浪江町で高まる教育現場への不信②~給食異物混入が1年半に5件発覚

浪江町で高まる教育現場への不信②~給食異物混入が1年半に5件発覚

 町の共同調理場が町内の小中学校と大熊町の義務教育学校に提供する給食で、2024年から今年5月までの間に異物混入が5件発覚した問題。町が再三改善を求めたにもかかわらず、調理業務を受託するキョウワプロテック(福島市)の衛生管理が改善されなかった点や、保護者への説明がなかった点が信頼低下につながった。(小池航)

給食異物混入が1年半に5件発覚   キョウワプロテック頼みの調理委託

 浪江町が管理する学校給食共同調理場で作り、町の小中学校や大熊町の義務教育学校に提供している給食で、2024年1月から今年5月の間にラップやスポンジ、調理用手袋などのかけらが混じる5件の異物混入があった。見つかったのは浪江町の中学校と大熊町の義務教育学校。浪江町によると、いずれも配膳前に気付き、健康被害を起こした児童生徒はいなかった。異物は調理場由来の物と特定されている。

 給食の現場では異物混入が起こりうることを想定し、統一の対応を定めている。福島県では県教育委員会監修・公益財団法人福島県学校給食会発行の「学校給食の手引き」に報告手順が定められている。

 今回の事故では、手引きに基づき異物混入があった学校から共同調理場を管理する浪江町教育委員会に報告。町教委から県の相双教育事務所に報告文書を上げたという。町は県の指針に基づき、異物が子どもの口に入っていないことを理由に保護者に伝えなかったと説明している。前掲「手引き」には保護者への説明・報告を定めた項目がある。まず市町村の教育委員会等、必要に応じて県学校給食会に報告するとある。保護者への報告は「異物の状況によっては、保護者、保健福祉事務所等及び警察署にも連絡すること」と定める。

 「異物の状況によっては」とは何を示すのか。手引きの「緊急連絡体制例」では、⑴犯罪の恐れがある場合は警察署にも、⑵健康被害の恐れがある他、混入先が業者から製品として納入された物、由来が特定できない場合は保健福祉事務所(保健所)にも報告することになっている。浪江町で起きた異物混入は健康被害がなかったため⑴、⑵には該当しない。保護者への説明が必要なのは、手引きの上では「異物の状況によって」とあるのみ。町はこれをもって、指針に従い保護者に報告しなかったとするわけだ。

 ただ、この項目とは別に手引きでは「保護者への説明・報告等」を定めている。「関係児童生徒の保護者に必ず連絡をとり、給食での異物混入事故の報告とお詫びをし、児童生徒の体調を確認する。状況に応じて説明会を開催する」「給食停止や献立変更をした場合は保護者宛に文書で通知する」とある。浪江町のケースでは、配膳前に異物混入に気付き、児童生徒が口にして健康被害を受けるなどした「関係児童生徒」がいなかったため、保護者への報告まではしなかったということだ。

 町と県の間の報告に留めたのが指針通りだったとしても、1年半に5件あった異物混入を保護者に一切伝えていなかったため不信を招いた。保護者らが初めて知ったのが報道を通してだったことも印象が悪かった。

 NHKが6月17日、保護者への異物混入報告がなかったことを問題として報じ、他メディアも追随したのを受けて、町は同20日に保護者向けの説明会を開いた。参加した保護者の1人が会の様子を語る。

 「業者に問題はなかったのか、なぜ保護者に報告しなかったのかとの質問がありました。学校や町は『健康被害はありませんでした』と強調していました。それはそうなのでしょうが、『問題ない』と伝えたい意識が先行しすぎて、健康被害がないのを理由に矮小化し、保護者の気持ちを逆なでしたように思います」

 調理場は東日本大震災・原発事故からの帰還後に開校したなみえ創成小学校・中学校と同時に2018年4月に営業開始した。浪江町の学校に110食、大熊町の学校に60食の合計170食を提供している。浪江町の小中学校の敷地内にあり、校長が場長を務め、献立を作る栄養技師(栄養教諭)を置き、調理員3人が調理業務に従事する。他に大熊町の学校に給食を配送する職員がいる。

 調理業務は入札で外部委託し、ビルメンテナンスを主業務とするキョウワプロテック㈱(福島市・吾妻学社長)が調理場開業当初から担う。同社は警備業のキョウワセキュリオン㈱(福島市・吾妻拓社長)とともにキョウワグループホールディングスを形成する。

 キョウワグループは1966(昭和41)年に吾妻耕吉氏が工業・化学薬品販売の協和工業を創業し発足。69(昭和44)年にビルメンテナンスと警備業務、88(昭和63)年にはホテル管理に参入した。調理業務にも手を広げ、2009年には日本給食サービス協会に加入。浪江町では、2016年10月から浪江地域住民支援町立「なみえホテル」を指定管理会社として運営。支社・支店・事業所を北海道から九州までの137カ所に置き、町内には相双出張所がある。全国の入札を調べると、キョウワプロテックは大阪市など県外でも学校給食調理業務を受注している。

 ある学校関係者は、浪江町の共同調理場で起こった異物混入はキョウワプロテックの衛生管理の甘さ、もっと言えば従業員の教育体制や人事管理に不備があったのではないかと指摘する。

 「栄養技師が一部の調理員に、手洗いの徹底や適切な食材管理を度々求めていたと聞きました。大量調理の現場では爪の間までブラシで丁寧に洗いますが、それができていなかった、と。再三求めても聞く耳を持たなかったようです。手洗いの不徹底は一例ですが、調理場の安全は一つ一つの細かな衛生基準をクリアして成り立ちます。1年半の間に5件も異物混入が発覚したのは、第一に学校側が改善を要求しても向上が望めない事業者の指導不足に問題があるのではないでしょうか」(学校関係者)

 町教育総務課の鈴木清水課長によると、異物混入が保護者に知らされていなかった件が広く報じられて以降、共同調理場に町職員や保健所を入れて衛生状況を確認したという。そこでは、手洗いが不十分だったり、調理で使う手袋のサイズが不適切と指摘を受けた。混入した手袋のかけらは、包丁で食品を切る際に手袋の余った指先を切ってしまったのが原因とみられる。
 本誌には、床に落とした食材を使うなど調理員による不適切な食材管理があったとの情報も寄せられたが、鈴木課長は「そういう情報は承知していないし、常識的に考えてないと思う。視察でも他の調理場と比較して衛生管理が特段悪いということではないと判断されている」と否定した。

調理員は人材不足

 町は2024年1月の異物混入以降、キョウワプロテックにはどのように改善を求めたのか。

 「事故報告書と改善報告書の提出を求め、口頭で改善も申し入れてきました。町からの指導を口頭に留めていたのは、まずは受託業者の責任を果たしてもらわなければならないという原則がありました。また、調理場は衛生管理基準が厳しく、町職員が立ち入るには検便を経るなど制限があると認識していました。今回の件で保健所に確認したところ、白衣で防護し、物に触らなければ町職員でも立ち入りができると分かり、町でも調査を行いました」(鈴木課長)

 前出の学校関係者の話では、栄養技師からの再三の求めにもかかわらず、一部の調理員に改善がみられなかったという。現に調理場由来の異物混入が1年半の間に5件発覚した。調理業務委託先は毎年度入札で決める。受託業者の責任を果たせなかった場合は他の業者に変更する選択肢はなかったのか。ここには、震災・原発事故で住民や業者が避難した町ならではの問題が横たわる。

 町内で営業する事業者が少ないことや、調理業界は人手不足が深刻で浪江町まで派遣できないという難問が重なり、業者が入札を軒並み辞退。結果、「キョウワプロテックに入ってもらってありがたい」という状態なのだ。適正な業務を続けていれば問題ないが、一度疑義が生じても、受注者の方が立場が上になるため、発注者の要望がどれだけ聞き入れられたのか。

 別表「浪江町学校給食再開以降の調理等業務委託の入札」を見ていただきたい。初となる2018年度の応札者はキョウワプロテック1社のみ。次年度以降、他の大手も指名し、入札を行ったが振るわない。2020年度以降は、キョウワプロテック以外の業者は町が設定した上限=比較価格を上回る金額設定だ。同社は町内にも拠点を置き、町からは施設管理業務などの他事業を受注し、相双地区は主戦場の一つとなっているが、他の業者にとって給食調理業務は魅力がないのではないか。

 共同調理場の立ち上げ時に場長を務めていた馬場隆一なみえ創成小学校校長(当時)は、県学校給食会が発行する「学校給食会だより」2018年10月号で、「給食調理員や食材納入業者の委託決定」に難儀したと振り返っている。

 入札とは言いつつ、町の共同調理場はキョウワプロテック頼みだ。本誌はキョウワプロテックに調理員の雇用や教育体制に問題はなかったのか等々を尋ねる質問状を送った。4日の回答期限を設けたが、期日になっても返答はなかった。連絡すると「担当者が出張で不在」という。

 町はこれまで設定した予定価格について、複数の業者から見積もりを取っているため、市場の動向からかけ離れておらず適切との見解だ。だが今後、より多くの業者が参入できるように、委託金額を精査していくという。

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