公益社団法人郡山市シルバー人材センターの職員2人が正当な理由を示されずに昇給を見送られ、「不公平かつ不利益な取り扱いを受けた」と訴えている。職員2人は弁護士を通じて昇給見送りの理由を問い質すなど、同センターと対峙する構えを見せる。公益事業を扱う組織には、およそ似つかわしくない異例の対立。背景を探ると、事務局長によるパワハラと、パワハラ被害に遭っても相談窓口がない業界の構造的問題があることが分かった。
被害職員2人が加害上司に徹底抗戦

郡山市シルバー人材センターに対し6月上旬、弁護士を通じて「他の職員は4月に昇給しているのに、自分たちだけ昇給しなかったのはなぜか」と問い質す通知書を出したのは鈴木達彦さん(40代)と武田佳奈さん(50代)=いずれも仮名=。鈴木さんは勤続18年の正職員、武田さんは嘱託職員として10年勤務する。
通知書によると、鈴木さんと武田さん以外の職員は4月に昇給しているのに、両氏だけ昇給が見送られたのは不公平かつ不利益な取り扱いだとして、▽両氏が昇給しなかった理由、▽職員給与規定には「12カ月を下回らない期間を良好な成績で勤務した時は昇給させることができる」とあるが、どのような基準に基づいて「良好な成績」と評価しているのか――等々を2週間以内に回答するよう求めている。そのうえで期限までに回答がない、あるいは昇給見送りが合理的な評価に基づくものとは言えないと判断した場合、法的手続きや監督官庁への通報を行うとともに、両氏がこれまでに受けた「昇給見送り以外の不利益な取り扱い」も主張する――と通告している。
ベテラン職員がそろって弁護士を立て、勤務先と対峙するのは異様だが、背景にはどのような事情があったのか。さらに気になるのは、両氏が受けた「昇給見送り以外の不利益な取り扱い」とは何かである。
本題に入る前に郡山市シルバー人材センターの概要をおさらいする。
法人設立は1980年、公益社団法人に移行したのは2011年で、事務所は郡山市役所北側の市総合福祉センターに置く。国と市から毎年補助金を受給しているほか(2024年度は計1500万円余)、法人税など税制上の優遇措置を受ける。役員は理事長=藍原八郎、副理事長=齋藤正夫、常務理事=相樂利次、理事=齋藤香代子、家久来明子、徳山明雄、渡辺洋子、塩田ますみ、監事=佐々木千津子、菅野信子の各氏。職員数は正職員、嘱託職員、パート合わせて15人。今年3月末現在の会員数は2078人(前年度比53人減)で、会員の平均年齢は73・3歳、最高齢は92歳男性。
会員に提供される主な仕事は事務(賞状・宛名書き)、管理(駐輪場・公園管理)、折衝外交(店番、配達、集配)、一般作業(清掃、除草、会場設営)、技能(剪定、塗装)など。2024年度は8774件、約8億5460万円の民間・公共事業を請け負った(前年度比101・0%)。
公共性・公益性を帯びた組織であることがご理解いただけると思う。そんな同センターで起きた今回の対立は、鈴木さんと武田さんいわく、常務理事兼事務局長を務める相樂利次氏のパワハラと独善的な運営が発端になっているという。
「私は昨年10月から郡山駅前にある市の駐輪場に勤務しているが、相樂事務局長による事実上の退職勧奨と受け止めています」
そう嘆くのは鈴木さんだ。
鈴木さんは昨年9月、相樂事務局長から口頭で駐輪場への配置転換を命じられた。その場で納得いかない旨を伝えたが聞き入れられず、他の理事に相談するも「おかしな配置転換」という認識は共有してもらえたが決定は覆らなかった。
「駐輪場はセンターが市から管理業務を委託されているが、本来は職員が勤務する場所ではなく、会員が働く場所です。そこに私を配置したのは、要するに『嫌ならやめろ』という相樂事務局長の無言のメッセージなのでしょう」(鈴木さん)
なぜ、そう受け取るのか。実は今から11年前、鈴木さんは勤務中に職務と関係ないサイトをネットで閲覧していたとして、相樂事務局長から懲戒免職を告げられた過去がある。
「本当に申し訳ないことをしたと深く反省しています。ただ、そのことでいきなりクビを宣告されるのは納得がいかないとして、外部の労働組合に加入し、センターに解雇の撤回を求めました」(同)
その結果、鈴木さんへの処分は減給1カ月5000円に変わったが、騒動の一部始終が月刊誌『財界ふくしま』2014年4月号に載ったことで、相樂事務局長からの風当たりはますます強まった。
「相樂事務局長は新しい職員が入る度に『アイツは雑誌に記事を書かせた。組織の輪を乱す奴とは付き合うな』と私を孤立させようとして……。理事や周辺市町村のセンターにも記事のコピーを配り、私を悪者扱いしていました」(同)
職員を吊るし上げ
筆者は、処分を科されるきっかけになった鈴木さんの行為をかばうつもりは一切ない。ただ、それでいきなり懲戒解雇を迫ったり、他の職員から孤立させるような嫌がらせをするのは行き過ぎだ。常識的には口頭で注意したり、始末書を提出させ、それでも勤務態度が改まらなければ減給とするのが処分の順序だろう。懲戒免職は、そのあとに控える最も重い処分だ。
「あとで分かったことだが、相樂事務局長は、ある職員が私からいじめを受け、それを苦にやめたことに激怒していたのです」(同)
もっとも、鈴木さんはその職員をいじめた覚えは一切なく「濡れ衣で逆恨みされていたと知った時は困惑した」(同)。もちろん、相樂事務局長には事実無言と訴えたが、一切聞き入れられなかった。
鈴木さんはその後も相樂事務局長から目の敵にされた。2017年にインフルエンザに罹患した際は、事務所内で蔓延すると、同時期に別の職員も罹患していたのに、病休明けに「ウイルスを持ち込んだ。懲戒処分ものだ」と罵られた。2018年には請求書をゆうメールで出すよう指示されたので「請求書(信書)をゆうメールで送るのは郵便法違反になるのではないか」と進言したところ、逆に叱責された。
こうした数々の嫌がらせの延長に起きたのが、前述した駐輪場への配置転換だったわけ。鈴木さんが「事実上の退職勧奨」と受け取った理由がよく分かる。
一方、武田さんはどんなパワハラを受けたのか。
「私が入職した2015年頃は頻繁に飲み会があったが、私は1年契約の有期雇用だったので、契約打ち切りが怖くて仕方なく参加していました」(武田さん)
相樂事務局長からは「これも仕事だから」と言われ、苦手なカラオケにも付き合った。歌っている姿を許可なくスマホで撮影され、その動画を収めたDVDが参加者に配られるのは苦痛でたまらなかった。ただ、そうまでして飲み会に参加したのは
「採用時に相樂事務局長から『頑張れば2、3年で正職員にしてあげるから』と言われたので、その言葉を信じて飲み会にも出た方がいいと思って……」(同)
だが結局、年齢を理由に正職員にはしてもらえず、自分よりあとに入職して正職員になる人が出始めると武田さんは精神的に不安定になっていった。この頃から相樂事務局長による風当たりも強まった。
「朝礼で、私が担当する業務の些細なことを指摘して『懲戒処分ものだ』と言ったり、実績不振の責任を私に押し付けたり……。朝礼で特定の人を吊るし上げにするのは相樂事務局長の常套手段です」(同)
こうしたことが重なった武田さんは昨年4月に適応障害と診断され、6週間ほど休職。ただこの時、武田さんは診断書を提出し、休職規定の適用を申し入れたものの認められなかった。相樂事務局長からは「有給休暇を申請しないと欠勤扱いで無給になる」と冷たくあしらわれた。
同センターは嘱託職員を《原則として休職を命じない》(嘱託職員就業規則第17条)としているが、同条の但し書きには《常勤嘱託については特に必要と認めた場合は職員就業規則の休職規定に準じた取り扱いをする》とある。しかし、武田さんは相樂事務局長から「但し書き部分は適用しない」と言われただけで、適用しない理由の説明は一切なかった。
「なぜ適用にならないのか知りたかったが(相樂事務局長が)怖くて直接聞けないので、弁護士にお願いしようと実際に相談予約までしました。でも、心療内科の先生から『治療に専念した方がいい』とアドバイスされ、あきらめました」(同)
武田さんは但し書きにある「常勤嘱託」に該当するはずだが、相樂事務局長が恣意的に適用しなかった疑いも残る。
昨年12月の賞与も、武田さんの支給率が他の職員と違っていることが分かった。10月にベースアップしたのに前年より支給額が減っていたため、その理由を知りたかったが
「この時渡された明細が簡易なもので、いつもは期末手当と勤勉手当に分けてあるのに、単に『賞与』としか書かれていなかった。なので、きちんとした明細が欲しいとお願いしたのです」(同)
だが、ここでも相樂事務局長は面倒くさそうな対応に終始した。
相樂 そんなに知りたいなら(明細を)出すよ。一般企業に比べたらかなりいい(金額)と思うけど。
武田 今までの明細と変わった点についての説明が……。
相樂 賞与が上がる下がるって、そんな説明(職員に)する?
武田 明細です、明細が……。
相樂 だから説明するのかって。そんなの人事のことでしょ。
武田 明細が今までと違った形だから……。
相樂 その方がいいと思ってそうしたんだよ。
結局このあと、いつも通りの明細が渡されたが、上司からこのような威圧的言動をされたら、部下は怖くて何も言えないのではないか。
こうして数々のパワハラを受けてきた鈴木さんと武田さんは、今年4月、他の職員が昇給する中、明確な理由を示されずに昇給を見送られたわけ。
10年間で20人前後が退職
相樂事務局長とはどんな人物なのか。年齢は70代前半。青山学院大学経営学部卒業。関西の大手商社、福島県商工信用組合を経て郡山市シルバー人材センターに入職。事務局長だけでなく常務理事も兼ねるが、理事長も副理事長も非常勤のため、相樂氏が実質トップの立場にある。
元職員は相樂氏をこう評価する。
「職員の採用・クビ切り、正職員にする・しないを自分の裁量で決めている印象。鈴木さんと武田さんだけ昇給させなかったのは、その典型だと思う。鈴木さんを駐輪場に追いやったのも、経験として短期間配置するなら分かるが、勤続18年のベテランを期限の定めなく留め置くのは嫌がらせ人事以外の何物でもない」
そう話す元職員も相樂氏のパワハラに嫌気が差してやめた。被害の詳細に触れると特定されてしまうのでここには書かないが「実績が上がらない責任を押し付けられたり、おかしなやり方に『おかしい』と言って吊るし上げにあったり」(同)というから、鈴木さんと武田さんが受けた嫌がらせと同じだ。
理事数人も絶対匿名を条件に取材に応じてくれた。「身元がバレたら相樂さんに何をされるか分からない」のだという。
「相樂さんに口ごたえをしてやめざるを得なくなった職員は少なくない。理事も『見ない、言わない、質問しない人』を相樂さんが選出している。恥ずかしながら自分もそう。藍原理事長も相樂さんには何も言えない。そういう人だから、財界ふくしまの取材に答えた鈴木さんを反乱分子扱いしているのでしょう」
「たまにセンターに行くと『また職員が入れ替わったのか』と思うことが多い。引き継ぎも上手くいっていないみたいで、新入職員が手探りで仕事をしているようで気の毒」
元職員や理事の話で共通していたのは職員の出入りの激しさだが、そんなにやめる職員が多いのか。鈴木さんと武田さんの証言も加味すると、2015年からの10年間で20人前後の嘱託職員とパートがやめていることが分かった。もちろん自己都合でやめた人もいるが、契約満了になると更新を希望しても契約を打ち切られる人が結構いたようだ。
郡山市議会の佐藤政喜議長も、知人の妻が同センターに勤務していたが、明確な理由を告げられずに雇用契約を打ち切られ、知人から「妻は真面目に働いていたのに理不尽だ」と相談されたことがある。
「知人が納得できないというので2023年12月にセンターを訪ね、相樂さんに事情を聴きました。その時は『契約期限を迎えたのでやめてもらった。問題はない』と説明されたが、同じように契約を打ち切られた職員が大勢いることは(筆者の話で)初めて知った」(佐藤議長)
複数の人たちの証言から相樂事務局長のパワハラ気質がお分かりいただけたと思うが、問題は同センターのハラスメント相談窓口が一切機能していないことだ。
実は、同センターの職員就業規則第15条は「パワハラ禁止」を明確に謳っているが、被害の申立先はセンター、すなわち相樂事務局長になっているのだ。パワハラの加害者が相談窓口では被害者は相談しない(できない)し、まともな調査も期待できない。そうなると、補助金を支出する市か、上部団体の県シルバー人材センター連合会(福島市)に期待するしかないが、
「市は補助金が適正に使われているかセンターに報告を求め、チェックするだけで、運営状況までは関知していない」(市産業雇用政策課)
「県連合会と各市町村センターは上下の関係ではなく、連携していく関係性にあるので、市町村センターを厳しく指導することはない。ハラスメントについては研修会の開催や撲滅の呼びかけはしているが、相談窓口の設置までは至っていない。必要性は感じるが、人員不足で対応できていない」(佐藤義住専務理事)
要するに、シルバー人材センター業界における第三者的な相談窓口は存在しないのだ。実際、鈴木さんと武田さんは労働基準監督署や県雇用労政課、全国シルバー人材センター事業協会にも助けを求めたが、期待したサポートを受けられなかった。だから、最後は弁護士に依頼して闘う姿勢を見せるとともに、本誌を通じて同センターの実態を世間に知ってもらおうとしたのである。
疑わしい「正当な理由」
相樂事務局長は数々のパワハラ行為をどう釈明するのか。6月18日、本人に直撃した。
――職員2人の代理人から通知書がきたことをどう受け止めるか。
「昨日(6月17日)回答書を送ったので、今日あたり弁護士に届いていると思う。詳しい中身は弁護士に問い合わせてほしい」
――職員がこういう行動を起こした原因はどこにあると思うか。
「今から10年以上前、雑誌に記事が載った。勤務中に職務と関係ないサイトを閲覧していたとして懲戒解雇を言い渡したが、相手が労働組合を通じて交渉してきたため、減給処分に落ち着いた。ただ、それとは別に相手(鈴木さん)はある職員をいじめ、退職に追い込んだ。それも懲戒解雇を迫った理由の一つだ」
――しかし、職員(鈴木さん)はいじめを否定している。
「いじめられた職員に確認しているので間違いない」
――そのことと今回の昇給見送りはどう関係しているのか。
「それ自体はもう時効だが、理由は回答書に書いた。こちらとしては正当な理由がある」
――その正当な理由を、4月の昇給時に本人たちに伝えたのか。
「こちらがやりなさいと言った仕事をしなかった」
――それについて、あなたは上司として必要な指導をしたのか。
「……していません」
――では、上司としての役目を果たしていないということですね。
「そういう見方もできるかもしれない。ただ、職員規定には昇給させなければならないとか、指導しなければならないとは書いていない」
――開き直るんですか。
「とにかく回答書を読んでください。昇給もすると書いてある」
――正当な理由があるから昇給しなかったのに、結局昇給するとはおかしな対応だ。この10年で20人近く職員がやめている理由は何か。
「そんなのは知らない。自分の都合でやめているんでしょう。ハラスメントでもあったんじゃないか。それも回答書に書いてある」
――ハラスメント? 誰の? あなたですか?
「失礼な。私はハラスメントなんて一切していない」
――本当に身に覚えはない?
「ありません」
――本誌は、あなたからパワハラを受けた元職員からも話を聞いているが。
「あー、そうですか」
――鈴木さんを駐輪場に追いやった理由は何か。
「あっちで人が欲しいからだ」
――会員が数人いれば回る現場ではないか。
「これは人事の問題だ。あなたに指図される筋合いはない」
――ハラスメントが起きた時、相談窓口がないのは問題だ。
「ありますよ。職員就業規則にきちんと書いてある」
――でも、あなたに相談するんですよね。職員は相談できるのか。
「できますよ」
――では、今までに一度でも相談されたことはあるのか。
「……ないですね」
――内部で問題を解決できず、外部に相談する先もない組織は、健全性を欠いていると思う。
「ですから、私としては健全性を保ちたいし、自分に至らない点があれば改めたいし、職員2人とも仲良くやっていきたいと考えている。そのことは弁護士への回答書にも書いてあるので読んでほしい」
最高決定機関を蔑ろ

相樂事務局長は「6月17日に弁護士に回答書を送った」と言ったが、実は前日(16日)に開かれた理事会で相樂事務局長は弁護士から通知書が届いたことを報告せず、理事長、副理事長の三役でのみ話し合い、回答書の内容をまとめていたのだ。
筆者が「理事会は最高決定機関なのに、そこに報告せず回答書を送っていいのか」と質すと、相樂事務局長は「三役で話し合った。理事会にはあとで報告する」とここでも開き直った。「最高決定機関に事後報告するのはおかしい」と問い詰めると、通知書が届いた日付や回答書を送った日付をあやふやに答え出した。普段から理事会を蔑ろにしているのではないかと疑いたくなる。
同センターは東北では仙台に次ぐ規模を誇るが、昨今の言い方をすると「コンプライアンス意識を欠いた組織」に国と郡山市が補助金を支給するのは適切ではない。
かつては市職員OBの再就職先でもあった同センターだが、その頃は問題が起きることもなかった。しかし、2015年度から市職員OBの再就職がストップ。理由は「センターから職員推薦依頼がこなくなったため」(市人事課)だが、相樂氏が事務局長に就いたタイミングと重なるのは偶然なのかどうか。
この稿には書き切れないが、「特定の職員」の待遇だけが年々急上昇している疑惑もあるなど不可解な運営が尽きない同センター。非常勤の理事で構成される理事会のため満足に機能せず、結果、事務局長の専横を長く許してきた中、外部からの監視を強化すべきと考えるが、その役目をどこが担うのかハッキリしない点がシルバー人材センター業界の欠陥と言える。
























