やっぱり甘くなかった大熊イチゴ栽培事業

 本誌2021年6月号で、大熊町100%出資のイチゴ栽培・加工・販売会社が設立2期目にして約7000万円の赤字となり、資本金を大幅に増資していたことを報じた。その後の業績について資料を取り寄せてあらためて調べてみたところ、6期連続赤字となっていたことが分かった。

6期連続赤字でも議会は追及に及び腰

工場で生産されたイチゴと加工食品(2021年5月撮影)
工場で生産されたイチゴと加工食品(2021年5月撮影)

 6期連続赤字となっているのは町100%出資の第三セクター「ネクサスファームおおくま」(島和広社長=大熊町副町長)だ。

 2018年7月設立。福島再生加速化交付金を活用して、大河原地区に敷地面積2・9㌶(サッカーフィールド4面分)に及ぶ事業費約20億円の栽培工場を建設した。発光ダイオード(LED)や養液を使って、コンピューター制御で栽培する最新鋭の工場だ。安心・安全な商品を提供しつつ、雇用の確保を図り、町の復興、農業者の営農意欲向上、町民帰還を後押しする狙いがあった。

 国内市場の需要状況、収益性、商品イメージなどを分析し、生産者が多い「冬春イチゴ」と、生産者が少なくて単価が高い「夏秋イチゴ」を組み合わせて通年栽培・販売する戦略を立てていた。

 だが、実際に事業をスタートすると売り上げは思うように伸びず、設立2年で合計7000万円超の赤字が発生した。そのため、2020年12月に資本金を9000万円から2億8000万円に増資した。

 なぜスタートダッシュに失敗したのか。外部の専門家を含む検証委員会の調査によると①主力品種の「すずあかね」が計画通り出荷できず、大量の廃棄が生じて売上高が伸びなかった、②夏秋イチゴは栽培の難易度が高く、収穫には技術と多くの人手が必要となる――ことが主な赤字の原因とされた。

 本誌2021年6月号では、こうした経緯のほか、販売されているイチゴが全然甘くなくて不評だったことも紹介したうえで、「甘くなかった大熊町イチゴ栽培事業」という記事にまとめた。

 あれから3年以上経過し、同社の業績はどうなっているのか。大熊町は公文書開示請求権者に制限がなく、町民以外も開示請求できるため(本誌9月号「国見町の『敗訴』が濃厚な公文書開示訴訟」参照)、同社に関する資料の開示を請求したところ、記事掲載後も業績が上向かず、6期連続赤字となっていたことが分かった(別表)。

ネクサスファームおおくまの決算の推移

第1期第2期第3期第4期第5期第6期
決算期2019年5月2020年5月2021年5月2022年5月2023年5月2024年5月
売上高01230.27,7279942.47217.57329.5
売上原価055371億1637.31億0363.51億2969.91億1730.8
売上総利益0▲4306.8▲3910.3▲421.0▲5752.4▲4401.3
売上総利益率0%▲350%▲50%▲4%▲79%▲60%
販管費6652774.42,4362698.62394.42540.9
営業利益▲665.0▲7099.4▲6346.0▲3119.7▲8146.8▲6942.2
営業外収益46.7380.86312878.63603.26174.2
営業外費用05.37054.544.534.6
経常利益▲618.3▲6723.9▲5784.7▲295.6▲4588.1▲802.6
特別利益000000
特別損失000000
税引前当期純利益▲618.3▲6723.9▲5784.7▲295.6▲4588.1▲802.6
法人税等15.418.5170208170.3202.7
当期純利益▲633.7▲6742.4▲5955.0▲503.6▲4758.4▲1005.3
※ネクサスファームおおくま第6期事業報告書をもとに作成した。単位は万円(売上総利益率は除く)

 2024年5月期の業績は売上高7329万円に対し売上原価1億1730万円、販管費2540万円、営業利益はマイナス6942万円だった。会社設立6期目に至っても本業が大幅な赤字となっているわけ。

 当期純利益は2020年のマイナス6742万円が赤字のピーク。直近の2024年5月期決算ではマイナス1005万円になっている。ただ、これにはカラクリがある。

 町政をウオッチングし続けている町民がこのように語る。

 「営業外収益(決算報告書では雑収入)として、毎年町から『大熊町いちご栽培施設運営費補助金』が給付されている。つまり、補助金で赤字補填しているだけで、業績が改善しているわけではありません。逆に言えば補助金を入れても黒字になっていないということです」

 補助金(営業外収益)は同社の赤字額に連動して増大しており、2024年5月期は6174万円だった。売上高の8割超に当たる金額が補助されており「補助金依存の経営」となっていることが分かるだろう。

 町の復興、農業者の営農意欲向上、町民帰還などの狙いから始まった第三セクターなので、採算は度外視しているのかもしれない。だとしても、毎年数千万円規模の赤字を出し、補助金で経営を支えなければならない状況は異常だ。事業の必要性や採算性をいま一度見直す必要があるのではないか。

 事業報告書には対処すべき課題として以下の8点が記されていた。
 ①栽培技術の向上
 ②機械設備等の操作・保守・修繕
 ③栽培施設のフル稼働
 ④売上高の向上
 ⑤人材採用
 ⑥人材教育
 ⑦安全と物流の確立
 ⑧経営管理体制の確立

 課題がかなり多い気がするが、今期(2025年5月期)はこれらの課題を解決して、黒字に転換できるのか。

赤字の要因は人手不足

ネクサスファームおおくまの工場
ネクサスファームおおくまの工場

 赤字の原因と見通しを語ってもらうべく、同社社長の島和広副町長にコメントを求めたところ、総務課を通して「島副町長がどうしても時間が取れない。現在農業振興課で回答を作成しており、数日はかかるので期日に間に合わない。回答する気はあるということだけは分かってほしい」と言われた。社長にコメントを求めたのに町職員が回答を作成している点、回答するのに数日かかる点など何とも不可解だが、それぐらい町と三セクの境界が曖昧になっているということだろう。

 同社工場にも問い合わせ、取締役工場長の徳田辰吾氏に「赤字の最大の要因は何なのか」と質問したところ次のように答えた。

 「当初計画では従業員50人で工場を稼働させる計画だったのですが、現在の従業員は正社員・パート合わせて19人です。そのため、施設の稼働率は62%に留まり、収穫量、売り上げとも伸び悩んでいます。帰還者の受け皿にするという町の方針もあるし、原発被災地でこうした取り組みをすること自体がチャレンジでもあるので、一から地道に取り組んでいくしかない。イチゴの生産に関する技術はかなり安定してきており、今期からは町の方針で、農業法人に特化したコンサルタントが入っているので経営面での改善が見込まれています」

 ちなみに2011年3月11日時点の大熊町の人口は1万1505人。今年9月末現在の町内居住者数は848人。かつての人口の10%にも達しておらず、高齢世帯が比較的多い。そうした中で働き手を確保するのは容易ではない。そのあたりの読みが甘かったことが赤字の原因と言えよう。果たしてコンサルタントを入れて軌道修正を図れるのか。

 不可解なのは、町の予算に関わる事業にもかかわらず、町議会がこうした状況をすんなり受け入れていることだ。同社の経営状況や今後について、一般質問など町民が見える場所で厳しく議論されることもない。年に一度、同社から議会全員協議会で報告される際も事業継続生など根本的な質問を投げかける町議はいないという。

 「復興・帰還に貢献する目的で設立された三セクなので『赤字が多すぎる。事業を継続できるのか』、『見切りを付けるべきではないか』と切り捨てるのは立場的に難しいようです」(町議らと頻繁に情報交換している事情通)

 町の方針に反するから、同社の運営状況には口を出しづらいというわけ。ただ、原発被災地の産業として事業を育てていくなら、なおさら議会でその在り方を議論すべき。本質的な課題から目を背け続けている議員は、その責務を果たしているとは言えまい。

シビアな目で検証すべき

シビアな目で検証すべき

 同町議会の低レベルぶりについては、2022年8月号「一般質問2人だけの大熊町議会」でも触れた。町民が傍聴できる一般質問に登壇するのはわずか2人。取材の結果、「全員協議会や国・県関連事業の担当職員によるレクなどで議論・質疑応答する機会が増え、一般質問であらためて質問することがないのではないか」という意見が聞かれた。町外への避難者が圧倒的に多い中で「住民不在」のまま議会を運営してきたことが影響していると思われる。

 期数の若い町議は質問内容についてベテラン議員にいろいろ指摘され、萎縮して登壇したがらない事情もあるようだ。

 10月2日付の朝日新聞によると、川内村は13年間の復興施策の検証を始めたという。第2期復興・創生期間が来年度に終わるのを見据え、この間取り組んできた1500項目に上る復興事業について役場内会議で評価し合う。優先度が低いと判断された事業は国への予算要求をやめるという。イチゴ事業が同村で行われていたとすれば、どのように評価されるだろうか。

 大熊町の復興拠点約8・6平方㌔が、2022年6月に避難指示が解除され、JR大野駅周辺では産業交流施設「CREVAおおくま」、商業施設「クマSUNテラス」が来春オープンに向けて工事が進められている。復興ムードが高まるが、イチゴ事業に関しては甘い見通しを捨て、川内村ぐらいシビアな視点で見直す必要があろう。

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