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スナック調査

  • コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

    コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

     5月に新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に引き下げられ、夜の飲食街は感染収束ムードが漂う。だが、客の嗜好が「飲」から「食」に変化し、団体の2次会は望めない。夜の街調査4回目は6月3日土曜日に会津若松市を回った。 頼みの「無尽」は規模縮小 飲食店が入るパティオビル(会津若松市上町)=6月3日、午後10時35分  会津若松市は会津地方の消費都市の性格が強い。市内だけでなく近隣の喜多方市、猪苗代町はもちろん、遠方は南会津町などからも訪れる。そのため、市内人口に比して飲食店が多く、電話帳をベースに人口1000人当たりのスナック店数を調べたところ、県内主要4市では最も多かった(表1、表2)。 表1:県内人口上位4市のスナック店舗数 2023年5月1日推計人口(百人)2019年スナック数(店)2021年スナック数(店)減少率(%)いわき市3226273221▲19.0郡 山 市3222202159▲21.2福 島 市2763194145▲25.2会津若松市1133158124▲21.5 表2:県内人口上位4市の千人当たりスナック店舗数 2021年スナック店数人口千人当たり店数会津若松市1241.09いわき市2210.68福 島 市1450.52郡 山 市1590.49  「地理的に考えると、峠を越えてきた人たちが金を落とす一大消費地でした」とは市内のある飲食店経営者。 近代から戦後にかけては、猪苗代湖の水力発電で得た安価な電力を背景に産業が集積した。 あるスナックのママが40年前をしのぶ。 「富士通の工場があったころは関係者がよく飲みに来ました」 眠らない街の光景が、いまも目に焼き付いている。 「1980年代の話です。私の店は深夜1時に閉めますが、帰りのタクシーが拾えないほど。2時3時になってもタクシー待ちの行列です。お店はほとんど閉まっているのにどこに人がいたのかと思うくらいの数。『この人たち、明日は仕事だろうに大丈夫なのかな』と心配でしたね。金曜、土曜ではなく平日の話です。いい時代でしたよね……。いまですか? 最悪ですよ」(前出のママ) 新型コロナの感染拡大以降は金、土曜日だけ営業してきた。4月ごろは週末に4、5人が来てくれて明るい兆しを感じたが、5月の大型連休は客の入りが鈍く、同月半ばからは確実に悪い。 「私1人でやっているので、若いお客さんは来ないでしょう。大型連休は、街は久しぶりに若者で賑わっていました。でも、若い人だって毎日は飲みに行かないでしょ。連日賑わっている店はないと思いますよ」(同) 賑わっているところはあるのか。店主たちに聞くと、「パティオビル周辺だけは人が大勢いる」という。パティオビル(地図参照)に入居するテナントはキャバクラやスナック、バー・クラブなど若年層向けの店が多い。 地図:会津若松市の飲食店街  ビルのきらびやかな照明が夜に浮かび上がる。エントランスに入ると、店の紹介映像が画面に流れていた。派手な光と音に包まれ、ここだけ別世界だ。エントランスの上部を見ると、天井の隅に張り付いてこちらをうかがう巨大なゴリラの模型と目が合った。 ビルの前では男女問わず若いグループが複数たむろし、解散するか次の店をどこにするかを話し合っていた。道を挟んで向かいにはコンビニがある。ビル内の店に入るかどうかは別として、人が集まるようだ。 パティオビルは、どの階もテナントで埋まっていた。家賃は階が違っても変わらないので、上階より人の往来がある1階が人気だ。最も賑わう同ビルでさえも移転か閉じた店があるが、入居者も同じ数だけあり、テナントの新陳代謝が起きている。 苦境に立つ老舗  これまでの夜の街調査でも指摘しているように、客が夜の飲食店に求めるものは「飲」から「食」に移ったが、客層も「老」から「若」に移行した。コロナ禍を機に老舗が閉店した。 50年来スナックを経営してきたマスターは、最近の客の一言にプライドを傷つけられた。 「初めて来た男性のお客さんでしたね。『女の子はいないの』と店内を見回しました。若い女性従業員をたくさん抱える店じゃないと知ると、『じゃあいい』とバタンとドアを閉めていきました。街やお客さんと共に私たち従業員も年を重ねてきました。お客さんの好みは理解しますが、入店をやめるにしてもスマートな去り方があるのではないか」 共に年齢を重ねてきた高齢の客は新型コロナに感染して重篤化するのを恐れ、外での飲食を控えるようになった。3年経てば「飲みに行かない」のが習慣となるが、それでも変わらず来てくれる常連もいる。「店を閉めて寂しいとは言われたくない」(マスター)。何より、長年働いてくれている高齢従業員の生活のために、わずかでも稼がなければならない。 会津若松の調査は、郡山(今年1月号)、福島(同5月号)、いわき(同6月号)に続き4回目となる。いままで3市の夜の街を調査してきたと店主らに話すと、よく聞いたのが「いわきはコロナでも賑わっているようだね」「実際に(いわきに)行った人から繁盛していると聞いた」と羨む声だった。 だが、それは幻想と言っていい。いわきでも土曜日にもかかわらず、団体の2次会需要はほとんどないため、夜10時以降閑散とするのは会津若松と変わらない。「食」がメインの店舗でも、売り上げがコロナ禍前の7割に戻っていれば良い方だ。店を開けるだけでは2次会の客が来ることは期待できず、多くの老舗が客の行動変化に苦労していた。 地方は少子高齢化が急速に進み、経済規模の縮小は免れられない。いわきは首都圏に近いという地の利はあるが、会津若松と同様、コロナ禍から未だ立ち直ってはいない。 県内4市の夜の街を調査すると、感染拡大前から飲食店は総じて減っており、コロナ禍が閉店を早めたと言える。本稿末尾にコロナ禍後に電話帳から消えたスナック、バー・クラブの営業調査結果を載せた。近隣の店主に聞くと、コロナ禍前に閉じた店も散見された。 電話帳から消えた会津若松市のスナック、バー・クラブ 〇…6月3日(土)に営業確認 ×…営業未確認 店名建物名営業状況栄町スナック翼パピヨンプラザビル×スナックあんり五番街ネクサスビル×スナック燁里エクセレント大手門ビル×スナックみっちゃん×Coralマリンビル×さざなみ三進ビル×すなっくなおこ白亜ビル×スナックひまわり×スナック演歌Mビル→白亜ビル〇上流階級ヴェルファーレビル〇西栄町スナック情不明×行仁町ラブストーリーリトル東京×上町スナックオルゴール(織香瑠)上町一番街×スナックディアレストAsahi Alpa×スナックアンルート×でん福マルコープラザ×レイティス(RETICE)パティオビル×regalia×スナックageha〇スナック古窯パティオビル→移転〇ミュージックパブオアシスセンチュリーホテル×ゴールデンウェーブ×Villeセンチュリー・ノアビル×スナック胡遊×ピンクパンサー〇佑花×馬場町ベルコット石井ビル×スナックシナリオサンコープラザビル×れとろ×ENZYU×宮町パーティハウス北日本ビル×スナック赤いグラス明月ビル×ニューサンシャインサンシャインビル× 「無尽」の互助に異変  飲食店街は打つ手がないのか。前出の飲食店経営者は「会津若松の夜の活気は無尽が支えてきた」と話す。 無尽とは、会員が掛け金を出し合い、一定期日にくじで優先的に融通の権利を得るシステムやその会のこと。前近代的な金融の一種で、現在は山梨県のものが有名。福島県内では会津地方が盛んだ。 飲食店経営者が説明する。 「例えば会費を1万円とします。5000円を場所代として飲食店で消費し、残りの5000円を積み立てる。10人集まれば、1回の集まりにつき店に5万円を落とし、無尽に5万円を積み立てられる。1年後には60万円に達し、くじでもらう人を決めたり、急ぎの金が要る人に融通する。親睦旅行の代金に充て、会員全員に還元する方法もある」 個々の無尽で取り決めは違うが、現代では無尽にかこつけて集まることが目的なので、積み立てや融通の方法自体は重要ではないという。互助的なシステムである点が大事だ。 「居酒屋はたいてい1店につき6~12本の無尽を持っている。毎月1、2回は店に集まって会を開くので、何本無尽を持てるかが経営の安定につながると言っていい。常連客の他に魚屋、酒屋などの出入り業者、スナックの店主も参加する」(前出の飲食店経営者) 1次会はその居酒屋で、2次会は無尽に参加しているスナックで、という流れができ、常連客も店主も無尽つながりでお互いに店を利用するようになる。「無尽の飲み会がある」と言うと、家族も「しょうがない」と止めるのを諦めるほどの大義名分が立つという。 選挙も無尽で決まると言っても過言ではない。酒席では「健康状態が悪いらしい」「金銭的に苦しいようだ」と政治家のウワサが飛び交い、それを会社や家庭に持ち帰ったり、掛け持ちしている別の無尽で話したりして末端まで広がる。 「いわば選挙キャンペーンの装置です。多くは根も葉もないウワサですが、本人にとっては政治生命に関わる。政治家は、酒席でウワサを否定しなければなりません」(同) 企業も無縁ではない。この経営者によると、商工団体以上の情報伝達網だという。経営難や信用不安など悪いウワサも多い。 侮れない無尽だが、さすがにコロナ禍では自粛となった。 前出のスナックママは 「コロナを機に無尽もやめようという話が出てずいぶん減りました。無尽という言葉すら聞かなくなりましたね」 一方で、前出の飲食店経営者は楽観的だ。1次会の客をメインにしている事情がある。 「飲食店同士の無尽は出費を抑えるために減ったかもしれませんが、個人の参加は着実にあります。ウワサ、酒、選挙という勝負事への欲求は人間のさがですからね。定期的に街へ出る回数が増えれば、飲食店街に広く波及していくはずです。懸念しているのは、運転代行業者が確保できないことです。会津若松の飲食店街は近隣市町村からも多くのお客さんが来ます。コロナ禍で減った運転代行業者の数が戻らないと客足回復の機会を逃がしてしまう」 その店が主にしているのが1次会か2次会かで見解が全く異なる。人付き合いを断つ理由を与えてしまったのがコロナ禍だったと言える。若者の酒離れが進む昨今、スナックママが体験した無尽離れの方が現実味を帯びる。 あわせて読みたい 【いわき駅前】22時に消える賑わい コロナで3割減った郡山のスナック 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 【いわき駅前】22時に消える賑わい

    【いわき駅前】22時に消える賑わい

     新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。かつての日常に戻りつつある中、店での飲食は動向が大きく変わった。客の重視は「飲む」から「食べる」に変化。職場の宴会は減り、あっても1次会のみ。酒の提供がメインで接待を伴うスナックは2次会以降を当てにしているため、客数減による淘汰が進む。第3弾となる夜の街調査は、いわき市を巡った。 客足戻ってもスナックに波及せず  本誌はこれまで郡山市と福島市にあるスナックの数を、電話帳を基にコロナ前と後で比較してきた。電話や訪問で営業状況を確認し、ママやマスターに聞き取り調査を重ねた。 第3回となる今回は、経済規模が県内2番目のいわき市(表1参照)の夜の街を調べた。新型コロナが5類に引き下げとなって初めての土曜日(5月13日)夜に、本誌記者2人がJRいわき駅前(平地区)の店を訪問し、店主から聞き取った。 表1 県内の経済規模上位5市 市町村内総生産県全体の構成比郡山市1兆3635億円17.10%いわき市1兆3577億円17.00%福島市1兆1466億円14.40%会津若松市4553億円5.70%南相馬市3307億円4.10%出典:2019年度『福島県市町村民経済計算』 一1000万円以下切り捨て  現地調査の前に店の増減を電話帳から把握する。新型コロナ感染拡大前の2019年11月時点と感染拡大後の21年10月時点の電話帳(NTT発行『タウンページいわき市版』)で掲載数を比較した。 2021年時点で20軒以上ある業種を挙げる。業種は店からの申告に基づき重複がある。多い順に次の通り(カッコ内は減少率)。 スナック 273店→221店(19・0%) 飲食店 201店→180店(10・4%) 居酒屋 168店→148店(11・9%) 食堂 83店→68店(18・0%) すし店(回転ずし除く) 69店→64店(7・2%) レストラン(ファミレス除く) 72店→62店(13・8%) ラーメン店 67店→62店(7・4%) 喫茶店 61店→54店(11・4%) 焼肉・ホルモン料理店 38店→37店(2・6%) 中華料理店 38店→37店(2・6%) バー・クラブ 48店→36店(25・0%) 焼鳥店 34店→33店(2・9%) うどん・そば店 30店→28店(6・6%) 日本料理店 28店→25店(10・7%) ファミレス 25店→24店(4・0%) カフェ 23店→21店(8・6%) 減少数・率ともに大きいのはスナックだった。53店が電話帳から消え、1店が新規掲載。差し引き52店減少した。もともとの店舗数はスナックや居酒屋に比べれば少ないが、減少率が最も大きかったのはバー・クラブの25・0%。12店が電話帳から消え、新規掲載はなかった。 酒と接待の場を提供するスナックやバー・クラブの減少が著しいのは郡山・福島両市も同じだ。 郡山市 スナック 202店→159店(減少率21・2%)。消滅48店、新規掲載5店 バー・クラブ 45店→42店(減少率6・6%)。消滅5店、新規掲載2店 福島市 スナック 194店→145店(減少率25・2%)。消滅50店、新規掲載1店 バー・クラブ 42店→35店(減少率16・6%)。消滅7店、新規掲載なし スナックの数はコロナ前も後も3市の中でいわき市が最も多い。にもかかわらず減少率は19%と他2市と比べて2~5㌽低い。理由は飲食店街が分散していることが考えられる。スナックが10店舗以上ある地区は表2の通り。市内最大規模の飲食店街は平・田町でスナック約120店舗がひしめく。平地区のスナックの減少率は21%で、郡山・福島とあまり変わらない。減少幅の小さい小名浜や植田など周辺地区が平の減少率を緩和している形だ。 表2 いわき市のスナックの店数 2019年2021年減少率平地区15212021%小名浜地区453717%植田地区423419%常磐地区151220%出典:NTT『タウンページ』の掲載数より 「回復とは言えない」  平・白銀町でバー「QUEEN」を経営するマスター加藤功さん(65)=平飲食業会・社交部会部会長=は、叔母から店を引き継いで計63年続けている。 「客の入りは回復しているとは言い難いですね。土曜日でも空席がある。ライブを開催し、大物ミュージシャンを呼んでもチケットは完売になりませんでした。みんな出不精になったのかな」(加藤さん) コロナ禍で閉店する店が増えたことについては、 「跡継ぎがいないというかねてからの問題があります。コロナ禍が閉店に踏み切るきっかけになった。私の店も後継者はいません。酒を提供する店でも料理がメインのところは回復力が強い。純粋にお酒を愉しんだり、女性が接待する店はまだまだ厳しい」(同) 別のバーの男性オーナーAさんは 「うちは仲間内で楽しむ雰囲気の店です。美味しいものを味わってもらうというより、1人3000円くらいでサンドイッチなど軽食を用意し、腹いっぱいになって帰ってもらう。昔は公務員が多く来ていたが、コロナ以降は全然ですね」    平競輪場が近いこともあり、店内には競輪のグッズが飾ってあった。 「今は送別会をやる選手もいません。余裕がないんでしょうね。お客さんも店も一緒です。やめちゃった店は多分、コロナ禍の間に運営資金を4、500万円くらい借りてあっぷあっぷになったんじゃないか。俺もいつやめてもおかしくない。あと1年、あと1年とマイナスの状況で続けてきた。貯金はみんな食いつぶしたよ」(同) ただ、公務員や地域行事の打ち上げが戻ってきたことで、感染の収束を感じるとも話す。 「ようやく4月から警察関係の人たちが飲み歩き始めた。いい兆しです。だが、うちはPTAや保護者会などの団体さんが動き出さないと経営は厳しい。コロナ前は野球、サッカー、学校行事などが終わった後は打ち上げがお決まりでした。消防団もお得意さんですね。年間行事が決まっているので、安定した集客が見込めます」(同) パートで本業を支える  筆者は別の店主から「昼間にパートに出て本業(スナック)を支えている店もあった」と聞いた。 あるスナックのベテランママBさんも「他人事ではない」と話す。 「店を閉めるには借金を清算しなくてはなりません。でも、この年になったら働き口がないので店を続けるしかない。お客さんの数はコロナ前の水準には戻らないけど、常連さんが来てくれるのでかろうじてやっていけます」 前出のマスター加藤さんは、コロナ後の客の飲み方に明らかな変化を感じているという。 「大型連休中はお客さんがコロナ前の7割程度まで戻った。ただし、1次会だけで終わるケースが多い。帰りの運転代行のピークは20~21時の間です」 5月13日の土曜日、本誌記者2人は19時を待ち、電話帳から消えたスナックやバー・クラブを訪ね開店状況を調べた(結果は別表参照)。20~21時の間は平・田町の路地を団体客が通り、客引きが2次会の場所を紹介しようと賑わっていた。だが21時を過ぎると客足は減り、客引きの方が多くなった。女性従業員がペアになり、いわき駅方面に向かう男性客を呼び止めるが、人の流れが止まる気配はなかった。 電話帳から消えたいわき市平のスナック、バー・クラブ ○…5月13日(土)に営業確認 ×…営業未確認 地区店名最後の所在地または移転先営業状況田町スナックMajo新田町ビル〇桐子×cantina×COOL田町MKビル×Sweethomeミヨンビル〇LOVERINGミヨンビル→泉に移転集約〇スナック・汐第2紫ビル×スナック美穂志賀ビル×チェンマイ×歩楽里×スナック僕×Boroルネサンスビル×サムライサンスマイルビル2〇ラソ(Lazo)アマーレビル→田町鈴建ビル〇ビージェイオセーボ(BJOSEBO)サンスマイルビル1×スナックむげん梅の湯ビル×DREAM移転の情報×WITH二葉館ビル〇くおん田町ビル〇夕凪×きなこ寺田ビル×スナック・杏第3紫ビル×Materia×スナックパルティール2×パブスナックキャットハウス×ROAD鳥海ビル〇カマ騒ぎ×BAR BLUE〇Berry・Berryタマチビレッジ×二町目上海新天地紅小路ビル×スナックきよみ×スナック北京城ひかりビル×スナック戀(れん)×白銀アジエンス×クイーン〇酒処さかもと×五町目プラス・ワン移転の情報×パークサイド××…所在地が空欄の店は移転先の情報を得られなかった。  22時を過ぎると「お兄さん、マッサージいかがですか」と片言で誘ってくる女性が増えてきた。前出のベテランママBさんによると、中国人グループが組織的に行っているという。 土曜の夜でも22時には客が引けてしまう。スナックやバー・クラブにとっては本来、この時間帯からが勝負だが、そもそも2次会の客が減っているので、賑わう店とそうでない店の二極化が進んでいる。 期待が薄い駅前再開発 いわき駅並木通りの再開発事業  業界として打つ手はあるのか。 「徐々に暑くなり、街中でのイベントが再開されれば人通りは多くなります。それを飲食店街にどう呼び込むか。今夏、いわき駅前では七夕まつり、小名浜では花火大会がコロナ前の規模で開催されます。昨年末には、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格を祝うパレードも同駅前でありました。いわきFCに関してはイベントが始まったばかりということもあり、飲食店街の賑わいにどうつなげるか手探りです」(前出・加藤さん) いわき駅前は再開発でホテルやマンションの建設が進む。今後、宿泊しながら飲食する人は増えることが予想され、飲食店街にとっては好材料になるのではないか。 ただ、各店主に話を向けると「そうなればいいですね」「そんなに関係ないな」と、あまり期待していない様子だった。 田町で店の営業状況を調べていると、客引きの女性従業員から「どの店もいつ潰れてもおかしくない。もっといいように書いてくださいよ」と注文を受けた。 正直、プラスの材料を探すのは難しい。早く調査を終わらせようと、女性従業員にリストに載っている店が今もやっているか尋ねた。 「その店は昨年9、10月ころにはなくなったよ。ママが『売り上げがないから疲れちゃった』って。ママが亡くなって閉めた店もあります」 本誌がリストに載せた店は、消えた店の方が多かった。 「私らは最後までやるつもりですよ。それこそ死ぬまでね」 と女性従業員。覚悟を決めた人の言葉だった。 あわせて読みたい 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査 コロナで3割減った郡山のスナック

  • 客足回復が鈍い福島市「夜の街」

    客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

     5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる。飲食業界は度重なる「自粛」要請で打撃を受けたが、業界はコロナ禍からの出口の気配を感じ、「客足は感染拡大前の7~8割に戻りつつある」と関係者。一方、2次会以降の客を相手にするスナックは閉店・移転が相次ぎ、テナントの半数が去ったビルもある。福島市では主な宴会は県職員頼みのため、郡山市に比べ客足の回復が鈍く、夜の街への波及は限定的だ。 公務員頼みで郡山・いわきの後塵 飲食店が並ぶ福島市街地  福島市は県庁所在地で国の出先機関も多い「公務員の街」だ。市内のある飲食店主Aは「県職員が宴会をしないと商売が成り立たない」と話す。民間企業は、取引先に県関係の占める割合が多いため、宴会の解禁も県職員に合わせているという。 「東邦銀行も福島信用金庫も宴会を大々的に開いて大丈夫か県庁の様子を伺っているそうです。民間なら気にせず飲みに行けるかというとそうでもなく、行員に対する『監視の目』も県職員に向けられるのと同じくらい厳しい。ある店では地元金融機関の幹部が店で飲んでいたのを客が見つけて本店に『通報』し、幹部たちが飲みに行けなくなったという話を聞きました」(店主A) 福島市の夜の街は、県職員をはじめとする公務員の宴会が頼りだ。福島、伊達、郡山、いわきの4市で飲食店向けの酒卸店を経営する㈱追分(福島市)の追分拓哉会長(76)は街の弱みを次のように指摘する。 「福島、郡山、いわきの売り上げを比較すると、福島の飲食店の回復が最も弱いことが見えてきた」 2019年度『福島県市町村民経済計算』によると、経済規模を表す市町村内総生産は県内で多い順に郡山市が1兆3635億円(県内計の構成比17・1%)、いわき市が1兆3577億円(同17・0%)、福島市が1兆1466億円(同14・4%)。経済規模が大きいほど飲食店に卸す酒の売り上げも多くなると考えると、3位の福島市が他2市より少なくなるのは自然だ。だが追分会長によると、同市は売上高が他2市より少ないだけでなく、回復も遅いという。 「3市の酒売上高は、2019年は郡山、いわき、福島の順でした。各市の今年2月の売り上げは、19年2月と比べると郡山90%、いわき83%、福島76%に回復しています。郡山はコロナ前の水準まで戻ったが、福島はまだ4分の3です。しかも、コロナ禍で売上高が最も減少したのは福島でした。私は福島が行政都市であり、かつ他2市と比べて若者の割合が少ないことが要因とみています。県職員(行政関係者)が夜の街に出ないと、飲食店は悲惨な状態になります」(追分会長) 飲食業の再生の動きが鈍いのは、度重なる感染拡大に息切れしたことも要因だ。 「福島では昨年10月に到来した第8波で閉めた店が多く、駅前の大規模店も撤退しました。3、4月の歓送迎会シーズンで持ち直した現状を見ると、もう少し続けていればと思いますが、それはあくまで結果論です。これ以上ない経営努力を続けていたところに電気代の値上げが直撃し、体力が尽きてしまった。水道光熱費だけで10~20万円と賃料と同じ額に達する店もありました」 そうした中でも、コロナ禍を乗り切った飲食店には「三つの共通点」があるという。 「一つ目は『飲む』から『食べる』へのシフトです。スナックやバーが減り、代わりに小料理屋、イタリアン、焼き鳥屋が増えました」 「二つ目が『大』から『小』への移向です。宴会がなくなりました。あったとしても仲間内の小規模なものです。売りだった広い客席は大規模店には仇となりました。健闘しているのは、区分けして小規模宴会を呼び込んだ店です」 最後は「老」から「若」への変化。 「老舗が減りましたね。後継者がいない高齢の経営者が、コロナを機に見切りを付けたからです」 一方、これをチャンスと見てコロナ前では店を出すことなど考えられなかった駅前の一等地に若手経営者が出店する動きがあるという。経営者たちが見据えるのは、福島駅東口の再開発だ。 「4月から再開発エリアに建つ古い建物の本格的な取り壊しが始まりました。3年間の工事で市外・県外から500~1000人の作業員が動員されます。福島市役所の新庁舎(仮称・市民センター)建設も拍車をかけるでしょう。市内に建設業のミニバブルが訪れる中、ホテルや飲食店の需要は高まるとみられるが、老舗の飲食店が減っているので受け皿は十分にない。そのタイミングでお客さんを満足させる店を出すことができれば、不動の地位を獲得できると思います」 追分のグループ会社である不動産業㈱マーケッティングセンター(福島市)では毎年、市内の飲食店を同社従業員が訪問して開店・閉店状況を記録し、「マップレポート」にまとめてきた。最新調査は2019年12月~20年10月に行った。同レポートによると、開店は41店、閉店は106店。飲食店街全体としては、感染拡大前の837店から65店減り、772店となった。減少率は7・7%で、1988年に調査を開始して以降最大の減少幅だった。 「特に閉店が多かったのはスナック・バーです。48店が閉店し、全閉店数の44%を占めました」 もっとも、スナック・バーは開店数も業種別で最も多い。同レポートによると、11カ月の間に22店が開店し、全開店数の54%を占めた。酒とカラオケを備えれば営業できるため参入が容易で、もともと入れ替わりが盛んな業種と言えるだろう。 25%減ったスナック  マーケッティングセンターほどの正確性は保証できないが、本誌は夜の飲食店数をコロナ前後で比較した。1月号では郡山市のスナック・バーの閉店数を電話帳から推計。忘年会シーズンの昨年12月にスナックのママに電話をして客の入り具合を聞き取った。 電話帳から消えたと言って必ずしも閉店を意味するわけではない。もともと固定電話を契約していない店もあるだろう。ただし「昔から営業していた店が移転を機に契約を更新しなかったり、経費削減のために解約したりするケースはある」と前出の飲食店主Aは話す。今まで続けていたことをやめるという点で、固定電話の契約解除は、店に何らかの変化があったことを示す。 コロナ前の2019年と感染拡大後の2021年の情報を載せた電話帳(NTT作成「タウンページ」)を比較したところ、福島市の掲載店舗数は次のように減少した。 スナック 194店→145店(新規掲載1店、消滅50店) 差し引き49店が減った。減少数をコロナ前の店舗数で割った減少率は25・2%。 バー・クラブ 42店→35店(新規掲載なし、消滅7店) 減少率は16・6%。 果たしてスナック、バー・クラブの減少率は他の業種と比べ高いのか低いのか。夜の街に関わる他の業種の増減を調べた。2021年時点で20店舗以上残っている業種を記す。電話帳に掲載されている業種は店側が複数申告できるため、重複があることを断っておく(カッコ内は減少率)。 飲食店 208店→178店(14・4%) 居酒屋 143店→118店(17・4%) 食堂 75店→69店(8・0%) ラーメン店 63店→60店(5・0%) うどん・そば店 63店→55店(12・6%)  レストラン(ファミレス除く) 50店→42店(16・0%)  すし店(回転ずし除く) 39店→38店(2・5%) 中華・中国料理店 33店→31店(6・0%) 焼肉・ホルモン料理店 29店→24店(17・2%) 焼鳥店 25店→23店(8・0%)  日本料理店 23店→22店(4・3%) 酒を提供する居酒屋の減少率は17・4%と高水準だが、スナックは前記の通り、それを上回る25・2%だ。マーケティングセンターの2020年調査では、スナック48店が閉店した。照らし合わせると、電話帳から消えたスナックには閉店した店が含まれていることが推測できる。 筆者は電話帳から消えたスナックを訪ね、営業状況や移転先を確認した。結果は一覧表にまとめた。深夜食堂に業種転換した店、コロナ前に広げた支店を「選択と集中」させて危機を乗り越えた店、賃料の低いビルに引っ越し再起を図る店など、形を変えて生き残っている店も少なくない。 電話帳から消えた福島市街地のスナック ○…営業確認、×…営業未確認、※…ビル以外の店舗 陣場町 第10佐勝ビルスナッククローバー〇SECOND彩スナック彩に集約ハリカ〇レイヴァン(LaVan)✕ペガサス30ビル花音✕スナッククレスト(CREST)✕スナックトモト✕プラスαkana✕ハーモニー✕ボルサリーノスナックARINOS✕ファンタジー〇ポート99ラーイ(Raai)✕第5寿ビルジョーカー✕アイランド〇※モア・グレース✕※ 置賜町 エース7ビル韓国スナックローズハウス✕CuteCute✕トリコロール✕フィリピーナ✕ジャガービルトイ・トイ・トイ(toi・toi・toi)✕マノン✕鈴✕ピア21ビルK・桂✕ラパン✕ミナモトビルシャルム✕都ビル仮面舞踏会✕清水第1ビルマドンナ✕第5清水ビルラウンジラグナ✕ 栄町 イーストハウスあづま会館志桜里✕スナック楓店名キッチンkaedeで「食」に業種転換花むら✕第2あづまソシアルビルショーパブパライソ✕せらみ✕ムーチャークーチャー〇ユートピアビルスナックみつわ✕わがまま天使✕※ 万世町 パセオビルカトレア✕萌木✕ 新町 クラフトビルぼんと✕ゆー(YOU)✕金源ビルザ・シャトル✕スナック星(ぴょる)✕※凛〇※ 大町 コロールビルのりちゃんあっちゃん(ai)×エスケープ(SK-P)×※  電話帳に載っていないスナックもそこそこある。ただ、書き入れ時の金曜夜9時でも営業している様子がなく、移転先をたどれない店が多かった。あるビルの閉ざされた一室は、かつてはフィリピン人女性がもてなすショーパブだったのだろう。「福島県知事の緊急事態宣言の要請により当店は暫くの間休業とさせていただきます」と書かれた紙がドアに張られ、扉の隙間には開封されていない郵便物が挟まっていた。 「やめたくない」  ビル入口にあるテナントを示す看板は点灯しているのに、どこの階にも店が見当たらない事態も何度も遭遇した。あるベテランママの話。 「看板を総取っ換えしなきゃならないから、余程のことがないとオーナーは交換しない。一つの階が丸ごと空いているビルもあるわ」 飲食店主Bも言う。 「存在しない店の看板は覆い隠せばいいが、オーナーは敢えてそうはしません。テナントもしてほしくないでしょう。人けがないビルと明かすことになるからです」 テナントの空きは、スナック業界の深刻さも表している。 「手狭ですが家賃が安い新参者向けのビルがあります。入口にある看板は20軒くらいついていて全部埋まっているように見えるが、各階に行くと数軒しか営業していない。新しく店を始める人がいないんでしょうね」(店主B) 閉店する際も「後腐れなく」とはいかない。前出のベテランママがため息をつく。 「せいせいした気持ちで店をやめる人なんて誰もいませんよ。出入りしているカラオケ業者から聞いた話です。カラオケ代を3カ月分滞納した店があり、取り立てに行った。払えない以上は、目ぼしい財産を処分し、返済に充てて店を閉めなければならない。そこのママは『やめたくない』と泣いたそうです。しかし、そのカラオケ業者も雇われの身なので淡々と請求するしかなかったそうです」 大抵は連帯保証人となっている配偶者や恋人、親きょうだいが返済するという。 2021、22年に起きた2度の大地震は、コロナにあえぐスナックにとって泣きっ面に蜂だった。酒瓶やグラスがたくさん割れた。あるビルでは、オーナーとテナントが補償でもめ、納得しない人は移転するか、これを機に廃業したという。テナントの半数近くに及んだ。 福島市内のビルの多くは30~40年前のバブル期に建てられた。初期から入居しているテナントは、家賃は契約時のままで、コロナで赤字になってもなかなか引き下げてもらえなかった。コロナ禍ではどこのビルも空室が増え、オーナーは家賃を下げて新規入居者を募集。余力のあるスナックはより良い条件のビルに移転したという。 ベテランママは引退を見据える年齢に差しかかっている。苦境でも店を続ける理由は何か。 「コロナが収束するまではやめたくない。閉店した店はどこもふっと消えて、周りは『コロナで閉めた』とウワサする。それぞれ事情があってやめたのに、時代に負けたみたいで嫌だ。私にとっては、誰もがマスクを外して気兼ねなく話せるようになったらコロナ収束ですね。最後はなじみのお客さんを迎え、惜しまれながら去りたい」 ベテランママの願いはかなうか。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く

  • 〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く

    「コロナ閉店」した郡山バー店主に聞く

    新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「自粛」が求められる場面が増えている。とりわけ、酒類を扱う「夜の飲食店」に行く機会が減った人は多いと思われる。当然、客が来なければ飲食店もやっていけない。いわゆる〝コロナ閉店〟する飲食店は少なくないという。実際に〝コロナ閉店〟した郡山市のバー店主に話を聞いた。 「営業しただけ赤字増加」で見切り  「店を開ければ開けただけ赤字が増えるんですから、やってられませんよ。幸い、『やめられるメド』が立ったので閉店しました」  こう話すのは、郡山市のJR郡山駅近く、陣屋でバーを経営していた男性。この男性は昨年秋前に自身が経営していたバーを閉店した。いわゆる〝コロナ閉店〟である。  「2020年2、3月にコロナの問題が本格化して以降は、多少の変化はありつつも、ずっと厳しい状況が続いていました。歓送迎会や忘新年会など、本来なら最もにぎわうシーズンですら、お客さんがかなり少なく、ゼロという日も少なくなかったですからね。特に『どこかでクラスターが発生した』といった報道等が出ると、発生源の店舗が入居するビルはもちろん、その周辺には人が寄り付かなくなります。一度そうなってしまうと、なかなか客足は戻りません」(元バー店主の男性)  本誌2020年10月号に「クラスター発生に揺れた郡山と会津若松」という特集記事を掲載し、郡山市のホストクラブでクラスターが発生したことを受け、行政の対応、関係者の足取り、店舗の対応などについてリポートした。その中で、周辺店舗関係者の「緊急事態宣言解除後、少しずつ売り上げが戻っていたが、今回のクラスター発生で再び下降している。こんなことが二度、三度と続けば持たない」、「クラスター発生を機に駅前全体の客足が鈍っている。他店からも『いつまで持つか』という嘆きが聞かれる。回復にはまだまだ時間がかかるだろう」といった声を紹介した。そういった事例が出ると、周辺店舗やその後の客足など影響が大きいというのだ。 人通りが少ない郡山市飲食店街(陣屋)  それでなくても、この間、接待を伴う飲食店、酒類の提供を行う飲食店に対しては、まん延防止等重点措置や、県独自の緊急・集中対策によって、営業自粛・時短営業を求められることが多かった。  「少し落ち着いてきたと思ったら、まん延防止や県独自の措置によって営業自粛・時短営業要請が発令される、ということの繰り返しでしたからね。もっとも、営業自粛・時短営業要請の期間は協力金が受け取れたため、店を開けて客が全く来ないときよりはマシでした。といっても、協力金は各種支払いに全部消えましたけど」(同) 協力金の仕組み  例えば、2021年1月13日から2月14日までに出された営業自粛・時短営業要請では、1日当たり4万円の協力金が支給された。33日間で計132万円だったが、「家賃の支払いを待ってもらっていた分、カラオケのリース料、酒卸業者への支払いなどで全部なくなった。むしろ、それだけではまかなえなかった」(同)という。  その後は、郡山市の場合、2021年7月26日から8月16日までは、県の「集中対策」として、営業自粛・時短営業要請が出され、この時は売り上げに応じて、「1日2万5000円〜」というルールで協力金が支払われた。昨年1月27日から2月21日までは、まん延防止等重点措置として営業自粛・時短営業要請が出され、この時は「前年度、前々年度の売上高に応じて1日当たり2万5000円〜7万5000円」の売上高方式か、「前年度、前々年度比の1日当たりの売上高減少額の4割」の売上高減少方式を選択できる仕組みだった。  ただ、いずれにしても、「協力金は各種支払いにすべて消える」といった状況だったという。  ちなみに、本誌はこの間、感染リスクが高いとされる業種(旅客業、宿泊・飲食サービス業など)は国内総生産(GDP)の5%程度で、これまで政府がコロナ対策として投じてきた予算が数十兆円に上ることを考えると、東京電力福島第一原発事故に伴う賠償金の事例に当てはめて補償するというような対応が可能で、そうすべきだった――と書いた。 一番厳しかった一昨年夏  男性によると、最も厳しかったのは2021年夏ごろだったという。感染拡大「第5波」が到来し、感染力が強く、重症化のリスクも高いとされる変異種「デルタ株」が流行していたころだ。  「あの時期は本当に厳しかった。平日(月〜木)はほぼお客さんがゼロという日が続き、週末(金・土)だって、それほど入るわけではありませんでしたから。それでも、私は1人でやっていたから、まだマシだったと思う。従業員がいたら、どうしようもなかった」(同)  コロナ前、平日(月〜木)は売り上げが5万円から8万円、週末(金・土)はその約3倍で、週50万円〜80万円の売り上げがあった。それがひどい時は平日はほぼゼロ、週末はコロナ前の平日並みになった。それでも、家賃や光熱費などの固定経費は変わらない。結果、「店を開ければ開けただけ赤字が増える」状況だったというのである。  「最近は少し規制などが緩くなり、以前よりはマシになりました。週末の居酒屋などはそこそこ入っていると思います。ただ、バーや女性が接待する店はまだまだ戻っていない。私の知り合いの店でも、女性キャストは週の半分は休みという感じです。週末は黒字だが、平日の赤字分をカバーしきれない、といった店が多いのではないか」(同)  冒頭、男性は「『やめられるメド』が立った」と語ったが、一番大きいのは、「テナント退去時の修繕費が最初に納めた敷金でまかなえたこと」という。そのほか、残っていた各種支払いがあったが、何とかそのメドが立ったから閉店を決めた。  「テナント退去時の修繕費がどうなるのかが怖かったが、敷金でまかなえたので良かった。逆に、やめたいと思っても、その(修繕費の)見通しが立たなくてやめられないところもあると思います」(同)  男性の知人の店舗でも、やめたところが何軒かあり、「いつやめたのか分からないが、気付いたら閉店していたところもあった」という。  コロナが出始めたころは、ワクチンが普及し、ある程度、通常の生活ができるようになり、客足が戻ってくることを期待していたようだ。ただ、思いのほか長引き、見切りを付けた。最後に男性は「こんなことなら、もっと早くやめれば良かった」と語った。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

     5月に新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に引き下げられ、夜の飲食街は感染収束ムードが漂う。だが、客の嗜好が「飲」から「食」に変化し、団体の2次会は望めない。夜の街調査4回目は6月3日土曜日に会津若松市を回った。 頼みの「無尽」は規模縮小 飲食店が入るパティオビル(会津若松市上町)=6月3日、午後10時35分  会津若松市は会津地方の消費都市の性格が強い。市内だけでなく近隣の喜多方市、猪苗代町はもちろん、遠方は南会津町などからも訪れる。そのため、市内人口に比して飲食店が多く、電話帳をベースに人口1000人当たりのスナック店数を調べたところ、県内主要4市では最も多かった(表1、表2)。 表1:県内人口上位4市のスナック店舗数 2023年5月1日推計人口(百人)2019年スナック数(店)2021年スナック数(店)減少率(%)いわき市3226273221▲19.0郡 山 市3222202159▲21.2福 島 市2763194145▲25.2会津若松市1133158124▲21.5 表2:県内人口上位4市の千人当たりスナック店舗数 2021年スナック店数人口千人当たり店数会津若松市1241.09いわき市2210.68福 島 市1450.52郡 山 市1590.49  「地理的に考えると、峠を越えてきた人たちが金を落とす一大消費地でした」とは市内のある飲食店経営者。 近代から戦後にかけては、猪苗代湖の水力発電で得た安価な電力を背景に産業が集積した。 あるスナックのママが40年前をしのぶ。 「富士通の工場があったころは関係者がよく飲みに来ました」 眠らない街の光景が、いまも目に焼き付いている。 「1980年代の話です。私の店は深夜1時に閉めますが、帰りのタクシーが拾えないほど。2時3時になってもタクシー待ちの行列です。お店はほとんど閉まっているのにどこに人がいたのかと思うくらいの数。『この人たち、明日は仕事だろうに大丈夫なのかな』と心配でしたね。金曜、土曜ではなく平日の話です。いい時代でしたよね……。いまですか? 最悪ですよ」(前出のママ) 新型コロナの感染拡大以降は金、土曜日だけ営業してきた。4月ごろは週末に4、5人が来てくれて明るい兆しを感じたが、5月の大型連休は客の入りが鈍く、同月半ばからは確実に悪い。 「私1人でやっているので、若いお客さんは来ないでしょう。大型連休は、街は久しぶりに若者で賑わっていました。でも、若い人だって毎日は飲みに行かないでしょ。連日賑わっている店はないと思いますよ」(同) 賑わっているところはあるのか。店主たちに聞くと、「パティオビル周辺だけは人が大勢いる」という。パティオビル(地図参照)に入居するテナントはキャバクラやスナック、バー・クラブなど若年層向けの店が多い。 地図:会津若松市の飲食店街  ビルのきらびやかな照明が夜に浮かび上がる。エントランスに入ると、店の紹介映像が画面に流れていた。派手な光と音に包まれ、ここだけ別世界だ。エントランスの上部を見ると、天井の隅に張り付いてこちらをうかがう巨大なゴリラの模型と目が合った。 ビルの前では男女問わず若いグループが複数たむろし、解散するか次の店をどこにするかを話し合っていた。道を挟んで向かいにはコンビニがある。ビル内の店に入るかどうかは別として、人が集まるようだ。 パティオビルは、どの階もテナントで埋まっていた。家賃は階が違っても変わらないので、上階より人の往来がある1階が人気だ。最も賑わう同ビルでさえも移転か閉じた店があるが、入居者も同じ数だけあり、テナントの新陳代謝が起きている。 苦境に立つ老舗  これまでの夜の街調査でも指摘しているように、客が夜の飲食店に求めるものは「飲」から「食」に移ったが、客層も「老」から「若」に移行した。コロナ禍を機に老舗が閉店した。 50年来スナックを経営してきたマスターは、最近の客の一言にプライドを傷つけられた。 「初めて来た男性のお客さんでしたね。『女の子はいないの』と店内を見回しました。若い女性従業員をたくさん抱える店じゃないと知ると、『じゃあいい』とバタンとドアを閉めていきました。街やお客さんと共に私たち従業員も年を重ねてきました。お客さんの好みは理解しますが、入店をやめるにしてもスマートな去り方があるのではないか」 共に年齢を重ねてきた高齢の客は新型コロナに感染して重篤化するのを恐れ、外での飲食を控えるようになった。3年経てば「飲みに行かない」のが習慣となるが、それでも変わらず来てくれる常連もいる。「店を閉めて寂しいとは言われたくない」(マスター)。何より、長年働いてくれている高齢従業員の生活のために、わずかでも稼がなければならない。 会津若松の調査は、郡山(今年1月号)、福島(同5月号)、いわき(同6月号)に続き4回目となる。いままで3市の夜の街を調査してきたと店主らに話すと、よく聞いたのが「いわきはコロナでも賑わっているようだね」「実際に(いわきに)行った人から繁盛していると聞いた」と羨む声だった。 だが、それは幻想と言っていい。いわきでも土曜日にもかかわらず、団体の2次会需要はほとんどないため、夜10時以降閑散とするのは会津若松と変わらない。「食」がメインの店舗でも、売り上げがコロナ禍前の7割に戻っていれば良い方だ。店を開けるだけでは2次会の客が来ることは期待できず、多くの老舗が客の行動変化に苦労していた。 地方は少子高齢化が急速に進み、経済規模の縮小は免れられない。いわきは首都圏に近いという地の利はあるが、会津若松と同様、コロナ禍から未だ立ち直ってはいない。 県内4市の夜の街を調査すると、感染拡大前から飲食店は総じて減っており、コロナ禍が閉店を早めたと言える。本稿末尾にコロナ禍後に電話帳から消えたスナック、バー・クラブの営業調査結果を載せた。近隣の店主に聞くと、コロナ禍前に閉じた店も散見された。 電話帳から消えた会津若松市のスナック、バー・クラブ 〇…6月3日(土)に営業確認 ×…営業未確認 店名建物名営業状況栄町スナック翼パピヨンプラザビル×スナックあんり五番街ネクサスビル×スナック燁里エクセレント大手門ビル×スナックみっちゃん×Coralマリンビル×さざなみ三進ビル×すなっくなおこ白亜ビル×スナックひまわり×スナック演歌Mビル→白亜ビル〇上流階級ヴェルファーレビル〇西栄町スナック情不明×行仁町ラブストーリーリトル東京×上町スナックオルゴール(織香瑠)上町一番街×スナックディアレストAsahi Alpa×スナックアンルート×でん福マルコープラザ×レイティス(RETICE)パティオビル×regalia×スナックageha〇スナック古窯パティオビル→移転〇ミュージックパブオアシスセンチュリーホテル×ゴールデンウェーブ×Villeセンチュリー・ノアビル×スナック胡遊×ピンクパンサー〇佑花×馬場町ベルコット石井ビル×スナックシナリオサンコープラザビル×れとろ×ENZYU×宮町パーティハウス北日本ビル×スナック赤いグラス明月ビル×ニューサンシャインサンシャインビル× 「無尽」の互助に異変  飲食店街は打つ手がないのか。前出の飲食店経営者は「会津若松の夜の活気は無尽が支えてきた」と話す。 無尽とは、会員が掛け金を出し合い、一定期日にくじで優先的に融通の権利を得るシステムやその会のこと。前近代的な金融の一種で、現在は山梨県のものが有名。福島県内では会津地方が盛んだ。 飲食店経営者が説明する。 「例えば会費を1万円とします。5000円を場所代として飲食店で消費し、残りの5000円を積み立てる。10人集まれば、1回の集まりにつき店に5万円を落とし、無尽に5万円を積み立てられる。1年後には60万円に達し、くじでもらう人を決めたり、急ぎの金が要る人に融通する。親睦旅行の代金に充て、会員全員に還元する方法もある」 個々の無尽で取り決めは違うが、現代では無尽にかこつけて集まることが目的なので、積み立てや融通の方法自体は重要ではないという。互助的なシステムである点が大事だ。 「居酒屋はたいてい1店につき6~12本の無尽を持っている。毎月1、2回は店に集まって会を開くので、何本無尽を持てるかが経営の安定につながると言っていい。常連客の他に魚屋、酒屋などの出入り業者、スナックの店主も参加する」(前出の飲食店経営者) 1次会はその居酒屋で、2次会は無尽に参加しているスナックで、という流れができ、常連客も店主も無尽つながりでお互いに店を利用するようになる。「無尽の飲み会がある」と言うと、家族も「しょうがない」と止めるのを諦めるほどの大義名分が立つという。 選挙も無尽で決まると言っても過言ではない。酒席では「健康状態が悪いらしい」「金銭的に苦しいようだ」と政治家のウワサが飛び交い、それを会社や家庭に持ち帰ったり、掛け持ちしている別の無尽で話したりして末端まで広がる。 「いわば選挙キャンペーンの装置です。多くは根も葉もないウワサですが、本人にとっては政治生命に関わる。政治家は、酒席でウワサを否定しなければなりません」(同) 企業も無縁ではない。この経営者によると、商工団体以上の情報伝達網だという。経営難や信用不安など悪いウワサも多い。 侮れない無尽だが、さすがにコロナ禍では自粛となった。 前出のスナックママは 「コロナを機に無尽もやめようという話が出てずいぶん減りました。無尽という言葉すら聞かなくなりましたね」 一方で、前出の飲食店経営者は楽観的だ。1次会の客をメインにしている事情がある。 「飲食店同士の無尽は出費を抑えるために減ったかもしれませんが、個人の参加は着実にあります。ウワサ、酒、選挙という勝負事への欲求は人間のさがですからね。定期的に街へ出る回数が増えれば、飲食店街に広く波及していくはずです。懸念しているのは、運転代行業者が確保できないことです。会津若松の飲食店街は近隣市町村からも多くのお客さんが来ます。コロナ禍で減った運転代行業者の数が戻らないと客足回復の機会を逃がしてしまう」 その店が主にしているのが1次会か2次会かで見解が全く異なる。人付き合いを断つ理由を与えてしまったのがコロナ禍だったと言える。若者の酒離れが進む昨今、スナックママが体験した無尽離れの方が現実味を帯びる。 あわせて読みたい 【いわき駅前】22時に消える賑わい コロナで3割減った郡山のスナック 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 【いわき駅前】22時に消える賑わい

     新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。かつての日常に戻りつつある中、店での飲食は動向が大きく変わった。客の重視は「飲む」から「食べる」に変化。職場の宴会は減り、あっても1次会のみ。酒の提供がメインで接待を伴うスナックは2次会以降を当てにしているため、客数減による淘汰が進む。第3弾となる夜の街調査は、いわき市を巡った。 客足戻ってもスナックに波及せず  本誌はこれまで郡山市と福島市にあるスナックの数を、電話帳を基にコロナ前と後で比較してきた。電話や訪問で営業状況を確認し、ママやマスターに聞き取り調査を重ねた。 第3回となる今回は、経済規模が県内2番目のいわき市(表1参照)の夜の街を調べた。新型コロナが5類に引き下げとなって初めての土曜日(5月13日)夜に、本誌記者2人がJRいわき駅前(平地区)の店を訪問し、店主から聞き取った。 表1 県内の経済規模上位5市 市町村内総生産県全体の構成比郡山市1兆3635億円17.10%いわき市1兆3577億円17.00%福島市1兆1466億円14.40%会津若松市4553億円5.70%南相馬市3307億円4.10%出典:2019年度『福島県市町村民経済計算』 一1000万円以下切り捨て  現地調査の前に店の増減を電話帳から把握する。新型コロナ感染拡大前の2019年11月時点と感染拡大後の21年10月時点の電話帳(NTT発行『タウンページいわき市版』)で掲載数を比較した。 2021年時点で20軒以上ある業種を挙げる。業種は店からの申告に基づき重複がある。多い順に次の通り(カッコ内は減少率)。 スナック 273店→221店(19・0%) 飲食店 201店→180店(10・4%) 居酒屋 168店→148店(11・9%) 食堂 83店→68店(18・0%) すし店(回転ずし除く) 69店→64店(7・2%) レストラン(ファミレス除く) 72店→62店(13・8%) ラーメン店 67店→62店(7・4%) 喫茶店 61店→54店(11・4%) 焼肉・ホルモン料理店 38店→37店(2・6%) 中華料理店 38店→37店(2・6%) バー・クラブ 48店→36店(25・0%) 焼鳥店 34店→33店(2・9%) うどん・そば店 30店→28店(6・6%) 日本料理店 28店→25店(10・7%) ファミレス 25店→24店(4・0%) カフェ 23店→21店(8・6%) 減少数・率ともに大きいのはスナックだった。53店が電話帳から消え、1店が新規掲載。差し引き52店減少した。もともとの店舗数はスナックや居酒屋に比べれば少ないが、減少率が最も大きかったのはバー・クラブの25・0%。12店が電話帳から消え、新規掲載はなかった。 酒と接待の場を提供するスナックやバー・クラブの減少が著しいのは郡山・福島両市も同じだ。 郡山市 スナック 202店→159店(減少率21・2%)。消滅48店、新規掲載5店 バー・クラブ 45店→42店(減少率6・6%)。消滅5店、新規掲載2店 福島市 スナック 194店→145店(減少率25・2%)。消滅50店、新規掲載1店 バー・クラブ 42店→35店(減少率16・6%)。消滅7店、新規掲載なし スナックの数はコロナ前も後も3市の中でいわき市が最も多い。にもかかわらず減少率は19%と他2市と比べて2~5㌽低い。理由は飲食店街が分散していることが考えられる。スナックが10店舗以上ある地区は表2の通り。市内最大規模の飲食店街は平・田町でスナック約120店舗がひしめく。平地区のスナックの減少率は21%で、郡山・福島とあまり変わらない。減少幅の小さい小名浜や植田など周辺地区が平の減少率を緩和している形だ。 表2 いわき市のスナックの店数 2019年2021年減少率平地区15212021%小名浜地区453717%植田地区423419%常磐地区151220%出典:NTT『タウンページ』の掲載数より 「回復とは言えない」  平・白銀町でバー「QUEEN」を経営するマスター加藤功さん(65)=平飲食業会・社交部会部会長=は、叔母から店を引き継いで計63年続けている。 「客の入りは回復しているとは言い難いですね。土曜日でも空席がある。ライブを開催し、大物ミュージシャンを呼んでもチケットは完売になりませんでした。みんな出不精になったのかな」(加藤さん) コロナ禍で閉店する店が増えたことについては、 「跡継ぎがいないというかねてからの問題があります。コロナ禍が閉店に踏み切るきっかけになった。私の店も後継者はいません。酒を提供する店でも料理がメインのところは回復力が強い。純粋にお酒を愉しんだり、女性が接待する店はまだまだ厳しい」(同) 別のバーの男性オーナーAさんは 「うちは仲間内で楽しむ雰囲気の店です。美味しいものを味わってもらうというより、1人3000円くらいでサンドイッチなど軽食を用意し、腹いっぱいになって帰ってもらう。昔は公務員が多く来ていたが、コロナ以降は全然ですね」    平競輪場が近いこともあり、店内には競輪のグッズが飾ってあった。 「今は送別会をやる選手もいません。余裕がないんでしょうね。お客さんも店も一緒です。やめちゃった店は多分、コロナ禍の間に運営資金を4、500万円くらい借りてあっぷあっぷになったんじゃないか。俺もいつやめてもおかしくない。あと1年、あと1年とマイナスの状況で続けてきた。貯金はみんな食いつぶしたよ」(同) ただ、公務員や地域行事の打ち上げが戻ってきたことで、感染の収束を感じるとも話す。 「ようやく4月から警察関係の人たちが飲み歩き始めた。いい兆しです。だが、うちはPTAや保護者会などの団体さんが動き出さないと経営は厳しい。コロナ前は野球、サッカー、学校行事などが終わった後は打ち上げがお決まりでした。消防団もお得意さんですね。年間行事が決まっているので、安定した集客が見込めます」(同) パートで本業を支える  筆者は別の店主から「昼間にパートに出て本業(スナック)を支えている店もあった」と聞いた。 あるスナックのベテランママBさんも「他人事ではない」と話す。 「店を閉めるには借金を清算しなくてはなりません。でも、この年になったら働き口がないので店を続けるしかない。お客さんの数はコロナ前の水準には戻らないけど、常連さんが来てくれるのでかろうじてやっていけます」 前出のマスター加藤さんは、コロナ後の客の飲み方に明らかな変化を感じているという。 「大型連休中はお客さんがコロナ前の7割程度まで戻った。ただし、1次会だけで終わるケースが多い。帰りの運転代行のピークは20~21時の間です」 5月13日の土曜日、本誌記者2人は19時を待ち、電話帳から消えたスナックやバー・クラブを訪ね開店状況を調べた(結果は別表参照)。20~21時の間は平・田町の路地を団体客が通り、客引きが2次会の場所を紹介しようと賑わっていた。だが21時を過ぎると客足は減り、客引きの方が多くなった。女性従業員がペアになり、いわき駅方面に向かう男性客を呼び止めるが、人の流れが止まる気配はなかった。 電話帳から消えたいわき市平のスナック、バー・クラブ ○…5月13日(土)に営業確認 ×…営業未確認 地区店名最後の所在地または移転先営業状況田町スナックMajo新田町ビル〇桐子×cantina×COOL田町MKビル×Sweethomeミヨンビル〇LOVERINGミヨンビル→泉に移転集約〇スナック・汐第2紫ビル×スナック美穂志賀ビル×チェンマイ×歩楽里×スナック僕×Boroルネサンスビル×サムライサンスマイルビル2〇ラソ(Lazo)アマーレビル→田町鈴建ビル〇ビージェイオセーボ(BJOSEBO)サンスマイルビル1×スナックむげん梅の湯ビル×DREAM移転の情報×WITH二葉館ビル〇くおん田町ビル〇夕凪×きなこ寺田ビル×スナック・杏第3紫ビル×Materia×スナックパルティール2×パブスナックキャットハウス×ROAD鳥海ビル〇カマ騒ぎ×BAR BLUE〇Berry・Berryタマチビレッジ×二町目上海新天地紅小路ビル×スナックきよみ×スナック北京城ひかりビル×スナック戀(れん)×白銀アジエンス×クイーン〇酒処さかもと×五町目プラス・ワン移転の情報×パークサイド××…所在地が空欄の店は移転先の情報を得られなかった。  22時を過ぎると「お兄さん、マッサージいかがですか」と片言で誘ってくる女性が増えてきた。前出のベテランママBさんによると、中国人グループが組織的に行っているという。 土曜の夜でも22時には客が引けてしまう。スナックやバー・クラブにとっては本来、この時間帯からが勝負だが、そもそも2次会の客が減っているので、賑わう店とそうでない店の二極化が進んでいる。 期待が薄い駅前再開発 いわき駅並木通りの再開発事業  業界として打つ手はあるのか。 「徐々に暑くなり、街中でのイベントが再開されれば人通りは多くなります。それを飲食店街にどう呼び込むか。今夏、いわき駅前では七夕まつり、小名浜では花火大会がコロナ前の規模で開催されます。昨年末には、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格を祝うパレードも同駅前でありました。いわきFCに関してはイベントが始まったばかりということもあり、飲食店街の賑わいにどうつなげるか手探りです」(前出・加藤さん) いわき駅前は再開発でホテルやマンションの建設が進む。今後、宿泊しながら飲食する人は増えることが予想され、飲食店街にとっては好材料になるのではないか。 ただ、各店主に話を向けると「そうなればいいですね」「そんなに関係ないな」と、あまり期待していない様子だった。 田町で店の営業状況を調べていると、客引きの女性従業員から「どの店もいつ潰れてもおかしくない。もっといいように書いてくださいよ」と注文を受けた。 正直、プラスの材料を探すのは難しい。早く調査を終わらせようと、女性従業員にリストに載っている店が今もやっているか尋ねた。 「その店は昨年9、10月ころにはなくなったよ。ママが『売り上げがないから疲れちゃった』って。ママが亡くなって閉めた店もあります」 本誌がリストに載せた店は、消えた店の方が多かった。 「私らは最後までやるつもりですよ。それこそ死ぬまでね」 と女性従業員。覚悟を決めた人の言葉だった。 あわせて読みたい 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査 コロナで3割減った郡山のスナック

  • 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

     5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる。飲食業界は度重なる「自粛」要請で打撃を受けたが、業界はコロナ禍からの出口の気配を感じ、「客足は感染拡大前の7~8割に戻りつつある」と関係者。一方、2次会以降の客を相手にするスナックは閉店・移転が相次ぎ、テナントの半数が去ったビルもある。福島市では主な宴会は県職員頼みのため、郡山市に比べ客足の回復が鈍く、夜の街への波及は限定的だ。 公務員頼みで郡山・いわきの後塵 飲食店が並ぶ福島市街地  福島市は県庁所在地で国の出先機関も多い「公務員の街」だ。市内のある飲食店主Aは「県職員が宴会をしないと商売が成り立たない」と話す。民間企業は、取引先に県関係の占める割合が多いため、宴会の解禁も県職員に合わせているという。 「東邦銀行も福島信用金庫も宴会を大々的に開いて大丈夫か県庁の様子を伺っているそうです。民間なら気にせず飲みに行けるかというとそうでもなく、行員に対する『監視の目』も県職員に向けられるのと同じくらい厳しい。ある店では地元金融機関の幹部が店で飲んでいたのを客が見つけて本店に『通報』し、幹部たちが飲みに行けなくなったという話を聞きました」(店主A) 福島市の夜の街は、県職員をはじめとする公務員の宴会が頼りだ。福島、伊達、郡山、いわきの4市で飲食店向けの酒卸店を経営する㈱追分(福島市)の追分拓哉会長(76)は街の弱みを次のように指摘する。 「福島、郡山、いわきの売り上げを比較すると、福島の飲食店の回復が最も弱いことが見えてきた」 2019年度『福島県市町村民経済計算』によると、経済規模を表す市町村内総生産は県内で多い順に郡山市が1兆3635億円(県内計の構成比17・1%)、いわき市が1兆3577億円(同17・0%)、福島市が1兆1466億円(同14・4%)。経済規模が大きいほど飲食店に卸す酒の売り上げも多くなると考えると、3位の福島市が他2市より少なくなるのは自然だ。だが追分会長によると、同市は売上高が他2市より少ないだけでなく、回復も遅いという。 「3市の酒売上高は、2019年は郡山、いわき、福島の順でした。各市の今年2月の売り上げは、19年2月と比べると郡山90%、いわき83%、福島76%に回復しています。郡山はコロナ前の水準まで戻ったが、福島はまだ4分の3です。しかも、コロナ禍で売上高が最も減少したのは福島でした。私は福島が行政都市であり、かつ他2市と比べて若者の割合が少ないことが要因とみています。県職員(行政関係者)が夜の街に出ないと、飲食店は悲惨な状態になります」(追分会長) 飲食業の再生の動きが鈍いのは、度重なる感染拡大に息切れしたことも要因だ。 「福島では昨年10月に到来した第8波で閉めた店が多く、駅前の大規模店も撤退しました。3、4月の歓送迎会シーズンで持ち直した現状を見ると、もう少し続けていればと思いますが、それはあくまで結果論です。これ以上ない経営努力を続けていたところに電気代の値上げが直撃し、体力が尽きてしまった。水道光熱費だけで10~20万円と賃料と同じ額に達する店もありました」 そうした中でも、コロナ禍を乗り切った飲食店には「三つの共通点」があるという。 「一つ目は『飲む』から『食べる』へのシフトです。スナックやバーが減り、代わりに小料理屋、イタリアン、焼き鳥屋が増えました」 「二つ目が『大』から『小』への移向です。宴会がなくなりました。あったとしても仲間内の小規模なものです。売りだった広い客席は大規模店には仇となりました。健闘しているのは、区分けして小規模宴会を呼び込んだ店です」 最後は「老」から「若」への変化。 「老舗が減りましたね。後継者がいない高齢の経営者が、コロナを機に見切りを付けたからです」 一方、これをチャンスと見てコロナ前では店を出すことなど考えられなかった駅前の一等地に若手経営者が出店する動きがあるという。経営者たちが見据えるのは、福島駅東口の再開発だ。 「4月から再開発エリアに建つ古い建物の本格的な取り壊しが始まりました。3年間の工事で市外・県外から500~1000人の作業員が動員されます。福島市役所の新庁舎(仮称・市民センター)建設も拍車をかけるでしょう。市内に建設業のミニバブルが訪れる中、ホテルや飲食店の需要は高まるとみられるが、老舗の飲食店が減っているので受け皿は十分にない。そのタイミングでお客さんを満足させる店を出すことができれば、不動の地位を獲得できると思います」 追分のグループ会社である不動産業㈱マーケッティングセンター(福島市)では毎年、市内の飲食店を同社従業員が訪問して開店・閉店状況を記録し、「マップレポート」にまとめてきた。最新調査は2019年12月~20年10月に行った。同レポートによると、開店は41店、閉店は106店。飲食店街全体としては、感染拡大前の837店から65店減り、772店となった。減少率は7・7%で、1988年に調査を開始して以降最大の減少幅だった。 「特に閉店が多かったのはスナック・バーです。48店が閉店し、全閉店数の44%を占めました」 もっとも、スナック・バーは開店数も業種別で最も多い。同レポートによると、11カ月の間に22店が開店し、全開店数の54%を占めた。酒とカラオケを備えれば営業できるため参入が容易で、もともと入れ替わりが盛んな業種と言えるだろう。 25%減ったスナック  マーケッティングセンターほどの正確性は保証できないが、本誌は夜の飲食店数をコロナ前後で比較した。1月号では郡山市のスナック・バーの閉店数を電話帳から推計。忘年会シーズンの昨年12月にスナックのママに電話をして客の入り具合を聞き取った。 電話帳から消えたと言って必ずしも閉店を意味するわけではない。もともと固定電話を契約していない店もあるだろう。ただし「昔から営業していた店が移転を機に契約を更新しなかったり、経費削減のために解約したりするケースはある」と前出の飲食店主Aは話す。今まで続けていたことをやめるという点で、固定電話の契約解除は、店に何らかの変化があったことを示す。 コロナ前の2019年と感染拡大後の2021年の情報を載せた電話帳(NTT作成「タウンページ」)を比較したところ、福島市の掲載店舗数は次のように減少した。 スナック 194店→145店(新規掲載1店、消滅50店) 差し引き49店が減った。減少数をコロナ前の店舗数で割った減少率は25・2%。 バー・クラブ 42店→35店(新規掲載なし、消滅7店) 減少率は16・6%。 果たしてスナック、バー・クラブの減少率は他の業種と比べ高いのか低いのか。夜の街に関わる他の業種の増減を調べた。2021年時点で20店舗以上残っている業種を記す。電話帳に掲載されている業種は店側が複数申告できるため、重複があることを断っておく(カッコ内は減少率)。 飲食店 208店→178店(14・4%) 居酒屋 143店→118店(17・4%) 食堂 75店→69店(8・0%) ラーメン店 63店→60店(5・0%) うどん・そば店 63店→55店(12・6%)  レストラン(ファミレス除く) 50店→42店(16・0%)  すし店(回転ずし除く) 39店→38店(2・5%) 中華・中国料理店 33店→31店(6・0%) 焼肉・ホルモン料理店 29店→24店(17・2%) 焼鳥店 25店→23店(8・0%)  日本料理店 23店→22店(4・3%) 酒を提供する居酒屋の減少率は17・4%と高水準だが、スナックは前記の通り、それを上回る25・2%だ。マーケティングセンターの2020年調査では、スナック48店が閉店した。照らし合わせると、電話帳から消えたスナックには閉店した店が含まれていることが推測できる。 筆者は電話帳から消えたスナックを訪ね、営業状況や移転先を確認した。結果は一覧表にまとめた。深夜食堂に業種転換した店、コロナ前に広げた支店を「選択と集中」させて危機を乗り越えた店、賃料の低いビルに引っ越し再起を図る店など、形を変えて生き残っている店も少なくない。 電話帳から消えた福島市街地のスナック ○…営業確認、×…営業未確認、※…ビル以外の店舗 陣場町 第10佐勝ビルスナッククローバー〇SECOND彩スナック彩に集約ハリカ〇レイヴァン(LaVan)✕ペガサス30ビル花音✕スナッククレスト(CREST)✕スナックトモト✕プラスαkana✕ハーモニー✕ボルサリーノスナックARINOS✕ファンタジー〇ポート99ラーイ(Raai)✕第5寿ビルジョーカー✕アイランド〇※モア・グレース✕※ 置賜町 エース7ビル韓国スナックローズハウス✕CuteCute✕トリコロール✕フィリピーナ✕ジャガービルトイ・トイ・トイ(toi・toi・toi)✕マノン✕鈴✕ピア21ビルK・桂✕ラパン✕ミナモトビルシャルム✕都ビル仮面舞踏会✕清水第1ビルマドンナ✕第5清水ビルラウンジラグナ✕ 栄町 イーストハウスあづま会館志桜里✕スナック楓店名キッチンkaedeで「食」に業種転換花むら✕第2あづまソシアルビルショーパブパライソ✕せらみ✕ムーチャークーチャー〇ユートピアビルスナックみつわ✕わがまま天使✕※ 万世町 パセオビルカトレア✕萌木✕ 新町 クラフトビルぼんと✕ゆー(YOU)✕金源ビルザ・シャトル✕スナック星(ぴょる)✕※凛〇※ 大町 コロールビルのりちゃんあっちゃん(ai)×エスケープ(SK-P)×※  電話帳に載っていないスナックもそこそこある。ただ、書き入れ時の金曜夜9時でも営業している様子がなく、移転先をたどれない店が多かった。あるビルの閉ざされた一室は、かつてはフィリピン人女性がもてなすショーパブだったのだろう。「福島県知事の緊急事態宣言の要請により当店は暫くの間休業とさせていただきます」と書かれた紙がドアに張られ、扉の隙間には開封されていない郵便物が挟まっていた。 「やめたくない」  ビル入口にあるテナントを示す看板は点灯しているのに、どこの階にも店が見当たらない事態も何度も遭遇した。あるベテランママの話。 「看板を総取っ換えしなきゃならないから、余程のことがないとオーナーは交換しない。一つの階が丸ごと空いているビルもあるわ」 飲食店主Bも言う。 「存在しない店の看板は覆い隠せばいいが、オーナーは敢えてそうはしません。テナントもしてほしくないでしょう。人けがないビルと明かすことになるからです」 テナントの空きは、スナック業界の深刻さも表している。 「手狭ですが家賃が安い新参者向けのビルがあります。入口にある看板は20軒くらいついていて全部埋まっているように見えるが、各階に行くと数軒しか営業していない。新しく店を始める人がいないんでしょうね」(店主B) 閉店する際も「後腐れなく」とはいかない。前出のベテランママがため息をつく。 「せいせいした気持ちで店をやめる人なんて誰もいませんよ。出入りしているカラオケ業者から聞いた話です。カラオケ代を3カ月分滞納した店があり、取り立てに行った。払えない以上は、目ぼしい財産を処分し、返済に充てて店を閉めなければならない。そこのママは『やめたくない』と泣いたそうです。しかし、そのカラオケ業者も雇われの身なので淡々と請求するしかなかったそうです」 大抵は連帯保証人となっている配偶者や恋人、親きょうだいが返済するという。 2021、22年に起きた2度の大地震は、コロナにあえぐスナックにとって泣きっ面に蜂だった。酒瓶やグラスがたくさん割れた。あるビルでは、オーナーとテナントが補償でもめ、納得しない人は移転するか、これを機に廃業したという。テナントの半数近くに及んだ。 福島市内のビルの多くは30~40年前のバブル期に建てられた。初期から入居しているテナントは、家賃は契約時のままで、コロナで赤字になってもなかなか引き下げてもらえなかった。コロナ禍ではどこのビルも空室が増え、オーナーは家賃を下げて新規入居者を募集。余力のあるスナックはより良い条件のビルに移転したという。 ベテランママは引退を見据える年齢に差しかかっている。苦境でも店を続ける理由は何か。 「コロナが収束するまではやめたくない。閉店した店はどこもふっと消えて、周りは『コロナで閉めた』とウワサする。それぞれ事情があってやめたのに、時代に負けたみたいで嫌だ。私にとっては、誰もがマスクを外して気兼ねなく話せるようになったらコロナ収束ですね。最後はなじみのお客さんを迎え、惜しまれながら去りたい」 ベテランママの願いはかなうか。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く

  • 「コロナ閉店」した郡山バー店主に聞く

    新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「自粛」が求められる場面が増えている。とりわけ、酒類を扱う「夜の飲食店」に行く機会が減った人は多いと思われる。当然、客が来なければ飲食店もやっていけない。いわゆる〝コロナ閉店〟する飲食店は少なくないという。実際に〝コロナ閉店〟した郡山市のバー店主に話を聞いた。 「営業しただけ赤字増加」で見切り  「店を開ければ開けただけ赤字が増えるんですから、やってられませんよ。幸い、『やめられるメド』が立ったので閉店しました」  こう話すのは、郡山市のJR郡山駅近く、陣屋でバーを経営していた男性。この男性は昨年秋前に自身が経営していたバーを閉店した。いわゆる〝コロナ閉店〟である。  「2020年2、3月にコロナの問題が本格化して以降は、多少の変化はありつつも、ずっと厳しい状況が続いていました。歓送迎会や忘新年会など、本来なら最もにぎわうシーズンですら、お客さんがかなり少なく、ゼロという日も少なくなかったですからね。特に『どこかでクラスターが発生した』といった報道等が出ると、発生源の店舗が入居するビルはもちろん、その周辺には人が寄り付かなくなります。一度そうなってしまうと、なかなか客足は戻りません」(元バー店主の男性)  本誌2020年10月号に「クラスター発生に揺れた郡山と会津若松」という特集記事を掲載し、郡山市のホストクラブでクラスターが発生したことを受け、行政の対応、関係者の足取り、店舗の対応などについてリポートした。その中で、周辺店舗関係者の「緊急事態宣言解除後、少しずつ売り上げが戻っていたが、今回のクラスター発生で再び下降している。こんなことが二度、三度と続けば持たない」、「クラスター発生を機に駅前全体の客足が鈍っている。他店からも『いつまで持つか』という嘆きが聞かれる。回復にはまだまだ時間がかかるだろう」といった声を紹介した。そういった事例が出ると、周辺店舗やその後の客足など影響が大きいというのだ。 人通りが少ない郡山市飲食店街(陣屋)  それでなくても、この間、接待を伴う飲食店、酒類の提供を行う飲食店に対しては、まん延防止等重点措置や、県独自の緊急・集中対策によって、営業自粛・時短営業を求められることが多かった。  「少し落ち着いてきたと思ったら、まん延防止や県独自の措置によって営業自粛・時短営業要請が発令される、ということの繰り返しでしたからね。もっとも、営業自粛・時短営業要請の期間は協力金が受け取れたため、店を開けて客が全く来ないときよりはマシでした。といっても、協力金は各種支払いに全部消えましたけど」(同) 協力金の仕組み  例えば、2021年1月13日から2月14日までに出された営業自粛・時短営業要請では、1日当たり4万円の協力金が支給された。33日間で計132万円だったが、「家賃の支払いを待ってもらっていた分、カラオケのリース料、酒卸業者への支払いなどで全部なくなった。むしろ、それだけではまかなえなかった」(同)という。  その後は、郡山市の場合、2021年7月26日から8月16日までは、県の「集中対策」として、営業自粛・時短営業要請が出され、この時は売り上げに応じて、「1日2万5000円〜」というルールで協力金が支払われた。昨年1月27日から2月21日までは、まん延防止等重点措置として営業自粛・時短営業要請が出され、この時は「前年度、前々年度の売上高に応じて1日当たり2万5000円〜7万5000円」の売上高方式か、「前年度、前々年度比の1日当たりの売上高減少額の4割」の売上高減少方式を選択できる仕組みだった。  ただ、いずれにしても、「協力金は各種支払いにすべて消える」といった状況だったという。  ちなみに、本誌はこの間、感染リスクが高いとされる業種(旅客業、宿泊・飲食サービス業など)は国内総生産(GDP)の5%程度で、これまで政府がコロナ対策として投じてきた予算が数十兆円に上ることを考えると、東京電力福島第一原発事故に伴う賠償金の事例に当てはめて補償するというような対応が可能で、そうすべきだった――と書いた。 一番厳しかった一昨年夏  男性によると、最も厳しかったのは2021年夏ごろだったという。感染拡大「第5波」が到来し、感染力が強く、重症化のリスクも高いとされる変異種「デルタ株」が流行していたころだ。  「あの時期は本当に厳しかった。平日(月〜木)はほぼお客さんがゼロという日が続き、週末(金・土)だって、それほど入るわけではありませんでしたから。それでも、私は1人でやっていたから、まだマシだったと思う。従業員がいたら、どうしようもなかった」(同)  コロナ前、平日(月〜木)は売り上げが5万円から8万円、週末(金・土)はその約3倍で、週50万円〜80万円の売り上げがあった。それがひどい時は平日はほぼゼロ、週末はコロナ前の平日並みになった。それでも、家賃や光熱費などの固定経費は変わらない。結果、「店を開ければ開けただけ赤字が増える」状況だったというのである。  「最近は少し規制などが緩くなり、以前よりはマシになりました。週末の居酒屋などはそこそこ入っていると思います。ただ、バーや女性が接待する店はまだまだ戻っていない。私の知り合いの店でも、女性キャストは週の半分は休みという感じです。週末は黒字だが、平日の赤字分をカバーしきれない、といった店が多いのではないか」(同)  冒頭、男性は「『やめられるメド』が立った」と語ったが、一番大きいのは、「テナント退去時の修繕費が最初に納めた敷金でまかなえたこと」という。そのほか、残っていた各種支払いがあったが、何とかそのメドが立ったから閉店を決めた。  「テナント退去時の修繕費がどうなるのかが怖かったが、敷金でまかなえたので良かった。逆に、やめたいと思っても、その(修繕費の)見通しが立たなくてやめられないところもあると思います」(同)  男性の知人の店舗でも、やめたところが何軒かあり、「いつやめたのか分からないが、気付いたら閉店していたところもあった」という。  コロナが出始めたころは、ワクチンが普及し、ある程度、通常の生活ができるようになり、客足が戻ってくることを期待していたようだ。ただ、思いのほか長引き、見切りを付けた。最後に男性は「こんなことなら、もっと早くやめれば良かった」と語った。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査