【伊達市長選】菅野議長「出馬取りやめ」の舞台裏

【伊達市長選】菅野議長「出馬取りやめ」の舞台裏

 来年2月11日の任期満了に伴う伊達市長選は、8月中旬、市長と市議会議長が激突する構図が急浮上したが、その後、議長が立候補取りやめを発表。3選を目指す現職に対抗馬が現れる気配は今のところない。一度は立候補を決意した議長が、結局、手を下ろした背景には何があったのか。

根回し不足で支持者の反感買う

◎前回市長選の結果
 (2022年1月30日投開票)

当 16,743 須田 博行 63 無現
9,737 小林  香 62 無新

投票率53.1%

 それは、お盆の最中に突然起きた出来事だった。通常、この時期は政治的にも経済的にも〝休みモード〟に入り、地元紙の記者も順番に休暇を取るため、紙面はあらかじめ用意しておいた記事や通信社の配信記事で埋められることが多い。

 しかし、8月16日付の紙面は違った。来年2月11日の任期満了に伴う伊達市長選に、市議会議長の菅野喜明氏(49)が立候補する意向を示したと報じられたのである。

《(菅野氏は)「市民と話す中で、もっと大好きな伊達市がこうなったらという思いが高まった。学校給食費の無償化や財政など先送りされている問題に政策的な論点を示したい」と述べた。今後、後援会の役員会を開き、9月以降に正式表明する方針》
(福島民友8月16日付)

 ある地元紙記者によると、菅野議長は「現職の中山間地域をめぐる対策が不十分に感じられる」とも語っていたという。菅野議長は伊達市中心部の旧保原町(現在の伊達市保原町)と相馬市に挟まれた山間部に位置する旧霊山町(現在の伊達市霊山町)の出身・在住なので、寂れていく地元を何とかしたいという思いもあったのかもしれない。

 この頃、現職の須田博行氏(67)は市長選に向けた態度を明らかにしていなかったが、3選を目指すのは確実視されていた。〝休みモード〟だった市内は一転、「市長と議長が直接対決するかもしれない」という話題で沸き返った。

 ところが、それから約2週間後、事態はあっけなく幕引きされる。

《立候補に意欲を示していた新人で市議会議長の菅野喜明氏(49)は27日、出馬を取りやめると表明した。菅野氏は福島民友新聞社の取材に「伊達市を思う熱い気持ちは今もあるが、諸事情で(出馬を)見合わせることにした」と述べた》
(福島民友8月28日付)


 諸事情とは何だったのか。

 「そもそも出馬表明があまりに唐突だった」

 と語るのはある議員だ。この議員によると、新聞報道2日前の8月14日、菅野議長から大篠一郎副議長を通じて突然、「会派ごとに市役所に集まってほしい」と全議員に呼び出しが掛かったという。

 「理由も告げられずにお盆休み中に呼び出されたので何事かと会派ごとに待機していると、菅野議長が大篠副議長を伴って現れた。すると、大篠副議長が『菅野議長が市長選に出ることになった。議会としても応援したい』と言い、その横で菅野議長が頭を下げたのです。菅野議長が市長選に出るなんて想像もしていなかったのでビックリしました」(ある議員)

 菅野議長は他の会派にも同様に、大篠副議長を伴って立候補する意向を伝えた。

 「ただ、こういう意思表示は本人が議員一人ひとりを個別に回り、話をするのが普通。全員を市役所に呼び出し、会派ごとに説明するお手軽なやり方は今まで聞いたことがありません」(同)

 菅野議長は、翌15日には議員OBにも立候補する意向を伝えた。これを受け、地元紙は16日付で「菅野議長出馬へ」と報じたのである。

 「ところが、この記事を見た菅野議長の支持者たちは一斉に驚いていた」と話すのは市内の事情通だ。一体どういうことか。

 「支持者は『市長選に出るなんて話は一切聞いていない』と、新聞を見て初めて知る人がほとんどだったのです」(事情通)

 菅野議長は支持者にきちんと相談せずに出馬表明したというのだ。

 「地元・旧霊山町の有力支持者でさえ『聞いていない』と言うし、旧保原町の支持者も同じような反応だった。菅野議長は普段から付き合いのある一部の若手経済人には自身の気持ちを伝えていたが、ほとんどの支持者からすると今回の出馬表明は寝耳に水の話だった」(同)

 議員への根回しも上手なやり方ではなかったが、支持者への相談も不十分だった菅野議長は、新聞報道後は事情説明に追われた。その結果、今の状況では立候補は難しいと判断のだろう。新聞報道から11日後、菅野議長は立候補を取りやめると発表した。

 「市長選の3カ月後には市議選が控えているが、菅野議長は親しい議員から『もし市長選に落ちても再び市議選に出ればいいという甘い考えなら市長選に出るべきではない』と釘を刺されたらしい」(同)

 議員以外に仕事を持たない菅野氏には「収入の術」がなくなる不安もつきまとったはずだ。もっとも、支持者にきちんと筋を通していれば市長選に立候補できたかというと、必ずしもそうではないようだ。

 「菅野議長は須田市政を批判することもなく、むしろ須田市長と良い関係を築きながら議会運営をしてきたので、何を争点にして須田市長と対峙するのか大義名分が見いだせなかった」(同)

 須田市長も、選挙になるかもしれないという心の準備はしていただろうが、「まさか相手が菅野議長になるとは想像していなかったはず」(同)。新聞を見て一番驚いたのは須田市長かもしれない。

 ともかく、突然選挙になる可能性が浮上したことで「須田市長は新聞報道の直後から挨拶回りを始めた」(同)。

議員以外の仕事経験無し

 結局、菅野議長は立候補を取りやめたが、須田市長は9月11日に行われた市議会9月定例会の一般質問で3選を目指して立候補する意向を正式に表明した。

《須田氏は「人口減少や若者の流出など課題は多い。全身全霊を傾け、にぎわいあふれる伊達市を目指したい」と述べた。

 須田氏は伊達市梁川町出身。福島高、宇都宮大農学部卒。1981(昭和56)年に県職員となり、農林水産部次長などを歴任。2017(平成29)年11月に県北農林事務所長で退職し、2018年1月の市長選で初当選した。

 市長選を巡っては、市議会の菅野喜明議長(49)が立候補に意欲を示していたが、出馬を見送った。現時点で他に立候補に向けた表立った動きはない》

(福島民報9月12日付)


 須田氏をめぐっては、地元・旧梁川町の有力者が「7年前の須田氏の初当選を支えたのに、その後、須田氏から距離を置かれたのは納得がいかない」として、須田氏の支援をやめるようだという話が漏れ伝わっている。ただ、かつては選挙で影響力を誇っていた有力者も、年月とともにその力は薄れている。「単なる対抗馬」ではなく「有力な対抗馬」が現れなければ、現職の3選を阻むのは難しいというのが大方の見方だ。

 前出・地元紙記者によると、菅野議長は「ゆくゆくは市長になるであろう人物」として、選挙の度にその動向を追っていたという。

 「福島高、早稲田大卒、早稲田大大学院修了の菅野氏は現在議員4期目で、議長ということもあり『今後の政治家としての身の振り方』に注目が集まっていた」(地元紙記者)

 とはいえ「身の振り方」の選択肢は限られている。

 まず浮かぶのは県議だが、定数3の伊達市・伊達郡選挙区から選出されているのは佐々木彰氏(自民、3期)、大橋沙織氏(共産、2期)、亀岡義尚氏(立民、6期)。ただ、佐々木県議は菅野議長と同じ旧霊山町出身で、菅野議長も自民党であることを踏まえると、佐々木県議が現職でいるうちは菅野議長が県議選に立候補する可能性は低い。

 次に浮かぶのは国会議員だが、福島県の参議院議員の定数が4だった時代は、県議会議長を退いた人が参院選に立候補する流れがあったが、市議会議長が国政に挑む流れは福島県では見られない。衆院選も、立憲民主党の金子恵美衆院議員は元伊達市議だが、父親が元衆院議員、元旧保原町長だったので、菅野議長とは置かれている環境が異なる。

 ということで残るは市長になるわけだが、次の次(2030年)の市長選に立候補できるかどうかは、現状では微妙と言わざるを得ない。その理由を前出・事情通が説明する。

 「議会を混乱させた責任をとって議長を辞めれば一定の区切りもついただろうが、今も議長にとどまっているのがよくない。今回の問題を受けて、議会内には『辞めろ』『辞める必要はない』と賛否両論あるが、ケジメをつける意味では(議長を辞めて)心機一転出直しを図った方が分かり易かったと思う」

 菅野議長は早稲田大大学院修了後も勉強を続け、伊達市議になった後も各地の研修会に出掛けるなど勉強熱心で知られる。「条例や法令も事細かに知っている」(事情通)が、いかんせん議員以外の仕事に就いた経験がないため、世間一般のことをどれくらい理解しているかは不透明な部分がある。

 菅野議長に、一連の出来事をどう考えているのか聞いた。

「諸事情で取りやめた」

菅野喜明議長
菅野喜明議長

 ――出馬表明から約2週間で取りやめに至った理由は?

 「まずは議会に説明し、各界各層の方ともお話しして出馬表明したわけですが、最終的には後援会と相談して立候補取りやめという結論に至りました。自分が当初思い描いていた通りにいかなかった部分があったのは事実です」

 ――市内では「市長選に出るなんて聞いていない」という声を多く耳にしました。

 「私としては手順を踏んだつもりだったんですが、新聞報道が先行した面は確かにありました。ただ、それだけではなくて、最終的には諸事情が絡んで取りやめた、と」

 ――とはいえ、出馬表明したということは、後援会とは事前に相談済みだったんですよね?

 「一部の方には話しましたが、最終的には皆さんの意見を聞いて今回の結論に至りました」

 ――菅野議長と須田市長の関係は良好と聞いていますが、そうした中で出馬を決断したのはなぜ?

 「須田市政がどうこうではなく、このままいくと無投票という話だったので、それはよくないという思いが強かっただけです」

 ――問題の責任をとって議長を辞めろという話もあったようですが。

 「9月定例会前に議員の皆さんには謝罪しました。議長の続投は、来年4月に議員の改選を控えており、残りの任期を考えると引き続き議長を務めながら信頼回復に努めた方がいいと言っていただいたので、そうすることにしました」

 ――将来的には市長を目指す?

 「先のことは分かりませんが、市民の皆さんからそういう声をいただけるかどうか、まずはそこが重要だと思います」

 4カ月後の市長選の行方もさることながら、思わぬ形で「次の市長候補」になった菅野議長のこれからの動向が注目される。

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