課題が多い帰還困難「復興拠点外」政策

課題が多い帰還困難「復興拠点外」政策

 原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする方針を盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」が成立した。その概要と課題について考えていきたい。

帰還希望者少数に多額の財政投資は妥当か

【帰還希望者少数に多額の財政投資は妥当か】大熊町役場
大熊町役場

 原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。

 一方、帰還困難区域は、文字通り住民が戻って生活することが難しい地域とされてきた。ただその後、帰還困難区域のうち、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)として定め、除染や各種インフラ整備などを実施した後、5年をメドに避難指示を解除し帰還を目指す、との基本方針が示された。

 これに従い、帰還困難区域を抱える町村は、復興拠点を設定し「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を策定した。帰還困難区域は7市町村にまたがり、総面積は約337平方㌔。このうち復興拠点に指定されたのは約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%にとどまる。南相馬市は対象人口が少ないことから、復興拠点を定めていない。

 復興拠点のうち、JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線再開通に合わせて2020年3月末までに解除された。そのほかは、葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除され、すべての復興拠点で解除が完了した。以降は、住民が戻って生活できるようになった。

 一方、復興拠点から外れたところは、2021年7月に「2020年代の避難指示解除を目指す」といった大まかな方針は示されていたが、具体的なことは決まっていなかった。ただ、今年に入り、国は復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定めることを盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」の素案をまとめ、6月2日に同法が成立した。

 その概要はこうだ。

 ○対象の市町村長は、知事と協議のうえ、復興拠点外に「特定帰還居住区域」を設定する。「特定帰還居住区域」は帰還住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地等を含む範囲で、①放射線量を一定基準以下に低減できること、②一体的な日常生活圏を構成しており、事故前の住居で生活再建を図ることができること、③計画的、効率的な公共施設等の整備ができること、④拠点区域と一体的に復興再生できることなどが要件。

 ○市町村は、それらの事項を含む「特定帰還居住区域復興再生計画」を策定して、国(内閣総理大臣)に認定申請する。

 ○国(内閣総理大臣)は、特定帰還居住区域復興再生計画の申請があったら、その内容を精査して認定の可否を決める。

 ○認定を受けた計画に基づき、国(環境省)が国費で除染を実施するほか、道路などのインフラ整備についても国による代行が可能。

 復興拠点は、対象町村がエリア設定と同区域内の除染・インフラ整備などの計画を立て、それを国に提出し、国から認定されれば、国費で環境整備が行われる、というものだった。「特定帰還居住区域」についても、それに準じた内容と言える。避難解除は「2020年代」、すなわち2029年までに住民が戻って生活できることを目指すということだ。

 こうした方針が本決まりになったことに対して、大熊町の対象者(自宅が復興拠点外にある町民)はこう話す。

 「復興拠点外の扱いについては、この間、各行政区などで町や国に対して要望してきました。そうした中、今回、方向性が示され、関連の法律が成立したことは前進と言えますが、まだまだ不透明な部分も多い」

「特定帰還居住区域」に関する意向調査

【「特定帰還居住区域」に関する意向調査】復興拠点と復興拠点外の境界(双葉町)
復興拠点と復興拠点外の境界(双葉町)

 この大熊町民によると、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われたという(※意向調査実施時は「改正・福島復興再生特別措置法」の成立前で、「特定帰還居住区域」は仮の名称・制度だった)。詳細を確認したところ、国と当該自治体が共同で、大熊・双葉・富岡・浪江の4町民を対象に、「第1期帰還意向確認」の名目で意向調査が実施された。

 大熊町では、対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)で、このうち「営農意向あり」が81、「営農意向なし」が24、「その他」が38。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。

 回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。ほかの3町村も同様の結果だったようだ。今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。

 前出の大熊町民も「アンケート結果を見ると、回答があった340世帯のうち、143世帯が『帰還希望あり』との回答だったが、仲間内での話や実際の肌感覚では、そんなにいるとは思えない」という。

 今後、対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。それに先立ち、住民懇談会なども開かれると思うが、そこでどんな意見・要望が出るのか。ひとまずはそこに注目したいが、本誌が以前から指摘しているのは、原因者である東電の責任(負担)で環境回復させるのではなく、国費(税金)でそれを行うのは妥当か、ということ。

 対象住民(特に年配の人)の中には、「どんな状況であれ戻りたい」という人も一定数おり、それは当然尊重されるべきだ。ただ、国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。詰まるところは、帰還困難区域は、基本的には立ち入り禁止にし、どうしても戻りたい人、あるいはそこで生活しないとしても「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人たちのための必要最低限の環境整備にとどめるか、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるかのどちらかしかあり得ない。

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