今年2月、会津地方は記録的な大雪に見舞われた。中でも会津若松市では道路の除雪が追い付かず、市民生活・経済活動は完全に麻痺した。季節は夏を迎えようとしているが、議会では除雪対応についての一般質問が行われ、市民は〝寒波再襲来〟を見据えて動き出すなど、〝次の冬〟に向けた備えと教訓の整理が着々と進められている。
いまから〝寒波再襲来〟を警戒する市民
会津地方の2月の大雪に関して、本誌は3月号「会津若松市の除雪に苦情・不満続出」と6月号「会津豪雪『農業被害』の実態」で取り上げてきた。
2月4日から9日にかけて会津地方は大雪に見舞われ、同7日の会津若松市(特別地域気象観測所)の日最深積雪(1日の中での積雪の深さの最大値)は121㌢と、観測史上最大の数値を記録した。
同7日、県は会津地方13市町村に対し、被災者の救援や生活支援を迅速に行うための国の支援制度である「災害救助法」の適用を決定した(後に天栄村、下郷町、郡山市も追加)。16市町村の被害概況によると、2月27日現在の人的被害は死者2人、重傷14人、軽傷28人。住家被害は半壊2棟、一部損壊63棟、床下浸水3棟。パイプハウスなど農業施設への被害も大きく、会津地方16市町村、郡山市、須賀川市の被害総額は3億0535万円に上った。
中でも大雪により混乱を来したのが会津若松市だ。猛烈な勢いで降り続く雪に除雪作業が追い付かず、スタックする車が続出し、幹線道路は大渋滞に陥った。降雪がひと段落すると、日中に溶けた雪が、夜間の気温低下で再び固まりデコボコ路面となるため、路面状態は一層悪化し、渋滞は解消されなかった。市内では学校の休校、路線バスの運休、ごみ収集の一部停止など市民生活全般に影響が及んだ。
経済面への影響も大きかった。市によると、2月5日から16日までの東山温泉と芦ノ牧温泉の旅館・ホテルの宿泊予約キャンセル数は約3250人分に上り、経済的損失は概算で約1億9650万円となった。東山温泉の宿泊施設関係者は「災害級の大雪であることが盛んに報道されたため、3月以降も宿泊客がなかなか戻らなかった」と嘆く。雪を目当てに訪れていたインバウンド客は大喜びだったようだが、コロナ禍のダメージから回復していない宿泊施設は大打撃を受けた格好だ。
市民が不満を募らせたのは除雪の遅れだ。2月の取材時には、毎日早朝から除雪する大変さや、自宅前を除雪してもらえない不満の声が多数聞かれた。SNSも市への苦情であふれかえっていた。
それから4カ月以上経っても不満はくすぶっており、5月7日から15日まで市内各地で開かれた同市議会の意見交換会でも市民から大雪関連の意見が多く寄せられた。
2月の取材時、市道路課は除雪作業が後手に回った理由について「純粋に積雪量と積雪回数の問題」、「会津若松市内は道路が広くないため、路肩に雪を置くスペースがない」と話していた。要するに、観測史上最大級の大雪に対応しきれなかったのに加え、市内は道路が狭く、排雪場所も限られるため除雪が遅れるのは仕方がない、と。建設業者から除雪作業に携わるオペレーターが不足しているという声も聞かれたので、その辺の事情もあったのかもしれない。
もっとも、国や県は市内を走る国道49号や市中心部の県道を通行止めにして集中除雪を実施し、交通状況を大幅に改善させた。そのため、「市も同じ要領で市道を集中除雪すれば渋滞は防げたのではないか」と市道路課の主張を懐疑的に受け止める市民が少なくないのだ。
会津地方のローカル誌『会津ジャーナル』4月15日号の記事では、道路法42条で「道路管理者は道路を常時良好な状態に保つように維持・修繕し、一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない」と定められていることを踏まえ、市民生活に混乱を招いた市の除雪対応に疑問を投げかけている。
除雪をもっとうまく進めることはできなかったのか。あらためて市道路課に確認したところ、担当者はこのように述べた。
「国や県は道路区間が限られているので集中除雪しやすい。一方、市道は除雪対象の道路だけでも延長約850㌔に上ります。交通量の多さや医療施設の有無、幹線道路へのアクセスなど優先順位を付けて除雪に取り組みましたが、雪が降り続ける中で除雪が間に合わなくなり、生活道路網の通行確保が困難となってしまいました。現在、再発防止のための情報収集と関係機関との協議を進めているところです」
ただでさえ会津地方の他市町村の住民から「除雪が下手」と評されている同市。いまの時点で情報収集・協議をしているとは何とものんびりした印象だが、次の冬までに新たな除雪体制を構築できるのだろうか。
消融雪設備復旧を請願

市の大雪対応に危機感を抱いた市民が自ら動き出したケースもある。中川原町内会長の武田孝次さんは、同町内会を通る市道の消融雪設備について、早期復旧を市に働きかけるよう求める請願を市議会に提出した。請願書によると、同市道は通勤・通学路として利用されているが、設備の不調により2月の大雪の際に作動しなかったという。
同町内会のエリアは連日大渋滞となり、近隣の竹田綜合病院や病院関連施設の従業員が従業員用駐車場に入れず、遅刻したケースが相当数に上った。歩道の雪が溶けなかったことから、同市立第三中学校に通う生徒が車道を歩いて登下校せざるを得ないなど、危険な状態が続いた。
「町内会の総会で『また大雪になる前に消融雪設備を復旧してほしい』と声が上がったので、市道路課に伝えました。ところが同課の担当者は『原因を調査中ですが、予算に限りがあり、金額がかかる場合、今年中の対応は厳しいかもしれない』と消極的な回答に終始した。そこで別な方法を考えようと、議員に相談して市議会に請願を出したのです」(武田さん)
武田さんは第三中学校PTA会長や竹田綜合病院、認定こども園若松第三幼稚園、消防団から署名をもらい、紹介議員には異例の数の4人が名前を連ねた。地域にとって重要な課題であることが伝わったのか、請願は委員会、本会議ともに満場一致で採択された。
市道路課によると、請願で復旧を要望された市道の消融雪設備は昨年途中から作動しなくなり、原因を調査していた中で2月の大雪に直面した。作動しなくなった原因は電気回線や配管のトラブルなどさまざまな要因が考えられ、それによって改修費用も変わってくる。そうした設備を改修するための年間予算も改修箇所の数や規模によって数百万円から数千万円と毎年異なる、とのこと。
特に予算額が決まっていないのであれば、なぜ武田さんに対し金額を理由に消極的な回答をしたのか理解できないが、いずれにしても請願が採択されたことで市も早期復旧を目指す流れになるだろう。「市に任せていたら、地域課題の解決(消融雪設備の復旧)がいつになるか分からない」と市民が危機感を抱き、議会を通して市に早期対応を促したわけで、市と市民の温度差を象徴する動きと言えよう。
市議会6月定例会議では、一般質問で村澤智市議(3期、創風あいづ)が市の大雪対応をめぐる課題を取り上げた。主な指摘は次の通り。
▽パソコンやスマートフォンで除雪車運行システムを確認できるが、アクセスが集中して閲覧できなくなった。サーバーなどの設備増強を検討し、除雪の優先順位を分かりやすく示すべきだ。
▽市に苦情や要望の電話が殺到した。電話対応のDX化を図るべきだ。
▽エリアメールや緊急速報メールを活用して、除雪情報を広く発信して交通渋滞解消に取り組めないのか。
▽国・県と連携して除雪すべきだ。
これらの指摘に対し、室井照平市長は「除雪車運行システムの機能強化と改善に取り組む。優先順位も分かりやすくするよう検討し、除雪業者が担当区域の除雪に集中できる体制の整備に努める。デジタル技術を活用した受付体制を検討し、エリアメールなどの活用についても可能性を探っていく。国・県など関係機関とは交差点の雪山除去や段差解消などについて検証しており、積雪時の道路交通網確保のため今後も協議を進めていく」と答弁した。
実現しなかった災害派遣
注目を集めたのは自衛隊派遣をめぐる質問だ。というのも、市内では当初から「自衛隊が出動待機していたが、市の準備不足で災害派遣の要請がなかった」という話がウワサになっていたのだ。
2010年の大雪の際は西会津町の国道49号で大型トラックがスリップして道路をふさぎ、多くの車が長時間にわたり立ち往生を余儀なくされた。そのため、佐藤雄平知事(当時)が災害派遣を要請し、陸上自衛隊が出動して除雪作業をした。翻って今回の大雪も災害救助法が出されたのになぜ自衛隊は出動しなかったのか、市の対応が悪かったのではないか、と疑問視されているわけ。
村澤市議がこの件の真偽を尋ねたところ、室井市長はこう説明した。
「道路の除排雪が追い付かず、新たな雪捨て場の確保も必要となったことから、2月9日の第1回災害対策本部員会議で自衛隊の災害派遣を県に要請することを決定し、県と協議を行った。ただ、協議の結果、自衛隊法及び県地域防災計画で自衛隊の災害派遣に必要とされている三要件(緊急性、公共性、非代替性)を満たさないことから、派遣には至らなかった」

災害派遣の要件を満たしていなかったので自衛隊の派遣には至らなかった、と。市危機対策課や県災害対策課によると、自衛隊関係者の意見も聞きながら市と県で協議を行い、その結果、大雪への災害派遣は公共性が認められるものの、市全体が完全に孤立していたわけではなく、人命や財産が危険にさらされている事情もなかったため、「緊急性、非代替性(自衛隊でなければ対応できない作業かどうか)を満たしていない」という結論に至ったという。
それでも「消防を除雪作業に出動させるなど、初動で手を尽くしたうえで災害派遣要請していれば結果は違ったはずだ」と指摘する声もあり、この件に関する市民の不満は今後もくすぶり続ける可能性がある。
市内のある経済人は「狭い市街地の中で排雪するスペースがないことが最大の課題であり、大雪の際は通常の倍の除雪関連費用がかかることも分かった。今後は市がそのことをきちんと総括して、市民に説明し、コンセンサスを得ながら体制を構築していくことが必要だ」と情報発信の重要さを指摘した。村澤市議も一般質問の中で、室井市長が除雪関連情報をこまめに発信していくことが大雪時の渋滞緩和や市民の不満軽減につながるということを繰り返し指摘していた。
「除雪体制の見直し」、「市民との情報共有」、「災害対応に関する初動判断の精度」など、単なる反省にとどまらない〝体制の再設計〟が市政に求められている。4期目の折り返し地点に入る室井市長は次の大雪の際にうまくかじ取りできるのか。市民は厳しいまなざしを向けている。
























