「入札介入」を指摘された石田典男【会津若松市議】

「入札介入」を指摘された石田典男【会津若松市議】

 会津若松市の石田典男議員(63)が窮地に立たされている。会津若松地方広域市町村圏整備組合(以下、整備組合と略)の新ごみ焼却施設整備・運営事業の入札をめぐり、2021年8月、整備組合議会が設置した100条委員会から「関係者への働きかけがあった」と断定されたのに続き、2022年10月には市政治倫理審査会から「政治倫理条例に違反する行為があった」と認定されたのだ。

当人は「法令に違反していない」と反論

当人は「法令に違反していない」と反論【会津若松市の石田典男議員】
会津若松市の石田典男議員

 会津若松市の石田典男議員(63)が窮地に立たされている。会津若松地方広域市町村圏整備組合(以下、整備組合と略)の新ごみ焼却施設整備・運営事業の入札をめぐり、2021年8月、整備組合議会が設置した100条委員会から「関係者への働きかけがあった」と断定されたのに続き、2022年10月には市政治倫理審査会から「政治倫理条例に違反する行為があった」と認定されたのだ。

 整備組合(管理者・室井照平会津若松市長)は会津若松市、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、湯川村、柳津町、三島町、金山町、昭和村、会津美里町で構成され、圏域人口は17万4500人(2022年4月現在)。構成市町村のごみ・し尿・廃棄物処理、水道用水供給、介護認定審査、消防に関する事業を行っている。

 既存のごみ焼却施設は会津若松市神指町南四号で稼働中だが、1988年竣工と老朽化が著しいため、整備組合では隣接するし尿処理施設を解体し、その跡地に新ごみ焼却施設を建設する計画を立てた。

 10月下旬、現地を訪ねると、し尿処理施設は既に取り壊され、鉄板が広く敷かれた敷地内では複数の重機やトラックが稼働するなど、大規模な土木工事が始まっていた。

 計画によると、し尿処理施設の解体から土木工事、プラント工事、試運転までを含む期間は2021年8月から26年3月。その後、営業運転が始まる予定だが、この工事の入札に執拗に介入していたとされるのが同市の石田典男議員だった。石田議員は当時、整備組合議会の議員を務めていた。

 石田議員は何をしたのか。

 入札は総合評価方式制限付一般競争で行われ、共に地元業者をパートナーとする日立造船JVと川崎重工業JVが参加。2021年2~5月にかけて、整備組合が設置した「新ごみ焼却施設整備・運営事業事業者選定委員会」(以下、選定委員会と略)による審査を経て、同6月、川崎重工業JVが落札者に決まった。本契約は同8月に交わされ、契約金額は約252億円だった。

新ごみ焼却施設は現在、土木工事が行われている
新ごみ焼却施設は現在、土木工事が行われている


 この入札過程で石田議員が関係者に対し、入札手続きに関する
質問や問い合わせを繰り返したり、落選した日立造船JVの担当者らと一緒に行動していたことなどが明らかになった。きっかけは、選定委員会の委員2名から「石田議員から特定企業に対する便宜や利益誘導等の要請、依頼等の働きかけに該当する恐れのある行為を受けた」とする報告書が整備組合管理者の室井市長に提出されたことだった。委員2名とは、当時の市建築住宅課長と市廃棄物対策課長である。

 事態を問題視した整備組合は、事実関係を調査するため入札手続きを一時中断。その結果、落札者の決定が当初4月上旬の予定から6月上旬と2カ月遅れた。

 調査では、次のような事実関係が明らかになっている。

 ①石田議員は複数回にわたり選定委員の建築住宅課長を訪ね、非公開の選定委員会資料を閲覧し、地元業者の入札参加要件などを公表前に聞き出そうとした。

 ②石田議員は建築住宅課長に、落札者の選定に当たっては災害対応、地元業者の活用、景観的調和などが重要事項になると指摘した。

 ③石田議員は選定委員の廃棄物対策課長に、災害に強い施設や発電設備の設置場所などのポイントについて説明した。

 ①の行為が問題なのは説明するまでもないが、②と③の行為は、そこに挙げられた要件を重視すると日立造船JVの方が優れていると石田議員が示唆した――と委員2人は受け止め、これを「石田議員による働きかけ」と捉えたわけ。ちなみに、非公開資料を石田議員に閲覧させた建築住宅課長は減給6カ月の懲戒処分を受け、市を退職している。

 このほか石田議員は、日立造船や地元業者の担当者らを連れて市役所や市公園緑地協会を訪ねている。目的は同協会に、審査項目の一つになっている関係表明書(もしそのJVが落札したら、地元業者に協力を約束する文書)の提出を求めるためだった。応札業者と議員が一緒に行動すれば、周囲から疑いの目で見られるのは避けられないのに、躊躇しなかったのは驚く。

 ただ、整備組合の調査では「不当な働きかけや関係法令に抵触するような事実は確認できず、入札の公平な執行を妨げるまでには至っていない」と結論付けられた。「グレーかもしれないが、クロとまでは言い切れない」というわけだ。

 この結論に納得がいかなかった整備組合議会は2021年5月、地方自治法100条に基づく「新ごみ焼却施設整備・運営事業等に係る事務調査特別委員会」(以下、特別委員会と略)を設置。特別委員会は同5~8月にかけて計23回開かれ、石田議員に対する証人尋問を行ったり、前述・選定委員2名(この時、既に委員を辞めていた)や市建設部副部長、整備組合職員を参考人招致したり、関係者に資料提出を求めるなどした。

 これらの調査結果をまとめたのが同8月17日付で公表された「新ごみ焼却施設整備・運営事業等に係る事務調査報告書」である。その結論部分は次のよう書かれている。

狙いは石田議員〝抹殺〟⁉

 《今般の調査を通して、石田議員は環境センター等への電話や訪問等により、記録が残されているだけでも十数回にわたり問い合わせや意見の申出、資料の請求、又は資料の提示を行っている。特に、入札公告前の入札に関する情報については、公表できないと何度も回答しているにもかかわらず、繰り返し秘密情報を探り出そうとする執拗な行為に職員は圧力を感じた、というものである。

 こうした執拗な問い合わせや確認は、議員の権限を越えた入札手続きへの介入であり、執行機関の権限を侵害するものである。

 一方、会津若松市建設部副部長との間における緑地協会からの関心表明書に係るやり取りについても、同様に問い合わせや確認が繰り返されたことから、今般新たに働きかけと認定されたところであり、本事業に係る入札手続きの中断は、まさに石田議員による選定委員会委員2名と会津若松市職員1名への働きかけが発端となったものである。加えて、石田議員は、整備組合の入札に応募する民間企業であることを理解した上で、その営業活動に同行するなどした一体性を疑われる行為は、議員活動の範囲を逸脱していると言わざるを得ず、とりわけ石田議員は整備組合とA社(報告書には実名が表記されているが、ここでは伏せる)単独または関係する企業グループ等との間における契約案件について、整備組合の議会議員として審査や決議を行う立場にありながら、企業の立場で資料を持参の上、質問や相談を行う行為には疑念を抱かざるを得ない》(39頁)

 このように「石田議員による働きかけや疑わしい行為があった」と断定しているが、報告書にはこうも書かれている。

 《すべての委員において特定の者に有利、または不利に働くような趣旨の発言は一切なされなかったこと、さらに石田議員による非公開資料の閲覧、石田議員によるB・C両委員(建築住宅課長と廃棄物対策課長。報告書には実名が表記されているが、ここでは伏せる)への接触等によって、本事業に係る(中略)意思決定について、何ら影響を受けていないことを委員一同で確認した》(35頁)

 《官製談合防止法や刑法をはじめとする関係法令等に接触し公契約締結に係る妨害行為に該当し得るような行為の有無を検証したものの、これらの関係法令に抵触するような行為はなかった》(37頁)

 石田議員の一連の行為は「落札者の決定に影響を及ぼしておらず、関係法令にも抵触していなかった」というのである。

 整備組合による調査に続き、特別委員会による調査でも「グレーかもしれないが、クロとまでは言い切れない」と結論付けられたわけ。併せて特別委員会は「告発までには至らない」とも結論付けている。

 シロかクロか、はっきりさせるために設置したはずの特別委員会でも結局グレーとしか判断されず、どこかモヤモヤ感が残る。ただ報告書を読んでいくと、前述・委員2人や市建設部副部長、整備組合職員らの証言から、ある種の覚悟を感じ取ることができる。その証言とは、

 「石田議員から『これは重要だよね』『やっぱりこういう点で見なきゃいけないよね』といった問いかけがあり、自分としては誘導されているというイメージ、依頼があったという認識を持った」

 「石田議員の市議会建設委員会での質疑等から経験上、市へのアプローチの仕方を見てきており、今回も同じ方法で行われていると思った」

 「細かい中身まで質問されることもあり、何か意図があるんだなと思うような質問もあった」

 「入札そのものに関する情報は公表できないと何度も回答しているにもかかわらず、電話や来庁等により秘密情報を探り出そうとする執拗な行為に圧力を感じた」

 石田議員は以前から「市発注の公共工事に首を突っ込み過ぎる」と評判で、記者も市職員から度々「石田議員の行為は迷惑」と聞かされていた。要するに、疑惑が取り沙汰されるのは今回が初めてではないのだ。

 そうした中で、職員たちが石田議員を一斉に〝告発〟したのは「これ以上、入札への介入は許さない」という意思の表れだったのではないか。言い換えると、この際、職員たちは石田議員を〝抹殺〟しようとした、ということかもしれない。

不満露わにする石田議員

 石田議員は現在6期目。前回(2019年8月)の市議選(定数28)では1954票を獲得し、5位当選を果たしている。上位当選で6期も務めているのだから、有権者の支持も高いのだろう。

 もっとも、前述・特別委員会の報告書では地元の特定業者との近しい関係が指摘され、業者・業界による一定の支持が上位当選につながっている可能性もある。すなわち、石田議員は業者・業界の〝代理人〟としての役割を果たしつつ議員報酬(月額約45万円)を得ており、業者・業界は石田議員からもたらされる情報を有意義に活用している――という持ちつ持たれつの関係が浮かび上がってくる。

 2021年8月、特別委員会の報告書が公表された後、整備組合議会は石田議員に対し、整備組合議会議員の辞職勧告を決議したが、石田議員は辞職しなかった。

 一方、石田議員の一連の行為は関係法令には抵触していなかったが、市議会議員政治倫理条例に違反している可能性があるとして同11月、清川雅史議長に審査請求書が出されたことから、清川議長は同12月、第三者機関の「会津若松市政治倫理審査会」を設置した。同審査会は計8回開かれ、2022年10月4日、審査結果をまとめた「報告書」を清川議長に提出した。

 報告書に書かれていた結論は「公正な職務の執行を妨げたり、妨げるような働きかけを禁じた同条例第4条第1項第5号に違反する」というものだった。併せて審査会は、清川議長に対しても▽本事案について議員に周知し、政治倫理基準の順守を徹底すること、▽政治倫理基準に反する活動に対し、条例の趣旨に則り議員がその職責を果たすことを求める、という意見を文書で伝えた。

 清川議長に報告書と自身への意見について見解を尋ねると、次のようにコメントした。

 「審査会の報告書と意見を重く受け止めている。現在、会派代表者会議で議会としての対応を検討中で、現時点で議長としての見解を述べることは差し控えたい」

 この報告書を受け、石田議員は同18日、清川議長に「弁明書」を提出した。そこには《当該職員は何ら影響を受けずに活動できたものと思われる》《現に職務の公正性が害された事実はない》《報告書は「その他公正な職務を妨げる行為」がどのような行為を指すのか触れていない》と反論が綴られていたものの、《政治倫理条例第19条第1項は審査会の報告を尊重するものと定めており、議員としてこれに異はない》と同審査会の結論を受け入れる姿勢を示した。

 石田議員の条例違反が明確になったことで、同市議会では今後、石田議員に対する処分が検討される。この稿を書いている10月下旬の段階では辞職勧告が決議されるという見方が出ているが、会派によっては厳重注意でいいのではないかという声もあり、温度差があるようだ。いずれにしても、11月中に開かれる予定の臨時会で最終的な処分が科される見通しである。

 石田議員に電話で話を聞くと、弁明書では「異はない」としていたのに次々と反論が飛び出した。

 「応札業者と一緒に行動したことは軽率だったと反省している。しかし、整備組合の調査も特別委員会の報告書も、私が法令違反を犯したとは結論付けておらず、告発も見送っている。私からすれば問題アリと言うなら告発してもらった方が、どういう法令違反があったかハッキリして、かえって有り難かった」

 「審査会の報告書ももちろん重く受け止める。ただ、こちらも『その他公正な職務を妨げる行為』と抽象的な結論にとどまっている。私は議員として巨額の税金が投じられる公共工事について必要な調査を行っただけ。公の事業に関する情報を請求しただけなのに、なぜ悪く言われるのか。こちらが請求しても出せないと拒否するのは、隠し事があるからではないかと疑ってしまう。私は以前から公共工事について必要と思ったことは詳細に調査してきたし、勉強もしてきた。今回の入札も専門的知見から見るべき部分がたくさんあり、職員とは『それって必要なことだよね』と確認の意味を込めて話しただけ。私にとってはそれが『常識的なやり方』でもある。しかし、他の議員には私の『常識』が通じない。そういうことをやっている議員は他にいない、というわけです」

 「自分が100%悪いことをしたとは思っていないが、専門委員や職員にはもしかするとハラスメントと受け取られかねない言動があったのかもしれない。今後は特別委員会や審査会の報告書を丹念に読み込み、自分の行為が法令や条例に違反するのか・しないのか、弁護士と相談しながら結論を導き出したい。そうすることで特別委員会や審査会の調査が正しかったのか、処分を科された自分が納得できる結論だったのかを精査していきたい」

 石田議員によると、2021年8月に辞職勧告を決議された整備組合議会議員は、2022年10月に辞職したという。

同僚から冷ややかな声

 法令違反はなく、自身の「常識」に基づく行為だったことを何度も強調した石田議員。しかし、同僚議員の見方は冷ややかだ。

 「石田議員は弁明書で『他に資料請求をした議員がいないから〝特異な行動〟と言われるが、他に関心を持った議員が存在しなかっただけ』と述べているが、私から言わせると公共工事にそこまで関心を持つこと自体が不思議だ。あそこまで首を突っ込めば『業者に頼まれたから』と疑われてもやむを得ない。石田議員は『自分の行為は入札結果には影響していない』とも言っているが、そういう行為をしたことが問題なのであって、それに対する反省もない」

 そのうえで、同僚議員は石田議員の今後を次のように展望する。

 「市議会で辞職勧告を決議しても辞めないでしょう。議員は2023年8月に任期満了を迎え、市議選が行われる。石田議員の今回の行為は議員として相応しくないと思うが、もし市議選に出馬して7選を果たしたら、それは有権者が判断したことなので他の議員は従うしかない」

 一定の結論が出されたことで、石田議員が入札に介入することは今後難しくなるだろう。いわば主だった活動が制限される中、議員を続ける意義を見いだせるのかが問われる。もっとも、それが主だった活動というのは、議員としていかがなものかと思ってしまうが……。

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