サン・チャイルドを探せ

 「サン・チャイルド」を知っているだろうか。2018年に福島市の文教施設「こむこむ館」に設置され、1カ月半で撤去された巨大立像だ。「防護服を着ているように見え、福島が原発事故の影響で放射線量がまだ高いと思われてしまう」などと苦情が寄せられ、ネットで「炎上」したのを理由に撤去された。木幡浩市長(当時)が関与した不明瞭な寄贈プロセスと、市民の合意を欠いた作品の受け入れが問題になった。木幡氏の「黒歴史」ということもあり、巨像は隠され騒動は忘れ去られているが、馬場雄基氏が木幡氏を破って市長になり、処分や利活用を考える段階に来ている。(小池航)

大ゴッホ展に沸く福島市がひた隠す巨大立像

 サン・チャイルドは、現代アートの分野で著名な作家ヤノベケンジ氏が東日本大震災・原発事故後の2011年に制作した高さ6・2㍍の巨大立像だ。まず同年秋、1970年に開かれた大阪万博跡地にある太陽の塔の前に展示された。

 作品の背景にはヤノベ氏の一貫した反核の訴えがある。サン・チャイルドは、「防護服のヘルメットを脱ぎ、希望の光である太陽を手に持ちながら、すっくと屹立する子ども」を表し、「恥ずかしいほどにポジティブな未来をイメージ」したという(「ビッグイシュー」203号、2012年11月15日発売より)。

 この像は、2012年に福島空港を会場に行われた現代アートの祭典「福島ビエンナーレ」で、県内では初めて披露された。批判は寄せられなかったという。その後、巨像はヤノベ氏→県内の再エネ推進団体→福島市の順に寄贈され、市は2018年8月3日に福島駅前の文教施設「こむこむ館」前で展示を始めた。通行人の目に触れるようになると、インパクトのある風貌が受け入れられず、撤去を求める声が高まった。

 やり玉に挙がったのが防護服姿と、値「000」を示す像の胸にある計測器だ。「福島が防護服の必要な街であるかのような誤解を与える」や、「自然界に放射線量ゼロはありえない」など概念的なアート作品に科学性を求める批判がネットを中心に上がった。

 既成概念を打破する流れの中で生まれる現代アートは、心をザワつかせるのが本質だ。ただ、その受容の度合いは個人や心の状態によって差がある。「原発事故に立ち向かう」という迷いのない力強いメッセージは、トラウマゆえに思い出したくない人、立ち向かう力すら奪われた人に重くのしかかった。像は2018年9月17日まで展示され、分解作業後、同20日に撤去された。

 設置に関与した木幡市長は「合意を欠いたプロセスだった」と謝罪し、給与1割を3カ月間減額して責任を取った。騒動の前には自身のツイッター(現X)で積極的にPRし、像が新たな名物になると期待していた。だが一転、巨像は木幡市長にとっては厄介な市の財産になった。

 そんな曰くつきの巨像の行方を探す市民がいる。一級建築士の佐藤敏宏さんは、ヤノベ氏のほか、木幡氏やサン・チャイルド寄贈に関わった経済人に聞き取りをし、市への情報公開請求を重ね、木幡氏が言う「合意を欠いた」寄贈や設置のプロセスを明らかにしてきた。7年前の騒動を現在も調べる理由をこう語る。

 「展示に賛成か、反対かという論争をまた起こすのが目的ではない。今後、福島市がアート作品を受け入れる際や展示する際に民主的な手続きを構築するよう市に求めるのが目的だ。騒動が起こっても市は教訓に学ばず、寄贈を受ける際にはどのような基準で行うべきか、街なかに置くアート作品はどのようなものであるべきかの仕組みを作っていない」

 佐藤さんは、作家、政治家、経済界の思惑が絡み合い、「不思議なエネルギー」となって、合意を欠いた寄贈と展示のプロセスを踏んだと考える。公文書の分析や聞き取り調査からたどり着いた考察は次の通りだ。

 まず、福島空港での展示を契機に、制作者であり所有者であるヤノベ氏と県内の学芸員、再エネ業界とのつながりができた。再エネ推進団体は、作品が持つ「反核と原発事故からの復興」のメッセージを業界の宣伝に利用しようと、県内での常設展示を模索する。ヤノベ氏には、原発で被災した福島県内に置いてほしい思いが湧き、再エネ推進団体に寄贈した。ただ、高さ6・2㍍と巨大で、設置工事が必要なため、場所の確保が難しい。そこに木幡氏が著名作家の作品を福島市のPRに利用できると飛び付き、団体から寄贈を受けて、こむこむ館に設置した。

破壊される危険性

サン・チャイルド像(佐藤敏宏さん提供)

 佐藤さんが情報公開請求で得た文書によると、サン・チャイルド像は頭、胴体、四肢と分解されてビニールで包まれ、市の施設で厳重に保管されているという。詳細な場所は独自取材で見当がついているというが、

 「公になると誰かが侵入して破壊する危険性があるし、福島市がまた別の場所に隠すかもしれないので場所は公表できない」(佐藤さん)

 市長が木幡氏から馬場氏に代わったことで、前述したアート作品の受け入れや展示を民主的に行う仕組みづくりに期待する。サン・チャイルド利活用は馬場氏が掲げるビジョン「次世代文教都市」にかなう。

 馬場氏はこのビジョンを《「すべての子どもたちを笑顔にすることができれば、 まちのみんなが笑顔になる」ことを基盤とし、 子どもも大人も生涯にわたって探求し、創造する新しいまちの形》と定義する。文化芸術については、歴史・創造・芸術・技術など人の力が最大限引き出され、 「挑戦の文化」が根付き、経済を起こすこと、そして、生み出した財源で市民サービスを向上させるとする。要するに「文化活動を盛んにして、お金を得る」と言っている。

 木幡市長時代には、サン・チャイルドを使って福島市をPRする見込みが外れて活用できず、お金を生み出せていない。むしろ、撤去する際の移設工事費用で少なくとも100万円掛かっている。

 市民の合意を得ていないために展示できないサン・チャイルド。手っ取り早く経済効果を生み出すのがオークションへの出品だ。日本人の現代アート作家の作品には高い値が付けられ、数億円で落札されることもある。歴代最高額は約27億円(奈良美智の絵画作品)。作家の好意で譲り受けたものを出品したら「芸術家の好意を裏切る自治体」との汚名は免れないが選択肢の一つだ。所有権は福島市にある。

 佐藤さんは議論した結果であるならばオークションを否定しない。

 「世界には現代アート収集家が多い。サン・チャイルドは騒動になったので箔が付き、より高値で取り引きされるのではないか」(佐藤さん)

 福島市の県立美術館で来年2月から開かれる大ゴッホ展(福島市などからなる実行委員会主催)の開会式には馬場氏が市長として参列することになるだろう。ゴッホに囲まれるのもいいが、木幡氏が遺し、市の施設で眠るサン・チャイルドを忘れてはいけない。

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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