄氏の福島市の事務所で、固唾をのんで開票結果を待っていたのが県議たちだ。 県議の定数は58。会派別の議員数は、自由民主党福島県議会議員会(自民)31人、福島県議会県民連合議員会(県民連合)18人、日本共産党福島県議会議員団(共産)5人、公明党福島県議会議員団(公明)4人。 知事選では、共産党を除く自民、県民連合、公明が支援する内堀氏が55万1088票を獲得。共産党推薦の草野芳明氏に48万票の大差を付けて3選を果たした。 内堀氏は2014年の初陣から与野党相乗りの「オール福島」体制で当選してきた。旧民主党県連、社民党県連、連合福島、県民連合の4者協の主導で、当時副知事だった内堀氏の擁立を計画。自民党県連執行部は独自候補の擁立に失敗し、執行部と距離を置く自民県議らが野党側に接近。党本部の指示もあり、後追いで相乗りとなった経緯があった。 2期8年の間に自民党との結び付きは強くなり、今回の知事選でも内堀事務所で最も目立つところに陣取っていたのは自民系の衆院議員・県議だった。社民党県連は汚染水問題や原発新増設・再稼働問題への姿勢が合わないとして支援を見合わせたが、圧倒的な差で勝利し、あらためて支援態勢の盤石さを示した。 県議会では9割が〝与党〟議員ということもあって、この間、知事提出の議案が否決されたことは一度もない。一方で、共産議員から提出された汚染水や原発関連の議案はことごとく否決されている。 例えば、昨年9月定例会での知事提出議案は22件が原案可決、1件が同意となった。一方で共産議員が提出した「県民の理解が得られていないALPS処理汚染水海洋放出は行わないことを求める意見書」、「原子力発電所の再稼働・新増設及び老朽原発の運転期間延長の方針の撤回を求める意見書」は共産以外の全会派が反対し、否決されている。 ある自民議員は「何でもかんでも知事の議案を通しているわけではない。二元代表制を理解し、是々非々でチェックしている」と述べる。ただ、別の県議は「以前は共産が出す議案も検討していたが、いまは無条件で反対している節がある。当局と〝オール与党〟の議会が相互依存しているようなもの」と疑問を呈する。 本誌では昨年8~10月号と50周年増刊号で、ジャーナリスト・牧内昇平氏による内堀県政の検証記事を掲載した。国に批判的な発言をせず、汚染水の海洋放出に関しても「県が容認する・容認しないという立場にない」と言及しようとしない。さまざまな人に会って話を聞くが、記者会見では批判の声に向き合おうとせず、直接意見を述べようとする被災者団体とは顔を合わせようとしない。 あわせて読みたい あわせて読みたい 内堀雅雄氏  記事ではそんな一面が浮き彫りとなったが、県議からは知事の対応などについて表立った批判は出てこない。県議らは「それだけ内堀氏がきちんとやっているということだ」と口をそろえるが、実質的に執行部の追認機関となっている。 前回改選時(2019年)の県議会報に掲載された県議の主な経歴によると、大学卒33人、大学院卒2人、高校卒(大学中退含む)14人、短大・専門学校卒4人、不明5人。 内堀氏は東大卒、副知事の鈴木正晃氏、井出孝利氏はともに東北大卒。高学歴でともに元官僚、元県職員なので行政経験も豊富だ。いまの県議たちがチェックし切れるのか。 何も学力偏差値が高い県議をそろえろと言っているわけではない。元知事の大竹作摩氏、元建設大臣の天野光晴氏は尋常高等小学校卒で、どちらも県政発展に大きな功績を残した。緊張感を持って知事をチェックできる県議が求められており、いまの県議は物足りないということだ。 数十日勤務で報酬1400万円  県議会ホームページによると、県議の仕事として以下のようなことが示されている。 ①議決権(県条例や予算、工事請負契約などの議決)、②選挙権(議長、副議長などを選任)、③同意権(副知事、教育委員会委員などを知事が選任・任命する際に同意)、④調査権・検査権(県が議決通りに仕事しているか調査)、⑤意見書提出権(政府・国会に意見書を提出)、⑥請願受理権(提出された請願を審査し、採択したものは知事などに実行を要求)。 選挙になると政策的なことを公約に掲げる候補者がいるが、県議会(地方議会)は政策立案機関ではない。意見書提出は定例会ごとにそれなりに行われているが、内堀氏が就任した2014年12月定例会以降、政策的な条例が制定された事例はない(議員定数や政務活動費など議会関連の条例は除く)。 敢えて言うなら、それぞれが考える政策を実現するための予算を獲得できるように、知事や知事部局に伝え、定例会などで質問して問題点を周知するのが仕事と言える。予算を最終的に決めるのは議会に与えられた権限だ。 ただし、予算案を議会に提出する権限は知事だけが持っており、議会は自ら予算を作れない。 知事選前の10月8日付の朝日新聞では《内堀の最大の強みは、政治家を動かし、霞が関とも折衝を重ねて、「国からお金を引っ張ってくることだ」と、内堀を支える県議は口をそろえる》と報じていた。文句の言いようがない予算案を出されたら、県議の出る幕はないことになる。 県議らに話を聞くと、「観光や道路行政など広域的な話は県単位でなければ進まないことも多い」、「住民から不満の声を聞いて、市町村につなげることもある」という。県民の役に立っている、と。ただ、会期中は地元を離れることも多く、身近な存在と感じている人は少ないだろう。 浜通りのある政治家経験者は「震災・原発事故後、浜通りの市町村は国との距離がずいぶん縮まった。国の職員が出向し、大臣などが視察に来る回数が増える中で、県の存在自体が薄れているのは否定できない。制度自体にひずみが生まれていると感じる」とも語る。「県に話を通したいとき、県議がいてくれると助かる」という市町村職員の声もあるようだが、その役割が揺らいでいるということだ。 2019年9月号「県議会をダメにする専業議員」という記事で2018年度の活動実績を調べたところ、本会議28日、各常任委員会(県内外の調査を含む)19日、統括審査会3日、特別委員会(交流人口拡大・過疎地域等振興対策、健康・文化スポーツ振興対策、避難地域等復興・創生対策)12日で、合計62日だった。議会運営委員会、広報委員会などに所属していたとしても80~90日。 にもかかわらず、県議には高額な報酬が支払われている(表1)。月額報酬は83万円。期末手当は条例で「報酬月額×1・45×1・60」と定められている(昨年12月20日時点。12月定例会でアップする見通し)。  それ以外にも旅費や政務活動費などの〝余禄〟が支給されている。 県議が本会議や委員会に出席すると、交通費1㌔当たり25円、日当3000円を支給。福島市以外に住む県議が宿泊する場合は1泊当たり1万4900円の宿泊料も出る。 視察や調査では、交通費1㌔当たり37円(鉄道などの公共交通機関を利用した場合は実費)、日当3300円、宿泊費1万4900円、食卓料(海外視察など、宿泊せず移動したときの食事費用)3300円。 政務活動費は会派を通して月額30万円が交付されている(条例では35万円だが、5万円減額している)。 昨年6月30日、2021年度交付分の政務活動費2億0490万円の収支報告書が公開された。総支出額は2億0450万4063円(99・8%)だった。 自民党は交付された1億0770万円をすべて使い切った。県民連合は交付額6480万円、返還額2万9486円、共産党は交付額1800万円、返還額3万5286円、公明党は交付額1440万円、返還額33万1165円。なお共産党は議員別には支給せず、会派単位で使用している。 支出別で最も金額が大きいのは、県政報告の広報紙の制作・印刷・発送などに使われる「広聴広報費」(9964万9368円=全体の48・7%)。 県の持ち株の関係で、福島テレビなど関係会社の役員に就き報酬を得ている議員もいる。議会選出の県監査委員などに就くことでも報酬が得られる。これらも〝余禄〟だ。 専業議員は無気力議会の元凶  昨年7月4日には2021年の県議の所得が公開された。それをまとめたのが表2だ。  2021年に1年間議員を務めた人が対象。そのため、同年4月の県議補選で初当選した山内長氏(自民、大沼郡)、22年10月の県議補選で初当選した佐藤徹哉氏(自民、郡山市)、佐々木恵寿氏(自民、双葉郡)は含まれていない。 先ほど県議の年間報酬が約1400万円と説明したばかりなので、混乱するかもしれないが、表で示しているのは所得税や共済費など法定控除後の「所得」だ。議員報酬や関連会社の給与所得、事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得、雑所得、一時所得などの合計金額を示す。 これを見ると、最も多い1186万円が県議の報酬ということになるのだろう。それを下回っているのは、事業所得などでマイナスになったためと考えられる。逆に議員報酬が高い議長や副議長などに就いたり、関連会社の役員を務めて給与所得を得たり、県監査委員を務めて報酬を得た場合、所得に計上され、上位にランキングされる。 こうして見ると大半は専業議員だ。落選したら収入がなくなる立場だと、選挙活動を優先させるようになり、執行部に厳しい目を向ける姿勢がなくなる。県議会の存在感の希薄さはそこにも一端があるのだろう。 ベテラン県議は議員報酬についてこう持論を展開する。 「県職員で言えば部長職相当の金額であり、小さな会社の役員や30、40代の人は『高額な報酬』と感じるはず。でも、企業経営者クラスになると、『金額が低すぎて暮らしていけない』と話していたりする。要するに、人によって受け止め方は異なるということです。だからこそ『この報酬をもらっていても不思議ではない』と言われるぐらいの働きをしなければならないと考えています」 一方で、あるジャーナリストは「県議を見て『年収1400万円に値する働きをしている』と感じる人がどれだけいるだろうか。専業議員なんて言語道断。仕事を持ちながら議員を務めるのがあるべき姿で、兼業できる環境をまずは整えるべき。その働きぶりを考えると、月額報酬30万円、期末手当はナシというのが妥当でしょう」と断言する。 昨年、県議会では改選に備えて、議員定数等検討委員会(佐藤憲保委員長)を設けた。直近の国勢調査人口を踏まえた定数について各会派が議論を行ってきた。 注目されていたのは双葉郡選挙区(定数2)の行方だ。選挙区として存続するためには、選挙区人口が「議員1人当たりの人口」の半数を上回る必要がある。前回県議選のときは、その基準に達せず、強制合区となる見通しとなった。そのため、「これでは復興が進まない」と国に求め、特例法が制定され定数2を維持した。 2020年度の国勢調査で双葉郡選挙区の人口は1万6484人。議員1人当たりの人口3万1606人の半数をぎりぎり上回った。ただ、県全体の人口183万3152人を現行の19選挙区に割り振って各選挙区の定数を単純計算すると、双葉郡の定数がゼロになり、福島市といわき市の定数がそれぞれ1増える計算となることが分かった。 そもそも地方自治法で定められていた法定上限数(2011年に撤廃)からすると、現在の人口は定数57相当となっている。 そのため、今後の人口減少も見据えた話し合いが各会派で行われるものと思われたが、結果的には定数58、19選挙区、双葉郡選挙区(定数2)など、すべて現行通りで維持することになった。 渡辺義信議長に意見を求めると、このように語った。 「県内19選挙区の中には、広大な選挙区に1人というところもある。人口だけで選挙区を決めると逆にアンバランスな面が出てくる。人口が少ない地域ほど課題が多いという事情もあり、復興途中の本県はなおのこと議員を減らすべきではないと考えます。そういう意味で検討委員会の答申は納得できるものでしたし、県議会として可決した次第です」 とはいえ、双葉郡の帰還の動きは鈍っており、県全体の人口減少も加速している。衆院議員ですら「1票の格差」の問題に対応すべく、10増10減の新区割りを導入した。そうした中で県議は現行維持というのは、問題を先延ばしにしている印象を受けるし、職を失いたくないための単なる〝保身〟にも映る。 元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所の主任研究員を務める今井照氏(地方自治論)に県議の役割について見解を求めたところ、次のように述べた。 「日本の地方自治制度は二元的代表制をとっているので、議会と知事は別の意思を持っていても構わないという制度になっています。もしそこで相互の意見が最後まで一致しなければ、最終的には議会の方が強い制度になっています。議会とその議員はそのような制度を前提としながら、きちんと知事に立ち向かわなければなりません」 「そのためには個々の議員や政党会派はもとより、議会内部に組織としてきちんとしたシンクタンクを置くことが必要です。議会には議会図書館を設置することが地方自治法で義務付けられていますが、その組織を発展させてもいいと思います。たとえば予算審議を見ていても、知事から出てくる資料は概括的なものばかりで、財政分析することもできません。そのときは議会のシンクタンク(図書館)が知事側に対し必要な資料を請求することができるような仕組みがあるべきです。情報が知事側に握られていれば、議会や議員の立場は強くなりません」 「しかし、福島県に限らず、一般的には国会の議院内閣制のように、あたかも議会が長を選んで、だから長を支える会派とそうではない会派があるかのように思われています。議員ですらそう思っている節がある。そこが、緊張感のない県議会にしている最大の要因だと思います。県議に与党も野党もないのです」 地方自治制度においては、首長や執行部に立ち向かう議会が求められているのに、福島県議会はそうなっておらず、「オール与党」などと錯覚しているから緊張感のない議会が生み出されているのではないか、と。 ある県議経験者は「いろいろできると思って県議になったが、何もできなかった」と振り返る。 「県議会で影響力を持っているのは、正副議長やその経験者、最大会派である自民の幹事長ぐらい。県の部長クラスもその辺の意見には熱心に耳を傾けるが、1、2期の県議の声は相手にされない。かといって、市町村や住民とも距離があり、言動は会派の方針に従わなければならない面もあったのでもどかしかった」 こうした状態だからこそ、首長に転身する県議が多いのだろう。12月20日現在、県議出身の首長は8人。かといって、際立った業績を挙げた県議出身首長がいるわけでもない。 県議は首長や国会議員になるステップと見られているため〝中二階〟と称されることもあった。その傾向は年々強くなっている。加えてオール与党の無気力議会。空っぽの〝中二階〟にお金をかけたいとは誰も思わない。 あわせて読みたい 【福島県職員の給料】人事院・福島県人事委勧告の虚妄

  • 【大玉村】合併しなかった県内自治体のいま

    【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま

    郡山市が通勤圏内、プラント立地で人口増  国の意向で2000年代を中心に進められた「平成の大合併」。県内では90市町村から59市町村に再編された。そこに参加しなかった県内自治体のいまに迫るこのシリーズ。今回は、安達郡で唯一「単独の道」を選択した大玉村を検証していく。(末永)  「平成の大合併」前、安達郡は大玉村のほか、安達町、岩代町、東和町、本宮町、白沢村の4町2村で構成されていた。これに二本松市を加えた1市4町2村が「安達地方」に位置付けられ、それら市町村で消防行政やごみ・し尿処理施設、斎場(火葬場)運営などを担う「安達地方広域行政組合」が組織されていた。  「平成の大合併」では、2005年12月1日付で二本松市と安達町、岩代町、東和町が合併して新・二本松市に、2007年1月1日付で本宮町と白沢村が合併して本宮市になったが、大玉村はいずれにも加わらなかった。これにより、安達地方広域行政組合の構成員は2市1村となり、安達郡は大玉村のみとなった。ちなみに、県内で1郡1村(1郡1町を含む)は安達郡(大玉村)だけである。 当時の大玉村役場関係者はこう述懐する。 「いまも存在していますが、以前から本宮町、大玉村、白沢村の首長、助役(※当時=現在は副市町村長に名称変更)、議員などで構成する『南逹地方振興協議会』というものがあり、広域的に地域振興や課題への対応などを協議していました。ですから、『平成の大合併』の議論が巻き起こった際、それが1つの枠組みになるのではないかと捉えられていました。東北部(二本松市)との合併は、当初からそれほど話題にはなっていなかったように思います」 前述したように、「安達地方」は1市4町2村で構成されていたが、二本松市、安達町、岩代町、東和町の「東北逹」と、本宮町、大玉村、白沢村の「南逹」が合併の枠組みとして捉えられていたというのだ。 当時の本誌取材の感覚では、「東北逹」は二本松市と安達町は地理的な条件面などで優れているが、岩代町と東和町は国道4号やJR東北本線のラインから外れ、地理的条件などが厳しかった。そのため、「東北逹」の合併は二本松市と安達町が岩代町と東和町を救済するといった側面があったように思われる。 一方、「南逹」は当時の大玉村役場関係者のコメントにもあったように、「南逹地方振興協議会」というものがあり、もともと広域連携や交流、結び付きがあった。そのため、「合併するなら、この3町村で」と捉えられていたようだ。 ただ、当時、本宮町は工業団地の造成に伴う財政負担が大きく、大玉村からすると合併相手としては決していい条件とは言えなかった。 一方で、白沢村は岩代・東和両町と同様、国道4号やJR東北本線が通っている自治体に比べると、地理的条件などが厳しかった。 そのため、大玉村は消極的で、本宮町と白沢村で合併協議が進められることになった。なお、当時の国の方針では、新市(市政施行)への移行条件は「人口3万人以上」だった。合併時、本宮町の人口は約2万2000人、白沢村は約9000人で、それを満たしていたこともあり、両町村が合併して本宮市が誕生した。 こうして、安達地方は2市1村に再編され、大玉村は「単独の道」を選択した。なお、合併議論が巻き起こった際、大玉村長だったのは浅和定次氏で1993年から2013年まで5期20年務めた。2013年からは押山利一氏が村長に就き、現在3期目。押山氏は元役場職員で、浅和村長の下で、総務課長や教育長などを歴任した。「単独の道」を決めた浅和氏、それを近くで見てきた押山氏が合併議論の渦中と、その後の村政を担ってきたのである。 押山利一村長 一部に「心配」の声  とはいえ、前出・当時の大玉村役場関係者によると、「大玉村役場内でも、一部では合併すべきといった意見もあった」という。その理由は、やはり「合併しなかったら、すなわち国の意向に逆らったら、地方交付税が減らされ、立ち行かなくなるのではないか」といった心配事があったからだ。 前号の「桑折町・国見町編」でも紹介したが、合併議論最盛期に、県内で首長を務めていた人物はこう語っていた。 「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」 この首長経験者にとって、そうした国の方針は「脅し」のような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、合併を選択したというのである。 大玉村でも、同様の心配をする声があったということだ。行政の内部にいたら、そういった思いになるのは当然のことと言えるが、「いまになって、あらためて振り返ってみると、合併しなくて良かったと思う」(前出・当時の大玉村役場関係者)という。 それは、合併しなかった市町村への国からの〝締め付け〟が思ったほどではなかったから、と言えよう。 もっとも、前号で検証した桑折町・国見町もそうだったが、合併しなかった市町村は、それなりの「努力の形跡」が見て取れる。 ちょうど、「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための各種指標が公表されるようになった。 別表は同法に基づき公表されている大玉村の各指標の推移。比較対象として、同地区で合併した本宮市の各指標を併記した。 大玉村の職員数とラスパイレス指数の推移 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  全体的に指標は良化していることが見て取れる。実質公債費比率は近年は若干増加傾向にあり、本宮市に「逆転」された形になっているが、将来負担比率は2020年度は「算出なし(ゼロ、あるいはマイナス)」となっている。 もっとも、前号でも紹介したが、元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏によると、ここ数年は制度的な事情で、全国自治体の財政事情が改善しているという。 「2020年度以降、国では法人税収が増加していて、それを反映して地方交付税の原資も改善され、新たな借金(臨時財政対策債)の発行をほとんどしなくて済むばかりか、これまでの借金(臨時財政対策債)を償還する原資も国から交付されています。つまり全国の自治体財政の財政指標はこの3年間で大きく改善されているのです」(今井氏) 次に職員数とラスパイレス指数について。近年、臨時を含めた職員数は増えている。その要因については、後段で押山村長に見解を聞いている。 特筆すべきは人口の推移。別表に安達地方3市村の人口の推移をまとめたが、二本松市が合併直後と比べると約1万人減、本宮市が微減となっている中、大玉村だけは増加し続けている。これは県内市町村では極めて稀有なこと。特に、福島県の場合は、東日本大震災・原発事故を受け、人口減少が加速した。そんな中で、一時的に増加に転じるところはあっても、安定的かつ長年にわたって増加し続けているのは、県内では大玉村と西郷村だけである。 こうした各種指標や人口の推移などについてどう捉えているのか、押山村長に聞いた。 ――「平成の大合併」の議論が進められていた際、近隣では旧二本松市と安達郡3町、本宮町と白沢村の合併がありました。大玉村にもその誘いがあったと思いますが、当時の村長はじめ、関係者の「単独の道」という選択をしたことについて、いまあらためてどう感じていますか。 「当時、私は村役場総務課長として市町村合併を担当しておりました。安達管内は二本松藩の域内であり歴史的に結びつきが強く『安達はひとつ』の考えの下に『安達地方広域行政組合』をはじめとして、強い結びつきがありました。 当初は、域内7市町村または3町村の合併論議はありましたが、当村では伝統的に『自主独立』の気運が強く、村内での住民との意見交換会でも『合併すべき』の意見はごく一部で大多数が反対意見でした。 議会をはじめ、各種機会に意見をうかがいましたが、議会及び村民の合併に対する意見は、大多数が合併は望まないとのものでした。そこで、大玉村としては『村民の望まない合併はしない』と早い段階で決定した次第です。 その選択が村民にとって良かったかどうかは、その時点で選択の余地がなかったとはいえ、単独の道を選んだ以上は村民の皆さんがそのようなことを意識しないで生活できる村政の執行が肝要だと思っています」 ――当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められます。(別表で示した)財政指標、職員数とラス指数についてどう捉えていますか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応についてはどう考えていますか。 「『財政指標』については、もともと4割弱の財政力指数が示す通り典型的な小規模自治体ですが、『住民サービスを落とさずに健全財政を維持する』をテーマとして、前村長時代からの村政執行のベースとなっています。 『入るを量りて出ずるを為す』は当然のこととして、行政の先行投資の部分も当初から行われていたと思います。例えば、保育料や幼稚園の一部減免、定住化政策への助成などのソフト面から、ハード面は徹底して身の丈に合った施設でランニングコストを極力抑えるものとする等の徹底も財政力指標に表れていると考えています。 『職員数とラスパイレス指数』については、近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加であるが、それでも職員の負担は旧に倍して増大しています(※職員定数は116人)。 『財政基盤強化』、『行政運営の効率化』への取り組みと今後の対応については、住民サービスの水準を落とさずに財政調整基金等の積み増しを図りつつ、将来を見据えて新規事業に取り組んでいます。 今後も子育て支援や定住化政策、健康長寿の村づくり、公共交通網の整備等の『村民の満足度を高める政策』の継続と、将来のための企業の誘致基盤の確立に努めていきます」 人口増加の要因  ――大玉村は県内では数少ない人口が増えている自治体です。その要因とこれまでの対策、これからの取り組みについて。 「『人口の推移』については、国勢調査で45年連続増加しているが、国県等の人口減少の中で、大玉村だけが増加を維持することは困難と考えています。 また、コロナウイルス感染症による出生数の激減が危惧されており、今から将来に向けての新たな対策が不可欠と考えています。 現在までの人口増の要因は複合的であり、子育て支援や定住化政策、福島・郡山・二本松・本宮が通勤通学圏内、国道4号沿いである交通の利便性、安達太良山から広がる景観、そして地価が廉価等の理由が挙げられます。 今後もこれらの利点をさらに高めて人口維持に努めますが、減少すればしたなりの行政運営があるだろうと考えています」 ――「単独」だからできたこと、その強み等々について、感じていることがあれば。 「『単独』だからできたこと、『その強み等々』については、合併せずに単独の道を選んで現在に至っているので、その過程で『小さいからこそ可能な村のメリット』があるとの思いで、きめ細かな行政運営に徹してきました。 前村長の言で『住民に目の届く、住民から手の届く村政』や私の村政の基本的な考え方『村民に日本一近い村政』の実現を目指しています。 ただ、逆に財政的に住民にサービスを届けられない『小さいゆえのデメリット』も多々あります。 幸いにも管内(二本松市、本宮市、大玉村)の結びつきが強く、各合併後も各種分野で連携が維持されており、特に消防、衛生関係など『安達地方広域行政組合』、『安達地方市町村会』等が有効に機能しています」 やはり、役場内、議員、村民のいずれも、当初から「合併」には消極的だったようだ。実際、村民からすると「(全国的に合併議論が巻き起こった際も)最初からそういう機運はなかった」という。 そのほか、押山村長は職員数の増加については「近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加」と明かし、人口増加については「複合的な要因」と分析した。 恵まれた条件  前出・当時の村役場関係者はこう話す。 「1つ例を挙げると、大玉村にはほかの多くの市町村にあるような、企業・工場を誘致するために行政が造成したいわゆる工業団地がありません。それは、農業で生計を立てている人が多いこともありますが、働き口として本宮市や郡山市に依存できる、といった部分が大きい。そのほかでも、行政サービスは別として、普段の生活の面では本宮市や郡山市に頼れるところが多い。そのため、そういった部分で行政が財政投資をしなくてもいい、といった側面があります。そのことが財政指標の良化につながっている面は多分にあると思います」 二本松市、本宮市、郡山市などが通勤・通学圏内で、働き口や医療・介護など、さまざまな面でそれらに依存できる地理的条件にある。そのため、そういった部分に財政投資する必要がないことから、財政指標の良化につながっている面があるというのだ。 加えて、それらの市に比べると、地価が安いため、若い世代が移り住み人口増加につながっている。押山村長が語っていたように、子育て支援や定住化政策など、村の努力によるとこもあるだろうが、やはり条件面で優れていることが大きい。だからこそ、早い段階で「合併しない」ことを決断できたのだろう。 ある村民は「唯一、不便なところを挙げると、大玉村にはJR東北本線の駅がないこと」という。ただ、役場周辺から本宮駅までは3㌔ほどで、村内各所から本宮駅までコミュニティーバス、デマンドタクシーなどを運行している。 その代わり、というわけではないが、現在、村では東北道のスマートインターチェンジ(IC)誘致を進めている。役場周辺から本宮ICまでは5㌔ほど、二本松ICまでは8㌔ほどで、スマートIC設置により、村ではさらなる交通の利便性向上と周辺開発を期待している。それに当たり、村内では「スマートICより、JR東北本線の駅をつくってほしい」といった意見もあったという。前述したように、「大玉村にはJR東北本線の駅がないのが唯一の弱点」といった意見もあったが、駅間の距離、利用見込みなどから、現実的ではないようだ。 そのほか、別の村民によると「プラントの存在も大きいと思う」という。プラント(PLANT)は総合ディスカウントストアで、「プラント―5 大玉店」は2006年2月にオープンした。ちょうど、「平成の大合併」議論が巻き起こっていたころで、当然、その前から「プラントが出店する」ということは分かっていた。地元雇用が見込めるし、若い世代が移り住むにも大きな要素となる。具体的な数字は不明だが、固定資産税なども相応と聞くから、その点も「単独の道」を後押ししたに違いない。 こうして聞くと、村の努力も当然あったと思われるが、それ以上に、県内最大の経済都市である郡山市が通勤圏内であること、大型商業施設が立地していること、近隣の市に比べて地下が安いこと――等々の条件が揃っていたのが大きい。 一方で、前号の「桑折町・国見町編」でも同様の指摘をしたが、「大玉モデル」や「大玉ブランドの新名物」と言われ、全国から注目を集めるような特別な仕掛けがあったかと言うと、思い当たらない。現状に満足せず、新たな仕掛けを生み出していくことも求められよう。

  • 【南会津合同庁舎内で県職員急死!?】詳細を明かさない南会津地方振興局

    【南会津合同庁舎内で県職員急死!?】詳細を明かさない南会津地方振興局

     昨年11月下旬、南会津町の福島県南会津合同庁舎で県職員とみられる中年男性が死亡していたという。同庁舎で何が起きていたのか、一部の町民の間でウワサになっている。  町民の話を総合すると、職員が亡くなっていたのは11月22~23日で、朝、出勤した職員が発見した。「中年男性が土壌などを調べる部屋で倒れていた」、「パトカーや救急車が出入りして車を囲んでいた」、「現場の状況から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い」という。  同庁舎には南会津地方振興局、南会津農林事務所、南会津建設事務所、南会津教育事務所が入っている。同庁舎を管理している振興局に確認したところ、「(亡くなった職員がいるという)話があったのは事実」と認めたものの、年齢や性別、所属部署、死因については「職員や遺族のプライバシーを尊重する観点」から詳細な説明を避けた。  「仮に何らかの事故で亡くなっていたり、殺人事件などに巻き込まれたとしたら、周りの住民は不安になる。行政機関として、ある程度は公表する義務があるのではないか」とただしたところ、「今回は公表する事例には当たらないと判断した」と話した。こうした回答から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い。  職場を最期の場所に選んだのには、どんな背景があったのか。組織として改善すべき問題があった可能性も考えられるが、同振興局は口を閉ざし、詳細も報道されていない。 あわせて読みたい 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 辞職勧告を拒否した石田典男会津若松市議

    辞職勧告を拒否した石田典男会津若松市議

     会津若松市議会は12月1日、石田典男議員(63、6期)に対する辞職勧告決議を賛成多数で可決した。決議案は同日開会した12月定例会議の本会議で審議され、石田議員と清川雅史議長、退席した4人、欠席した1人を除く19人で採決、全員が賛成した。  石田議員は会津若松地方広域市町村圏整備組合が2021年に行った新ごみ焼却施設の入札をめぐり、市の担当職員に非開示資料の閲覧を執拗に求めたり、入札参加予定企業の営業活動に同行するなどしていた。(詳細は本誌昨年11月号を参照)  決議の採決結果は別掲の通り。清川議長は中立を守る立場上、採決に加わらなかったが、仮に議長でなくても石田議員と同じ会派に所属することから、市民クラブの他議員と一緒に退席していたとみられる。  「10月下旬に開かれた会派代表者会議で石田議員の処分内容が話し合われたが、市民クラブは『厳重注意でいいのではないか』とかばったものの他会派は『辞職勧告すべき』と主張した。市民クラブとしては〝仲間〟への辞職勧告決議案が出されれば賛成するわけにはいかないし、かと言って反対もしづらいので、退席して採決に加わらない方法を選択した」(事情通)  決議案は当初、11月9日開会の臨時会で採決する予定だったが、元職員による約1億8000万円の公金詐取事件(詳細は本誌昨年12月号を参照)が発覚したため、扱いが先送りされた経緯がある。  今回の採決前には、石田議員の一連の行為が議員政治倫理条例に違反するか否かについて市政治倫理審査会(中里真委員長=福島大学行政政策学類准教授)が審査を行い、清川議長に報告書(10月4日付)を提出していた。そこには《石田議員が会津若松市職員であるa氏に対し、本件ごみ焼却施設計画に関する非開示の資料の開示を何度も求めた事実はあったと判断します》《一連の行為は特異な行動であった》《石田議員の行為は公正な職務を妨げる行為と認められます》などと書かれ、《会津若松市議会議員政治倫理条例第4条第1項第5号に違反する》と結論付けていた。  「非開示資料を石田議員に見せた市職員a氏は減給6カ月の懲戒処分を受けた後、市を退職している。それを基準に考えると、議員に減給処分は科せないし、懲罰の対象にもならないため、辞職勧告は妥当な処分だと思う」(ある議員)  とはいえ、辞職勧告決議に法的拘束力はなく、石田議員も採決後のマスコミ取材に「決議は重く受け止めるが、後援会とも相談し議員活動は続けていく」とコメントしている。  「今後の焦点は、8月の任期満了を受けて行われる市議選に石田議員が出た時、有権者がどう判断するかです。そこで当選すれば、石田議員は『有権者にとって必要な議員』ということになる。有権者の良識が問われる選挙になると思います」(同)  渦中の議員に、市民がどのような審判を下すのか注目される。 あわせて読みたい 「入札介入」を指摘された石田典男【会津若松市議】 【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態

    【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態

     人気ラーメン店の〝開店前行列〟に福島市職員と思しき集団が並んでいた――。こんな匿名メールが本誌編集部に寄せられた。市に確認したところ、メール内容は事実であり、職員らは所定の手続きを取らず休憩時間を取っていたことが分かった。  メールは昨年11月18日に送信されたもの。内容は以下の通り(一部読みづらい個所をリライトしている)。  《今日10時半過ぎに福島市岡部の醤油亭というラーメン屋さんに行ったら、福島市の職員が8〜10人くらい並んでました。この店は人気店で、開店11時前に並ばないとスープがなくなるので、私は有給を取って平日の今日10時半過ぎに行きました。私の前方に並んでいた夫婦の旦那さんは、「なんだって、公務員はそんなに暇なのか?」と呆れていました。駐車場を見たら白いライトバンが2台、ナンバーは福島〇〇〇〇(メールでは番号が書かれていたがここでは伏せる)とありました。添付は職員の写真と車のナンバーの写真です》  添付されていた 〝証拠写真〟には、腕に「福島市」と書かれた作業服を着た男性数人が並ぶ姿と、車のナンバーが収められていた。  地方公務員法第30条では「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と定めている。もし仕事をサボって集団で並んでいたとすれば違法行為ということになる。  一方で、公務員が昼の休憩時間に作業服姿で外食すること自体は問題ない。「早朝から仕事して昼休みを早めに取った」、「昼から仕事なので、その前に食事休憩を取った」というケースも考えられる。  ネットで検索したところ、ラーメン店の正式名称は「ラーメン工房醤油亭」。セブンイレブン岡部店などがある三叉路の近くに立地する。ちぢれ麺の米沢ラーメンが味わえる店として人気を集めていたが、11月末で閉店していた。閉店する前に「どうしても食べたい」と考えて並んだのかもしれない。  実際のところはどうだったのか、市人事課に連絡し、事実確認を依頼したところ、後日「メールの内容は事実であり、ごみ減量推進課の職員たちが並んでいた」と連絡が来た。  市の担当者の説明によると、ごみ減量推進課は市内のごみ集積所などを管理する部署で、外勤が多い。普段は2人1組で行動しているが、問題の日は担当者9人が朝9時から市内のあらかわクリーンセンターに向かい、普段使用している公用車のタイヤ交換を行っていた。  作業がひと段落した後、早めに昼休憩を取り、昼食を食べに行くことになった。なお、職員がそろって食事するのは、タイヤ交換時の恒例行事となっていたという。  もっとも、ごみ減量推進課の担当者によると、「特別な用事がない限り、12時から13時の間に昼休憩を取ることになっている。変更する場合は昼に仕事が入っているなどやむを得ない理由があるときに限られ、その際は上長が指示を出す」。職員らは上長の指示を仰がず、勝手に昼休憩を早めに取っていたことになる。  職員らは11時の開店前から行列に並んで食事を取り、その後市役所に戻った。帰庁後間もなく昼休憩の時間に入ったため、ちゃっかり長めの休憩時間を満喫していた。開店前行列に加えて、帰庁後に〝重複休憩〟を取っていた事実も分かったわけ。  人事課の担当者は「現在詳細について調査中で、処分の対象になるかどうか検討する」と話したが、明らかに地方公務員法に違反している。おそらくタイヤ交換のたびに同じように行動していただろうし、似たような形でサボっている職員がほかにもいる可能性がある。いま一度、職員に勤務時のルールを徹底させるべきだ。  警察官や消防士などが休憩時間、制服姿でコンビニを利用すると「仕事をサボっているのではないか」と市民から苦情が入ることがある。ネット上などでたびたび議論になるため、今回もそうした事例かもしれないと思い、念のため市に確認したところ、思わぬ事実が判明した。  中には「外食した店がたまたま混雑していることもある。そんな目くじらを立てることではない」と見る向きもあるかもしれない。  ただ、そもそも仕事の日に、わざわざ行列ができる人気ラーメン店を昼食の場所として選び、開店前から並ぶ行為は妥当だったのか。人手不足で、忙しく働く中小企業の立場からすると強い違和感を抱くだろう。「公務員はそんなに暇なのか?」と呆れられても仕方がない話だ。  メールの差出人はわざわざ有給を取って並んでいたというから、なおさら「仕事がある日でも開店前から人気店に並んで食べることが許されるとは、なんていい職場なんだ」と感じただろう(実際は勝手な判断だったようだが)。  公務員はその行動が市民に見られていることを自覚して業務に取り組む必要があろう。 あわせて読みたい 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う 【福島県職員の給料】人事院・福島県人事委勧告の虚妄

  • 【鏡石町議会】「会派制廃止」の裏話

    【鏡石町議会】「会派制廃止」の裏話

     鏡石町議会昨年12月議会で、議員発議で議会基本条例の一部改正案が提出された。同町の議会基本条例は2018年4月に施行され、その第6条に「会派制を敷く」旨が規定されているが、改正案はその削除を求めるものだった。  提案理由は「(同町議会は)議員定数が12人と比較的少数であり、この中で会派制を設けることは、むしろ議員間の分断をきたし、議会の公正かつ健全な運営に資するものではないと思われる。そのため、会派制を削除・撤廃すべき」というもの。  採決の結果、賛成多数で可決された。これに伴い、「会派制を敷く」旨が規定されている議会基本条例の第6条が削除された。  ある関係者によると、「会派制は、もともとは(2018年の議会基本条例制定時に)遠藤栄作町長を支えるというか、コントロールするために設けられたもの」という。  当時、遠藤町長を支える(この関係者に言わせると、コントロールを目論む)一派は7人おり、それら議員で「鏡政会」という会派を立ち上げた。代表には当時議長だった渡辺定己議員が就いた。同町の議員定数は12だから過半数を占める。  それ以外の5人は「野党」の立場で、それぞれ無会派(1人会派)という状況だった。  つまり、「7対5」(議場では議長は採決に加わらないため「6対5」)の構図の中で、会派制が生まれたというのである。  ただその後、2019年8月の町議選と、昨年5月の町長選・町議補選(同時選挙)を経て、状況が変わった。  まず、町長選では遠藤氏が引退し、代わって元役場総務課長の木賊正男氏が無投票で当選した。それによって、議会は「与党(町長派)」、「野党(反町長派)」といった括りはなくなった。それまで「野党」といった立場だった議員も、ひとまずは木賊町長を支える、あるいは見定めるといった立場に変わったのだ。  一方、議会は本選・補選を経て、鏡政会のメンバーは5人になった。さらに、本誌昨年10月号で伝えた渡辺議員(前出)が込山靖子議員に不適切な言動を取ったとされる問題があり、ともに鏡政会のメンバーだった渡辺議員が辞職、込山議員が離脱したことで、現在は3人になった。残りの7人は無会派(1人会派)で、「会派制の意味を成していない」状況になった。言い換えると、過去の決定を覆せる議会構成になったということでもある。  こうして、議会基本条例の一部改正(会派制の廃止)が行われたわけだが、提案理由にもあったように、そもそも定数12の町(議会)で会派を置くこと自体が稀なケースである。議員は「○○派」、「××派」といった括りなく、町のため、町民のために議会でどういった意思表示をするか、どのような議員活動をすべきか、を考えて行動すればいい。

  • 【福島県】旧統一教会と接点持つ議員の言い分

    【福島県】旧統一教会と接点持つ議員の言い分

     国会を揺るがす自民党議員と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の“ズブズブの関係”は地方議員にも見られる。共同通信社が昨年11月、全国の都道府県議にアンケート調査を行った結果、福島県内では自民党所属の9県議が「何らかの接点があった」と回答。ただ現在は、教団との関係はないとしている。  議員が教団と接点を持つのは意図的か、偶然か。ある県議の関係者がこっそり打ち明けてくれた。  「選挙ではあらゆる方面から会合出席の案内が届く。当選を目指す立場からすると、挨拶の機会をもらえるなら出席したい。ただ、何でもかんでも出席するわけじゃない。事前に『この団体は大丈夫か』と簡単なリサーチはする」  そうした中、旧統一教会をめぐっては  「リサーチの結果、ある組織が教団と近いことが分かり『挨拶は遠慮したい』と伝えたら『うちは単なるNGOで、教団とは無関係だ』と言う。それならと出席し挨拶したら、やっぱり教団と近いことが後から判明した」(同)  しかし、既に関係を持ってしまった以上、党本部やマスコミの調査には「接点があった」と答えざるを得ないわけ。  これは裏を返すと「教団と関係があるとは知らなかった」と答えた議員は、実際は「リサーチして関係があると知りながら挨拶していた」ことにならないか。同じ「接点があった」でも、意図的な議員がいることを覚えておいた方がいい。 あわせて読みたい 福島県内にも「旧統一教会」市議・シンパ議員も複数存在

  • 追悼・渡部恒三元衆議院副議長11月6日にお別れの会開催

    追悼・渡部恒三元衆議院副議長 2022年11月6日にお別れの会開催

     元衆議院副議長で通商産業大臣、厚生大臣、自治大臣などを務め、2020年8月23日に死去した渡部恒三(わたなべ・こうぞう)氏の「お別れの会」が2022年11月6日、会津若松市の会津若松ワシントンホテルで開かれた。コロナ禍のため延期になっていたもので、関係者をはじめ、政界・経済界から約350人が参列した。 同日には会津若松市城東町の自宅に「渡部恒三記念館」が開館した。館内には大臣就任時に受け取った任命書や叙勲などゆかりの品が展示されている。入場無料。開館は水、土、日曜日の10時から16時。 当日の様子と併せて、約30年前の誌面に載せた恒三氏の写真を再掲する。 在りし日の恒三氏(1992年10月撮影) 会津若松市で行われた「お別れの会」の様子 議員宿舎で晩酌する恒三氏(1992年10月撮影) 記念館前に建てられたブロンズ像 恒三氏を支えていた秘書たち。中央は佐藤雄平元知事。 会津若松市の自宅で家族と食事をとる(1992年10月撮影) 記念館に展示されている恒三氏ゆかりの品 恒三氏の長男・恒雄氏 「お別れの会」であいさつする佐藤雄平元知事 あわせて読みたい 【会津】「恒三イズム」の継承者は誰だ

  • 石川町長選で落選西牧氏の悪あがき

    石川町長選で落選【西牧立博】氏の悪あがき

     2022年8月28日投開票の石川町長選で落選した元職の西牧立博氏(76)が同10月19日、町選管に異議申し出を提出した。無効票に有効票が紛れている可能性や、開票立会人が票の点検を怠ったとして、投票用紙の再点検を求めたもの。町長選では8647人が投票し、有効票8310票、無効票337票。現職の塩田金次郎氏(74)が西牧氏に716票差で再選を果たした。  町選管が再点検を実施したところ、塩田氏の票が3票減って4510票となったが、西牧氏の3797票は変わらず、2022年10月27日に異議申し出が棄却された。正直〝悪あがき〟感は否めず、町民から呆れる声も聞かれる。ただ当の本人は、二度の事件で逮捕されながら、再び町長選に立候補する性格なので、全く気にしていないのかもしれない。  一方でそんな西牧氏に700票差まで迫られたということは、途中で断念した病院誘致をはじめ、塩田氏に不満がある人が少なくないということ。そのことを意識して町政運営を進める必要があろう。 あわせて読みたい 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦 【石川町】塩田金次郎町長インタビュー 石川中元講師「男子生徒に性加害」の実態

  • 来春に迫った北塩原村議選2つの注目ポイント

    来春に迫った北塩原村議選2つの注目ポイント

     北塩原村議会議員の任期は2023年4月29日までで、同月中に選挙が行われる予定となっている。  いまの議員は「村として初めての無投票」(ある関係者)によって選ばれ、村民からは事あるごとに「無投票は良くない」といった声が聞かれていた。  そのため、1つポイントになるのは「2回連続の無投票は阻止しなければならない」といった動きだ。  「現職議員の中には、無投票なら出る、選挙になるなら出ない、といった考えの人もいるようです。正直、そういった発想は村民(有権者)を愚弄しているとしか思えない。そんな人がタダで議員になるのを防ぐ意味でも、何とか無投票は避けてほしい」(ある村民)  もう1つは、遠藤和夫村長に近い議員は伊藤敏英議員くらいで、遠藤村長が自派議員擁立に動くか、ということ。  本誌8月号に「北塩原村長辞職勧告決議の背景」という記事を掲載した。同村6月議会で、遠藤村長の辞職勧告決議案が提出され、賛成5、反対2、退席2の賛成多数で可決された。背景にあるのは、介護保険の高額介護サービス費の支給先に誤りがあったこと、支給事務手続きが遅延したことで、その責任を問われた際、遠藤村長からは「自分の責任ではない」旨の発言があった。そのため、議員から「村長の説明は自分に責任がないようなものになっている。この先、事務執行するに当たって誰が責任を取るのか、明確にしておかなければならい」として、村長の責任を追及する動議が出された。その後、辞職勧告決議案が提出されたという流れだ。  その際、遠藤村長は「重く受け止める」とのコメントを残したが、辞職は否定した。同決議に法的拘束力はない。 遠藤和夫村長  そのほか、同議会ではそれに付随するような形で、一般会計補正予算案も賛成3、反対6の賛成少数で否決された。  こうした例があったため、遠藤村長は自派議員擁立に動くのではないか、とみられている。  もっとも、前述したように、明確に遠藤村長派と言える議員は伊藤議員1人だけだが、この間、前段で紹介した辞職勧告決議、一般会計補正予算案の否決のほかに、議案を否決されたのは1、2回あった程度で、表向きは議会対策にものすごく苦心している、というわけではない。  ちなみに、遠藤村長は2020年8月の村長選で初当選し、現在1期目。遠藤村長の妹が菅家一郎衆院議員の妻で、2人は義理の兄弟に当たる。1期目の折り返しを過ぎ、より自分の「カラー」を打ち出すためにも、遠藤村長は自派議員を増やしたいと考えているようだ。  同村は、北山、大塩、檜原の旧3村(3地区)に分かれているが、「遠藤村長は各地区で候補者を立てたい意向のようです」(ある関係者)という。  もっとも、別の村民によると「早い段階で表立って動くと、潰されてしまうから、いまはまだ水面下での動きにとどまっているようです」とのこと。  遠藤村長派の議員の台頭はあるのか、2回連続の無投票を阻止できるのか、この2つが同村議選の注目ポイントになろう。 北塩原村議会のホームページ あわせて読みたい 候補者乱立の北塩原村議選

  • 渡辺義信県議会議長に「白河市長」待望論!?

    渡辺義信県議会議長に「白河市長」待望論!?

     白河市長4期目の鈴木和夫氏(73)が2023年7月28日に任期満了を迎える。市長選まで1年を切ったが、現職の動向を含め、まだ目立った動きは見えない。  鈴木氏は早稲田大卒。県商工労働部政策監、相双地方振興局長、県企業局長などを経て、2007年の市長選で初当選を果たした。  県職員時代の経験を生かし、財政再建や企業誘致、歴史まちづくり、中心市街地活性化を進めてきた行政手腕は高く評価されている。初当選時こそ次点の桜井和朋氏と約4000票差の約1万6000票だったが、2回目以降は2万票以上を獲得し、次点に1万票以上の差をつけ、当選を重ねてきた。  とはいえ、さすがに5選ともなると、「多選」のイメージが強くなり、弊害を懸念する声も出てくる。それを見越して、市内では〝後釜〟探しが水面下で進んでいるようだ。  市内の経済人によると、「『県議会議長の渡辺義信氏(59、4期、白河市・西白河郡、自民党)をぜひ次期市長に』という声が同県議の地元である旧東村で上がっている」という。 鈴木和夫氏(上)と渡辺義信氏  渡辺氏は日大東北高卒。自民党県連幹事長などを歴任し、2021年10月、県議会議長に就任した。白河青年会議所理事長、ひがし商工会副会長などを務めた経験から、応援する経済人も多いようだ。  2023年秋には県議の改選が控える。前回2019年の県議選での渡辺氏の得票数は1万0362票。現職・鈴木氏との一騎打ちとなれば勝ち目はなさそうだが、誰も成り手がいないのなら渡辺氏が適任ではないか――こうした〝待望論〟が支持者などから出てきているわけ。  もっとも、身内であるはずの自民党関係者は冷ややかな反応を示す。  「渡辺氏は国政選挙などがあっても真面目に応援してくれない。閣僚が応援演説に来た際も数人しか集められず、慌てて他地区から動員したことがあった。仮に市長選に出ても、(自民党支持者が)一丸となって応援する構図は考えづらい」  こうした声が出る背景には、白河市・西白河郡選挙から満山喜一氏(71、5期、自民党)も選出されており、市内の自民党支持者が二分されている事情もあるのだろう。  渡辺氏本人は周囲に「立候補はしない」と明言しているようだが、渡辺氏の動きを警戒する鈴木氏の後援会関係者からは「鈴木氏にもう1期頑張ってほしい」という声が上がっているようだ。鈴木氏本人も「多選批判」を意識しているだろうが、周囲から立候補を強く要請されれば状況が変わる可能性もある。  市内の選挙通は鈴木氏の立候補について、「市周辺の幹線道路を結ぶ『国道294号白河バイパス』が全線開通間近で、市役所隣接地には複合施設を整備する計画も進んでいる。筋道を立て、その完成を見届けてから引退したい思いが強いのではないか」と見立てを語る。  複合施設は鈴木氏が市長選の公約として掲げていた「旧市民会館跡地の活用」の一環として行われるもので、健康・子育て・防災・生きがいづくり・中央公民館などの機能を備える(本誌2021年6月号参照)。  現在基本設計に着手しているところで、2023年3月に策定し、2026(令和8)年度以降に工事完了予定だ。概算事業費は約35~45億円の見込み。前回市長選の公約に掲げるほど、事業にかける思いは強い。  一方で、同施設に関しては、資材高騰の影響から設計案の見直し(コンパクト化)が進められており、一部で先行きを心配する声も出ている。  そうした問題への対応も含め、鈴木氏の今後の動向が注目される。おそらく年明けに動きが本格化するのではないか。 白河市のホームページ あわせて読みたい 【高額報酬】存在感が希薄な福島県議会

  • 選挙を経て市政監視機能が復活した南相馬市議会

    選挙を経て市政監視機能が復活した南相馬市議会

     任期満了に伴う南相馬市議選(定数22)は2022年11月20日に投開票され、現職19人、元職2人、新人1人が当選した(開票結果は別掲の通り)。  注目は本誌2022年11月号で既報の通り、元市長の桜井勝延氏が立候補したことだった。市議を経て2010年から市長を2期務めたが、14、18年の市長選で現市長の門馬和夫氏に敗れた桜井氏。再び市議を目指すことに市民からは「どれくらい得票するのか」と注目が集まったが、結果は6061票と2位に4123票差をつける圧勝を飾った。  もっとも、当の桜井氏が意識したのは投票率だった。桜井氏は立候補の挨拶回りをする中で、市民が市議会に関心がないことを知り「市議会は市政のチェック機関だが、市議会に関心を持たないと市政に無関心な市民が増えてしまう」と危機感を露わにしていた。自分が立候補することで市民の関心を少しでも市議選に向けさせたいと選挙戦に臨んだが、結果は56・37%で前回(2018年)の55・91%から0・46㌽の上昇にとどまった。  これをどう受け止めるかだが、桜井氏は「思ったより伸びなかった」と評している。2014年の市議選の投票率は59・10%なので、低下に歯止めをかけたのは事実だが、桜井氏の立候補が市民の関心を向けさせるきっかけになったかというと、ゼロではないが起爆剤とはならなかったようだ。  とはいえ、有権者の投票行動には明らかな変化が見られた。  一つ目は、現職の当選者(19人)が全員、前回より得票数を減らしたことだ。少ない人で100票前後、多い人で1100票も減らした。  その分の全てが桜井氏に投じられたかというとそうではない。二つ目の変化は、桜井氏以外にもう1人、元職が当選したことだ。郡俊彦氏は旧鹿島町議も長く務めたベテランだが、2010年の市議選で落選し政界引退。ただ引退後も「わだい」という広報紙を発行し、門馬市政を厳しく批判していた。  実は、郡氏は現職時代、共産党議員として活動していたが、今回の市議選では公認申請せず無所属で立候補した。  「同市の共産党議員は今回6選を果たした渡部寛一氏と落選した栗村文夫氏だが、2人は門馬市政を支える与党のため、郡氏は『共産党として市政をチェックする役目を果たしていない』と不満だったのです。そこで、郡氏はあえて無所属で12年ぶりの市議選に挑み、1163票で返り咲いた。一方、渡部氏と栗村氏は前回より揃って600票以上減らした。2人の減らした分がそっくり郡氏に回ったことで、市内の共産党員が与党として活動する2人を評価していないことが明白になった」(選挙通)  そして三つ目の変化が、初当選した表信司氏の存在だ。表氏は市職員を退職して市議選に挑んだが、実際に門馬市長に仕えて「この市政はおかしい」と問題意識を持ったことが立候補の動機になった。  投票率の上昇はわずかだが、現職全員が得票数を減らす中、桜井氏、郡氏、表氏が当選したのは「今の市議会は門馬市政をチェックできていない」と市民が判断した証拠だ。改選後の市議会がどう変わっていくのか注目される。 南相馬市議会ホームページ

  • 郡山の補選で露呈した県議への無関心

    郡山の補選で露呈した福島県議への無関心

     郡山市の政界関係者の間で同市選挙区県議補選(欠員1)の投票結果に注目が集まっている。同補選には前市議の新人佐藤徹哉氏(自民党)と会社経営の新人髙橋翔氏(諸派)が立候補し、内堀雅雄知事が3選を果たした知事選と同じ10月30日に投開票された。  当6万5987 佐藤 徹哉54    1万9532 髙橋  翔34                  投票率34・72% 当選した佐藤徹哉氏(上)と髙橋翔氏  表面的な数字だけ見れば、自民党公認で公明党の支援を受けた佐藤氏の大勝は不思議ではない。注目されるのは高橋氏の得票数だ。  「正直、1万9500票も取るとは思わなかった。旧統一教会の問題など岸田内閣に対する反発が自民党公認の佐藤氏には逆風になった」(ある自民党員)  髙橋氏がここまで得票できた要因を、ある保守系の郡山市議は 「髙橋氏はもともと知事選に出ると言っていたのに、告示日(10月13日)になって急きょ県議補選に方針転換した。メディアはその間、知事選の立候補予定者として髙橋氏の顔と名前をずっと報じたからね」  と〝恨み節〟を語っていたが、立候補表明した以上、メディアはその事実を報じざるを得ない。ちなみに本誌も、8月号に「知事選立候補を前提」とした髙橋氏のインタビュー記事を掲載している。  選挙後、髙橋氏に県議補選に変更した理由を尋ねると、次のように説明した。  「知事選は当初、複数の候補者が手を挙げていたが、告示日時点で三つ巴(内堀氏、草野芳明氏、髙橋氏)になった。しかし対現職で考えた時、新人2人が挑むのは現職批判票の分散を招き、私が一つの指針にしている『対立候補の得票率10%』を超えるのは難しい。そこで、私が県議補選に回ることでどちらも一騎打ちの構図とすれば、無投票阻止と得票率10%を同時に目指せると考えた。そもそも市議をそそくさと辞めた人を県議に無投票で当選させることは、一郡山市民として納得できなかった。もちろん、共産党が知事選に候補者を立てていなければ私は確実に出馬しており、県議補選には子育て世代の若手を擁立する予定だった」  そんな県議補選をめぐっては、投票率や無効票にも注目が集まった。  例えば、知事選の郡山市だけの投票率は37・44%、投票総数は9万8614票だったが、県議補選は34・72%、8万5519票で、県議補選の方が投票率は2・72㌽低く、投票総数も1万3095票少なかった。  これは告示日の違いが影響している。すなわち知事選は10月13日、県議補選は同20日だったが、近年は期日前投票が増えているため、先行した知事選は投票したものの県議補選は投票しなかった人が1万3000人超もいたということだ。県議補選への関心の低さがうかがえる。  無効票の数も特筆される。知事選5816票に対し県議補選6910票と、投票総数が知事選より8分の1も少ない県議補選の方が1100票余も多かった。県議補選の投票用紙に「内堀雅雄」と書かかれたケースが散見されたという話もあるが、郡山市選管によると「無効票にそれだけの差がついた理由はよく分からない」という。  地元ジャーナリストはこんな危機感を示す。  「有権者にとって県議はいかに遠い存在であるかが明白になった。当選した佐藤氏は、髙橋氏の急な方針転換で選挙戦となり少しは知名度アップを果たせたかもしれないが、知事選と同日選になったことで、県議への無関心さが露呈した形です」  投票率低下は全国的な傾向だが、2023年秋に控える県議選の本選で有権者の関心をどこまで集められるか。 福島県議会のホームページ あわせて読みたい 【高額報酬】存在感が希薄な福島県議会 渡辺義信県議会議長に「白河市長」待望論!?

  • 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

    【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が〝鶴の一声〟で変更された。市幹部などでつくる選定委員会は、公募型プロポーザルに参加した3社の中から鹿島建設を最優秀提案者に選んだが、白石高司市長の指示で次点者の安藤ハザマに覆ったのである。 〝本田派議員〟が疑惑追及の百条委設置 「新病院の施工予定者が白石市長の指示で変更されたらしい」 そんなウワサを田村市内の自民党関係者から聞いたのは、2022年7月に行われた参院選の前だった。  新病院とは、田村地方の医療を支えるたむら市民病院(病床数32)の後継施設を指す。公には6月30日に市のホームページで「新病院の施工予定者選定に係る公募型プロポーザルの最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者は鹿島建設」と発表され、7月4日付の福島建設工業新聞にも「新病院の施工予定者に安藤ハザマ」という記事が掲載された。 造成工事を終えた新病院予定地  ところが実際の審査では、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選ばれていたというのだ。  「2022年6月、市幹部などでつくる選定委員会が白石市長に『審査の結果、鹿島に決まった』と報告した。しかし白石市長が納得せず、次点の安藤ハザマに変更するよう指示したというのです。選定委員会は『何のために審査したか分からない』と不満に思ったが、上から言われれば従うしかない」(市内の自民党関係者)  一度聞いただけではまさかとしか思えない話。だが、それはウワサでもまさかでもなく、事実だった。  市長の指示で施工予定者が突然覆される――そんなかつての〝天の声〟を彷彿とさせる出来事はなぜ起きたのか。  たむら市民病院は、同市船引町の国道288号沿いで診療を行っている。もともとは医療法人社団真仁会が大方病院という名称で運営していたが、院長が急死したため2019年7月に市が事業継承、公的医療機関として生まれ変わった。診療科目は内科、人工透析内科、外科など10科。運営は指定管理者制度で公益財団法人星総合病院(郡山市)に委託している。  市立病院の設置は、2005年に旧5町村が合併した田村市にとって悲願だった。しかし、事業継承した時点で建物の老朽化、必要な病床数の確保、救急受け入れなどの課題を抱えていた。そこで市は2020年3月に新病院建設基本計画を策定、現在地から北東1・3㌔の場所(船引町船引字屋頭清水地内)に新病院を建設する方針を打ち出した。  2020~21年度にかけて予定地の造成を行い、その後は22年度着工、24年度開院というスケジュールが組まれたが、21年4月の市長選で状況が変化した。当時現職の本田仁一氏を破り初当選した白石高司市長が、公約に本田市政のもとで始まった公共工事の見直し(事業検証)を掲げたことから、新病院建設も一時中断を余儀なくされたのである。  その後、関係部局の職員たちが4カ月にわたり事業検証を行い、最終的に「新病院は市民にとって必要」と判断されたため、計画は予定より1年遅れて再始動した。2022年3月には建設基本設計概要書が公表され、新病院の具体像が示された。  問題の公募型プロポーザルはこの後に行われるが、ここからは、本誌が情報開示請求で市から入手した公文書に基づいて書いていく。  新病院の概要は病床50床、鉄筋コンクリート造地上4階建て、建築面積2790平方㍍、延べ面積6420平方㍍。このほか厨房施設と付属棟、250台分の駐車場を整備し、工期は2023年7月から25年1月。想定事業費は36億円程度となっている。  市は建設コスト縮減と工期短縮を図るため、施工者が設計段階から技術協力を行うECI方式の採用を決定。4月19日にプロポーザルの公告を行い、清水建設、鹿島、安藤ハザマから参加申し込みがあった。同28日には一次審査が行われ、3社とも通過した。  続く二次審査は6月25日に行われ、各社のプレゼンテーションと選定委員会によるヒアリング、さらには各委員による採点で最優秀提案者と次点者が選定された。 最高評価を受けていた鹿島  まずは評価が一目で分かる採点から見ていく。別表は選定委員7人による評価シートの合計だ。  選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、そのうちの3人は南相馬市立総合病院の及川友好院長、たむら市民病院の指定管理者である星総合病院の担当者、日大工学部教授だったことが判明している。残り1人は不明。  その7人による採点の合計を見ると(各自の採点結果は開示された公文書が黒塗りで不明)、A社は505点、B社は480点、C社は405点となっている(満点は700点)。アルファベット表記になっているが、公文書を読み進めるとA社は鹿島、B社は安藤ハザマ、C社は清水建設であることが分かり「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」と書かれている。  では、各委員の評価ポイントはどうだったのか。公文書には当時の発言順に次のように記されていた。  「A社は丁寧な技術提案や書類のつくり込みで好感が持てた。ヒアリングでのやり取りからもネガティブな要素は感じられず、安心して任せられると感じた。C社にはA社と全く逆の印象を持った。書類のつくり込みが粗いばかりか、ヒアリングでも発注者・審査員に対し礼を失する発言が多く、誠実さが感じられなかった。B社は様々な提案を盛り込んでいるが、果たしてそれがうまく収まるのか不安を感じた。工期に余裕がない点もネガティブ要素だった」(黒塗りで発言者不明)  「地域貢献に関して、書類上の金額と現実性が乖離している提案が目立った。特にB社の発注予定額は経験的に実現不可能と受け止めている。技術力に関しては提案者ごとにかなり差があると感じた。順位付けをするならA社<B社<C社の順だが、メンテナンス体制も含めるとA社の有意性がより際立つと感じた」(同)  「技術面では3社とも特に問題ないだろうと感じた。その中でも、A社は一番丁寧に提案書がつくられていた。地域貢献に関しては、その是非や実現性を判断するための情報が不足している」(佐藤委員)  「技術的な優劣は判断できない。市の姿勢として地域貢献を前面に出していただく必要がある」(渡辺委員)  「ここまでの委員の発言に同意。地域貢献に関しては、B社提案はリップサービスが過ぎたように感じる」(黒塗りで発言者不明)  「技術的な優劣は判断できないが、A社の提案は書類・説明ともに好印象だった。しっかりとした病院を確実に建てることが第一で、地域貢献はその次に考えること。地域貢献の配点が大きいため、個人的な評価と点数が一致していない。B社が提示した五つの課題は市の感覚とずれているように感じた」(石井委員長)  総体的に、A社(鹿島)の評価が高く、C社(清水建設)は厳しい意見が多く聞かれた。B社(安藤ハザマ)の提案も各委員が半信半疑に捉えている様子がうかがえる。  ただ、採点結果と評価ポイントのすり合わせを行っても順位の一致に至らなかったため、規程に基づき多数決を行った結果、A社4人、B社1人、C社0人となり、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。  この結果を選定委員会事務局が白石市長に報告し、決裁後、速やかに各社に通知、市のホームページでも公表する手筈だったが、公文書(6月30日付の発議書)には次のような驚きの記述があった。  《6月28日及び同30日に実施した市長報告において、市長から本件プロポーザルにおいては地域貢献と見積額が重要な判断基準であるため、当該提案において最も有利な条件を提示している㈱安藤・間東北支店が次点者という審査結果は妥当性を欠くため、該社を最優秀提案者として決定するよう指示がありました》  白石市長から安藤ハザマに変更するよう指示があったと明記されていたのだ。  最終的にこの変更は6月30日に了承され、安藤ハザマには《厳正に審査した結果、御社の提案が最も評価が高く、本事業の最優秀提案者として選定されましたので通知いたします》、鹿島には《御社の提案が2番目に評価が高く、本事業の次点者として選定されました》という通知が白石市長名で送られた。市のホームページでも同日中に公表された。「厳正に審査」が白々しく聞こえるのは本誌だけだろうか。 百条委設置の経緯  前述した建設工業新聞の記事はこの直後に書かれたが、当時は最優秀提案者が覆された事実は公になっていなかった。ただ市議会では、安藤ハザマを最優秀提案者に選定したことに「別の視点」から疑問の声が上がっていた。  「6月に市役所ホールの吹き抜けの窓から雨漏りしている個所が見つかったが、市役所を施工したのが安藤ハザマと地元業者によるJVだったため、議員から『そんな業者に新病院建設を任せて大丈夫か』という懸念が出たのです」(市内の事情通)  市役所は2014年12月に竣工したが、事情通によると落札金額は安く抑えられたものの、その後、追加工事が相次ぎ、結局、事業費が膨らんだ苦い経験があるため、  「議員の間には『今回も安藤ハザマは同様の手口で事業費を増やしていくのではないか』という疑いが根強くある」(同)  これ以外にも、安藤ハザマは「過去に指名停止を受けている」「市に除染費用を水増し請求した」などの不信感が持たれている。ただ同様のトラブルは、鹿島や清水建設など他のゼネコンでも見られるので、安藤ハザマだけを殊更問題視するのはバランスを欠く。  「そうこうしているうちに『最優秀提案者は、本当は鹿島だったらしい』という話が議員にも伝わり、9月定例会で選定経過に関する質問が行われたが、白石市長は『地域貢献度も含め適正に審査した』と曖昧な答弁に終始したため、過半数の議員が反発する事態となった」(同)  ウワサは次第に尾鰭をまとい「〇〇社が白石市長に頼んで安藤ハザマに変わったらしい」「実際の工事は白石市長と同級生の××社が請け負うようだ」「白石市長は安藤ハザマからいくらもらったんだ」等々、真偽不明の話まで囁かれるようになった。白石市長が明確な答弁を避けたことが「何か隠している」という印象を与えたわけ。  9月定例会が終わりに近付くころには、一部議員の間で「真相を究明するには地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置するしかない」という話が持ち上がり、10月27日に開かれた臨時議会で議員発議による設置が正式決定された。  《市は安藤ハザマを最優秀提案者にした理由の説明を避けてきたため、一部議員が反発していた。白石市長は臨時議会開会前の議員全員協議会で鹿島が選定委員会で最も点数が高かったと認め、「積算工事費や地域貢献計画などを比較し、安藤ハザマにした」と説明したが、採決の結果、賛成9、反対8で百条委設置が決まった》(福島民報10月28日付)  田村市議会は定数18。採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛成・反対の内訳は別掲の通りだが、賛成した9人のうち、半谷理孝議員を除く8人は2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を支援していた。  ちなみに百条委の委員も、賛成した9人から大和田議員を除いた8人全員が就き、反対した8人からは誰も就かなかった。そのため「市長選の私怨が絡んだ面々で正しい調査ができるのか」と言われているが、委員に就いた議員からは「反対した議員には『調査の公平・公正を担保するため、そちら(反対)の議員も百条委に加わるべきだ』と申し入れたが断わられた」という不満が漏れている。  反対した8人は白石市長と距離が近いが、話を聞くと「百条委設置に反対したのに委員に就くのは筋が通らないと思った」と言う。しかし筆者は、本気で真相を究明するなら設置の賛否にこだわらず、議会全体で疑惑の有無を探るべきと考える。そうでなければ、せっかくつくった百条委が「反白石派の腹いせに利用されている」とねじ曲がった見方をされかねないからだ。  市保健福祉部の担当者はこう話す。  「百条委が設置されたことは承知しているが、具体的な動きがない限り市側はアクションを起こせないので、今後どうなるかは全く想像がつかない」  最後に、白石市長が安藤ハザマに変更した際に重視したとされる工事費や地域貢献度については市から入手した公文書にこんな記述がある。  例えば安藤ハザマは▽直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注、▽事務用品その他も4000万円以上を市内企業から購入、▽市内における関係者個人消費は3000万円以上。さらに概算工事費は45億8700万円と提示している。  一方、鹿島については市内業者への発注額、市内企業からの建設資機材購入額、概算工事費とも黒塗りされ詳細は不明だが、白石市長に次点者に追いやられたということは、いずれの金額も安藤ハザマより劣っていたことが推察される。 開院遅れで市民に不利益  だが、プロポーザルへの参加者を公募した際の公文書(4月19日付)にはこのように書かれている。  《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》  選定委員会が最も高く評価した提案者を、市長の〝鶴の一声〟で変更していいとは書かれていない。白石市長は「工事費や地元貢献度の観点から安藤ハザマの方が優れており、やましい理由で変更したわけではない」と言いたいのだろうが、ルールに無い変更を独断で行った結果、疑惑を招き、市政を混乱させたことは事実であり、真摯に反省しなければならない。  何より新病院建設は前述した事業見直しで一時中断しており、今回の百条委でさらに遅れる可能性が出ている。高齢者や持病のある人にとって新病院は待望の施設なのに、開院がどんどん後ろ倒しになるのは不利益以外の何ものでもない。白石市長はたとえやましいことが無かったとしても、安藤ハザマに変更した理由を明確に示さない限り、市議会(百条委)は納得しないし、市民からも理解を得られないだろう。  白石市長は百条委設置を受け「プロポーザルに参加した業者の技術に差はなく、市民の利益を十分検討し最終決定した。調査には真摯に対応したい」とコメントしたが、今後の百条委で何を語るのか、それを聞いて百条委がどのように判断するのか注目される。 田村市ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 除染バブルの後遺症に悩む郡山建設業界除染バブルの後遺症

    除染バブルの後遺症に悩む郡山建設業界

    災害時に地域のインフラを支えるのが建設業だ。災害が発生すると、建設関連団体は行政と交わした防災協定に基づき緊急点検や応急復旧などに当たるが、実務を担うのは各団体の会員業者だ。しかし、近年は団体に加入しない業者が増え、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は減り続けている。会員業者が増えないのは「団体加入のメリットがないから」という指摘が一般的だが、意外にも行政の姿勢を問う声も聞かれる。郡山市の建設業界事情を追った。 災害対応に無関心な業者に老舗から恨み節 地域のインフラを支える建設業  「今、郡山の建設業界は真面目にやっている業者ほど損している。正直、私も馬鹿らしくなる時がある」  こう嘆くのは、郡山市内の老舗建設会社の役員だ。  2011年3月に発生した東日本大震災。かつて経験したことのない揺れに見舞われた被災地では道路、トンネル、橋、上下水道などのインフラが損壊し、住民は大きな不便を来した。ただ、不便は想像していたほど長期化しなかった。発災後、各地の建設業者がすぐに被災現場に駆け付け、応急措置を施したからだ。  震災から11年8カ月経ち、復興のスピードが遅いという声もあるが、当時の適切な対応がなかったら復興はさらに遅れていたかもしれない。業者の果たした役割は、それだけ大きかったことになる。  震災後も台風、大雨、大雪などの自然災害が頻発している。その規模は地球温暖化の影響もあって以前より大きくなっており、被害も拡大・複雑化する傾向にある。  必然的に業者の出動頻度も年々高まっている。以前から「地域のインフラを支えるのが建設業の役割」と言われてきたが、大規模災害の増加を受け、その役割はますます重要になっている。  前出・役員も何か起きれば平日休日、昼夜を問わず、すぐに現場に駆け付ける。  「理屈ではなく、もはや習性なんでしょうね」(同)  と笑うが、安心・安全な暮らしが守られている背景にはこうした業者の活躍があることを、私たちはあらためて認識しなければならない。  そんな役員が「真面目にやるのが馬鹿らしくなる」こととは何を指すのか。  「災害対応に当たるのは主に建設関連団体に加入する業者です。各団体は市と防災協定を結び、災害が発生したら会員業者が被災現場に出て緊急点検や応急復旧などを行います。しかし近年は、どの団体も会員数が減っており、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は少なくなっているのです」(同)  2022年9月現在、郡山市は136団体と災害関連の連携協定を交わしているが、「災害時における応援対策業務の支援に関する協定書」を締結しているのはこおりやま建設協会、県建設業協会郡山支部、県造園建設業協会郡山支部、ダンプカー協会、郡山建設業者同友会、市交通安全施設整備協会、郡山電設業者協議会、県中通信情報設備協同組合、市管工事協同組合、郡山鳶土工建設業組合、県南電気工事協同組合など十数団体に上る。  いくつかの団体に昔と今の会員数を問い合わせたが、増えているところはなく、団体によってはピーク時の6割程度にまで減っていた。  「業者の皆さんに広く加入を呼びかけているが、増える気配はないですね」(ある組合の女性事務員)  会費は月額1万円程度なので、負担にはならない。しかし、  「経営者が2代目、3代目に代わるタイミングで会員を辞める会社が結構あります。時代の流れもあるでしょうし、若い経営者の価値観が昔と変わっていることも影響していると思います」(同)  それでも、会員になるメリットがあれば、経営者が代わっても引き続き団体に加入するのだろうが、  「加入を呼びかける立場の私が言うのも何ですが、明確なメリットと聞かれたら答えられない」(同)  昔は今より同業者同士のつながりが大切にされ、先輩―後輩のつながりで業界のしきたりを習ったり、仕事の紹介を受けたり、技術を学び合うなど団体加入には一定のメリットがあった。  今はどうか。別の団体の幹部に加入の具体的なメリットを尋ねると  「対外的な信用が得られます。組合は『社内にこういう技術者がいなければならない』など、入るのに一定の条件が必要。つまり組合に入っていれば、それだけで技術力が伴っている証拠になる」  正直、そこに魅力を感じて団体に加入する業者はいないだろう。  「ウチみたいに昔から入っているところはともかく、新規会員を増やしたいなら加入のメリットがないと厳しいでしょうね」(前出・老舗建設会社の役員)  会員数の減少は、そのまま〝地域の守り手〟の減少に直結する。それはいざ災害が発生した時、緊急点検や応急復旧などに当たってくれる業者が限られることを意味する。  それでなくても郡山は、新規会員が増えにくい状況にある。理由は、震災後に増えた「新参者」の存在だ。別の建設会社の社長が解説してくれた。  「新参者とは震災後、除染を目的に県外からやって来た人たちです。建設業界はそれまで深刻な不況で、公共工事の予算は年々減っていた。そこに原発事故が起こり、除染という新しい仕事が出現。『福島に行けば仕事がある』と、全国から業者が押し寄せたのです」  除染事業に従事するには「土木一式工事」や「とび・土工・コンクリート工事」の建設業許可が必要になる。許可を得て、資機材を揃えて大手ゼネコンの4次、5次下請けに入る小規模の会社はあっと言う間に増えていった。  「新参者が増えるのは行政にとってもありがたかった。住民が『早く除染してほしい』と求める中、業者の数がいないと予定通り除染は進まないわけですからね」(同) 尻拭いを押し付ける郡山市 郡山市役所 しかし、同じ仕事が永遠に存在するはずもなく、市内の除染が一通り終わると新参者の出番も減った。  この社長によると、新参者はその後、①経営に行き詰まって倒産、②浜通りなど除染事業が続いている地域に移動、③一般の土木工事に衣替え――の三つに分かれたという。  「一般の土木工事に衣替えした業者は、正確な数は分からないが結構います。私のように昔から郡山で仕事をやっていれば、社名を聞くだけでそこが新参者かどうか分かる。傾向としては、カタカナやアルファベットなど横文字の社名は該当することが多い」(同)  郡山市の「令和3・4年度指名競争入札参加有資格業者名簿」(2022年4月1日現在)を見ると、土木一式工事の許可業者は103、とび・土工・コンクリート工事の許可業者は225ある(いずれも市内に本社がある業者のみをカウント)。二つを見比べると、土木一式工事の許可業者はとび・土工・コンクリート工事の許可も併せて得ている。そこで後者の業者名を確認していくと、新参者に該当するのではないかと思われる業者は40社前後、全体の2割近くを占めていた。  除染事業がなくなっても、新たな仕事を求め、生き残りを図ろうとする姿はたくましい。建設業許可を得て一般の土木工事に従事するのだから法令違反でもない。社長も「そこを否定するつもりはない」と話す。ただ「新参者は暗黙のルールを守らないため業界全体が歪みつつある」というのだ。  「新参者は地域性を考えない。例えば、A社が本社を置く〇〇地域で道路工事が発注されたら、一帯の道路事情を知るのはA社なので、入札では自然とA社に任せようという雰囲気になる。これは談合で決めているわけではなく、不可侵というか暗黙のルールでそうなるのです。だから、A社は隣の××地域や遠く離れた△△地域の道路工事は取りにいかない。しかし、新参者は『競争入札なんだから地域性は関係ない』と落札してしまうわけです」(同)  新参者から言わせれば「暗黙のルールに基づく調整こそ談合みたいなもの」となるのだろう。ただ、〇〇地域の住民からすれば、見たことも聞いたこともない業者より、馴染みのあるA社に工事をやってもらった方が安心なのは間違いない。  「A社がある道路工事を仕上げ、そこから先の道路工事が新たに発注された時、継続性で言ったらA社が受注した方が工事はスムーズに進む可能性が高い。しかし、新参者はそういう配慮もなく、お構いなしに落札してしまう」(同)  しかしこれも、新参者から言わせると「落札して何が悪い」となるのだろうが、社長が解せないのは、その後の尻拭いを市から依頼されることにある。  「もともと除染からスタートした業者なので、土木工事の許可を持っていると言っても技術力が備わっていない。そのせいで、工事終了後に施工不良個所が見つかるケースが少なくないのです。解せないのは、市がその修繕を当該業者にやらせるのではなく、再発注も面倒なので、現場に近い地元業者にこっそり頼むことです。市には世話になっているので頼まれれば手伝うが、地域性や継続性を無視して落札した新参者の尻拭いを、私たちに押し付けるのは納得がいかない」  実は、そんな新参者の多くは建設関連団体に加入していないのだ。再び前出・老舗建設会社の役員の話。  「新参者は建設関連団体に入っていないから、災害が起きても被災現場に駆け付けない。でも、入札では災害対応に当たる私たちと同列で競争し、仕事を取っている。不正をしているわけでなく、正当な競争の結果と言われればそれまでだが、地域に貢献している自負がある私たちからすると釈然としない」 「災害対応に正当な評価を」  会員業者は日曜夜に被災現場に出動しても、防災協定に基づくボランティアのため、月曜朝からは通常業務を行わなければならない。一方、建設関連団体に加入していない業者は被災現場に出動することなく休日を過ごし、月曜から淡々と通常業務に当たる。だからと言って、未加入の業者にペナルティーが科されることはなく、被災現場に出動した業者に特別なインセンティブがあるわけでもない。  これでは、会員業者が「真面目にやるのが馬鹿らしい」と愚痴を漏らすのは当然で、わざわざ建設関連団体に加入する新規業者も現れない。  「市がズルいのは、入札は公平・公正を理由にどの業者も分け隔てなく競争させ、災害や施工不良など困ったことが起きた時は建設関連団体を頼ることだ。真面目にやっている私たちからすると、市に都合よく使われている感は否めない」(同)  これでは、新規会員はますます増えない。そこでこの役員が提案するのが、市が建設関連団体加入のメリットを創出することだ。  「会員業者は指名競争入札で指名されやすいといったインセンティブがあれば、災害対応に当たる私たちも少しはやりがいが出るし、今まで災害対応に無関心だった新参者も建設関連団体に入ろうという気持ちになるのではないか」(同)  郡山市では1000万円以上の工事は制限付一般競争入札、1000万円未満の工事は指名競争入札を導入しているが、2021年度の入札結果を見ると、落札額の合計は制限付一般競争入札が約99億8000万円、指名競争入札が約25億7200万円に対し、発注件数は前者が約150件、後者が約640件と指名競争入札の方が4倍以上多い。役員によると、会社の規模が小さい新参者は指名競争入札に参加する割合が高いという。  同市の指名競争入札に参加するには2年ごとに市の審査を受け、入札参加有資格業者になる必要がある。その手引きを見ると、市内に本社を置く業者が提出する書類に「災害協定の締結」「除雪委託契約の締結」の有無に関する記載欄があるが、市がそれをどれくらい重視しているかは分からない。  前述した建設関連団体のいくつかに問い合わせた際、  「災害協定を結んでいるかどうかは、市が審査をする上で少しは加点要素になっていると思う」(前出・女性事務員)  「実際に被災現場に駆け付けている点は(指名の際に)加味してほしいと市に申し入れている。そこを市がもっと評価してくれれば新規会員も増えると思うんですが」(前出・別の組合幹部)  と語っていたが、市が日頃の災害対応を正当に評価しているかというと、建設関連団体にはそう感じられないのだろう。  「会員業者が増えないと災害対応が機能しない。それによって困るのは市民です。そこで、安心・安全な暮らしを維持するため、災害協定と除雪委託契約の締結を指名競争入札に参加するための重要要件にしてはどうか。そうすれば、建設関連団体に無関心の新参者も加入を検討するし、新規会員が増えれば災害が起きた時、市民も助かります」(同) 指名競争を増やす福島県の狙い 福島県庁  県では佐藤栄佐久元知事時代に起きた談合事件を受け、2006年12月に入札等制度改革に係る基本方針を決定。指名競争入札を廃止し、予定価格250万円を超える工事は条件付一般競争入札に切り替えた。しかし、過度な競争や少子高齢化で経営が悪化し、災害対応や除雪に携わる業者がいなくなれば地域の安心・安全確保に支障を来すとして〝地域の守り手〟である中小・零細業者を育成する観点から「地域の守り手育成型方式」という指名競争入札を2020年度から試行している。  農林水産部と土木部が発注する3000万円未満の工事を指名競争入札にしているが、入札参加資格の要件には「災害時の出動実績又は災害応援協定締結」と「除雪業務実績又は維持補修業務実績」が挙げられている。指名競争入札を増やすことで〝地域の守り手〟を支えていこうという県の狙いがうかがえる。  会津地方は郡山と比べて仕事量が少ないため、新しい会社が次々と誕生することもなく、昔から営業している会社が建設関連団体を形成し、地域のインフラを支える構図が成立している。業者数は少ないが、地域を守るという意識が業界全体で統一されている。  これに対し郡山は、業者数は多いが建設関連団体の会員業者は少ないため、業界全体で地域を守るという意識が希薄だ。もし入札制度を変えることで会員業者が増え、市民の安心・安全を確保できるなら、市は真剣に検討すべきではないか。  「入札の大前提にあるのは公平・公正だが、時代の変化と共に変えるべきものは変えなければならないことも承知しています。災害が年々増えている中、業者の協力がなければ市民の生命と財産は守れません。その災害対応については、市でも審査時に評価してきましたが、出動頻度が増えている今、それをどのように評価すべきかは今後の検討課題になると思います。県が試行している指名競争入札なども参考にしながら考えたい」(市契約検査課)  官が民に、建設関連団体への加入を〝強要〟するのは筋違いかもしれない。しかし現実に、災害の増加に反比例して〝地域の守り手〟は減少している。だったら、普段から災害対応に当たっている業者には、その労に報いるためインセンティブを与えるべきだし、それが魅力になって団体に加入する業者が増えれば、建設業界全体で地域を守るという意識が醸成され、災害に強いまちづくりが実現できるのではないか。 郡山市ホームページ あわせて読みたい 建設業者「越県・広域合併」の狙い【小野中村】【南会西部建設】 「地域の守り手」企業を衰退させる県の入札制度 福島市「デコボコ除雪」今シーズンは大丈夫?

  • 【桑折町・国見町】合併しなかった市町村のいま

    【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま

     人口減少・少子高齢化など、社会・経済情勢が大きく変化する中、国は1999年から「地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立」を目的に、全国的に市町村合併を推進してきた。いわゆる「平成の大合併」である。県内では90市町村から59市町村に再編された。本誌では2021年12月号から5回に分けて、合併自治体の検証を行った。一方で、県内では「平成の大合併」に参加しなかった自治体もある。それら自治体のいまに迫る。今回は桑折町・国見町編。 財政指標は良化、独自の「創造性」はイマイチ  2006年1月1日、伊達郡の伊達、梁川、保原、霊山、月舘の5町が合併して伊達市が誕生した。当初、この合併議論には、桑折町と国見町も参加しており、「伊達7町合併協議会」として議論を進めていた。  ただ、2004年8月に桑折町の林王喜久男町長(当時)が合併協議会からの離脱を表明した。その背景にあったのは、合併後の事務所(市役所本庁舎)の位置。伊達7町合併協議会は事務所の位置に関する検討小委員会で、「新市の事務所は保原町とする」と決定した。それが同年8月11日のことで、それから約2週間後に開かれた桑折町議会合併対策特別委員会で、林王町長は合併協議会からの離脱を表明したのだ。  離脱の理由について、林王町長は①合併に対する基本的な考え方が満たされない、②行政圏域と生活圏域が一致しない、③町民への説明責任が果たせない――等々を明かしていた。とはいえ、当時、同合併協議会の関係者の間ではこんな見方がもっぱらだった。  「伊達地方は(阿武隈川を境に)川東地区と川西地区に分かれ、前者の中心が保原町、後者の中心が桑折町。合併協議が進められる過程で、両町による合併後の主導権争いがあった中、新市の事務所の位置が保原町に決まった。それに納得できない桑折町は『だったら、参加しない』ということになった」  桑折町は旧伊達郡役所が置かれ、「伊達郡の中心は桑折町」といった矜持があった。にもかかわらず、合併後の事務所は保原町に置かれることになったため、離脱を決めたというのだ。  同年9月に正式に離脱が決まり、以降は「伊達6町合併協議会」と名称を変更して、議論を進めることになった。  ところがその後、同年11月に行われた国見町長選で、「合併を白紙に戻す」と訴えた佐藤力氏が当選した。当時、現職だった冨永武夫氏は、県町村会長を歴任するなどの〝大物〟で、「合併を成し遂げることが町長としての最後の仕事」と捉えていた様子だった。一方の佐藤氏は共産党(町長選では共産党推薦の無所属)で、急遽の立候補だったため、準備や選挙期間中の運動も決して十分ではなかった。それでも、結果は佐藤氏3514票、冨永氏3136票で、約380票差で佐藤氏が当選を果たした。投票率は74・81%で、「合併白紙」が民意だったと言える。  当選直後の同年12月議会で、佐藤町長は合併協議会からの離脱に関する議案を提出した。採決結果は賛成8、反対9で離脱案は否決された。それでも、佐藤町長は「合併白紙を訴えた自分が町長選で当選し、町民意向調査でも同様の結果が出ている以上、合併協議会からの離脱は避けられない」との主張を曲げなかった。  このため、2005年1月、伊達6町合併協議会はこのままでは協議が進まないとして、同協議会を解散ではなく、「休止」という措置を取った。それと並行する形で国見町を除く「伊達5町合併協議会」を立ち上げ、協議を進めた。その後、同年3月に合併協定に調印、2006年に伊達市誕生という運びとなった。  こうして桑折町、国見町は合併せず、単独の道を選んだわけ。ちなみに、桑折町で合併協議時に町長を務めていた林王氏は2010年の町長選で高橋宣博氏に敗れ落選。その後は2014年、2018年、2022年と、いずれも高橋氏が当選している。国見町は佐藤氏が2012年11月まで(2期8年)務めた後、太田久雄氏が2012年から2020年まで(2期8年)、2020年からは引地真氏が町長に就いている。  合併議論の最盛期に、県内で首長を務めていた人物はこう話す。  「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」  そうした国の方針は、この首長経験者にとっては、脅しのような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、合併についての勉強会(任意協議会)、法定協議会、正式な合併へと舵を切っていった、というのだ。  では、「平成の大合併」から十数年経ち、合併しなかった市町村が、この首長経験者が危惧した状況になったかというと、そうとは言えない。そのため、「合併しなくても、普通にやっていけているではないか。だとしたら、合併推奨は何だったのか」といった思いもあるようだ。 桑折・国見の財政指標  もっとも、合併しなかった市町村にはそれなりの「努力の形跡」も見て取れる。  ちょうど、「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。  別表は桑折町と国見町の各指標の推移をまとめたもの。数字だけを見れば「努力の形跡」が見て取れる。もっとも、投資的事業をしなければ財政指標は良化するから、一概には言えないが。 桑折町の財政指標と職員数の推移 実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度5・9116・1713・1150・40・512008年度9・4119・0413・8167・20・512009年度8・7218・5914・0141・10・502010年度――――13・8120・60・472011年度――――13・768・60・452012年度――――11・941・30・432013年度――――11・819・40・432014年度――――10・311・80・442015年度――――10・415・70・452016年度――――11・010・10・452017年度――――11・67・40・452018年度――――11・43・60・452019年度――――10・414・40・452020年度――――9・636・60・46※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 国見町の財政指標の推移 実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度5・2721・0217・5149・10・362008年度5・7422・4318・7126・60・362009年度5・4719・6317・4103・90・352010年度――――15・585・00・342011年度――――12・985・20・322012年度――――11・178・30・302013年度――――10・077・40・292014年度――――8・175・10・292015年度――――7・062・30・292016年度――――6・670・70・292017年度――――6・867・80・302018年度――――6・760・60・322019年度――――5・741・60・332020年度――――4・323・00・33※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成  用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  この指標を示して、元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏(地方自治論)に見解を求めたところ、こう回答した。  「財務指標からだけでは財政運営の良否は判断できません。そこで、桑折町と国見町の場合は、地域環境の似通っている隣接の伊達市と比較して、相対的な評価をするのがよいと思われます」  別表に伊達市の実質公債費比率の推移を示した。2021年度は速報値。今井氏はそれと桑折町、国見町の数字と比較し、次のように明かした。なお、桑折町の2021年度速報値は9・2、国見町は3・2。 伊達市の実質公債費比率の推移 2008年度15・52009年度14・62010年度13・42011年度11・62012年度9・82013年度8・32014年度7・42015年度6・82016年度6・52017年度7・42018年度6・62019年度6・92020年度7・22021年度7・8  「実質公債費比率の推移を見ると、まず伊達市と国見町との差は歴然としています。2008年度時点では、伊達市15・5、国見町18・7と、むしろ国見町のほうが悪い数字だったものが、2021年段階では伊達市7・8、国見町3・2と、国見町の方が大きく改善しています。次に伊達市と桑折町とを比較すると、桑折町の方の改善度が低いように見えますが、最近5年間の推移を見ると、2017年段階で伊達市7・4、桑折町11・6だったところが、2021年段階では伊達市7・8、桑折町9・2となっていて、桑折町は改善しているのに、伊達市は改善していません」  こうして聞くと、相応の努力は見られると言っていいのではないか。もっとも、今井氏によると、ここ数年は制度的な事情で、全国自治体の財政事情が改善しているという。  「2020年度以降、国では法人税収が増加していて、それを反映して地方交付税の原資も改善され、新たな借金(臨時財政対策債)の発行をほとんどしなくて済むばかりか、これまでの借金(臨時財政対策債)を償還する原資も国から交付されています。つまり全国の自治体財政の財政指標はこの3年間で大きく改善されているのです」(今井氏) 桑折・国見町長に聞く  両町長は現状をどう捉えているのか。町総務課を通して、以下の4点についてコメントを求めた。  ①当時の町長をはじめ、関係者の「合併しない」という決断について、いまあらためてどう感じているか。  ②当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められる。別紙(前段で紹介した財政指標)は県市町村財政課が公表している「財政状況資料」から抜粋したものですが、それら数字についてはどう捉えているか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」の取り組み、今後の対応についてはどう考えるか。  ③当時、本誌取材の中では「多少の我慢を強いられても、単独の道を模索してほしい」といった意見もあったが、実際に住民に対して「我慢」を求めるような部分はあったか。  ④「合併しないでよかった」と感じているか。  回答は次の通り。 桑折町 高橋桑折町長  ①、④合わせての回答  国は、人口減少・少子高齢化等の社会情勢の変化や地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立を目的に、全国的に市町村合併を推進したところです。本町においても近隣自治体との合併について検討したものの、分権社会に対応できる基礎自治体構築・将来に希望の持てる合併が実現できるとは言い難いことや、行政圏域と生活圏の一体性の醸成が困難であることなどから、合併しない決断を選択しました。  その後、地方行政を取り巻く環境が厳しさを増す中にあって、行財政改革に努め、健全財政の維持を図りながら町独自の施策展開により、2021年においては人口が社会増に転ずるなど、単独立町だからこそ得られた結果と捉えており、合併しないでよかったと感じております。  引き続き、子どもたちに夢を、若者に元気を、高齢者に安心を届け、「住み続けたいまち 住みたいまち 桑折」の実現に邁進してまいります。  ②の回答  当町は、平成16(2004)年9月に伊達7町による合併協議を離脱し、自立(自律)の道を選択して以降、東日本大震災をはじめとする度重なる災害や社会経済状況の変化、人口減少・高齢化などにより、多様化・複雑化・高度化する行政需要を的確に捉え、住民ニーズに応える各種施策を展開するとともに、事業実施にあたっては、財源確保を図り、「選択と集中」「最小の経費で最大の効果を上げる」ことを常に念頭に置きながら、財政の健全性維持に努めてまいりました。その結果、別紙の「健全化判断比率(4つの各比率)」の推移にありますとおり、平成19(2007)年度以降、各指標とも低下傾向にあり、合併せずとも着々と財政の健全化に向け改善が図られてきたものと捉えております。  とりわけ、企業誘致の促進や移住・定住人口の増加に資する施策に取り組みながら、税収の確保や収納事務の効率化を図るとともに、国・県などの補助制度の積極的な活用に努めてきました。また、シティプロモーションなどPR事業の展開や魅力的な返礼品の充実を図り、ふるさと納税は大幅に伸びております。  今後についても、2022年度策定した「中期財政計画」に基づき、更なる財源の確保、歳出抑制・適正化等、健全で持続可能な財政運営に向けた取り組みを継続し、「住み続けたいまち」であり続けるための各種施策を展開していく考えであります。  ③の回答  合併協議からの離脱後、これまでの間、行財政改革や自主財源の確保を図り、行政需要を的確に捉え、各種住民サービスに努めることにより、町民の理解を得ているところであります。 国見町 引地国見町長  ①の回答  当時の町長選挙の争点が「合併」。合併しないことを公約にした候補が当選したことは、民意が明確に示されたものと考えている。  ②の回答  合併する、しないに関わらず、地方自治体の財政基盤強化、行財政運営の効率化は緊張感を持って取り組むべきことと考える。当町においても自主財源が乏しい中、サービスの質を維持・向上させるため、あらゆる財源の確保に奔走している。同時に、常にコスト意識を持ち、予算編成及び執行に努めながら、将来負担を軽減すべく、起債に係る繰上償還を積極的に行っている。  ③の回答  「合併をしなかった」ことを要因とし、我慢を求めることはなかったと考えている。  ④の回答  当時の決断に対し、その善し悪しを意見する考えはない。唯一申し上げるとすれば、当時の決断を大切に、国見町に住む方々が「国見っていいな」と思ってもらえるよう町政運営に努めたい。 人口減少幅は類似 桑折町役場(左)と国見町役場(右)  桑折町の高橋町長は合併議論時、議員(議長)を務めており、その後は2010年に町長就任して現在に至る。つまりはこの間の「単独の歩み」の大部分で町政を担ってきたことになる。その中で、「単独だからこそ得られたものもあり、合併しないでよかった」と述べている。一方、引地町長は2020年に就任し、まだ2年ほどということもあってか、踏み込んだ回答ではなかった。  両町の職員数(臨時を含む)を見ると、この間大きな変化はなく、国見町はむしろ増えている。もっとも、福島県の場合は、震災・原発事故に加え、ほかにも大規模災害が相次いだこともあり、その辺の効率化を図りにくかった事情もあり、評価が難しいところ。 桑折町の職員数とラスパイレス指数の推移 年度職員数(臨時含む)ラスパイレス指数2010年111人103・12011年115人112・82012年115人109・92013年112人101・42014年113人99・52015年115人100・12016年112人100・12017年112人100・12018年112人99・02019年115人99・02020年117人94・2※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 国見町の職員数とラスパイレス指数の推移 年度職員数(臨時含む)ラスパイレス指数2010年89人100・72011年86人109・12012年90人108・92013年97人99・52014年105人100・82015年106人99・52016年103人99・62017年103人99・62018年106人99・72019年108人99・72020年107人100・3※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成  人口の推移は、伊達市が合併時から約1万2000人減、桑折町と国見町は「単独」を決断したころから、ともに約2000人減。数だけを見ると、伊達市の減少が目立つが、減少率で見ると、伊達市が約17%、桑折町が約16%、国見町が約21%となっている。国見町は2022年度から、国から「過疎地域指定」を受けている。 伊達市、桑折町、国見町の人口の推移 伊達市桑折町国見町2006年6万9122人1万3423人1万0646人2011年6万5898人1万2823人1万0059人2016年6万2218人1万2247人9455人2021年5万8015人1万1431人8612人2022年5万7104人1万1285人8398人各年とも1月1日時点。 思い切った「仕掛け」を  町民の声はどうか。  「この間、大きな災害が相次ぎ、そうした際に、枠組みが小さい方が行政の目が行き届く、といった意味で、良かった面はある。ただ、合併していたら、それはそれで良かったこともあったと思う。だから、どっちが良かったかと聞かれても、正直難しい」(桑折町民)  「純粋に、愛着のある町(町名)が残って良かった」(桑折町民)  「数年前に、天候による果樹の被害があり、保険(共済)に入っていなかったが、町から保険(共済)に入るための補助が出た。そういった事業は単独町だったからできたことかもしれないね」(国見町民)  「合併していたら、『吸収』される格好だったと思う。そうならなかったということに尽きる」(国見町民)  一方で、両町内で事業をしている人や団体役員などからは、ある共通の意見が聞かれた。それは「せっかく、単独の道を選んだのだから、もっと思い切った〝仕掛け〟をしてもいいのではないか」ということ。  「例えば、会津若松市は『歴史のあるまち』で、歴史的な観光資源では太刀打ちできない。一方で、同市では、ソースカツ丼を売り出しているが、そのための振興組織をつくって、本格的に売り出したのは、せいぜいここ十数年の話。あれだけ、歴史的な観光資源があるところでも、それにとどまらず、何かを『生み出す』『売り込む』ということをやっている。そういった姿勢は見習わないといけない。例えば、e―スポーツを学校の授業に取り入れ、先進地を目指すとか。そういったことは小回りが利く『町』だからこそできると思うんだけど」(桑折町内の会社役員)  「国見町で、ここ数年の大きな事業と言えば、道の駅整備が挙げられる。周辺の交通量が多いことから立ち寄る人で賑わっているが、業績はあまり良くない。そもそも、道の駅自体、全国どこにでもあるもので、最初(オープン時)はともかく、慣れてしまえば目新しいものではない。一方で、夜間になると(道の駅に)キャンピングカーなどで車中泊をしている人が目に付く。例えば、キャンピングカーの簡易キッチンに対応した商品を売り出すとか、『車中泊の聖地』になるような仕掛けをしてはどうか。ともかく、道の駅に限らず、何かほかにない目玉になるようなものを作り出していく必要があると思う」(国見町内の団体関係者)  これは県内すべての市町村に言えることだが、どこかの二番煎じ、三番煎じのような事業、取り組みばかりが目立ち、何かの先進地になった事例はほとんどない。  桑折町、国見町は交通の便がよく、働き口、高等教育、医療、日用品の調達先などで、近隣に依存できる環境にあったからこそ、合併しないという選択ができた面もある。財政指標の良化も見られる。ただ、単独町だからこそ可能な「創造性」という点では乏しかったと言えよう。 桑折町ホームページ 国見町ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する

  • 無意味な海外出張を再開した内堀雅雄【福島県知事】

     内堀雅雄知事は1月16日から21日、米国・ロサンゼルスとワシントンを訪れた。県産米や日本酒の販路開拓を目指し、トップセールスを展開するのが主な目的。知事の海外訪問は約3年3カ月ぶり。 ロサンゼルスではスーパーマーケットの店頭で県産米「天のつぶ」を販売し、県産日本酒とともに取引拡大を働き掛けた。さらに飲食店経営者や料理人などを招いた試食会、地元県人会との交流会も開いた。 ワシントンでは国務省や駐米大使などを表敬訪問。両都市で米国政府関係者を招いたレセプションを催し、県産品の魅力を発信した。震災直後、被災地救援活動「トモダチ作戦」に従事した米軍関係者や、2021年の東京五輪で来県し、県産モモを絶賛した前ソフトボール女子米国代表監督のケン・エリクセン氏に謝意を伝える一幕もあった。 新聞報道によると、トップセールスにはJA福島五連の管野啓二会長、全農県本部の渡部俊男本部長らが加わったほか、福島民報社報道部県政キャップの斎藤直幸記者、福島民友新聞社の渡辺美幸記者らマスコミも同行した。そのためか、期間中は訪米に関する記事が大々的に紹介され、地元紙は一面で取り上げた。 内堀知事は1月23日に開かれた定例記者会見で、「3年3カ月ぶりの海外渡航となったが、長い戦いとなる原子力災害による風評払拭、新型感染症からの回復に向けて、海外を訪問し本県の現状や魅力を知事として直接お伝えする重要性をあらためて実感した。しっかりと発信しさらなる理解と共感の輪を広げる」と訪米の成果を強調した。 米国は原発事故の後に続いてきた輸入規制を2021年に撤廃した。だからこそ、トップセールスに向かったのだろうが、果たしてそれで県産米や日本酒の売り上げがどこまで伸びるのか。国内ですら放射能汚染を危惧して県産品を忌避する人が一定数いるのに、遠く離れた海外で理解を得てファンを増やし、販路を拡大するのは限界があろう。 そもそも県全体の出荷額に対し、輸出額は微々たる金額だ。 県によると、2021年度の県産米を含む県産農畜産物の輸出額は3億3200万円。県の農業産出額は2086億円(2019年度)。 県産日本酒の輸出額は分からなかったが、県酒造組合によると、令和3酒造年度(2020年7月~2021年6月)の輸出量は255㌔㍑。同酒造年度の県全体の出荷量は1万1000㌔㍑だ。指標はそれぞれ異なるので分かりにくいが、輸出が全体に占める割合の小ささがイメージできるのではないか。 過去には農産物の生産者から「輸出は手間がかかるわりに、諸経費などがかさむし、国内需要を凌駕する勢いで売れるわけではないので大した儲けにならない」と冷ややかな声を聞いたこともあった。 本誌2019年10月号では内堀知事が知事就任後の5年間で、11回にわたり海外出張に出かけ、累計約4000万円の旅費がかかっていたことを紹介した。今回の訪米もそれなりの金額がかかっているだろう。 本誌2019年10月号『【福島】無意味な内堀知事の海外出張』は下記のリンクから読めます!  輸出を〝伸びしろ〟と捉え、販路拡大に努めること自体は否定しないし、トップセールスの効果もある程度は見込めるかもしれない。だが、費用対効果という点では意味があるとは言えないということだ。 地元紙はそうした課題にほとんど触れず、海外訪問のメリットを大々的に記事で取り上げるから毎回呆れさせられる。ただ、定例記者会見を見る限り、そんなことはお構いなしで、内堀知事は今後も年2、3回ペースで海外を訪問するのだろう。 あわせて読みたい 【検証・内堀福島県政 第3弾】公開資料で見えた内堀知事の懐事情 「尊敬する人」に箭内道彦氏を挙げた内堀知事

  • 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設

     県会津農林事務所発注の公共工事の入札で、設計金額を教えた見返りに賄賂を受け取ったとして、県警本部捜査2課、郡山・会津坂下両署は1月23日、収賄の疑いで県職員の寺木領容疑者、贈賄の疑いで会津坂下町の土木建築会社・マルト建設の社長上野清範容疑者、同社営業部長棚木光弘容疑者を逮捕した。  地元紙などの報道によると、寺木容疑者は2019年4月から22年3月まで同事務所に勤務し農業土木工事の設計・積算を行っていたが、そこで知り得た情報を上野・棚木両容疑者に教え、謝礼として飲食、宿泊、ゴルフ代など26万円相当の賄賂を受け取ったとされる。一方、マルト建設が同じ期間に同事務所発注の公共工事を落札したのは17件だが、寺木容疑者が設計・積算を直接担当したのはその中の1件だけだった。県警は、寺木容疑者が自分の担当以外の入札情報を何らかの方法で入手し、同社側に教えていたとみて調べを進めている。  地元ジャーナリストによると「マルト建設は、農業土木分野では地元で後発だったが、農林事務所とパイプをつくるなどして、今ではトップを争う位置にいる」。逮捕された棚木容疑者は社内で官公庁発注工事を担当し、以前は別の農業土木会社に勤務していた。  「私は会津農林事務所幹部と業者連中のつながりを疑ったことがあるが、今回の事件が別の展開を見せるのか注目している」(同)  同社と言えば、上野容疑者の父で元社長の清隆氏(2008年死去)も1999年に当時の会津農地事務所が発注した農業土木工事に絡む贈賄事件で逮捕され、懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けたが、農林事務所とのパイプづくりは昔も今も行われていたことになる。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相

  • 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き

     衆院小選挙区の区割り改定を受け定数5から4に減る福島県選挙区。そのうち県南と会津地方が一つになる新3区をめぐっては、次期衆院選の公認候補となる支部長に現3区の上杉謙太郎氏(47、2期)と現4区の菅家一郎氏(67、4期)のどちらを据えるか、自民党本部が結論を出せずにいる。両氏とも比例復活当選を二度経験しているため、党本部はどちらが「勝てる候補者」になり得るか、地元の意見も踏まえながら慎重に検討している。  そうした中、ある関係者から「党本部は若さと行動力で上杉氏を推しているが、両氏が所属する清和政策研究会は期数や派閥内での立ち位置から菅家氏を推している」という話が伝わってきた。  「上杉氏の後見人は安倍晋三元首相だったが、安倍氏が銃撃事件で亡くなり派閥内に強力な後ろ盾がいない状況。一方、菅家氏は下村博文氏らと関係が深く、復興副大臣を歴任するなど政治キャリアは上杉氏より上。そのため上杉氏は、早稲田大学の先輩でもある菅家氏に気を使い、余計なことを一切言わず『党本部の決定に従う』とひたすら繰り返している」(関係者)  上杉氏に対しては、党本部が他選挙区からの立候補も打診したが、上杉氏は「ここで頑張りたい」と断ったという。  新支部長は遅くとも3月中に決まる見通しだが、党本部が派閥の意向を汲むのか、それとも突っぱねるのか注目される。 あわせて読みたい 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

  • 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員

     衆院小選挙区定数「10増10減」を反映し、1票の格差を2倍未満とする改正公職選挙法が12月28日に施行された。これを受け、福島県の小選挙区定数は5から4に減った。新たな区割りは次の衆院選から適用される。今後の焦点は与野党の候補者調整だが、ベテラン議員が早くから立候補したい選挙区を匂わせているのに対し、若手議員は意中の選挙区があっても「先輩」への遠慮から口籠っている。若手議員はこのまま本音を言えず、時の流れに身を任せるしかないのか。与野党2人の若手議員の今後に迫った。(佐藤仁) ベテランに遠慮し口籠る上杉氏と馬場氏 福島県四つの区切りの地図  新区割りは以下の市町村構成になる。▽新1区=現1区の福島市、伊達市、伊達郡と現2区の二本松市、本宮市、安達郡。▽新2区=現2区の郡山市と現3区の須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡。▽新3区=現3区の白河市、西白河郡、東白川郡と現4区全域(会津地方、西白河郡西郷村)。▽新4区=現5区全域(いわき市、双葉郡)と現1区の相馬市、南相馬市、相馬郡。 中央メディアの記者は、自民党選対筋の話として「5月に開かれるG7広島サミット終了後、岸田文雄首相が解散総選挙に打って出るのではないか」という見方を示している。 解散権は首相の専権事項なので、選挙の時期は岸田首相のみぞ知ることだが、いつ選挙になってもいいように候補者調整を急がなければならないのは与野党とも同じだ。 現在、県内には与野党合わせて9人の衆院議員がいる。根本匠(71、9期)、吉野正芳(74、8期)、亀岡偉民(67、5期)、菅家一郎(67、4期)、上杉謙太郎(47、2期)=以上、自民党。玄葉光一郎(58、10期)、小熊慎司(54、4期)、金子恵美(57、3期)、馬場雄基(1期、30)=以上、立憲民主党。このうち本誌が注目するのは両党の2人の若手議員、上杉氏と馬場氏だ。 上杉氏はこれまで3回の選挙を経験し、いずれも現3区から立候補してきた。最初の選挙は厳しい結果に終わったが、前々回、前回は比例復活当選。玄葉光一郎氏を相手に小選挙区では及ばないが、着実に票差を縮めており、支持者の間では「次の選挙は(小選挙区で)勝てる」が合言葉になっていた。それだけに、今回の区割り改定に支持者は大きく落胆している。 現3区は区割り改定で最もあおりを受けた。福島市がある現1区、郡山市がある現2区、会津若松市がある現4区、いわき市がある現5区は新区割りでも一定の原形をとどめたが、現3区は真っ二つに分断・消失する。他選挙区のように「母体となる市」がなかったことが影響した。 現3区は、北側(須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡)が新2区、南側(白河市、西白河郡、東白川郡)が新3区に組み込まれた。そうなると上杉氏はどちらかの選挙区から立候補するのが自然だが、現実はそう簡単ではない。新2区では根本氏、新3区では菅家氏が立候補に意欲を示しているからだ。 「先輩」に手を挙げられては、年齢が若く期数も少ない上杉氏は遠慮するしかない。しかし立候補する選挙区がなくなれば、自身の政治生命が危ぶまれる。要するに、今の上杉氏は「ここから立候補したい」という意中の選挙区があっても、積極的に口にしづらい立場にあるのだ。 もっとも、上杉氏が「先輩」に気を使ったとしても、上杉氏を熱心に応援してきた支持者は納得がいかないだろう。 上杉氏が家族とともに暮らす白河市の支持者もこのように語る。 「上杉氏が大臣経験のある根本氏を押し退け、新2区から出ることはあり得ない。残る選択肢は新3区になるが、菅家氏と上杉氏のどちらを候補者にするかは、期数ではなく選挙実績を重視すべきだ」 この支持者が選挙実績を持ち出したのは、もちろん理由がある。 前述の通り上杉氏は小選挙区で玄葉氏に連敗しているが、着実に票差を縮めている。これに対し菅家氏は現4区で小熊慎司氏を相手に勝ち負けを繰り返している。前回は小選挙区で敗れ、比例復活に救われた。 「最大の疑問は菅家氏が会津若松で小熊氏に負けていることです。会津若松市長を3期も務めた人がなぜ得票できないのか。地元で不人気な人が候補者にふさわしいとは思えない」(同) 選考は長期化の見通し  前回の結果を見ると、会津若松市の得票数は小熊氏2万9650票、菅家氏2万8107票で菅家氏の負け。同市の得票数に限ってさかのぼると、2014年と12年の衆院選も菅家氏は負けている。唯一、17年の衆院選は勝ったものの、両氏以外に立候補した野党系2氏の得票分を小熊氏に上乗せすると、菅家氏は実質負けているのだ。 「菅家氏が小選挙区で連勝し、会津若松市の得票数も引き離していれば、私たちも『新3区からは菅家氏が出るべき』と潔くあきらめた。しかし、地元で不人気という現実を見ると、新たに県南に来て得票できるかは怪しい」(同) ちなみに前回の衆院選で、西白河郡の西郷村は現3区から現4区に編入されたが、同村の得票数は小熊氏4430票、菅家氏4299票とここでも菅家氏は競り負けている。 「とはいえ、菅家氏が県南で得票できるか分からないのと同じく、上杉氏も会津で戦えるかは未知数。正直、あれだけ広いエリアをどうやって回るかも想像がつかない」(同) そんな両氏を救う方法は二つ考えられる。 一つはどちらかが比例単独に回ること。ただし、当選することはできても地盤は失われるので、これまで小選挙区で戦ってきた両氏には受け入れ難い救済案だろう。確実に当選できるならまだしも、名簿順位で上位が確約されなければ落選リスクにもさらされる。 もう一つはどちらかが小選挙区、どちらかが比例区に回り、次の選挙では入れ替わって立候補するコスタリカ方式を採用すること。ただし、この救済案もどちらが先に小選挙区に回るかで揉めると思われる。最初に比例区に回れば、小選挙区の有権者に自分の名前を書いてもらう機会を逸し、次の選挙で自分が小選挙区に回った際、名前を書いてもらえる保証がないからだ。 さらに同方式の危うさとして、小選挙区の候補者が落選し比例区の候補者が当選したら、両陣営の間に溝が生じ、次の選挙では選挙協力が成立しづらい点も挙げられる。 田村地方の自民党員はこう話す。 「私たちはこの先、上杉氏を直接応援することはできないが、本人には『もし菅家氏とコスタリカを組むなら絶対に比例区に回るな』とはアドバイスしました」 そもそも現3区の自民党員は同方式に良いイメージを持っていない。中選挙区制の時代、県南・田村地方には穂積良行と荒井広幸、2人の自民党議員がいたが、小選挙区比例代表並立制への移行を受け両氏は現3区で同方式を組んだ。最初の選挙は荒井氏が小選挙区、穂積氏が比例区に回り、荒井氏が玄葉氏を破って両氏とも当選したが、次の選挙は小選挙区に回った穂積氏が玄葉氏に敗れ政界引退。荒井氏は比例単独で当選したものの、次の選挙は小選挙区で玄葉氏に大差負けした。名前を書いてもらえない比例区に回ったことと両者の選挙協力が機能しなかったことが、小選挙区での大敗を招いた典型例と言える。 「上杉氏はかつて荒井氏の秘書をしていたので、コスタリカが上手くいかないことはよく分かっているはずです」(同) 果たして上杉氏は、区割り改定を受けてどのようなアクションを起こそうとしているのか。衆院議員会館の上杉事務所に取材を申し込むと、 「上杉本人とも話しましたが、これから決まっていく事案について、いろいろ申し上げるのは控えさせてほしい」(事務所担当者) この翌日(12月15日)、自民党県連は選挙対策委員会を開き、次期衆院選公認候補となる選挙区支部長に新1区が亀岡氏、新2区が根本氏、新4区が吉野氏に内定したと発表した。新3区は菅家氏と上杉氏、双方の地元(総支部)から「オラがセンセイ」を強く推す意見が出され、結論は持ち越された。今後、党本部や両氏の所属派閥(清和政策研究会)で調整が行われるが、党本部は比例復活で複数回当選している議員の支部長就任は慎重に検討するという方針も示しており、上杉氏(2回)、菅家氏(2回)とも該当するため、選考は長期化する見通しだ。 県連はどちらが選挙区支部長に内定しても「現職5人を引き続き国政に送ることが大前提」として、比例代表の1枠を優先的に配分するよう党本部に求めていくとしている。菅家氏と上杉氏はともに早稲田大学卒業。「先輩」に面と向かって本音を言いづらい上杉氏に代わり、地元支持者の熱意と、前述した菅家氏への物足りなさが候補者調整にどう影響するのか注目される。 組織力を持たない馬場氏  立憲民主党の若手、馬場雄基氏も上杉氏と同様、辛い立場にある。 前回、現2区から立候補した馬場氏は根本匠氏に及ばなかったが比例復活で初当選した。当時20代で初登院後は「平成生まれ初の衆院議員」としてマスコミの注目を集めた。爽やかなルックスで「馬場氏の演説には引き込まれるものがある」と同党県連内の評価もまずまず。国会がない週末は選挙区内を回り、自民党支持者が多く集まる場所にも臆せず顔を出すなどフットワークの軽さものぞかせる。 現2区は、中核を成す郡山市が現3区の北側と一緒になり新2区に移行。これに伴い馬場氏も新2区からの立候補を目指すとみられるが、ここに早くから踏み入るのが、現3区が地盤の玄葉光一郎氏だ。 当選10回。民主党政権時には外務大臣、国家戦略担当大臣、同党政調会長などの要職を歴任。岳父は佐藤栄佐久元知事。言わずと知れた福島県を代表する政治家の一人だ。 玄葉氏は、現3区の南側が組み入れられた新3区ではなく、新2区からの立候補を模索している。背景には▽郡山市には昔から自分を支持してくれる経済人らが多数いること、▽同市内の安積高校を卒業していること、▽同市内に栄佐久氏の人脈が存在すること、等々の理由が挙げられる。「現3区で上杉氏が票差を詰めている」と書いたが、北側(須賀川市や田村市)では一定の票差で勝っていることも新2区を選んだ一因になっているようだ。 馬場氏にとっては年齢も期数も実績も「大先輩」の玄葉氏が新2区からの立候補に意欲を示せば、面と向かって「それは困る」「自分も立候補したい」とは言いにくいだろう。 もっとも玄葉氏と馬場氏を天秤にかければ、本人が辞退しない限り玄葉氏が候補者になることは誰の目にも明らかだ。理由は馬場氏より期数や実績が上回っているから、ということだけではない。 両氏の明らかな差は組織力だ。政治家歴30年以上の玄葉氏と、2年にも満たない馬場氏では比べ物にならない。例えば、郡山駅前で街頭演説を行うことが急きょ決まり「動員をかけろ」となったら、玄葉氏は支持者を集めることができても、組織力を持たない馬場氏は難しいだろう。 「馬場氏は青空集会を定期的に開いて多くの有権者と触れ合ったり、SNSを使って積極的に発信している点は評価できる。馬場氏がマイクを握ると聴衆が聞き入るように、演説も相当長けている。しかし、辻立ちや挨拶回り、名簿集めといった基本的な行動は物足りない」(同党の関係者) 馬場氏の普段の政治活動は、若者や無党派層が多い都市部では支持が広がり易いが、高齢者が多く地縁血縁が幅を利かす地方では、この関係者が言う「基本的な行動」を疎かにすると票に結び付かないのだ。 「簡単には決められない」  立憲民主党の県議に新区割りを受けて馬場氏の今後がどうなるか意見を求めたが、言葉を濁した。 「現1区で当選した金子氏が新1区、現4区で当選した小熊氏が新3区に決まれば残るは二つだが、だからと言って新2区が玄葉氏、現5区時代から候補者不在の新4区が馬場氏、という単純な振り分けにはならない。両氏の支持者を思うと、簡単にあっちに行け、こっちに行けとは言えませんよ」 加えて県議が挙げたのは、同党単独では決めづらい事情だ。 「私たちはこの間、野党共闘で選挙を戦っており、他党の候補者との調整や、ここに来て距離を縮めている日本維新の党との関係にも配慮しなければならない。こうなると県連での判断は難しく、党本部が調整しないと決まらないでしょうね」(同) 同党県連幹事長の高橋秀樹県議もかなり頭を悩ませている様子。 「もし全員が新人なら、あなたはあっち、あなたはこっちと振り分けられたかもしれないが、現選挙区に長く根ざし、そこには大勢の支持者がいることを考えると、パズルのピーズを埋めるような決め方はできない。党本部からは年内に一定の方向性を示すよう言われているが『他県はできるかもしれないが、福島は無理』と伝えています。他県は現職の人数が少なかったり、2人の現職が一つの選挙区に重なるケースがほとんどないため、すんなり候補者が決まるかもしれないが、現職の人数が多い福島では簡単に決められない。ただ、目標は現職4人を再び国政に送ることなので、4人と直接協議しながら党本部も交えて調整していきたい」(高橋幹事長) 当の馬場氏は今後どのように活動していくつもりなのか。衆院議員会館の馬場事務所に尋ねると、馬場氏から次のような返答があった。(丸カッコ内は本誌注釈) 「(候補者調整について)現時点において、特段決まっていることはございません。しっかりと自分の思いを県連や党本部に伝えているところでもあり、その決定に従いたいと考えています。その思いとは、私が今ここに平成初の国会議員として活動できているのも、地盤看板鞄の何一つ持ち合わせていない中から育ててくださり、ゼロから一緒につくりあげてくださり、今なお大きく支えてくださっている郡山市・二本松市・本宮市・大玉村の皆さまのおかげです。いただいた負託に応えられるように全力を尽くすのみです」 現2区への強い思いをにじませつつ、県連や党本部の決定には従うとしている。 中途半端な状態に長く置き続けるのは本人にも支持者にも気の毒。それは馬場氏に限った話ではない。丁寧に協議を進めつつ、早期決着を図り、次の選挙に向けた新体制を構築することが賢明だ。(文中一部敬称略) あわせて読みたい 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

  • 【高額報酬】存在感が希薄な福島県議会

     今年は県議の改選イヤー(11月19日任期満了)。だが、一般県民からすると馴染みがない存在で、知名度も低い。年間報酬は約1400万円。その金額に見合った役割を果たしていると言えるのか。(志賀) つまらないやり取りで高額報酬  昨年10月30日投開票の知事選。現職・内堀雅雄氏の福島市の事務所で、固唾をのんで開票結果を待っていたのが県議たちだ。 県議の定数は58。会派別の議員数は、自由民主党福島県議会議員会(自民)31人、福島県議会県民連合議員会(県民連合)18人、日本共産党福島県議会議員団(共産)5人、公明党福島県議会議員団(公明)4人。 知事選では、共産党を除く自民、県民連合、公明が支援する内堀氏が55万1088票を獲得。共産党推薦の草野芳明氏に48万票の大差を付けて3選を果たした。 内堀氏は2014年の初陣から与野党相乗りの「オール福島」体制で当選してきた。旧民主党県連、社民党県連、連合福島、県民連合の4者協の主導で、当時副知事だった内堀氏の擁立を計画。自民党県連執行部は独自候補の擁立に失敗し、執行部と距離を置く自民県議らが野党側に接近。党本部の指示もあり、後追いで相乗りとなった経緯があった。 2期8年の間に自民党との結び付きは強くなり、今回の知事選でも内堀事務所で最も目立つところに陣取っていたのは自民系の衆院議員・県議だった。社民党県連は汚染水問題や原発新増設・再稼働問題への姿勢が合わないとして支援を見合わせたが、圧倒的な差で勝利し、あらためて支援態勢の盤石さを示した。 県議会では9割が〝与党〟議員ということもあって、この間、知事提出の議案が否決されたことは一度もない。一方で、共産議員から提出された汚染水や原発関連の議案はことごとく否決されている。 例えば、昨年9月定例会での知事提出議案は22件が原案可決、1件が同意となった。一方で共産議員が提出した「県民の理解が得られていないALPS処理汚染水海洋放出は行わないことを求める意見書」、「原子力発電所の再稼働・新増設及び老朽原発の運転期間延長の方針の撤回を求める意見書」は共産以外の全会派が反対し、否決されている。 ある自民議員は「何でもかんでも知事の議案を通しているわけではない。二元代表制を理解し、是々非々でチェックしている」と述べる。ただ、別の県議は「以前は共産が出す議案も検討していたが、いまは無条件で反対している節がある。当局と〝オール与党〟の議会が相互依存しているようなもの」と疑問を呈する。 本誌では昨年8~10月号と50周年増刊号で、ジャーナリスト・牧内昇平氏による内堀県政の検証記事を掲載した。国に批判的な発言をせず、汚染水の海洋放出に関しても「県が容認する・容認しないという立場にない」と言及しようとしない。さまざまな人に会って話を聞くが、記者会見では批判の声に向き合おうとせず、直接意見を述べようとする被災者団体とは顔を合わせようとしない。 あわせて読みたい あわせて読みたい 内堀雅雄氏  記事ではそんな一面が浮き彫りとなったが、県議からは知事の対応などについて表立った批判は出てこない。県議らは「それだけ内堀氏がきちんとやっているということだ」と口をそろえるが、実質的に執行部の追認機関となっている。 前回改選時(2019年)の県議会報に掲載された県議の主な経歴によると、大学卒33人、大学院卒2人、高校卒(大学中退含む)14人、短大・専門学校卒4人、不明5人。 内堀氏は東大卒、副知事の鈴木正晃氏、井出孝利氏はともに東北大卒。高学歴でともに元官僚、元県職員なので行政経験も豊富だ。いまの県議たちがチェックし切れるのか。 何も学力偏差値が高い県議をそろえろと言っているわけではない。元知事の大竹作摩氏、元建設大臣の天野光晴氏は尋常高等小学校卒で、どちらも県政発展に大きな功績を残した。緊張感を持って知事をチェックできる県議が求められており、いまの県議は物足りないということだ。 数十日勤務で報酬1400万円  県議会ホームページによると、県議の仕事として以下のようなことが示されている。 ①議決権(県条例や予算、工事請負契約などの議決)、②選挙権(議長、副議長などを選任)、③同意権(副知事、教育委員会委員などを知事が選任・任命する際に同意)、④調査権・検査権(県が議決通りに仕事しているか調査)、⑤意見書提出権(政府・国会に意見書を提出)、⑥請願受理権(提出された請願を審査し、採択したものは知事などに実行を要求)。 選挙になると政策的なことを公約に掲げる候補者がいるが、県議会(地方議会)は政策立案機関ではない。意見書提出は定例会ごとにそれなりに行われているが、内堀氏が就任した2014年12月定例会以降、政策的な条例が制定された事例はない(議員定数や政務活動費など議会関連の条例は除く)。 敢えて言うなら、それぞれが考える政策を実現するための予算を獲得できるように、知事や知事部局に伝え、定例会などで質問して問題点を周知するのが仕事と言える。予算を最終的に決めるのは議会に与えられた権限だ。 ただし、予算案を議会に提出する権限は知事だけが持っており、議会は自ら予算を作れない。 知事選前の10月8日付の朝日新聞では《内堀の最大の強みは、政治家を動かし、霞が関とも折衝を重ねて、「国からお金を引っ張ってくることだ」と、内堀を支える県議は口をそろえる》と報じていた。文句の言いようがない予算案を出されたら、県議の出る幕はないことになる。 県議らに話を聞くと、「観光や道路行政など広域的な話は県単位でなければ進まないことも多い」、「住民から不満の声を聞いて、市町村につなげることもある」という。県民の役に立っている、と。ただ、会期中は地元を離れることも多く、身近な存在と感じている人は少ないだろう。 浜通りのある政治家経験者は「震災・原発事故後、浜通りの市町村は国との距離がずいぶん縮まった。国の職員が出向し、大臣などが視察に来る回数が増える中で、県の存在自体が薄れているのは否定できない。制度自体にひずみが生まれていると感じる」とも語る。「県に話を通したいとき、県議がいてくれると助かる」という市町村職員の声もあるようだが、その役割が揺らいでいるということだ。 2019年9月号「県議会をダメにする専業議員」という記事で2018年度の活動実績を調べたところ、本会議28日、各常任委員会(県内外の調査を含む)19日、統括審査会3日、特別委員会(交流人口拡大・過疎地域等振興対策、健康・文化スポーツ振興対策、避難地域等復興・創生対策)12日で、合計62日だった。議会運営委員会、広報委員会などに所属していたとしても80~90日。 にもかかわらず、県議には高額な報酬が支払われている(表1)。月額報酬は83万円。期末手当は条例で「報酬月額×1・45×1・60」と定められている(昨年12月20日時点。12月定例会でアップする見通し)。  それ以外にも旅費や政務活動費などの〝余禄〟が支給されている。 県議が本会議や委員会に出席すると、交通費1㌔当たり25円、日当3000円を支給。福島市以外に住む県議が宿泊する場合は1泊当たり1万4900円の宿泊料も出る。 視察や調査では、交通費1㌔当たり37円(鉄道などの公共交通機関を利用した場合は実費)、日当3300円、宿泊費1万4900円、食卓料(海外視察など、宿泊せず移動したときの食事費用)3300円。 政務活動費は会派を通して月額30万円が交付されている(条例では35万円だが、5万円減額している)。 昨年6月30日、2021年度交付分の政務活動費2億0490万円の収支報告書が公開された。総支出額は2億0450万4063円(99・8%)だった。 自民党は交付された1億0770万円をすべて使い切った。県民連合は交付額6480万円、返還額2万9486円、共産党は交付額1800万円、返還額3万5286円、公明党は交付額1440万円、返還額33万1165円。なお共産党は議員別には支給せず、会派単位で使用している。 支出別で最も金額が大きいのは、県政報告の広報紙の制作・印刷・発送などに使われる「広聴広報費」(9964万9368円=全体の48・7%)。 県の持ち株の関係で、福島テレビなど関係会社の役員に就き報酬を得ている議員もいる。議会選出の県監査委員などに就くことでも報酬が得られる。これらも〝余禄〟だ。 専業議員は無気力議会の元凶  昨年7月4日には2021年の県議の所得が公開された。それをまとめたのが表2だ。  2021年に1年間議員を務めた人が対象。そのため、同年4月の県議補選で初当選した山内長氏(自民、大沼郡)、22年10月の県議補選で初当選した佐藤徹哉氏(自民、郡山市)、佐々木恵寿氏(自民、双葉郡)は含まれていない。 先ほど県議の年間報酬が約1400万円と説明したばかりなので、混乱するかもしれないが、表で示しているのは所得税や共済費など法定控除後の「所得」だ。議員報酬や関連会社の給与所得、事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得、雑所得、一時所得などの合計金額を示す。 これを見ると、最も多い1186万円が県議の報酬ということになるのだろう。それを下回っているのは、事業所得などでマイナスになったためと考えられる。逆に議員報酬が高い議長や副議長などに就いたり、関連会社の役員を務めて給与所得を得たり、県監査委員を務めて報酬を得た場合、所得に計上され、上位にランキングされる。 こうして見ると大半は専業議員だ。落選したら収入がなくなる立場だと、選挙活動を優先させるようになり、執行部に厳しい目を向ける姿勢がなくなる。県議会の存在感の希薄さはそこにも一端があるのだろう。 ベテラン県議は議員報酬についてこう持論を展開する。 「県職員で言えば部長職相当の金額であり、小さな会社の役員や30、40代の人は『高額な報酬』と感じるはず。でも、企業経営者クラスになると、『金額が低すぎて暮らしていけない』と話していたりする。要するに、人によって受け止め方は異なるということです。だからこそ『この報酬をもらっていても不思議ではない』と言われるぐらいの働きをしなければならないと考えています」 一方で、あるジャーナリストは「県議を見て『年収1400万円に値する働きをしている』と感じる人がどれだけいるだろうか。専業議員なんて言語道断。仕事を持ちながら議員を務めるのがあるべき姿で、兼業できる環境をまずは整えるべき。その働きぶりを考えると、月額報酬30万円、期末手当はナシというのが妥当でしょう」と断言する。 昨年、県議会では改選に備えて、議員定数等検討委員会(佐藤憲保委員長)を設けた。直近の国勢調査人口を踏まえた定数について各会派が議論を行ってきた。 注目されていたのは双葉郡選挙区(定数2)の行方だ。選挙区として存続するためには、選挙区人口が「議員1人当たりの人口」の半数を上回る必要がある。前回県議選のときは、その基準に達せず、強制合区となる見通しとなった。そのため、「これでは復興が進まない」と国に求め、特例法が制定され定数2を維持した。 2020年度の国勢調査で双葉郡選挙区の人口は1万6484人。議員1人当たりの人口3万1606人の半数をぎりぎり上回った。ただ、県全体の人口183万3152人を現行の19選挙区に割り振って各選挙区の定数を単純計算すると、双葉郡の定数がゼロになり、福島市といわき市の定数がそれぞれ1増える計算となることが分かった。 そもそも地方自治法で定められていた法定上限数(2011年に撤廃)からすると、現在の人口は定数57相当となっている。 そのため、今後の人口減少も見据えた話し合いが各会派で行われるものと思われたが、結果的には定数58、19選挙区、双葉郡選挙区(定数2)など、すべて現行通りで維持することになった。 渡辺義信議長に意見を求めると、このように語った。 「県内19選挙区の中には、広大な選挙区に1人というところもある。人口だけで選挙区を決めると逆にアンバランスな面が出てくる。人口が少ない地域ほど課題が多いという事情もあり、復興途中の本県はなおのこと議員を減らすべきではないと考えます。そういう意味で検討委員会の答申は納得できるものでしたし、県議会として可決した次第です」 とはいえ、双葉郡の帰還の動きは鈍っており、県全体の人口減少も加速している。衆院議員ですら「1票の格差」の問題に対応すべく、10増10減の新区割りを導入した。そうした中で県議は現行維持というのは、問題を先延ばしにしている印象を受けるし、職を失いたくないための単なる〝保身〟にも映る。 元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所の主任研究員を務める今井照氏(地方自治論)に県議の役割について見解を求めたところ、次のように述べた。 「日本の地方自治制度は二元的代表制をとっているので、議会と知事は別の意思を持っていても構わないという制度になっています。もしそこで相互の意見が最後まで一致しなければ、最終的には議会の方が強い制度になっています。議会とその議員はそのような制度を前提としながら、きちんと知事に立ち向かわなければなりません」 「そのためには個々の議員や政党会派はもとより、議会内部に組織としてきちんとしたシンクタンクを置くことが必要です。議会には議会図書館を設置することが地方自治法で義務付けられていますが、その組織を発展させてもいいと思います。たとえば予算審議を見ていても、知事から出てくる資料は概括的なものばかりで、財政分析することもできません。そのときは議会のシンクタンク(図書館)が知事側に対し必要な資料を請求することができるような仕組みがあるべきです。情報が知事側に握られていれば、議会や議員の立場は強くなりません」 「しかし、福島県に限らず、一般的には国会の議院内閣制のように、あたかも議会が長を選んで、だから長を支える会派とそうではない会派があるかのように思われています。議員ですらそう思っている節がある。そこが、緊張感のない県議会にしている最大の要因だと思います。県議に与党も野党もないのです」 地方自治制度においては、首長や執行部に立ち向かう議会が求められているのに、福島県議会はそうなっておらず、「オール与党」などと錯覚しているから緊張感のない議会が生み出されているのではないか、と。 ある県議経験者は「いろいろできると思って県議になったが、何もできなかった」と振り返る。 「県議会で影響力を持っているのは、正副議長やその経験者、最大会派である自民の幹事長ぐらい。県の部長クラスもその辺の意見には熱心に耳を傾けるが、1、2期の県議の声は相手にされない。かといって、市町村や住民とも距離があり、言動は会派の方針に従わなければならない面もあったのでもどかしかった」 こうした状態だからこそ、首長に転身する県議が多いのだろう。12月20日現在、県議出身の首長は8人。かといって、際立った業績を挙げた県議出身首長がいるわけでもない。 県議は首長や国会議員になるステップと見られているため〝中二階〟と称されることもあった。その傾向は年々強くなっている。加えてオール与党の無気力議会。空っぽの〝中二階〟にお金をかけたいとは誰も思わない。 あわせて読みたい 【福島県職員の給料】人事院・福島県人事委勧告の虚妄

  • 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま

    郡山市が通勤圏内、プラント立地で人口増  国の意向で2000年代を中心に進められた「平成の大合併」。県内では90市町村から59市町村に再編された。そこに参加しなかった県内自治体のいまに迫るこのシリーズ。今回は、安達郡で唯一「単独の道」を選択した大玉村を検証していく。(末永)  「平成の大合併」前、安達郡は大玉村のほか、安達町、岩代町、東和町、本宮町、白沢村の4町2村で構成されていた。これに二本松市を加えた1市4町2村が「安達地方」に位置付けられ、それら市町村で消防行政やごみ・し尿処理施設、斎場(火葬場)運営などを担う「安達地方広域行政組合」が組織されていた。  「平成の大合併」では、2005年12月1日付で二本松市と安達町、岩代町、東和町が合併して新・二本松市に、2007年1月1日付で本宮町と白沢村が合併して本宮市になったが、大玉村はいずれにも加わらなかった。これにより、安達地方広域行政組合の構成員は2市1村となり、安達郡は大玉村のみとなった。ちなみに、県内で1郡1村(1郡1町を含む)は安達郡(大玉村)だけである。 当時の大玉村役場関係者はこう述懐する。 「いまも存在していますが、以前から本宮町、大玉村、白沢村の首長、助役(※当時=現在は副市町村長に名称変更)、議員などで構成する『南逹地方振興協議会』というものがあり、広域的に地域振興や課題への対応などを協議していました。ですから、『平成の大合併』の議論が巻き起こった際、それが1つの枠組みになるのではないかと捉えられていました。東北部(二本松市)との合併は、当初からそれほど話題にはなっていなかったように思います」 前述したように、「安達地方」は1市4町2村で構成されていたが、二本松市、安達町、岩代町、東和町の「東北逹」と、本宮町、大玉村、白沢村の「南逹」が合併の枠組みとして捉えられていたというのだ。 当時の本誌取材の感覚では、「東北逹」は二本松市と安達町は地理的な条件面などで優れているが、岩代町と東和町は国道4号やJR東北本線のラインから外れ、地理的条件などが厳しかった。そのため、「東北逹」の合併は二本松市と安達町が岩代町と東和町を救済するといった側面があったように思われる。 一方、「南逹」は当時の大玉村役場関係者のコメントにもあったように、「南逹地方振興協議会」というものがあり、もともと広域連携や交流、結び付きがあった。そのため、「合併するなら、この3町村で」と捉えられていたようだ。 ただ、当時、本宮町は工業団地の造成に伴う財政負担が大きく、大玉村からすると合併相手としては決していい条件とは言えなかった。 一方で、白沢村は岩代・東和両町と同様、国道4号やJR東北本線が通っている自治体に比べると、地理的条件などが厳しかった。 そのため、大玉村は消極的で、本宮町と白沢村で合併協議が進められることになった。なお、当時の国の方針では、新市(市政施行)への移行条件は「人口3万人以上」だった。合併時、本宮町の人口は約2万2000人、白沢村は約9000人で、それを満たしていたこともあり、両町村が合併して本宮市が誕生した。 こうして、安達地方は2市1村に再編され、大玉村は「単独の道」を選択した。なお、合併議論が巻き起こった際、大玉村長だったのは浅和定次氏で1993年から2013年まで5期20年務めた。2013年からは押山利一氏が村長に就き、現在3期目。押山氏は元役場職員で、浅和村長の下で、総務課長や教育長などを歴任した。「単独の道」を決めた浅和氏、それを近くで見てきた押山氏が合併議論の渦中と、その後の村政を担ってきたのである。 押山利一村長 一部に「心配」の声  とはいえ、前出・当時の大玉村役場関係者によると、「大玉村役場内でも、一部では合併すべきといった意見もあった」という。その理由は、やはり「合併しなかったら、すなわち国の意向に逆らったら、地方交付税が減らされ、立ち行かなくなるのではないか」といった心配事があったからだ。 前号の「桑折町・国見町編」でも紹介したが、合併議論最盛期に、県内で首長を務めていた人物はこう語っていた。 「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」 この首長経験者にとって、そうした国の方針は「脅し」のような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、合併を選択したというのである。 大玉村でも、同様の心配をする声があったということだ。行政の内部にいたら、そういった思いになるのは当然のことと言えるが、「いまになって、あらためて振り返ってみると、合併しなくて良かったと思う」(前出・当時の大玉村役場関係者)という。 それは、合併しなかった市町村への国からの〝締め付け〟が思ったほどではなかったから、と言えよう。 もっとも、前号で検証した桑折町・国見町もそうだったが、合併しなかった市町村は、それなりの「努力の形跡」が見て取れる。 ちょうど、「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための各種指標が公表されるようになった。 別表は同法に基づき公表されている大玉村の各指標の推移。比較対象として、同地区で合併した本宮市の各指標を併記した。 大玉村の職員数とラスパイレス指数の推移 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  全体的に指標は良化していることが見て取れる。実質公債費比率は近年は若干増加傾向にあり、本宮市に「逆転」された形になっているが、将来負担比率は2020年度は「算出なし(ゼロ、あるいはマイナス)」となっている。 もっとも、前号でも紹介したが、元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏によると、ここ数年は制度的な事情で、全国自治体の財政事情が改善しているという。 「2020年度以降、国では法人税収が増加していて、それを反映して地方交付税の原資も改善され、新たな借金(臨時財政対策債)の発行をほとんどしなくて済むばかりか、これまでの借金(臨時財政対策債)を償還する原資も国から交付されています。つまり全国の自治体財政の財政指標はこの3年間で大きく改善されているのです」(今井氏) 次に職員数とラスパイレス指数について。近年、臨時を含めた職員数は増えている。その要因については、後段で押山村長に見解を聞いている。 特筆すべきは人口の推移。別表に安達地方3市村の人口の推移をまとめたが、二本松市が合併直後と比べると約1万人減、本宮市が微減となっている中、大玉村だけは増加し続けている。これは県内市町村では極めて稀有なこと。特に、福島県の場合は、東日本大震災・原発事故を受け、人口減少が加速した。そんな中で、一時的に増加に転じるところはあっても、安定的かつ長年にわたって増加し続けているのは、県内では大玉村と西郷村だけである。 こうした各種指標や人口の推移などについてどう捉えているのか、押山村長に聞いた。 ――「平成の大合併」の議論が進められていた際、近隣では旧二本松市と安達郡3町、本宮町と白沢村の合併がありました。大玉村にもその誘いがあったと思いますが、当時の村長はじめ、関係者の「単独の道」という選択をしたことについて、いまあらためてどう感じていますか。 「当時、私は村役場総務課長として市町村合併を担当しておりました。安達管内は二本松藩の域内であり歴史的に結びつきが強く『安達はひとつ』の考えの下に『安達地方広域行政組合』をはじめとして、強い結びつきがありました。 当初は、域内7市町村または3町村の合併論議はありましたが、当村では伝統的に『自主独立』の気運が強く、村内での住民との意見交換会でも『合併すべき』の意見はごく一部で大多数が反対意見でした。 議会をはじめ、各種機会に意見をうかがいましたが、議会及び村民の合併に対する意見は、大多数が合併は望まないとのものでした。そこで、大玉村としては『村民の望まない合併はしない』と早い段階で決定した次第です。 その選択が村民にとって良かったかどうかは、その時点で選択の余地がなかったとはいえ、単独の道を選んだ以上は村民の皆さんがそのようなことを意識しないで生活できる村政の執行が肝要だと思っています」 ――当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められます。(別表で示した)財政指標、職員数とラス指数についてどう捉えていますか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応についてはどう考えていますか。 「『財政指標』については、もともと4割弱の財政力指数が示す通り典型的な小規模自治体ですが、『住民サービスを落とさずに健全財政を維持する』をテーマとして、前村長時代からの村政執行のベースとなっています。 『入るを量りて出ずるを為す』は当然のこととして、行政の先行投資の部分も当初から行われていたと思います。例えば、保育料や幼稚園の一部減免、定住化政策への助成などのソフト面から、ハード面は徹底して身の丈に合った施設でランニングコストを極力抑えるものとする等の徹底も財政力指標に表れていると考えています。 『職員数とラスパイレス指数』については、近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加であるが、それでも職員の負担は旧に倍して増大しています(※職員定数は116人)。 『財政基盤強化』、『行政運営の効率化』への取り組みと今後の対応については、住民サービスの水準を落とさずに財政調整基金等の積み増しを図りつつ、将来を見据えて新規事業に取り組んでいます。 今後も子育て支援や定住化政策、健康長寿の村づくり、公共交通網の整備等の『村民の満足度を高める政策』の継続と、将来のための企業の誘致基盤の確立に努めていきます」 人口増加の要因  ――大玉村は県内では数少ない人口が増えている自治体です。その要因とこれまでの対策、これからの取り組みについて。 「『人口の推移』については、国勢調査で45年連続増加しているが、国県等の人口減少の中で、大玉村だけが増加を維持することは困難と考えています。 また、コロナウイルス感染症による出生数の激減が危惧されており、今から将来に向けての新たな対策が不可欠と考えています。 現在までの人口増の要因は複合的であり、子育て支援や定住化政策、福島・郡山・二本松・本宮が通勤通学圏内、国道4号沿いである交通の利便性、安達太良山から広がる景観、そして地価が廉価等の理由が挙げられます。 今後もこれらの利点をさらに高めて人口維持に努めますが、減少すればしたなりの行政運営があるだろうと考えています」 ――「単独」だからできたこと、その強み等々について、感じていることがあれば。 「『単独』だからできたこと、『その強み等々』については、合併せずに単独の道を選んで現在に至っているので、その過程で『小さいからこそ可能な村のメリット』があるとの思いで、きめ細かな行政運営に徹してきました。 前村長の言で『住民に目の届く、住民から手の届く村政』や私の村政の基本的な考え方『村民に日本一近い村政』の実現を目指しています。 ただ、逆に財政的に住民にサービスを届けられない『小さいゆえのデメリット』も多々あります。 幸いにも管内(二本松市、本宮市、大玉村)の結びつきが強く、各合併後も各種分野で連携が維持されており、特に消防、衛生関係など『安達地方広域行政組合』、『安達地方市町村会』等が有効に機能しています」 やはり、役場内、議員、村民のいずれも、当初から「合併」には消極的だったようだ。実際、村民からすると「(全国的に合併議論が巻き起こった際も)最初からそういう機運はなかった」という。 そのほか、押山村長は職員数の増加については「近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加」と明かし、人口増加については「複合的な要因」と分析した。 恵まれた条件  前出・当時の村役場関係者はこう話す。 「1つ例を挙げると、大玉村にはほかの多くの市町村にあるような、企業・工場を誘致するために行政が造成したいわゆる工業団地がありません。それは、農業で生計を立てている人が多いこともありますが、働き口として本宮市や郡山市に依存できる、といった部分が大きい。そのほかでも、行政サービスは別として、普段の生活の面では本宮市や郡山市に頼れるところが多い。そのため、そういった部分で行政が財政投資をしなくてもいい、といった側面があります。そのことが財政指標の良化につながっている面は多分にあると思います」 二本松市、本宮市、郡山市などが通勤・通学圏内で、働き口や医療・介護など、さまざまな面でそれらに依存できる地理的条件にある。そのため、そういった部分に財政投資する必要がないことから、財政指標の良化につながっている面があるというのだ。 加えて、それらの市に比べると、地価が安いため、若い世代が移り住み人口増加につながっている。押山村長が語っていたように、子育て支援や定住化政策など、村の努力によるとこもあるだろうが、やはり条件面で優れていることが大きい。だからこそ、早い段階で「合併しない」ことを決断できたのだろう。 ある村民は「唯一、不便なところを挙げると、大玉村にはJR東北本線の駅がないこと」という。ただ、役場周辺から本宮駅までは3㌔ほどで、村内各所から本宮駅までコミュニティーバス、デマンドタクシーなどを運行している。 その代わり、というわけではないが、現在、村では東北道のスマートインターチェンジ(IC)誘致を進めている。役場周辺から本宮ICまでは5㌔ほど、二本松ICまでは8㌔ほどで、スマートIC設置により、村ではさらなる交通の利便性向上と周辺開発を期待している。それに当たり、村内では「スマートICより、JR東北本線の駅をつくってほしい」といった意見もあったという。前述したように、「大玉村にはJR東北本線の駅がないのが唯一の弱点」といった意見もあったが、駅間の距離、利用見込みなどから、現実的ではないようだ。 そのほか、別の村民によると「プラントの存在も大きいと思う」という。プラント(PLANT)は総合ディスカウントストアで、「プラント―5 大玉店」は2006年2月にオープンした。ちょうど、「平成の大合併」議論が巻き起こっていたころで、当然、その前から「プラントが出店する」ということは分かっていた。地元雇用が見込めるし、若い世代が移り住むにも大きな要素となる。具体的な数字は不明だが、固定資産税なども相応と聞くから、その点も「単独の道」を後押ししたに違いない。 こうして聞くと、村の努力も当然あったと思われるが、それ以上に、県内最大の経済都市である郡山市が通勤圏内であること、大型商業施設が立地していること、近隣の市に比べて地下が安いこと――等々の条件が揃っていたのが大きい。 一方で、前号の「桑折町・国見町編」でも同様の指摘をしたが、「大玉モデル」や「大玉ブランドの新名物」と言われ、全国から注目を集めるような特別な仕掛けがあったかと言うと、思い当たらない。現状に満足せず、新たな仕掛けを生み出していくことも求められよう。

  • 【南会津合同庁舎内で県職員急死!?】詳細を明かさない南会津地方振興局

     昨年11月下旬、南会津町の福島県南会津合同庁舎で県職員とみられる中年男性が死亡していたという。同庁舎で何が起きていたのか、一部の町民の間でウワサになっている。  町民の話を総合すると、職員が亡くなっていたのは11月22~23日で、朝、出勤した職員が発見した。「中年男性が土壌などを調べる部屋で倒れていた」、「パトカーや救急車が出入りして車を囲んでいた」、「現場の状況から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い」という。  同庁舎には南会津地方振興局、南会津農林事務所、南会津建設事務所、南会津教育事務所が入っている。同庁舎を管理している振興局に確認したところ、「(亡くなった職員がいるという)話があったのは事実」と認めたものの、年齢や性別、所属部署、死因については「職員や遺族のプライバシーを尊重する観点」から詳細な説明を避けた。  「仮に何らかの事故で亡くなっていたり、殺人事件などに巻き込まれたとしたら、周りの住民は不安になる。行政機関として、ある程度は公表する義務があるのではないか」とただしたところ、「今回は公表する事例には当たらないと判断した」と話した。こうした回答から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い。  職場を最期の場所に選んだのには、どんな背景があったのか。組織として改善すべき問題があった可能性も考えられるが、同振興局は口を閉ざし、詳細も報道されていない。 あわせて読みたい 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 辞職勧告を拒否した石田典男会津若松市議

     会津若松市議会は12月1日、石田典男議員(63、6期)に対する辞職勧告決議を賛成多数で可決した。決議案は同日開会した12月定例会議の本会議で審議され、石田議員と清川雅史議長、退席した4人、欠席した1人を除く19人で採決、全員が賛成した。  石田議員は会津若松地方広域市町村圏整備組合が2021年に行った新ごみ焼却施設の入札をめぐり、市の担当職員に非開示資料の閲覧を執拗に求めたり、入札参加予定企業の営業活動に同行するなどしていた。(詳細は本誌昨年11月号を参照)  決議の採決結果は別掲の通り。清川議長は中立を守る立場上、採決に加わらなかったが、仮に議長でなくても石田議員と同じ会派に所属することから、市民クラブの他議員と一緒に退席していたとみられる。  「10月下旬に開かれた会派代表者会議で石田議員の処分内容が話し合われたが、市民クラブは『厳重注意でいいのではないか』とかばったものの他会派は『辞職勧告すべき』と主張した。市民クラブとしては〝仲間〟への辞職勧告決議案が出されれば賛成するわけにはいかないし、かと言って反対もしづらいので、退席して採決に加わらない方法を選択した」(事情通)  決議案は当初、11月9日開会の臨時会で採決する予定だったが、元職員による約1億8000万円の公金詐取事件(詳細は本誌昨年12月号を参照)が発覚したため、扱いが先送りされた経緯がある。  今回の採決前には、石田議員の一連の行為が議員政治倫理条例に違反するか否かについて市政治倫理審査会(中里真委員長=福島大学行政政策学類准教授)が審査を行い、清川議長に報告書(10月4日付)を提出していた。そこには《石田議員が会津若松市職員であるa氏に対し、本件ごみ焼却施設計画に関する非開示の資料の開示を何度も求めた事実はあったと判断します》《一連の行為は特異な行動であった》《石田議員の行為は公正な職務を妨げる行為と認められます》などと書かれ、《会津若松市議会議員政治倫理条例第4条第1項第5号に違反する》と結論付けていた。  「非開示資料を石田議員に見せた市職員a氏は減給6カ月の懲戒処分を受けた後、市を退職している。それを基準に考えると、議員に減給処分は科せないし、懲罰の対象にもならないため、辞職勧告は妥当な処分だと思う」(ある議員)  とはいえ、辞職勧告決議に法的拘束力はなく、石田議員も採決後のマスコミ取材に「決議は重く受け止めるが、後援会とも相談し議員活動は続けていく」とコメントしている。  「今後の焦点は、8月の任期満了を受けて行われる市議選に石田議員が出た時、有権者がどう判断するかです。そこで当選すれば、石田議員は『有権者にとって必要な議員』ということになる。有権者の良識が問われる選挙になると思います」(同)  渦中の議員に、市民がどのような審判を下すのか注目される。 あわせて読みたい 「入札介入」を指摘された石田典男【会津若松市議】 【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態

     人気ラーメン店の〝開店前行列〟に福島市職員と思しき集団が並んでいた――。こんな匿名メールが本誌編集部に寄せられた。市に確認したところ、メール内容は事実であり、職員らは所定の手続きを取らず休憩時間を取っていたことが分かった。  メールは昨年11月18日に送信されたもの。内容は以下の通り(一部読みづらい個所をリライトしている)。  《今日10時半過ぎに福島市岡部の醤油亭というラーメン屋さんに行ったら、福島市の職員が8〜10人くらい並んでました。この店は人気店で、開店11時前に並ばないとスープがなくなるので、私は有給を取って平日の今日10時半過ぎに行きました。私の前方に並んでいた夫婦の旦那さんは、「なんだって、公務員はそんなに暇なのか?」と呆れていました。駐車場を見たら白いライトバンが2台、ナンバーは福島〇〇〇〇(メールでは番号が書かれていたがここでは伏せる)とありました。添付は職員の写真と車のナンバーの写真です》  添付されていた 〝証拠写真〟には、腕に「福島市」と書かれた作業服を着た男性数人が並ぶ姿と、車のナンバーが収められていた。  地方公務員法第30条では「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と定めている。もし仕事をサボって集団で並んでいたとすれば違法行為ということになる。  一方で、公務員が昼の休憩時間に作業服姿で外食すること自体は問題ない。「早朝から仕事して昼休みを早めに取った」、「昼から仕事なので、その前に食事休憩を取った」というケースも考えられる。  ネットで検索したところ、ラーメン店の正式名称は「ラーメン工房醤油亭」。セブンイレブン岡部店などがある三叉路の近くに立地する。ちぢれ麺の米沢ラーメンが味わえる店として人気を集めていたが、11月末で閉店していた。閉店する前に「どうしても食べたい」と考えて並んだのかもしれない。  実際のところはどうだったのか、市人事課に連絡し、事実確認を依頼したところ、後日「メールの内容は事実であり、ごみ減量推進課の職員たちが並んでいた」と連絡が来た。  市の担当者の説明によると、ごみ減量推進課は市内のごみ集積所などを管理する部署で、外勤が多い。普段は2人1組で行動しているが、問題の日は担当者9人が朝9時から市内のあらかわクリーンセンターに向かい、普段使用している公用車のタイヤ交換を行っていた。  作業がひと段落した後、早めに昼休憩を取り、昼食を食べに行くことになった。なお、職員がそろって食事するのは、タイヤ交換時の恒例行事となっていたという。  もっとも、ごみ減量推進課の担当者によると、「特別な用事がない限り、12時から13時の間に昼休憩を取ることになっている。変更する場合は昼に仕事が入っているなどやむを得ない理由があるときに限られ、その際は上長が指示を出す」。職員らは上長の指示を仰がず、勝手に昼休憩を早めに取っていたことになる。  職員らは11時の開店前から行列に並んで食事を取り、その後市役所に戻った。帰庁後間もなく昼休憩の時間に入ったため、ちゃっかり長めの休憩時間を満喫していた。開店前行列に加えて、帰庁後に〝重複休憩〟を取っていた事実も分かったわけ。  人事課の担当者は「現在詳細について調査中で、処分の対象になるかどうか検討する」と話したが、明らかに地方公務員法に違反している。おそらくタイヤ交換のたびに同じように行動していただろうし、似たような形でサボっている職員がほかにもいる可能性がある。いま一度、職員に勤務時のルールを徹底させるべきだ。  警察官や消防士などが休憩時間、制服姿でコンビニを利用すると「仕事をサボっているのではないか」と市民から苦情が入ることがある。ネット上などでたびたび議論になるため、今回もそうした事例かもしれないと思い、念のため市に確認したところ、思わぬ事実が判明した。  中には「外食した店がたまたま混雑していることもある。そんな目くじらを立てることではない」と見る向きもあるかもしれない。  ただ、そもそも仕事の日に、わざわざ行列ができる人気ラーメン店を昼食の場所として選び、開店前から並ぶ行為は妥当だったのか。人手不足で、忙しく働く中小企業の立場からすると強い違和感を抱くだろう。「公務員はそんなに暇なのか?」と呆れられても仕方がない話だ。  メールの差出人はわざわざ有給を取って並んでいたというから、なおさら「仕事がある日でも開店前から人気店に並んで食べることが許されるとは、なんていい職場なんだ」と感じただろう(実際は勝手な判断だったようだが)。  公務員はその行動が市民に見られていることを自覚して業務に取り組む必要があろう。 あわせて読みたい 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う 【福島県職員の給料】人事院・福島県人事委勧告の虚妄

  • 【鏡石町議会】「会派制廃止」の裏話

     鏡石町議会昨年12月議会で、議員発議で議会基本条例の一部改正案が提出された。同町の議会基本条例は2018年4月に施行され、その第6条に「会派制を敷く」旨が規定されているが、改正案はその削除を求めるものだった。  提案理由は「(同町議会は)議員定数が12人と比較的少数であり、この中で会派制を設けることは、むしろ議員間の分断をきたし、議会の公正かつ健全な運営に資するものではないと思われる。そのため、会派制を削除・撤廃すべき」というもの。  採決の結果、賛成多数で可決された。これに伴い、「会派制を敷く」旨が規定されている議会基本条例の第6条が削除された。  ある関係者によると、「会派制は、もともとは(2018年の議会基本条例制定時に)遠藤栄作町長を支えるというか、コントロールするために設けられたもの」という。  当時、遠藤町長を支える(この関係者に言わせると、コントロールを目論む)一派は7人おり、それら議員で「鏡政会」という会派を立ち上げた。代表には当時議長だった渡辺定己議員が就いた。同町の議員定数は12だから過半数を占める。  それ以外の5人は「野党」の立場で、それぞれ無会派(1人会派)という状況だった。  つまり、「7対5」(議場では議長は採決に加わらないため「6対5」)の構図の中で、会派制が生まれたというのである。  ただその後、2019年8月の町議選と、昨年5月の町長選・町議補選(同時選挙)を経て、状況が変わった。  まず、町長選では遠藤氏が引退し、代わって元役場総務課長の木賊正男氏が無投票で当選した。それによって、議会は「与党(町長派)」、「野党(反町長派)」といった括りはなくなった。それまで「野党」といった立場だった議員も、ひとまずは木賊町長を支える、あるいは見定めるといった立場に変わったのだ。  一方、議会は本選・補選を経て、鏡政会のメンバーは5人になった。さらに、本誌昨年10月号で伝えた渡辺議員(前出)が込山靖子議員に不適切な言動を取ったとされる問題があり、ともに鏡政会のメンバーだった渡辺議員が辞職、込山議員が離脱したことで、現在は3人になった。残りの7人は無会派(1人会派)で、「会派制の意味を成していない」状況になった。言い換えると、過去の決定を覆せる議会構成になったということでもある。  こうして、議会基本条例の一部改正(会派制の廃止)が行われたわけだが、提案理由にもあったように、そもそも定数12の町(議会)で会派を置くこと自体が稀なケースである。議員は「○○派」、「××派」といった括りなく、町のため、町民のために議会でどういった意思表示をするか、どのような議員活動をすべきか、を考えて行動すればいい。

  • 【福島県】旧統一教会と接点持つ議員の言い分

     国会を揺るがす自民党議員と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の“ズブズブの関係”は地方議員にも見られる。共同通信社が昨年11月、全国の都道府県議にアンケート調査を行った結果、福島県内では自民党所属の9県議が「何らかの接点があった」と回答。ただ現在は、教団との関係はないとしている。  議員が教団と接点を持つのは意図的か、偶然か。ある県議の関係者がこっそり打ち明けてくれた。  「選挙ではあらゆる方面から会合出席の案内が届く。当選を目指す立場からすると、挨拶の機会をもらえるなら出席したい。ただ、何でもかんでも出席するわけじゃない。事前に『この団体は大丈夫か』と簡単なリサーチはする」  そうした中、旧統一教会をめぐっては  「リサーチの結果、ある組織が教団と近いことが分かり『挨拶は遠慮したい』と伝えたら『うちは単なるNGOで、教団とは無関係だ』と言う。それならと出席し挨拶したら、やっぱり教団と近いことが後から判明した」(同)  しかし、既に関係を持ってしまった以上、党本部やマスコミの調査には「接点があった」と答えざるを得ないわけ。  これは裏を返すと「教団と関係があるとは知らなかった」と答えた議員は、実際は「リサーチして関係があると知りながら挨拶していた」ことにならないか。同じ「接点があった」でも、意図的な議員がいることを覚えておいた方がいい。 あわせて読みたい 福島県内にも「旧統一教会」市議・シンパ議員も複数存在

  • 追悼・渡部恒三元衆議院副議長 2022年11月6日にお別れの会開催

     元衆議院副議長で通商産業大臣、厚生大臣、自治大臣などを務め、2020年8月23日に死去した渡部恒三(わたなべ・こうぞう)氏の「お別れの会」が2022年11月6日、会津若松市の会津若松ワシントンホテルで開かれた。コロナ禍のため延期になっていたもので、関係者をはじめ、政界・経済界から約350人が参列した。 同日には会津若松市城東町の自宅に「渡部恒三記念館」が開館した。館内には大臣就任時に受け取った任命書や叙勲などゆかりの品が展示されている。入場無料。開館は水、土、日曜日の10時から16時。 当日の様子と併せて、約30年前の誌面に載せた恒三氏の写真を再掲する。 在りし日の恒三氏(1992年10月撮影) 会津若松市で行われた「お別れの会」の様子 議員宿舎で晩酌する恒三氏(1992年10月撮影) 記念館前に建てられたブロンズ像 恒三氏を支えていた秘書たち。中央は佐藤雄平元知事。 会津若松市の自宅で家族と食事をとる(1992年10月撮影) 記念館に展示されている恒三氏ゆかりの品 恒三氏の長男・恒雄氏 「お別れの会」であいさつする佐藤雄平元知事 あわせて読みたい 【会津】「恒三イズム」の継承者は誰だ

  • 石川町長選で落選【西牧立博】氏の悪あがき

     2022年8月28日投開票の石川町長選で落選した元職の西牧立博氏(76)が同10月19日、町選管に異議申し出を提出した。無効票に有効票が紛れている可能性や、開票立会人が票の点検を怠ったとして、投票用紙の再点検を求めたもの。町長選では8647人が投票し、有効票8310票、無効票337票。現職の塩田金次郎氏(74)が西牧氏に716票差で再選を果たした。  町選管が再点検を実施したところ、塩田氏の票が3票減って4510票となったが、西牧氏の3797票は変わらず、2022年10月27日に異議申し出が棄却された。正直〝悪あがき〟感は否めず、町民から呆れる声も聞かれる。ただ当の本人は、二度の事件で逮捕されながら、再び町長選に立候補する性格なので、全く気にしていないのかもしれない。  一方でそんな西牧氏に700票差まで迫られたということは、途中で断念した病院誘致をはじめ、塩田氏に不満がある人が少なくないということ。そのことを意識して町政運営を進める必要があろう。 あわせて読みたい 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦 【石川町】塩田金次郎町長インタビュー 石川中元講師「男子生徒に性加害」の実態

  • 来春に迫った北塩原村議選2つの注目ポイント

     北塩原村議会議員の任期は2023年4月29日までで、同月中に選挙が行われる予定となっている。  いまの議員は「村として初めての無投票」(ある関係者)によって選ばれ、村民からは事あるごとに「無投票は良くない」といった声が聞かれていた。  そのため、1つポイントになるのは「2回連続の無投票は阻止しなければならない」といった動きだ。  「現職議員の中には、無投票なら出る、選挙になるなら出ない、といった考えの人もいるようです。正直、そういった発想は村民(有権者)を愚弄しているとしか思えない。そんな人がタダで議員になるのを防ぐ意味でも、何とか無投票は避けてほしい」(ある村民)  もう1つは、遠藤和夫村長に近い議員は伊藤敏英議員くらいで、遠藤村長が自派議員擁立に動くか、ということ。  本誌8月号に「北塩原村長辞職勧告決議の背景」という記事を掲載した。同村6月議会で、遠藤村長の辞職勧告決議案が提出され、賛成5、反対2、退席2の賛成多数で可決された。背景にあるのは、介護保険の高額介護サービス費の支給先に誤りがあったこと、支給事務手続きが遅延したことで、その責任を問われた際、遠藤村長からは「自分の責任ではない」旨の発言があった。そのため、議員から「村長の説明は自分に責任がないようなものになっている。この先、事務執行するに当たって誰が責任を取るのか、明確にしておかなければならい」として、村長の責任を追及する動議が出された。その後、辞職勧告決議案が提出されたという流れだ。  その際、遠藤村長は「重く受け止める」とのコメントを残したが、辞職は否定した。同決議に法的拘束力はない。 遠藤和夫村長  そのほか、同議会ではそれに付随するような形で、一般会計補正予算案も賛成3、反対6の賛成少数で否決された。  こうした例があったため、遠藤村長は自派議員擁立に動くのではないか、とみられている。  もっとも、前述したように、明確に遠藤村長派と言える議員は伊藤議員1人だけだが、この間、前段で紹介した辞職勧告決議、一般会計補正予算案の否決のほかに、議案を否決されたのは1、2回あった程度で、表向きは議会対策にものすごく苦心している、というわけではない。  ちなみに、遠藤村長は2020年8月の村長選で初当選し、現在1期目。遠藤村長の妹が菅家一郎衆院議員の妻で、2人は義理の兄弟に当たる。1期目の折り返しを過ぎ、より自分の「カラー」を打ち出すためにも、遠藤村長は自派議員を増やしたいと考えているようだ。  同村は、北山、大塩、檜原の旧3村(3地区)に分かれているが、「遠藤村長は各地区で候補者を立てたい意向のようです」(ある関係者)という。  もっとも、別の村民によると「早い段階で表立って動くと、潰されてしまうから、いまはまだ水面下での動きにとどまっているようです」とのこと。  遠藤村長派の議員の台頭はあるのか、2回連続の無投票を阻止できるのか、この2つが同村議選の注目ポイントになろう。 北塩原村議会のホームページ あわせて読みたい 候補者乱立の北塩原村議選

  • 渡辺義信県議会議長に「白河市長」待望論!?

     白河市長4期目の鈴木和夫氏(73)が2023年7月28日に任期満了を迎える。市長選まで1年を切ったが、現職の動向を含め、まだ目立った動きは見えない。  鈴木氏は早稲田大卒。県商工労働部政策監、相双地方振興局長、県企業局長などを経て、2007年の市長選で初当選を果たした。  県職員時代の経験を生かし、財政再建や企業誘致、歴史まちづくり、中心市街地活性化を進めてきた行政手腕は高く評価されている。初当選時こそ次点の桜井和朋氏と約4000票差の約1万6000票だったが、2回目以降は2万票以上を獲得し、次点に1万票以上の差をつけ、当選を重ねてきた。  とはいえ、さすがに5選ともなると、「多選」のイメージが強くなり、弊害を懸念する声も出てくる。それを見越して、市内では〝後釜〟探しが水面下で進んでいるようだ。  市内の経済人によると、「『県議会議長の渡辺義信氏(59、4期、白河市・西白河郡、自民党)をぜひ次期市長に』という声が同県議の地元である旧東村で上がっている」という。 鈴木和夫氏(上)と渡辺義信氏  渡辺氏は日大東北高卒。自民党県連幹事長などを歴任し、2021年10月、県議会議長に就任した。白河青年会議所理事長、ひがし商工会副会長などを務めた経験から、応援する経済人も多いようだ。  2023年秋には県議の改選が控える。前回2019年の県議選での渡辺氏の得票数は1万0362票。現職・鈴木氏との一騎打ちとなれば勝ち目はなさそうだが、誰も成り手がいないのなら渡辺氏が適任ではないか――こうした〝待望論〟が支持者などから出てきているわけ。  もっとも、身内であるはずの自民党関係者は冷ややかな反応を示す。  「渡辺氏は国政選挙などがあっても真面目に応援してくれない。閣僚が応援演説に来た際も数人しか集められず、慌てて他地区から動員したことがあった。仮に市長選に出ても、(自民党支持者が)一丸となって応援する構図は考えづらい」  こうした声が出る背景には、白河市・西白河郡選挙から満山喜一氏(71、5期、自民党)も選出されており、市内の自民党支持者が二分されている事情もあるのだろう。  渡辺氏本人は周囲に「立候補はしない」と明言しているようだが、渡辺氏の動きを警戒する鈴木氏の後援会関係者からは「鈴木氏にもう1期頑張ってほしい」という声が上がっているようだ。鈴木氏本人も「多選批判」を意識しているだろうが、周囲から立候補を強く要請されれば状況が変わる可能性もある。  市内の選挙通は鈴木氏の立候補について、「市周辺の幹線道路を結ぶ『国道294号白河バイパス』が全線開通間近で、市役所隣接地には複合施設を整備する計画も進んでいる。筋道を立て、その完成を見届けてから引退したい思いが強いのではないか」と見立てを語る。  複合施設は鈴木氏が市長選の公約として掲げていた「旧市民会館跡地の活用」の一環として行われるもので、健康・子育て・防災・生きがいづくり・中央公民館などの機能を備える(本誌2021年6月号参照)。  現在基本設計に着手しているところで、2023年3月に策定し、2026(令和8)年度以降に工事完了予定だ。概算事業費は約35~45億円の見込み。前回市長選の公約に掲げるほど、事業にかける思いは強い。  一方で、同施設に関しては、資材高騰の影響から設計案の見直し(コンパクト化)が進められており、一部で先行きを心配する声も出ている。  そうした問題への対応も含め、鈴木氏の今後の動向が注目される。おそらく年明けに動きが本格化するのではないか。 白河市のホームページ あわせて読みたい 【高額報酬】存在感が希薄な福島県議会

  • 選挙を経て市政監視機能が復活した南相馬市議会

     任期満了に伴う南相馬市議選(定数22)は2022年11月20日に投開票され、現職19人、元職2人、新人1人が当選した(開票結果は別掲の通り)。  注目は本誌2022年11月号で既報の通り、元市長の桜井勝延氏が立候補したことだった。市議を経て2010年から市長を2期務めたが、14、18年の市長選で現市長の門馬和夫氏に敗れた桜井氏。再び市議を目指すことに市民からは「どれくらい得票するのか」と注目が集まったが、結果は6061票と2位に4123票差をつける圧勝を飾った。  もっとも、当の桜井氏が意識したのは投票率だった。桜井氏は立候補の挨拶回りをする中で、市民が市議会に関心がないことを知り「市議会は市政のチェック機関だが、市議会に関心を持たないと市政に無関心な市民が増えてしまう」と危機感を露わにしていた。自分が立候補することで市民の関心を少しでも市議選に向けさせたいと選挙戦に臨んだが、結果は56・37%で前回(2018年)の55・91%から0・46㌽の上昇にとどまった。  これをどう受け止めるかだが、桜井氏は「思ったより伸びなかった」と評している。2014年の市議選の投票率は59・10%なので、低下に歯止めをかけたのは事実だが、桜井氏の立候補が市民の関心を向けさせるきっかけになったかというと、ゼロではないが起爆剤とはならなかったようだ。  とはいえ、有権者の投票行動には明らかな変化が見られた。  一つ目は、現職の当選者(19人)が全員、前回より得票数を減らしたことだ。少ない人で100票前後、多い人で1100票も減らした。  その分の全てが桜井氏に投じられたかというとそうではない。二つ目の変化は、桜井氏以外にもう1人、元職が当選したことだ。郡俊彦氏は旧鹿島町議も長く務めたベテランだが、2010年の市議選で落選し政界引退。ただ引退後も「わだい」という広報紙を発行し、門馬市政を厳しく批判していた。  実は、郡氏は現職時代、共産党議員として活動していたが、今回の市議選では公認申請せず無所属で立候補した。  「同市の共産党議員は今回6選を果たした渡部寛一氏と落選した栗村文夫氏だが、2人は門馬市政を支える与党のため、郡氏は『共産党として市政をチェックする役目を果たしていない』と不満だったのです。そこで、郡氏はあえて無所属で12年ぶりの市議選に挑み、1163票で返り咲いた。一方、渡部氏と栗村氏は前回より揃って600票以上減らした。2人の減らした分がそっくり郡氏に回ったことで、市内の共産党員が与党として活動する2人を評価していないことが明白になった」(選挙通)  そして三つ目の変化が、初当選した表信司氏の存在だ。表氏は市職員を退職して市議選に挑んだが、実際に門馬市長に仕えて「この市政はおかしい」と問題意識を持ったことが立候補の動機になった。  投票率の上昇はわずかだが、現職全員が得票数を減らす中、桜井氏、郡氏、表氏が当選したのは「今の市議会は門馬市政をチェックできていない」と市民が判断した証拠だ。改選後の市議会がどう変わっていくのか注目される。 南相馬市議会ホームページ

  • 郡山の補選で露呈した福島県議への無関心

     郡山市の政界関係者の間で同市選挙区県議補選(欠員1)の投票結果に注目が集まっている。同補選には前市議の新人佐藤徹哉氏(自民党)と会社経営の新人髙橋翔氏(諸派)が立候補し、内堀雅雄知事が3選を果たした知事選と同じ10月30日に投開票された。  当6万5987 佐藤 徹哉54    1万9532 髙橋  翔34                  投票率34・72% 当選した佐藤徹哉氏(上)と髙橋翔氏  表面的な数字だけ見れば、自民党公認で公明党の支援を受けた佐藤氏の大勝は不思議ではない。注目されるのは高橋氏の得票数だ。  「正直、1万9500票も取るとは思わなかった。旧統一教会の問題など岸田内閣に対する反発が自民党公認の佐藤氏には逆風になった」(ある自民党員)  髙橋氏がここまで得票できた要因を、ある保守系の郡山市議は 「髙橋氏はもともと知事選に出ると言っていたのに、告示日(10月13日)になって急きょ県議補選に方針転換した。メディアはその間、知事選の立候補予定者として髙橋氏の顔と名前をずっと報じたからね」  と〝恨み節〟を語っていたが、立候補表明した以上、メディアはその事実を報じざるを得ない。ちなみに本誌も、8月号に「知事選立候補を前提」とした髙橋氏のインタビュー記事を掲載している。  選挙後、髙橋氏に県議補選に変更した理由を尋ねると、次のように説明した。  「知事選は当初、複数の候補者が手を挙げていたが、告示日時点で三つ巴(内堀氏、草野芳明氏、髙橋氏)になった。しかし対現職で考えた時、新人2人が挑むのは現職批判票の分散を招き、私が一つの指針にしている『対立候補の得票率10%』を超えるのは難しい。そこで、私が県議補選に回ることでどちらも一騎打ちの構図とすれば、無投票阻止と得票率10%を同時に目指せると考えた。そもそも市議をそそくさと辞めた人を県議に無投票で当選させることは、一郡山市民として納得できなかった。もちろん、共産党が知事選に候補者を立てていなければ私は確実に出馬しており、県議補選には子育て世代の若手を擁立する予定だった」  そんな県議補選をめぐっては、投票率や無効票にも注目が集まった。  例えば、知事選の郡山市だけの投票率は37・44%、投票総数は9万8614票だったが、県議補選は34・72%、8万5519票で、県議補選の方が投票率は2・72㌽低く、投票総数も1万3095票少なかった。  これは告示日の違いが影響している。すなわち知事選は10月13日、県議補選は同20日だったが、近年は期日前投票が増えているため、先行した知事選は投票したものの県議補選は投票しなかった人が1万3000人超もいたということだ。県議補選への関心の低さがうかがえる。  無効票の数も特筆される。知事選5816票に対し県議補選6910票と、投票総数が知事選より8分の1も少ない県議補選の方が1100票余も多かった。県議補選の投票用紙に「内堀雅雄」と書かかれたケースが散見されたという話もあるが、郡山市選管によると「無効票にそれだけの差がついた理由はよく分からない」という。  地元ジャーナリストはこんな危機感を示す。  「有権者にとって県議はいかに遠い存在であるかが明白になった。当選した佐藤氏は、髙橋氏の急な方針転換で選挙戦となり少しは知名度アップを果たせたかもしれないが、知事選と同日選になったことで、県議への無関心さが露呈した形です」  投票率低下は全国的な傾向だが、2023年秋に控える県議選の本選で有権者の関心をどこまで集められるか。 福島県議会のホームページ あわせて読みたい 【高額報酬】存在感が希薄な福島県議会 渡辺義信県議会議長に「白河市長」待望論!?

  • 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が〝鶴の一声〟で変更された。市幹部などでつくる選定委員会は、公募型プロポーザルに参加した3社の中から鹿島建設を最優秀提案者に選んだが、白石高司市長の指示で次点者の安藤ハザマに覆ったのである。 〝本田派議員〟が疑惑追及の百条委設置 「新病院の施工予定者が白石市長の指示で変更されたらしい」 そんなウワサを田村市内の自民党関係者から聞いたのは、2022年7月に行われた参院選の前だった。  新病院とは、田村地方の医療を支えるたむら市民病院(病床数32)の後継施設を指す。公には6月30日に市のホームページで「新病院の施工予定者選定に係る公募型プロポーザルの最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者は鹿島建設」と発表され、7月4日付の福島建設工業新聞にも「新病院の施工予定者に安藤ハザマ」という記事が掲載された。 造成工事を終えた新病院予定地  ところが実際の審査では、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選ばれていたというのだ。  「2022年6月、市幹部などでつくる選定委員会が白石市長に『審査の結果、鹿島に決まった』と報告した。しかし白石市長が納得せず、次点の安藤ハザマに変更するよう指示したというのです。選定委員会は『何のために審査したか分からない』と不満に思ったが、上から言われれば従うしかない」(市内の自民党関係者)  一度聞いただけではまさかとしか思えない話。だが、それはウワサでもまさかでもなく、事実だった。  市長の指示で施工予定者が突然覆される――そんなかつての〝天の声〟を彷彿とさせる出来事はなぜ起きたのか。  たむら市民病院は、同市船引町の国道288号沿いで診療を行っている。もともとは医療法人社団真仁会が大方病院という名称で運営していたが、院長が急死したため2019年7月に市が事業継承、公的医療機関として生まれ変わった。診療科目は内科、人工透析内科、外科など10科。運営は指定管理者制度で公益財団法人星総合病院(郡山市)に委託している。  市立病院の設置は、2005年に旧5町村が合併した田村市にとって悲願だった。しかし、事業継承した時点で建物の老朽化、必要な病床数の確保、救急受け入れなどの課題を抱えていた。そこで市は2020年3月に新病院建設基本計画を策定、現在地から北東1・3㌔の場所(船引町船引字屋頭清水地内)に新病院を建設する方針を打ち出した。  2020~21年度にかけて予定地の造成を行い、その後は22年度着工、24年度開院というスケジュールが組まれたが、21年4月の市長選で状況が変化した。当時現職の本田仁一氏を破り初当選した白石高司市長が、公約に本田市政のもとで始まった公共工事の見直し(事業検証)を掲げたことから、新病院建設も一時中断を余儀なくされたのである。  その後、関係部局の職員たちが4カ月にわたり事業検証を行い、最終的に「新病院は市民にとって必要」と判断されたため、計画は予定より1年遅れて再始動した。2022年3月には建設基本設計概要書が公表され、新病院の具体像が示された。  問題の公募型プロポーザルはこの後に行われるが、ここからは、本誌が情報開示請求で市から入手した公文書に基づいて書いていく。  新病院の概要は病床50床、鉄筋コンクリート造地上4階建て、建築面積2790平方㍍、延べ面積6420平方㍍。このほか厨房施設と付属棟、250台分の駐車場を整備し、工期は2023年7月から25年1月。想定事業費は36億円程度となっている。  市は建設コスト縮減と工期短縮を図るため、施工者が設計段階から技術協力を行うECI方式の採用を決定。4月19日にプロポーザルの公告を行い、清水建設、鹿島、安藤ハザマから参加申し込みがあった。同28日には一次審査が行われ、3社とも通過した。  続く二次審査は6月25日に行われ、各社のプレゼンテーションと選定委員会によるヒアリング、さらには各委員による採点で最優秀提案者と次点者が選定された。 最高評価を受けていた鹿島  まずは評価が一目で分かる採点から見ていく。別表は選定委員7人による評価シートの合計だ。  選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、そのうちの3人は南相馬市立総合病院の及川友好院長、たむら市民病院の指定管理者である星総合病院の担当者、日大工学部教授だったことが判明している。残り1人は不明。  その7人による採点の合計を見ると(各自の採点結果は開示された公文書が黒塗りで不明)、A社は505点、B社は480点、C社は405点となっている(満点は700点)。アルファベット表記になっているが、公文書を読み進めるとA社は鹿島、B社は安藤ハザマ、C社は清水建設であることが分かり「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」と書かれている。  では、各委員の評価ポイントはどうだったのか。公文書には当時の発言順に次のように記されていた。  「A社は丁寧な技術提案や書類のつくり込みで好感が持てた。ヒアリングでのやり取りからもネガティブな要素は感じられず、安心して任せられると感じた。C社にはA社と全く逆の印象を持った。書類のつくり込みが粗いばかりか、ヒアリングでも発注者・審査員に対し礼を失する発言が多く、誠実さが感じられなかった。B社は様々な提案を盛り込んでいるが、果たしてそれがうまく収まるのか不安を感じた。工期に余裕がない点もネガティブ要素だった」(黒塗りで発言者不明)  「地域貢献に関して、書類上の金額と現実性が乖離している提案が目立った。特にB社の発注予定額は経験的に実現不可能と受け止めている。技術力に関しては提案者ごとにかなり差があると感じた。順位付けをするならA社<B社<C社の順だが、メンテナンス体制も含めるとA社の有意性がより際立つと感じた」(同)  「技術面では3社とも特に問題ないだろうと感じた。その中でも、A社は一番丁寧に提案書がつくられていた。地域貢献に関しては、その是非や実現性を判断するための情報が不足している」(佐藤委員)  「技術的な優劣は判断できない。市の姿勢として地域貢献を前面に出していただく必要がある」(渡辺委員)  「ここまでの委員の発言に同意。地域貢献に関しては、B社提案はリップサービスが過ぎたように感じる」(黒塗りで発言者不明)  「技術的な優劣は判断できないが、A社の提案は書類・説明ともに好印象だった。しっかりとした病院を確実に建てることが第一で、地域貢献はその次に考えること。地域貢献の配点が大きいため、個人的な評価と点数が一致していない。B社が提示した五つの課題は市の感覚とずれているように感じた」(石井委員長)  総体的に、A社(鹿島)の評価が高く、C社(清水建設)は厳しい意見が多く聞かれた。B社(安藤ハザマ)の提案も各委員が半信半疑に捉えている様子がうかがえる。  ただ、採点結果と評価ポイントのすり合わせを行っても順位の一致に至らなかったため、規程に基づき多数決を行った結果、A社4人、B社1人、C社0人となり、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。  この結果を選定委員会事務局が白石市長に報告し、決裁後、速やかに各社に通知、市のホームページでも公表する手筈だったが、公文書(6月30日付の発議書)には次のような驚きの記述があった。  《6月28日及び同30日に実施した市長報告において、市長から本件プロポーザルにおいては地域貢献と見積額が重要な判断基準であるため、当該提案において最も有利な条件を提示している㈱安藤・間東北支店が次点者という審査結果は妥当性を欠くため、該社を最優秀提案者として決定するよう指示がありました》  白石市長から安藤ハザマに変更するよう指示があったと明記されていたのだ。  最終的にこの変更は6月30日に了承され、安藤ハザマには《厳正に審査した結果、御社の提案が最も評価が高く、本事業の最優秀提案者として選定されましたので通知いたします》、鹿島には《御社の提案が2番目に評価が高く、本事業の次点者として選定されました》という通知が白石市長名で送られた。市のホームページでも同日中に公表された。「厳正に審査」が白々しく聞こえるのは本誌だけだろうか。 百条委設置の経緯  前述した建設工業新聞の記事はこの直後に書かれたが、当時は最優秀提案者が覆された事実は公になっていなかった。ただ市議会では、安藤ハザマを最優秀提案者に選定したことに「別の視点」から疑問の声が上がっていた。  「6月に市役所ホールの吹き抜けの窓から雨漏りしている個所が見つかったが、市役所を施工したのが安藤ハザマと地元業者によるJVだったため、議員から『そんな業者に新病院建設を任せて大丈夫か』という懸念が出たのです」(市内の事情通)  市役所は2014年12月に竣工したが、事情通によると落札金額は安く抑えられたものの、その後、追加工事が相次ぎ、結局、事業費が膨らんだ苦い経験があるため、  「議員の間には『今回も安藤ハザマは同様の手口で事業費を増やしていくのではないか』という疑いが根強くある」(同)  これ以外にも、安藤ハザマは「過去に指名停止を受けている」「市に除染費用を水増し請求した」などの不信感が持たれている。ただ同様のトラブルは、鹿島や清水建設など他のゼネコンでも見られるので、安藤ハザマだけを殊更問題視するのはバランスを欠く。  「そうこうしているうちに『最優秀提案者は、本当は鹿島だったらしい』という話が議員にも伝わり、9月定例会で選定経過に関する質問が行われたが、白石市長は『地域貢献度も含め適正に審査した』と曖昧な答弁に終始したため、過半数の議員が反発する事態となった」(同)  ウワサは次第に尾鰭をまとい「〇〇社が白石市長に頼んで安藤ハザマに変わったらしい」「実際の工事は白石市長と同級生の××社が請け負うようだ」「白石市長は安藤ハザマからいくらもらったんだ」等々、真偽不明の話まで囁かれるようになった。白石市長が明確な答弁を避けたことが「何か隠している」という印象を与えたわけ。  9月定例会が終わりに近付くころには、一部議員の間で「真相を究明するには地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置するしかない」という話が持ち上がり、10月27日に開かれた臨時議会で議員発議による設置が正式決定された。  《市は安藤ハザマを最優秀提案者にした理由の説明を避けてきたため、一部議員が反発していた。白石市長は臨時議会開会前の議員全員協議会で鹿島が選定委員会で最も点数が高かったと認め、「積算工事費や地域貢献計画などを比較し、安藤ハザマにした」と説明したが、採決の結果、賛成9、反対8で百条委設置が決まった》(福島民報10月28日付)  田村市議会は定数18。採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛成・反対の内訳は別掲の通りだが、賛成した9人のうち、半谷理孝議員を除く8人は2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を支援していた。  ちなみに百条委の委員も、賛成した9人から大和田議員を除いた8人全員が就き、反対した8人からは誰も就かなかった。そのため「市長選の私怨が絡んだ面々で正しい調査ができるのか」と言われているが、委員に就いた議員からは「反対した議員には『調査の公平・公正を担保するため、そちら(反対)の議員も百条委に加わるべきだ』と申し入れたが断わられた」という不満が漏れている。  反対した8人は白石市長と距離が近いが、話を聞くと「百条委設置に反対したのに委員に就くのは筋が通らないと思った」と言う。しかし筆者は、本気で真相を究明するなら設置の賛否にこだわらず、議会全体で疑惑の有無を探るべきと考える。そうでなければ、せっかくつくった百条委が「反白石派の腹いせに利用されている」とねじ曲がった見方をされかねないからだ。  市保健福祉部の担当者はこう話す。  「百条委が設置されたことは承知しているが、具体的な動きがない限り市側はアクションを起こせないので、今後どうなるかは全く想像がつかない」  最後に、白石市長が安藤ハザマに変更した際に重視したとされる工事費や地域貢献度については市から入手した公文書にこんな記述がある。  例えば安藤ハザマは▽直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注、▽事務用品その他も4000万円以上を市内企業から購入、▽市内における関係者個人消費は3000万円以上。さらに概算工事費は45億8700万円と提示している。  一方、鹿島については市内業者への発注額、市内企業からの建設資機材購入額、概算工事費とも黒塗りされ詳細は不明だが、白石市長に次点者に追いやられたということは、いずれの金額も安藤ハザマより劣っていたことが推察される。 開院遅れで市民に不利益  だが、プロポーザルへの参加者を公募した際の公文書(4月19日付)にはこのように書かれている。  《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》  選定委員会が最も高く評価した提案者を、市長の〝鶴の一声〟で変更していいとは書かれていない。白石市長は「工事費や地元貢献度の観点から安藤ハザマの方が優れており、やましい理由で変更したわけではない」と言いたいのだろうが、ルールに無い変更を独断で行った結果、疑惑を招き、市政を混乱させたことは事実であり、真摯に反省しなければならない。  何より新病院建設は前述した事業見直しで一時中断しており、今回の百条委でさらに遅れる可能性が出ている。高齢者や持病のある人にとって新病院は待望の施設なのに、開院がどんどん後ろ倒しになるのは不利益以外の何ものでもない。白石市長はたとえやましいことが無かったとしても、安藤ハザマに変更した理由を明確に示さない限り、市議会(百条委)は納得しないし、市民からも理解を得られないだろう。  白石市長は百条委設置を受け「プロポーザルに参加した業者の技術に差はなく、市民の利益を十分検討し最終決定した。調査には真摯に対応したい」とコメントしたが、今後の百条委で何を語るのか、それを聞いて百条委がどのように判断するのか注目される。 田村市ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 除染バブルの後遺症に悩む郡山建設業界

    災害時に地域のインフラを支えるのが建設業だ。災害が発生すると、建設関連団体は行政と交わした防災協定に基づき緊急点検や応急復旧などに当たるが、実務を担うのは各団体の会員業者だ。しかし、近年は団体に加入しない業者が増え、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は減り続けている。会員業者が増えないのは「団体加入のメリットがないから」という指摘が一般的だが、意外にも行政の姿勢を問う声も聞かれる。郡山市の建設業界事情を追った。 災害対応に無関心な業者に老舗から恨み節 地域のインフラを支える建設業  「今、郡山の建設業界は真面目にやっている業者ほど損している。正直、私も馬鹿らしくなる時がある」  こう嘆くのは、郡山市内の老舗建設会社の役員だ。  2011年3月に発生した東日本大震災。かつて経験したことのない揺れに見舞われた被災地では道路、トンネル、橋、上下水道などのインフラが損壊し、住民は大きな不便を来した。ただ、不便は想像していたほど長期化しなかった。発災後、各地の建設業者がすぐに被災現場に駆け付け、応急措置を施したからだ。  震災から11年8カ月経ち、復興のスピードが遅いという声もあるが、当時の適切な対応がなかったら復興はさらに遅れていたかもしれない。業者の果たした役割は、それだけ大きかったことになる。  震災後も台風、大雨、大雪などの自然災害が頻発している。その規模は地球温暖化の影響もあって以前より大きくなっており、被害も拡大・複雑化する傾向にある。  必然的に業者の出動頻度も年々高まっている。以前から「地域のインフラを支えるのが建設業の役割」と言われてきたが、大規模災害の増加を受け、その役割はますます重要になっている。  前出・役員も何か起きれば平日休日、昼夜を問わず、すぐに現場に駆け付ける。  「理屈ではなく、もはや習性なんでしょうね」(同)  と笑うが、安心・安全な暮らしが守られている背景にはこうした業者の活躍があることを、私たちはあらためて認識しなければならない。  そんな役員が「真面目にやるのが馬鹿らしくなる」こととは何を指すのか。  「災害対応に当たるのは主に建設関連団体に加入する業者です。各団体は市と防災協定を結び、災害が発生したら会員業者が被災現場に出て緊急点検や応急復旧などを行います。しかし近年は、どの団体も会員数が減っており、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は少なくなっているのです」(同)  2022年9月現在、郡山市は136団体と災害関連の連携協定を交わしているが、「災害時における応援対策業務の支援に関する協定書」を締結しているのはこおりやま建設協会、県建設業協会郡山支部、県造園建設業協会郡山支部、ダンプカー協会、郡山建設業者同友会、市交通安全施設整備協会、郡山電設業者協議会、県中通信情報設備協同組合、市管工事協同組合、郡山鳶土工建設業組合、県南電気工事協同組合など十数団体に上る。  いくつかの団体に昔と今の会員数を問い合わせたが、増えているところはなく、団体によってはピーク時の6割程度にまで減っていた。  「業者の皆さんに広く加入を呼びかけているが、増える気配はないですね」(ある組合の女性事務員)  会費は月額1万円程度なので、負担にはならない。しかし、  「経営者が2代目、3代目に代わるタイミングで会員を辞める会社が結構あります。時代の流れもあるでしょうし、若い経営者の価値観が昔と変わっていることも影響していると思います」(同)  それでも、会員になるメリットがあれば、経営者が代わっても引き続き団体に加入するのだろうが、  「加入を呼びかける立場の私が言うのも何ですが、明確なメリットと聞かれたら答えられない」(同)  昔は今より同業者同士のつながりが大切にされ、先輩―後輩のつながりで業界のしきたりを習ったり、仕事の紹介を受けたり、技術を学び合うなど団体加入には一定のメリットがあった。  今はどうか。別の団体の幹部に加入の具体的なメリットを尋ねると  「対外的な信用が得られます。組合は『社内にこういう技術者がいなければならない』など、入るのに一定の条件が必要。つまり組合に入っていれば、それだけで技術力が伴っている証拠になる」  正直、そこに魅力を感じて団体に加入する業者はいないだろう。  「ウチみたいに昔から入っているところはともかく、新規会員を増やしたいなら加入のメリットがないと厳しいでしょうね」(前出・老舗建設会社の役員)  会員数の減少は、そのまま〝地域の守り手〟の減少に直結する。それはいざ災害が発生した時、緊急点検や応急復旧などに当たってくれる業者が限られることを意味する。  それでなくても郡山は、新規会員が増えにくい状況にある。理由は、震災後に増えた「新参者」の存在だ。別の建設会社の社長が解説してくれた。  「新参者とは震災後、除染を目的に県外からやって来た人たちです。建設業界はそれまで深刻な不況で、公共工事の予算は年々減っていた。そこに原発事故が起こり、除染という新しい仕事が出現。『福島に行けば仕事がある』と、全国から業者が押し寄せたのです」  除染事業に従事するには「土木一式工事」や「とび・土工・コンクリート工事」の建設業許可が必要になる。許可を得て、資機材を揃えて大手ゼネコンの4次、5次下請けに入る小規模の会社はあっと言う間に増えていった。  「新参者が増えるのは行政にとってもありがたかった。住民が『早く除染してほしい』と求める中、業者の数がいないと予定通り除染は進まないわけですからね」(同) 尻拭いを押し付ける郡山市 郡山市役所 しかし、同じ仕事が永遠に存在するはずもなく、市内の除染が一通り終わると新参者の出番も減った。  この社長によると、新参者はその後、①経営に行き詰まって倒産、②浜通りなど除染事業が続いている地域に移動、③一般の土木工事に衣替え――の三つに分かれたという。  「一般の土木工事に衣替えした業者は、正確な数は分からないが結構います。私のように昔から郡山で仕事をやっていれば、社名を聞くだけでそこが新参者かどうか分かる。傾向としては、カタカナやアルファベットなど横文字の社名は該当することが多い」(同)  郡山市の「令和3・4年度指名競争入札参加有資格業者名簿」(2022年4月1日現在)を見ると、土木一式工事の許可業者は103、とび・土工・コンクリート工事の許可業者は225ある(いずれも市内に本社がある業者のみをカウント)。二つを見比べると、土木一式工事の許可業者はとび・土工・コンクリート工事の許可も併せて得ている。そこで後者の業者名を確認していくと、新参者に該当するのではないかと思われる業者は40社前後、全体の2割近くを占めていた。  除染事業がなくなっても、新たな仕事を求め、生き残りを図ろうとする姿はたくましい。建設業許可を得て一般の土木工事に従事するのだから法令違反でもない。社長も「そこを否定するつもりはない」と話す。ただ「新参者は暗黙のルールを守らないため業界全体が歪みつつある」というのだ。  「新参者は地域性を考えない。例えば、A社が本社を置く〇〇地域で道路工事が発注されたら、一帯の道路事情を知るのはA社なので、入札では自然とA社に任せようという雰囲気になる。これは談合で決めているわけではなく、不可侵というか暗黙のルールでそうなるのです。だから、A社は隣の××地域や遠く離れた△△地域の道路工事は取りにいかない。しかし、新参者は『競争入札なんだから地域性は関係ない』と落札してしまうわけです」(同)  新参者から言わせれば「暗黙のルールに基づく調整こそ談合みたいなもの」となるのだろう。ただ、〇〇地域の住民からすれば、見たことも聞いたこともない業者より、馴染みのあるA社に工事をやってもらった方が安心なのは間違いない。  「A社がある道路工事を仕上げ、そこから先の道路工事が新たに発注された時、継続性で言ったらA社が受注した方が工事はスムーズに進む可能性が高い。しかし、新参者はそういう配慮もなく、お構いなしに落札してしまう」(同)  しかしこれも、新参者から言わせると「落札して何が悪い」となるのだろうが、社長が解せないのは、その後の尻拭いを市から依頼されることにある。  「もともと除染からスタートした業者なので、土木工事の許可を持っていると言っても技術力が備わっていない。そのせいで、工事終了後に施工不良個所が見つかるケースが少なくないのです。解せないのは、市がその修繕を当該業者にやらせるのではなく、再発注も面倒なので、現場に近い地元業者にこっそり頼むことです。市には世話になっているので頼まれれば手伝うが、地域性や継続性を無視して落札した新参者の尻拭いを、私たちに押し付けるのは納得がいかない」  実は、そんな新参者の多くは建設関連団体に加入していないのだ。再び前出・老舗建設会社の役員の話。  「新参者は建設関連団体に入っていないから、災害が起きても被災現場に駆け付けない。でも、入札では災害対応に当たる私たちと同列で競争し、仕事を取っている。不正をしているわけでなく、正当な競争の結果と言われればそれまでだが、地域に貢献している自負がある私たちからすると釈然としない」 「災害対応に正当な評価を」  会員業者は日曜夜に被災現場に出動しても、防災協定に基づくボランティアのため、月曜朝からは通常業務を行わなければならない。一方、建設関連団体に加入していない業者は被災現場に出動することなく休日を過ごし、月曜から淡々と通常業務に当たる。だからと言って、未加入の業者にペナルティーが科されることはなく、被災現場に出動した業者に特別なインセンティブがあるわけでもない。  これでは、会員業者が「真面目にやるのが馬鹿らしい」と愚痴を漏らすのは当然で、わざわざ建設関連団体に加入する新規業者も現れない。  「市がズルいのは、入札は公平・公正を理由にどの業者も分け隔てなく競争させ、災害や施工不良など困ったことが起きた時は建設関連団体を頼ることだ。真面目にやっている私たちからすると、市に都合よく使われている感は否めない」(同)  これでは、新規会員はますます増えない。そこでこの役員が提案するのが、市が建設関連団体加入のメリットを創出することだ。  「会員業者は指名競争入札で指名されやすいといったインセンティブがあれば、災害対応に当たる私たちも少しはやりがいが出るし、今まで災害対応に無関心だった新参者も建設関連団体に入ろうという気持ちになるのではないか」(同)  郡山市では1000万円以上の工事は制限付一般競争入札、1000万円未満の工事は指名競争入札を導入しているが、2021年度の入札結果を見ると、落札額の合計は制限付一般競争入札が約99億8000万円、指名競争入札が約25億7200万円に対し、発注件数は前者が約150件、後者が約640件と指名競争入札の方が4倍以上多い。役員によると、会社の規模が小さい新参者は指名競争入札に参加する割合が高いという。  同市の指名競争入札に参加するには2年ごとに市の審査を受け、入札参加有資格業者になる必要がある。その手引きを見ると、市内に本社を置く業者が提出する書類に「災害協定の締結」「除雪委託契約の締結」の有無に関する記載欄があるが、市がそれをどれくらい重視しているかは分からない。  前述した建設関連団体のいくつかに問い合わせた際、  「災害協定を結んでいるかどうかは、市が審査をする上で少しは加点要素になっていると思う」(前出・女性事務員)  「実際に被災現場に駆け付けている点は(指名の際に)加味してほしいと市に申し入れている。そこを市がもっと評価してくれれば新規会員も増えると思うんですが」(前出・別の組合幹部)  と語っていたが、市が日頃の災害対応を正当に評価しているかというと、建設関連団体にはそう感じられないのだろう。  「会員業者が増えないと災害対応が機能しない。それによって困るのは市民です。そこで、安心・安全な暮らしを維持するため、災害協定と除雪委託契約の締結を指名競争入札に参加するための重要要件にしてはどうか。そうすれば、建設関連団体に無関心の新参者も加入を検討するし、新規会員が増えれば災害が起きた時、市民も助かります」(同) 指名競争を増やす福島県の狙い 福島県庁  県では佐藤栄佐久元知事時代に起きた談合事件を受け、2006年12月に入札等制度改革に係る基本方針を決定。指名競争入札を廃止し、予定価格250万円を超える工事は条件付一般競争入札に切り替えた。しかし、過度な競争や少子高齢化で経営が悪化し、災害対応や除雪に携わる業者がいなくなれば地域の安心・安全確保に支障を来すとして〝地域の守り手〟である中小・零細業者を育成する観点から「地域の守り手育成型方式」という指名競争入札を2020年度から試行している。  農林水産部と土木部が発注する3000万円未満の工事を指名競争入札にしているが、入札参加資格の要件には「災害時の出動実績又は災害応援協定締結」と「除雪業務実績又は維持補修業務実績」が挙げられている。指名競争入札を増やすことで〝地域の守り手〟を支えていこうという県の狙いがうかがえる。  会津地方は郡山と比べて仕事量が少ないため、新しい会社が次々と誕生することもなく、昔から営業している会社が建設関連団体を形成し、地域のインフラを支える構図が成立している。業者数は少ないが、地域を守るという意識が業界全体で統一されている。  これに対し郡山は、業者数は多いが建設関連団体の会員業者は少ないため、業界全体で地域を守るという意識が希薄だ。もし入札制度を変えることで会員業者が増え、市民の安心・安全を確保できるなら、市は真剣に検討すべきではないか。  「入札の大前提にあるのは公平・公正だが、時代の変化と共に変えるべきものは変えなければならないことも承知しています。災害が年々増えている中、業者の協力がなければ市民の生命と財産は守れません。その災害対応については、市でも審査時に評価してきましたが、出動頻度が増えている今、それをどのように評価すべきかは今後の検討課題になると思います。県が試行している指名競争入札なども参考にしながら考えたい」(市契約検査課)  官が民に、建設関連団体への加入を〝強要〟するのは筋違いかもしれない。しかし現実に、災害の増加に反比例して〝地域の守り手〟は減少している。だったら、普段から災害対応に当たっている業者には、その労に報いるためインセンティブを与えるべきだし、それが魅力になって団体に加入する業者が増えれば、建設業界全体で地域を守るという意識が醸成され、災害に強いまちづくりが実現できるのではないか。 郡山市ホームページ あわせて読みたい 建設業者「越県・広域合併」の狙い【小野中村】【南会西部建設】 「地域の守り手」企業を衰退させる県の入札制度 福島市「デコボコ除雪」今シーズンは大丈夫?

  • 【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま

     人口減少・少子高齢化など、社会・経済情勢が大きく変化する中、国は1999年から「地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立」を目的に、全国的に市町村合併を推進してきた。いわゆる「平成の大合併」である。県内では90市町村から59市町村に再編された。本誌では2021年12月号から5回に分けて、合併自治体の検証を行った。一方で、県内では「平成の大合併」に参加しなかった自治体もある。それら自治体のいまに迫る。今回は桑折町・国見町編。 財政指標は良化、独自の「創造性」はイマイチ  2006年1月1日、伊達郡の伊達、梁川、保原、霊山、月舘の5町が合併して伊達市が誕生した。当初、この合併議論には、桑折町と国見町も参加しており、「伊達7町合併協議会」として議論を進めていた。  ただ、2004年8月に桑折町の林王喜久男町長(当時)が合併協議会からの離脱を表明した。その背景にあったのは、合併後の事務所(市役所本庁舎)の位置。伊達7町合併協議会は事務所の位置に関する検討小委員会で、「新市の事務所は保原町とする」と決定した。それが同年8月11日のことで、それから約2週間後に開かれた桑折町議会合併対策特別委員会で、林王町長は合併協議会からの離脱を表明したのだ。  離脱の理由について、林王町長は①合併に対する基本的な考え方が満たされない、②行政圏域と生活圏域が一致しない、③町民への説明責任が果たせない――等々を明かしていた。とはいえ、当時、同合併協議会の関係者の間ではこんな見方がもっぱらだった。  「伊達地方は(阿武隈川を境に)川東地区と川西地区に分かれ、前者の中心が保原町、後者の中心が桑折町。合併協議が進められる過程で、両町による合併後の主導権争いがあった中、新市の事務所の位置が保原町に決まった。それに納得できない桑折町は『だったら、参加しない』ということになった」  桑折町は旧伊達郡役所が置かれ、「伊達郡の中心は桑折町」といった矜持があった。にもかかわらず、合併後の事務所は保原町に置かれることになったため、離脱を決めたというのだ。  同年9月に正式に離脱が決まり、以降は「伊達6町合併協議会」と名称を変更して、議論を進めることになった。  ところがその後、同年11月に行われた国見町長選で、「合併を白紙に戻す」と訴えた佐藤力氏が当選した。当時、現職だった冨永武夫氏は、県町村会長を歴任するなどの〝大物〟で、「合併を成し遂げることが町長としての最後の仕事」と捉えていた様子だった。一方の佐藤氏は共産党(町長選では共産党推薦の無所属)で、急遽の立候補だったため、準備や選挙期間中の運動も決して十分ではなかった。それでも、結果は佐藤氏3514票、冨永氏3136票で、約380票差で佐藤氏が当選を果たした。投票率は74・81%で、「合併白紙」が民意だったと言える。  当選直後の同年12月議会で、佐藤町長は合併協議会からの離脱に関する議案を提出した。採決結果は賛成8、反対9で離脱案は否決された。それでも、佐藤町長は「合併白紙を訴えた自分が町長選で当選し、町民意向調査でも同様の結果が出ている以上、合併協議会からの離脱は避けられない」との主張を曲げなかった。  このため、2005年1月、伊達6町合併協議会はこのままでは協議が進まないとして、同協議会を解散ではなく、「休止」という措置を取った。それと並行する形で国見町を除く「伊達5町合併協議会」を立ち上げ、協議を進めた。その後、同年3月に合併協定に調印、2006年に伊達市誕生という運びとなった。  こうして桑折町、国見町は合併せず、単独の道を選んだわけ。ちなみに、桑折町で合併協議時に町長を務めていた林王氏は2010年の町長選で高橋宣博氏に敗れ落選。その後は2014年、2018年、2022年と、いずれも高橋氏が当選している。国見町は佐藤氏が2012年11月まで(2期8年)務めた後、太田久雄氏が2012年から2020年まで(2期8年)、2020年からは引地真氏が町長に就いている。  合併議論の最盛期に、県内で首長を務めていた人物はこう話す。  「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」  そうした国の方針は、この首長経験者にとっては、脅しのような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、合併についての勉強会(任意協議会)、法定協議会、正式な合併へと舵を切っていった、というのだ。  では、「平成の大合併」から十数年経ち、合併しなかった市町村が、この首長経験者が危惧した状況になったかというと、そうとは言えない。そのため、「合併しなくても、普通にやっていけているではないか。だとしたら、合併推奨は何だったのか」といった思いもあるようだ。 桑折・国見の財政指標  もっとも、合併しなかった市町村にはそれなりの「努力の形跡」も見て取れる。  ちょうど、「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。  別表は桑折町と国見町の各指標の推移をまとめたもの。数字だけを見れば「努力の形跡」が見て取れる。もっとも、投資的事業をしなければ財政指標は良化するから、一概には言えないが。 桑折町の財政指標と職員数の推移 実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度5・9116・1713・1150・40・512008年度9・4119・0413・8167・20・512009年度8・7218・5914・0141・10・502010年度――――13・8120・60・472011年度――――13・768・60・452012年度――――11・941・30・432013年度――――11・819・40・432014年度――――10・311・80・442015年度――――10・415・70・452016年度――――11・010・10・452017年度――――11・67・40・452018年度――――11・43・60・452019年度――――10・414・40・452020年度――――9・636・60・46※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 国見町の財政指標の推移 実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度5・2721・0217・5149・10・362008年度5・7422・4318・7126・60・362009年度5・4719・6317・4103・90・352010年度――――15・585・00・342011年度――――12・985・20・322012年度――――11・178・30・302013年度――――10・077・40・292014年度――――8・175・10・292015年度――――7・062・30・292016年度――――6・670・70・292017年度――――6・867・80・302018年度――――6・760・60・322019年度――――5・741・60・332020年度――――4・323・00・33※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成  用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  この指標を示して、元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏(地方自治論)に見解を求めたところ、こう回答した。  「財務指標からだけでは財政運営の良否は判断できません。そこで、桑折町と国見町の場合は、地域環境の似通っている隣接の伊達市と比較して、相対的な評価をするのがよいと思われます」  別表に伊達市の実質公債費比率の推移を示した。2021年度は速報値。今井氏はそれと桑折町、国見町の数字と比較し、次のように明かした。なお、桑折町の2021年度速報値は9・2、国見町は3・2。 伊達市の実質公債費比率の推移 2008年度15・52009年度14・62010年度13・42011年度11・62012年度9・82013年度8・32014年度7・42015年度6・82016年度6・52017年度7・42018年度6・62019年度6・92020年度7・22021年度7・8  「実質公債費比率の推移を見ると、まず伊達市と国見町との差は歴然としています。2008年度時点では、伊達市15・5、国見町18・7と、むしろ国見町のほうが悪い数字だったものが、2021年段階では伊達市7・8、国見町3・2と、国見町の方が大きく改善しています。次に伊達市と桑折町とを比較すると、桑折町の方の改善度が低いように見えますが、最近5年間の推移を見ると、2017年段階で伊達市7・4、桑折町11・6だったところが、2021年段階では伊達市7・8、桑折町9・2となっていて、桑折町は改善しているのに、伊達市は改善していません」  こうして聞くと、相応の努力は見られると言っていいのではないか。もっとも、今井氏によると、ここ数年は制度的な事情で、全国自治体の財政事情が改善しているという。  「2020年度以降、国では法人税収が増加していて、それを反映して地方交付税の原資も改善され、新たな借金(臨時財政対策債)の発行をほとんどしなくて済むばかりか、これまでの借金(臨時財政対策債)を償還する原資も国から交付されています。つまり全国の自治体財政の財政指標はこの3年間で大きく改善されているのです」(今井氏) 桑折・国見町長に聞く  両町長は現状をどう捉えているのか。町総務課を通して、以下の4点についてコメントを求めた。  ①当時の町長をはじめ、関係者の「合併しない」という決断について、いまあらためてどう感じているか。  ②当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められる。別紙(前段で紹介した財政指標)は県市町村財政課が公表している「財政状況資料」から抜粋したものですが、それら数字についてはどう捉えているか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」の取り組み、今後の対応についてはどう考えるか。  ③当時、本誌取材の中では「多少の我慢を強いられても、単独の道を模索してほしい」といった意見もあったが、実際に住民に対して「我慢」を求めるような部分はあったか。  ④「合併しないでよかった」と感じているか。  回答は次の通り。 桑折町 高橋桑折町長  ①、④合わせての回答  国は、人口減少・少子高齢化等の社会情勢の変化や地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立を目的に、全国的に市町村合併を推進したところです。本町においても近隣自治体との合併について検討したものの、分権社会に対応できる基礎自治体構築・将来に希望の持てる合併が実現できるとは言い難いことや、行政圏域と生活圏の一体性の醸成が困難であることなどから、合併しない決断を選択しました。  その後、地方行政を取り巻く環境が厳しさを増す中にあって、行財政改革に努め、健全財政の維持を図りながら町独自の施策展開により、2021年においては人口が社会増に転ずるなど、単独立町だからこそ得られた結果と捉えており、合併しないでよかったと感じております。  引き続き、子どもたちに夢を、若者に元気を、高齢者に安心を届け、「住み続けたいまち 住みたいまち 桑折」の実現に邁進してまいります。  ②の回答  当町は、平成16(2004)年9月に伊達7町による合併協議を離脱し、自立(自律)の道を選択して以降、東日本大震災をはじめとする度重なる災害や社会経済状況の変化、人口減少・高齢化などにより、多様化・複雑化・高度化する行政需要を的確に捉え、住民ニーズに応える各種施策を展開するとともに、事業実施にあたっては、財源確保を図り、「選択と集中」「最小の経費で最大の効果を上げる」ことを常に念頭に置きながら、財政の健全性維持に努めてまいりました。その結果、別紙の「健全化判断比率(4つの各比率)」の推移にありますとおり、平成19(2007)年度以降、各指標とも低下傾向にあり、合併せずとも着々と財政の健全化に向け改善が図られてきたものと捉えております。  とりわけ、企業誘致の促進や移住・定住人口の増加に資する施策に取り組みながら、税収の確保や収納事務の効率化を図るとともに、国・県などの補助制度の積極的な活用に努めてきました。また、シティプロモーションなどPR事業の展開や魅力的な返礼品の充実を図り、ふるさと納税は大幅に伸びております。  今後についても、2022年度策定した「中期財政計画」に基づき、更なる財源の確保、歳出抑制・適正化等、健全で持続可能な財政運営に向けた取り組みを継続し、「住み続けたいまち」であり続けるための各種施策を展開していく考えであります。  ③の回答  合併協議からの離脱後、これまでの間、行財政改革や自主財源の確保を図り、行政需要を的確に捉え、各種住民サービスに努めることにより、町民の理解を得ているところであります。 国見町 引地国見町長  ①の回答  当時の町長選挙の争点が「合併」。合併しないことを公約にした候補が当選したことは、民意が明確に示されたものと考えている。  ②の回答  合併する、しないに関わらず、地方自治体の財政基盤強化、行財政運営の効率化は緊張感を持って取り組むべきことと考える。当町においても自主財源が乏しい中、サービスの質を維持・向上させるため、あらゆる財源の確保に奔走している。同時に、常にコスト意識を持ち、予算編成及び執行に努めながら、将来負担を軽減すべく、起債に係る繰上償還を積極的に行っている。  ③の回答  「合併をしなかった」ことを要因とし、我慢を求めることはなかったと考えている。  ④の回答  当時の決断に対し、その善し悪しを意見する考えはない。唯一申し上げるとすれば、当時の決断を大切に、国見町に住む方々が「国見っていいな」と思ってもらえるよう町政運営に努めたい。 人口減少幅は類似 桑折町役場(左)と国見町役場(右)  桑折町の高橋町長は合併議論時、議員(議長)を務めており、その後は2010年に町長就任して現在に至る。つまりはこの間の「単独の歩み」の大部分で町政を担ってきたことになる。その中で、「単独だからこそ得られたものもあり、合併しないでよかった」と述べている。一方、引地町長は2020年に就任し、まだ2年ほどということもあってか、踏み込んだ回答ではなかった。  両町の職員数(臨時を含む)を見ると、この間大きな変化はなく、国見町はむしろ増えている。もっとも、福島県の場合は、震災・原発事故に加え、ほかにも大規模災害が相次いだこともあり、その辺の効率化を図りにくかった事情もあり、評価が難しいところ。 桑折町の職員数とラスパイレス指数の推移 年度職員数(臨時含む)ラスパイレス指数2010年111人103・12011年115人112・82012年115人109・92013年112人101・42014年113人99・52015年115人100・12016年112人100・12017年112人100・12018年112人99・02019年115人99・02020年117人94・2※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 国見町の職員数とラスパイレス指数の推移 年度職員数(臨時含む)ラスパイレス指数2010年89人100・72011年86人109・12012年90人108・92013年97人99・52014年105人100・82015年106人99・52016年103人99・62017年103人99・62018年106人99・72019年108人99・72020年107人100・3※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成  人口の推移は、伊達市が合併時から約1万2000人減、桑折町と国見町は「単独」を決断したころから、ともに約2000人減。数だけを見ると、伊達市の減少が目立つが、減少率で見ると、伊達市が約17%、桑折町が約16%、国見町が約21%となっている。国見町は2022年度から、国から「過疎地域指定」を受けている。 伊達市、桑折町、国見町の人口の推移 伊達市桑折町国見町2006年6万9122人1万3423人1万0646人2011年6万5898人1万2823人1万0059人2016年6万2218人1万2247人9455人2021年5万8015人1万1431人8612人2022年5万7104人1万1285人8398人各年とも1月1日時点。 思い切った「仕掛け」を  町民の声はどうか。  「この間、大きな災害が相次ぎ、そうした際に、枠組みが小さい方が行政の目が行き届く、といった意味で、良かった面はある。ただ、合併していたら、それはそれで良かったこともあったと思う。だから、どっちが良かったかと聞かれても、正直難しい」(桑折町民)  「純粋に、愛着のある町(町名)が残って良かった」(桑折町民)  「数年前に、天候による果樹の被害があり、保険(共済)に入っていなかったが、町から保険(共済)に入るための補助が出た。そういった事業は単独町だったからできたことかもしれないね」(国見町民)  「合併していたら、『吸収』される格好だったと思う。そうならなかったということに尽きる」(国見町民)  一方で、両町内で事業をしている人や団体役員などからは、ある共通の意見が聞かれた。それは「せっかく、単独の道を選んだのだから、もっと思い切った〝仕掛け〟をしてもいいのではないか」ということ。  「例えば、会津若松市は『歴史のあるまち』で、歴史的な観光資源では太刀打ちできない。一方で、同市では、ソースカツ丼を売り出しているが、そのための振興組織をつくって、本格的に売り出したのは、せいぜいここ十数年の話。あれだけ、歴史的な観光資源があるところでも、それにとどまらず、何かを『生み出す』『売り込む』ということをやっている。そういった姿勢は見習わないといけない。例えば、e―スポーツを学校の授業に取り入れ、先進地を目指すとか。そういったことは小回りが利く『町』だからこそできると思うんだけど」(桑折町内の会社役員)  「国見町で、ここ数年の大きな事業と言えば、道の駅整備が挙げられる。周辺の交通量が多いことから立ち寄る人で賑わっているが、業績はあまり良くない。そもそも、道の駅自体、全国どこにでもあるもので、最初(オープン時)はともかく、慣れてしまえば目新しいものではない。一方で、夜間になると(道の駅に)キャンピングカーなどで車中泊をしている人が目に付く。例えば、キャンピングカーの簡易キッチンに対応した商品を売り出すとか、『車中泊の聖地』になるような仕掛けをしてはどうか。ともかく、道の駅に限らず、何かほかにない目玉になるようなものを作り出していく必要があると思う」(国見町内の団体関係者)  これは県内すべての市町村に言えることだが、どこかの二番煎じ、三番煎じのような事業、取り組みばかりが目立ち、何かの先進地になった事例はほとんどない。  桑折町、国見町は交通の便がよく、働き口、高等教育、医療、日用品の調達先などで、近隣に依存できる環境にあったからこそ、合併しないという選択ができた面もある。財政指標の良化も見られる。ただ、単独町だからこそ可能な「創造性」という点では乏しかったと言えよう。 桑折町ホームページ 国見町ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する