すずき・としお 1947年生まれ。国立平工業高等専門学校中退。(株)アクティブワン代表取締役。2013年から白河商工会議所副会頭、22年11月から現職。
折からの物価高騰に加え、政府からの賃上げ要求、深刻な人手不足など、地方の中小・小規模事業所を取り巻く環境は厳しくなる一方。県南地域の中核都市・白河市はどういう課題を抱えているのか。白河商工会議所の鈴木俊雄会頭(アクティブワン代表取締役)に管内の現状と今後の展望について語ってもらった。
大河ドラマ効果も生かし、経済活性化につなげていく。
――人手不足や後継者問題が深刻化しています。
「若い世代が少ないということもありますが、人口比率が高い団塊の世代が引退時期を迎えたことで、どの業種でも人手不足が顕著になっています。特に白河地域には製造業の工場が多く立地しているため、コロナ禍により飲食業やサービス業などに従事していた方々が安定を求めて製造業に流れたように思われます」 ――政府は民間企業に賃上げを要求しています。
「大手企業の賃上げ報道では、大卒初任給は軒並み30万円を超えており、地方の中小企業は人材確保に一層厳しい苦労を強いられることになると懸念しています。本来、賃上げというのは売り上げが伸びて利益が出てから実施できるものです。そうなっていないのにもかかわらず、民間企業に賃上げを求める政府の要請は順序が逆です。現状は人材の流出を防ぐ手立てとしてやむを得ず『防衛的賃上げ』を行っているだけに過ぎません。実際に管内の事業所には赤字でも何とか耐えられる範囲で賃上げをしたところもあるようです。そういった意味で、中小企業の経営環境は今後さらに厳しくなることが予想されます。賃上げが進み、個人消費が増えれば地方の中小企業にも波及的効果がもたらされるはずですが、それにはまだまだ時間がかかると思います。そもそも『国民公的負担率』(国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担の割合)は48%にも上ります。いくら賃上げをしても手取りが増えなければ個人消費も増加しないでしょう。先の衆議院選挙で国民民主党が主張した『103万円の壁』の引き上げが注目を集めましたが、そういった声を政策に反映していただき、公的負担率が軽減されることを期待します」
――物価高の中で価格転嫁は進んでいるのでしょうか。
「当会議所でアンケート調査を行った結果、一部には価格転嫁を実施できた事業所もあるようですが、まだまだ進んでいないのが実態です。そうした中で米価が上がったことは、後継ぎ問題など深刻な課題を抱えている農家にとっては大変良いことで、胸を撫で下ろしています」
動き始めた「シン鹿島」
――老舗結婚式場「鹿島ガーデンヴィラ」の復活に向け、鈴木会頭が自ら発起人となり新運営会社「シン鹿島」を設立しました。
「新型コロナの5類移行に伴って人流が活発になり、大人数で集まれる会場が無いことを口惜しく思う声が多く聞かれました。そのため、競売にかけられた鹿島ガーデンヴィラを私の会社が落札し、『力を合わせてやっていきませんか』と声をかけさせてもらったところ、ありがたいことに41人が株主になってくださり、資本金1450万円で新会社を設立して運営できることとなりました。ただ、建物が古く、厨房などの設備が老朽化していました。昨年末にはほぼ修繕を終えましたが、厨房だけは3月までかかる予定のため、現在はケータリング方式で営業しています。お陰様で問い合わせが多く、スタッフが足りずにお断りせざるを得ない場合もあるほどです。歓送迎会シーズンにも、『シン鹿島』をご利用いただけることを願っています」
――小峰城清水門の復元について。
「清水門の工事は順調に進んでおり、2026年3月の完成予定と聞いています。今後は、観光客が訪れた際の食事やお土産を買う場所が必要ではないかと考えています。また、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』にも大きな期待を寄せています。当会議所が主催して松平定信をはじめとする人物像や当時の時代背景などを学ぶ研修会を行うなど、この機会を逃すことなく白河をPRするための取り組みを進めています。ただ、定信が『寛政の改革』を行ったことで悪役的に描かれてしまわないか心配しています。寛政の改革は、浅間山大噴火などの天変地異や天明の大飢饉といった災禍が次々と起こる中、災害対策や失業対策などを通じた経世済民を目的として行われた改革であり、南湖公園も定信によって造られました。現在の白河の関所を特定したのも定信です。定信は白河の重要な歴史的観光資源をつくった偉人です。新1万円札の肖像画になった渋沢栄一も定信を深く敬愛し、崇敬のための南湖神社創建に多大の貢献をしました。こうした話題性もあり、今年は初詣に大勢の参拝客で賑わいを見せました。この千載一遇のチャンスを生かして、白河地域の経済の活性化を図ってまいります」
――中心市街地活性化について。
「昨年は東邦銀行が中心市街地から移転しました。その向かい側にある人気店の山田パンにも移転の話があり、当会議所としても中心市街地に留まってもらえるよう代替地を検討しましたが意向に沿えず、残念ながら郊外に移転することとなりました。中心市街地には都市機能が集約されており、駅に近く通学や高齢者の交通手段も確保できるなどの利点があります。そうした利点をアピールしながら中心市街地に住んでもらうための取り組みを進めていきます」
――政府に求める経済対策は。
「インボイス制度や電子帳簿等保存制度は大変分かりにくいですし、事業承継税制は2年間延長されましたが制度の難しさから利用者は少ない状況にあります。また、生前贈与の教育資金1500万円までの非課税制度も手続きが難しく使い勝手が悪いと思います。さらにベンチャー育成や創業者支援の制度も複雑過ぎます。これでは『創業するより雇用された方が楽だ』と、若手の起業マインドを損ねてしまいます。行き詰まっている経済を活性化させるためには公的負担を軽減するしかないと思います。特に私が着目しているのは贈与税の減税です。高齢者世代から若者世代に資産を引き継げば経済の活性化に繋がる動きが起こり、結果的に消費税などの税収が増加するのではないかと思っています」
――今後の抱負。
「白河は、地理的・社会的に恵まれ、誘致企業も多く立地していますが、このままのスピードで人口減少が続けば人材の取り合いになります。白河市が県南地域全体の中核都市として持続的に発展していくためには何が必要かを、地域の人々がそれぞれの立場で真剣に考えなければなりません。当会議所では『道の駅』に関する検討委員会を設置しました。6次化産業を盛り上げ農産物の付加価値を高めることをはじめ、地域経済の活性化を図るための中核的な場所にしていきたいと考えています」