いわき市官製談合で問われる水道局の風土

いわき市官製談合で問われる水道局の風土

 いわき市水道局が発注した配水管工事の入札を巡り、職員(当時)の男が業者に設計金額を漏らした見返りに現金や商品券25万円分を受け取ったとして、収賄と官製談合防止法違反の罪に問われている。入札情報を得て落札し、金銭を贈ったとして大松興産(小名浜)を経営していた親子2人も罪に問われた。法廷では、この元職員が「上司も業者に便宜を図っている」と思い込み、価格漏洩に手を染めたことが判明。実際、局内には「業者との癒着」をうかがわせる雰囲気があった。

「お世話」を「業者への便宜」と解釈した若手職員

 収賄と官製談合防止法違反の罪に問われているのは、いわき市水道局技術課主任だった真山佳幸氏(35)=同市泉ヶ丘2丁目。市役所を懲戒免職後、現在は会社員として働く。一方、贈賄と公契約関係競売入札妨害の罪に問われたのは、土木・管工事「㈱大松興産」元代表取締役社長の松原文司氏(75)と息子で元取締役専務の松原文隆氏(49)。福島地裁で10月30日に開かれた初公判で3人は罪を認めた。

 1974年設立の大松興産は2009年ごろから資金繰りが悪化し、2011年の東日本大震災・原発事故で他の業者と同じように経営に大打撃を受ける。経営は自転車操業に陥り、粉飾決算の額は3億円以上に達していた。民間信用調査機関によると、年売上高の80%以上を市の事業に依存していた。事件を受けて、昨年6月に市から指名停止処分を受けると業務継続が困難となり、閉業・自己破産に至った。

 入札不正が露見したきっかけは真山氏の積算ミスだった。2024年1月に行われた配水管改良工事の入札(表参照)で、担当の真山氏は誤った最低制限価格を設定してしまう。2023年度の汚泥処理単価を用いるべきところを、前年度のものを使って積算していたのだ。

平下平窪配水管(第106ー49号外)改良工事の入札 平下平窪配水管(第106ー49号外)改良工事の入札
誤って定めた最低制限価格=4609万7685円

入札参加者本社所在入札額 ※赤文字は、いわき管工事協同組合
公栄管工設備㈱小名浜4362万0240円最低制限価格を下回り失格
㈱アクア工業4515万4580円最低制限価格を下回り失格
㈱大松興産小名浜4609万7685円最低制限価格と同額落札
㈱矢光総合設備内郷4610万0600円
㈱山上工業小川町4610万0601円
欣幸建設㈱4614万7584円
菅野建設工業㈱内郷4615万2000円
㈱不二代建設内郷4615万3860円
㈱福島スイケンエンジニアリング内郷4615万4530円
㈱沼里工業所常磐4615万4570円
㈱大倉工業所小名浜4615万4573円
㈲平設備興業好間4615万4573円
福吉工業㈱(現レジリエンス)小名浜4615万4574円本来の最低制限価格
㈱こだま産業常磐4615万4574円本来の最低制限価格
渋谷設備㈱常磐4615万4574円本来の最低制限価格
㈱久田設備工業4615万4580円
㈱創和内郷4615万4680円
㈱清水水道好間入札無効
長谷川工業㈱四倉辞退
㈲大証建設小名浜辞退


 大松興産では文隆氏が積算を担当し、父親の文司氏はその精度に全幅の信頼を置いていた。大手積算ソフトを用い、公開情報を用いて正規の計算をしたが、真山氏から秘密裏に提供された最低制限価格と積算金額が合わない。大松興産は「市が前年度の汚泥処理単価を使ったためではないか」と、水道局に誤りがあることを突き止めた。

 文司氏は迷った。積算ソフトはこれ以上ないほど高性能化しており、金額をピタリと当てられるので業者間競争は激しくなっている。複数の業者が的中させ、落札者がくじ引きで決まることも珍しくはない(やり直しになった入札の表参照)。そうした中で大松興産が、真山氏から提供された最低制限価格(誤った価格)で入札すれば確実に落札できるが、誤った金額をピタリと当てれば不可解に映り、情報漏洩を疑われる。

2024年8月28日にやり直した入札 誤って定めた最低制限価格=4708万5600円

入札参加者本社所在入札額※赤文字は、いわき管工事協同組合
㈱矢光総合設備内郷4703万0300円最低制限価格を下回り失格
㈱山上工業小川町4703万0400円最低制限価格を下回り失格
㈱久田設備工業4703万0500円最低制限価格を下回り失格
㈱創和内郷4708万4700円最低制限価格を下回り失格
㈱こだま産業常磐4708万5400円本来の最低制限価格
公栄管工設備㈱小名浜4708万5600円最低制限価格と一致し3社によるくじで公栄管工設備が落札
長谷川工業㈱四倉4708万5600円最低制限価格と一致し3社によるくじで公栄管工設備が落札
㈱酒井組四倉4708万5600円最低制限価格と一致し3社によるくじで公栄管工設備が落札
㈱吉多美工業小名浜4708万5800円
福吉工業㈱
(現レジリエンス)小名浜4708万5800円
渋谷設備㈱常磐4708万5900円
㈲平設備興業好間4708万6100円
㈱アクア工業4708万6100円
㈱沼里工業所常磐4709万5000円
菅野建設工業㈱内郷4723万0000円
㈱大松興産小名浜辞退
欣幸建設㈱辞退
㈱不二代建設内郷辞退


 文司氏は不正が気づかれない方に賭け、真山氏から提供された通りの金額で入札した。大松興産は資金繰りが悪化し、通常の手法では経営立て直しは不可能だった。同社は遅くとも2019年から真山氏と接点を持ち、今回の事件以外に5件で入札情報の提供を受けていた(うち3件は時効で罪に問われず。2件は落札しなかったので不問)。これ以上不正に手を染める前に会社を畳むか、露見のリスクがある不正に踏み切って会社を存続させるかの二択しかなかった。

 落札後、他の入札参加者が不審に思い、市に情報提供した。市は調査確認委員会を立ち上げ、大松興産と水道局職員に聞き取りを行った。大松興産と真山氏は口裏を合わせてしらを切った。市は舐められていた。同委員会では手に負えず、入札結果を「ちょっと不自然」と片付け、警察に情報提供した。そして両者の逮捕・起訴、今回の裁判に至る。

 事件は、大松興産と真山氏だけの問題ではない。収賄に手を染めるような職員を育てた水道局の上司たちも責任が問われる。真山氏は「上司と業者の間に癒着があった」と解釈していたからだ。法廷では、島田環裁判長からその真意を尋ねられている。

 ――直属の上司から「お世話になっているからよろしくね」と言われたことを、大松興産に便宜を図る意味に捉えたと検察官からの質問で答えていた。

 「自分の中で勝手に解釈した」

 ――大松興産から頼まれて設計金額を教えることが、上司が言う「お世話をする」と解釈したということか。公務員なら普通そんな考えはしない。「業者のお世話をする」=「非公開の設計金額を教える」とあなたが解釈するような根拠はあったのか。

 「……」

 ――あなたの供述調書には「上司も同じようなことをしていると思った」と書いてある。そう思っていた理由はあるのか。

 「……」

 ――何の根拠もなく上司が業者のために不正をしていたと解釈するのは不可解。「上司も不正をしている」と考えた理由は特にないということでよいか。

 「はい」

 裁判長の強い問いかけに口ごもった真山氏の様子を見ると、うまく説明できないが話したいことがあるような印象を受けた。裁判は公開で、いわき市職員も傍聴(監視)している。「上司も不正をしていると思ったのは自分の勝手な解釈」との言葉を額面通り受け取るのは早計だ。

 検察側は真山氏に懲役2年と、賄賂に相当する追徴金10万円(時効前で罪に問うことができた分)を求刑した。大松興産元社長の松原文司氏には懲役1年6月、元専務の松原文隆氏には懲役1年を求刑した。判決は12月16日午後2時から言い渡される。

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