動き出した「特定帰還居住区域」計画

動き出した「特定帰還居住区域」計画

 原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする政府方針が決まった。それに先立ち、今年度内に、大熊町と双葉町で先行除染が行われる予定で、大熊町では8月に対象住民説明会を実施した。

先行除染の費用は60億円

先行除染の範囲(福島民報3月2日付紙面より)
先行除染の範囲(福島民報3月2日付紙面より)

 原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。

 一方、帰還困難区域は、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定し、除染や各種インフラ整備などを実施。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。

 ただ、復興拠点は、帰還困難区域全体の約8%にとどまり、残りの大部分は解除の目処が全く立っていなかった。そんな中、国は今年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。

 それに先立ち、今年度内に大熊町と双葉町で先行除染が行われることになった。昨年実施した帰還意向調査結果や特定復興再生拠点区域との位置関係、放射線量などを考慮し、大熊町の下野上1区、双葉町の下長塚行政区と三字行政区が先行除染の候補地とされた。

 これを受け、大熊町は8月19、20日に住民説明会を開催した。非公開(報道陣や対象行政区以外の町民は参加不可)だったため、内容の詳細は分かっていないが、町によると「国(環境省)を交えて、対象行政区の住民に概要や対象範囲などについて説明を行う」とのことだった。

 ある関係者によると、「だいたい80世帯くらいが対象になるようだが、実際の住まいとしては20軒くらい。同行政区の帰還希望者の敷地は除染・家屋解体などを行う、といった説明がなされたようです」という。

 先行除染が行われることが決まったのは今年春。その時はまだ「特定帰還居住区域」案などを盛り込んだ「福島復興再生特別措置法」の改定前だったが、先行除染の範囲などは、住民の帰還意向調査などに基づいて、国と当該町村が協議して決める、としており、ようやく詳細に動き出した格好だ。なお、国は先行除染費用として今年度当初予算に60億円を計上している。

復興拠点内外が点在

下野上1区の集会所と屯所
下野上1区の集会所と屯所

 先行除染が行われる下野上1区は、JR大野駅の西側に位置する。同行政区は約300世帯あるが、復興拠点に入ったところとそうでないところがあるという。前出の関係者によると、復興拠点外は約80世帯で、当然、今回の先行除染は同行政区の復興拠点から外れたところが対象になり、復興拠点と隣接している。県立大野病院と常磐道大熊ICの中間当たりが対象エリアとなる。

 同行政区の住民によると、「アンケート(意向調査)で、下野上1区は帰還希望者が比較的多かった。そのため、先行除染の対象エリアに選ばれた」という。
 同町では、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われた。対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。

 回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。さらに今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。

 そんな中でも、下野上1区は帰還希望者が比較的多かったため、先行除染の対象になったということだ。

 前述したように、同行政区内では、復興拠点に入ったところとそうでないところが混在している。そのため、向こうは解除されたのに、こっちは解除されないのは納得できないといった思いもあったに違いない。そんな事情から、同行政区は帰還希望者が比較的多かったのだろう。

 国は7月28日、「改定・福島復興再生特別措置法」を踏まえた「福島復興再生基本方針」の改定を閣議決定した。特定帰還居住区域復興のための計画(特定帰還居住区域復興再生計画)の要件などが定められている。これに基づき、今後対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。同時に、大熊・双葉両町で先行除染が開始され、2029年までの避難解除を目指すことになる。

 ただ、以前の本誌記事も指摘したように、帰還困難区域の除染が、原因者である東電の責任(負担)ではなく、国費(税金)で行われるのは違和感がある。帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるのが筋で、そうではなく国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。

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