JR郡山駅前の商業施設で10代の未成年女性3人の尻を触ったとして県迷惑行為等防止条例違反(卑猥な行為の禁止)に問われた県警巡査長(事件当時)の常習痴漢行為が、県警の信頼を失墜させている。男は児童ポルノ所持の罪にも問われ、インターネットサイトを通じて入手した児童ポルノは1600件に及んだ。さらには東京駅で盗撮現場を押さえられ、「盗撮ハンター」から恐喝されていた。郡山駅での痴漢行為を始めたのはその後であり、恐喝被害から何も学んでいなかった。
盗撮ハンターに2度大金払った過去
男は事件当時、郡山北署本宮分庁舎地域係に所属していた元巡査長の渡辺振一朗被告(43)=三春町下舞木岩本(本籍青森県八戸市)。福島地裁で開かれてきた公判で、渡辺被告は起訴内容を認め、検察は懲役1年を求めた。10月29日に有罪判決が言い渡される予定(原稿執筆時点は10月21日)。
渡辺被告は大学卒業後、1年5カ月ほど航空自衛官を務め、2008年4月に福島県警の警察官を拝命した。今年5月に郡山駅前の商業施設で10代女性の尻を揉んだとして、不同意わいせつ容疑で逮捕された。裁判では不同意わいせつではなく、痴漢行為を取り締まる県迷惑行為等防止条例違反に問われている。県警は9月11日に渡辺被告に停職3カ月の懲戒処分を下し、渡辺被告は同日付で依願退職した。現在は保釈中の身だ。
捜査では未成年の女性に常習的に痴漢や盗撮を行ってきたことが判明し、三つの事件が罪に問われた。事件は氷山の一角で、他にも複数の未成年女性が被害を受けていた模様。
①昨年11月4日(土)午後6時20分ごろ、郡山駅前の商業施設の中古アニメショップ内で当時12歳の女性の尻を服の上から右手で触った。
②今年1月28日(日)午後4時15分ごろ、同じ商業施設内の別のアニメ関連グッズ販売店で当時15歳の女性の尻を服の上から右手で触った。
③今年5月19日(日)午後4時40分ごろ、②と同じ場所で当時13歳の女性の尻を服の上から右手で触った。
渡辺被告が最初に手を出した犯罪は盗撮だった。10年ほど前から街ゆく若い女性の顔や姿をスマートフォンを使って無断で撮影していた。性的対象の年齢は下がり、女子中学生や女子高校生が標的になった。
犯行場所は県内にとどまらなかった、月1回のペースで東京駅に繰り出し盗撮した。法廷では、これまで「盗撮ハンター」に2度も犯行現場を押さえられ、計170万円を払ったことが明かされた。
盗撮ハンターは盗撮者を「警察に突き出す。さもなくば『誠意』を見せろ」と脅し、慰謝料や示談金名目で金銭を要求する連中。恐喝や美人局に当たるが、盗撮が既に犯罪なので、恐喝されても警察に助けを求めることはできない。盗撮が家族や職場にばれるのを恐れ、盗撮者の多くは要求に応じてしまう。
恐喝目当ての盗撮ハンターはもちろん正業ではない。警察が昨今、血眼になって捜している匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)など反社会的勢力の資金源になっているとみられ、警察官の渡辺被告が盗撮ハンターの要求に応じたことは、その意味でもマズい。
新型コロナが蔓延したことで、渡辺被告は上京できず、東京駅で盗撮することもなくなった。代わりにインターネットで児童ポルノを漁るようになった。アダルトサイトで検索し、未成年女性の裸同然の画像を取得した。児童ポルノは作成・所持が禁じられているため、サイトの幾層にも奥に隠されている。たどり着くまで手間がかかり、摘発を逃れるため時間が過ぎるとサイト自体が閉鎖されてしまうという。
渡辺被告は手間を無駄にしたくないと、手当たり次第にダウンロードしてスマートフォンに保存。容量がいっぱいになると、過去に使っていたスマホに保存した。それでもいっぱいになると、スクリーンショットして画像のデータ量を小さくし、スマホの容量限界まで保存した。児童ポルノはスマホ2台に合わせて1612件保存されていた。家族に未成年のわいせつ画像を所持していることを知られたが、その後も児童ポルノの所持・閲覧は続いた。
新型コロナが収束に向かう中で、鳴りを潜めていた盗撮行為も復活する。犯行現場にしたのが、若者でひしめく郡山駅前の商業施設だ。昨年から女子中・高生を物色し、盗撮や痴漢をするようになった。
犯行が盗撮から、被害者への接触を伴う痴漢に移行するのは偶然だったという。
「2023年の春から秋ごろ、店で偶然右手が女性の尻に触れて謝罪された。『この子は手が尻に当たっているのに謝るのか。頭のネジが足りないな』と思い、狭い通路で自分の手に相手の尻が触れるように仕向けるのが面白くなった」と渡辺被告は取り調べで語った(供述調書より)。
「当たっているのに当たっていないと考えるとワクワクした」とも。土日の昼から夕方に現れ、何度も入退店を繰り返す渡辺被告に店員たちは不審を抱き、マークしていた。店員が品出しする時には距離を詰めてきて気持ち悪がられていたという。
未成年女子に執着
相手を未成年に絞ったのは、性的対象とみていた以外にも理由がある。渡辺被告は「中年女性は警戒心が強い」と感じ、社会経験に乏しい未成年ならその場で犯行を咎めてくる度胸はないと考えた。事実、痴漢された未成年女性たちは恐れと恥ずかしさから硬直し、帰宅後も保護者にうまく被害を打ち明けられなかった。彼女たちは痴漢被害を受ける悪夢を見たり、買い物で男性が近くにいる商品棚に近づけなくなったりするなどトラウマを抱えている。
犯人が警察官と判明し、さらにショックを与えた。治安を守るべき警察官が痴漢をしていたことは、県警への信頼を失墜させた。
被害者とその保護者の声は「警察を頼りにしていたのにこれでは頼れない。当たり前のように警察を信じていたのに裏切られた。2度と警察官がこのような罪を犯さないようにしてほしい」(ある保護者の供述)に集約される。
渡辺被告は、3人の被害者のうち1人に代理人を通じて謝罪の手紙を送り、示談金として100万円を用意した。だが、被害者は拒否。渡辺被告は拒否されることを想定し、残り2人の被害者には謝罪文を送ったり示談を申し出たりはしていない。渡辺被告は、盗撮と痴漢に執着した背景には認知の歪みがあると考え、保釈後に精神科に通ってカウンセリングを受けているという。
被告人質問で、裁判官は警察官にもかかわらずなぜ犯行に及んだのかを問うた。
島田裁判官「未成年の女性が多く集まる場所を敢えて選んで犯行に及んだ。10代の女の子の将来にどのような悪い影響を与えるか考えなかったのか」
渡辺被告「認識していました」
島田裁判官「性欲の解消方法は犯罪行為以外になかったのか」
渡辺被告「あります」
島田裁判官「ではなぜ(痴漢を)したのか」
渡辺被告「性欲と言うか、楽しんでいた」
島田裁判官「動機は性欲ではないのか」
渡辺被告「女性と自分が触れるかどうかのせめぎあいに夢中になっていた」
島田裁判官「スリルを味わっていたということか」
渡辺被告「はい」
島田裁判官「警察官なら犯罪行為をした者がどうなるか見てきたはず。犯行がいずれは発覚し、刑事罰を科されるとは思わなかったのか」
渡辺被告「早くやめないといけないという気持ちはあった」
盗撮ハンターから恐喝されて170万円を払った時点で懲りるべきだった。被害者に思いが至らないばかりか、学習能力がない。