民間企業への村施設貸与で紛糾した北塩原村議会

民間企業への村施設貸与で紛糾した北塩原村議会

 北塩原村3月議会で村が上程した議案を取り下げる一幕があった。村施設の貸与をめぐり、議員から異論が噴出したのが原因だが、その背景には、議会が執行部に対して不信感を抱いている、ということも関係している。

ラビスパ裏磐梯問題から続く軋轢

 取り下げられたのは「公の施設の長期かつ独占的な利用について」という議案。この問題の発端は数年前に遡る。村は農業従事者の減少、高齢化などから村内に耕作放棄地が増え、農業が衰退していることから、農業公社を立ち上げて、その対策を担ってもらうことを検討していた。2020年に「農業会社設立協議会」を立ち上げ、公社設立に向けた検討を進めてきた。

 ただ、公社にしたら、村の財源からどんどんつぎ込むことになるのではないか、といった懸念から議会の理解が得られず「公社」は断念。2022年4月に村内の農家が出資して農業生産株式会社「あいばせ」を設立し、前述の課題に取り組むことになった。同社には村の資本は入っていない。ちなみに、「あいばせ」は会津弁で「さあ、行こう」という意味。

 同社のホームページでは「『農業の多面的機能を活用して持続的な豊かな社会を構築し、村に住む人々が幸せを感じ定着できる村づくり』を目指します」、「現在、農業の抱える『担い手農家の高齢化・後継者不足による耕作困難な農地拡大』や『遊休農地化の進行』など課題を計画的に防止します」、「既存の担い手農家を農地保全の面から支援するとともに、自身が地域の新たな担い手として、農地の流動化を担い手農家と連携して、適正に管理・運営します」といった事業目的が記されている。

 同社設立に当たり、村は集会施設である活性化センターを拠点(事務所)として貸与した。ある議員によると、「その時も喧々諤々の議論があった」という。村が公社設立を目指して議論がスタートした経緯はあるものの、最終的に株式会社設立に落ち着いたのだから、いち民間企業に村の施設を貸し出すことは、公平性の観点からどうなのかといった議論になったのだ。そうして議論された中で、条例を定めて3年を期限としてその間に自前の事務所に移転することを条件に、村施設(活性化センター)を貸し出すことを決めた。

 それが2022年4月のことで、今年3月末でその期限が切れる。ところが、今年に入り、あいばせから1年間の期限延長の要望があった。これを受け、村は3月議会に「公の施設の長期かつ独占的な利用について」という議案を提出したのだ。

 これに対し、議員からは「3年という約束だったではないか」、「1年延長したとして、その後、移転できる確証はあるのか」、「別の民間企業から『ウチも貸してほしい』と言われたらどうするのか」といった質問が相次いだ。

 遠藤和夫村長は同社設立の経緯や耕作放棄地を活用して農作物を生産・販売していることから、「村の重要な産業である農業への貢献度などを考え、村として支援していきたいのでご理解を賜りたい」旨を訴えたが、平行線を辿った。

昼休憩後に取り下げ

北塩原村活性化センター
北塩原村活性化センター

 議案審議では質問の回数が制限されていることから、議案修正の動議を出して追及する動きに発展した。その際、五十嵐善清議長が「動議は認めない」と述べたことから一悶着あり、いったん休議に。控え室でどんな話がされたかは分からないが、再会後、五十嵐議長が「動議を認めます」と言い、議員から「地方自治法で認められたこと(動議)を曲げてまで、発言をさせないのはどういうことだ。村長(執行部)も、議長もデタラメが過ぎる」といった一言があり、この問題の追及が続いた。

 その中で明らかになったのは、あいばせは利用料として月額3万円を村に支払っており、これは電気料・水道料込み。そのほか、周辺の草刈りなどを含めた施設管理料として、村からあいばせに年間19万4000円が支払われている。周辺の草刈りなどの作業をしなければならないものの、年間36万円の家賃を払い、19万4000円の施設管理料をもらっているから、差し引き16万6000円、しかも電気料・水道料込みで借りられるのは破格の条件だ。

 ここで指摘しておかなければならないのは、議員らは遠藤村長が語った「村の農業への貢献」という部分を理解していないわけではないということ。ただ、公平性の観点から、おいそれとは認められないと言っているのだ。

 正式な発言ではなく、ヤジのような形ではあったが、「あいばせから要望が出た時点で、議会との協議の場を設ければ良かったのではないか」という議員もいた。要するに、「3年前に喧々諤々の議論を経て、条件付きで認めた経緯を踏まえれば、事前協議の場を設けるべきだった。そうせず、いきなり議案として出してくるのは議会を軽んじているからだ」ということだ。

 その後も追及が続く中、昼食のため休議に入った。午後の再会後、遠藤村長が「議案を取り下げる」と言い、陳謝してこの議題の審議は終わった。休議(昼休み)の間に、村長(執行部)と議会で話し合いがあり、そういう決着になったのだろう。

 あいばせの高畑忠弘代表に話を聞いた。

 「当社設立の経緯は、村で協議会を立ち上げ、公社化を目指していましたが断念し、農家が出資して株式会社として設立しました。その際、3年間の期限で事務所として、この場所(活性化センター)を借りました。ただ、当社は農地を探して実際に借りて、というゼロからのスタートでしたから、なかなか難しい部分があり、この3年でようやく軌道に乗り出したという状況です。ですから、何とかもう1年、ここを貸していただけないかということで村に陳情書を出しました。4年目は農地もだいぶ増え、やっていけるというメドも立ってきましたから。ただ、議会の方で認められないということになれば、早急に次のことを考えなければなりません」

 後日、村に確認したところ、新たに協議の場を設けたり、臨時議会を開いてあらためて議案を出すような流れにはならないようだ。ただ、その時点で貸し出し期限までは残り2週間ほどに迫っており、多少の猶予期間を設けることは議会の了承を得たという。その猶予期間は1〜2カ月程度との認識で、5月くらいまでには新たな拠点を探して、移転しなければならない。

 高畑代表は、事務所のほか、機械・機具の保管場所が必要だし、いずれは乾燥・調整施設をつくりたいと述べていた。加えて、農地は北山・大塩地区が多いため、そこに行きやすい場所が理想とも語っていた。あと1、2カ月でその適地を見つけなければならない。

 議会を傍聴して感じたのは、議会が執行部に対して、不信感を抱いているということ。それは本誌既報のラビスパ裏磐梯の問題、あるいはそれ以前から続いている。今回の件はそのことも無関係ではない。

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