柳津町議会で異例の工事契約否決

 柳津町議会6月定例会で、関連予算が可決された工事の請負契約議案が、賛成少数により土壇場で否決されるという異例の事態が起きた。ところが、その後の臨時議会で、全く同じ内容の議案があっさり可決された。同町議会で何が起きていたのか。

背景に町側の説明不足と町長への不信感

 「一度否決された議案が、内容は同じまま1カ月も経たないうちに再提出されて可決された。町議らはなぜわずかな期間で心変わりしたのか、町内で話題になっています」(柳津町民)

 柳津町は奥会津への玄関口に位置し、2795人(住民基本台帳、7月1日現在)が暮らす。2025年度一般会計当初予算は約42億9000万円。そんな同町の議会でのやり取りが町内外の注目を集めた。

 町の中心部に「やないづふれあい館」という公共施設がある。公民館機能を備え、災害時には避難所となる施設だ。老朽化で空調が故障したため、設備を更新することになり、工事関連予算1億1300万円を含む一般会計当初予算が同町議会3月定例会で可決された。5月26日に行われた指名競争入札でアクーズ会津(会津若松市)が約7920万円で落札し、同社と町の間で仮契約が結ばれた。

やないづふれあい館
やないづふれあい館

 ところが、町執行部が同町議会6月定例会に契約承認議案を提出したところ、賛成1、反対6の賛成少数で否決されたのだ。議会定数は10(欠員1)で、この日はさらに1人が病欠。議長を除く7人で採決が行われた。

柳津町議会の議員名簿

氏 名期数
齋藤正志(議 長)5期
松村 亮(副議長)3期
荒明 正一5期
田﨑 信二4期
新井田順一3期
岩渕 清幸3期
磯目 泰彦3期
渡邊 俊典3期
小林  浩1期
(定数10、欠員1)


 同町の議会ウオッチャーによると、否決の背景には、電気式からガスヒートポンプ(以下ガス方式と表記)に変更することへの疑問があったという。

 ガスはバルク貯槽というタンクで保管されるが、町内には供給設備を持つ事業所がない。災害時、道路が寸断されれば補給が困難になる。タンク容量は約10日分とされるが、1日6時間稼働を前提とした計算で24時間稼働なら3日も持たない。緊急防災減災事業債を活用する事業だが、ガス方式に切り替えて災害時に避難所として機能するのか――こうした疑問の声が町議から上がったのだ。

 そもそもガス設備の工事には5カ月を要するため、仮に議案が可決されていたとしても今年の夏には間に合わないことも判明。「修理が必要ならガス方式を採用する考えであることも含め、もっと早く議会に説明すべきだったのではないか」――町議の間ではもともと説明不足の傾向が目立つ町に対する不満がくすぶっており、反町長派の2人による理路整然とした反対討論を受けて、一気に反対ムードが広まった。

 「町はガス方式採用について、経済性、防災性、環境性、利便性・快適性に優れている点を説明したが、十分な理解が得られず、議長が賛成討論を促しても誰も立たなかった。そのまま採決となり、賛成少数で否決という結果に至りました」(議会ウオッチャー)

 「執行部提出の議案には基本的に反対しない議会」と揶揄されることもある同町議会では、極めて異例の結果となったわけ。

 ところが、否決されてからわずか24日後の6月30日の臨時議会で、全く同じ議案が再提出され、5対2の賛成多数で可決された。前回から意見がひっくり返ったということになる。

 なぜ空気は一変したのか。複数の町議に確認すると、「もともと説明不足のまま事業を進めようとすることが多い執行部に不満を持っていたところに、今回の議案の問題が生じたため反対に回った。ただ、臨時議会で執行部から詳細な説明を受けてメリットが理解できたので賛成に転じた」(ある町議)といった声が聞かれた。疑問点を追及する意味合いで議案に反対したわけでなく、執行部に〝お灸を据える〟意味合いでの反対だったということだろう。

 反町長派町議らは「ガス設備を保有している指定避難所は全国6・6%、県内ではわずか0・6%に留まる。なぜガスにこだわるのか」と追及した。これに対し小林功町長ら執行部は「総合的に判断してガスに決定した」と答弁するにとどまった。また、議会で一度否決された議案をすぐに再提出したことについては、「定例会と臨時会で区切られているので法的制約はない」と説明した。

 町は今回の可決を「説明が町議に理解していただいた結果だ」と受け止めているようだが、一部町民の間では「わずかな期間で意見がひっくり返るのは不自然」、「小林町長が水面下で働きかけたのではないか。町議に接触を図ったという話も聞かれている」とウワサされている。

「議会軽視がひどい」

小林町長は困惑
小林町長は困惑

 そもそも議案が一度否決されたり、ウワサが流れる背景には、小林町長に対する不信感があるようだ。

 「井関庄一前町長と比べて議会への説明や根回しが圧倒的に足りず、議案を突然出してくることもたびたびあったため、町議らも『議会軽視がひどい』とボヤいている。加えて町長の〝身内の企業〟との露骨な親密ぶりを懸念する声も支持者の間から漏れ聞こえてきます」(前出・議会ウオッチャー)

 小林町長は1963年2月生まれ。国士舘大法学部卒。柳津町議などを歴任し、2019年6月の町長選で初当選。2023年6月の町長選では1610票を獲得し、対立候補の荒明正一氏(現町議)に1327票差で再選した。

 今回の一件について小林町長にコメントを求めたところ、こう語った。

 「契約の承認案件で、予算はすでに確保していたのに否決されたので驚きましたが、説明が足りなかったと受け止めました。臨時議会ではさまざまな角度から検討して、ガス方式を採用した経緯などをあらためて丁寧に説明しました。一度否決されたからと言って、変更を加えるのはかえって不自然なので、同じ議案を提出して可決していただきました。議員の皆さまにご理解をいただけたものと考えています」

 〝水面下での働きかけ〟疑惑について小林町長に尋ねると「詳しい説明をした議員はいたかもしれないが、働きかけのようなことはしていません」と否定し、「私の取り組みにさまざまな意見があるのは承知しているが、常に町にとって最善は何かを考えて行動しています。今後も信念を持って町のために取り組んでいく所存です」と話した。

 異例の契約否決、そして急転直下の可決。小林町長は「議員にご理解いただけた」と胸を張るが、執行部と議会の関係が完全修復されたとは言いがたい。一部の町民の間には、今回の一件に関する疑念や町長に対する不信感が依然として残っており、こちらは急転直下で解決とはいかなそう。今後も説明不足に陥らないよう、さらなる丁寧な議会対応と情報提供が求められる。

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