【磐梯猪苗代メガソーラー】逮捕された元請けが証拠隠滅行為

【磐梯猪苗代メガソーラー】逮捕された元請けが証拠隠滅行為

 磐梯町と猪苗代町にまたがるメガソーラーの敷地に造成工事で発生した木くず(チップ)を不法投棄したとして、元請けの建設会社の役員が廃棄物処理法違反の疑いで逮捕された。本誌はちょうど1年前、下請け業者の証言をもとに「敷地一帯に大量のチップが埋まっている」と報じていた。この間、警察の事情聴取を受けてきた下請け業者が逮捕に至る経緯を明かしてくれた。

発電事業者に不法投棄の〝解消〟を迫る県

敷地に大量のチップが埋まっているとみられる磐梯猪苗代メガソーラー
敷地に大量のチップが埋まっているとみられる磐梯猪苗代メガソーラー
磐梯猪苗代メガソーラー 地図

 不法投棄があったのは「磐梯猪苗代太陽光発電所」(設備容量28・0㍋㍗)。JR磐越西線翁島駅から南西に約2㌔の場所にあり、磐梯町と猪苗代町にまたがる林地を切り開いた一帯で稼働する。

 事業者は合同会社NRE―41インベストメント(以下、NRE―41と略。東京都港区)だが、実質的には外資の再エネ事業者ヴィーナ・エナジーの日本法人ヴィーナ・エナジー・ジャパン(以下、ヴィーナ社と略。本社はNRE―41と同じ)が事業を手掛ける。

 廃棄物処理法違反(不法投棄)の疑いで7月2日に猪苗代署に逮捕されたのは、ヴィーナ社から工事を請け負った小又建設(青森県七戸町)の取締役・小野敬氏(65)。事件を報じた福島民友(7月3日付)によると、逮捕容疑は2020年12月から2021年3月ごろまでの間、メガソーラーの造成工事で発生した木くず約56・3㌧を廃棄物として処理せず、敷地内に投棄した疑い。

 「現時点で明らかになっているのは56㌧だが、実際に不法投棄された量はそんなものではない」

 そう話すのは、小又建設の下請けとして現場で造成工事を行った小川工業(郡山市)の小川正克社長だ。

 小川社長が本誌面に登場するのは今回で三度目。一度目は2023年10月号で、小川工業が小又建設から工事費の未払いを起こされていることや(同号時点で5億円)、県がNRE―41に出した林地開発許可に疑義があることなどをリポートした。

 二度目は2024年8月号で、今回の逮捕につながる事案、すなわち敷地に大量のチップが埋まっている疑惑を報じた。小川社長はこの時の取材に「小又建設から指示され私や小川工業の作業員が埋めた。埋めた場所も分かっている」と証言した。

 実は、小川社長は一度目の記事より前から、敷地にチップが埋まっていることを県に通報していた。

 本誌が入手した県の公文書によると、NRE―41から林地開発の申請を受理した会津農林事務所と産廃問題に対応する会津地方振興局は、2023年2月ごろから不法投棄の疑いがあることを情報共有し、どのように調査するかを協議していた。公文書には、同年3月に同事務所の担当者が事業者を立ち会わせ、現地確認した様子も記されている。

 公文書には、施工者がチップを敷地外にどれくらい搬出したかを示した記録簿もあった。そこには9月26日から10月31日にかけて計8200立方㍍搬出と記録されている。しかし、小川社長によると実際に搬出したのは5000立方㍍で、8200立方㍍は泥混じりのチップを加えた量だという。

 「現場は重機や大型ダンプが何台も通り、ぬかるんでいたため滑り止めでチップを敷きました。そうした中で産廃処理業者から『綺麗なチップはバイオマスの燃料に使えるが、泥混じりのチップは最終処理するしかない』と言われ、小又建設に相談すると『最終処理の費用を出せないので、そのまま埋めてくれ』と言われて……」(小川社長)

 ちなみに、最終処理の見積もりは2億4000万円に上ったという。

 もっとも、実際に発生したチップの量は8200立方㍍では到底収まらない量だった。小川社長が筆者に見せた写真には、敷地に広く積まれたチップが写っていた。空中からドローンで撮影したので高低は分かりづらいが、一緒に写っている重機や大型ダンプは山積みのチップと比べてかなり小さい。そこから推察すると、チップは少なく見積もっても8200立方㍍の10倍以上はある。

 こうした実態を、小川社長は会津農林事務所や会津地方振興局に出向いて証言し、何度も「試掘させてほしい」と求めた。「全ての関係者を集め、目の前で試掘すればチップが埋まっていることを証明できる」と自信をのぞかせ「かかった費用は全部持つ」とまで言い切った。

 しかし、県は「他者の土地なので勝手に掘れない」「県には捜査権がない」と試掘に消極的だった。

1年前から捜査が本格化

昨年9月に行われた試掘の様子(小川社長提供)
昨年9月に行われた試掘の様子(小川社長提供)
牧場に運ばれた泥混じりのチップを検測する県職員(小川社長提供)
牧場に運ばれた泥混じりのチップを検測する県職員(小川社長提供)

 そんな足踏み状態がしばらく続いたが、2024年8月、事態が動き出す。小川工業、ヴィーナ社、小又建設、会津農林事務所、会津地方振興局が現場に集まり、重機を使って敷地の数カ所を試掘することになったのである。

 「ヴィーナ社から『地主に許可を得る必要があり、場所によっては地中にケーブルが埋まっているのであらかじめ掘る場所を教えてほしい』と依頼されたので、会津農林事務所に掘る場所を示した図面を事前に提出しました」(小川社長)

 試掘はチップが埋まっているとされる3カ所、大量の転石が埋まっているとされる3カ所、計6カ所で行うことになった。

 ところが、試掘当日に現地に行くと、2カ所で試掘されたような跡が残っていたのである。

 「そこだけ周辺の土と色が違っており、雑草も生えていなかった。しかもその2カ所は『掘れば100%チップが出る』と会津農林事務所に伝えた場所だった。私が怒って『事前に掘ったのか』と問い詰めると、小又建設の担当者が先に試掘したことを認めました。チップが出てきたことも認めました」(同)

 掘り起こしたチップをどこに搬出したのかさらに問い詰めると、小又建設の担当者は「近くの牧場に運んだ」と答えた。小川社長や県の担当者が牧場を見に行くと、泥混じりのチップが高く積まれていた。

 「このような証拠隠滅行為は許せないと会津農林事務所に見解を聞くと、担当者はグレーと言うのみでクロとは断言しませんでした」(同)

 小川社長は「すでに試掘した個所を掘っても意味がない」と主張。試掘は翌月に延期された。

 しかし、あらためて行う9月の試掘も8月に予定した6カ所をそのまま試掘することになったから、小川社長は「証拠隠滅があった場所をまた掘るなんて茶番だ」と激怒。ここを掘れば間違いなくチップが出るという別の場所を試掘するよう求めたが、ヴィーナ社は「この辺にはケーブルが埋まっている」「パネルが邪魔になる」と拒否した。県も掘りたい場所を掘ることを認めなかった。

 それならばと小川社長は「重機を使わず、スコップで法面を掘らせてほしい」と要望。ここを掘れば間違いなくチップが出るという法面を会津農林事務所の担当者にスコップで掘らせると、浅く掘っただけでチップが出てきた。

 この少し前から小川社長は猪苗代署にも情報提供しており、「もし試掘でチップが出たらすぐに通報してほしい」と言われていた。そこで、会津農林事務所の担当者を通じて通報したものの、捜査員が駆け付けることはなかった。

 ただ、猪苗代署の捜査は9月の試掘前から本格化していたようで、小川社長によると「大量に出てきたチ
ップもさることながら、それを証拠隠滅しようとした小又建設の行為に着目し、スコップで出てきた少量のチップはいったん見過ごす判断をしたようだ」という。

 その後も小川社長は事情聴取されるなど猪苗代署の捜査は続き、試掘から10カ月経った今年7月、前出・小又建設の小野取締役が逮捕されるに至った。小川社長によると小野氏は副社長で、現場代理人にチップを埋めるよう直接指示したという。

 「私が県に何度も通報したので、県はヴィーナ社に敷地にどれくらいチップと転石が埋まっているか報告するよう求めていたことが後になって分かりました。この時、ヴィーナ社は私に調査協力を求めてきたが、私からすれば小又建設に工事費の未払いを起こされ、協力する義理はない。私はヴィーナ社に『事業者として未払い問題を解決しなければ協力できない』と伝えました」(同)

 実は、ヴィーナ社は小川社長による県への再三の通報を「営業妨害行為」と断じ「その結果、余計な調査や作業を強いられた」として、小川工業と小川社長に3800万円余の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしているのだ。

 訴訟は現在審理中だが、不法投棄で逮捕者が出たことで、ヴィーナ社が言う「余計な調査や作業」は必要なものだったと判断される可能性もある。今回の事件が訴訟の行方にどう影響するかも注目される。

「不誠実」と批判する県

 小川社長と再三やりとりしてきた県は今回の事件をどう捉えているのか。会津地方振興局環境課の熊田司課長はこう述べる。

 「この間、会津農林事務所と連携して小川氏、ヴィーナ社、小又建設から聴き取りし、それぞれの言い分を突合した結果、現地確認の必要があると判断し、(昨年8、9月の)試掘を行いました。そこで実際にチップが出てきたので、猪苗代署に情報提供する一方、事業者と今後の対応について協議しているところです。現時点でどれくらいチップが埋まっているかは分かりませんが、県としては(ヴィーナ社に)チップの除去と原状回復を求めていきます。関係者へのペナルティーですか? (ヴィーナ社と小又建設が)福島県の許認可を受けていれば資格取り消しや事業停止の対象になるが(両社は)そうではないので、ペナルティーは刑事罰だけだと思います」

 続いて会津農林事務所森林林業部の山田憲司副部長の話。

 「振興局は廃棄物処理法の観点から、私たち農林事務所は森林法の観点からそれぞれ調査してきました。土地開発の規定に『盛り土の中に有機物を入れてはいけない』とあり、チップが入っていれば森林法違反に該当する可能性があるからです。そして試掘の結果、チップが出てきたので、ヴィーナ社には埋まっている量をどう調査するのか計画書を提出するよう指導しています。不法投棄をしたのは小又建設だが、林地開発許可を受けたのはヴィーナ社(NRE―41)なので、県の指導対象はヴ
ィーナ社になります。チップ埋設の状況が把握できたら、チップは全て除去してもらいます。たとえ埋まっている個所にパネルや支柱があったとしても、いったん取り外して除去するよう求めていきます」

 両氏には、小又建設が試掘の前にチップを掘り起こしていた証拠隠滅行為についても感想を求めたが、共に「県に罰則を科す権限はないが、不誠実と批判されてもやむを得ないと思う」との見解を示した。

 小又建設に取材を申し込むと、男性社員が「事実関係がはっきりしないうちはコメントを控えさせてほしい」と言う。ヴィーナ社にはメールで質問したが、期日までに返答はなかった。

 地検会津若松支部は7月23日、前出・小野敬取締役と法人の小又建設を廃棄物処理法違反の罪で起訴した。掘り起こされるチップは最終的にどれくらいの量になるのか、さらには、県は管轄外としている大量の転石が埋まっている件も事件化されるのか、小又建設から小川工業への工事費未払いは解消されるのか――等々、磐梯猪苗代メガソーラーを舞台にした問題が全て解決するまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。

※ヴィーナ社から届いた回答は次の通り。「本事態の発生により多大なるご心配とご迷惑をおかけし、大変遺憾に感じております。現在、福島県や町の関係部局と緊密に連携しながら調査を進めております。当該工事現場における廃棄物の適切な処理を可及的速やかに進めていく方針です」

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