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  • 国見町百条委の注目は町職員の刑事告発の有無

    国見町百条委の注目は町職員の刑事告発の有無

     国見町が救急車を研究開発し、リースする事業を中止した問題は、1月26日に議会が設置した調査特別委員会(百条委員会)で受託業者側の証人喚問が行われヤマ場を迎える(委員構成と設置議案の採決結果は別表)。一連の問題は河北新報を皮切りに全国紙、東洋経済オンラインまで報じるようになった。 百条委員会設置議案の採決結果 ◎は委員長、〇は副委員長(敬称略) 佐藤多真恵1期反対菊地 勝芳1期欠席佐藤  孝◎2期賛成蒲倉  孝2期賛成八巻喜治郎2期賛成宍戸 武志2期賛成山崎 健吉2期賛成小林 聖治〇2期賛成渡辺 勝弘5期賛成松浦 常雄5期賛成佐藤 定男4期―佐藤定男氏は議長のため採決に加わらず  全国メディアが注目するのは、河北新報や百条委員会委員長の佐藤孝議員が主張している、町がワンテーブル(宮城県多賀城市)に事業を発注した過程が官製談合防止法違反に当たるかどうかだ。だが、ネットを使って全国ニュースに思うようにアクセスできない高齢者は戸惑う。  高齢のある男性町民は本誌が「忖度している」と苦言を呈し、次のように打ち明けた。  「当初は救急車問題を全く扱わず役場関係者や河北新報を読んでいる知人からの口コミが頼りでした。なぜ報じないのか、地元メディアは町に忖度しているのではと思い、購読している福島民報に『報じる責任がある』と電話したことがあります。担当者は『何を報じるか報じないかはこちらの裁量だ』と答えました」  本誌も含め地元紙が詳報しなかった(できなかった)のは、核心の情報を得られなかったからだ。仮に河北新報と同じ内部情報を入手し記事にしたとしても二番煎じになり、地元2紙はプライドが許さないだろう。  大々的に報じるようになったのは、議会が百条委を設置し「公式見解」が書けるようになったから。  設置に至る経緯は次の通り。直近の昨年5月の町議選(定数12)は無投票だった。9人が現職で、うち1人が9月に辞職した。改選前の議会は2022年の9月定例会で、救急車事業を盛り込んだ補正予算案を原案通り全会一致で可決している。改選後の議会では19年に議員に初当選後、辞職し、20年の町長選に臨んで落選していた佐藤孝氏が議員に無投票再選し、執行部を激しく糾弾。同調する議員らと百条委設置案を提出した。救急車事業案に賛成した議員たちも百条委設置に傾き、昨年10月の臨時会で賛成多数で可決した。  これに先んじて、引地真町長は第三者委員会を議会の議決を受けて設置しており、弁護士ら3人に検証を委嘱。「二重検証状態」が続く。  だが、町民にはメディアや議員の裏事情は関係ない。  「私はネットに疎いし、もう1紙購読する金銭的な余裕はない。知人に河北新報の記事のコピーを回してもらい断片的に情報を得ています。同年代で集まって救急車問題について話しても、みんな得ている情報が違うので実のある話にならない」(前出の男性)  町民の情報格差をよそに、1月26日には、百条委によるワンテーブル前社長や社員、子会社ベルリングなどキーパーソン3人の証人喚問が予定されている。  百条委について地方自治法は、出頭・記録提出・証言の拒否や虚偽証言に対し「議会は(刑事)告発しなければならない」とする。河北新報と東洋経済オンラインの共同取材によると、町執行部と受託業者の説明には食い違いが生じている(12月6日配信記事)。  原稿執筆は昨年12月21日現在で、22日に行われた町職員の証人喚問を傍聴できていないため、執行部と受託業者が一致した見解を証言するのか、あるいは異なる証言をするのかは分からない。言えるのは、受託業者への証人喚問では、執行部と受託業者が同じ「真実」を話す、あるいは一方が「虚偽」とされ、刑事告発を決定付けるということだ。

  • 【国見町長に聞く】救急車事業中止問題

    【国見町長に聞く】救急車事業中止問題【ワンテーブル】

     国見町が高規格救急車を所有して貸し出す事業は今年3月に受託企業ワンテーブル(宮城県多賀城市)の社長(当時)が「行政機能を分捕る」と発言した音声を河北新報が公開し、町は中止した。執行部は検証を第三者委員会に委嘱。議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置し、執行部が作った救急車の仕様書はワンテーブルの受託に有利な内容で、官製談合防止法違反の疑いもあるとみて証人喚問を進める。引地真町長と同事業担当の大勝宏二・企画調整課長に11月6日、仕様書作成の経緯と責任の取り方を聞いた。(小池航) 仕様書作成の経緯と責任の取り方を聞いた  ――救急車の仕様書を作成する根拠となった資料の提出を町監査委員会が執行部に要求した際、ワンテーブルが提供した資料以外は「処分した」と執行部は説明しました。処分した文書はどのような方法で、どの部署の職員が入手したものか。  大勝企画調整課長「企画調整課の担当職員がインターネットで閲覧してプリントアウトした資料です。町としては、個人が職務上必要と考えてネットから印刷した文書は参考資料であり、公文書には当たらないと解しています」  ――職務上必要な資料は公文書では?  引地町長「参考資料とは、例えばネットから取得するだけではなく、本から見つけてコピーするものもありますよね。それは単なる資料でしかなく、公文書には当たらない。公文書とは、その資料をもとに行政が作成したものという解釈です」  ――国見町の文書管理規則では、公文書の定義を「職員が職務上作成し、又は取得した文書及び図画をいう。ただし、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数のものに販売することを目的として発行されるものを除く」としている。個人が取得した資料とはいえ、職務上得た文書では?  大勝課長「解釈はいろいろあると思います。職員が自己の執務のために保有している写しが即公文書に当たるかというと、議論を呼ぶところだと思います。メモ程度のものが公文書に当たるかどうかという議論です。町としては(処分した)資料は、仕様書を作る段階で集めたものという解釈で、それは個人が集めた資料です。その資料に基づいて、町の意思決定に何か反映させたことはないと判断しています。職員が参考程度に集めたものだったので、行政文書には当たらないと考えています。  参考資料を得た経緯を説明します。職員が町の仕様書を作る際、各消防組合などがネットに上げている仕様書を閲覧し、必要な部分だけを印刷しました。1冊分を印刷すると膨大になります。参考のつもりで閲覧し、公文書として保存を前提に集めたものではありません。担当職員が知識を得た段階で、それらの資料は残してはいませんでした」  ――担当職員が各企業の救急車の仕様書をネットで閲覧し、仕様書を作ったという解釈でいいか。  大勝課長「そのように説明してきました。ワンテーブルからは他町の仕様書の提供を受けたので、それも参考にしました」  ――どうしてワンテーブルが提供した資料だけが残っていたのか。  大勝課長「1冊丸々提供を受けたからです。残すつもりで残したわけではなく、破棄するつもりがなかったというか、たまたま残ったのだと思います」  ――受託したワンテーブルが示した参考資料以外に何社の救急車の資料を参考にしたのか。  大勝課長「はっきりとは言えません。部分的に参考にしたものもありますし、振り返ってネットで検索したものもあります」  ――引地町長に聞きます。ワンテーブルの巧妙だったと思う点はありますか。  引地町長「何が巧妙だったかという質問に町は答える術を持っていません。前社長の考えは報道や音声データで見聞きしたが、あの発言をした事実はあるものの、そこには出てきていない思いもあるはずで、それについて我々は知る術がない。だから何が巧妙だったのかという質問には本当に答えられない。  ワンテーブルと国見町の関係は高規格救急車事業で唐突に始まったわけではなく、前町長在任時の2018年に元経産省職員の紹介を受けて接点ができました。翌19年には防災パートナーシップ協定を結び、20年には企業版ふるさと納税945万円の寄付を受けました。前社長は総務省から『地域力創造アドバイザー』認定を受けていました。そういった下地があるので、その経過を持って彼らのやり口が巧妙だったかというと我々は判断する術がない。  役所は何かしら困り事を抱えていたり、地域の課題解決に意見を持っている人が訪れます。そういった人たちを、我々行政は疑ってかからないスタンスを取ります。まず対面してから話が進む。例えば目の前にいる町民を、最初から『悪いことを考えているのではないか』とは疑いません。困り事があって役所に来ているわけだから。そういう姿勢で我々は仕事をしてきました。  我々はワンテーブルを国見町と協力する数ある企業の一つと捉えていました。震災後の13年間、町は他の民間企業とも連携して復旧・復興、風評対策を進めてきた経過があります。官民連携でまちづくりを進める延長線上にあったのが高規格救急車事業でした。巧妙だったかという質問には本当に答えにくい。前社長が、あの発言のような考えを持ちながら当初から国見町とやり取りをしてきたのか、それは分かりません。町長として教訓というか思うところはありますが、第三者委員会の結論が出るまでは話すべきではないと考えます」 原因究明の陣頭指揮  ――高規格救急車事業について町民に伝えたいことは。  引地町長「同事業は契約を解除し、住民説明会を14カ所で行いました。ワンテーブル前社長の不適切な発言で事業継続が困難になったのは本当に残念です。同事業は議会に諮って進めてきました。出来上がった救急車は議決を得て町が取得し、必要な自治体や消防組合に譲与していきます。当初町が考えていた事業と着地点は違いますが、地域の防災力向上や医療・救急業務の充実に活用してもらいたいです」  ――町執行部に不信感を抱いている町民に伝えたいことは。  引地町長「町に関する報道で心配を掛けてしまい申し訳ありませんでした。住民説明会や議会では『最終的な責任は私にあり、責任回避はしない』と説明してきました。ただ、それで完結する話ではない。町への非難と私の身の処し方といった議論に終わらせず、果たさなければいけないのは、原因を究明し問題の所在を明らかにすることです。その陣頭指揮を執るのが町長の責任だと思います。『最終的な責任は引地にある』と言葉だけで済ませようとは思っていません。上辺だけで済ませれば、また同じ過ちが繰り返されます。その意味で第三者委員会は大きな意味を持っています。検証の結果を待ち、原因を指摘してもらい、再発防止に向けた意見を客観的に出してもらう。その上で、町執行部で必要な対策を行い、町政への責任を果たしていくことが大切なのだと考えます」  ※以下は11月13日に送った質問への文書回答。  ――第三者委員会の委員2人が辞任しました。検証の半ばで過半数の委員が辞任したことについて、受け止めを教えてください。検証への影響も教えてください。  「誠意をもって対応し、委員におかれましては直前まで委員会へ出席の意向でしたので、突然の辞任で驚いています。辞任の理由は分かりません。検証への影響は、今回委員会が中断してしまったので、検証が遅れる影響があったと考えます。速やかに後任を人選し、対応しています」

  • 狡猾な企業に狙われた国見町

    狡猾な企業に狙われた国見町

     国見町が高規格救急車12台を所有し、リースする事業が中止となった問題が尾を引いている。事業を受託していた企業の社長(当時)が行政機能を乗っ取り、マネーロンダリング(資金洗浄)に利用しようとしていた発言が河北新報のスクープで明らかになり、「企業に食い物にされそうになった町」として全国に知られた。町民に共通するのは「恥をかかされた」という意識だ。怒りの矛先は企業だけでなく町執行部にも向き、町議が批判文書を配布する事態となった。 町民が執行部に求める「恥の責任」 国見町役場  一連の問題は、宮城県を拠点とする河北新報の昨年からのキャンペーン記事で明らかとなった。以前条例で引き下げられた町長、副町長、教育長らの報酬が元に戻され、町民の反発を受けてまた減額された問題、幹部職員の自宅前の道路が町発注の工事として整備され、幹部職員本人が工事の決裁をしていた問題だ。 これだけなら町内の不祥事で済んだが、宮城県多賀城市の備蓄食品製造会社「ワンテーブル」が登場することで、国見町の名前は悪い意味で全国に知られることになった。 救急車リース事業の問題(※)は、全体像をすぐ理解するには複雑なこと、河北新報が福島県内では購読者数が少なく、町民たちも読む機会がないので、この時点では町の一大事とまではなっていなかった。 ※企業版ふるさと納税を使って匿名企業3社から寄付を集め、高規格救急車を開発し貸し出す事業。河北新報によると、匿名企業はワンテーブルと関連がある企業だった。企業版ふるさと納税は寄付金の9割が控除されるため、同紙は提携するグループが「課税逃れ」のために国見町を利用した可能性を報じた。  事態が動いたのは今年3月に入ってからだ。同紙が、ワンテーブルの社長(当時)が救急車リース事業を「超絶いいマネーロンダリング(資金洗浄)」、国見町など複数の自治体を挙げ「行政機能をぶん取る」と発言したという記事を書いた。生々しい発言を記録した音声が公開され、ネットで拡散。「騙された」と町民の感情に訴えるものとなった。  町はワンテーブルと「信頼関係が失われた」として、委託契約を解消したことを広報紙で伝えたほか、4月に計14回、各地域の住民を集めて経緯を説明した。筆者は同月22日に小坂地区の住民に対して開かれた説明会を傍聴した。 質疑応答である住民は 「宮城の親戚から『国見町はなんだか大変なことになっているね』と外から問題を知らされている状況。ネットではおもちゃにされて恥をかいている」 と、引地真町長ら説明に赴いた執行部に訴えていた。 別地区の住民が今の率直な心情を打ち明ける。 「町長たちの報酬の上げ下げ、幹部職員が自らに利益を誘導した公共工事、ワンテーブルに踊らされた救急車リース事業……あまりに問題が多すぎて、私も全体像を完全には理解していない。ただ、とにかく『恥をかかされた』ということだけは分かる」 不信は事業を呼び込んだ町執行部に向く。 「町民は『行政機能をぶん取る』とまで陰で言われ、カモにされた執行部に怒っています。ワンテーブル社員が町総務課に頻繁に出入りしていたという話をある筋から聞きました。具体的なことは書かないでほしい。庁内では、誰が河北新報にタレ込んだか『犯人探し』が始まっているようなので、これ以上現場の職員に迷惑をかけたくない」(同) 批判は執行部をチェックできなかった議会にも向いた。 「5月(23日告示)の町議選が無投票というのが町の民主主義の衰退を表しています。こういう事実が、ワンテーブルみたいな悪質な会社に付け込まれたのではないか」(同) 議会は救急車リース事業の予算案を全会一致で原案通り可決した責任があるため執行部に対しワンテーブルの問題を厳しく追及していない。 例外は松浦常雄議員(81)=西大枝、5期。改選前の時点で副議長を務める。3月から3回にわたり執行部を批判する「議会活動報告」を新聞折り込みで出したが、4回目の文書では急遽「お詫び」の題で「行き過ぎた表現があった」として、執行部、議会、町民に謝罪した。 松浦常雄議員  前出の住民によると、圧力をかけられ謝罪に追い込まれたという。筆者は松浦議員の自宅電話を鳴らした。電話口に出た本人は「長くなりますがよろしいですか?」と計3回の執行部批判文書に「自分の思いのたけを込めた」と語った。 「予算案に賛成した責任は感じているが、町政をただす原点に立ち返り一議員の職責を全うしたいと批判文書を出しました。B4版で3000部刷り、町内に配られる新聞に折り込んでもらいました。手間も費用も全て自前で、1回出すのに約1万5000円かかっています」(同) なぜ最後は「お詫び」をして出すのをやめたのかと聞くと、議員たちに迫られたからだという。3回目の批判文書を出し、各戸に届いたのが4月13日。翌14日の「議員意見交換会」に呼び出され出向くと、東海林一樹議長(5月の町議選に立候補せず引退)から「これは怪文書に当たる」と言われたという。全議員の前で批判文書を出したことを執行部、議会、町民に謝罪するよう迫られた。弁明の機会を与えられたが、擁護する議員は1人もいなかった。  議会で孤立するのを恐れ、その日のうちに議員、引地町長に謝罪した。町長室に東海林議長と出向き、お互いに起立して口頭で謝罪。引地町長は謝罪に対して何も言わなかったという。町民には計3回の批判文書と同じく、謝罪文を新聞折り込みで届けることになった。 「東海林議長からはどの部分が怪文書に当たるかという説明はありませんでした」(松浦議員) 筆者は東海林氏の自宅電話を鳴らしたが出なかったので、見解を聞けていない。 松浦議員は1時間にわたる電話取材に応じているように、批判文書を出したこと自体は間違っていないと確信しているようだ。謝罪文の表現も「怪文書」との指摘と同じようにあいまいなものになった。 「一部行き過ぎた表現があり、町執行部、各議員の皆様、そして町民の皆様に多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」と書いただけで、どこが行き過ぎた表現なのかは言及がなかった。 町民から「批判文書で目が覚めた」  結果として議会では孤立したが、町民から「あなたのおかげで目が覚めました」と激励の言葉をもらったという。筆者も全ての批判文書を読んだが、河北新報やNHKの報道を基に、町三役の報酬引き上げの迷走ぶりや、ワンテーブルが町の行政機能に食い込もうとしていた問題をまとめ、松浦議員本人の見解も記されていた。内容は周回遅れの感が否めないが、ネットにアクセスできない高齢者には重宝しているのだろう。 時間を置いて再び松浦議員に電話すると、「取材を受けたことで議会での立場に影響はないか」と不安げに言われた。筆者は「優先すべきは議会内の声より町民から直接受けた声ではないか」と言った。 前述の通り、定数12で行われた町議選は無投票だった。松浦議員のように「怪文書」と指摘される文書を出して議会で疎まれても再選できるので、落選を恐れる段階ではない。町民の多くは執行部トップの引地町長に「恥の責任」をとるよう求めている。新たな顔ぶれの議会が、町民と町長のはざまでどのような立場を取るか注目だ。

  • 国見町百条委の注目は町職員の刑事告発の有無

     国見町が救急車を研究開発し、リースする事業を中止した問題は、1月26日に議会が設置した調査特別委員会(百条委員会)で受託業者側の証人喚問が行われヤマ場を迎える(委員構成と設置議案の採決結果は別表)。一連の問題は河北新報を皮切りに全国紙、東洋経済オンラインまで報じるようになった。 百条委員会設置議案の採決結果 ◎は委員長、〇は副委員長(敬称略) 佐藤多真恵1期反対菊地 勝芳1期欠席佐藤  孝◎2期賛成蒲倉  孝2期賛成八巻喜治郎2期賛成宍戸 武志2期賛成山崎 健吉2期賛成小林 聖治〇2期賛成渡辺 勝弘5期賛成松浦 常雄5期賛成佐藤 定男4期―佐藤定男氏は議長のため採決に加わらず  全国メディアが注目するのは、河北新報や百条委員会委員長の佐藤孝議員が主張している、町がワンテーブル(宮城県多賀城市)に事業を発注した過程が官製談合防止法違反に当たるかどうかだ。だが、ネットを使って全国ニュースに思うようにアクセスできない高齢者は戸惑う。  高齢のある男性町民は本誌が「忖度している」と苦言を呈し、次のように打ち明けた。  「当初は救急車問題を全く扱わず役場関係者や河北新報を読んでいる知人からの口コミが頼りでした。なぜ報じないのか、地元メディアは町に忖度しているのではと思い、購読している福島民報に『報じる責任がある』と電話したことがあります。担当者は『何を報じるか報じないかはこちらの裁量だ』と答えました」  本誌も含め地元紙が詳報しなかった(できなかった)のは、核心の情報を得られなかったからだ。仮に河北新報と同じ内部情報を入手し記事にしたとしても二番煎じになり、地元2紙はプライドが許さないだろう。  大々的に報じるようになったのは、議会が百条委を設置し「公式見解」が書けるようになったから。  設置に至る経緯は次の通り。直近の昨年5月の町議選(定数12)は無投票だった。9人が現職で、うち1人が9月に辞職した。改選前の議会は2022年の9月定例会で、救急車事業を盛り込んだ補正予算案を原案通り全会一致で可決している。改選後の議会では19年に議員に初当選後、辞職し、20年の町長選に臨んで落選していた佐藤孝氏が議員に無投票再選し、執行部を激しく糾弾。同調する議員らと百条委設置案を提出した。救急車事業案に賛成した議員たちも百条委設置に傾き、昨年10月の臨時会で賛成多数で可決した。  これに先んじて、引地真町長は第三者委員会を議会の議決を受けて設置しており、弁護士ら3人に検証を委嘱。「二重検証状態」が続く。  だが、町民にはメディアや議員の裏事情は関係ない。  「私はネットに疎いし、もう1紙購読する金銭的な余裕はない。知人に河北新報の記事のコピーを回してもらい断片的に情報を得ています。同年代で集まって救急車問題について話しても、みんな得ている情報が違うので実のある話にならない」(前出の男性)  町民の情報格差をよそに、1月26日には、百条委によるワンテーブル前社長や社員、子会社ベルリングなどキーパーソン3人の証人喚問が予定されている。  百条委について地方自治法は、出頭・記録提出・証言の拒否や虚偽証言に対し「議会は(刑事)告発しなければならない」とする。河北新報と東洋経済オンラインの共同取材によると、町執行部と受託業者の説明には食い違いが生じている(12月6日配信記事)。  原稿執筆は昨年12月21日現在で、22日に行われた町職員の証人喚問を傍聴できていないため、執行部と受託業者が一致した見解を証言するのか、あるいは異なる証言をするのかは分からない。言えるのは、受託業者への証人喚問では、執行部と受託業者が同じ「真実」を話す、あるいは一方が「虚偽」とされ、刑事告発を決定付けるということだ。

  • 【国見町長に聞く】救急車事業中止問題【ワンテーブル】

     国見町が高規格救急車を所有して貸し出す事業は今年3月に受託企業ワンテーブル(宮城県多賀城市)の社長(当時)が「行政機能を分捕る」と発言した音声を河北新報が公開し、町は中止した。執行部は検証を第三者委員会に委嘱。議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置し、執行部が作った救急車の仕様書はワンテーブルの受託に有利な内容で、官製談合防止法違反の疑いもあるとみて証人喚問を進める。引地真町長と同事業担当の大勝宏二・企画調整課長に11月6日、仕様書作成の経緯と責任の取り方を聞いた。(小池航) 仕様書作成の経緯と責任の取り方を聞いた  ――救急車の仕様書を作成する根拠となった資料の提出を町監査委員会が執行部に要求した際、ワンテーブルが提供した資料以外は「処分した」と執行部は説明しました。処分した文書はどのような方法で、どの部署の職員が入手したものか。  大勝企画調整課長「企画調整課の担当職員がインターネットで閲覧してプリントアウトした資料です。町としては、個人が職務上必要と考えてネットから印刷した文書は参考資料であり、公文書には当たらないと解しています」  ――職務上必要な資料は公文書では?  引地町長「参考資料とは、例えばネットから取得するだけではなく、本から見つけてコピーするものもありますよね。それは単なる資料でしかなく、公文書には当たらない。公文書とは、その資料をもとに行政が作成したものという解釈です」  ――国見町の文書管理規則では、公文書の定義を「職員が職務上作成し、又は取得した文書及び図画をいう。ただし、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数のものに販売することを目的として発行されるものを除く」としている。個人が取得した資料とはいえ、職務上得た文書では?  大勝課長「解釈はいろいろあると思います。職員が自己の執務のために保有している写しが即公文書に当たるかというと、議論を呼ぶところだと思います。メモ程度のものが公文書に当たるかどうかという議論です。町としては(処分した)資料は、仕様書を作る段階で集めたものという解釈で、それは個人が集めた資料です。その資料に基づいて、町の意思決定に何か反映させたことはないと判断しています。職員が参考程度に集めたものだったので、行政文書には当たらないと考えています。  参考資料を得た経緯を説明します。職員が町の仕様書を作る際、各消防組合などがネットに上げている仕様書を閲覧し、必要な部分だけを印刷しました。1冊分を印刷すると膨大になります。参考のつもりで閲覧し、公文書として保存を前提に集めたものではありません。担当職員が知識を得た段階で、それらの資料は残してはいませんでした」  ――担当職員が各企業の救急車の仕様書をネットで閲覧し、仕様書を作ったという解釈でいいか。  大勝課長「そのように説明してきました。ワンテーブルからは他町の仕様書の提供を受けたので、それも参考にしました」  ――どうしてワンテーブルが提供した資料だけが残っていたのか。  大勝課長「1冊丸々提供を受けたからです。残すつもりで残したわけではなく、破棄するつもりがなかったというか、たまたま残ったのだと思います」  ――受託したワンテーブルが示した参考資料以外に何社の救急車の資料を参考にしたのか。  大勝課長「はっきりとは言えません。部分的に参考にしたものもありますし、振り返ってネットで検索したものもあります」  ――引地町長に聞きます。ワンテーブルの巧妙だったと思う点はありますか。  引地町長「何が巧妙だったかという質問に町は答える術を持っていません。前社長の考えは報道や音声データで見聞きしたが、あの発言をした事実はあるものの、そこには出てきていない思いもあるはずで、それについて我々は知る術がない。だから何が巧妙だったのかという質問には本当に答えられない。  ワンテーブルと国見町の関係は高規格救急車事業で唐突に始まったわけではなく、前町長在任時の2018年に元経産省職員の紹介を受けて接点ができました。翌19年には防災パートナーシップ協定を結び、20年には企業版ふるさと納税945万円の寄付を受けました。前社長は総務省から『地域力創造アドバイザー』認定を受けていました。そういった下地があるので、その経過を持って彼らのやり口が巧妙だったかというと我々は判断する術がない。  役所は何かしら困り事を抱えていたり、地域の課題解決に意見を持っている人が訪れます。そういった人たちを、我々行政は疑ってかからないスタンスを取ります。まず対面してから話が進む。例えば目の前にいる町民を、最初から『悪いことを考えているのではないか』とは疑いません。困り事があって役所に来ているわけだから。そういう姿勢で我々は仕事をしてきました。  我々はワンテーブルを国見町と協力する数ある企業の一つと捉えていました。震災後の13年間、町は他の民間企業とも連携して復旧・復興、風評対策を進めてきた経過があります。官民連携でまちづくりを進める延長線上にあったのが高規格救急車事業でした。巧妙だったかという質問には本当に答えにくい。前社長が、あの発言のような考えを持ちながら当初から国見町とやり取りをしてきたのか、それは分かりません。町長として教訓というか思うところはありますが、第三者委員会の結論が出るまでは話すべきではないと考えます」 原因究明の陣頭指揮  ――高規格救急車事業について町民に伝えたいことは。  引地町長「同事業は契約を解除し、住民説明会を14カ所で行いました。ワンテーブル前社長の不適切な発言で事業継続が困難になったのは本当に残念です。同事業は議会に諮って進めてきました。出来上がった救急車は議決を得て町が取得し、必要な自治体や消防組合に譲与していきます。当初町が考えていた事業と着地点は違いますが、地域の防災力向上や医療・救急業務の充実に活用してもらいたいです」  ――町執行部に不信感を抱いている町民に伝えたいことは。  引地町長「町に関する報道で心配を掛けてしまい申し訳ありませんでした。住民説明会や議会では『最終的な責任は私にあり、責任回避はしない』と説明してきました。ただ、それで完結する話ではない。町への非難と私の身の処し方といった議論に終わらせず、果たさなければいけないのは、原因を究明し問題の所在を明らかにすることです。その陣頭指揮を執るのが町長の責任だと思います。『最終的な責任は引地にある』と言葉だけで済ませようとは思っていません。上辺だけで済ませれば、また同じ過ちが繰り返されます。その意味で第三者委員会は大きな意味を持っています。検証の結果を待ち、原因を指摘してもらい、再発防止に向けた意見を客観的に出してもらう。その上で、町執行部で必要な対策を行い、町政への責任を果たしていくことが大切なのだと考えます」  ※以下は11月13日に送った質問への文書回答。  ――第三者委員会の委員2人が辞任しました。検証の半ばで過半数の委員が辞任したことについて、受け止めを教えてください。検証への影響も教えてください。  「誠意をもって対応し、委員におかれましては直前まで委員会へ出席の意向でしたので、突然の辞任で驚いています。辞任の理由は分かりません。検証への影響は、今回委員会が中断してしまったので、検証が遅れる影響があったと考えます。速やかに後任を人選し、対応しています」

  • 狡猾な企業に狙われた国見町

     国見町が高規格救急車12台を所有し、リースする事業が中止となった問題が尾を引いている。事業を受託していた企業の社長(当時)が行政機能を乗っ取り、マネーロンダリング(資金洗浄)に利用しようとしていた発言が河北新報のスクープで明らかになり、「企業に食い物にされそうになった町」として全国に知られた。町民に共通するのは「恥をかかされた」という意識だ。怒りの矛先は企業だけでなく町執行部にも向き、町議が批判文書を配布する事態となった。 町民が執行部に求める「恥の責任」 国見町役場  一連の問題は、宮城県を拠点とする河北新報の昨年からのキャンペーン記事で明らかとなった。以前条例で引き下げられた町長、副町長、教育長らの報酬が元に戻され、町民の反発を受けてまた減額された問題、幹部職員の自宅前の道路が町発注の工事として整備され、幹部職員本人が工事の決裁をしていた問題だ。 これだけなら町内の不祥事で済んだが、宮城県多賀城市の備蓄食品製造会社「ワンテーブル」が登場することで、国見町の名前は悪い意味で全国に知られることになった。 救急車リース事業の問題(※)は、全体像をすぐ理解するには複雑なこと、河北新報が福島県内では購読者数が少なく、町民たちも読む機会がないので、この時点では町の一大事とまではなっていなかった。 ※企業版ふるさと納税を使って匿名企業3社から寄付を集め、高規格救急車を開発し貸し出す事業。河北新報によると、匿名企業はワンテーブルと関連がある企業だった。企業版ふるさと納税は寄付金の9割が控除されるため、同紙は提携するグループが「課税逃れ」のために国見町を利用した可能性を報じた。  事態が動いたのは今年3月に入ってからだ。同紙が、ワンテーブルの社長(当時)が救急車リース事業を「超絶いいマネーロンダリング(資金洗浄)」、国見町など複数の自治体を挙げ「行政機能をぶん取る」と発言したという記事を書いた。生々しい発言を記録した音声が公開され、ネットで拡散。「騙された」と町民の感情に訴えるものとなった。  町はワンテーブルと「信頼関係が失われた」として、委託契約を解消したことを広報紙で伝えたほか、4月に計14回、各地域の住民を集めて経緯を説明した。筆者は同月22日に小坂地区の住民に対して開かれた説明会を傍聴した。 質疑応答である住民は 「宮城の親戚から『国見町はなんだか大変なことになっているね』と外から問題を知らされている状況。ネットではおもちゃにされて恥をかいている」 と、引地真町長ら説明に赴いた執行部に訴えていた。 別地区の住民が今の率直な心情を打ち明ける。 「町長たちの報酬の上げ下げ、幹部職員が自らに利益を誘導した公共工事、ワンテーブルに踊らされた救急車リース事業……あまりに問題が多すぎて、私も全体像を完全には理解していない。ただ、とにかく『恥をかかされた』ということだけは分かる」 不信は事業を呼び込んだ町執行部に向く。 「町民は『行政機能をぶん取る』とまで陰で言われ、カモにされた執行部に怒っています。ワンテーブル社員が町総務課に頻繁に出入りしていたという話をある筋から聞きました。具体的なことは書かないでほしい。庁内では、誰が河北新報にタレ込んだか『犯人探し』が始まっているようなので、これ以上現場の職員に迷惑をかけたくない」(同) 批判は執行部をチェックできなかった議会にも向いた。 「5月(23日告示)の町議選が無投票というのが町の民主主義の衰退を表しています。こういう事実が、ワンテーブルみたいな悪質な会社に付け込まれたのではないか」(同) 議会は救急車リース事業の予算案を全会一致で原案通り可決した責任があるため執行部に対しワンテーブルの問題を厳しく追及していない。 例外は松浦常雄議員(81)=西大枝、5期。改選前の時点で副議長を務める。3月から3回にわたり執行部を批判する「議会活動報告」を新聞折り込みで出したが、4回目の文書では急遽「お詫び」の題で「行き過ぎた表現があった」として、執行部、議会、町民に謝罪した。 松浦常雄議員  前出の住民によると、圧力をかけられ謝罪に追い込まれたという。筆者は松浦議員の自宅電話を鳴らした。電話口に出た本人は「長くなりますがよろしいですか?」と計3回の執行部批判文書に「自分の思いのたけを込めた」と語った。 「予算案に賛成した責任は感じているが、町政をただす原点に立ち返り一議員の職責を全うしたいと批判文書を出しました。B4版で3000部刷り、町内に配られる新聞に折り込んでもらいました。手間も費用も全て自前で、1回出すのに約1万5000円かかっています」(同) なぜ最後は「お詫び」をして出すのをやめたのかと聞くと、議員たちに迫られたからだという。3回目の批判文書を出し、各戸に届いたのが4月13日。翌14日の「議員意見交換会」に呼び出され出向くと、東海林一樹議長(5月の町議選に立候補せず引退)から「これは怪文書に当たる」と言われたという。全議員の前で批判文書を出したことを執行部、議会、町民に謝罪するよう迫られた。弁明の機会を与えられたが、擁護する議員は1人もいなかった。  議会で孤立するのを恐れ、その日のうちに議員、引地町長に謝罪した。町長室に東海林議長と出向き、お互いに起立して口頭で謝罪。引地町長は謝罪に対して何も言わなかったという。町民には計3回の批判文書と同じく、謝罪文を新聞折り込みで届けることになった。 「東海林議長からはどの部分が怪文書に当たるかという説明はありませんでした」(松浦議員) 筆者は東海林氏の自宅電話を鳴らしたが出なかったので、見解を聞けていない。 松浦議員は1時間にわたる電話取材に応じているように、批判文書を出したこと自体は間違っていないと確信しているようだ。謝罪文の表現も「怪文書」との指摘と同じようにあいまいなものになった。 「一部行き過ぎた表現があり、町執行部、各議員の皆様、そして町民の皆様に多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」と書いただけで、どこが行き過ぎた表現なのかは言及がなかった。 町民から「批判文書で目が覚めた」  結果として議会では孤立したが、町民から「あなたのおかげで目が覚めました」と激励の言葉をもらったという。筆者も全ての批判文書を読んだが、河北新報やNHKの報道を基に、町三役の報酬引き上げの迷走ぶりや、ワンテーブルが町の行政機能に食い込もうとしていた問題をまとめ、松浦議員本人の見解も記されていた。内容は周回遅れの感が否めないが、ネットにアクセスできない高齢者には重宝しているのだろう。 時間を置いて再び松浦議員に電話すると、「取材を受けたことで議会での立場に影響はないか」と不安げに言われた。筆者は「優先すべきは議会内の声より町民から直接受けた声ではないか」と言った。 前述の通り、定数12で行われた町議選は無投票だった。松浦議員のように「怪文書」と指摘される文書を出して議会で疎まれても再選できるので、落選を恐れる段階ではない。町民の多くは執行部トップの引地町長に「恥の責任」をとるよう求めている。新たな顔ぶれの議会が、町民と町長のはざまでどのような立場を取るか注目だ。