ticker
注文のご案内
注文のご案内
〝プロパガンダ〟CM制作は電通が受注 ジャーナリスト 牧内昇平 福島第一原発にたまる汚染水(「ALPS処理水」)の海洋放出をめぐっては世の中の賛否が二つに分かれている。そんな中で放出への理解を一気に広げようと、政府が怒涛のPR活動を始めた。テレビCM、新聞広告、インターネットでも……。プロパガンダ(宣伝活動)を担うのは、誰もが知る広告代理店の最大手である。 昨年12月半ばのある日、福島市内の自宅に帰るとパートナー(39)がこう言った。 「今朝初めて見ちゃった、あのCM。民放の情報番組をつけていたら急に入ってきた。ギョッとしちゃったよ」 「で、中身はどうだったの?」と筆者。パートナーはぷりぷり怒って答えた。 「どうもこうもないよ。すでに自分たちで海洋放出っていう結論を出してしまっている段階で、『みんなで知ろう。考えよう。』なんて言ってさ。自分たちの結論を押しつけたいだけでしょ」 パートナーの〝目撃〟証言を聞いた筆者は、口をへの字に曲げることしかできなかった。なりふり構わぬ海洋放出PRがついにスタートしたわけだ。 ◇ 12月12日、東京・霞が関。経済産業省の記者クラブに一通のプレスリリースが入ったようだ(筆者は後から入手)。リリースを出したのは経産省の外局、資源エネルギー庁の原発事故収束対応室。福島第一原発の廃炉や汚染水処理を担当する部署だ。リリースにはこう書いてあった。 〈ALPS処理水について全国規模でテレビCM、新聞広告、WEB広告などの広報を実施します〉 テレビCMの放送は同月13日から2週間ほどだという。どんなCMが流れたのか。ほぼ同じ動画コンテンツは経産省のポータルサイトから見ることができる。 ふだんテレビを見ない人もいると思うので、内容を再現してみた(表)。 このCMを見た人はどんな感想を持っただろうか。筆者はそれが知りたくて、パートナーと一緒に運営しているウェブサイト「ウネリウネラ」でこの内容を紹介。読者の感想をつのった。寄せられた感想の一部をペンネームと共に紹介する。 ・ペンネーム「抗子」さんの感想 〈放射性物質はなくなったのでしょうか? 本日朝9時ごろワイドショーの合間にテレビコマーシャルが入りました。アルプス処理水は問題ない、こんなに減る、とグラフで説明していました。専門的数値はよくわかりません。放射性物質ゼロを望んではいけないの...
小豆川勝見(東大大学院助教)白髭幸雄(南相馬市在住)伊藤延由(飯舘村在住)山川剛史(東京新聞編集委員) 原発事故から11年経ったいまも、県内各地の空間線量を測り続け、データを記録している人たちがいる。彼らはどんな思いで測定し、現状をどのように捉えているのか。一般市民、専門家、記者など4人の測定者に語ってもらった。(※ミリシーベルト毎時は㍉、マイクロシーベルト毎時はマイクロと表記。ベクレルはすべて1㌔当たりの数値)。 ――日常生活や仕事の一環で県内の測定を続ける皆さんですが、まず現在の福島県の汚染状況についてどう捉えていますか。 ――除染に関しては、費用対効果の低さや手抜き除染の横行も問題視されました。皆さんは除染についてどう見ていましたか。 ――除染の効果は限定的でずさんな実態もあるのに、「除染が完了したので安心だ」とばかり、国や県、市町村が帰還政策を進める姿には違和感を抱いてしまいます。 ――放射線管理区域の被曝線量の基準は3カ月1・3㍉シーベルト(年間5・2㍉シーベルト)と考えると、年間被曝量20㍉シーベルトというルールに違和感を抱きます。 ――汚染状況に対する懸念や帰還政策への是非を唱える声に対し、「風評被害につながる」と批判する傾向もみられます。 ――測定者の立場から見て汚染水問題についてはどのように受け止めていますか。 ――2020年には、小豆川さんらの研究チームが、福島第一原発近くの地下水から、敷地内で生じたとみられる微量の放射性セシウムを継続的に検出しました。敷地内から敷地外に汚染された地下水が流れていることが確認された格好です。 ――汚染水問題で言えば、10月3日付の東京新聞で、福島第一原発の視察ツアーで、東電が処理水の安全性を強調するパフォーマンスを繰り返していたと報じていました。東電担当者はトリチウムが検知できず、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使っていました。
災害時に地域のインフラを支えるのが建設業だ。災害が発生すると、建設関連団体は行政と交わした防災協定に基づき緊急点検や応急復旧などに当たるが、実務を担うのは各団体の会員業者だ。しかし、近年は団体に加入しない業者が増え、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は減り続けている。会員業者が増えないのは「団体加入のメリットがないから」という指摘が一般的だが、意外にも行政の姿勢を問う声も聞かれる。郡山市の建設業界事情を追った。 「今、郡山の建設業界は真面目にやっている業者ほど損している。正直、私も馬鹿らしくなる時がある」 こう嘆くのは、郡山市内の老舗建設会社の役員だ。 2011年3月に発生した東日本大震災。かつて経験したことのない揺れに見舞われた被災地では道路、トンネル、橋、上下水道などのインフラが損壊し、住民は大きな不便を来した。ただ、不便は想像していたほど長期化しなかった。発災後、各地の建設業者がすぐに被災現場に駆け付け、応急措置を施したからだ。 震災から11年8カ月経ち、復興のスピードが遅いという声もあるが、当時の適切な対応がなかったら復興はさらに遅れていたかもしれない。業者の果たした役割は、それだけ大きかったことになる。 震災後も台風、大雨、大雪などの自然災害が頻発している。その規模は地球温暖化の影響もあって以前より大きくなっており、被害も拡大・複雑化する傾向にある。 必然的に業者の出動頻度も年々高まっている。以前から「地域のインフラを支えるのが建設業の役割」と言われてきたが、大規模災害の増加を受け、その役割はますます重要になっている。 前出・役員も何か起きれば平日休日、昼夜を問わず、すぐに現場に駆け付ける。 「理屈ではなく、もはや習性なんでしょうね」(同) と笑うが、安心・安全な暮らしが守られている背景にはこうした業者の活躍があることを、私たちはあらためて認識しなければならない。 そんな役員が「真面目にやるのが馬鹿らしくなる」こととは何を指すのか。 「災害対応に当たるのは主に建設関連団体に加入する業者です。各団体は市と防災協定を結び、災害が発生したら会員業者が被災現場に出て緊急点検や応急復旧などを行います。しかし近年は、どの団体も会員数が減っており、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は少なくなっているのです」(同) 2022年9月現在、郡山...
ジャーナリスト 牧内昇平 福島第一原発のタンクにたまる汚染水(「ALPS処理水」)について、筆者は「海洋放出は時期尚早だ」と考えている。だが仮に「強行」した場合、「いつ終わるのか」という疑問も投げかけたい。地下水の流入の問題だけでなく、足元では日々発生する汚染水中のトリチウム濃度が上がっているという事実も発覚しているからだ。 東電によると、福島第一原発の敷地内には昨年12月現在、1000基超のタンクが建ち、その中には約130万立方㍍の汚染水(東電は「ALPS処理水等」と呼ぶ)がたまっている。政府・東電は林立するタンクが廃炉作業の邪魔になると言い、この汚染水を海に流したがっている。 では、海洋放出はいつ始まり、いつ終わるのか。 スタート時期の目標ははっきりしている。政府が2021年4月の基本方針に「2年後をめどに開始」と書いたからだ。一方、ゴールの時期については曖昧だ。政府の基本方針には「何年までに終わらせる」という目安が具体的に書かれていない(この時点で筆者は「無責任だなあ」と思ってしまうが、いかがだろうか)。 もちろん、「暗黙のゴール」はある。 福島第一原発の廃炉作業全体には「30~40年後」という終了目標がある。原子炉の冷温停止(2011年12月)から40年後というと、2051年だ。だから海洋放出も、少なくともこの「2051年」が暗黙のゴールということになる。実際、東電が原子力規制委員会や福島県の会議で提出している「放出シミュレーション」は、2051年に終わる想定になっている。 今からだいたい30年後ということになるので、筆者はこれを「海洋放出30年プラン」と呼ぶ。 この30年プランについて見ていこう。まずは「前提条件」のおさらいだ。 政府・東電は「ALPS(多核種除去設備)で処理するから安全だ」という。少なくともトリチウムという放射性物質は、ALPSでは取り除けない。それでも政府や東電が「安全」と言う理由は主に二つある。 ①「海水で薄める」 ②「放出量の上限を決める」 の2点だ。この二つのうち、今回の記事と関連が深いのは②である。 政府・東電はこう言っている。 トリチウムは事故前の福島第一原発でも放出していた。当時は「年間22兆ベクレル」という量を管理目標としていた。だから今回の海洋放出についても「年22兆ベクレル」という上限を設ける...
中通りの住民で組織する「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)のメンバー52人が、原発事故で精神的損害を受けたとして、東京電力に計約9800万円の損害賠償を求めた訴訟は昨年3月、最高裁で判決が確定し、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針で定める賠償基準を上回る計約1200万円を支払うよう東電に命じた。住民側の訴えが認められた格好である。 福島第一原発事故中通り訴訟野村吉太郎 作品社 2022年11月30日頃 Amazon 本誌は2019年8月号に「最終局面を迎えた『中通りに生きる会』原発賠償裁判 初の和解決着を目指す理由」という記事を掲載した。原発事故を受け、各地で集団訴訟が起こされたが、当時、同訴訟では同種の訴訟では初めてとなる和解決着を目指しており、平井ふみ子代表にその思いなどを聞いたもの。住民側は和解に前向きだったが、東電が拒否したため、和解は成立しなかった。その後、地裁判決を経て、高裁、最高裁まで行ったが、最終的には前述のような判決が確定した。 同訴訟を担当した野村吉太郎弁護士が編著した『福島第一原発事故中通り訴訟』(作品社)が昨年11月に発売された。野村弁護士は1958年生まれ。大分県出身。1986年に司法試験に合格し、1995年に赤坂野村総合法律事務所を設立。東京弁護士会所属。 著書は、第Ⅰ部「裁判の記録」として、原告の陳述書の中身などが記され、第Ⅱ部「裁判を振り返って」として、中通り訴訟の経過(年表)や、野村弁護士の分析などが紹介されている。 同訴訟は2016年4月に提起されたものだが、そこに至る準備は2014年から進められていた。同年に「中通りに生きる会」を立ち上げ、平井代表を中心に集団訴訟の参加者を募った。その結果、福島市、郡山市、田村市など、避難指示区域外の中通りに住んでいた20代から70代の計52人が賛同し、同訴訟の原告となった。 実際の裁判に当たって、1つ特徴的なのは原告に加わる各々が陳述書を書いたこと。通常、陳述書は代理人弁護士が書くもの。同訴訟で言うならば、野村弁護士が平井代表ら原告メンバーから話を聞き、それを基に書くのが普通だが、同訴訟ではそうしなかった。前述したように、原告に加わる各々が陳述書を書いたのである。そのため、「中通りに生きる会」発足から実際に訴訟を起こすまで2年ほどを要した。 そのような手法を取った理由は、原告5...
昨年11月27日から12月2日にかけて、郡山市のホテルハマツを会場に国際会議「IYNC2022」が開かれた。 IYNC(International Youth Nuclear Congress)とは世界の原子力業界の若手有志(原則39歳以下)による国際NGO。原子力の平和利用促進や世代・国境を超えた知識継承を目的に、2000年から2年に一度、国際会議を開いている。 当初、2022年の開催地はロシア・ソチだったが、ウクライナへの軍事侵攻を踏まえ、日本での開催に変更されたという。 11月30日、ホテルハマツを訪ねると大勢の人たちが集まっていた。主催者によると直接参加者は海外120人、国内100人、オンライン参加者は40人。外国人はノーマスク姿で、日本人はマスクを付けている光景が印象的だった。参加者は2、3階に設けられた大小のブースに分かれ、ワークショップに臨んだり、研究者の発表や基調講演を聞いたり、数人で立ち話をしながら情報交換するなどしていた。 「コロナ禍で大きなイベントが中止されていた中、国際会議が開かれるのはありがたいのですが……」 と言いながら、複雑な表情を浮かべるのは市内の経済人だ。 「IYNCの目的が引っかかるんです。原発事故で被災し、未だに避難地域を抱える福島県で、原子力の平和利用を謳う団体が国際会議を開くのは正直抵抗がある。47都道府県ある中から、なぜ福島県が開催地になったのかも疑問だ」(同) 地元経済の観点から言うと、200人超の会議が連日開かれればホテル、飲食店、土産物、タクシー、観光地など多方面に波及効果が見込まれる。しかし放射能に翻弄され、県内の原発はすべて廃炉になることを踏まえると、原子力の平和利用という目的は確かに引っかかる。 今回の会議はなぜ福島県で開かれることになったのか。IYNC2022共同実行委員長の川合康太氏にメールで質問を送ると、次のような返答があった。 「福島県での開催が決まった背景には、東電福島第一原発の廃炉に関する情報発信と、郡山コンベンションビューローの協力という二つの要因があります。事故から11年以上経つが、発電だけでなく放射線治療なども含む世界の原子力事業に携わる若手には事実情報が届いていない。そこで、廃炉に関わる人たちがどう対応しているのか、各国の若手・学生にまとまった時間を持って伝えようと今回の...
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年4月27日に開かれた会合で、同3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命して調査・分析を行う」との方針を決めた。 これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は、原賠審が定めた中間指針(同追補を含む)にはなかった。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。 その後、専門委員を設置・任命して確定判決の詳細分析が行われ、11月10日に専門委員から原賠審に最終報告書が提出された。その報告書は参考資料を含めて200頁以上に及ぶかなりの文量だが、ポイントになるのは、①過酷避難状況による精神的損害、②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)、③自主的避難等による精神的損害、④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害、⑤精神的損害の増額事由――の5項目で類型化が可能とされたこと。 各項目の概要は次の通り。 ①過酷避難状況による精神的損害▽避難を余儀なくされた人が、放射線に関する情報不足の中で、被曝不安と、今後の見通しが示されない不安を抱きつつ、過酷な状況下で避難を強いられたことによる精神的損害。 ②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)▽避難(その地域に人が住まなくなったこと)によって生じた故郷・生活基盤の喪失・変容に伴う精神的損害。 ③自主的避難等による精神的損害▽自主的避難等対象区域(避難指示区域外)の住民の被曝不安による精神的損害。 ④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害▽計画的避難区域の住民が相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる精神的損害 ⑤精神的損害の増額事由▽ADRセンター総括基準で類型化されている精神的損害の増額事由。 専門委員の最終報告書では、これらの類型化が可能な項目を示したうえで、「今後、中間指針の見直しを含めた対応の要否等の検討では、従来からの一貫性や継続性を重視し、現在の中間指針の構造を維持しつつ、新たに類型化された損害を取り込む努力・工夫が求められる」、「指針で類型化さ...
会計検査院報告を読み解く 会計検査院は2022年11月7日、岸田文雄首相に「令和3年度決算検査報告」を提出した。同報告は、国の歳入・歳出・決算や、国関係機関の収入支出決算などについて、会計検査院が実施した会計検査結果をまとめたもの。その中に、「東京電力ホールディングスが実施する原子力損害の賠償及び廃炉・汚染水・処理水対策並びにこれらに対する国の支援等の状況について」という項目がある。国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通して東電に交付した資金などについて検査したものである。その中身を検証しつつ、原発事故の後処理のあり方について述べていく。 最初に、原発事故の後処理費用の仕組みについて説明する。原発事故の後処理は、大きく①廃炉、②賠償、③除染(中間貯蔵施設費用などを含む)の3つに分類される。当初、国・東電ではこれら費用を計約11兆円と想定していた。 ただ後に、経済産業省の第三者機関「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」(東電改革委)の試算で、当初想定の約2倍に当たる約21・5兆円に膨らむ見通しとなった。内訳は、廃炉が約8兆円、賠償が約7・9兆円、除染が約5・6兆円(除染約4兆円、中間貯蔵施設費用約1・6兆円)となっている(2016年12月にまとめた「東電改革提言」に基づく)。 東電では、これらの後処理を原子力損害賠償・廃炉等支援機構の支援を受けて実施している。同機構は今回の原発事故を受け、2011年9月に設立され、現在、東電の株式の50%超を保有している。東電は2012年7月に1兆円分の新株(優先株式)を発行し、同機構(※実質的には国)がそれを引き受けた。これによって同機構が東電の筆頭株主になった。「東電の実質国有化」と言われる所以である。 新株発行によって得られた1兆円は、廃炉費用に充てられている。加えて、東電ではコスト削減や資産売却などにより、残りの廃炉費用を捻出することにしていた。それらは廃炉のための基金に繰り入れられ、2021年、策定・認定された「第4次総合特別事業計画」によると、東電は年平均で約2600億円を廃炉費用として積み立てる方針。 会計検査院の報告によると、2021年度末までに廃炉、汚染水処理などに使われた費用は約1・7兆円。基金残高は5855億円という。 もっとも、当初、廃炉費用は2兆円と推測されていたが、東電改革委の再試算...
〝プロパガンダ〟CM制作は電通が受注 ジャーナリスト 牧内昇平 福島第一原発にたまる汚染水(「ALPS処理水」)の海洋放出をめぐっては世の中の賛否が二つに分かれている。そんな中で放出への理解を一気に広げようと、政府が怒涛のPR活動を始めた。テレビCM、新聞広告、インターネットでも……。プロパガンダ(宣伝活動)を担うのは、誰もが知る広告代理店の最大手である。 昨年12月半ばのある日、福島市内の自宅に帰るとパートナー(39)がこう言った。 「今朝初めて見ちゃった、あのCM。民放の情報番組をつけていたら急に入ってきた。ギョッとしちゃったよ」 「で、中身はどうだったの?」と筆者。パートナーはぷりぷり怒って答えた。 「どうもこうもないよ。すでに自分たちで海洋放出っていう結論を出してしまっている段階で、『みんなで知ろう。考えよう。』なんて言ってさ。自分たちの結論を押しつけたいだけでしょ」 パートナーの〝目撃〟証言を聞いた筆者は、口をへの字に曲げることしかできなかった。なりふり構わぬ海洋放出PRがついにスタートしたわけだ。 ◇ 12月12日、東京・霞が関。経済産業省の記者クラブに一通のプレスリリースが入ったようだ(筆者は後から入手)。リリースを出したのは経産省の外局、資源エネルギー庁の原発事故収束対応室。福島第一原発の廃炉や汚染水処理を担当する部署だ。リリースにはこう書いてあった。 〈ALPS処理水について全国規模でテレビCM、新聞広告、WEB広告などの広報を実施します〉 テレビCMの放送は同月13日から2週間ほどだという。どんなCMが流れたのか。ほぼ同じ動画コンテンツは経産省のポータルサイトから見ることができる。 ふだんテレビを見ない人もいると思うので、内容を再現してみた(表)。 このCMを見た人はどんな感想を持っただろうか。筆者はそれが知りたくて、パートナーと一緒に運営しているウェブサイト「ウネリウネラ」でこの内容を紹介。読者の感想をつのった。寄せられた感想の一部をペンネームと共に紹介する。 ・ペンネーム「抗子」さんの感想 〈放射性物質はなくなったのでしょうか? 本日朝9時ごろワイドショーの合間にテレビコマーシャルが入りました。アルプス処理水は問題ない、こんなに減る、とグラフで説明していました。専門的数値はよくわかりません。放射性物質ゼロを望んではいけないの...
小豆川勝見(東大大学院助教)白髭幸雄(南相馬市在住)伊藤延由(飯舘村在住)山川剛史(東京新聞編集委員) 原発事故から11年経ったいまも、県内各地の空間線量を測り続け、データを記録している人たちがいる。彼らはどんな思いで測定し、現状をどのように捉えているのか。一般市民、専門家、記者など4人の測定者に語ってもらった。(※ミリシーベルト毎時は㍉、マイクロシーベルト毎時はマイクロと表記。ベクレルはすべて1㌔当たりの数値)。 ――日常生活や仕事の一環で県内の測定を続ける皆さんですが、まず現在の福島県の汚染状況についてどう捉えていますか。 ――除染に関しては、費用対効果の低さや手抜き除染の横行も問題視されました。皆さんは除染についてどう見ていましたか。 ――除染の効果は限定的でずさんな実態もあるのに、「除染が完了したので安心だ」とばかり、国や県、市町村が帰還政策を進める姿には違和感を抱いてしまいます。 ――放射線管理区域の被曝線量の基準は3カ月1・3㍉シーベルト(年間5・2㍉シーベルト)と考えると、年間被曝量20㍉シーベルトというルールに違和感を抱きます。 ――汚染状況に対する懸念や帰還政策への是非を唱える声に対し、「風評被害につながる」と批判する傾向もみられます。 ――測定者の立場から見て汚染水問題についてはどのように受け止めていますか。 ――2020年には、小豆川さんらの研究チームが、福島第一原発近くの地下水から、敷地内で生じたとみられる微量の放射性セシウムを継続的に検出しました。敷地内から敷地外に汚染された地下水が流れていることが確認された格好です。 ――汚染水問題で言えば、10月3日付の東京新聞で、福島第一原発の視察ツアーで、東電が処理水の安全性を強調するパフォーマンスを繰り返していたと報じていました。東電担当者はトリチウムが検知できず、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使っていました。
災害時に地域のインフラを支えるのが建設業だ。災害が発生すると、建設関連団体は行政と交わした防災協定に基づき緊急点検や応急復旧などに当たるが、実務を担うのは各団体の会員業者だ。しかし、近年は団体に加入しない業者が増え、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は減り続けている。会員業者が増えないのは「団体加入のメリットがないから」という指摘が一般的だが、意外にも行政の姿勢を問う声も聞かれる。郡山市の建設業界事情を追った。 「今、郡山の建設業界は真面目にやっている業者ほど損している。正直、私も馬鹿らしくなる時がある」 こう嘆くのは、郡山市内の老舗建設会社の役員だ。 2011年3月に発生した東日本大震災。かつて経験したことのない揺れに見舞われた被災地では道路、トンネル、橋、上下水道などのインフラが損壊し、住民は大きな不便を来した。ただ、不便は想像していたほど長期化しなかった。発災後、各地の建設業者がすぐに被災現場に駆け付け、応急措置を施したからだ。 震災から11年8カ月経ち、復興のスピードが遅いという声もあるが、当時の適切な対応がなかったら復興はさらに遅れていたかもしれない。業者の果たした役割は、それだけ大きかったことになる。 震災後も台風、大雨、大雪などの自然災害が頻発している。その規模は地球温暖化の影響もあって以前より大きくなっており、被害も拡大・複雑化する傾向にある。 必然的に業者の出動頻度も年々高まっている。以前から「地域のインフラを支えるのが建設業の役割」と言われてきたが、大規模災害の増加を受け、その役割はますます重要になっている。 前出・役員も何か起きれば平日休日、昼夜を問わず、すぐに現場に駆け付ける。 「理屈ではなく、もはや習性なんでしょうね」(同) と笑うが、安心・安全な暮らしが守られている背景にはこうした業者の活躍があることを、私たちはあらためて認識しなければならない。 そんな役員が「真面目にやるのが馬鹿らしくなる」こととは何を指すのか。 「災害対応に当たるのは主に建設関連団体に加入する業者です。各団体は市と防災協定を結び、災害が発生したら会員業者が被災現場に出て緊急点検や応急復旧などを行います。しかし近年は、どの団体も会員数が減っており、災害は頻発しているのに〝地域の守り手〟は少なくなっているのです」(同) 2022年9月現在、郡山...
ジャーナリスト 牧内昇平 福島第一原発のタンクにたまる汚染水(「ALPS処理水」)について、筆者は「海洋放出は時期尚早だ」と考えている。だが仮に「強行」した場合、「いつ終わるのか」という疑問も投げかけたい。地下水の流入の問題だけでなく、足元では日々発生する汚染水中のトリチウム濃度が上がっているという事実も発覚しているからだ。 東電によると、福島第一原発の敷地内には昨年12月現在、1000基超のタンクが建ち、その中には約130万立方㍍の汚染水(東電は「ALPS処理水等」と呼ぶ)がたまっている。政府・東電は林立するタンクが廃炉作業の邪魔になると言い、この汚染水を海に流したがっている。 では、海洋放出はいつ始まり、いつ終わるのか。 スタート時期の目標ははっきりしている。政府が2021年4月の基本方針に「2年後をめどに開始」と書いたからだ。一方、ゴールの時期については曖昧だ。政府の基本方針には「何年までに終わらせる」という目安が具体的に書かれていない(この時点で筆者は「無責任だなあ」と思ってしまうが、いかがだろうか)。 もちろん、「暗黙のゴール」はある。 福島第一原発の廃炉作業全体には「30~40年後」という終了目標がある。原子炉の冷温停止(2011年12月)から40年後というと、2051年だ。だから海洋放出も、少なくともこの「2051年」が暗黙のゴールということになる。実際、東電が原子力規制委員会や福島県の会議で提出している「放出シミュレーション」は、2051年に終わる想定になっている。 今からだいたい30年後ということになるので、筆者はこれを「海洋放出30年プラン」と呼ぶ。 この30年プランについて見ていこう。まずは「前提条件」のおさらいだ。 政府・東電は「ALPS(多核種除去設備)で処理するから安全だ」という。少なくともトリチウムという放射性物質は、ALPSでは取り除けない。それでも政府や東電が「安全」と言う理由は主に二つある。 ①「海水で薄める」 ②「放出量の上限を決める」 の2点だ。この二つのうち、今回の記事と関連が深いのは②である。 政府・東電はこう言っている。 トリチウムは事故前の福島第一原発でも放出していた。当時は「年間22兆ベクレル」という量を管理目標としていた。だから今回の海洋放出についても「年22兆ベクレル」という上限を設ける...
中通りの住民で組織する「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)のメンバー52人が、原発事故で精神的損害を受けたとして、東京電力に計約9800万円の損害賠償を求めた訴訟は昨年3月、最高裁で判決が確定し、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針で定める賠償基準を上回る計約1200万円を支払うよう東電に命じた。住民側の訴えが認められた格好である。 福島第一原発事故中通り訴訟野村吉太郎 作品社 2022年11月30日頃 Amazon 本誌は2019年8月号に「最終局面を迎えた『中通りに生きる会』原発賠償裁判 初の和解決着を目指す理由」という記事を掲載した。原発事故を受け、各地で集団訴訟が起こされたが、当時、同訴訟では同種の訴訟では初めてとなる和解決着を目指しており、平井ふみ子代表にその思いなどを聞いたもの。住民側は和解に前向きだったが、東電が拒否したため、和解は成立しなかった。その後、地裁判決を経て、高裁、最高裁まで行ったが、最終的には前述のような判決が確定した。 同訴訟を担当した野村吉太郎弁護士が編著した『福島第一原発事故中通り訴訟』(作品社)が昨年11月に発売された。野村弁護士は1958年生まれ。大分県出身。1986年に司法試験に合格し、1995年に赤坂野村総合法律事務所を設立。東京弁護士会所属。 著書は、第Ⅰ部「裁判の記録」として、原告の陳述書の中身などが記され、第Ⅱ部「裁判を振り返って」として、中通り訴訟の経過(年表)や、野村弁護士の分析などが紹介されている。 同訴訟は2016年4月に提起されたものだが、そこに至る準備は2014年から進められていた。同年に「中通りに生きる会」を立ち上げ、平井代表を中心に集団訴訟の参加者を募った。その結果、福島市、郡山市、田村市など、避難指示区域外の中通りに住んでいた20代から70代の計52人が賛同し、同訴訟の原告となった。 実際の裁判に当たって、1つ特徴的なのは原告に加わる各々が陳述書を書いたこと。通常、陳述書は代理人弁護士が書くもの。同訴訟で言うならば、野村弁護士が平井代表ら原告メンバーから話を聞き、それを基に書くのが普通だが、同訴訟ではそうしなかった。前述したように、原告に加わる各々が陳述書を書いたのである。そのため、「中通りに生きる会」発足から実際に訴訟を起こすまで2年ほどを要した。 そのような手法を取った理由は、原告5...
昨年11月27日から12月2日にかけて、郡山市のホテルハマツを会場に国際会議「IYNC2022」が開かれた。 IYNC(International Youth Nuclear Congress)とは世界の原子力業界の若手有志(原則39歳以下)による国際NGO。原子力の平和利用促進や世代・国境を超えた知識継承を目的に、2000年から2年に一度、国際会議を開いている。 当初、2022年の開催地はロシア・ソチだったが、ウクライナへの軍事侵攻を踏まえ、日本での開催に変更されたという。 11月30日、ホテルハマツを訪ねると大勢の人たちが集まっていた。主催者によると直接参加者は海外120人、国内100人、オンライン参加者は40人。外国人はノーマスク姿で、日本人はマスクを付けている光景が印象的だった。参加者は2、3階に設けられた大小のブースに分かれ、ワークショップに臨んだり、研究者の発表や基調講演を聞いたり、数人で立ち話をしながら情報交換するなどしていた。 「コロナ禍で大きなイベントが中止されていた中、国際会議が開かれるのはありがたいのですが……」 と言いながら、複雑な表情を浮かべるのは市内の経済人だ。 「IYNCの目的が引っかかるんです。原発事故で被災し、未だに避難地域を抱える福島県で、原子力の平和利用を謳う団体が国際会議を開くのは正直抵抗がある。47都道府県ある中から、なぜ福島県が開催地になったのかも疑問だ」(同) 地元経済の観点から言うと、200人超の会議が連日開かれればホテル、飲食店、土産物、タクシー、観光地など多方面に波及効果が見込まれる。しかし放射能に翻弄され、県内の原発はすべて廃炉になることを踏まえると、原子力の平和利用という目的は確かに引っかかる。 今回の会議はなぜ福島県で開かれることになったのか。IYNC2022共同実行委員長の川合康太氏にメールで質問を送ると、次のような返答があった。 「福島県での開催が決まった背景には、東電福島第一原発の廃炉に関する情報発信と、郡山コンベンションビューローの協力という二つの要因があります。事故から11年以上経つが、発電だけでなく放射線治療なども含む世界の原子力事業に携わる若手には事実情報が届いていない。そこで、廃炉に関わる人たちがどう対応しているのか、各国の若手・学生にまとまった時間を持って伝えようと今回の...
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年4月27日に開かれた会合で、同3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命して調査・分析を行う」との方針を決めた。 これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は、原賠審が定めた中間指針(同追補を含む)にはなかった。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。 その後、専門委員を設置・任命して確定判決の詳細分析が行われ、11月10日に専門委員から原賠審に最終報告書が提出された。その報告書は参考資料を含めて200頁以上に及ぶかなりの文量だが、ポイントになるのは、①過酷避難状況による精神的損害、②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)、③自主的避難等による精神的損害、④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害、⑤精神的損害の増額事由――の5項目で類型化が可能とされたこと。 各項目の概要は次の通り。 ①過酷避難状況による精神的損害▽避難を余儀なくされた人が、放射線に関する情報不足の中で、被曝不安と、今後の見通しが示されない不安を抱きつつ、過酷な状況下で避難を強いられたことによる精神的損害。 ②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)▽避難(その地域に人が住まなくなったこと)によって生じた故郷・生活基盤の喪失・変容に伴う精神的損害。 ③自主的避難等による精神的損害▽自主的避難等対象区域(避難指示区域外)の住民の被曝不安による精神的損害。 ④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害▽計画的避難区域の住民が相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる精神的損害 ⑤精神的損害の増額事由▽ADRセンター総括基準で類型化されている精神的損害の増額事由。 専門委員の最終報告書では、これらの類型化が可能な項目を示したうえで、「今後、中間指針の見直しを含めた対応の要否等の検討では、従来からの一貫性や継続性を重視し、現在の中間指針の構造を維持しつつ、新たに類型化された損害を取り込む努力・工夫が求められる」、「指針で類型化さ...
会計検査院報告を読み解く 会計検査院は2022年11月7日、岸田文雄首相に「令和3年度決算検査報告」を提出した。同報告は、国の歳入・歳出・決算や、国関係機関の収入支出決算などについて、会計検査院が実施した会計検査結果をまとめたもの。その中に、「東京電力ホールディングスが実施する原子力損害の賠償及び廃炉・汚染水・処理水対策並びにこれらに対する国の支援等の状況について」という項目がある。国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通して東電に交付した資金などについて検査したものである。その中身を検証しつつ、原発事故の後処理のあり方について述べていく。 最初に、原発事故の後処理費用の仕組みについて説明する。原発事故の後処理は、大きく①廃炉、②賠償、③除染(中間貯蔵施設費用などを含む)の3つに分類される。当初、国・東電ではこれら費用を計約11兆円と想定していた。 ただ後に、経済産業省の第三者機関「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」(東電改革委)の試算で、当初想定の約2倍に当たる約21・5兆円に膨らむ見通しとなった。内訳は、廃炉が約8兆円、賠償が約7・9兆円、除染が約5・6兆円(除染約4兆円、中間貯蔵施設費用約1・6兆円)となっている(2016年12月にまとめた「東電改革提言」に基づく)。 東電では、これらの後処理を原子力損害賠償・廃炉等支援機構の支援を受けて実施している。同機構は今回の原発事故を受け、2011年9月に設立され、現在、東電の株式の50%超を保有している。東電は2012年7月に1兆円分の新株(優先株式)を発行し、同機構(※実質的には国)がそれを引き受けた。これによって同機構が東電の筆頭株主になった。「東電の実質国有化」と言われる所以である。 新株発行によって得られた1兆円は、廃炉費用に充てられている。加えて、東電ではコスト削減や資産売却などにより、残りの廃炉費用を捻出することにしていた。それらは廃炉のための基金に繰り入れられ、2021年、策定・認定された「第4次総合特別事業計画」によると、東電は年平均で約2600億円を廃炉費用として積み立てる方針。 会計検査院の報告によると、2021年度末までに廃炉、汚染水処理などに使われた費用は約1・7兆円。基金残高は5855億円という。 もっとも、当初、廃炉費用は2兆円と推測されていたが、東電改革委の再試算...