田村・郡山・二本松で相次ぐ仏像窃盗

 昨年秋から県中地方の寺で仏像の盗難被害が相次いでいる。今年1月には窃盗容疑で田村市の男が逮捕されたが、罪に問われているのは実際の被害の一部で、最近発覚した仏像盗難が全てこの男の手によるものなのかどうかは判然としない。骨董品としての転売や金属部分の換金を目的に仏像窃盗は古くから続くが、近年はネットオークションの隆盛で盗品を売りやすくなった。県内の住職・檀家たちは模倣犯を恐れる。

背景に「住職不在寺院」とネットオークション隆盛

 仏教は檀家制度を通じて日本に広く根付いた宗教なので、その寺院は昔から地域と密接で開放的だ。逆に言うと、誰でも入れ、古い建物がゆえに侵入されやすい。

 寺社に保管されている貴重品を狙った窃盗は古くから繰り返され、太古の記録に既に見える。最近では2012年に長崎県対馬市の観音寺から県有形文化財の仏像が盗まれて韓国に持ち込まれ、同国の寺が所有権を主張する国際問題に発展した。交渉の結果、今年5月10日に日本側に引き渡される。福島県内では、昨年秋から県中地方で仏像窃盗が相次いだ。

 昨年11月16日付の福島民友は「田村地方、仏像窃盗相次ぐ」と報じた。田村市や小野町、三春町の寺から仏像や仏具、掛け軸、半鐘が盗まれているのが判明した。近隣の二本松市や川俣町の寺でも仏像の盗難被害が相次いでいることが分かった。盗難品の中には市町村の文化財に指定されるなど公的に価値を認められた物もあった。

 これらの地域の神社では、神鏡や太鼓などの神具が盗まれていることも判明。秋に例大祭を行う神社や寺院は多く、そのための準備や掃除で盗難に気付いたケースもあった。昨年秋までの1年間に盗みが相次いだとみられる。

 この時点では1人の犯行なのか、窃盗団の犯行なのかは判然としなかった。目的も、盗んだ仏像をそのまま転売するつもりだったのか、破壊して金属部分を売るつもりだったのか分からなかった。

 盗品の転売は足が付きやすいので大々的に売れない。そもそも、盗まれた仏像の多くは骨董品としての価値はあるが、重要文化財指定や博物館で飾られるほどの物ではなく、値段を付ければ数万~数十万円ほど。骨董品は由緒があればこそ高額になるが、盗品のため出所は明らかにできず、高そうな物ほど足が付くので売りにくい。

 広域の窃盗被害が発覚してから2カ月後の今年1月には、昨年9月から10月にかけて三春町の寺に侵入して本堂や観音堂から仏像20体、掛け軸1点(合計約480万円相当)を盗んだとして田村市船引町の解体業の男が逮捕された。県警は男の自宅や職場から仏像や掛け軸、銅鏡、台座など約120点を押収した。

 男は三春町、郡山市湖南町、二本松市東和地区の寺から仏像を盗んだとして、これまで3回にわたり逮捕・起訴されたが、裁判内で盗んだと示されたのは押収品の一部に過ぎない。本誌は郡山市と二本松市での盗みを審理した4月17日の第2回公判を地裁郡山支部で傍聴した。

 仏像窃盗を繰り返した男は石井秀人被告(48)。警察官3人に身柄を拘束されて現れた石井被告は、坊主頭に太めの体形で、副住職にいそうな雰囲気だった。

 検察官が読み上げた起訴状によると、石井被告は昨年9月下旬から同10月1日までの間に二本松市東和地区にある寺の薬師堂の南京錠を解いて侵入し、仏像12体を盗んだ。同10月下旬ごろには郡山市湖南町の寺の窓の施錠を破って本堂に侵入し、仏像6体を窃取。観音堂にも侵入し、仏像1体を盗み取った。一部の仏像は郡山市内の中古品買取店で売却した。この店に初めて売却したのは同年9月下旬だった。

 検察側によると、石井被告は昨年4月ごろから無収入になり、消費者金融からの借金の返済や保険料の支払いを滞納していた。ネットオークションで仏像が高値で取引されていると知り、昨年8月ごろから複数の寺に盗みに入ったという。

 グーグルマップを見て周辺に民家がない寺を選んだ。中山間地にある寺は、後継者が途絶えるなどして住職が常駐しておらず、別の寺の住職が兼務している場合が多い。石井被告はバールや番線カッターを用意し、本堂の施錠を破って侵入し仏像などを軽トラックに積んで持ち帰り一部を転売した。少しでも値段が付くように修理して売る場合もあったという。

被害住職「仏像に代わりは存在しない」

 盗難に入られた住職たちが捜査機関の取り調べに答えている。郡山市湖南町の寺の住職は、

 「寺に安置されていた仏像は前住職から引き継いだ大切な物。昔から大事にされてきた物が私の代で盗まれ悔しい。1体1体に思いが込められており、代わりは存在しない。早く戻ってきてほしい」

 県中地方のある住職は本誌の取材に寺経営の内情を打ち明ける。

 「郡山市湖南町の寺は先代が亡くなってから住職が常駐しておらず、同市熱海町にある同じ宗派の寺の住職が兼務している。檀家が減り、後継者が不足する中でこのような例は珍しくなく、1人の住職が複数の寺の住職を兼務し、檀家を確保することで経営を成り立たせている現状がある。一般的に寺の敷地内には本堂以外にも観音堂や薬師堂などが点在し、全てに目を光らせるのは難しい。まして広い範囲で寺を兼務しているとなおさら困難。盗難を住職や近くの檀家の責任に帰することはできない」

 石井被告が仏像窃盗に手を染めるのは、昨年4月から無収入になり借金がかさんだのがきっかけとされるが、生活態度はそれ以前から問題があった。公判では2016年に酒気帯び運転で検挙されたことが明かされた。仏像窃盗を行っていた昨年10月にも飲酒運転し、道路交通法違反(酒気帯び運転)で起訴されている。同10月10日の夜から翌11日にかけて、自動車内で缶ビールや缶チューハイ4本を飲酒後、車を運転し郡山市緑ケ丘で道路の中央分離帯に衝突して飲酒運転が発覚した。

 次回公判は6月16日午後1時半から開かれる。残りの仏像窃盗について追起訴分が審理され、結審する予定。仏像の盗難が相次いだのをきっかけに、各寺では今一度管理者が仏像の安置場所を確認するようになり、新たな盗難が発覚している。3月には須賀川市横田の護真寺が所蔵する県指定重要文化財「木造宝冠釈迦如来坐像」がなくなっていたことが分かった。石井被告が盗んだ120体以上の仏像の中に重要文化財が含まれていたのか、次回の追起訴に注目だ。

 県内の住職は今回の仏像窃盗をどう考えるのか。前出の県中地方の住職は一過性の犯行とみる。

 「賽銭泥棒の延長線上にある。近くに民家がない寺に侵入し、バレないで盗めるからと手当たり次第に金目の物をさらっていった安直で大胆な犯行。盗んだ仏像をそれなりの金額に換えるには、多く転売しなければならない。古物商に売ってもネットオークションに売ってもいずれ足が付く。あまり多方面に売ると目立つので、実際はなかなか金銭に換えられなかったのでは。犯人宅から押収されていた仏像120体は結構な数。盗んだはいいが、処分に困っていた表れだ」

被害発覚が遅れる「お堂」と「秘仏」

 この住職によると、窃盗犯の地元である田村地方(田村市、三春町、小野町)での盗難が最も多かったという。

 「本堂にある本尊が盗まれるのは特にショッキングなので注目されたが、それ以上に寺近隣の薬師堂や観音堂、阿弥陀堂などが狙われた。本堂に監視カメラを付ける寺は多いが、お堂までは手が回らない。さらには寺近辺だけでなく、集落の森や山の中にあるようなお堂まで狙われた。地区の住民で管理し、例大祭の時に地元の住職に拝んでもらう。地区のお堂では、過疎化や住民の高齢化で例大祭や清掃を行うのも難しいので、盗難に気付くのも遅れやすい。置いてある仏像も美術品としては価値が高くはないので、そもそも盗まれることを想定していない」(同)

 仏像は信徒や地区の住民が拝んできた歴史に価値があり、金額の多寡で測れる物ではない。転売すると市場で無理やり値段が付けられ、素朴に育んできた価値は失墜。盗まれた住職や信徒たちは二重に傷つく。

 盗難に遭った仏像の中には、県の重要文化財や市町村が指定する文化財もあった。この住職は返還までの苦労を推察する。

 「文化財指定を受けている仏像は、防犯のためや、より価値を上げるために『秘仏』扱いし、御開帳の時にだけ見せる寺がある。普段は木箱とかに入れて鍵を掛ける。1年に1回や数年に1回の御開帳の時にしか開けてはならないので、その間に盗まれても誰も気づかない。仏像を身近に知らないので、住職も自分の寺の盗品がどれか分からない。名刹として知られている寺院ではパンフレットに秘仏が載っているので、住職ですらそれと照らし合わせて盗まれた仏像を探し出すしかないと思います」(同)

 県北地方のある住職は、盗品を買う側の問題を指摘する。

 「本尊になる仏像は、それ自体に金銭的価値や芸術的価値が高いとは言えないが、由緒や歴史性を感じさせる点に価値がある。仏像マニアの中には、入手経路を考えず手に入れたい人がいるのでは」

 仏像に美術的価値を見いだし、自分の物にしたい者は昔からいた。例えばオークションでは、海外の愛好家が鎌倉時代の名人が作った傑物を高額落札した例がある。制作年代が古いことと、転売に転売を重ね、もはや「盗品」とは言えなくなったので公の市場で売買されている。

 規模は格段に縮小するが、ネットオークションが隆盛し、手ごろな値段の仏像をマニアが手に入れられる場もできた。

 「手に入れたいマニアは昔からいたが、盗品なので入手方法が限られていた。昔は裏のマーケットに流すしかないので、転売目的で盗む者は少なかった。今はフリマアプリやネットオークションで、売買者が素性を明かさずに取引できる。運営側もネットで大量に取引される出品物が盗品かどうか判別するのは無理でしょう。ネットを介した販売なら、買った方も『盗品とは知らなかった』と言い訳できるので、昔より手に入れやすいのではないか」(同)

 入手経路にはこだわらず、手ごろな価格で仏像を手に入れたいマニア→素性の分からない出品者も参加できるネットオークションの隆盛→手ごろな市場価格(=管理が甘く盗みやすい)の仏像を盗む動機が循環していると言えよう。

 仏像売買市場は形成されているが、専門とする窃盗団はあまりなく、しばらくは個人の犯行が中心になるとこの住職は想像する。

 「これだけトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)が闇バイト強盗をしているのに、組織的な仏像窃盗に手を出したとは聞いたことがない。トクリュウは金庫のありかを家人から聞き出すため、あえて在宅中に強盗するほど人命を軽んじるカネの亡者。仏像の闇売買は、まだ彼らが参入する規模には成長していないのだろう。もしトクリュウが地域に開かれた寺に目を付け、標的にする時代が来たら恐ろしい」(同)

 これまでの話から、寺が正規ルートで放出した仏像がネットオークションに出回ることはない、と考えていいのか。

 「寺院の財産が移転するのは、宗教法人格を失い閉じる時だ。それ自体あまりない。閉じる時は住職を含む役員会で議決して、財産を処分する。信仰の対象なので、魂を抜いてお焚き上げすることが考えられる。そうでなければ、関わりの深い寺に寄贈する。宗派によっては、財産処分を本山に諮る必要がある。寺の仏像が正規ルートでオークションに出回ることは考えにくい」(同)

 今回の仏像窃盗事件では、既に売買された物については返ってこない可能性がある。仏像を取り戻せなくなった場合、新造はあり得るのか。

 「住職や檀家たちは返還のために最後まで動くと思うが、戻ってこないと諦めた場合は焼失のケースと同じで、新しく作るか関係の深い別の寺から譲ってもらう方法がある。新造の場合、職人に支払うのは『お気持ち』で、値段はピンキリ。安くても100万円以上はする。今は彫師などの職人も減り、相場は上がっているだろう。失くした仏像を作った職人は既に亡くなっているはずなので、当時の技術を再現できるとも限らない。そもそもネットオークションなどで買う人がいなくなれば、罰当たりな行為もなくなる。寺としては防犯に気を付けるしかない」(同)

 盗まれた仏像が既に転売されていた場合、取り戻すにはネットオークションが現実的だ。盗難にあった仏像の文化財指定解除を諮問された機関が、ネットを介して発見に努めるよう求めた例がある。

 《24年前に盗難に遭い、所在不明となっている長野県伊那市指定有形文化財の木製仏像2体について、市教育委員会が市文化財審議委員会に文化財指定解除を諮問したところ、審議委は「適当とは認められない」と答申した。インターネットを活用して発見された例もあるとして、新たな情報収集の手法も活用して発見に努めるべき―と指摘した》(信濃毎日新聞4月7日配信)

 ネットを介して狙われる現代は、取り戻すのもネットということだ。

仏像窃盗犯に仏罰は下るのか

 最後に、仏像を盗んだ者に仏罰が下るのかが気になる。

 前出の住職たちに聞くと「仏像に限らず盗みを働くのは悪い。だが、仏様はちっぽけな人間が想像するに及ばない広い心を持っているので、悔い改めるように計らうのでは」という答えに落ち着いた。

 平安時代に成立した最古の仏教説話集「日本霊異記」を紐解くと、仏像泥棒の説話があった。奈良時代前期に和泉の国(大阪府泉南市付近)に盗人がおり、寺に忍び込んでは仏像や飾り物などの金属製品を盗み出して帯状に伸ばして売っていた。家の中から泣き声(仏像が泣く声?)を聞いた通行人が盗人を捕らえ、盗みに入られた寺の僧に引き渡すと、僧たちは「あの男も人間だから」と放免した。ところが、通行人は許さず役所に突き出し、盗人は牢獄に入れられた。

 仏の徳を伝えるための説話で、教訓は「仏は慈悲深いが悪は厳しく罰する。全てのことは仏の計らい」と解されている。県内で相次いだ仏像窃盗の犯人には、どのような仏の計らいが顕れるのか。

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