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特定帰還居住区域

  • 浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定

    浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定

     原発事故に伴う避難指示区域で、現在も残っているのは帰還困難区域のみ。同区域の一部は「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定され各種環境整備が進められた。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が2022年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が昨年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。  ただ、復興拠点は、帰還困難区域の約8%にとどまり、残りの大部分は手付かずだった。そんな中、国は昨年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。  復興拠点の延長のような形で、主にそこに隣接するエリアが指定され、居住区域を少しずつ拡大していくようなイメージである。  同制度ができ、早速、大熊町と双葉町で動きがあった。2022年に実施した帰還意向調査結果や復興拠点との位置関係、放射線量などを考慮し、大熊町の下野上1区、双葉町の下長塚行政区と三字行政区が昨年9月に先行して「特定帰還居住区域」に指定された。昨年12月20日からは先行除染がスタートしている。  両町の「特定帰還居住区域復興再生計画」によると、ともに計画期間は2023年9月から2029年12月まで。その間に、除染や家屋解体を進め、道路、電気・通信、上下水道などの生活インフラ整備を実施して帰還(避難指示解除)を目指す。  両町に続き、浪江町は昨年12月15日までに「浪江町特定帰還居住区域復興再生計画」をまとめた。帰還困難区域を抱えるのは7市町村あるが同計画策定は3例目。その後、県との協議を経て国に申請した。本誌は締め切りの関係上、同計画について国の認可が下りたかどうかは確認できていないが、過去の「特定復興再生拠点区域復興再生計画」などの事例からしても、すんなり認定されるものと思われる。  同町の計画では、帰還困難区域に指定されている全14行政区が対象に含まれている。計画期間は大熊・双葉両町と同じ2023年9月から2029年12月まで。  整備概要は以下の通り。  ○除染・家屋解体を進め、道路、河川、電気・通信、上下水道等の生活インフラの復旧・整備を実施する。  ○集会所等については、利用ニーズへの対応や効率的な運営を考慮し、住民のコミュニティー再生に寄与するものとなるよう再整備を進める。  ○農業水利施設の復旧・整備等については、各地域における営農再開に向けた検討状況等に留意しつつ、関係者と協議の上、営農に必要な範囲での実施に向けて調整を進める。  ○そのほか、生活関連サービスについては、避難指示解除時のサービス提供を目指し、関係者と調整を進める。  ○インフラ整備と除染等の措置などについては、特定復興再生拠点区域復興再生計画の際と同様に、一体的かつ効率的に実施する。  こうして、帰還困難区域全域解除に向けて、一歩前進したわけだが、違和感があるのは、帰還困難区域の除染が国費で行われること。原因者である東電に負担を求めないのだ。以前の本誌記事でも指摘したが、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるのが筋で、そうではなく国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。

  • 動き出した「特定帰還居住区域」計画

    動き出した「特定帰還居住区域」計画

     原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする政府方針が決まった。それに先立ち、今年度内に、大熊町と双葉町で先行除染が行われる予定で、大熊町では8月に対象住民説明会を実施した。 先行除染の費用は60億円 先行除染の範囲(福島民報3月2日付紙面より)  原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。  一方、帰還困難区域は、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定し、除染や各種インフラ整備などを実施。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。  ただ、復興拠点は、帰還困難区域全体の約8%にとどまり、残りの大部分は解除の目処が全く立っていなかった。そんな中、国は今年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。  それに先立ち、今年度内に大熊町と双葉町で先行除染が行われることになった。昨年実施した帰還意向調査結果や特定復興再生拠点区域との位置関係、放射線量などを考慮し、大熊町の下野上1区、双葉町の下長塚行政区と三字行政区が先行除染の候補地とされた。  これを受け、大熊町は8月19、20日に住民説明会を開催した。非公開(報道陣や対象行政区以外の町民は参加不可)だったため、内容の詳細は分かっていないが、町によると「国(環境省)を交えて、対象行政区の住民に概要や対象範囲などについて説明を行う」とのことだった。  ある関係者によると、「だいたい80世帯くらいが対象になるようだが、実際の住まいとしては20軒くらい。同行政区の帰還希望者の敷地は除染・家屋解体などを行う、といった説明がなされたようです」という。  先行除染が行われることが決まったのは今年春。その時はまだ「特定帰還居住区域」案などを盛り込んだ「福島復興再生特別措置法」の改定前だったが、先行除染の範囲などは、住民の帰還意向調査などに基づいて、国と当該町村が協議して決める、としており、ようやく詳細に動き出した格好だ。なお、国は先行除染費用として今年度当初予算に60億円を計上している。 復興拠点内外が点在 下野上1区の集会所と屯所  先行除染が行われる下野上1区は、JR大野駅の西側に位置する。同行政区は約300世帯あるが、復興拠点に入ったところとそうでないところがあるという。前出の関係者によると、復興拠点外は約80世帯で、当然、今回の先行除染は同行政区の復興拠点から外れたところが対象になり、復興拠点と隣接している。県立大野病院と常磐道大熊ICの中間当たりが対象エリアとなる。  同行政区の住民によると、「アンケート(意向調査)で、下野上1区は帰還希望者が比較的多かった。そのため、先行除染の対象エリアに選ばれた」という。 同町では、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われた。対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。  回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。さらに今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。  そんな中でも、下野上1区は帰還希望者が比較的多かったため、先行除染の対象になったということだ。  前述したように、同行政区内では、復興拠点に入ったところとそうでないところが混在している。そのため、向こうは解除されたのに、こっちは解除されないのは納得できないといった思いもあったに違いない。そんな事情から、同行政区は帰還希望者が比較的多かったのだろう。  国は7月28日、「改定・福島復興再生特別措置法」を踏まえた「福島復興再生基本方針」の改定を閣議決定した。特定帰還居住区域復興のための計画(特定帰還居住区域復興再生計画)の要件などが定められている。これに基づき、今後対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。同時に、大熊・双葉両町で先行除染が開始され、2029年までの避難解除を目指すことになる。  ただ、以前の本誌記事も指摘したように、帰還困難区域の除染が、原因者である東電の責任(負担)ではなく、国費(税金)で行われるのは違和感がある。帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるのが筋で、そうではなく国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。

  • 課題が多い帰還困難「復興拠点外」政策

    課題が多い帰還困難「復興拠点外」政策

     原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする方針を盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」が成立した。その概要と課題について考えていきたい。 帰還希望者少数に多額の財政投資は妥当か 大熊町役場  原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。 一方、帰還困難区域は、文字通り住民が戻って生活することが難しい地域とされてきた。ただその後、帰還困難区域のうち、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)として定め、除染や各種インフラ整備などを実施した後、5年をメドに避難指示を解除し帰還を目指す、との基本方針が示された。 これに従い、帰還困難区域を抱える町村は、復興拠点を設定し「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を策定した。帰還困難区域は7市町村にまたがり、総面積は約337平方㌔。このうち復興拠点に指定されたのは約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%にとどまる。南相馬市は対象人口が少ないことから、復興拠点を定めていない。 復興拠点のうち、JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線再開通に合わせて2020年3月末までに解除された。そのほかは、葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除され、すべての復興拠点で解除が完了した。以降は、住民が戻って生活できるようになった。 一方、復興拠点から外れたところは、2021年7月に「2020年代の避難指示解除を目指す」といった大まかな方針は示されていたが、具体的なことは決まっていなかった。ただ、今年に入り、国は復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定めることを盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」の素案をまとめ、6月2日に同法が成立した。 その概要はこうだ。 ○対象の市町村長は、知事と協議のうえ、復興拠点外に「特定帰還居住区域」を設定する。「特定帰還居住区域」は帰還住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地等を含む範囲で、①放射線量を一定基準以下に低減できること、②一体的な日常生活圏を構成しており、事故前の住居で生活再建を図ることができること、③計画的、効率的な公共施設等の整備ができること、④拠点区域と一体的に復興再生できることなどが要件。 ○市町村は、それらの事項を含む「特定帰還居住区域復興再生計画」を策定して、国(内閣総理大臣)に認定申請する。 ○国(内閣総理大臣)は、特定帰還居住区域復興再生計画の申請があったら、その内容を精査して認定の可否を決める。 ○認定を受けた計画に基づき、国(環境省)が国費で除染を実施するほか、道路などのインフラ整備についても国による代行が可能。 復興拠点は、対象町村がエリア設定と同区域内の除染・インフラ整備などの計画を立て、それを国に提出し、国から認定されれば、国費で環境整備が行われる、というものだった。「特定帰還居住区域」についても、それに準じた内容と言える。避難解除は「2020年代」、すなわち2029年までに住民が戻って生活できることを目指すということだ。 こうした方針が本決まりになったことに対して、大熊町の対象者(自宅が復興拠点外にある町民)はこう話す。 「復興拠点外の扱いについては、この間、各行政区などで町や国に対して要望してきました。そうした中、今回、方向性が示され、関連の法律が成立したことは前進と言えますが、まだまだ不透明な部分も多い」 「特定帰還居住区域」に関する意向調査 復興拠点と復興拠点外の境界(双葉町)  この大熊町民によると、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われたという(※意向調査実施時は「改正・福島復興再生特別措置法」の成立前で、「特定帰還居住区域」は仮の名称・制度だった)。詳細を確認したところ、国と当該自治体が共同で、大熊・双葉・富岡・浪江の4町民を対象に、「第1期帰還意向確認」の名目で意向調査が実施された。 大熊町では、対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)で、このうち「営農意向あり」が81、「営農意向なし」が24、「その他」が38。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。 回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。ほかの3町村も同様の結果だったようだ。今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。 前出の大熊町民も「アンケート結果を見ると、回答があった340世帯のうち、143世帯が『帰還希望あり』との回答だったが、仲間内での話や実際の肌感覚では、そんなにいるとは思えない」という。 今後、対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。それに先立ち、住民懇談会なども開かれると思うが、そこでどんな意見・要望が出るのか。ひとまずはそこに注目したいが、本誌が以前から指摘しているのは、原因者である東電の責任(負担)で環境回復させるのではなく、国費(税金)でそれを行うのは妥当か、ということ。 対象住民(特に年配の人)の中には、「どんな状況であれ戻りたい」という人も一定数おり、それは当然尊重されるべきだ。ただ、国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。詰まるところは、帰還困難区域は、基本的には立ち入り禁止にし、どうしても戻りたい人、あるいはそこで生活しないとしても「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人たちのための必要最低限の環境整備にとどめるか、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるかのどちらかしかあり得ない。

  • 浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定

     原発事故に伴う避難指示区域で、現在も残っているのは帰還困難区域のみ。同区域の一部は「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定され各種環境整備が進められた。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が2022年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が昨年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。  ただ、復興拠点は、帰還困難区域の約8%にとどまり、残りの大部分は手付かずだった。そんな中、国は昨年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。  復興拠点の延長のような形で、主にそこに隣接するエリアが指定され、居住区域を少しずつ拡大していくようなイメージである。  同制度ができ、早速、大熊町と双葉町で動きがあった。2022年に実施した帰還意向調査結果や復興拠点との位置関係、放射線量などを考慮し、大熊町の下野上1区、双葉町の下長塚行政区と三字行政区が昨年9月に先行して「特定帰還居住区域」に指定された。昨年12月20日からは先行除染がスタートしている。  両町の「特定帰還居住区域復興再生計画」によると、ともに計画期間は2023年9月から2029年12月まで。その間に、除染や家屋解体を進め、道路、電気・通信、上下水道などの生活インフラ整備を実施して帰還(避難指示解除)を目指す。  両町に続き、浪江町は昨年12月15日までに「浪江町特定帰還居住区域復興再生計画」をまとめた。帰還困難区域を抱えるのは7市町村あるが同計画策定は3例目。その後、県との協議を経て国に申請した。本誌は締め切りの関係上、同計画について国の認可が下りたかどうかは確認できていないが、過去の「特定復興再生拠点区域復興再生計画」などの事例からしても、すんなり認定されるものと思われる。  同町の計画では、帰還困難区域に指定されている全14行政区が対象に含まれている。計画期間は大熊・双葉両町と同じ2023年9月から2029年12月まで。  整備概要は以下の通り。  ○除染・家屋解体を進め、道路、河川、電気・通信、上下水道等の生活インフラの復旧・整備を実施する。  ○集会所等については、利用ニーズへの対応や効率的な運営を考慮し、住民のコミュニティー再生に寄与するものとなるよう再整備を進める。  ○農業水利施設の復旧・整備等については、各地域における営農再開に向けた検討状況等に留意しつつ、関係者と協議の上、営農に必要な範囲での実施に向けて調整を進める。  ○そのほか、生活関連サービスについては、避難指示解除時のサービス提供を目指し、関係者と調整を進める。  ○インフラ整備と除染等の措置などについては、特定復興再生拠点区域復興再生計画の際と同様に、一体的かつ効率的に実施する。  こうして、帰還困難区域全域解除に向けて、一歩前進したわけだが、違和感があるのは、帰還困難区域の除染が国費で行われること。原因者である東電に負担を求めないのだ。以前の本誌記事でも指摘したが、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるのが筋で、そうではなく国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。

  • 動き出した「特定帰還居住区域」計画

     原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする政府方針が決まった。それに先立ち、今年度内に、大熊町と双葉町で先行除染が行われる予定で、大熊町では8月に対象住民説明会を実施した。 先行除染の費用は60億円 先行除染の範囲(福島民報3月2日付紙面より)  原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。  一方、帰還困難区域は、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定し、除染や各種インフラ整備などを実施。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。  ただ、復興拠点は、帰還困難区域全体の約8%にとどまり、残りの大部分は解除の目処が全く立っていなかった。そんな中、国は今年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。  それに先立ち、今年度内に大熊町と双葉町で先行除染が行われることになった。昨年実施した帰還意向調査結果や特定復興再生拠点区域との位置関係、放射線量などを考慮し、大熊町の下野上1区、双葉町の下長塚行政区と三字行政区が先行除染の候補地とされた。  これを受け、大熊町は8月19、20日に住民説明会を開催した。非公開(報道陣や対象行政区以外の町民は参加不可)だったため、内容の詳細は分かっていないが、町によると「国(環境省)を交えて、対象行政区の住民に概要や対象範囲などについて説明を行う」とのことだった。  ある関係者によると、「だいたい80世帯くらいが対象になるようだが、実際の住まいとしては20軒くらい。同行政区の帰還希望者の敷地は除染・家屋解体などを行う、といった説明がなされたようです」という。  先行除染が行われることが決まったのは今年春。その時はまだ「特定帰還居住区域」案などを盛り込んだ「福島復興再生特別措置法」の改定前だったが、先行除染の範囲などは、住民の帰還意向調査などに基づいて、国と当該町村が協議して決める、としており、ようやく詳細に動き出した格好だ。なお、国は先行除染費用として今年度当初予算に60億円を計上している。 復興拠点内外が点在 下野上1区の集会所と屯所  先行除染が行われる下野上1区は、JR大野駅の西側に位置する。同行政区は約300世帯あるが、復興拠点に入ったところとそうでないところがあるという。前出の関係者によると、復興拠点外は約80世帯で、当然、今回の先行除染は同行政区の復興拠点から外れたところが対象になり、復興拠点と隣接している。県立大野病院と常磐道大熊ICの中間当たりが対象エリアとなる。  同行政区の住民によると、「アンケート(意向調査)で、下野上1区は帰還希望者が比較的多かった。そのため、先行除染の対象エリアに選ばれた」という。 同町では、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われた。対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。  回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。さらに今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。  そんな中でも、下野上1区は帰還希望者が比較的多かったため、先行除染の対象になったということだ。  前述したように、同行政区内では、復興拠点に入ったところとそうでないところが混在している。そのため、向こうは解除されたのに、こっちは解除されないのは納得できないといった思いもあったに違いない。そんな事情から、同行政区は帰還希望者が比較的多かったのだろう。  国は7月28日、「改定・福島復興再生特別措置法」を踏まえた「福島復興再生基本方針」の改定を閣議決定した。特定帰還居住区域復興のための計画(特定帰還居住区域復興再生計画)の要件などが定められている。これに基づき、今後対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。同時に、大熊・双葉両町で先行除染が開始され、2029年までの避難解除を目指すことになる。  ただ、以前の本誌記事も指摘したように、帰還困難区域の除染が、原因者である東電の責任(負担)ではなく、国費(税金)で行われるのは違和感がある。帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるのが筋で、そうではなく国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。

  • 課題が多い帰還困難「復興拠点外」政策

     原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする方針を盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」が成立した。その概要と課題について考えていきたい。 帰還希望者少数に多額の財政投資は妥当か 大熊町役場  原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。 一方、帰還困難区域は、文字通り住民が戻って生活することが難しい地域とされてきた。ただその後、帰還困難区域のうち、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)として定め、除染や各種インフラ整備などを実施した後、5年をメドに避難指示を解除し帰還を目指す、との基本方針が示された。 これに従い、帰還困難区域を抱える町村は、復興拠点を設定し「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を策定した。帰還困難区域は7市町村にまたがり、総面積は約337平方㌔。このうち復興拠点に指定されたのは約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%にとどまる。南相馬市は対象人口が少ないことから、復興拠点を定めていない。 復興拠点のうち、JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線再開通に合わせて2020年3月末までに解除された。そのほかは、葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除され、すべての復興拠点で解除が完了した。以降は、住民が戻って生活できるようになった。 一方、復興拠点から外れたところは、2021年7月に「2020年代の避難指示解除を目指す」といった大まかな方針は示されていたが、具体的なことは決まっていなかった。ただ、今年に入り、国は復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定めることを盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」の素案をまとめ、6月2日に同法が成立した。 その概要はこうだ。 ○対象の市町村長は、知事と協議のうえ、復興拠点外に「特定帰還居住区域」を設定する。「特定帰還居住区域」は帰還住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地等を含む範囲で、①放射線量を一定基準以下に低減できること、②一体的な日常生活圏を構成しており、事故前の住居で生活再建を図ることができること、③計画的、効率的な公共施設等の整備ができること、④拠点区域と一体的に復興再生できることなどが要件。 ○市町村は、それらの事項を含む「特定帰還居住区域復興再生計画」を策定して、国(内閣総理大臣)に認定申請する。 ○国(内閣総理大臣)は、特定帰還居住区域復興再生計画の申請があったら、その内容を精査して認定の可否を決める。 ○認定を受けた計画に基づき、国(環境省)が国費で除染を実施するほか、道路などのインフラ整備についても国による代行が可能。 復興拠点は、対象町村がエリア設定と同区域内の除染・インフラ整備などの計画を立て、それを国に提出し、国から認定されれば、国費で環境整備が行われる、というものだった。「特定帰還居住区域」についても、それに準じた内容と言える。避難解除は「2020年代」、すなわち2029年までに住民が戻って生活できることを目指すということだ。 こうした方針が本決まりになったことに対して、大熊町の対象者(自宅が復興拠点外にある町民)はこう話す。 「復興拠点外の扱いについては、この間、各行政区などで町や国に対して要望してきました。そうした中、今回、方向性が示され、関連の法律が成立したことは前進と言えますが、まだまだ不透明な部分も多い」 「特定帰還居住区域」に関する意向調査 復興拠点と復興拠点外の境界(双葉町)  この大熊町民によると、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われたという(※意向調査実施時は「改正・福島復興再生特別措置法」の成立前で、「特定帰還居住区域」は仮の名称・制度だった)。詳細を確認したところ、国と当該自治体が共同で、大熊・双葉・富岡・浪江の4町民を対象に、「第1期帰還意向確認」の名目で意向調査が実施された。 大熊町では、対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)で、このうち「営農意向あり」が81、「営農意向なし」が24、「その他」が38。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。 回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。ほかの3町村も同様の結果だったようだ。今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。 前出の大熊町民も「アンケート結果を見ると、回答があった340世帯のうち、143世帯が『帰還希望あり』との回答だったが、仲間内での話や実際の肌感覚では、そんなにいるとは思えない」という。 今後、対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。それに先立ち、住民懇談会なども開かれると思うが、そこでどんな意見・要望が出るのか。ひとまずはそこに注目したいが、本誌が以前から指摘しているのは、原因者である東電の責任(負担)で環境回復させるのではなく、国費(税金)でそれを行うのは妥当か、ということ。 対象住民(特に年配の人)の中には、「どんな状況であれ戻りたい」という人も一定数おり、それは当然尊重されるべきだ。ただ、国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。詰まるところは、帰還困難区域は、基本的には立ち入り禁止にし、どうしても戻りたい人、あるいはそこで生活しないとしても「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人たちのための必要最低限の環境整備にとどめるか、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるかのどちらかしかあり得ない。